説明

金属管の引抜方法

【課題】引抜加工にともなう素管の振れ回りや湾曲を抑制し、引抜加工された金属管の偏肉悪化および曲がりを防止する引抜方法を提供する。
【解決手段】素管全長に亘って素管の軸心と引抜軸心を一致させた状態に保持し、ダイスとプラグを用いて引抜加工を行う金属管の引抜方法において、内面支持具を2つ以上用いて前記マンドレルに引抜方向に沿って移動可能に装着し、前記ダイスから素管後端までの引抜方向の素管長さをL0とした場合に、前記内面支持具の少なくとも1つを前記ダイスからの距離が1/2L0〜L0の範囲に配置し、さらに前記1/2L0〜L0に配置された内面支持具のうち最も当該ダイスに近く配置された内面支持具の引抜方向のダイスからの距離をL1とした場合に、他の内面支持具を前記ダイスからの距離が1/3L1〜2/3L1の範囲に配置して引抜加工を行うことを特徴とする金属管の引抜方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイスとプラグを用いた金属管の冷間引抜に際し、特殊な冶具を用い引抜加工が完了に至るまで素管軸心と引抜軸心を一致させた状態に保持し、素管の振れ回りや湾曲を抑制し、引抜加工された金属管の偏肉悪化の抑制および曲がり発生を防止する引抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
別に記載がない限り、本明細書における用語の定義は次の通りである。
「金属管」:後述の実施例で用いた高Ni合金管に限定されるものでなく、炭素鋼管、合金鋼管の他、ステンレス鋼管なども対象となる。
「振れ回り」:引抜加工において素管の偏肉や強度バラツキが要因となって引抜未加工部がダイス入り側において揺れながら引抜かれることで引抜きの真直度が著しく悪化し、引抜後の湾曲および偏肉が悪化する現象をいう。
「偏肉悪化」:引抜加工に伴う偏肉率[(最大肉厚−最小肉厚)/{(最大肉厚+最小肉厚)/2}}×100]の悪化量(%)をいい、下記(1)式で示される。
偏肉悪化=引抜管偏肉率(%)−素管偏肉率(%) ・・・ (1)
【0003】
図1は、従来の引抜方法による、素管の湾曲により真直度が悪化する挙動を説明する縦部分断面図であり、(a)は引抜加工の初期段階の状態を、(b)は引抜加工の最終段階の状態を示す。
【0004】
一般にダイス4とプラグ2を用いた金属管1bの冷間引抜の際に、素管1aが有する偏肉や周方向の強度バラツキ、または素管1aの自重によって、素管1aの加工部分がダイス4を始点に湾曲し引抜過程で真直度が悪化する。これに起因して、加工後の金属管1bに偏肉悪化や曲がりが生じる問題がある。
【0005】
このとき、引抜加工が高加工度である程、素管1aがダイス4の入側において大きく振れ回るようになり、金属管の偏肉悪化および曲がりが生じることになる。特に、図1(b)に示すような引抜加工の最終段階では、素管の振れ回りによる偏肉悪化が顕著となる。
【0006】
さらに、素管の振れ回りによる偏肉悪化にともない、肉厚の薄い部分は厚い部分に比して金属管1bが長くなることから、金属管1bの後端までの長さに差が生じる。長く伸びた金属管1bの後端部は外面側に反るため、引抜加工後の曲がりも大きくなり、真直度を満足した製品を得るために余分な切下げが必要となり、製品歩留が悪化するという問題もある。
【0007】
従来から偏肉が少なく真直度に優れた製品を得るため、種々の検討がなされており、従来技術として例えば特許文献1〜3が開示されている。
【0008】
図2は、特許文献1に記載の管の変形防止方法を説明する縦部分断面図であり、(a)は素管1a後端が内面支持具52を通過する前の状態を、(b)は素管1a後端が内面支持具52を通過した後の状態を示す。
【0009】
