説明

金属蒸着ポリエステルフィルム

【課題】
高強度でクラックになりにくく、更にシワのない金属蒸着ポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】
ポリエステルフィルム層(F層)の少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)を設けた金属蒸着ポリエステルフィルムであって、F層における厚み方向の顕微ラマン結晶化指数Icが10〜20cm−1、厚み方向のIcのばらつきが2cm−1以下であり、かつM層の光学濃度ODが0.5〜8.0である金属蒸着ポリエステルフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録材料、電子材料、製版フィルム、昇華型リボン、包装材料として用いた時に有用で、特に高容量の磁気記録媒体用支持体として用いた時に有用な金属蒸着ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
デ−タストレージやデジタルビデオテープ用などの磁気記録媒体においては、高密度化、高容量化が進んでいる。LTO(Linear Tape Open)やSDLT(Super Digital Linear Tape)などのリニア記録方式の磁気記録媒体では、1巻で300GB以上の高容量を有するものが開発されている。
【0003】
高容量化のために、延伸倍率アップによるベースフィルムの高強度化、テープ幅方向の温度膨張係数や湿度膨張係数の最適化、添加粒子の小径化等これまで数多くの検討がなされてきた。しかし、これらの技術を用いても1巻で300GB以上の高容量を有する磁気記録媒体用としては十分な特性が得られなかった。それらの中でも特に厳しい、ベースフィルムの高強度化、温度や湿度に対する寸法安定性向上の要求に応えるため、ポリエステルフィルムの片面または両面に金属などの補強層を設ける方法(特許文献1)が開示されている。しかしながら、補強層が金属の場合、酸化物と比較して一般に強度が弱く、さらには光が十分に透過しないため磁性層の膜厚管理が困難である。一方、補強層が酸化物やその他の化合物の場合、硬いがもろいため、張力によってクラックを生じやすかった。検討の結果、金属を完全に酸化させるのではなく、補強層の酸化度を制御することで、ベースフィルムの高強度化、及び耐クラック性が良好であることが分かってきた。
【0004】
なお、酸化度を制御した酸化金属層を蒸着する技術はガスバリア性フィルムで開示されている(特許文献2)が、この文献に記載のフィルムは図1に示すような真空蒸着装置を用いて作られる。すなわち、この真空蒸着装置111においては、真空チャンバ112の内部をポリエステルフィルムが巻出しロール部113から冷却ドラム116を経て巻取りロール部118へと走行する。このときに、るつぼ121内の金属材料119を誘導加熱により加熱蒸発させるとともに、酸素供給ノズル122から酸素ガスを導入し、蒸発した金属を酸化反応させながら冷却ドラム116上のポリエステルフィルムに蒸着する。しかしながら、検討の結果、図1の装置では酸素ガスの吹出流によって金属蒸気がポリエステルフィルム以外の部分に吹き飛ばされることが分かってきた。金属蒸気が飛ばされると、酸化度を制御することが難しいばかりでなく、余分にAlを蒸発させる、すなわちるつぼ温度を上昇させる必要が生ずる。るつぼ温度が上がることは、すなわちるつぼからの輻射熱を増大させることを意味し、フィルムの表面が溶けやすくなる。このようにフィルムの表面が溶けた状態で巻き取られると、巻き締まりによるシワが発生することが分かってきた。また、図1に示す蒸着装置では金属と酸素が反応する空間が小さいため、均質な蒸着膜を得ることが難しく、不安定なものとなりやすい。さらに、これらのガスバリア性フィルムは包装材料用途であるため、ベースフィルムの厚みが10μm以上と厚く、また表面が平滑ではないため、容易に蒸着ができるのに対し、磁気記録媒体用として用いられるポリエステルフィルムは一般的に厚みが薄く、平滑である。フィルム表面に均質な蒸着膜が形成されない熱負荷が不均一となり、フィルムの微小な変形により蒸着中にフィルム破れが多発することがあった。
【0005】
このような課題を改善するため、図2のように酸素供給ノズルをるつぼの真横に設置し、冷却ドラムとるつぼの距離を離して反応空間を大きくすることで、均質な蒸着膜を形成させる手法が取られることもある。しかし一方で、るつぼから蒸発する金属蒸気にはフィルム走行方向および幅方向に濃度分布があることが知られている。すなわち、図2においてるつぼ直上に蒸発する蒸気が最も多いが、同時にマスク223に向かう蒸気も存在する。るつぼの真横に酸素供給ノズルを配置した場合、マスク223に向かう金属蒸気にも酸素が消費されるため、所望の酸化度に調整するためには酸素供給量を増やさなければならず、その結果るつぼ付近の減圧度が悪化しやすかった。減圧度が悪化すると、金属蒸気が冷却ドラム216に到達しにくくなるため、所望の蒸着膜厚を得るためには、るつぼ温度を上げなければならず、輻射熱の増大につながる。この輻射熱が、冷却ドラム216上のポリエステルフィルムの表面を溶かし、巻き締まりによるシワを発生させていた。このシワは磁性層塗布工程で塗布ムラを発生させ、電磁変換特性を悪化させる原因の一つになっていた。
【特許文献1】特開2006−216195号公報
【特許文献2】特開昭62−220330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高強度でクラックになりにくく、更にシワのない金属蒸着ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、ポリエステルフィルム層(F層)の少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)が設けられた金属蒸着ポリエステルフィルムであって、ポリエステル層の厚み方向の全反射ラマン結晶化指数Icが10〜20cm−1、厚み方向のIcのばらつきが2cm−1以下であり、かつM層の光学濃度ODが0.5〜8.0であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高強度でクラックになりにくく、更にシワのない金属蒸着ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)が形成されてなる。金属酸化物とは、例えば、Cu、Zn、Al、Si、Fe、Ag、Ti、Mg、Sn、Zr、In、Cr、Mn、V、Ni、Mo、Ce、Ga、Hf、Nb、Ta、Y、Wなどの金属成分の一部を蒸着工程で酸化させたものである。
