説明

金属繊維の製造方法

少なくとも繊維金属及びマトリックス金属の混合物を溶解することと、混合物を冷却して、少なくとも繊維相及びマトリックス相を含むバルクマトリックスを形成することと、マトリックス相の少なくともかなりの部分を繊維相から除去することとを含む、金属繊維の製造方法。加えて、本方法は、バルクマトリックスを変形させることを含んでよい。特定の態様においては、繊維金属は、ニオブ、ニオブ合金、タンタル及びタンタル合金のうちの少なくとも1つとしてよく、マトリックス金属は銅及び銅合金のうちの少なくとも1つとしてよい。特定の態様においては、マトリックス相を適切な鉱酸、例えば、限定するものではないが、硝酸、硫酸、塩酸及びリン酸中に溶解させることによって、マトリックス相のかなりの部分を除去してよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属繊維の製造方法に関する。特に、本発明は、コンデンサ、ろ過媒体、触媒担体または他の高表面積若しくは耐食性用途において使用するために使用することのできる金属繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属繊維は、広範囲の産業用途を有する。特に、高温で及び腐食環境においてその特性を保持する金属繊維は、コンデンサ、ろ過媒体、及び触媒担体構造における用途を有するだろう。
【0003】
現代のエレクトロニクス産業用の小型コンデンサの需要は、次第に増大してきた。タンタルを含むコンデンサは小型サイズで製造されており、高温で及び腐食環境においてそのキャパシタンスを維持できる。実際に、現在、タンタルの最大の商業的用途は電解コンデンサにある。タンタル粉末金属アノードは、固体及び湿式電解コンデンサの両方において使用されており、タンタル箔を使用して箔コンデンサを製造できる。
【0004】
タンタルは、タンタル粉末を加圧して圧粉体にし、それに続いて圧粉体を焼結して多孔質高表面積ペレットを形成することによって、コンデンサにおいて使用するために調製できる。ペレットを次に電解液中で陽極処理して、タンタルの表面に連続誘電体酸化膜を形成できる。細孔に電解液を充填し、リード線を取り付けてコンデンサを形成できる。
【0005】
コンデンサにおいて使用するためのタンタル粉末は、様々な方法によって製造されてきた。1方法においては、タンタル粉末は、KTaFのナトリウム還元プロセスから製造される。ナトリウム還元のタンタル生成物を次に、溶解プロセスによってさらに精製することができる。この方法によって製造されたタンタル粉末をそれに続いて加圧し、焼結して棒形態にしてよく、またはコンデンサ等級タンタル粉末として直接販売してよい。ナトリウム還元プロセスのプロセスパラメータの例えば時間、温度、ナトリウム供給速度、及び希釈剤を変化させることによって、様々な粒度の粉末を製造してよい。5000μF・V/g〜25,000μF・V/gを超える単位キャパシタンスを含む広範囲のナトリウム還元済みタンタル粉末が、現在入手可能である。
【0006】
加えて、タンタル粉末は、水素化され、破砕され、脱ガスされ、電子ビーム溶解されたインゴットによって製造されてきた。電子ビーム溶解されたタンタル粉末は、ナトリウム還元された粉末よりも高い純度を有し、より良好な誘電性特性を有するが、こうした粉末を用いて製造されたコンデンサの単位キャパシタンスは典型的に低い。
【0007】
微細なタンタルフィラメントも、弁金属(valve metal)と第2の延性金属とを組み合わせてビレットを形成するプロセスによって製造されてきた。ビレットは、従来の手段の例えば押出しまたは引抜きによって加工される。この加工は、フィラメント直径を直径0.2〜0.5ミクロンの範囲に低減する。それに続いて、弁金属フィラメントを無傷のままにする鉱酸の浸出によって延性金属を除去する。このプロセスは、タンタル粉末の他の製造方法よりも高価であり、従って工業的に広範囲に使用されなかった。
【0008】
加えて、上で説明したプロセスは、上で説明したビレットと実質的に同様のビレットを、連続金属シースを形成するであろう金属の1つ以上の層で取り囲む追加の工程を含むように修正された。金属シースは、延性金属によってフィラメントアレイから分離される。次に、ビレットを慣用の手段によって、好ましくは熱間押出しまたは伸線加工によって、フィラメントは直径5ミクロン未満であり、シースの厚さは100ミクロン以下であるところまでサイズを低減する。次に、この複合体をコンデンサ製造に適した長さに切断する。次に、弁金属成分を分離するのに供された二次延性金属を鉱酸中に浸出させることによってセクションから除去する。