図2(a)に示すように、特許文献1には、鋼管の引抜加工において、素管1aの内面に装入するマンドレル3のプラグ2近傍と、加工部分のほぼ中央位置とに、管に緩く内接する外周を球面状になした内面支持具51および52(補助リング)を着脱可能に装着して引抜加工することを特徴とする管の変形防止方法が開示されている。特許文献1の方法によれば、引抜加工時の曲がりが除去でき、製品の品質を向上できるとしている。
【0010】
特許文献1の方法では、図2(b)に示すように、素管1aの後端がマンドレル3の引抜方向の中央位置に装着された内面支持具52を通過すると、素管1aが振れ回り、特に加工の最終段階に引き抜かれた管後端の真直度が劣化するとともに、偏肉が悪化するという問題がある。
【0011】
図3は、特許文献2に記載の金属管の抽伸方法を説明する縦部分断面図である。特許文献2には、素管1aの軸線を抽伸軸線に一致させるべくマンドレル3に装着される内面支持具51および52(ガイド部材)のうち、ダイス4の入側近傍の内面支持具51の長さを素管1aの外径の3倍以上の長さにすることを特徴とする金属管の抽伸方法が開示されている。
【0012】
特許文献2の抽伸方法において、素管1aと内面支持具51との接触面積が大きいことから、素管1a内面の加工疵の問題が発生する。すなわち、特許文献2に記載のとおり、素管1a内面に加工疵を生じさせない目的で内面支持具51を硬質樹脂製とすれば、素管1a内面と内面支持具51表面との摩擦により硬質樹脂の摩耗屑が発生する。この摩耗屑が素管1a内面とプラグ2とで押さえ込まれる際に、素管1a内面に疵が発生する。
【0013】
一方、特許文献2の抽伸方法において、内面支持具51を鋼製とすれば、潤滑切れにより、内面支持具51に生じたスリ疵が素管1a内面にプリントされ、素管1a内面が内面支持具51およびプラグ2に焼付くという問題がある。さらに、同抽伸方法では、内面支持具51を長くすることから、素管1a内面へのマンドレルの挿入性を低下させるという問題がある。
【0014】
図4は、特許文献3に記載の管材引抜加工装置を説明する縦部分断面図である。特許文献3には、マンドレル3、ダイス4の中心軸線と平行にガイドレール21を設置し、そのガイドレール21に案内されて走行する台車22に設けられた保持機構23が素管1aの内面端部を保持し、台車22は、保持機構23が素管1aの内面端部を保持することにより生じる摩擦力で、素管1aの後端と共に走行することを特徴とする管材引抜加工装置が開示されている。
【0015】
特許文献3の加工装置は、作業面において、素管1aの装入およびプラグ2のサイズに対応させるためにマンドレル3の段取替えが煩雑になるという問題がある。さらに構造面において、第1に素管1aの内面端部のみを保持することから素管1aの中央部が自重によりたわむ、第2に台車22がガイドレール21に沿って直線的に移動するので素管が湾曲している場合に対応できない、第3にガイドチューブを有する引抜機ではガイドチューブに台車22が接触するので使用できない、第4に保持爪が潤滑油でスリップするという問題が挙げられる。また、装置が複雑になるので、設備投資が大きくなるという経済的な問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭49−86255号公報
【特許文献2】特開平9−52114号公報
【特許文献3】特開昭63―115611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記従来技術における問題点を解決するためになされたものであって、引抜加工にともなう素管の振れ回りや湾曲を抑制し、引抜加工された金属管の偏肉悪化の抑制および曲がり発生を防止する引抜方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、内面支持具を用い、素管全長に亘り引抜加工にともなう素管の振れ回りや湾曲を抑制する方法について検討した。その結果、素管全長に亘って素管の軸心と引抜(冶工具の)軸心を一致させた状態で引抜加工を行い、引抜方向に沿って移動可能な内面支持具を用い、引抜加工の最終段階において、内面支持具を素管後端の近傍部に位置させることに着目した。
