説明

金属蒸発発熱体及び金属の蒸発方法

溶融金属に対する濡れ性を改善し、長寿命化を達成することができる金属蒸発ボート及びそれを用いた金属の蒸発方法を提供する。
二硼化チタン(TiB)及び/又は二硼化ジルコニウム(ZrB )と窒化硼素(BN)を含有してなるセラミックス焼結体の上面に、通電方向と平行でない方向に、溝の1又は2以上を有してなることを特徴とする金属蒸発発熱体。この場合において、通電方向と平行でない方向が、通電方向に対して20〜160度であること、セラミックス焼結体がキャビティを有し、その底面に溝を形成させてなること、セラミックス焼結体の上面及び/又はキャビティ上面に複数の溝によって所望の模様が描かれていることが好ましい。また、この金属蒸発発熱体を用い、その溝の一部分又は全部と金属とを接触させた状態で、真空中、加熱することを特徴とする金属の蒸発方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属蒸着発熱体及び金属の蒸発方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属蒸発発熱体(以下、「ボート」ともいう。)としては、例えば窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、及び二硼化チタン(TiB)を主成分とする導電性セラミックス焼結体の上面にキャビティを形成させたものが知られている(特公昭53−20256号公報)。その市販品の一例として電気化学工業社製商品名「BNコンポジットEC」がある。
【0003】
ボートの使用方法は、ボートの両端をクランプで電極につなぎ電圧を印加して発熱させ、キャビティに入れられたAl線材等の金属を溶融・蒸発させて蒸着膜を得、冷却される。このような操作は、繰り返し行われ、その間に冷熱サイクルと溶融金属による浸食を受けて寿命となる。
【0004】
ボート寿命は、ボートに対する溶融金属の濡れ性に大きく関係しており、濡れ性が悪いと、溶融金属は局在化しボート本来の蒸着効率が得られないばかりか、ボートに対する溶融金属の腐食の進行速度を速め、ボート寿命が短くなる。そこで、ボートの濡れ性を確保するため、レーザー照射をする(特開2000−93788号公報)などの種々の工夫が行われているが、十分なる長寿命化は達成できていない。また、レーザー照射には多大な装置・設備が必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、溶融金属に対する濡れ性を改善し、長寿命化を達成することができる金属蒸発発熱体(ボート)及びそれを用いた金属の蒸発方法を提供することである。
(1)二硼化チタン(TiB)及び/又は二硼化ジルコニウム(ZrB)と、
窒化硼素(BN)と、を含有してなるセラミックス焼結体の上面に、通電方向と平行でない方向に、1又は2以上の溝を有し、かつ溝の幅が0.1〜1.5mm、深さ0.03〜1mm、長さ1mm以上であることを特徴とする金属蒸発発熱体。
(2)溝を2mm以下の間隔で2以上を有してなることを特徴とする上記(1)に記載の金属蒸発発熱体。
(3)溝の数が10以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の金属蒸発発熱体。
(4)通電方向と平行でない方向が、通電方向に対して20〜160度であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
(5)交差点が少なくとも一カ所あるように溝同士を交差させてなることを特徴とする上記(4)に記載の金属蒸発発熱体。
(6)セラミックス焼結体がキャビティを有するものであり、キャビティ底面及び/又はセラミックス焼結体の上面に、溝を有してなることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
(7)キャビティ底面及び/又はセラミックス焼結体の上面に、複数の溝によって模様が描かれていることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
(8)模様の占有面積率が、キャビティを有するものについてはキャビティ底面積に対して、キャビティを有しないものについてはセラミックス焼結体の上面面積に対して、それぞれ30%以上であることを特徴とする上記(7)に記載の金属蒸発発熱体。
(9)模様の占有面積率が、50%以上であることを特徴とする上記(8)記載の金属蒸発発熱体。
(10)模様の占有面積率が、80%以上であることを特徴とする上記(8)記載の金属蒸発発熱体。
(11)一つの溝において、又は異なる溝の溝同士間において、溝の深さに有意差を設けてなることを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
(12)溝の深さの有意差が10%以上であることを特徴とする上記(11)に記載の金属蒸発発熱体。
(13)複数の溝のうち、最深部を有する溝を、セラミックス焼結体の長手方向に対して中心部又はその近傍に設けることを特徴とする上記(11)又は(12)に記載の金属蒸発発熱体。