【0009】
さらなる加工を使用して、タンタル粉末をボールミリングすることによってタンタルのキャパシタンスを増大させてよい。ボールミリングは、実質的に球形の粒子をフレークへと転換できる。フレークの利点は、最初のタンタル粉末よりも高い表面積対体積の比に帰する。高い表面積対体積の比は、フレークによって製造されたアノードのためのより大きな体積効率をもたらす。ボールミリング及び他の機械的プロセスによるタンタル粉末の修正は、増大した製造コスト及び完成品収率の減少を含む実用上の欠点を有する。
【0010】
ニオブ粉末も小型コンデンサにおいて使用できるだろう。ニオブ粉末を、水素化、破砕及びそれに続く脱水素化によってインゴットから製造してよい。脱水素化されたニオブ粉末の粒子構造は、タンタル粉末のものに類似している。
【0011】
タンタル及びニオブは、純粋状態で延性があり、炭素、窒素、酸素、及び水素の高い格子間溶解度を有する。タンタル及びニオブに十分な量の酸素を高温で溶解させて、通常の操作温度での延性を破壊してよい。特定の用途の場合、溶存酸素は望ましくない。従って、こうした金属繊維の高温製造は、典型的に避けられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、金属繊維の経済的な製造方法に対する必要が存在する。特に、コンデンサ、ろ過材及び触媒担体、並びに他の用途において使用するためのタンタルまたはニオブを含む金属繊維の経済的な製造方法に対する必要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
金属繊維の製造方法は、少なくとも繊維金属及びマトリックス金属の混合物を溶解することと、混合物を冷却することと、少なくとも繊維相及びマトリックス相を含むバルクマトリックスを形成することと、マトリックス相の少なくともかなりの部分(すなわち、実質的な部分:substantial portion)を繊維相から除去することとを含む。加えて、本方法は、バルクマトリックスを変形させることを含んでよい。
【0014】
特定の態様においては、繊維金属は、ニオブ、ニオブ合金、タンタル及びタンタル合金のうちの少なくとも1つとしてよく、マトリックス金属は銅及び銅合金のうちの少なくとも1つとしてよい。特定の態様においては、マトリックス相を適切な鉱酸、例えば、限定するものではないが、硝酸、硫酸、塩酸及びリン酸中に溶解させることによって、マトリックス相のかなりの部分を除去してよい。
【0015】
読者は以下の本発明の態様の詳細な説明を検討することによって、前述の本発明の詳細及び利点並びに他のものを了解できよう。また、読者は本発明の金属繊維を製造及び/または使用することによって、本発明の上述の追加の詳細及び利点を理解できよう。
【0016】
本発明の特徴及び利点は、添付図を参照することによってより良く理解できよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、金属繊維の製造方法を提供する。金属繊維の製造方法の態様は、少なくとも繊維金属及びマトリックス金属の混合物を溶解することと:混合物を冷却して、繊維相及びマトリックス相を含む少なくとも2つの固相を含むバルクマトリックスを形成することと;マトリックス相のかなりの部分を繊維から除去することとを含む。特定の態様においては、繊維相は、マトリックス相中の繊維または樹枝状結晶の形態で成形される。図1、2、8、9、10及び12A〜12Cを参照されたい。特定の態様においては、繊維金属は、タンタル、タンタル含有合金、ニオブ及びニオブ含有合金からなる群から選択される少なくとも1つの金属としてよい。
【0018】
マトリックス金属は、少なくともマトリックス金属及び繊維金属を含む液体混合物の冷却後に、共晶反応を起こし、少なくとも繊維相及びマトリックス相を含むバルクマトリックスを形成するような任意の金属としてよい。マトリックス相をそれに続いて少なくとも実質的に繊維相から除去して、金属繊維を露出させてよい。図5A〜5H、6A〜6D、及び7A〜7Eを参照されたい。特定の態様においては、マトリックス金属は、例えば、銅または青銅としてよい。マトリックス相のかなりの部分は、得られる金属繊維が所望の用途のために適用可能である場合バルクマトリックスから除去されると考えられる。
【0019】