【0019】
具体的には、引抜方向に沿って移動可能な内面支持具を用いることにより、内面支持具によって常に素管を内面保持することが可能になる。さらに、引抜加工の最終段階で内面支持具を素管後端の近傍部に位置させることにより、素管の後端が加工ダイスの入側で振れ回ることがなくなる。
【0020】
このように、引抜加工が完了に至るまで素管軸心と引抜軸心を一致させた状態に保持できるので、素管の振れ回りや湾曲を抑制でき、引抜加工された金属管の偏肉悪化や曲がり発生を防止することが可能になる。
【0021】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、次の(1)〜(3)の金属管の引抜方法を要旨としている。
【0022】
(1)素管を内面から支持する内面支持具が装着されたマンドレルを素管内に挿入して素管全長に亘って素管の軸心と引抜軸心を一致させた状態に保持し、ダイスとプラグを用いて引抜加工を行う金属管の引抜方法において、前記内面支持具を2つ以上用いて前記マンドレルに引抜方向に沿って移動可能に装着し、
前記ダイスから素管後端までの引抜方向の素管長さをL0とした場合に、前記内面支持具の少なくとも1つを前記ダイスからの距離が1/2L0〜L0の範囲に配置し、
さらに前記1/2L0〜L0に配置された内面支持具のうち最も当該ダイスに近く配置された内面支持具の引抜方向のダイスからの距離をL1とした場合に、前記配置された内面支持具とは別の内面支持具の少なくとも1つを前記ダイスからの距離が1/3L1〜2/3L1の範囲に配置して引抜加工を行うことを特徴とする金属管の引抜方法である。
【0023】
(2)上記(1)の金属管の引抜方法において、前記内面支持具が素管後端から抜け出ることを防止する機構として、ストッパー部材を素管後端に設けることが望ましい。
【0024】
(3)上記(1)および(2)の金属管の引抜方法において、前記内面支持具は、素管内面との最近接部外径が素管の内径より1〜10mm小さく成形されていることが望ましい。
本発明において「最近接部外径」とは、内面支持具が素管内面と最も近接する部位における外径を意味する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の金属管の引抜方法によれば、引抜加工にともなう素管の振れ回りや湾曲を抑制することができ、偏肉悪化が少なく真直度に優れた金属管を得ることができる。これにより、高寸法精度の要求されるホーニング型シリンダー用素材であっても高歩留りで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の引抜方法による、素管の真直度の悪化および湾曲する挙動を説明する縦部分断面図であり、(a)は引抜加工の初期段階の状態を、(b)は引抜加工の最終段階の状態を示す。
【図2】特許文献1に記載の管の変形防止方法を説明する縦部分断面図であり、(a)は素管後端が内面支持具52を通過する前の状態を、(b)は素管後端が内面支持具52を通過した後の状態を示す。
【図3】特許文献2に記載の金属管の抽伸方法を説明する縦部分断面図である。
【図4】特許文献3に記載の管材引抜加工装置を説明する縦部分断面図である。
【図5】本発明で規定する内面支持具の配置状況を説明する図である。
【図6】引抜加工の過程において本発明の内面支持具が発揮する挙動形態を説明する縦部分断面図であり、(a)は引抜加工の初期段階を、(b)は引抜加工の中間段階を、(c)は引抜加工の最終段階を示す。
【0027】
【図7】本発明で用いる内面支持具の断面形状を示す横断面図であり、(a)〜(c)は採用され得る形状を例示している。
【図8】素管後端に設けるストッパー部材の設置状況を説明する縦部分断面図であり、(a)は設置形態を、(b)は(a)を改善した設置形態を示している。