(14)複数の溝のうち、最浅部を有する溝を、セラミックス焼結体の長手方向に対して一端又は両端に設けることを特徴とする上記(11)〜(13)のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
(15)(溝の最深部の深さ−溝の最浅部の深さ)が、0.005mm以上であることを特徴とする上記(11)〜(14)のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
(16)上記(1)〜(10)のいずれかに記載の金属蒸発発熱体を用い、その溝の一部分又は全部に金属を接触させた状態で、真空中、加熱することを特徴とする金属の蒸発方法。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【図2】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【図3】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【図4】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【図5】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【図6】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【図7】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【図8】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【図9】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【図10】本発明のボートの一例を示す斜視図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いるセラミックス焼結体の組成は、二硼化チタン及び/又は二硼化ジルコニウムの導電物質と、窒化硼素の絶縁物質と、を少なくとも必須成分として含有するものである。窒化チタン、炭化珪素、炭化クロム等の導電物質や、窒化アルミニウム、窒化珪素、アルミナ、シリカ、酸化チタン等の絶縁物質は適宜含有させることができる。中でも、二硼化チタン及び/又は二硼化ジルコニウムと、窒化硼素と、を主成分とするか、又は二硼化チタン及び/又は二硼化ジルコニウムと、窒化硼素と、窒化アルミニウムと、を主成分とするものであることが好ましい。特に好ましくは、二硼化チタン及び/又は二硼化ジルコニウム30〜60%(以下、特に断りのない限り、%は質量%を表す。)と、窒化硼素70〜40%と、を含むか、又は二硼化チタン及び/又は二硼化ジルコニウム35〜55%と、窒化硼素25〜40%と、窒化アルミニウム5〜40%とを含むものが好適である。このような組成であると、セラミックス焼結体の加工が極めて容易となる。
【0008】
また、セラミックス焼結体の相対密度は好ましくは90%以上、特に93%以上であることが好適である。相対密度が90%未満であると、溶融金属がセラミックス焼結体の気孔に浸食し、浸食が促進される。90%以上の相対密度の実現は、上記組成に10%を超えない範囲で後述の焼結助剤を添加すれば容易となる。なお、セラミックス焼結体の相対密度は、焼結体を所定の寸法の直方体に加工し、その外寸及び質量より求めた実測密度を理論密度で除することにより求められる。
【0009】
本発明で用いるセラミックス焼結体は、二硼化チタン及び/又は二硼化ジルコニウムの導電物質と、窒化硼素の絶縁物質とを含む混合原料粉末を成形後焼結することによって製造することができる。
【0010】
原料の二硼化チタン粉末としては、金属チタンとの直接反応やチタニア等の酸化物の還元反応を利用した方法等いずれの製造法によって得られたものでよい。平均粒子径は5〜25μmであることが好ましい。
【0011】
窒化硼素粉末としては、六方晶窒化硼素又はアモルファス窒化硼素、又はこれらの混合物であることが好ましい。これは、硼砂と尿素の混合物をアンモニア雰囲気中、800℃以上で加熱する方法、硼酸又は酸化硼素と燐酸カルシウムの混合物をアンモニウム、ジシアンジアミド等の含窒素化合物を1300℃以上に加熱する方法などによって製造することができる。更には、窒化硼素粉末を窒素雰囲気中で高温加熱し、結晶性を高めたものであってもよい。窒化硼素粉末の平均粒子径は、10μm以下、特に5μm以下であることが好ましい。
【0012】
窒化アルニミウム粉末は、直接窒化法、アルミナ還元法などで製造されたものでよく、平均粒子径は10μm以下、特に7μm以下であることが好ましい。
【0013】
焼結助剤としては、アルカリ土類金属酸化物、希土類元素酸化物及び加熱によってこれらの酸化物となる化合物からなる群から選ばれる一種又は二種以上の粉末が用いられる。具体的には、CaO、MgO、SrO、BaO、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなど、更にはCa(OH)等の水酸化物や、MgCO等の炭酸塩等、加熱によってこれらの酸化物となる化合物などを例示することができる。焼結助剤の平均粒子径は5μm以下、特に1μm以下であることが好ましい。
