説明

金属表面洗浄防錆方法とそのシステム

【課題】金属加工後の加工屑や加工油の洗浄と表面防錆方法とその装置に関し、金属加工現場でアルカリイオン水を用いて洗浄と防錆を同時に行うための方法と、そのシステムを提供する。
【解決手段】金属材料又は金属加工部品を洗浄するための洗浄水を収容する洗浄槽と、電解槽中にイオン交換隔膜を介して対向する正・負電極を設けて、所定のpH値のイオン水を生成するイオン水生成装置とを備え、前記洗浄槽内における金属材料又は金属加工部品の少なくとも洗浄工程時間中に、その洗浄水を汲み上げ、次にその洗浄水を前記イオン水生成装置へ流入させ、そのイオン水生成装置により流入水をpH値12以上の高pHにイオン化したイオン水を生成させ、次にその生成イオン水を前記洗浄槽へ戻し、前記金属材料または金属加工部品の表面を生成イオン水により所定時間以上洗浄することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工後の加工屑や加工油の洗浄と表面防錆方法とその装置に関し、金属加工現場でアルカリイオン水を用いて洗浄と防錆を同時に行うための方法と、そのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属表面の洗浄は、塗装の前処理工程として必須であった。また、メッキ加工においても必ず行われていた。機械加工では、切削油や一般的な汚れ以外にも金属粉などの洗浄が行われていた。さらに、圧延では酸化膜の除去の他、圧延油や防錆油や金属粉などの固体汚れの洗浄が行われていた。
【0003】
金属加工後の洗浄は、切削屑と切削油を除去する脱脂洗浄が行われ、その後に防錆油を表面塗布し発錆防止した上で次の工程に送られていた。このとき脱脂洗浄液として揮発油系薬剤や、トリクロロエチレン、フロンなどが用いられていたがこれらの薬剤は地球温暖化物質の使用禁止に伴い利用ができなくなってきている。また、合成界面活性剤や、リン系の防錆剤が使用されているが、廃液が分解されにくく自然環境を汚染する問題がある。
【0004】
また、特許文献1には、各種機械要素部品に付着した工作油や切粉を除去する洗浄方法及びその作業に用いる装置が開示されている。この発明によれば、従来脱脂槽、水洗槽、防錆槽、乾燥槽を順次運搬しながらどぶ漬け処理で行っていた作業方法の欠点を解決するもので、前工程の処理液により、次の工程の処理液が汚染されて短期間に各槽の処理液が劣化し、交換をしなければならない問題を解決するものであった。
【0005】
このため、特許文献1では、すべての処理で被洗浄物を内容にした収容網籠自体を旋回させるが、旋回させながらそれぞれ洗浄剤、水、防錆剤を噴霧して遠心力により振り切ると共に、最終的に熱風を吹き付け乾燥する方法、およびその装置であった。
【0006】
しかしながら、洗浄剤、防錆剤の使用に伴って発生する各種の問題の解決はなされていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−99803号公報(第2、3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前述の問題に鑑みてなされたものであり、後処理に問題を残す洗浄剤や防錆剤などを使用することなく、金属加工場でアルカリイオン水を用いて洗浄と防錆を同時に行うための方法とそのステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の金属表面洗浄防錆方法は、金属材料又は金属加工部品を洗浄するための洗浄水を収容する洗浄槽と、電解槽中にイオン交換隔膜を介して対向する正・負電極を設けて、所定のpH値のイオン水を生成するイオン水生成装置とを備え、
前記洗浄槽内における金属材料又は金属加工部品の少なくとも洗浄工程時間中に、その洗浄水を汲み上げ、次にその洗浄水を前記イオン水生成装置へ流入させ、そのイオン水生成装置により流入水をpH値12以上の高pHにイオン化したイオン水を生成させ、次にその生成イオン水を前記洗浄槽へ戻し、
前記金属材料または金属加工部品の表面を、前記生成イオン水により所定時間以上洗浄することを特徴とする。
【0010】
また、前記イオン水は、アルカリイオン水であり、圧延油、防錆油等の油脂及び酸化皮膜、金属粉などの付着物を除去し、その表面に防錆効果のある皮膜を形成させることを特徴とする。
【0011】