【図9】引抜加工の完了時にストッパー部材がマンドレル上で回転するのを防ぐ機構を示す横断面図である。
【図10】実施例における比較例の内面支持具およびストッパー部材の設置状況を説明する縦部分断面図である。
【図11】実施例における本発明例の内面支持具およびストッパー部材の設置状況を説明する縦部分断面図である。
【図12】実施例の比較例および本発明例における偏肉悪化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の引抜方法は、素管を内面から支持する内面支持具が装着されたマンドレルを素管内に挿入して素管全長に亘って素管の軸心と引抜軸心を一致させた状態に保持し、ダイスとプラグを用いて引抜加工を行う金属管の引抜方法を前提としている。
【0029】
本発明が対象とする金属管としては、後述の実施例で用いた高Ni合金管に限定されるものでなく、炭素鋼管、合金鋼管の他、ステンレス鋼管などが挙げられる。例示される管は、いずれも素管性状や加工条件によって、引抜過程で素管の振れ回りや湾曲を生ずるおそれがある。
【0030】
[内面支持具の配置および形状]
本発明の引抜方法は、上記前提を引抜加工の開始から完了に至るまで確保するため、前記内面支持具を2つ以上用いて前記マンドレルに引抜方向に沿って移動可能に装着し、前記ダイスから素管後端までの引抜方向の素管長さをL0とした場合に、前記内面支持具の少なくとも1つを前記ダイスからの距離が1/2L0〜L0の範囲に配置し、さらに前記1/2L0〜L0に配置された内面支持具のうち最も当該ダイスに近く配置された内面支持具の引抜方向のダイスからの距離をL1とした場合に、前記配置された内面支持具とは別の内面支持具の少なくとも1つを前記ダイスからの距離が1/3L1〜2/3L1の範囲に配置して引抜加工を行うことを特徴とする。
【0031】
図5は、本発明で規定する内面支持具の配置状況を説明する図である。同図では、内面支持具が2つの場合について示している。内面支持具52は、ダイスから素管後端までの引抜方向の素管長さをL0とした場合に、ダイスからの距離が1/2L0〜L0の範囲に移動可能に配置される。
【0032】
このように構成することにより、内面支持具52は、引抜加工が完了に至るまでダイスからの距離が1/2L0〜L0の範囲に配置されるので、引抜加工の最終段階において、内面支持具52を素管後端の近傍部に位置させることができ、素管の後端が加工ダイスの入側で振れ回ることをなくすことができる。
【0033】
一方、前記1/2L0〜L0に配置された内面支持具のうち最も当該ダイスに近く配置された内面支持具の引抜方向のダイスからの距離をL1とした場合に、内面支持具51は、ダイスからの距離が1/3L1〜2/3L1の間に位置するように移動可能に配置される。
【0034】
内面支持具51は、ダイスから内面支持具52まで中間位置、すなわちダイスからの距離が1/3L1〜2/3L1の範囲に配置されことから、素管の自重による中央部のたわみを防止することができ、引抜加工が完了に至るまで素管軸心と引抜軸心を一致させた状態に保持することが可能になる。
【0035】
図6は、引抜加工の過程において本発明の内面支持具が発揮する挙動形態を説明する縦部分断面図であり、(a)は引抜加工の初期段階を、(b)は引抜加工の中間段階を、(c)は引抜加工の最終段階を示す。
【0036】
図6(a)および(b)に示すように、引抜加工の初期段階から中間段階にかけて、内面支持具51および52は本発明で規定する範囲に配置されつつ、素管1aに対して相対的に素管1aの後端に接近することになる。すなわち、素管1aは一定の速度で引抜方向に移動するが、内面支持具51および52は移動しない、もしくは素管1aの内面に引き摺られ若干引抜方向に移動するが素管1aの引抜速度を超えることはなく徐々に素管1aの後端に接近する。
【0037】
