説明

金属薄肉成形体並びにその鍛造成形加工方法及び装置

【課題】本発明は、鍛造押出し加工によりひけ等の欠陥を生じることなく一体成形された突起部を表面に有すると共に成形された突起部に十分な強度を備える金属薄肉成形体並びにその鍛造成形加工方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【解決手段】上型100の押圧面部106により金属薄肉成形体Mの周辺部に所定の圧力を加えた状態で、パンチ部108が圧下されて加工面108cに荷重が加えられて鍛造押出し加工されると、周辺部には圧力が加えられているため、外方への流動が抑制されて内方に向かって流動し誘導孔108bに誘導される。誘導孔108b内では背圧ピン109の圧接面109bから所定の荷重が加えられて誘導孔108b内への流入を抑制するように作用するが、加えられた荷重に抗して金属が流動していき背圧ピン109が押し上げられて突起部形成領域に所定の高さのボスが形成されるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に突起部が鍛造押出し加工により一体成形された金属薄肉成形体及びその鍛造成形加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
板状体、筐体又は容器といった金属薄肉成形体には、電子回路基板等の他の部品を取り付けたり、蓋体等の部材を結合するためのボスや強度を高めるためのリブといった突起部を表面に形成する必要がある。こうした突起部は、本体と共に一体成形することが望ましいが、一体成形の際に亀裂やひけといった欠陥が生じやすく、十分な強度を備えた突起部を成形するのが難しいという問題がある。
【0003】
こうした問題に対処するため、例えば、特許文献1では、板厚3mm以下のマグネシウム合金製薄板素材を、壁部の立ち上がり内側角部および/または外側角部の面取りまたは半径が1mm以下、ポンチまたはダイに窪み部分を有した金型を用い、素材温度200〜540℃で、成形荷重1〜30ton/cm2 、鍛造速度1〜500mm/秒、圧下率75%以下で荒鍛造した後、圧下率30%以下で仕上鍛造し、主要部肉厚1.5mm以下にする点が記載されている。また、特許文献2では、対向するダイとパンチとの間に素板材を配置し、ダイの対向面にパンチの対向面を押圧して、塑性加工によりダイの対向面に形成した凹部に素板材の一部を塑性流動させて凸部を形成する凸部の成形方法において、形成すべき凸部の周囲の素板材を押圧、又は更に形成すべき凸部の裏面に突出部を設けこの突出部も押圧して、形成すべき凸部に向けて素板材の一部に塑性流動を与え、凸部を形成する点が記載されている。また、特許文献3では、マグネシウム合金板材に、その厚さ方向の荷重を印加して、凸部を形成する工程を有するマグネシウム合金部品の製造方法において、板材表面の凸部を形成しようとする領域近傍における合金材料の流動性をその裏面近傍における合金材料の流動性よりも大きくなるようにした点が記載されている。
【特許文献1】特開2001−170734号公報
【特許文献2】特開2002−273540号公報
【特許文献3】特開2004−337935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、荒鍛造した後仕上鍛造を行うため工程数増加すると共に工程が複雑になり、金型にはボス部に対応する窪みが形成されているのみであるので、ボス部を形成する際のひけの問題に確実に対応するものではない。また、特許文献2では、成形する凸部の周囲や裏面に窪みが形成されるため強度が低下し、ボス部の場合には折損するおそれがある。また、特許文献3では、金型と素材との間の摩擦係数の設定等のように流動性の設定が難しく確実にひけが防止されるとは限らない。
【0005】
そこで、本発明は、鍛造押出し加工によりひけ等の欠陥を生じることなく一体成形された突起部を表面に有すると共に成形された突起部に十分な強度を備える金属薄肉成形体並びにその鍛造成形加工方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る金属薄肉成形体は、鍛造押出し加工により一体成形された突起部が表面に立設された金属薄肉成形体であって、突起部を形成した押出し加工領域に複数のリブが一体成形されていることを特徴とする。