繊維金属は、冷却後に、マトリックス相中の固相を形成できる金属を含む任意の金属、または任意の合金としてよい。本発明の態様は、任意の形態の繊維金属を利用してよく、こうしたものとしては、ロッド、プレートマシンチップ、マシン切りくず、並びに他の粗大または微細入力原料が挙げられるが必ずしもこれらに限定されるものではない。特定の態様の場合、微細なまたは小さなサイズの材料が望ましいことがある。繊維を形成する方法は、出発原料として金属粉末のみを使用しなければならない金属繊維を形成する他の方法にまさる、潜在的にかなりの改良を表す。好ましくは、繊維金属及びマトリックス金属の混合によって、得られた混合物は、マトリックス金属及び繊維金属個別よりも低い融点を有する。
【0020】
一つの態様においては、繊維金属及びマトリックス金属の混合物の冷却後に、繊維金属は、繊維または樹枝状結晶の形状の繊維相を形成する。図1及び2は、繊維相11及びマトリックス相12を含むバルクマトリックス10の200倍の倍率の顕微鏡写真である。繊維相は、マトリックス相12のマトリックス中の繊維または樹枝状結晶の形状である。バルクマトリックス10は、C−103、ニオブ合金及び銅を含む混合物を溶解することによって形成した。この態様において使用したC−103は、ニオブ、10重量%のハフニウム、0.7〜1.3重量%のチタン、0.7重量%のジルコニウム、0.5重量%のチタン、0.5重量%のタングステン、及び付随的な不純物を含む。C−103の融点は2350±50℃(4260±90°F)である。混合物中の繊維金属の重量%は、冷却後に2つ以上の混合固相を生じるであろう任意の濃度としてよい。特定の態様においては、繊維金属は、0重量%超〜70重量%の任意の重量%を占めてよい。しかしながら、より高い表面積の繊維の形成に関する態様においては、混合物中の繊維金属の濃度を50重量%未満に低減してよい。他の態様においては、本方法からの繊維の収率を増大させることが望ましい場合、繊維金属の量を5重量%〜50重量%までまたは15重量%〜50重量%にさえも増大させてよい。繊維の収率及び金属繊維の高表面積の両方が望まれる特定の用途における態様の場合、混合物中の繊維金属の濃度は、15〜25重量%の繊維金属としてよい。マトリックス金属及び繊維金属を含む混合物は、共晶混合物(eutectic mixture)としてよい。共晶混合物は、冷却時に液体溶液が少なくとも2つの混合固体へと転換される等温可逆反応が起きることがある混合物である。特定の態様においては、相のうちの少なくとも1つが樹枝状構造(dendritis structure)を形成することが好ましい。
【0021】
金属繊維の製造方法を任意の繊維金属のために使用してよく、こうしたものとしてはニオブ、ニオブを含む合金、タンタル及びタンタルを含む合金が挙げられるがこれらに限定されるものではない。タンタルは、限定された利用可能性を有し、高コストである。多くの腐食性媒体において、かなり低減されたコストで純タンタルと同等の耐食性性能がニオブ、ニオブの合金、並びにニオブ及びタンタルの合金を用いて実現できることが認識されている。一つの態様においては、繊維の製造方法は、タンタルよりも高価でないと思われるニオブの合金またはタンタルの合金を含む。
【0022】
表面積3.62平方メートル/グラムと平均長さ50〜150ミクロン及び幅3〜6ミクロンを有する金属繊維が、本発明の方法の態様を用いて得られた。加えて、繊維相中の酸素濃度は、1.5重量%以下に制限された。
【0023】
繊維相は、マトリックス相中の樹枝状結晶または繊維の形態としてよい。例えば、図1は、銅マトリックス12中のニオブの樹枝状結晶11を示す。金属の混合物が冷却し、凝固するにつれて、樹枝状結晶が形成される。マトリックス金属との溶解物中の繊維金属、例えば銅との溶解物中のニオブは、冷却後にまず核形成して小さな結晶になり、次に結晶が成長し続けて樹枝状結晶になることができる。“樹枝状結晶”は典型的に、樹木様枝分かれパターンを有する金属結晶として説明される。本明細書において使用する“樹枝状結晶”または“樹枝状”はまた、繊維、針、及び丸形またはリボン形の結晶の形状の繊維相材料を含む。特定の条件下で、例えば高濃度の繊維金属を用いて、繊維金属の樹枝状結晶はさらに次第に成長して結晶粒になることがある。
【0024】
マトリックス金属中の繊維金属の樹枝状結晶の形態、サイズ、及びアスペクト比は、プロセスパラメータを調節することによって修正してよい。樹枝状結晶または繊維の形態、サイズ、及びアスペクト比を制御できるプロセスパラメータとしては、溶解物中の金属の比、溶解速度、凝固速度、凝固幾何学的形状、溶解または凝固方法(例えば回転電極またはスプラット粉末加工(splat powder processing))、溶融池体積、及び他の合金元素の添加が挙げられるがこれらに限定されるものではない。溶融共晶マトリックス中の樹枝状結晶の形成は、金属の混合物を単に機械的に加工して繊維相を形成するよりも、かなり時間を要せずかつ高価でない、金属繊維の製造への手段となるだろう。