【0014】
上記成分を含む混合原料粉末は、好ましくは造粒されてから、成形し焼結される。成形・焼結条件の一例をあげると、0.5〜200MPaの一軸加圧又は冷間等方圧加圧した後、1800〜2200℃の温度における常圧焼結又は1MPa以下の低圧焼結である。更に好ましい条件の例としては、1800〜2200℃、1〜100MPaのホットプレス又は熱間等方圧プレスである。
【0015】
焼結は、黒鉛製容器、窒化硼素製容器、又は窒化硼素で内張した容器などに収納して行うことが望ましい。ホットプレス法では、黒鉛又は窒化硼素製スリーブ、窒化硼素で内張したスリーブなどを用いて焼結することが好ましい。
【0016】
セラミックス焼結体からボートを製造するには、例えば機械加工等によって適宜形状に加工することによって行うことができる。また、本発明のボートは、セラミックス焼結体の上面のほぼ中央部にキャビティを設けることもできる。ボート形状の一例を示せば、全体寸法が縦100〜200mm、幅(横)25〜35mm、厚み8〜12mmの板状体である。キャビティが設けられる場合、キャビティの例は、縦90〜120mm、幅(横)20〜32mm、深さ0.5〜2mmの直方形状である。
【0017】
本発明のボートは、セラミックス焼結体の上面に、また、キャビティを有するものにあってはキャビティ底面及び/又はセラミックス焼結体の上面に、通電方向(すなわち電極と電極を結ぶ方向)と平行でない方向、すなわち、図1に示されるように、セラミックス焼結体の長手方向である通電方向に対して、所定の角度αをもって、1又は2以上の溝を有するものである。これによって、通電方向と平行方向の濡れ拡がり性を更に抑制し、通電方向と直交方向への濡れ拡がり性が助長され、濡れ性が一段と向上する。
【0018】
通電方向と平行でない方向の好適な角度αは、図1〜図10にも示されるように、通電方向に対して好ましくは20〜160度、特に好ましくは60〜120度である。溝は、好ましくは、幅が0.1〜1.5mm、深さが0.03〜1mm、長さが1mm以上であり、特には、幅が0.3〜1mm、深さが0.05〜0.2mm、長さが10mm以上の断面が矩形である線状形状が好ましい。溝の数は、1つであっても溶融金属に対する濡れ性を改善することができるが、好ましくは2以上、特に10以上、更には30以上である。2以上の溝を有するものにあっては、溝の間隔は好ましくは2mm以下、特には0.5〜1.5mmであることが好ましい。
【0019】
これらの中にあっても、溝同士を交差させ、その交差点を少なくとも一カ所、好ましくは溝の数と同数以上の交差点を形成させるか、又はセラミックス焼結体の上面及び/又はキャビティ底面に、例えば円形、楕円形、菱形、矩形、月形、格子、放射状等の各種模様(平面模様)を、溝によって描くことが好ましい。模様の占有面積率としては、キャビティを有するものについてはキャビティ底面積に対して、キャビティを有しないものについてはセラミックス焼結体の上面面積に対して、それぞれ好ましくは30%以上、特に50%以上、更には80%以上であることが好適である。なお、ここで、模様の占有面積率とは、模様を形成する最も外側に位置する溝同士を結ぶことによって形成された面積をセラミックス焼結体の上面面積又はキャビティの底面積で除した値の百分率として定義される。模様の占有面積率に代わりに、溝の占有面積率で表わすと、セラミックス焼結体の上面面積又はキャビティの底面積あたりの溝の占有面積率は、好ましくは10%以上、特に30%以上、更には50%以上であることが好適である。
【0020】
更に、本発明においてセラミックス焼結体に設けられる溝は、一つの溝において、又は異なる溝の溝同士間において、溝の深さに有意差をつけることが好ましい。これによって溶融金属の濡れ性を更に助長させることができる。本発明で、溝の深さの有意差(%)は、下記の式で表示される。なお、下記の式における、溝の最深部の深さを測定するのに用いる溝と、溝の最浅部の深さを測定するのに用いる溝は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。

(溝の最深部の深さ−溝の最浅部の深さ)×100/(溝の最深部の深さ)

【0021】
本発明において、上式による溝の有意差は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、特には30%以上が好適である。また、上式に関係なく、又は上式に関係させて、溝の深さは、(溝の最深部の深さ−溝の最浅部の深さ)が、好ましくは0.005mm以上、特に好ましくは0.1mm以上であるのが好適である。
【0022】
本発明において、溝の深さに有位差を設ける方法には、(イ)複数の溝のうち、その少なくとも一つの溝において、溝の深さに有意差を設ける、(ロ)2以上の溝間において、溝の深さに有位差を設ける、又は(ハ)両者の組合せによって行われる。
【0023】
上記(イ)の方法の場合、一つの溝の最深部は、溝の長手方向における、好ましくは長さ10〜80%の中央部分、特に好ましくは長さ40〜60%の中央部分に設け、最浅部は長手方向の残りの端部部分に設けるのが好適である。
【0024】
上記(ロ)の方法の場合には、「溝の最深部」を求めた溝と、「溝の最浅部」を求めた溝とは、同じであってもよいし、異なってもよい。さらには、深さの異なる均一な深さを有する複数の溝であってもよいし、複数の溝の少なくとも一つの溝が、(イ)のように不均一深さの溝であってもよい。また、上記(ハ)の場合は、均一深さを有する溝と不均一深さを有する溝とが組み合わされた態様である。
【0025】
また、上記(ロ)又は(ハ)の場合において、深さが大きい溝(最深部を有する溝を含む)と、深さが小さい溝(最浅部を有する溝を含む)とは、例えば、交互に設ける、二つ以上置きに設ける、ランダムに設けるなど、全く自由である。しかし、深差が大きい溝(最深部を有する溝を含む)は、セラミックス焼結体の長手方向における中心部又はその近傍に設けることが好ましい。ここで、セラミックス焼結体の長手方向における中心部又はその近傍とは、セラミックス焼結体の全長の好ましくは20〜80%の中央領域、より好ましくは30〜70%の中央領域、特には40〜60%の中央領域であることが好適である。そして、これらの中央領域以外の端部領域には、深い溝(最深部を有する溝を含む)よりも深さの浅い溝を設けることが好ましい。特に、セラミックス焼結体の長手方向における一端又は両端領域では、最も端になる溝が最浅部であることが好ましい。
【0026】
本発明では、なかでも、幅0.1〜1.5mm、長さ1mm以上、深さ0.03〜1.0mmである複数の溝からなり、溝の深さの有位差が、10%以上であり、かつ、(溝の最深部の深さ−溝の最浅部の深さ)が0.005mm以上であることが特に好ましい。
【0027】
本発明のセラミックス焼結体における溝の加工は、例えば機械加工、サンドブラスト、ウォータージェット等の方法によって行うことができる。
【0028】
本発明のボートは、溝の形成によって通電方向と平行方向の溶融金属の濡れ性が抑制される。これによって、従来の溝のないボートに比べて電極への溶融金属の到達を著しく低減することができ、金属蒸発の安定化と高効率化が可能となる。
【0029】
従来のボートは、アルミニウムなどの溶融金属が側面から零れ落ちることを防止するためにキャビティが形成されているが、本発明ではキャビティとは、
そのサイズや機能が異なる溝を施したものである。従って、本発明においてはキャビティは必ずしも必要ではないが、それを有するものにあっては、溝又は溝による模様は少なくともキャビティ底面に形成するのが好ましい。本発明のボートの一例を示す斜視図を図1〜図10に示す。
【0030】
図1のものは実施例1、図2のものは実施例3、図3のものは実施例4、図4のものは実施例5によって製造されたものである。いずれも溝によって模様が描かれており、模様の占有面積率は、図1、図2がキャビティ底面積に対しそれぞれ64%、76%であり、図3、図4がセラミックス焼結体の上面面積に対しそれぞれ39%、55%である。
【0031】
図5のものは、キャビティ底面に、最大長さ24mm、幅1mm、深さ0.15mmの溝50本を、長さを変え、1mm間隔幅で、通電方向に対して90度にして、楕円模様に機械加工により形成されたものである。模様の占有面積率は、キャビティ底面積に対し50%である。
【0032】
図6のものは、キャビティ底面に、幅1mm、深さ0.15mmの溝44本を、1mm間隔幅で、通電方向に対して45度、又は135度の「くの字」状に機械加工したものである。模様の占有面積率は、キャビティ底面積に対し66%である。
【0033】
図7のものは、キャビティ底面に、幅1mm、深さ0.15mmの溝50本を、1mm間隔幅で、通電方向に対して90度、又は180度の格子状に機械加工したものである。模様の占有面積率は、キャビティ底面積に対し60%である。
【0034】
図8のものは、キャビティ底面に、幅1mm、深さ0.15mmの溝20本を、ボート中心部からボート端に向けて放射状に機械加工することにより形成したものである。模様の占有面積率は、キャビティ底面積に対し61%である。
【0035】
図9のものは、キャビティ底面およびキャビティ外のボート上面に、長さ20mm、幅1mm、深さ0.15mmの溝60本を、通電方向に対して90度にして、1.5mm間隔で機械加工により形成したものである。模様の占有面積率は、キャビティ底面積に対し77%、セラミックス焼結体の上面面積に対し67%である。
【0036】
図10のものは、セラミックス焼結体の上面面積に、幅1mm、深さ0.15mmの溝(長さ:両端部は27mm、中間部は23mm、中央部は19mm)60本を、通電方向に対して90度、1.5mm間隔で形成し、かつ通電方向に並行な方向には、幅1mm、深さ0.15mm、長さ130mmの溝を両縁部にそれぞれ1本、その内側中央部に、幅1mm、深さ0.15mm、長さ65mmの溝を形成したものである。模様の占有面積率は、セラミックス焼結体の上面面積に対し89%である。
【0037】
本発明の金属の蒸発方法は、本発明のボートの溝部の一部分又は全部(溝が1本の場合には、その溝の一部である場合を含む。)に接触させてAl線材等の金属を供給し、加熱して、溶融金属と溝とを接触させながら加熱を続けるものである。これによって、対象物質に金属蒸着膜が形成される。真空加熱の条件の一例を示せば、真空度が好ましくは1×10−11×10−3Pa、温度が好ましくは1400〜1600℃である。
【0038】
実施例
実施例1
二硼化チタン 粉末(平均粒子径12μm)45質量%、窒化硼素粉末(平均粒子径0.7μm)、30質量%及び窒化アルミニウム粉末(平均粒子径10μm)25質量%の混合原料粉末を黒鉛製のダイスに充填し、温度1750℃でホットプレスを行ってセラミックス焼結体(相対密度94.5%、直径200mm×高さ20mm)を製造した。このセラミックス焼結体から、長さ150mm×幅30mm×厚み10mmの直方角柱体を切り出し、その上面中央部に幅26mm×深さ1mm×長さ120mmのキャビティを機械加工により設けた。このキャビティ底面に、幅1mm、深さ0.15mm、長さ20mmの溝を1mm間隔幅、通電方向に対して90度にして、50本機械加工し、ボートを製造した。その概略を示す斜視図を図1に示す。
【0039】
実施例2
溝の寸法を、幅0.5mm、深さ0.1mm、長さ20mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0040】
実施例3
ボートのキャビティ底面に、通電方向に対して45度にした、幅1mm、深さ0.15mm、長さ28mmの溝を1mm間隔に35本機械加工し、さらにこの溝と直交する通電方向に対して135度の傾きをもつ同形状の溝を35本交差させて機械加工したこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。その概略を示す斜視図を図2に示す。
【0041】
実施例4
直方角柱体の上面中央部に、キャビティを形成させることなく、直接、幅1.5mm、深さ0.2mm、長さ645mmの連続する直線状の溝1本により、通電方向に対して90度の傾きを持つ縞状模様に加工したこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。その概略を示す斜視図を図3に示す。
【0042】
実施例5
直方角柱体の上面中央部に、キャビティを形成させることなく、直接、幅1.0mm、深さ0.15mm、長さ25mmの溝を1mm間隔で50本の溝を通電方向に対して90度にして機械加工により形成したこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。その概略を示す斜視図を図4に示す。
【0043】
実施例6
溝の加工をサンドブラストで行ったこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0044】
実施例7
溝の加工をウォータージェットで行い、ボートを真空乾燥機で乾燥したこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0045】
比較例1
直方角柱体に溝を形成させなかったこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0046】
比較例2
溝の寸法を、幅2.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0047】
比較例3
溝の寸法を、深さ2.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0048】
比較例4
溝の間隔を、3.0mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0049】
上記の実施例及び比較例のボートの溶融金属に対する濡れ性を評価するため、ボート端部をクランプで電極につなぎ、ボート中央部の温度が1550℃となるように印加電圧を設定した。次いで、ボートに電圧を印加して加熱し、真空度2×10−2Paの真空下、アルミニウムワイヤーを毎分6.5g/分の速度で5分間、溝部に供給し加熱を続けた。アルミニウム供給開始5分後のボート上面を写真撮影し、赤熱部と溶融金属部の対比から濡れ面積を求めた。次いで、該濡れ面積をキャビティを有するボートについてはキャビティ底面積で、キャビティを有しないボートについてはセラミックス焼結体の上面面積で割って濡れ面積率(%)を算出した。それらの結果を表1に示す。
【0050】
また、ボート寿命を評価した。すなわち、ボート中央部の温度を1500℃とし、真空度2×10−2Paの真空中、アルミニウムワイヤーを6.5g/分の割合で供給しながら40分間を単位サイクルとして蒸発試験を行い、この操作を繰り返し行った。そして、ボートのアルミニウム蒸発面上の浸食深さが最大3mmになったときの繰り返し回数をボートの寿命とした。それらの結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例8〜10
実施例1における均一であった溝(総数50本)に代わって、50本の溝を、表2に示されるように、ボートの長さ方向の一端から他端に向って、所定の本数づつそれぞれ異なる深さを有し、かつ中央領域の溝が最深になるように設けたこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0053】
実施例11〜13
ボート表面にキャビティを形成させなかったこと以外は、それぞれ実施例8、9又は10と同様にしてボートを製造した。
【0054】
実施例14
実施例1において、50本の全ての溝のそれぞれが、溝の長手方向における中央1/3の位置の部分の溝の深さを0.15mmに、その両側端の溝の深さ0.10mmとなるように設けたこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0055】
実施例8〜14のボートについて、実施例1〜7と同様にして、ボートのアルミニウム蒸発面上の浸食深さが最大3mmになったときの繰り返し回数をボートの寿命として測定した。また、以下に従って溶融金属の濡れ広がりを測定した。それらの結果を表2に示す。
【0056】
溶融金属の濡れ広がり試験
ボート端部をクランプで電極につなぎボート中央部の温度が1600℃となるように印加電圧を決定し設定した。ついで、ボートに電圧を印加して加熱し、真空度1×10−2Paの真空下、アルミニウムワイヤーを毎分6.5g/分の速度で5分間、溝部に供給し加熱を続けた。アルミニウム供給開始5分後のボート上面を写真撮影し、溶融金属部の拡がりについて、中央部の幅(mm)と最大長(mm)を測定した。それらの結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のボート及び金属の蒸発方法は、各種金属を例えばフイルム等に蒸着するのに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二硼化チタン(TiB)及び/又は二硼化ジルコニウム(ZrB )と、窒化硼素(BN)と、を含有してなるセラミックス焼結体の上面に、通電方向と平行でない方向に1又は2以上の溝を有し、かつ溝が、幅0.1〜1.5mm、深さ0.03〜1mm、長さ1mm以上であることを特徴とする金属蒸発発熱体。
【請求項2】
溝を2mm以下の間隔で2以上を有してなることを特徴とする請求項1に記載の金属蒸発発熱体。
【請求項3】
溝の数が10以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属蒸発発熱体。
【請求項4】
通電方向と平行でない方向が、通電方向に対して20〜160度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
【請求項5】
交差点が少なくとも一カ所あるように溝同士を交差させてなることを特徴とする請求項4に記載の金属蒸発発熱体。
【請求項6】
セラミックス焼結体がキャビティを有するものであり、キャビティ底面及び/又はセラミックス焼結体の上面に、溝を有してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
【請求項7】
キャビティ底面及び/又はセラミックス焼結体上面に、複数の溝によって模様が描かれていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
【請求項8】
模様の占有面積率が、キャビティを有するものについてはキャビティ底面積に対して、キャビティを有しないものについてはセラミックス焼結体の上面面積に対して、それぞれ30%以上であることを特徴とする請求項7に記載の金属蒸発発熱体。
【請求項9】
模様の占有面積率が、50%以上であることを特徴とする請求項8に記載の金属蒸発発熱体。
【請求項10】
模様の占有面積率が、80%以上であることを特徴とする請求項8に記載の金属蒸発発熱体。
【請求項11】
一つの溝において、又は異なる溝の溝同士間において、溝の深さに有意差を設けてなることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
【請求項12】
溝の深さの有意差が10%以上であることを特徴とする請求項11記載の金属蒸発発熱体。
【請求項13】
複数の溝のうち、最深部を有する溝を、セラミックス焼結体の長手方向に対して中心部又はその近傍に設けることを特徴とする請求項11又は12記載の金属蒸発発熱体。
【請求項14】
複数の溝のうち、最浅部を有する溝を、セラミックス焼結体の長手方向に対して一端又は両端に設けることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の金属蒸発発熱体。
【請求項15】
(溝の最深部の深さ−溝の最浅部の深さ)が、0.005mm以上であることを特徴とする請求項11〜14いずれかに記載の金属蒸発発熱体。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の金属蒸発発熱体を用い、その溝の一部分又は全部に金属を接触させた状態で、真空中、加熱することを特徴とする金属の蒸発方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【国際公開番号】WO2005/049881
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515613(P2005−515613)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017023
【国際出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】