また、前記洗浄槽は、脱脂及び金属粉等の付着物を除去洗浄する第1の洗浄槽と、金属表面に珪酸塩として防錆皮膜を作らせる第2の洗浄槽とからなり、
さらに、前記電解槽のイオン交換隔膜はセラミック又はセラミック混入樹脂バインダー層隔膜からなり、
先ず第1の洗浄槽で金属表面をアルカリイオン水で洗浄する第1の洗浄工程を行い、次に、第2の洗浄槽で金属表面にアルカリイオン水で防錆皮膜を形成させる第2の洗浄工程を行い、
それらの第1、第2洗浄工程作業中を含む所定時間中に第2の洗浄槽のアルカリイオン水を汲み上げ前記イオン水生成装置に流入させ、そこで前記所定のpH値に改質させると共に、第2の洗浄槽で汲み上げたアルカリイオン水を第1の洗浄槽へ供給し、
第1の洗浄槽には、更に、その槽内のアルカリイオン水を振動させるための超音波発生装置又はエアーバブリング装置を設け、
前記アルカリイオン水を撹拌或は水流を発生させて金属表面の洗浄作用を効率的にし、洗浄を終えて第2の洗浄槽へ浸る金属表面へのアルカリイオン水の防錆皮膜形成を効率的にすることを特徴とする。
【0012】
また、前記第1の洗浄槽は、第1の洗浄槽内で洗浄使用されたアルカリイオン水を汲み上げるポンプと、粗塵フィルターと、油脂除去フィルターとを備え、
前記金属材料又は金属加工部品を洗浄した処理水を前記ポンプで汲み上げ、前記粗塵フィルターと油脂除去フィルターを通過させて塵及び油脂成分を除去し、その浄化した処理水を再び第2の洗浄槽又は第1の洗浄槽或いは前記イオン生成装置に戻して再利用することを特徴とする。
【0013】
また、金属材料又は金属加工部品を洗浄するための洗浄水を入れる洗浄槽と、その洗浄槽内で金属表面から除去された各種油、金属粉、表面処理皮膜を含んだ洗浄水を流入させて濾過する濾過装置と、前記洗浄槽から洗浄水を汲み上げ濾過装置に排出するポンプと、前記濾過装置から排出した洗浄水を流入させ所定のpH値のイオン水を生成し前記洗浄槽へ排出するイオン水生成装置とを少なくとも備え、
前記イオン水生成装置は、電解槽とその生成イオン水のPh値を制御するコンピュータ制御装置とからなり、
前記電解槽は、円筒形イオン交換隔膜と、その円筒形隔膜の中心軸に配設した棒状電極と、前記隔膜の外側に配設した電解溶液透過性又はメッシュ状の円筒形電極とを所定の間隔距離で保持し、その電解溶液は隔膜の外側を満たし、
一方、その隔膜の円筒パイプの下部及び上部にはそれぞれ洗浄水の入口/出口パイプ部を設け、入口パイプ部は洗浄水流入管を介して前記濾過装置に接続し、出口パイプ部はイオン水排出管を介して前記洗浄槽に接続し、洗浄水流入管及びイオン水排出管にはそれぞれpH計を設け、さらにイオン水排出管には水量計を設け、
前記コンピュータ制御装置は、その入力端子に接続した水量センサーからのデータをA/D変換器或はインターフェースを介して入力し、予め定めた水量以上であれば、さらにpH計からのデータを入力して作業メモリー上に読込むと共に、その出力端子に接続した電解槽の両電極へ直流電圧を出力し、電解槽を稼動状態とする手段と、
前記作業メモリー上で所定時間毎の流入/排出側のpH計のデータと、前記所定のpH値とを比較し単位時間当たりのpH値増減率が予め定めた増減率範囲外にあれば、前記直流電圧に予め定める増減値を加えて出力し、所定のpH値に一致するまで繰返す手段を少なくとも備えることを特徴とする。
【0014】
また、前記イオン水生成装置は、さらに、前記隔膜に接続する入口パイプ部にスラッジ排出管と排水弁を設け、前記イオン水排出管上に開閉弁を設け、前記洗浄水流入管上に分岐管を介して補給水を流入する補給管と開閉弁を設け、
前記コンピュータ制御装置は、さらに、前記単位時間当たりのpH値増加率を上げるため、前記直流電圧の増加を繰返し、pH値の増加が少なく電解槽の電極電圧が最大値に達した時は、その出力端子へインターフェースを介して開信号を出力し、それに接続するスラッジ排出管の排出弁へ開信号を送ると共に、イオン水排出管上の開閉弁へ閉信号を送り、さらに補給管上の開閉弁へ開信号を送り、電極印加電圧の極性を変更し、所定時間この状態を保持してスラッジを排出する第2の手段を備えることを特徴とする。
【0015】
また、金属圧延加工工程を複数段連続して順次所定の厚さに圧延し、最後にその圧延板を捲枠へ捲取る捲取機構を備えた圧延工程ラインにおいて、