【0010】
上記の金属酸化物は、光学濃度が後述するような範囲内であれば両表面で異なる金属成分を含んでいてもよく、また、複数種の金属成分を混合して含んでいても構わないが、より好ましくは両表面で同一種の金属成分を含む方が平面性などを制御しやすいため好ましい。さらに、酸化度の制御性、寸法安定性、生産性、環境性の観点から、Al、Cu、Zn、Ag、Si元素の少なくとも一種を含んでいることが好ましく、より好ましくはAl元素を含んでいることが好ましい。
【0011】
また、F層における厚み方向の顕微ラマン結晶化指数Icは10〜20cm−1であり、好ましくは12〜19cm−1、更に好ましくは14〜17cm−1である。顕微ラマン測定は1μm単位でポリエステルの結晶性評価が可能で、値が小さいほど結晶性が高いことを示し、蒸着時の熱負荷によりポリエステルフィルムが溶けると結晶性が下がるため、ポリエステルフィルム表層のIcが大きくなる。Icを10cm−1よりも小さくするためには、蒸着前のポリエステルフィルムの製造段階で延伸倍率を大きくしたり、熱固定温度を非常に高くする必要があり、生産性が悪くなりやすい。一方、20cm−1よりも大きくすることは、蒸着前のポリエステルフィルムにおいて結晶を成長させないことを意味し、ポリエステルフィルムとして不安定である。その結果、例えば蒸着時の熱負荷により局所的に収縮が発生してシワとなり、冷却ドラムから浮くため、フィルム表面が溶けやすくなるなどの不具合が生じやすくなる。また、厚み方向の顕微ラマン結晶化指数Icのばらつきは2cm−1以下であり、好ましくは1.0cm−1以下、更に好ましくは0.5cm−1以下である。厚み方向のIcのばらつきが2cm−1よりも大きい状態で巻き取られると、巻き締まりによりシワが発生しやすくなる。製造上、微小なばらつきが発生することは避けられず、下限値は0.1cm−1である。Icを10cm−1〜20cm−1とするためには、金属酸化物を設ける前のポリエステルフィルムF層におけるIcを10cm−1〜20cm−1とすることが有効である。さらにIcのばらつきを2cm−1以下とするためには、蒸着時の熱負荷によりポリエステルフィルム表面が溶け、Icが大きくなることを防ぐため、例えばるつぼからのポリエステルフィルムF層への輻射熱を少なくしたり、冷却ドラムへの密着力を上げたりすることが有効である。
【0012】
金属酸化物を設ける前の、ポリエステルフィルムF層における厚み方向の顕微ラマン結晶化指数Icは、同様に10〜20cm−1、好ましくは12〜19cm−1、更に好ましくは14〜18cm−1であり、かつ厚み方向のばらつきは2cm−1以下、好ましくは1.0cm−1以下、さらに好ましくは0.5cm−1以下である。厚み方向のばらつきが2cm−1よりも大きいと、蒸着時に微小な収縮ムラが起こり、蒸着の均一性が悪化しやすいので好ましくない。製造上、微小なばらつきが発生することは避けられず、下限値は0.1cm−1である。Icは、例えば熱処理温度や延伸倍率などにより調整できる。熱処理温度や延伸倍率を大きくすると一般にポリエステルフィルムの結晶性が上がるため、Icの値は小さくなる。逆にIcを大きくするためには熱固定温度や延伸倍率を小さくし、結晶性を下げることが有効である。また、Icのばらつきを2cm−1以下とするためには、ポリエステルフィルム上下の温度差を小さくすることが有効で、特に熱固定ゾーンにおけるフィルム上下の温度差を20℃以下とすることが有効である。フィルム上下の温度差は、温度の異なるゾーンを仕切るシャッターとフィルムの距離や各ゾーンの風速などを調整することにより制御できる。
【0013】
また、本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムにおいて、各M層の光学濃度は0.5〜8.0であることが好ましい。光学濃度とは、ランベルト−ベールの法則より求められる数値で、下記式(1)のように光線透過率と蒸着厚み(各M層の厚み)から算出される。光学濃度が小さいほど酸化が進んでいることを示し、大きいほど酸化が不完全であることを示す。
【0014】
光学濃度OD[1/μm]=
−(1/蒸着厚み[μm])log(全光線透過率[%]/100) ・・・(1)
光学濃度が0.5より小さい場合、酸化が進みすぎているため、脆く割れやすくなる。光学濃度の下限はより好ましくは0.8、さらに好ましくは1.0である。一方、8.0より大きい場合、酸化が不充分であるため、強度が弱く、補強効果が小さくなるばかりか、透過率が小さくなるため、磁気記録媒体用支持体として用いた場合に膜厚制御が困難である。光学濃度の上限はより好ましくは6.0、さらに好ましくは4.0である。
【0015】
M層の厚みは10〜200nmである。M層の厚みが10nmより小さい場合、補強効果が小さくなる。M層の厚みの下限は、好ましくは40nm、より好ましくは60nmである。一方、M層の厚みが200nmより大きい場合は、るつぼからフィルム表面への熱負荷が大きくなり、表面が溶けやすくなる。M層の厚みの上限は、好ましくは180nm、更に好ましくは160nmである。
【0016】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、全光線透過率が2〜90%が好ましい。90%より高い場合、酸化が進みすぎているため、M層が硬くて脆く、クラックを生じやすい。上限は80%が好ましく、さらに好ましくは70%である。全光線透過の下限は、より好ましくは10%であり、さらに好ましくは15%である。より好ましい範囲としては、10〜80%、より好ましい範囲としては、15〜70%である。M層として金属を蒸着した場合、光線透過率が小さくなるため、磁性層やバックコート層の塗布厚みのコントロールがしにくい。
【0017】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムにおいて、F層は2層以上の積層構成であることが好ましい。特に、本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、磁気記録媒体用支持体として用いた時に有用であり、一方の表面には優れた電磁変換特性を得るための平滑さが求められ、他方の表面には、製膜・加工工程での搬送や、磁気テープの走行性や走行耐久性を付与するための粗さが求められる。
【0018】
磁性層を設ける側の表面(A)の三次元表面粗さSRaは0.5nm〜10nmであることが好ましい。磁性層を設ける側の表面(A)のSRaが0.5nmより小さい場合は、フィルム製造、加工工程などで、搬送ロールなどとの摩擦係数が大きくなり、工程トラブルを起こすことがある。また、Raが10nmより大きい場合は、高密度記録の磁気テープとして用いる場合に、電磁変換特性が低下させることがある。磁性層を設ける側の表面(A)のSRaの下限は、より好ましくは1nm、さらに好ましくは2nmであり、上限は9nm、さらに好ましくは8nmである。より好ましい範囲としては、1〜9nm、さらに好ましい範囲としては、2〜8nmである。