図6(c)に示すように、引抜加工の最終段階において、内面支持具52は相対的に素管1aの後端方向へ接近することにより、内面支持具52を素管1a後端の近傍部に位置させることができる。これにより、加工の最終段階における素管の振れ回りを抑え、偏肉悪化や曲がり発生を防止することができる。
【0038】
図6(a)〜(c)に示すように、引抜加工の初期段階から最終段階にかけて、内面支持具51は、ダイス4からの距離が1/3L1〜2/3L1の範囲に配置され、素管1aに対して相対的に素管1aの後端方向に移動しつつ素管1aの内面を支持することから、素管全長に亘って素管の軸心と引抜軸心を一致させた状態に保持することができる。
【0039】
一方、内面支持具52は、ダイス4からの距離が1/2L0〜L0の範囲に配置されるので、素管1aの後端の振れまわりを防止することができる。したがって、本発明の引抜方法は、内面支持具51および内面支持具52の挙動が相まって、偏肉悪化が少なく真直度に優れた金属管を得ることができる。
【0040】
上記図5および図6では、内面支持具を2つ用いる場合について説明しているが、本発明の引抜方法ではこれに限定されず、3つ以上を用いる場合であっても同様の効果を得ることができる。本発明の引抜方法では、内面支持具の適正な使用個数は引抜加工される素管長さ等の要因に依存することからその上限は規定しない。
【0041】
図7は、本発明で用いる内面支持具の断面形状を示す横断面図であり、(a)〜(c)は採用され得る形状を例示している。本発明で用いる内面支持具は、例示される断面形状に限定されるものではなく、素管内面を支持できる断面形状であればよい。
【0042】
図7に示すように、内面支持具5は、リング状の形状であり、マンドレル3に装着され、マンドレル3と内面支持具5の間にクリアランスを設けることにより、引抜方向に沿って移動可能となる。内面支持具5の内径は、装着するマンドレル3とのクリアランスを1mm以下とすることが望ましい。これにより、内面支持具3が引抜加工中に振れることなく素管を内面から支持することができる。
【0043】
内面支持具5の素管1a内面との最近接部は、R面取り加工を施すことができ、素管内面との最近接部外径が素管の内径より1〜10mm、さらに好ましくは1〜5mm小さく成形するのが望ましい。これらにより素管内面との接触を有効になくすことができる。
さらに、本発明の内面支持具5は、マンドレル3への挿入性を確保するため引抜方向に対抗する両端面にR面取り加工を施すのが望ましい。
【0044】
本発明の内面支持具は、容易に変形することがなく、かつ素管内面に疵を生じさせるおそれのない材料を選択するのが望ましい。例えば、硬質樹脂、プラスチックおよび工具鋼などが挙げられるが、中でも耐摩耗性のあるHRC50(JIS G 0202硬度)程度の工具鋼を選択するのが望ましい。工具鋼であれば容易に変形することなく、大きな摩耗屑を発生させないので管内面に疵を生じさせることがない。
【0045】
本発明の内面支持具の厚さ(引抜方向長さ)は、特に規定するものではないが、その厚さは素管内面の保持性能に影響を及ぼすものではなく、疵防止、取り扱い性および経済性の観点から100mm以下とするのが望ましい。厚さの下限は内面支持具が素管内面を支持し得る寸法であればよい。
【0046】
[ストッパー部材の設置]
本発明の引抜方法は、引抜加工の最終段階において、内面支持具を素管後端の近傍部に位置させる構成になるが、内面支持具が素管後端から抜け出ることを防止するため、ストッパー部材をマンドレルに装着させて素管後端に設けることができる。
【0047】
ストッパー部材は素管後端に自在に着脱可能な機構を有し、引抜加工が完了したのちマンドレルから脱落しない機構が望ましい。素管後端への着脱が困難な場合は生産性の低下を招き、引抜完了後脱落する機構であれば管端から外れた衝撃でストッパー部材が飛散して危険であることによる。
【0048】