前記圧延工程ラインと並行して設けたイオン水水槽と、そのイオン水水槽の中に設置され、不織布が捲かれた巻枠と、所定のpH値のアルカリイオン水を生成し前記イオン水水槽へ排出するイオン水生成装置と、前記イオン水水槽からイオン水を汲み上げ前記イオン水生成装置へ流入させるポンプと、前記圧延工程ラインの最終工程から所定厚さに圧延された加工板の幅と前記アルカリイオン水に浸された不織布の幅とを少なくとも約等しくして、その加工板と不織布を重ねて捲枠へ捲取る捲取機構を少なくとも備え、
前記イオン水生成装置は、電解槽とその生成イオン水のpH値を制御するコンピュータ制御装置とからなり、
前記電解槽は、円筒形イオン交換隔膜と、その円筒形隔膜の中心軸に配設した棒状電極と、前記隔膜の外側に配設した電解溶液透過性又はメッシュ状の円筒状電極とを所定の間隔距離で保持し、その電解溶液は隔膜の外側を満たし、
一方、その隔膜の円筒パイプの下部及び上部にはそれぞれ洗浄水の入口/出口パイプ部を設け、入口パイプ部は洗浄水流入管を介して前記濾過装置に接続し、出口パイプ部はイオン水排出管を介して前記洗浄槽に接続し、洗浄水流入管及びイオン水排出管にはそれぞれpH計を設け、さらにイオン水排出管には水量計を設け、
前記コンピュータ制御装置は、その入力端子に接続した水量センサーからのデータをA/D変換器或はインターフェースを介して入力し、予め定めた水量以上であれば、さらにpH計からのデータを入力して作業メモリー上に読込むと共に、その出力端子に接続した電解槽の両電極へ直流電圧を出力し、電解槽を稼動状態とする手段と、
前記作業メモリー上で所定時間毎の流入/排出側のpH計のデータと、前記所定のpH値とを比較し単位時間当たりのpH値増減率が予め定めた増減率範囲外にあれば、前記直流電圧に予め定める増減値を加えて出力し、所定のpH値に一致するまで繰返す手段を少なくとも備え、
前記捲取機構により捲き取られた加工板と隣接する加工板との間には前記所定のpH値のアルカリイオン水が浸された不織布が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属材料加工後の加工油や加工屑の洗浄除去のための脱脂洗浄液や合成界面活性剤及び防錆のためのリン系の防錆剤などの薬剤を使用する必要がなくなり公害の恐れがなく、アルカリイオン水によって洗浄と防錆とを同時に行うことができるため、後処理を含めた作業時間を短縮する非常に大きな効果を奏する。
【0017】
又、このシステムに使用するイオン水生成装置は、自動的に稼動し、しかも所定のpH値、例えばpH12以上のアルカリイオン水が自動的に調製されるので、洗浄液としてアルカリイオン水を使用する従来の技術に対しより効率的かつ経済的に稼動させることができる。
【0018】
また、金属加工部品の洗浄工程を2つに分けて、アルカリイオン水による油や金属粉の除去洗浄工程と、アルカリイオン水に金属加工部品を所定時間浸す防錆工程に分ければさらに効果を向上させることができる。
【0019】
圧延工程の最終捲取段階では、自動イオン水生成装置により生成したアルカリイオン水に浸した不織布を圧延加工板と一体として重ねて、同時に捲枠に捲き取り、前記圧延加工板の隣接板間にアルカリイオン水が沁みこんだ不織布を捲き込み、油脂の塗布無しでも防錆効果のある保存を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
発明を実施するための最良の形態を、図に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の金属表面洗浄防錆システムの第1実施例の構成図である。
【0021】
ここで、10は、金属材料又は金属加工部品13を網籠14に入れたまま洗浄水10aに浸すための洗浄槽である。
【0022】
20は、ポンプを示し、洗浄槽10の洗浄水10aを汲上管21を介して汲み出す。
【0023】
25は濾過装置を示し、25aはフィルターであり、ポンプ20の排出管22を介して流入した洗浄水10aに含まれる切削屑や金属粉、切削油などを除去する。
【0024】
40は電解槽を示し、50はその電解槽が生成するイオン水のpH値を所定の値に自動的に制御するコンピュータ制御装置を示し、イオン水生成装置90は電解槽40とコンピュータ制御装置50とからなる。
【0025】
電解槽40は、洗浄水流入管41を経由して濾過装置25から洗浄水を流入し、そこで生成したイオン化したアルカリイオン水をイオン水排出管42を経由して洗浄槽10へ戻す。
【0026】