【0025】
任意の溶解プロセスを使用して、繊維金属及びマトリックス金属を溶解してよく、これは例えば、限定するものではないが、真空または不活性ガス冶金操作の例えばVAR、誘導溶解、連続鋳造、冷却した対向する回転ロール上の連続鋳造ストリップ、“スクイズ”タイプキャスティング方法、及び溶解である。
【0026】
所望により、それに続いて、バルクマトリックスを変形させるための幾つかの機械的加工工程のいずれかによって、バルクマトリックス中の繊維相のサイズ、形状及び形態を変更してよい。バルクマトリックスを変形させるための機械的加工工程は、任意の周知の機械的プロセス、または機械的プロセスの組合せとしてよく、こうしたものとしては、熱間圧延、冷間圧延、加圧、押出し、鍛造、引抜き、または任意の他の適切な機械的加工方法が挙げられるがこれらに限定されるものではない。例えば、図3及び図4A、4Bは、機械的加工工程後の銅マトリックス中のニオブの樹枝状結晶の顕微鏡写真である。図3及び図4A、Bは、C−103及び銅を含む溶解物混合物から製造した。混合物を溶解し、冷却して、ボタンを形成した。それに続いてボタンを圧延によって変形させて断面積を低減した。変形の前の同様のバルクマトリックスの図1及び2と図3及び図4A、4Bとの比較によって、マトリックス相中の繊維相の形態に及ぼす機械的加工の影響が容易に分かる。バルクマトリックスの変形は、含まれる繊維相の伸び及び断面積の低減のうちの少なくとも1つを生じさせることがある。鍛練加工を使用して、バルクマトリックスを任意の適切な形態の例えばワイヤ、ロッド、シート、棒、ストリップ、押出し物、プレート、または扁平な粒子に転換してよい。
【0027】
それに続いて、繊維相を実質的に含まないマトリックス相の回収のための任意の周知の手段によって、繊維金属をバルクマトリックスから回収してよい。例えば、銅マトリックス金属を含む一つの態様においては、鉱酸のような、繊維金属を溶解させることなくマトリックス金属を溶解させるであろう任意の物質中で銅を溶解させてよい。任意の適切な鉱酸を使用してよく、これは例えば、限定するものではないが、硝酸、硫酸、塩酸、またはリン酸、並びに他の適切な酸または酸の組合せである。マトリックス金属はまた周知の手段によるマトリックス金属の電気分解によってバルクマトリックスから除去してよい。
【0028】
バルクマトリックスから除去された金属繊維は、本明細書において定義する通り樹枝状結晶の形態である場合、高い表面積対質量の比を有することができる。繊維材料を、耐食性ろ過材料、膜支持体、触媒のための基体、またはフィラメント状材料の独特な特性を利用できる他の用途としてバルクで使用してよい。繊維材料をさらに加工して、特定の用途の特定の要件を満たすようにしてよい。こうしたさらなる加工工程は、焼結、加圧、またはフィラメント状材料の特性を所望の様式で最適化するのに必要な任意の他の工程を含んでよい。例えば、繊維材料を、粘稠な流体中での高速剪断、水素化脱水素化及び破砕プロセスによって粉末様コンシステンシーにしてよい。所望により、繊維材料のスラリーを小さな氷のペレットに凍結することは、ブレンダー中で加工することによるフィラメントのさらなる短縮を可能にする。
【0029】
加工したままの、またはさらなる加工を用いる金属繊維は、コンデンサ用途のための一次形態として認識される。多くのコンデンサ用途において、より豊富でありかつより高価でないニオブは、単独でまたは合金化されてタンタルの有効な代替物として役立つことができる。タンタルと比較してより低コストのニオブ及びその合金は、大きな供給源及び本発明の方法と組み合わせて、小型電子機器における小型コンデンサ用途のための最適な材料を提供する。ニオブ及びタンタルコンデンサ用途においては、サイズ約1〜5ミクロン及び表面積2m/グラムを超える微細で高表面積の製品が所望されている。
【0030】
溶解手順
以下の実施例において説明する溶解プロセスは、少なくとも10−3Torrの真空下でまたは不活性ガスの雰囲気下で行われた。溶解プロセスの間中この環境を使用して、金属の中への酸素の取り入れをかなり低減する。実施例をこのようにして行ったが、繊維の形成方法の態様は、何らかの工程を必ずしも真空下でまたは不活性ガスの雰囲気下で実行する必要はない。本方法の溶解工程は、繊維金属及びマトリックス金属の溶融状態を実現できる任意のプロセスを含んでよい。
【0031】