さらに、前記リブは、前記突起部の根元部分から放射状に延設されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る金属薄肉成形体の鍛造成形加工方法は、金属薄肉成形体の被加工面に設定された突起部形成領域を囲む押出し加工領域及び当該押出し加工領域を囲む押圧領域を設定し、押圧領域全体に所定の圧力を加えた状態で、突起部形成領域に向かう複数の溝が形成された加工面により押出し加工領域を圧下して、突起部形成領域上に形成された誘導空間へ流動金属を誘導するとともに当該流動金属に対して所定の荷重を加えることを特徴とする。さらに、温間鍛造の温度領域で行われることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る金属薄肉成形体の鍛造成形加工装置は、突起部を形成するための誘導空間を内部に形成するとともに当該誘導空間に向かう複数の溝が加工面に形成されたパンチ部と、前記誘導空間内に配設されるとともに金属薄肉成形体の被加工面において前記誘導空間に面して画定される突起部形成領域に当接する背圧部材と、前記パンチ部を囲むように配設されるとともに金属薄肉成形体の被加工面の所定範囲に画定される押圧領域に当接する押圧部材とを備えた上型と、前記パンチ部及び前記押圧部材に対向して配設されるダイ部を備えた下型と、前記上型及び下型を相対的に移動させて前記パンチ部及び前記ダイ部の間に押出し加工荷重を加える加工荷重印加手段と、前記背圧部材を突起部形成領域に圧接させて所定の圧力を加える背圧印加手段と、前記押圧部材を押圧領域に圧接させて所定の圧力を加える押圧印加手段とを備えていることを特徴とする。さらに、前記上型及び前記下型には、前記金属薄肉成形体を加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る金属薄肉成形体は、上記のような構成を備えることで、鍛造押出し加工により一体成形されているので、欠陥のない十分な強度を有する突起部に成形することができ、また、鍛造押出し加工された領域は加工によりさらに薄肉になるが、複数のリブを一体成形しているので、強度の低下を抑えることができる。また、リブを突起部の根元部分から放射状に延設するように形成することで、例えばボスのように細長い柱状の突起部の場合には、その根元部分に応力が集中しやすいが、その部分の強度を高めることができる。
【0010】
本発明に係る鍛造成形加工方法は、突起部形成領域を囲む押出し加工領域において部分的に鍛造押出し加工を行うことで突起部を一体成形することができる。その際に押出し加工領域を囲む押圧領域に所定の圧力を加えて流動金属を突起部形成領域に向かって集中するようにしているため、効率よく突起部が成形されるようになる。また、突起部形成領域に向かう複数の溝が形成された加工面により押出し加工領域を圧下して加工を行うようにしているので、誘導空間内に流入する流動金属の流れが調整されるととも誘導空間内の流動金属に対して所定の荷重を加えることで裏面にひけを生じることがなくなり、さらに押圧加工領域に加工面の溝によるリブを一体成形することができる。
【0011】
また、温間鍛造の温度領域で鍛造押出し加工を行うことで、マグネシウム合金材料等の常温では鍛造押出し加工が困難な材料についても容易に鍛造成形加工できる。
【0012】
本発明に係る鍛造成形加工装置は、上型にパンチ部、背圧部材及び押圧部材を備えているので、1回の押圧加工により突起部をひけ等の欠陥を生じることなく鍛造成形加工することができる。すなわち、上型の1回のプレス動作で、押圧部材により所定の圧力を加えた状態でパンチ部を鍛造押出し加工動作させながら背圧部材に所定の荷重を加えるといった一連の動作を行うことができ、効率よく欠陥のない突起部を一体成形することが可能となる。
【0013】
また、上型及び下型に金属薄板を加熱する加熱手段を設けることで、金属薄板を上型及び下型の間にセットすれば、金属薄板を温間鍛造の温度領域に安定した状態で維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明に係る鍛造成形加工装置に関する概略構成図である。この例では、鍛造成形加工装置としてサーボプレス1を用いている。サーボプレス1は、クランク機構、エキセン機構、リンク機構等の駆動力伝達機構が内蔵されたクラウン2と、クラウン2内の駆動力伝達機構にプランジャ4を介して連結されたスライド3と、ボルスタ6が取り付けられたベッド7と、ベッド7の上面に立設されてクラウン2を支持するアプライト8とを備えている。そして、スライド3の下面には上型100が取付固定されており、ボルスタ6の上面には下型200が取付固定されている。
【0016】
図2は、サーボプレス1の動作制御に関する概略構成図である。スライド3は、サーボモータ9により駆動されるスライド駆動部5により上下方向に移動制御されるようになっており、コントローラ10からの駆動制御信号によりサーボモータ9の回転駆動制御が行われてスライド3の位置調整が行われる。サーボプレス1は、スライド3の下死点位置補正装置が設けられており、コントローラ10は、スライド位置検知器11からの検知信号に基づいて位置調整モータ12を回転駆動して位置調整機構13を動作させて位置補正を行うようになっている。
【0017】
上述のサーボプレス1では、サーボモータ9によりスライド3の位置制御を精密に行えるため、後述するように上型及び下型に加熱手段を取り付けて上型及び下型を金属薄板に接触させた位置に調整して加熱することができるようになり、加熱工程からプレス工程を1台の装置で連続して行うことが可能となる。したがって、高効率で低コストの鍛造成形加工が実現できる。
【0018】
図3は、上型100及び下型200に関する概略構成図である。図3では、スライド3に固定された上型100が下方に移動して下型200に圧着したプレス状態を示している。
【0019】
上型100は、スライド3の下面に取付固定されるベース101と、ベース101の下面に断熱板Tを介して固定される取付基台102と、取付基台102の下面に断熱板Tを介して固定される保持部103と、保持部103内に上下動可能に収容された押圧基部104と、押圧基部104内に配設された棒状のヒータからなる加熱部105と、押圧基部104の下端部の押圧面部106とを備えている。
【0020】
押圧基部104の上部には、圧縮バネ部材107を収容する複数の孔部が形成されており、収容された圧縮バネ部材107の上端部が保持部103の上面の断熱板Tに固定され、下端部が孔部の底面に固定されて、押圧基部104は、圧縮バネ部材107に支持されるとともに下方に付勢されるようになっている。
【0021】
取付基台102の中央部分には大径の取付孔102aが穿設され、押圧基部104、加熱部105及び押圧面部106の中央部分には上下方向に貫通孔104aが穿設されており、パンチ部108は、その基部が取付孔102a内に収容され、基部の下面から下方に延設された加工部108aが貫通孔104a内に挿着されている。パンチ部108の上面にはリング状の押え部111が当接しており、押え部111の上面には、ベース101に穿設された固定ネジ孔に固定ネジ部110がネジ止めされている。そのため、パンチ部108は、固定ネジ部110により押え部111を介して取付基台102内に固定されている。
【0022】
パンチ部108の中心には基部から加工部にかけて上下方向に誘導孔108bが穿設されており、誘導孔108b内に棒状の背圧ピン109が挿着されている。パンチ部108の加工部108aの下面には加工面108cが形成されており、背圧ピン109の下面は圧接面109bが形成されている。
【0023】
背圧ピン109の上部には、押え部111内にフランジ部109aが形成されており、背圧ピン109は、パンチ部108の上面にフランジ部109aにより保持されている。背圧ピン109の上方には、固定ネジ部110の中心部に穿設された貫通孔に背圧ロッド112が収容されており、その下面が押え部113の上面に当接し押え部113の下面がフランジ部109aの上面に当接している。したがって、背圧ピン109は、背圧ロッド112及び押え部113と共に各貫通孔内を上下動可能となっている。
【0024】
背圧ロッド112の上方には図示せぬ油圧シリンダが配設されており、背圧ロッド112の上面に所定の圧力の油圧が加えられるようになっている。
【0025】
図4は、加工面108cの形状の一例を示す平面図(図4(a))及び斜視図(図4(b))である。この例では、金属薄肉成形体Mとして円板状の金属板状体の中心部にボスを鍛造成形加工するための加工面を示している。加工面108cは、円柱状の加工部108aの先端においてその軸方向と直交する円形の平面で、その中心部に円筒状の誘導孔108bが穿設され、誘導孔108bから放射状に延設された4つの溝108dが形成されている。溝108dの幅及び深さや溝の本数は、鍛造成形加工する金属薄肉成形体Mの加工特性に応じて適宜設定すればよい。また、加工面108cの平面形状についても誘導孔108bに向かってテーパ状に傾斜する円錐面状に形成してもよい。
【0026】