【0019】
一方、バックコート層を設ける側の表面(B)の三次元表面粗さSRaは3nm〜30nmであることが好ましい。バックコート層側の表面(B)のSRaが3nmより小さい場合は、搬送ロールなどとの摩擦係数が大きくなり、工程トラブルを起こすことがある。また、SRaが30nmより大きい場合は、フィルムロールやパンケーキとして保管する際に、表面突起が反対側の表面に転写し、電磁変換特性が低下することがある。バックコート層側の表面(B)のSRaの下限は、より好ましくは5nm、さらに好ましくは7nmであり、上限は20nm、さらに好ましくは15nmである。より好ましい範囲としては、5〜20nm、さらに好ましい範囲としては7〜15nmである。
【0020】
SRaを上記範囲内とするためには、F層の表面粗さを制御することが有効である。F層の表面粗さを制御するためには、の層内に不活性粒子を添加することが好ましく、本発明において層(A)に不活性粒子Iを用いる場合、その平均粒径dIは好ましくは0.04〜0.30μm、より好ましくは0.05〜0.15μmで、含有量は好ましくは0.001〜0.30重量%、より好ましくは0.01〜0.25重量%である。磁気記録用媒体においては平均粒径が0.30μmよりも大きな粒子を用いると電磁変換特性が悪化する場合がある。一般に平均粒径および添加量を小さくするほどRaは小さくなり、平均粒径および添加量を大きくするほどSRaは大きくなる。
【0021】
2層構造のF層において、層(B)の厚みtBは好ましくは0.1〜2.0μmであり、より好ましくは0.2〜1.5μmである。この厚みが、0.1μmよりも小さくなると蒸着工程などで粒子が脱落しやすくなり、2.0μmよりも大きくなると添加粒子の突起形成効果が減少する場合がある。
【0022】
2層構造のF層において、層(B)に粒子を含める場合、その粒子は1種類であっても2種類以上であってもよい。ポリエステル層(B)に添加する最も大きい不活性粒子を不活性粒子IIとしたとき、その平均粒径dIIは、好ましくは0.1μm〜1.0μmで、より好ましくは0.4μm〜0.9μm、含有量は好ましくは0.002重量%〜0.10重量%、より好ましくは0.005〜0.05重量%であり、さらに不活性粒子IIIを含有せしめる場合、その平均粒径は不活性粒子IIよりも小さく平均粒径は好ましくは0.05μm〜0.5μm、より好ましくは0.2μm〜0.4μmで、含有量は好ましくは0.1重量%〜1.0重量%、より好ましくは0.2〜0.4重量%である。
【0023】
2層構造のF層において、層(A)および層(B)に含まれる不活性粒子は、球状シリカ、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機粒子、またその他有機系高分子粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等が好ましい。これらの1種もしくは2種以上を選択して用いる。
【0024】
2層構造のF層において、層(A)および層(B)に含まれる不活性粒子は、粒子形状・粒子分布は均一なものが好ましく、体積形状係数は好ましくはf=0.3〜π/6であり、より好ましくはf=0.4〜π/6である。体積形状係数fは、次式で表される。
【0025】
f=V/Dm
ここでVは粒子体積(μm),Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。
【0026】
なお、体積形状係数fは粒子が球の時、最大のπ/6(=0.52)をとる。必要に応じて粗大粒子や介在物を除去するため、濾過などを行うことが好ましい。中でも、球状シリカは単分散性に優れ、突起形成を容易に制御でき、本発明の効果がより良好となるため好ましい。また必要に応じて、地肌補強の観点から一次粒径が0.005〜0.10μm、好ましくは0.01〜0.05μmのα型アルミナ、γ型アルミナ、δ型アルミナ、θ型アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタン粒子などから選ばれる不活性粒子を表面突起形成に影響を及ぼさない範囲で含有してもよい。
【0027】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、長手方向および幅方向のヤング率がいずれも5〜13GPaであることが好ましい。長手方向のヤング率が5GPaより小さい場合、テープドライブ内での長手方向への張力によって長手方向に伸び、この伸び変形により幅方向に収縮し、記録トラックずれという問題が発生しやすい。長手方向のヤング率の下限は、より好ましくは5.5GPa、さらに好ましくは6GPaである。一方、長手方向のヤング率が13GPaより大きい場合、幅方向のヤング率を好ましい範囲に制御することが難しくなり、幅方向のヤング率が不足し、エッジダメージの原因となる。長手方向のヤング率の上限は、より好ましくは12GPa、さらに好ましくは11GPaである。より好ましい範囲としては、5.5〜12GPa、さらに好ましい範囲としては6〜11GPaである。
【0028】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、幅方向のヤング率が5〜13GPaの範囲であることが好ましい。幅方向のヤング率が5GPaより小さい場合、エッジダメージの原因となったりすることがある。幅方向のヤング率の下限は、より好ましくは8GPa、さらに好ましくは10GPaである。一方、幅方向のヤング率が13GPaより大きい場合、長手方向のヤング率を好ましい範囲に制御することが難しくなる。幅方向のヤング率の上限は、より好ましくは12.5GPa、さらに好ましくは12GPaである。より好ましい範囲としては、8〜12.5GPa、さらに好ましい範囲としては10〜12GPaである。
【0029】
また、長手方向と幅方向のヤング率の比(長手/幅)は0.4〜1.0、好ましくは0.5〜0.9、さらに好ましくは0.6〜0.8である。ヤング率の比が0.4よりも小さいと、磁気テープとして十分な長手方向の強度が得られず、一方1.0よりも大きいと、エッジダメージを受けやすくなる。
【0030】