図8は、素管後端に設けるストッパー部材の設置状況を説明する縦部分断面図であり、(a)は設置形態を、(b)は(a)を改善した設置形態を示している。ストッパー部材6はリング状の形状からなり、素管1aの径に合わせてストッパー部材の端面に溝を切った形態が好適である。
【0049】
図8(a)に示す設置形態では、ストッパー部材6を予めマンドレル3に装着させ、マンドレル3を素管1aに挿入した時点で素管1a後端をストッパー部材6の溝61に嵌め込み、ネジ式のストッパー部材固定具62により固定する。これにより、ストッパー部材6は引抜加工において素管1aの後端に追従して移動することができる。ストッパー部材固定具62はネジ式に限らず、油圧チャックなどの機構も用いることができる。
【0050】
図8(b)に示す設置形態では、素管1aを下側からガイドロール7等を用いて支持し、素管1を案内する場合に、ストッパー部材6の下部がガイドロール7等に接触しないように改善した設置形態である。この場合でも、素管1a後端がストッパー部材6の溝61に素管1後端が十分に嵌合され、ストッパー部材固定具62によって固定されることから、ストッパー部材6は十分にその機能を発揮することができる。
【0051】
ストッパー部材6を設けた場合、引抜加工の最終段階において、ストッパー部材6は引抜加工が完了するまで内面支持具5を素管後端の近傍部に位置させることができる。引抜加工の完了にともない、ストッパー部材固定具62による素管1への押し付け力よりも素管1を引き抜く力が勝ることから、素管1の後端がストッパー6の引抜方向側端面の溝61から引き抜かれる。
【0052】
図9は、引抜加工の完了時にストッパー部材がマンドレル上で回転するのを防ぐ機構を示す横断面図である。引抜加工の完了にともないストッパー部材6が素管1aから脱落した後にマンドレル3上で回転すれば、次の引抜加工に用いる素管1aの装着作業が繁雑になる。
【0053】
引抜加工の完了にともなうストッパー部材の回転を防ぐため、マンドレル3にマンドレル溝31を設けるとともに、ストッパー部材6にストッパー部材凸部61を設けることにより、これらを嵌挿させることができる。
【実施例】
【0054】
本発明の金属管の引抜方法による効果を確認するため、内面支持具の配置状況を変更して引抜加工を実施し、得られた金属管の偏肉悪化を評価した。評価結果を加工条件、内面支持具の配置状況、並びに偏肉測定要領および評価結果に区分して説明する。
【0055】
1.加工条件
引抜加工に使用した工具は、Rダイス、円筒プラグおよびそれを支持するマンドレルであり、それらの寸法、材質は次の通りである。
[Rダイス]
ベアリング部内径:194mm
アプローチ部の曲率半径:90mm
引抜方向の厚み:75mm
材質:超硬合金製
[円筒プラグ]
外径:175.0mm
両端面取り部を除く有効長さ:80mm
材質:SKD11
[マンドレル]
外径:152.4mm
【0056】
供試素管の材質は25質量%Ni−35質量%Cr合金とし、加工前処理として蓚酸塩による化成潤滑被膜処理を施し、油潤滑処理(塩素系)を塗布して3m/minの引抜速度で引抜加工を行った。引抜加工での加工スケジュールは次の通りである。
引抜前外径:223.0mm
引抜前内径:195.0mm
引抜前肉厚:14.00mm
引抜後外径:194.2mm
引抜後内径:174.9mm
引抜後肉厚:9.65mm
断面減少率Rd:43.5%
ただし、断面減少率Rd(%)は(引抜前断面積−引抜後断面積)/引抜前断面積}×100]で示す。
【0057】
2.内面支持具の配置状況
マンドレルに装着した内面支持具は、前記図7(a)に示す形状とし、工具鋼製で最近接外径を191mmとし素管内径より4mm小さく成形した。
図10および図11は、実施例における内面支持具およびストッパー部材の配置状況を説明する縦部分断面図であり、図10に比較例1〜5の配置状況を、図11に本発明例1、2の配置状況を示す。表1に詳細な配置条件を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