本方法の特定の態様においては、金属繊維の中への酸素の取り入れを最小にすることが有利なことがあるが、金属繊維の他の用途、例えばろ過材及び触媒担体は酸素によって影響されないかもしれない。一旦繊維金属が溶融マトリックス金属中に包囲されたら、これは雰囲気汚染に対してさらに保護され、汚染に対する唯一の大きな可能性は、繊維金属/マトリックス金属及び雰囲気の界面で生じ得る反応である。最小の雰囲気汚染が望ましい態様の場合、繊維金属を微細な粒度で加えてよい。
【0032】
繊維の製造方法を、下記に示す特定の実施例によって説明する。請求の範囲を限定することなく本方法の態様を説明するために、この実施例を提供する。
【実施例】
【0033】
特に断らない限り、本明細書及び請求の範囲において使用する成分の量、組成、時間、温度等を表す全ての数は、全ての場合に“約”という用語によって修正されることは理解できるはずである。従って、特に断らない限り、本明細書及び請求の範囲において述べる数値パラメータは、本発明によって得ようと試みた所望の特性に依存して変化することがある近似である。少なくとも、また、請求の範囲に対する均等論の適用を限定しようとしてではなく、各数値パラメータは、報告された有効数字の数を考慮し、通常の四捨五入の方法を適用することによって解釈されるべきである。
【0034】
本発明の広い範囲を述べる数値の範囲及びパラメータは近似であるにもかかわらず、具体的な例において述べる数値をできる限り正確に報告する。しかしながら、いかなる数値も、本質的に、それらのそれぞれの試験測定において見い出される標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含むことがある。
【0035】
実施例1:
50重量%のニオブ及び50重量%の銅の混合物を溶解して、ボタンを形成し、冷却し、圧延してプレートの形態にした。得られたプレートを細かく切断または剪断して短くし、鉱酸を用いてエッチングして、銅をニオブ金属繊維から除去した。得られた混合物をろ過して、金属繊維を鉱酸から除去した。
【0036】
実施例2:
5重量%のニオブ及び95重量%の銅の混合物を溶解して、ボタンを形成し、冷却し、圧延してプレートの形態にした。得られたプレートを細かく切断または剪断して、約1インチ角にし、鉱酸を用いてエッチングして、銅をニオブ金属繊維から除去した。得られた混合物をろ過して、繊維を鉱酸から除去した。
【0037】
実施例3:
15重量%のニオブ及び85重量%の銅の混合物を溶解して、ボタンを形成し、冷却し、圧延してプレートの形態にした。得られたプレートを細かく切断または剪断して、約1インチ角にし、鉱酸を用いてエッチングして、銅をニオブから除去した。得られた混合物をろ過して、繊維を鉱酸から除去した。実施例において製造したニオブ金属繊維のSEMを図5A〜5Hに示す。
【0038】
実施例4:
24重量%のニオブ及び76重量%の銅の混合物を溶解して、ボタンを形成し、冷却し、圧延して広げて最初の厚さの十分の一にして、プレートの形態にした。得られたプレートを細かく切断または剪断して約1インチ角にし、鉱酸を用いてエッチングして、銅をニオブ繊維金属から除去した。得られた混合物をろ過して、繊維を鉱酸から除去した。
【0039】
実施例5:
2.5重量%のジルコニウムを加えてニオブ及び銅の混合物を溶解して、ボタンを形成し、冷却し、圧延して広げて最初の厚さの十分の一にして、プレートの形態にした。得られたプレートを細かく切断または剪断して、約1インチ角にし、鉱酸を用いてエッチングして、銅をニオブ繊維金属から除去した。得られた混合物をろ過して、金属繊維を鉱酸から除去した。繊維は、ジルコニウムを加えずに形成した繊維よりも大きな表面積を有していると認められた。回収した繊維のSEI顕微鏡写真を図6A〜6Dに示す。
【0040】
実施例6:
23重量%のニオブ、7.5重量%のTa及び銅の混合物を溶解して、ボタンを形成し、冷却し、圧延して、厚さ0.022インチを有するプレートにした。得られたプレートを細かく切断または剪断して、約1インチ角にし、鉱酸を用いてエッチングして、銅をニオブ繊維金属から除去した。得られた混合物をろ過して、ニオブ繊維を鉱酸から除去した。繊維を洗浄し、次に2バッチで焼結し、1つは975℃であり、第2のバッチは1015℃だった。繊維のサイズは収縮しなかったことが明白だった。
【0041】
実施例7:
23重量%のC−103合金及び銅の混合物を溶解して、ボタンを形成し、冷却し、圧延して、厚さ0.022インチを有するプレートにした。得られたプレートを細かく切断または剪断して、約1インチ角にし、鉱酸を用いてエッチングして、銅をニオブ繊維金属から除去した。得られた混合物をろ過して、ニオブ繊維を鉱酸から除去した。繊維を洗浄し、次に2バッチで焼結し、1つは975℃であり、第2のバッチは1015℃だった。繊維のサイズの収縮が明白だった。繊維の顕微鏡写真を図7A〜7Eに示す。
【0042】
実施例8:
C−103合金及び銅の混合物を真空アーク再溶解(“VAR”)してインゴットを形成し、冷却し、圧延して、厚さ0.055インチを有するプレートにした。同様の組成を有する様々なバルクマトリックスの断面の顕微鏡写真を図8〜10に示す。得られたプレートを細かく切断または剪断し、鉱酸を用いてエッチングして、銅をニオブ繊維金属から除去した。得られた混合物をろ過して、繊維を鉱酸から除去した。
【0043】
実施例9:
C−103合金及び銅の混合物を真空アーク再溶解(“VAR”)してインゴットを形成し、冷却し、誘導溶解し、0.5インチ厚さの黒鉛スラブ型中で鋳込んだ。スラブの形態の得られたバルクマトリックスを図11に示す。バルクマトリックスの断面の顕微鏡写真を図12A〜12Cに示す。スラブをクロスローリングし、次に5回の鉱酸洗浄及び数回の濯ぎを用いてマトリックス相を繊維相から除去した。得られた繊維(図7A〜7Eを参照されたい)は、以下の追加の成分を含むニオブの組成を有していた:
炭素 1100ppm、
クロム <20ppm、
銅 0.98重量%、
鉄 320ppm、
水素 180ppm、
ハフニウム 1400ppm、
窒素 240ppm、
酸素 0.84重量%、及び
チタン 760ppm。
【0044】
この分析は、繊維金属の幾つかの成分の部分はマトリックス相になることがあり、マトリックス金属の幾つかの成分の部分は本発明の態様における繊維相になることがあることを示す。
【0045】
実施例10:
25重量%のニオブ及び75重量%の銅の混合物を溶解して、ボタンを形成し、冷却し、圧延して広げて厚さ約0.018〜0.020インチにして、プレートの形態にした。得られたプレートを硝酸中でエッチングして、銅をニオブ繊維金属から除去した。プレートを酸に加えた時に、硝酸は沸騰し始め、金属繊維は最上部に浮いた。沸騰を止めた時に、ニオブ繊維材料は底部に落下した。得られた混合物をろ過して、繊維を鉱酸から除去した。
【0046】
本説明が、本発明の明確な理解に適した本発明の態様を示すことは理解できるはずである。当業者には明白であり、従って本発明のより良い理解を促進しないような本発明の特定の態様は、本説明を簡略化するために提出していない。本発明の態様を説明してきたが、当業者であれば、前述の説明を検討することにより、本発明の多くの修正及び変形例を用いることができることを認識できよう。このような本発明の全ての変形例及び修正は、前述の説明及び請求の範囲によって包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】C−103及び銅を含む混合物を溶解することを含む本発明の方法の態様から製造したバルクマトリックスの断面の200倍の倍率の顕微鏡写真であり、顕微鏡写真はマトリックス相中の繊維相の樹枝状形状を示す。
【図2】図1のバルクマトリックスの断面の500倍の倍率の顕微鏡写真であり、顕微鏡写真はマトリックス相中の繊維相の樹枝状形状を示す。
【図3】C−103及び銅を含む混合物を溶解すること及びバルクマトリックスを機械的に加工してシートにすることから製造したバルクマトリックスの断面の500倍の倍率の顕微鏡写真であり、顕微鏡写真は、バルクマトリックスを変形させることがマトリックス相中の繊維相の樹枝状形状に及ぼす影響を示す。
【図4】図4Aおよび4Bは、図3のバルクマトリックスの断面の1000倍の倍率の顕微鏡写真であり、顕微鏡写真は、バルクマトリックスを変形させることがマトリックス相中の繊維相の樹枝状形状に及ぼす影響を示す。
【図5】図5A、5B、5C、5D、5E、5F、5G、および5Hは、ニオブ及び銅を含む混合物を溶解してバルクマトリックスにすること及びマトリックス相をバルク相から除去することとを含む本発明の方法の態様から製造した繊維の形状の幾つかの走査型電子顕微鏡(“SEM”)から得た顕微鏡写真である。
【図6】図6A、6B、6C、および6Dは、ニオブ及び銅を含む混合物を溶解してバルクマトリックスにすること及びマトリックス相をバルク相から除去することを含む本発明の方法の態様から製造した繊維の形状の幾つかの二次電子画像(“SEI”)を使用した1000倍の倍率の顕微鏡写真である。