金属蒸着ポリエステルフィルムの長手及び幅方向のヤング率は、ポリエステルフィルムのヤング率、M層を構成する金属成分の種類やM層の厚み、酸化度によって制御できる。一般に、ポリエステルフィルムのヤング率を大きく、M層の厚みを厚く、更に酸化度を大きくするほど金属蒸着フィルムのヤング率は大きくなる傾向にある。逆にフィルムのヤング率を小さく、M層の厚みを薄く、更に酸化度を小さくするほど金属蒸着フィルムのヤング率は小さくなる傾向にある。
【0031】
なお、本発明において長手方向とは、一般的にMD方向といわれる方向であって、ポリエステルフィルム製造工程時の長手方向と同じ方向を指し、幅方向とは、一般的にTD方向といわれる方向であって、ポリエステルフィルム製造工程時の幅方向と同じ方向を指す。
【0032】
本発明におけるポリエステルフィルムとは、分子配向により高強度フィルムとなるポリエステルであれば特に限定しないが、主としてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートからなることが好ましい。特に好ましくはクリープ特性が良好であるポリエチレンテレフタレートである。エチレンテレフタレート以外のポリエステル共重合体成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシリレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが使用できる。
【0033】
また、本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムの厚みは、3〜6μmであることが好ましい。この厚みが3μmより小さい場合は、磁気テープにした際にテープに、こしがなくなるため、電磁変換特性が低下することがある。ポリエステルフィルムの厚みの下限は、より好ましくは3.5μm、さらに好ましくは4μmである。一方、ポリエステルフィルムの厚みが6μmより大きい場合は、テープ1巻あたりのテープ長さが短くなるため、磁気テープの小型化、高容量化が困難になる場合がある。ポリエステルフィルムの厚みの上限は、より好ましくは5.5μm、さらに好ましくは5.3μmである。より好ましい範囲としては3.5〜5.5μm、さらに好ましい範囲としては4.0〜5.3μmである。
【0034】
上記したような本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、たとえば次のように製造される。まず、金属蒸着ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムを製造する。以下、ポリエチレンテレフタレート(PET)をポリエステルとして用いた例を代表例として説明するが、本願はPETフィルムを用いた金属蒸着ポリエステルフィルムに限定されるものではない。
【0035】
ポリエステルに不活性粒子を含有させる方法としては、例えばジオール成分であるエチレングリコールに不活性粒子Iを所定割合にてスラリーの形で分散させ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加する。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加すると粒子の分散性が良好であり、滑り性、電磁変換特性を共に良好とすることができる。また粒子の水スラリーを直接所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も本発明の効果に有効である。
【0036】
このようにして準備した、粒子含有ペレットおよび粒子などを実質的に含有しないペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給し、ポリマーをフィルターにより濾過する。
【0037】
また、非常に薄い磁性層を塗布する高密度磁気記録媒体用途においては、ごく小さな異物も磁気記録欠陥であるDO(ドロップアウト)の原因となるため、フィルターには例えば1.5μm以上の異物を95%以上捕集する高精度の繊維焼結ステンレスフィルターを用いることが有効である。続いてスリット状のスリットダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。すなわち、1から3台の押出機、1から3層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば矩形合流部を有する合流ブロック)を用いて必要に応じて積層し、口金からシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。この場合、背圧の安定化および厚み変動の抑制の観点からポリマー流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置する方法は有効である。
続いて、上記未延伸フィルムを長手方向と幅方向の二軸に延伸した後、熱処理する。延伸工程は、特に限定されないが、各方向において2段階以上に分けることが好ましい。すなわち再縦、再横延伸を行う方法が高密度記録の磁気テープとして最適な高強度のフィルムが得られ易いために好ましい。
【0038】
延伸方法は同時二軸延伸であっても逐次二軸延伸であってもよい。同時二軸延伸においてはロールによる延伸を伴わないため、フィルム表面の局所的な加熱が発生せず、表面性が制御しやすいため延伸方法としてより好ましい。同時二軸延伸においては未延伸フィルムを、まず長手および幅方向に延伸温度は、例えば80〜160℃、好ましくは85〜130℃、更に好ましくは90〜110℃で同時に延伸する。延伸温度が80℃よりも低くなるとフィルムが破断しやすく、延伸温度が160℃よりも高くなると磁気記録媒体として用いた時に十分な強度が得らにくい場合がある。また、延伸ムラを防止する観点から、長手方向・横方向の合計延伸倍率は、例えば8〜30倍、好ましくは9〜25倍、更に好ましくは10〜20倍とすることが好ましい。延伸倍率が8倍よりも小さいと本発明の対象とする高密度磁気記録媒体用として必要十分な強度が得られにくい。一方、倍率が30倍よりも大きくなると、フィルムが破れ、製造が難しい場合がある。高密度磁気記録媒体に必要な強度を得るためには、必要に応じて、好ましくは温度140〜210℃、より好ましくは160〜200℃で、好ましくは、1.05〜1.8、より好ましくは1.2〜1.6倍で再度長手及び/又は幅方向に延伸を行うことが好ましい。1.05よりも小さいと十分な強度が得られない場合があり、1.8倍よりも大きいとフィルムが破れ、製造が難しい場合がある。その後、例えば180〜235℃好ましくは190〜220℃で、例えば0.5〜20秒、好ましくは1〜15秒熱固定を行う。熱固定温度が180℃よりも低いとフィルムの結晶化が進まないため構造が安定せず、蒸着時に熱収縮し、シワが発生しやすくなる。一方、235℃よりも大きくすると、ポリエステル非晶鎖部分の緩和が進み、ヤング率が小さくなるため磁気記録媒体用途として十分な強度が得られにくい。また顕微ラマン結晶化指数のばらつきを抑えるためには、フィルム上下の温度差を例えば20℃以下、好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下とすればよい。フィルム上下での温度差が20℃よりも大きいと、厚み方向での顕微ラマン結晶化指数が均一にならず、熱処理時に微小な平面性の悪化を引き起こす場合がある。
【0039】
フィルム上下の温度差を低減する方法としては特に限定されないが、温度の異なるゾーンの間に高温空気の自由な流れを抑制するシャッターなどの設備を設けることが有効である。特に、本発明のように結晶化指数のばらつきを抑えたフィルムを作成するためには、フィルムとシャッターの隙間は1〜250mm、好ましくは2〜100mm、更には3〜50mmであることが好ましい。隙間が1mmよりも小さいとフィルムがシャッターに接触し破れやすいため、製造が難しくなる。しかしながら、250mmよりも大きいと結晶化指数のばらつきが大きくなりやすい。フィルムとシャッターが接触しないようにするためには、ノズルから吹き出す風速を適宜調整することが有効である。その後、長手及び/又は幅方向に0.5〜7.0%の弛緩処理を施す。
【0040】
また、作製されたポリエステルフィルムは水分を吸湿しないように、低湿度の環境下で保存することが好ましく、輸送時などもできるだけ吸湿を防ぐような包装が好ましい。包装内の湿度は20%RH以下、好ましくは15%RH以下、さらに好ましくは10%RH以下で保持することが好ましい。ポリエステルフィルムの吸湿は蒸着時にブロッキングによるフィルム切れを発生させるばかりでなく、M層形成時に悪影響を及ぼすことがあるためである。包装内の湿度は包装材や乾燥剤の種類を変更するなど公知の方法により達成できる。
次に、上記のようにして得られたポリエステルフィルムの少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)を設ける。このとき、光学濃度ODを上述のとおりとするために、金属酸化物の膜厚と酸化状態を制御する。M層の形成方法としては物理蒸着法や化学蒸着法を用いることができる。ポリエステルフィルムへの物理蒸着法には真空蒸着法、スパッタリング法があり、特に酸化度の制御しやすさから真空蒸着法が好ましく、具体的には誘導加熱蒸着法や、金属蒸気の高エネルギー化が可能な電子ビーム蒸着法が好ましい。
【0041】
M層を構成する金属酸化物の酸化度を制御するには、基本的には金属蒸発量と酸素ガス導入量を制御する必要がある。金属蒸発量が一定であれば、酸素ガス導入量を減らせば酸化度が低くなり、酸素ガス導入量を増やせば酸化度が高くなる。逆に酸素ガス導入量が一定であれば、金属蒸発量を減らせば酸化度が高くなり、金属蒸発量を増やせば酸化度が低くなる。金属蒸発量が多いほど冷却ドラム上のポリエステルフィルムへの熱負荷は大きくなる。また、膜厚は透過度などの測定値を金属材料の加熱出力に自動的にフィードバックさせることにより制御することができる。
【0042】
このとき、酸素ガスは、図3(詳細は後述する)のように金属蒸気が流れる方向と同じ方向に供給し、かつるつぼの真横ではなく、るつぼと冷却キャンの間に供給することが好ましい。このようにすることで、酸素ガスによる金属蒸気の乱れが少なくなり、所望の厚みや酸化度に制御し易くなる。また、酸素ガスと金属蒸気の反応空間を確保することで安定した構造欠陥の少ない蒸着膜を成膜しつつ、かつ供給酸素を効率的に反応させることができる。結果として、減圧度の低下およびるつぼ温度の上昇を抑えることができ、ポリエステル表面が溶けることを防止し、引いては巻き締まりによるシワを防止することができる。冷却ドラムに近い一般的な酸素供給ノズル位置(図1の122)や、るつぼの真横の酸素供給ノズル位置(図2の222)の場合、上述のようにるつぼ温度上昇を引き起こし、巻き締まりによるシワを発生させることがある。
【0043】
本願で行う酸素供給ノズルの位置にすることにより、冷却ドラムからの距離を確保しつつ、酸素ガスをポリエステルフィルム表面に向かう金属蒸気にのみ選択的に供給することができる。これにより、減圧度低下やるつぼ温度の上昇を抑えることができ、引いてはシワを解消することができる。本願の手法は、金属酸化膜を形成する際には、反応空間を大きく取ろうとしてきた従来の思想と相反するものであり、極めて特徴のある手法である。
【0044】
なお、本発明においては、ポリエステルフィルムやそのポリエステルフィルムを用いて得られた金属蒸着ポリエステルフィルムに、必要に応じて、熱処理、マイクロ波加熱、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工、エッチング、などの任意の加工を行ってもよい。
【0045】
ポリエステルフィルム表面にM層を形成するには、たとえば図3に示すような真空蒸着装置を用いる。この真空蒸着装置311においては、真空チャンバ312の内部をポリエステルフィルムが巻出しロール部313から冷却ドラム316を経て巻取りロール部318へと走行する。そのとき、るつぼ321内の金属材料319を誘導加熱により蒸発させるとともに、酸素供給ノズル322から酸素ガスを導入し、蒸発した金属を酸化反応させながら冷却ドラム316上のポリエステルフィルムに蒸着する。このとき、金属蒸気の高エネルギー化が可能な電子ビーム蒸着法を用いてもよい。両面にM層が必要な場合、片方の表面(1面目)に金属酸化物を蒸着した後巻取りロール部318から片面蒸着ポリエステルフィルムを取り外し、それを巻出しロール部313にセットし同じように反対側の表面(2面目)に金属酸化物を蒸着してもよいし、もしくは両面を1パスで蒸着してもよい。なお、この真空蒸着装置311は、酸化度を容易に制御でき、かつ効率的に酸化反応を行わせるため、酸素供給ノズル322をるつぼ321と冷却キャンの間に図のように設置し、かつ、金属蒸気と酸素ガスとがほぼ同じ方向に流れるようにしている。
【0046】
ここで、真空チャンバ312の内部は1.0×10−8〜1.0×10Paに減圧することが好ましい。より緻密で良好なM層を形成させるために好ましくは、1.0×10−6〜1.0×10−1Paに減圧することが好ましい。1.0×10−8よりも低くすることは実用上難しく、1.0×10よりも大きいと、金属蒸気が蒸発しにくくなるため、所望の蒸着厚みを形成するためにるつぼ温度を上げる必要があり、ポリエステルフィルム表面が溶けやすくなる。
【0047】
冷却ドラム316は、その表面温度を−40〜60℃の範囲内にすることが好ましい。より好ましくは−35〜40℃、さらに好ましくは−30〜0℃である。−40℃よりも低くすることは実用上難しく、60℃よりも大きいと冷却不足となり、ポリエステルフィルム表面が溶けやすくなる。また、冷却効率をあげるため、ポリエステルフィルムを静電印加等の公知の手法により冷却キャンに密着させることも有効である。
【0048】
ルツボ内の金属材料319は、誘導加熱により加熱蒸発させてもよいし、電子ビームにより加熱させてもよい。酸素ガスは、ガス流量制御装置324を用いて0.5〜100L/minの流量で真空チャンバ312内部に導入する。より好ましくは1.5〜50L/min、さらに好ましくは2.0〜40L/minである。
【0049】
真空チャンバ312の内部におけるポリエステルフィルムの搬送速度は20〜600m/minが好ましい。より好ましくは30〜500m/min、さらに好ましくは40〜400m/minである。搬送速度が20m/minより遅い場合、上記のようなM層厚みに制御するためには金属の蒸発量および酸素量をかなり小さくする必要があり、制御が困難である。搬送速度が600m/minより速くなると、冷却ドラム上で短時間に目的の膜厚にする必要があり、フィルムへの熱負荷が大きくなるため、熱負けによる破れなどが生じやすい。
【0050】
真空チャンバ312の内部におけるポリエステルフィルムの搬送張力は40〜150N/mが好ましい。より好ましくは50〜140N/m、さらに好ましくは60〜130N/mである。フィルム幅は500〜1,200mmが好ましく、長さは5,000m〜60,000mが好ましい。フィルム幅が500mmよりも小さいと生産効率が悪く、1,200mmよりも大きいと、熱負けによる破れが発生しやすくなる。また、長さが5,000mよりも小さいと、生産効率が悪く、60,000mよりも大きいと、巻き締まりによるシワになりやすい。蒸着は片面ずつ行ってもよいし、両面を1工程で行ってもよい。
【0051】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、加工時MD方向に10mm幅換算で0.5〜1.5Nの張力がかかることが多い。そのため、ヤング率測定時のSSカーブにおける降伏点荷重は、好ましくは1.5N/10mm以上、さらに好ましくは2.0N/10mm以上である。1.5N/10mmよりも小さい場合、加工中に金属蒸着ポリエステルフィルム表面にクラックが入りやすいため好ましくない。
【0052】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、磁気記録材料、電子材料、製版フィルム、昇華型リボン、包装材料として用いた時に有用で、特に1巻で300GB以上の高容量を有する磁気記録媒体用支持体として用いた時に有用である。
【実施例】
【0053】
(物性の測定方法ならびに効果の評価方法)
本発明における特性値の測定方法並びに効果の評価方法は次の通りである。
【0054】
(1)M層の厚み
下記条件にて断面観察を行い、得られた合計9点の厚み[nm]の平均値を算出し、M層の厚み[nm]とする。
【0055】
測定装置:透過型電子顕微鏡(TEM) 日立製H−800型
測定条件:加速電圧 150kV
測定倍率:10万倍
試料調整:超薄膜切片法
測定回数:1視野につき3点、3視野を測定する。
【0056】
(2)全光線透過率
JIS−K7105(1981)に準拠し、下記測定装置を用いて測定する。5回の測定結果の平均値を本発明における全光線透過率とする。
【0057】
なお、両面に蒸着したサンプルは、両面および片面ずつの全光線透過率を測定した。表1には両面の全光線透過率を示す。また、光学濃度の算出に使用する片面ずつの全光線透過率を測定する際には、測定しない面の蒸着膜をフッ酸、あるいは塩酸で拭き取り除去する。
【0058】
測定装置:直読ヘーズメーターHGM−2DP(C光源用) スガ試験機社製
光源 :ハロゲンランプ12V、50W
受光特性:395〜745nm
測定環境:温度23℃湿度65%RH
測定回数:5回
(3)光学濃度
(1)と(2)の方法にて求められる蒸着膜厚と全光線透過率からランベルト−ベールの法則(式1)を用いて、各M層の光学濃度を別々に算出する。
【0059】
光学濃度OD[1/μm]=
−(1/蒸着厚み[μm])log(全光線透過率[%]/100) ・・・(1)
(4)顕微ラマン結晶化指数
試料をエポキシ樹脂に包埋し、ミクロトームにより断面を出した。断面はMD方向に一致させた。平面方向に異なる3ヶ所において、厚み方向に1μm毎(6μmのフィルムであれば6点、4.5μmのフィルムであれば4点)に顕微ラマン結晶化指数を測定し、同じ厚み方向位置の平均値を計算し、それらの値から平均値Icと、最大値と最小値の差(ΔIc)を計算した。1,730cm−1(カルボニル基の伸縮振動)の半値幅を顕微ラマン結晶化指数とした。
【0060】
装置 ;Jobin Yvon社製 Ramanor T-64000
測定モード ;顕微ラマン
対物レンズ ;×100
ビーム径 ;1μm
光源 ;Ar+レーザー/514.5nm
レーザーパワー ;30mW
回折格子 ;Triple 1800gr/mm
スリット ;100μm
検出器 ;CCD/Jobin Yvon 1,024×256
(5)三次元表面粗さSRa
下記条件にて三次元表面粗さSRaを測定する。3回測定し、得られた結果の平均値を本発明におけるSRaとする。
【0061】
測定装置 :小坂研究所製 三次元微細形状測定器(ET−350K)
解析装置 :三次元表面粗さ解析システム(型式TDA−22)
触針先端半径: 2μm
触針荷重 :0.04mN
測定長 : 0.5mm
送りピッチ : 5μm
測定本数 : 40本
カットオフ値:0.008mm
(6)ヤング率、および降伏点荷重の評価
JIS−K7161(1994)に準拠して測定する。なお、インストロンタイプの引張試験機を用い、条件は下記のとおりとする。5回の測定結果の平均値を本発明におけるヤング率および降伏点荷重とする。
【0062】
試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
引張り速度:200mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH
測定回数:5回測定し、平均値から算出する。
【0063】
金属蒸着ポリエステルフィルムにクラックが入ると、SSカーブに降伏点として表れる。降伏点荷重が高いことは、耐クラック性が高いことを示す。降伏点荷重の評価は次の通りとする。
【0064】
◎ ; 2.0N/10mm以上
○ ; 2.0N/10mm未満1.5N/10mm以上
× ; 1.5N/10mm未満
(7)粒子の平均粒径
蒸着前のポリエステルフィルムからポリマーをプラズマ低温灰化処理法で除去し、粒子を露出させた。処理条件は、ポリマーは灰化されるが粒子は極力ダメージを受けない条件を選択した。その粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、粒子画像をイメージアナライザで処理した。SEMの倍率はおよそ5,000〜20,000倍から適宜選択した。観察箇所をかえて粒子数5,000個以上で粒径とその体積分率から、次式で体積平均径dを得た。粒径の異なる2種類以上の粒子を含有している場合には、それぞれの粒子について同様の測定を行い、粒径を求めた。
【0065】
【数1】

【0066】
ここで、diは粒径、Nviはその体積分率である。粒子がプラズマ低温灰化処理法で大幅にダメージを受ける場合には、フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で、3,000〜100,000倍で観察した。TEMの切片厚さは約100nmとし、場所をかえて500視野以上測定し、上記式から体積平均径dを求めた。
【0067】
(8)粒子の体積形状係数
走査型電子顕微鏡で、粒子の写真を例えば5,000〜20,000倍で10視野撮影した。さらに画像解析処理装置を用いて、投影面最大径および粒子の平均体積を算出し、下記式により体積形状係数を得た。
【0068】
f = V / Dm
ここで、Vは粒子の平均体積(μm)、Dmは投影面の最大径(μm)である。
【0069】
(9)フィルム積層厚み
表面からエッチングしながらSIMS(二次イオン質量分析装置)で、粒子濃度のデプスプロファイルを測定した。片面に積層したフィルムにおける表層では、表面という空気−樹脂の界面のために粒子濃度は低く、表面から遠ざかるにつれて粒子濃度は高くなる。本発明の片面に積層したフィルムの場合は、深さ[I]で一旦極大値となった粒子濃度がまた減少し始める。この濃度分布曲線をもとに極大値の粒子濃度の1/2になる深さ[II](ここで、II>I)を積層厚さとした。
【0070】
(10)シワの評価
蒸着が終了したポリエステルフィルムロールを23℃×60%RHでで24時間放置し、ロール内層のシワ状態を確認した。
【0071】
◎◎;フリーテンションでシワのないもの
◎:フリーテンションではシワが見られ、1kg/m幅以下のテンションで消えるもの
○:1kg/m幅以下のテンションではシワが見られ、1kg/mよりも大きく3kg/m幅以下のテンションでは消えるもの
×:3kg/m幅を超えるテンションでシワが消えないもの
次の実施例に基づき、本発明の実施形態を説明する。
【0072】
(実施例1)
平均粒径0.10μm、体積形状係数f=0.51の球状シリカ粒子を含有するポリエチレンテレフタレートと実質上粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートのペレットを作り、球状シリカ粒子の含有量が0.2重量%となるよう2種のペレットを混合することにより熱可塑性樹脂Aを調製した。また、平均粒径0.3μm、体積形状係数f=0.52のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を含有するポリエチレンテレフタレートと、平均粒径0.8μm、体積形状係数f=0.52のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を含有するポリエチレンテレフタレート、および実質上粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートのペレットを、0.3μmの粒子含有量が0.26重量%、0.8μmの粒子含有量が0.01重量%となるよう混合した熱可塑性樹脂Bを調製した。これらの熱可塑性樹脂をそれぞれ160℃で8時間減圧乾燥した後、別々の押出機に供給し、275℃で溶融押出して高精度濾過した後、矩形の2層用合流ブロックで合流積層し、2層積層とした。その後、295℃に保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付け冷却固化し、未延伸積層フィルムを得た。この未延伸積層フィルムをリニアモーター式の同時二軸延伸機により95℃で長手及び幅方向にそれぞれ3.5倍、トータルで12.3倍延伸しその後、再度190℃で長手方向に1.2倍、幅方向に1.4倍延伸し、定長下、205℃で3秒間熱処理した。フィルムとシャッターの距離を20mm、フィルム上下の温度差を1℃とした。その後幅方向に2%の弛緩処理を施し、全厚み5.0μm、層(B)の厚み0.5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。長手方向のヤング率は5GPa、幅方向のヤング率は7GPa、三次元表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が10nm、結晶化指数Icは、16.0cm−1であり、厚み方向のばらつきは、0.5cm−1であった。得られたポリエステルフィルムロールは、23℃×10%RHで保管した。
【0073】
次に、図3に示す真空蒸着装置311の巻出しロール部313に得られたポリエステルフィルムをセットし、1.5×10−3Paの減圧度にした後に、−20℃の冷却ドラム316を介してポリエステルフィルムを搬送速度40m/min、搬送張力100Nで走行させた。このとき、99.99重量%のアルミニウムを誘導加熱で加熱蒸発させ、酸素供給ノズル324から酸素ガスを4L/minとして金属蒸気と同じ方向に供給した。厚み方向の顕微ラマン結晶化指数Icのばらつきが小さくなるように、蒸発源であるるつぼ323と冷却キャンの間に酸素ノズルを設置した。図3に示すように冷却ドラム上のポリエステルフィルムに向かうAl蒸気に向けて酸素を供給し、マスクへ向かうAl蒸気には消費されないようにした。膜厚100nm、光学濃度OD 1.3の蒸着膜をフィルムのB面側の上に形成して巻取った。膜厚は透過度を金属材料の加熱出力に自動的にフィードバックさせることにより制御した。次にフィルムのA面側の上に同様に膜厚100nm、光学濃度OD1.3の蒸着膜を設け、1,000mm幅で長さ10,000mの金属蒸着ポリエステルフィルムロールを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの三次元表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が10nmであった。特性は表1の通りであり、巻き締まりによるシワもなかった。
【0074】
(実施例2)
蒸着工程で蒸着膜厚を60nm、A面及びB面の光学濃度を2.5となるよう酸素流量を調整する以外は、実施例1と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの特性は表1の通りであり、巻き締まりによるシワもなかった。
【0075】
(実施例3)
蒸着工程で蒸着膜厚を100nm、A面の光学濃度を5.6、B面の光学濃度を2.7となるよう酸素流量を調整する以外は、実施例1と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの特性は表1の通りであり、巻き締まりによるシワがあったが、3kg/m幅の張力で消えるレベルであった。
【0076】
(実施例4)
F層の厚みを5.5μm、熱処理温度を変更して蒸着前のポリエステルフィルムのIcを17.0cm−1とし、蒸着工程で蒸着膜厚を60nm、A面及びB面の光学濃度を2.1とするよう酸素流量を調整する以外は、実施例1と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの特性は表1の通りであり、巻き締まりによるシワがあったが、3kg/m幅の張力で消えるレベルであった。
【0077】
(実施例5)
F層の厚みを4.5μm、蒸着工程で蒸着膜厚を60nm、A面の光学濃度を2.5とするよう酸素流量を調整し、A面のみ蒸着する以外は、実施例1と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの特性は表1の通りであり、巻き締まりによるシワがあったが、1kg/m幅の張力で消えるレベルであった。
【0078】
(比較例1)
蒸着工程で酸素供給位置を図2のようにるつぼ真横とする以外は、実施例1と同様にして金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの特性は表1の通りであり、巻き締まりによるシワがあり、3kg/m幅の張力でも消えないレベルであった。
【0079】
(比較例2)
蒸着工程で酸素供給位置を図1のように冷却キャンの横とする以外は、実施例2と同様にして金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの特性は表1の通りであり、巻き締まりによるシワがあり、3kg/m幅の張力でも消えないレベルであった。
【0080】
(比較例3)
蒸着工程で蒸着膜厚を30nm、光学濃度を0.4となるよう酸素流量を調整する以外は実施例1と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの特性は表1の通りであり、巻き締まりによるシワがあり、1kg/m幅の張力で消えるレベルであったが、降伏点荷重が低く、加工中にクラックが入りやすくかった。
【0081】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】従来の金属蒸着ポリエステルフィルムを製造する際に用いられる真空蒸着装置の概略模式図である。
【図2】従来の金属蒸着ポリエステルフィルムを製造する際に用いられる真空蒸着装置の概略模式図である。
【図3】本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムを製造する際に用いられる真空蒸着装置の概略模式図である。
【符号の説明】
【0083】
111:真空蒸着装置
112:真空チャンバ
113:巻出しロール部
114:ポリエステルフィルム
115:ガイドロール
116:冷却ドラム
117:蒸着チャンバ
118:巻取りロール部
119:金属材料
120:酸素ガスボンベ
121:るつぼ
122:酸素供給ノズル
124:マスク
125:ガス流量制御装置
211:真空蒸着装置
212:真空チャンバ
213:巻出しロール部
214:ポリエステルフィルム
215:ガイドロール
216:冷却ドラム
217:蒸着チャンバ
218:巻取りロール部
219:金属材料
220:酸素ガスボンベ
221:るつぼ
222:酸素供給ノズル
223:マスク
224:ガス流量制御装置
311:真空蒸着装置
312:真空チャンバ
313:巻出しロール部
314:ポリエステルフィルム
315:ガイドロール
316:冷却ドラム
317:蒸着チャンバ
318:巻取りロール部
319:金属材料
320:酸素ガスボンベ
321:るつぼ
322:酸素供給ノズル
323:マスク
324:ガス流量制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルム層(F層)の少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)を設けた金属蒸着ポリエステルフィルムであって、F層における厚み方向の顕微ラマン結晶化指数Icが10〜20cm−1、厚み方向のIcのばらつきが2cm−1以下であり、かつM層の光学濃度ODが0.5〜8.0である金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項2】
M層の厚みが10〜200nmである、請求項1に記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項3】
F層の厚みが3〜6μmである、請求項1または2に記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項4】
長手および幅方向のヤング率がいずれも5〜13GPaであり、かつ長手方向と幅方向のヤング率の比(長手方向/幅方向)が0.4〜1.0である、請求項1〜3のいずれかに記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項5】
M層がAl元素を含んでいる、請求項1〜4のいずれかに記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項6】
F層の両面にM層を設けてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項7】
磁気記録媒体用支持体として用いる、請求項1〜6のいずれかに記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−200862(P2008−200862A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35856(P2007−35856)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】