3.偏肉測定要領および評価結果
素管および引抜管の偏肉率(%)は、超音波肉厚測定装置を用いてその周方向の肉厚を軸長方向全長にわたって測定し、得られた結果から[(最大肉厚−最小肉厚)/{(最大肉厚+最小肉厚)/2}}×100]により算出した。
【0060】
評価部位は引抜管の後端1mとし、それに相当する素管部位での偏肉率を比較し、下記(1)式により偏肉悪化を求めた。
偏肉悪化=引抜管偏肉率(%)−素管偏肉率(%) ・・・ (1)
【0061】
図12は、実施例の比較例および本発明例における偏肉悪化を示す図である。比較例1〜5では、偏肉悪化は2%を超え10%程度まで変動した。これに対し、本発明で規定する条件を満足する本発明例1、2は、偏肉悪化を1%程度に抑制できたことが分かる。また比較例5と本発明例1との比較により、内面支持具を複数個用いることの優位性も確認できた。
【0062】
さらに付言すれば、本発明例1、2のようにストッパー部材を設けることにより、引抜加工の最終段階において内面支持具が素管後端に位置するストッパー部材に押されて素管の後端部に追従し素管後端部を支持しながら引抜加工が行われ、最終的に内面支持具はプラグに接触し停止するとともに、ストッパー部材が素管から脱落し引抜加工が終了する。
【0063】
このように、本発明例1、2によれば、引抜加工の最終段階まで内面支持具が素管後端部を支持しながら引抜加工が行われることから、偏肉悪化が小さくかつ真直度の優れた引抜製品を得ることができる。このため、高寸法精度の要求される、例えばその偏肉量が±0.4mm未満であることの要求されるホーニング型シリンダー用などの素材管製品を高歩留りで製造することができ、安価に供給することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の金属管の引抜方法によれば、引抜加工にともなう素管の振れ回りや湾曲を抑制することができ、偏肉悪化が少なく真直度に優れた金属管を得ることができる。これにより、高寸法精度の要求されるホーニング型シリンダー用素材であっても高歩留りで製造することができることから、広く適用することができる。。
【符号の説明】
【0065】
1a:素管、 1b:金属管、
2:プラグ、 3:マンドレル、 31:マンドレル溝、
4:ダイス、 5、51、52、53、54:内面支持具、
6:ストッパー部材、
61:ストッパー部材溝、 62:ストッパー部材固定具、
63:ストッパー部材凸部、
7:ガイドロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素管を内面から支持する内面支持具が装着されたマンドレルを素管内に挿入して素管全長に亘って素管の軸心と引抜軸心を一致させた状態に保持し、ダイスとプラグを用いて引抜加工を行う金属管の引抜方法において、
前記内面支持具を2つ以上用いて前記マンドレルに引抜方向に沿って移動可能に装着し、
前記ダイスから素管後端までの引抜方向の素管長さをL0とした場合に、前記内面支持具の少なくとも1つを前記ダイスからの距離が1/2L0〜L0の範囲に配置し、
さらに前記1/2L0〜L0に配置された内面支持具のうち最も当該ダイスに近く配置された内面支持具の引抜方向のダイスからの距離をL1とした場合に、前記配置された内面支持具とは別の内面支持具の少なくとも1つを前記ダイスからの距離が1/3L1〜2/3L1の範囲に配置して引抜加工を行うことを特徴とする金属管の引抜方法。
【請求項2】
前記内面支持具が素管後端から抜け出ることを防止する機構として、ストッパー部材を素管後端に設けることを特徴とする請求項1に記載の金属管の引抜方法。
【請求項3】
前記内面支持具は、素管内面との最近接部外径が素管の内径より1〜10mm小さく成形されていることを特徴とする請求項1または2に記載の金属管の引抜方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate