説明

金属系材料の製造方法及び電波吸収体の製造方法

【課題】 製造物たる金属系材料の回収性に優れ、また、有害なCOやカルボニル化合物を含んだ反応系のクローズ化も図りやすい金属系材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 常圧よりも加圧したCO雰囲気からなる反応空間内に金属カルボニルと反応して該金属カルボニルの分解を促進する反応剤を保持した反応剤保持部を配置する。該反応空間内で、出発原料となる金属又は金属含有物質とCOとを反応させて金属カルボニルを生成し流体化する金属カルボニル生成ステップと、生成した金属カルボニルを該反応剤保持部に供給し、金属カルボニルを反応剤と反応させて分解することにより、当該金属カルボニルに由来した分解生成金属系材料とCOガスとを生成するカルボニル分解ステップと、該分解により生成したCOガスを反応空間内のCO雰囲気にフィードバックするCOフィードバックステップとを、金属カルボニルの生成及び分解の反応系に関与する気相を媒介とした輸送作用により反応空間内にて循環実施し、分解生成金属系材料を反応空間より製造物として回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カルボニルを出発原料として製造される有用な金属系材料を、クローズした製造システムを用いて、系外に取り出すことなく有用な金属材料を定常的に製造する金属系材料の製造方法と、それを応用した電波吸収体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2004−124199
【特許文献2】ドイツ特許公報DE483603
【特許文献3】米国特許公報US2710797
【0003】
金属カルボニル化合物は従来、モンド法等により、該金属と一酸化炭素との直接反応により、CO加圧条件下で製造されている。しかしながら、反応が非効率であることに加え、原料となるCOガスやNi(CO)などの金属カルボニルは一般に有害であり、環境ならびに健康被害の観点から我が国での製造は減少する方向にある。
【0004】
他方、金属カルボニルは分解により原子状またはクラスター状金属を生成し、これをもとに任意のサイズの薄膜や微粒子の製造が容易であり(ビルドアップ法)、近年、該金属カルボニル化合物が危険で高価であるにも関わらず、その用途は拡大する傾向にある。また、金属カルボニルの形成と熱分解作用を利用して、該金属精製することが可能となる。このような方法は、特許文献1に記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は、反応系からのカルボニル化合物や金属の取出側が開放されており、有毒なCOガスやカルボニル化合物の回収系を完全にクローズ化するのが難しい難点がある。また、爆轟を用いて局所的に高圧発生させるので、均一な反応が期待しにくく、また、反応物が爆轟で飛散したり、容器壁面にこびりついたりしやすいので、製品金属の回収性にも難がある。また、特許文献2、3においてはカルボニル化反応を鉄、ニッケル、コバルトなどの遷移金属の単離・回収に用いたものであり、金属カルボニルとして該金属を回収した後、同一反応ラインにて熱分解により金属粉末を得るため、そのシステム構成は特許文献1と概ね同様である。
【0006】
本発明の課題は、製造物たる金属系材料の回収性に優れ、また、有害なCOやカルボニル化合物を含んだ反応系のクローズ化も図りやすい金属系材料の製造方法と、それを用いた電波吸収材料の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段及発明の効果】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の金属系材料の製造方法は、
常圧よりも加圧したCO雰囲気からなる反応空間内に金属カルボニルと反応して該金属カルボニルの分解を促進する反応剤を保持した反応剤保持部を配置するとともに、
反応空間内で、出発原料となる金属又は金属含有物質とCOとを反応させて金属カルボニルを生成し流体化する金属カルボニル生成ステップと、生成した金属カルボニルを該反応剤保持部に供給し、金属カルボニルを反応剤と反応させて分解することにより、当該金属カルボニルに由来した分解生成金属系材料とCOガスとを生成するカルボニル分解ステップと、該分解により生成したCOガスを反応空間内のCO雰囲気にフィードバックするCOフィードバックステップとを、金属カルボニルの生成及び分解の反応系に関与する気相を媒介とした輸送作用により反応空間内にて循環実施し、分解生成金属系材料を反応空間より製造物として回収することを特徴とする。
【0008】
上記本発明によると、金属カルボニルが生成するCO加圧の適当な温度条件下でも、該金属カルボニルと反応し、合金あるいは該金属の化合物への分解を促す反応剤を共存させることで、該金属または金属含有物質よりその金属成分を継続的にカルボニル化し、反応剤と化合して金属系材料を効率よく定常的に生成することになる。上記本発明の金属系材料の製造方法によると、上記で想起した技術に基づき、金属および金属含有物質を原料として該金属を成分とするカルボニル化合物を形成させ、さらには反応剤と反応せしめ、該金属の合金または化合物として分解補足することでCO成分を気相に再放出し、カルボニル化反応を限られたCOガス導入量でも効率的に循環利用することが可能となる。
【0009】
そして、一旦形成された金属カルボニルを、熱分解あるいは反応剤との反応による分解で、CO成分が再度気相に戻ることになり、長時間にわたる反応後でもCO圧を高圧に維持することができ、従来の密封系では不可能であった定常的なカルボニル化を、限られた充填量のCOでも行うことができる。生成した金属カルボニルは密封した容器内でほぼ大半が分解され、無害な金属系材料に変換されるため、有害な金属カルボニルに基づく健康被害や環境汚染を効果的に避けることができる。また、加圧したCOと出発原料中の金属成分との反応が、閉じた反応空間内で比較的静的な環境下で進行するため、特許文献1のごとき爆轟による反応物の飛散も生じず、製造物の回収も容易である。また、爆轟を発生させるための燃料や支燃性ガスの供給も不要である。
【0010】
金属カルボニルは、設定したCO圧力および温度の条件下で、該金属とCOガスとの平衡に従って生成する。すなわち、一般にCO圧が高いほど反応は金属カルボニルが生成する方向に進行する。これに対し、金属カルボニルは温度の上昇と共に不安定となり金属とCOに分解する。しかしながら、この分解温度はCO圧に依存し、一般にこの温度はCO圧と共に上昇する。この性質を利用すれば、金属カルボニルを原料として、低圧(一般的に常圧)、高温(〜1000℃)で分解し、金属または合金、金属間化合物の薄膜または微粒子を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1Aは、上記本発明の金属系材料の製造方法を実現するための装置の一例を示すものである。この装置1では、反応空間をなす容器内に出発原料を配置して、該容器内に加圧したCOガスを封入し、該容器内にて第一のヒーターにより出発原料をCOガスとの反応により金属カルボニルを生成する温度まで局所加熱することにより金属カルボニルを生成するようにしている。COを常圧よりも高圧に加圧しているために、局所加熱による比較的低温でもカルボニル化を促進できる。反応容器の軽量化と取り扱いの容易性を考慮すれば、反応空間内のCO圧力を大気圧より高くかつ500気圧以下とするのが適当であり、金属カルボニルの生成に係る反応温度は室温以上500℃以下とするのがよい。
【0012】
図1Aの装置1では、カルボニル化用の空間と、その分解用の空間とが個別に設けられ、それぞれ第一ヒーター3及び第二ヒーター8にて独立に加熱されるようになっている。具体的には、カルボニル化用空間形成容器2と分解用空間形成容器7とが、両者を連結する連結部5により接続された構造を有し、各容器2,7を壁部外側から取り囲むように第一ヒーター3及び第二ヒーター8が設けられている。カルボニル化用空間形成容器2内には、内部のCOとの接触が許容された状態で出発原料SMを収容する出発原料保持部4が配置されている。他方、分解用空間形成容器7内には反応剤9を収容した反応剤保持部10が配置されている。また、連結部5には、残滓などの固形物が分解用空間形成容器7側に漏れ出すことを防止するために、気体の通過は許容し、所定粒径以上の固形物の通過は許容しないフィルタ部として、セラミック等からなる多孔質仕切板6を設けている。
【0013】
図1Aの装置にて、第一ヒーター3によるカルボニル化用空間形成容器2内の加熱温度Tは、出発原料SM中の金属成分のカルボニル生成温度よりも高く、かつ生成した金属カルボニルの積極的な分解が生じないよう、500℃以下に設定されている。他方、第二ヒーター8による分解用空間形成容器7内の加熱温度Tは、反応剤9中にて金属カルボニルの積極的な分解が生ずるように、前記温度Tよりも高温(かつ、反応剤の自発的な分解温度以下)に設定され、また、対流作用で容器内(特に、カルボニル化用空間形成容器2と分解用空間形成容器7と間)の気体が循環し易いように工夫されている。これにより、出発原料SM中の金属成分は、上記のように、個別のヒーターにより互いに異なる温度にて局所加熱される2つの容器間、すなわちカルボニル化用空間形成容器2から分解用空間形成容器7へ気相輸送される形で、分解生成金属系材料PMとして精製されることとなる。
【0014】
反応剤9としては、金属ハロゲン化物又は有機金属化合物を用いることが、金属カルボニルの分解を促進しやすく、本発明に好適である。図8Aでは、反応剤9として液状反応剤を反応剤保持部10をなす容器中に保持し、カルボニルを該液状反応剤と接触させるとともに、分解生成金属系材料PMを該液状反応剤9中で沈殿回収するようにしている。液相を介した反応なので固形反応剤よりも効率がよく、また分解生成金属系材料が沈殿するので回収も容易である。また、有機金属化合物中の金属元素が分解反応によりカルボニル由来の金属元素と合金化するので、合金形態で有機金属化合物を回収したい場合にはとくに好都合である。
【0015】
金属ハロゲン化物としては、特に貴金属(特にPt族金属)のハロゲン化物を用いるのが、該金属元素より貴な元素であるため、金属カルボニルの還元剤となり、貴金属元素が還元され、更に該金属との合金または金属間化合物が生成する点でよい。また、有機金属化合物としては、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫、パラジウム及び白金のいずれかのアルキル化合物を用いるのが、金属カルボニルの分解を発し、容易にM−B、M−Al、M−Si(Mはカルボニルを構成する金属元素であり、該金属とB、AlあるいはSiとの合金又は化合物を意味する)などの物質を生成する点で好適である。特に、金属ハロゲン化物または有機金属化合物を、ドデカン等の炭化水素系またはシリコーン系溶媒に分散または溶解させたものが好適である。反応剤を、上記のような高沸点の有機溶媒等に溶解させた溶液状とすることで、金属カルボニルと該反応剤との反応により生成する金属材料を、粒径の揃った微粒子状として製造することが可能となる。具体的には、分解生成金属系材料を、粒径10nm以上200μm以下の粉末形態にて回収することができる。
【0016】
また、金属カルボニル生成ステップにおいて、金属カルボニルの生成反応を促進するためには、出発原料に適量の硫黄を添加することが効果的である。この目的における出発原料への硫黄添加量は、4重量%以上7重量%以下が好適である。
【0017】
出発原料に含まれる金属(被回収金属成分)は、カルボニル化が容易な遷移金属とすることが本発明において特に有利である。この場合、分解生成金属系材料は、出発原料よりも遷移金属の含有量が高められたものとなる。本発明では、金属カルボニル化合物の形成を経由して金属材料を製造するため、使用する金属および金属を含む物質が不純物を含む場合であっても、高純度の金属からなる材料を製造することができる。
【0018】
遷移金属は、特に、鉄、ニッケル及びコバルトのいずれかであることがカルボニル化反応が高く、高い製造効率が期待できる。この場合、分解生成金属系材料は、鉄、ニッケル及びコバルトのいずれかを主成分とする金属、合金または金属間化合物の形で回収することができる。
【0019】
より具体的な適用形態としては、出発原料として、希土類系磁石の製造プロセスより発生する固形または粉末屑、使用済み電子機器から回収される該希土類系磁石廃棄物、使用済みで電池のリサイクル工程で回収される鉄、ニッケルおよびコバルト含有廃棄物のいずれかを使用する態様を例示できる。本発明の適用により、希土類磁石や水素吸蔵合金の製造ないし廃棄に伴い発生する希土類−遷移金属系スクラップを、より安価にかつ有効にリサイクルすることが可能となる。
【0020】
特に出発原料が希土類元素を含有するものである場合、希土類元素は遷移金属と比較してカルボニル化はほとんど進まないため、カルボニル化の進行により遷移金属成分等が飛び去った後の出発原料の残滓には、出発原料に含有されていた希土類原料が濃縮される。したがって、この残滓を利用すれば高濃度の希土類元素を効率的に回収することができる。
【0021】
図1Bは、本発明の金属系材料の製造方法に係る全体の処理流れを模式的に示すフロー図である。出発原料(M金属含有物質)をカルボニル化してM金属カルボニルM(CO)nを生成し、これを分解して、精製された金属系材料(分解生成金属系材料)を得る。金属系反応剤との反応によりカルボニル分解する場合は、その反応剤に由来した金属成分と、出発原料の金属成分との合金系材料として回収することも可能である。分解により生じたCOは、容器内にて循環し、再び出発原料のカルボニル化に供される。カルボニル化に寄与しない出発原料中の有用成分(例えば、希土類元素等)は、その残渣に濃縮されるので、運搬や後処理が容易な形で回収することができる。
【0022】
上記本発明の方法により得られた分解生成金属系材料を原料として使用すれば、高性能の電波吸収材料を製造することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に従って詳細に説明する。
(実施例1)
Nd−Fe−B系焼結磁石研磨屑1.38gを50mlのオートクレーブ容器に投入した後、156気圧の一酸化炭素を充填し、反応温度200℃で24時間処理することでカルボニル化反応を行った。また、比較として鉄粉末1gに対しても同様の操作を施した。また、同一の研磨屑を水素気流中、600℃で3時間処理することで不均化分解させ、これについてもカルボニル化反応を試みた。反応後の残渣について重量変化およびEDXによる組成分析から金属カルボニルの生成量を見積もった。
【0024】
カルボニル化反応後の試料について、重量変化およびEDXの元素分析より見積もった反応率の結果を下記表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
鉄、ホウ素化鉄、研磨屑と全ての試料について一酸化炭素との直接反応では、目的とする金属カルボニルがほとんど得られなかった。そこで、鉄に対し触媒として硫黄を鉄/硫黄=93/7の重量比で添加し、同条件化で反応を行った。その結果、重量変化から見積もって約90%の鉄が反応して金属カルボニルとなることが確認された。
【0027】
次に、同様の条件で未処理の研磨屑に対し反応を行ったところ、ここでも硫黄の添加によりカルボニル化の反応が促進されたが、その生成速度は鉄単独に比べて遅いことから、研磨屑の水素化不均化処理により鉄を析出させた試料についてもカルボニル化反応を実施した。また、その際に重量比として、鉄/硫黄=96/4、93/7、87/13、81/19と変化させカルボニル化を行った。結果も図2に併せて示す。水素化分解した研磨屑において鉄/硫黄=93/7の比で硫黄を添加したところ、鉄単独の場合とほぼ同等の速度で反応が進行することが確認された。また、鉄/硫黄=96/4の比で硫黄を添加した場合において、最も高い反応速度が得られた。
【0028】
水素化処理、未処理の試料における反応率の違いは、図3のXRD測定結果に示すように水素化分解後の試料は、鉄と水素化ネオジムの相からなっていることから、この鉄相の析出によりカルボニル化反応が容易に進行したものと思われる。この結果から、一酸化炭素との反応性は、未処理の研磨屑(主にNdFe14B相)に比べ鉄が高いことがわかった。
【0029】
水素化処理した研磨屑について、硫黄の添加量を増やし反応を行った結果、添加量の増加に伴い反応率は減少した。図3に示した反応後の試料のXRD測定結果から、鉄/硫黄=93/7の時には見られなかった硫化鉄の相が出現し、そのピーク強度の増加と共に反応率も減少していることから、上記の硫化鉄の生成がカルボニル化反応を阻害することが考えられる。
【0030】
上で得られた鉄カルボニル錯体についてFT−IRにより解析を行った結果を図4に示す。比較として、市販のFe(CO)との比較を行ったところ、両試料に共に2000cm−1付近にC=Oの伸縮運動に帰属されるピークが見られたことから、研磨屑のカルボニル化によりFe(CO)が生成したことが確認された。
【0031】
上記のカルボニル錯体とジフェニルシランとをデカンに溶解し、これを200℃で5時間、加熱処理することで鉄−ケイ素系微粉末を作製した。得られた鉄微粉末をXRDおよびSEMにより評価した。図5に示したSEM写真から、得られた粉末は直径10μm前後の球状粒子であり、また、同時に行ったEDX測定の結果から、生成した金属微粒子は鉄とケイ素の組成比が80:20の合金相を形成し、反応に供した硫黄などの不純物が含まれていないことが確認された。
【0032】
また、この鉄−ケイ素合金微粉末のXRD測定を行ったところ、ブロードなピークのみで明確な回折ピークが得られなかったことから、アモルファスの形態を有していることが認められた。この試料について、アルゴン雰囲気中、600℃で1時間加熱処理を行ったが、XRDパターンに変化は見られず、アモルファスの状態を維持していることが明らかとなった。
【0033】
鉄カルボニルとジフェニルシランの熱分解により得られた粉末に20重量%のエポキシ樹脂を混合し、150℃で30分間加熱硬化処理することで成形体とし、その電波吸収特性をネットワークアナライザ(S−パラメーター法)を用いて0.05〜18GHzの領域で評価した。作製した成形体の電波吸収特性を図6に示す。得られた成形体は1.6〜4.3GHzの領域で−20dB以下の良好な電波吸収特性を示した。つまり、電波吸収材料が製造されていることがわかる。
【0034】
上にも述べたとおり、本発明で作製した合金微粉末はアモルファスの形態を有しており、鉄の場合では、アモルファスの電気比抵抗は結晶のそれに比べ1〜2桁高いことが知られている。このことから、アモルファス粉末の電気比抵抗が高いために、電磁界により誘起される渦電流損が効果的に抑制されることで、上記の良好な電波吸収特性が得られたものと思われる。
【0035】
(実施例2)
実施例1で見出されたカルボニル化反応の条件を基に、図7に示すように反応容器の改良を行い、Nd−Fe−B系焼結磁石研磨屑スクラップを、CO加圧、所定温度(低温)条件下で加熱することで金属カルボニルを形成させ、この生成した金属カルボニルの気相輸送により高温部において金属として回収するプロセスを検討した。まず、カルボニル化の反応部を実施例1と同じく200℃とし、分解温度(高温部)を300℃で10時間反応を行ったところ、高温部側に粉末の析出が見られた。図8に示す、この析出物のXRD測定の結果から、析出物が鉄であることが確認された。また、表2に示すように、この粉末についてのEDX測定から、高純度の鉄が得られることがわかった。
【0036】
【表2】

【0037】
他方、高温(400℃)にした場合、反応が速やかに進行する反面、平衡反応が生成物側に移行するため、低温(300℃)域での場合と比較して、逆に反応効率は低下する。
【0038】
(実施例3)
生成した金属カルボニル蒸気をCOガスの溶解度の低い溶媒に拡散移動させ、沸点の高い有機溶媒にAl(C(b.p194℃)、Si(C(b.p.154℃)などの有機金属化合物を反応剤として溶解させた溶液に金属カルボニル蒸気を補足し、該金属カルボニルと該有機金属化合物との間で分解反応を行わせることで、上記のカルボニル化合物中の金属成分と反応剤との反応で生成した合金または金属間化合物を得た(反応温度は200℃、圧力は300気圧)。反応器の概略を図9に示す(図1の装置とほぼ同様であるが、くびれ形態の連結部が容器に形成されていない)。鉄カルボニルとジフェニルシランとの反応により得られた合金微粉末のSEM像を図10に示す。
【0039】
用いる溶媒としては、例えば、デカンのような一酸化炭素の溶解度が低く、分解析出した鉄等の再カルボニル化を防ぎ、かつ、上記の有機金属化合物の溶解度が高いものが好ましい。
【0040】
ここでのメリットは、気相(カルボニル化合物)−液相(溶媒)間の反応により生成した金属カルボニル錯体が溶液中に補足され、金属カルボニルと反応剤との反応により該金属成分の合金あるいは化合物とCOガスとに分解し、再度溶液外に放出されたCOガスが、循環して金属カルボニルの生成に活用できる点にある。反応速度は、実施例2と同様に生成した金属カルボニルが逐次合金あるいは金属間化合物として分解し、COガスが循環使用できるため実施例1に比べて速く、また、本反応において得られる合金は、Fe−Si(ケイ素鋼)、Fe−Al−Si(センダスト)、等として、優れた電波吸収材料用磁性粉末として利用することができる。なお、ケイ素鋼については実施例1での実証があるためアモルファス様となる。
【0041】
他方、蒸気の反応剤として白金等の貴金属塩化物をシリコーン系の溶媒に解かし、同様に金属カルボニルをCO加圧下で生成させることで、PtFe、PtFeなど金属間化合物微粒子とすることが可能となる。得られたPtFe微粒子は高密度磁気記録材料としての応用される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1A】本発明における金属系材料製造反応器の概略図。
【図1B】本発明の作用説明フロー図。
【図2】硫黄の添加量に対する鉄の反応率依存性を示す図。
【図3】研磨屑、水素化処理研磨屑、およびこれをカルボニル化処理した試料のXRDパターンを示す図。
【図4】得られたカルボニル錯体のFT−IRデータを示す図。
【図5】熱分解より作製した微粉末のSEM像を示す画像。
【図6】作製した樹脂成形体の電波吸収特性を示す図。
【図7】温度勾配を設けた反応器の概略図。
【図8】高温部に析出した粉末のXRDパターンを示す図。
【図9】気−液反応を用いた反応器の概略図。
【図10】得られた微粉末のSEM像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常圧よりも加圧したCO雰囲気からなる反応空間内に金属カルボニルと反応して該金属カルボニルの分解を促進する反応剤を保持した反応剤保持部を配置するとともに、
前記反応空間内で、出発原料となる金属又は金属含有物質とCOとを反応させて金属カルボニルを生成し流体化する金属カルボニル生成ステップと、生成した金属カルボニルを該反応剤保持部に供給し、前記金属カルボニルを前記反応剤と反応させて分解することにより、当該金属カルボニルに由来した分解生成金属系材料とCOガスとを生成するカルボニル分解ステップと、該分解により生成した前記COガスを前記反応空間内のCO雰囲気にフィードバックするCOフィードバックステップとを、前記金属カルボニルの生成及び分解の反応系に関与する気相を媒介とした輸送作用により前記反応空間内にて循環実施し、前記分解生成金属系材料を前記反応空間より製造物として回収することを特徴とする金属系材料の製造方法。
【請求項2】
前記反応空間をなす容器内に前記出発原料を配置して、該容器内に加圧したCOガスを封入し、該容器内にて第一のヒーターにより前記出発原料を前記COガスとの反応により前記金属カルボニルを生成する温度まで局所加熱することにより前記金属カルボニルを生成する請求項1記載の金属系材料の製造方法。
【請求項3】
前記反応剤として液状反応剤を前記反応剤保持部をなす容器中に保持し、前記カルボニルを該液状反応剤と接触させるとともに、前記分解生成金属系材料を該液状反応剤中で沈殿回収する請求項1又は請求項2に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項4】
前記反応剤として、金属ハロゲン化物又は有機金属化合物を用いる請求項2又は請求項3に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項5】
前記金属ハロゲン化物として貴金属のハロゲン化物を用いる請求項4記載の金属系材料の製造方法。
【請求項6】
前記有機金属化合物として、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫、パラジウム、及び白金のいずれかのアルキル化合物を用いる請求項4記載の金属系材料の製造方法。
【請求項7】
前記金属ハロゲン化物または前記有機金属化合物を、炭化水素系またはシリコーン系溶媒に分散または溶解させて請求項5に記載の前記液状反応剤とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項8】
前記出発原料に含まれる金属が遷移金属である請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項9】
前記分解生成金属系材料は、前記出発原料よりも前記遷移金属の含有量が高められたものである請求項8記載の金属系材料の製造方法。
【請求項10】
前記遷移金属が、鉄、ニッケル及びコバルトのいずれかである請求項8又は請求項9に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項11】
前記分解生成金属系材料を、鉄、ニッケル及びコバルトのいずれかを主成分とする金属、合金または金属間化合物の形で回収する請求項10記載の金属系材料の製造方法。
【請求項12】
前記出発原料として、希土類系磁石の製造プロセスより発生する固形または粉末屑、使用済み電子機器から回収される該希土類系磁石廃棄物、使用済み電池のリサイクル工程で回収される鉄、ニッケルおよびコバルト含有廃棄物のいずれかを使用する請求項10又は請求項11に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項13】
前記反応空間内における前記出発原料の金属カルボニル生成後の残滓に、前記出発原料に含有されていた希土類原料を濃縮して、これを回収する請求項12記載の金属系材料の製造方法。
【請求項14】
前記反応空間内のCO圧力を大気圧より高くかつ500気圧以下とし、前記金属カルボニルの生成に係る反応温度を室温以上500℃以下とする請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項15】
前記金属カルボニル生成ステップにおいて、前記金属カルボニルの生成反応を促進するために、前記出発原料に硫黄を添加する請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項16】
前記金属カルボニル生成ステップにおいて、前記金属カルボニルの生成反応を促進するために、前記出発原料を水素化処理することで不均化処理した請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項17】
前記分解生成金属系材料を、粒径10nm以上200μm以下の粉末形態にて回収する請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載の金属系材料の製造方法。
【請求項18】
請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載の方法により得られた前記分解生成金属系材料を原料として使用して、電波吸収材料を製造することを特徴とする電波吸収材料の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−219754(P2006−219754A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36905(P2005−36905)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年2月14日 大阪大学発行の「平成16年度 大阪大学大学院研工学究科 物質・生命工学専攻(化学系)/分子化学専攻/物質化学専攻 修士論文発表会 要旨集」に発表
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】