【図7】図7Aは、C−103及び銅を含む混合物を溶解してバルクマトリックスにすること及び圧延によって変形した後にマトリックス相をバルク相から除去することを含む本発明の方法の態様から製造した繊維の形状の幾つかのSEIを使用した200倍の倍率の顕微鏡写真である。
【0048】
図7B、7C、7D、および7Eは、図7Aの繊維の形状の幾つかのSEIを使用した2000倍の顕微鏡写真である。
【図8】C−103及び銅を含む混合物を溶解することを含む本発明の方法の態様から製造したバルクマトリックスの断面の500倍の倍率の顕微鏡写真であり、顕微鏡写真はマトリックス相中の繊維相の樹枝状形状を示す。
【図9】C−103及び銅を含む混合物を溶解することを含む本発明の方法の態様から製造したバルクマトリックスの断面の500倍の倍率の別の顕微鏡写真であり、顕微鏡写真はマトリックス相中の繊維相の樹枝状形状を示す。
【図10】C−103及び銅を溶解することを含む本発明の方法の態様から製造したバルクマトリックスの断面の1000倍の倍率の別の顕微鏡写真であり、顕微鏡写真はマトリックス相中の繊維相の樹枝状形状を示す。
【図11】C−103及び銅を含む混合物を溶解すること、及び混合物を冷却して0.5インチスラブにすることを含む本発明の方法の態様から製造したスラブの形態のバルクマトリックスを表す。
【図12】図12A、12B、および12Cは、図11のバルクマトリックスの断面の500倍の倍率の顕微鏡写真であり、顕微鏡写真はマトリックス相中の繊維相の樹枝状形状を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属繊維の製造方法であって:
少なくとも繊維金属及びマトリックス金属の混合物を溶解することと;
前記混合物を冷却して、少なくとも繊維相及びマトリックス相を含むバルクマトリックスを形成することと;
前記マトリックス相の少なくともかなりの部分を前記繊維相から除去することと;を含む方法。
【請求項2】
前記バルクマトリックスを変形させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記繊維相は、金属及び金属合金のうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記繊維金属は、ニオブ、ニオブ合金、タンタル及びタンタル合金のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
マトリックス金属は、銅及び銅合金のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物を溶解することは、真空アーク再溶解、誘導溶解、連続鋳造、冷却した対向する回転ロール上の連続鋳造ストリップ、スクイズタイプキャスティング、及び回転電極粉末溶解のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記繊維相は、前記マトリックス相中の樹枝状結晶の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記混合物は共晶混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物中の前記繊維金属の重量%は、0重量%超〜70重量%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物中の前記マトリックス金属の重量%は、15重量%〜25重量%である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記バルクマトリックスを変形させることは、熱間圧延、冷間圧延、押出し、鍛造、引抜き、及び他の機械的加工方法のうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記バルクマトリックスを変形させることは、前記バルクマトリックスを伸長させること及び前記バルクマトリックスの断面積を低減することのうちの少なくとも1つを生じる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記バルクマトリックスは、前記マトリックス相のマトリックス中の前記繊維相の繊維及び樹枝状結晶のうちの少なくとも1つを含み、前記バルクマトリックスを変形させることは、前記繊維相のサイズ、形状、及び形態のうちの少なくとも1つを変更する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記マトリックス相のかなりの部分を前記繊維相から除去することは、前記マトリックス相を溶解させること及び前記マトリックス相の電気分解のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記マトリックス相を溶解させることは、適切な鉱酸中で前記マトリックス相を溶解させることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記鉱酸は、硝酸、硫酸、塩酸及びリン酸のうちの少なくとも1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マトリックス相の少なくともかなりの部分を除去した後に、前記繊維相は樹枝状結晶の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記繊維相は、繊維、針、リボン、及び丸形形状のうちの少なくとも1つの形態である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
金属繊維の製造方法であって:
少なくともニオブ及び銅の混合物を溶解することと;
前記混合物を冷却して、少なくとも前記ニオブのかなりの部分を含む繊維相と前記銅のかなりの部分を含むマトリックス相とを含むバルクマトリックスを形成することと;
前記マトリックス相の少なくともかなりの部分を前記繊維相から除去することと;を含む方法。
【請求項20】
前記バルクマトリックスを変形させることをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記混合物はC−103を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記混合物を溶解することは、真空アーク再溶解、誘導溶解、連続鋳造、冷却した対向する回転ロール上の連続鋳造ストリップ、スクイズタイプキャスティング、及び回転電極粉末溶解のうちの少なくとも1つを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記繊維相は、前記マトリックス相中の樹枝状結晶の形態である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記混合物中の前記繊維金属の重量%は、15重量%〜25重量%である、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記バルクマトリックスを変形させることは、熱間圧延、冷間圧延、押出し、鍛造、引抜き、及び他の機械的加工方法のうちの少なくとも1つを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記バルクマトリックスを変形させることは、前記バルクマトリックスを冷間圧延することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記マトリックス相のかなりの部分を前記繊維相から除去することは、前記マトリックス相を溶解させること及び電気分解のうちの少なくとも1つを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記マトリックス金属を溶解させることは、適切な鉱酸中で前記マトリックス相を溶解させることを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記鉱酸は、硝酸、硫酸、塩酸及びリン酸のうちの少なくとも1つである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記マトリックス相の少なくともかなりの部分を除去した後に、前記繊維相は樹枝状結晶の形態である、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
前記繊維相は、繊維、針、リボン、及び丸形形状のうちの少なくとも1つの形態である、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−528931(P2007−528931A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518746(P2006−518746)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/021091
【国際公開番号】WO2005/005068
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(501187033)エイティーアイ・プロパティーズ・インコーポレーテッド (39)
【Fターム(参考)】