下型200は、ボルスタ6の上面に取付固定されるベース201と、ベース201の上面に固定された取付基台202と、取付基台202の上面に断熱板Tを介して固定されたダイ部203と、ダイ部203内に配設された棒状のヒータからなる加熱部204と、ダイ部203の上面のほぼ中央部分には、パンチ部108の加工面108c及び背圧ピン109の圧接面109bに対向して載置台205が突設されている。
【0027】
そして、載置台205の外周に密着するようにリング型206が嵌合しており、リング型206の高さは、載置台205の上面よりも高く設定されている。金属薄肉成形体Mを載置台205にセットする場合には、予め金属薄肉成形体Mの平面視形状に一致するように載置台205の上面形状を設定しておき、金属薄肉成形体Mの上面とリング型206の上面が一致するように、載置台205の上面に適宜スペーサを挿入する。こうして、金属薄肉成形体Mの上面以外は、載置台205及びリング型206に密着した状態にセットされる。なお、金属薄肉成形体Mをセットする際には、金属薄肉成形体Mの表面全体に潤滑剤を塗布しておくとよい。
【0028】
図5は、鍛造成形加工工程に関する説明図である。まず、図5(a)に示すように、上型100を上昇した位置に移動させておき、リング型206に囲まれた載置台205上の載置スペースに金属薄肉成形体Mをセットする。この状態では、上型100の押圧基部104が圧縮バネ部材107により付勢されて下方の位置に保持されており、押圧面部106の下面は、パンチ部108の加工面108c及び背圧ピン109の圧接面109bとほぼ面一となるように設定されている。また、載置された金属薄肉成形体Mの上面は、リング型206の上面とほぼ面一となるように設定されている。金属薄肉成形体Mを加熱する場合には、予め加熱部105及び204を加熱状態にしておく。
【0029】
次に、図5(b)に示すように、上型100を下方に移動して、押圧面部106が金属薄肉成形体Mの上面に接触した位置にセットする。この状態では、押圧基部104が圧縮バネ部材107により付勢されているため、押圧面部106が金属薄肉成形体Mの上面に圧接されて所定の圧力Pが加えられた状態となる。また、金属薄肉成形体Mは、上面全体に押圧面部106、加工面108c及び圧接面109bが密着し、底面全体に載置台205が密着し、側面全体にリング型206が密着した状態となって、密閉された状態となる。この状態を保持することで、加熱部105及び204からの熱により金属薄肉成形体M全体が均一に所定温度となるように加熱される。温間鍛造などのように予め金属薄板を成形温度に設定する必要がある場合には、こうして上型及び下型で予め金属薄板を加熱することができ、効率的に加工を行うことが可能となる。冷間鍛造を行う場合には、こうした加熱工程は省略して鍛造押出し加工を行うようにすればよい。
【0030】
所定温度に金属薄肉成形体Mを加熱した後、図5(c)に示すように、背圧ロッド112に油圧が加えられて背圧ピン109が下方に押圧されるとともに上型100及び下型200の間に鍛造押出し加工に必要な荷重が加えられてパンチ部108が下方に圧下される。
【0031】
図6は、鍛造押出し加工が行われている状態を示している。金属薄肉成形体Mの上面は、図7に示すように、押圧面部106に対向する押圧領域S1、加工面108cに対向する押出し加工領域S2及び誘導孔108bに対向する突起部形成領域S3がそれぞれ同心円状に画定される。
【0032】
押圧面部106により金属薄肉成形体Mの周辺部の押圧領域S1に所定の圧力Pが加えられた状態で、パンチ部108が圧下されて加工面108cに荷重Fが加えられて金属薄肉成形体Mの押出し加工領域S2が鍛造押出し加工されると、押出し加工領域S2の金属が外方及び内方に向かって流動するようになるが、周辺部には所定の圧力Pが加えられているため、外方への流動が抑制されて内方に向かって流動し突起部形成領域S3に集中するように誘導される。その際に、加工面108cに溝108dが形成されているため、溝108dを経由した流動も併せて生じるようになる。また、誘導孔108b内では背圧ピン109の圧接面109bから所定の荷重が加えられて誘導孔108b内への流入を抑制するように作用するが、加えられた荷重に抗して金属が流動していき背圧ピン109が押し上げられて突起部形成領域S3に所定の高さのボスが形成されるようになる。
【0033】
図8は、鍛造成形加工後の金属薄肉成形体Mの形状を示す平面図(図8(a))及びA−A断面図(図8(b))である。金属薄肉成形体Mの中心部には、所定の高さのボスM1が立設されており、その周囲には鍛造押出し加工により薄肉となった円形状の段差部M2が形成されている。そして、段差部M2内にボスM1の根元部分から放射状に延設されたリブM3が盛り上がるように形成されている。このように鍛造押出し加工により薄肉に形成された部分にリブを形成することで、加工部分の強度低下を抑えることができる。また、ボスM1の根元部分から放射状にリブが延設されているので、応力が集中しやすいボスM1の根元部分が強化されるようになる。
【0034】
以上のようなボスの鍛造成形加工において、金属薄肉成形体Mの被加工面とは反対側の面にひけが生じるのは、押出し加工領域S2から誘導孔108b内に向かって生じる金属の流動と考えられるが、本発明では、加工面108cに形成された溝108dにより誘導孔108bに向かう流動を溝108dへの流動に分散するとともに背圧ピン109により加えられる荷重により誘導孔108bへの流入を抑制することで、誘導孔108b内に向かう金属の流動をひけが生じない程度に弱めることができる。
【0035】
以上説明した実施形態では、円板状の金属薄肉成形体Mを用いているが、容器や筐体に予め成形された金属薄肉成形体の底面にボス等の突起部を形成する鍛造成形加工に使用することもできる。また、金属薄肉成形体の材料としては、ステンレス鋼材料、アルミニウム及びその合金材料、マグネシウム合金材料、銅及びその合金材料、チタン及びその合金材料等が挙げられる。アルミニウム及びその合金材料の場合には、常温で鍛造押出し加工が可能なことから、加熱工程は不要となる。マグネシウム合金材料の場合には、材料を加熱して温間鍛造で鍛造押出し加工を行うようにすればよい。
【実施例】
【0036】
金属薄肉成形体として、マグネシウム合金材料(ASTM規格;AZ31B)からなり、厚さ1.2mm、直径21mmの円板状に形成されたものを用いた。サーボプレス(コマツ産機株式会社製、H1F45;プレス能力45tonf、最大加工速度530mm/秒)を使用し、図3に示す上型及び下型を取り付けて鍛造成形加工を行った。押圧領域に加えられるバネ荷重は638Nに設定し、背圧ピンに加える荷重は、124MPaに設定した。上型は、鍛造加工速度106mm/秒で圧下した。
【0037】
金属薄肉成形体は、上型及び下型の間に10秒間保持することで加熱した。加熱温度は、350℃に設定した。温度の測定は、金属薄肉成形体表面の温度を赤外線サーモグラフィを用いて確認した。
【0038】
図4に示すような加工面を有するパンチ部を使用し、加工面の直径は6.5mmで、誘導孔の直径は2mmとし、溝幅は2mmで溝の深さを0.2mmに設定した。また、この加工面にさらにテーパ状に傾斜させた(中心に向かうテーパ角が2度)パンチ部も使用した。比較例として、溝のない平面状の加工面を有するパンチ部及び溝がなくテーパ状に傾斜させた(中心に向かうテーパ角が2度)加工面を有するパンチ部を用いた加工も行った。
【0039】
パンチ部の圧下率R(%)を、金属薄肉成形体の加工前の厚さt0及び加工後の押出し加工領域の厚さtを用いて以下のとおり定義し、0〜60%に変化させて行った。
R=(t0−t)/t0×100
【0040】
実験結果を図9及び図10に示す。図9は、横軸に圧下率R(%)、縦軸にボスの高さh(mm)をとっている。ボスの高さhは、加工後の金属薄肉成形体の上面を3次元形状測定器で測定して、押出し加工領域の上面からのボスの高さを算出した。図9をみると、いずれのパンチ部を用いても成形されるボスの高さはほぼ同じであり、リブが形成されてもボスの高さへの影響は小さい。
【0041】
図10は、横軸に圧下率R(%)、縦軸にひけの直径d(mm)をとっている。ひけの直径は、加工後の金属薄肉成形体の底面を3次元形状測定器で測定して、ひけ部分の幅を算出した。図10をみると、リブを形成した場合にはひけが発生しておらず、欠陥のない鍛造成形加工が行われたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、携帯端末、携帯電話、デジタルカメラ等の小型電子機器の筐体構造のように内部にボスやリブといった突起部を形成する場合に好適であり、薄肉部分に十分な強度を備えた突起部を成形できることから、軽量で十分な強度を有する優れた筐体を鍛造成形加工することができる。また、複写機やプリンタといった精密機器に用いることで、寸法精度の高い部品を鍛造成形加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る鍛造成形加工装置に関する概略構成図である。
【図2】サーボプレスの動作制御に関する概略構成図である。
【図3】上型及び下型に関する概略構成図である。
【図4】パンチ部の加工面に関する平面図及び斜視図である。
【図5】上型及び下型による金属薄板の鍛造押出し加工に関する説明図である。
【図6】鍛造押出し加工が行われる部分の一部拡大図である。
【図7】金属薄肉成形体の上面に関する領域を示す平面図である。
【図8】成形した金属薄肉成形体に関する平面図及びA−A断面図である。
【図9】圧下率Rを変化させた場合のボスの高さhの変化を示すグラフである。
【図10】圧下率Rを変化させた場合のひけの直径dの変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 サーボプレス
100 上型
106 押圧面部
107 圧縮バネ部材
108 パンチ部
109 背圧ピン
200 下型
203 ダイ部
205 載置台
206 リング型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造押出し加工により一体成形された突起部が表面に立設された金属薄肉成形体であって、突起部を形成した押出し加工領域に複数のリブが一体成形されていることを特徴とする金属薄肉成形体。
【請求項2】
前記リブは、前記突起部の根元部分から放射状に延設されていることを特徴とする請求項1に記載の金属薄肉成形体。
【請求項3】
金属薄肉成形体の被加工面に設定された突起部形成領域を囲む押出し加工領域及び当該押出し加工領域を囲む押圧領域を設定し、押圧領域全体に所定の圧力を加えた状態で、突起部形成領域に向かう複数の溝が形成された加工面により押出し加工領域を圧下して、突起部形成領域上に形成された誘導空間へ流動金属を誘導するとともに当該流動金属に対して所定の荷重を加えることを特徴とする金属薄肉成形体の鍛造成形加工方法。
【請求項4】
温間鍛造の温度領域で行われることを特徴とする請求項3に記載の鍛造成形加工方法。
【請求項5】
突起部を形成するための誘導空間を内部に形成するとともに当該誘導空間に向かう複数の溝が加工面に形成されたパンチ部と、前記誘導空間内に配設されるとともに金属薄肉成形体の被加工面において前記誘導空間に面して画定される突起部形成領域に当接する背圧部材と、前記パンチ部を囲むように配設されるとともに金属薄肉成形体の被加工面の所定範囲に画定される押圧領域に当接する押圧部材とを備えた上型と、
前記パンチ部及び前記押圧部材に対向して配設されるダイ部を備えた下型と、
前記上型及び下型を相対的に移動させて前記パンチ部及び前記ダイ部の間に押出し加工荷重を加える加工荷重印加手段と、
前記背圧部材を突起部形成領域に圧接させて所定の圧力を加える背圧印加手段と、
前記押圧部材を押圧領域に圧接させて所定の圧力を加える押圧印加手段と
を備えていることを特徴とする金属薄肉成形体の鍛造成形加工装置。
【請求項6】
前記上型及び前記下型には、前記金属薄肉成形体を加熱する加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の鍛造成形加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−36700(P2008−36700A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217582(P2006−217582)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成17年度 博士前期課程 公聴会 主催者名 国立大学法人福井大学 開催日 平成18年2月16日 発行者名 国立大学法人福井大学 刊行物名 2005年度(平成17年度)学位論文要旨集 発行年月日 平成18年2月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度経済産業省近畿経済産業局「地域申請コンソーシアム研究開発事業(マグネシウム合金製携帯電子機器製造のための超精密複合鍛造技術の開発)に係る委託契約に基づく研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける出願
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(391015638)アイテック株式会社 (16)
【出願人】(594054782)株式会社西村金属 (5)
【Fターム(参考)】