電解槽40は、円筒状のイオン交換隔膜44と、その中心軸に沿って配設される中心棒電極(負極)43と、その隔膜44の外側には円筒状の金属網電極或は電解液透過性の円筒状電極45とから構成される。円筒状隔膜44と、円筒状電極45との間隔及び隔膜44と中心棒電極43との間隔はそれぞれ所定の距離を維持するようにスペーサなどを介して固定されている。
【0027】
隔膜44は、セラミックで形成された円筒状隔膜であるが、粒状又は破砕されたセラミックに、加熱した水溶性高分子材を混練し、補強用布状繊維上に圧出成形した柔軟性のある平板形材とし、前記円筒状隔膜44の円筒パイプ内径に相当する型材にその平板形材を巻き付けて乾燥させたセラミック混入樹脂バインダー層隔膜である。
【0028】
以上の構造により、この隔膜44はその内側を通過する水流による径方向の水圧に耐える構造となる。なお、円筒状隔膜44は、粒状又は破砕されたセラミックに加熱した水溶性高分子材を混練し、円筒状型枠に注入して成形し乾燥させたセラミック混入樹脂バインダー層隔膜として製造することもできる。
【0029】
また、このセラミック混入樹脂の使用により、鉱物質である珪素がイオン化状態で存在し、金属加工部品の鋼材表面に珪酸塩の防錆皮膜を作ることが発明者らの分析により判明している。なお、al、pbなどアルカリ環境で溶解、腐食する金属類には適用できない。
【0030】
以上のような特徴のあるイオン交換隔膜44によって、以下のようにイオン水処理が連続的に生成されやすい構造としている。
【0031】
すなわち、円筒状隔膜44の下側と上側とにそれぞれ以下のパイプ部を備える。隔膜44下側に接続する入口パイプ部44aと、上側に接続する出口パイプ部44bを設ける。入口パイプ部44aは洗浄水流入管41へ接続し、濾過装置25からの濾過水を流入させる。その流入水は円筒状隔膜44と中心棒電極43の間を通りイオン化されながら出口パイプ部44bへ達する。出口パイプ部44bはイオン水排出管42に接続していてアルカリイオン水は洗浄槽10へ回収される。
【0032】
洗浄水流入管41には、pH計41aと、補給水Wを取り入れる補給管41xと開閉弁41yを設ける。
【0033】
一方、イオン水排出管42には、pH計42aと、水量センサー42bと、開閉弁42eとを設ける。
【0034】
さらに、出口パイプ部44bには、分離したガスを抜くためのガス抜きパイプ44cを設ける。出口パイプ部44bは気体分離室としての役目も果たしている。
【0035】
一方、入口パイプ部44aには、そこに蓄積するスラッジを排出するための排出管44dを設ける。44eは排出弁である。
【0036】
図2は、本発明のコンピュータ制御装置を示す構成図である。電解槽40の動作を自動制御するコンピュータ制御装置50は以下のような構成となっている。
【0037】
コンピュータ制御装置50は、少なくともCPU、記憶装置50l、入力装置50m、表示装置50n、インターフェースI/Fを介した入力装置群50h、i、j、I/Fを介した出力端子群50p、q、rを備える。
【0038】
また、コンピュータ制御装置50は、I/Fを介した電子制御直流電源30を備え、その電子制御直流電源30は直流端子50x、50yを備える。
【0039】
コンピュータ制御装置50のCPUは、バスを介して以上の各部を制御する。
【0040】
直流端子50x、50yは、それぞれ電解槽40の負極端子43a、正極端子45aにに接続され、入力端子50h、50i、50jはそれぞれpH計41a、42a、水量センサー42bに接続され、出力端子50p、50q、50rはそれぞれ電子制御の開閉弁42e、44e、41yに接続されている。
【0041】
次に、図1に示した第1実施例の動作を以下に述べる。
【0042】
網籠14に入れられた金属材料、金属加工部品を洗浄槽10で洗浄する時は、ポンプ20を駆動させて行う。ポンプ20が駆動すると、その汲み上げた洗浄水が濾過装置25を通過して電解槽40へ流入し、電解槽40から排出されるが、その排出管42に水量センサー42bが設けられているので、コンピュータ制御装置50は、その水量センサー42bからの水量データによりポンプ20が駆動して洗浄工程が開始されたことを検知する。
【0043】
(1)コンピュータ制御装置50のCPUは、リセットされた初期状態においては、入力端子50h、50i、50jから、それぞれインターフェース(1/F)、A/D変換器を介して流入側のpH計41a、排出側のpH計42a、水量センサー42bの各出力データを単位時間毎に入力し、作業メモリー上に読み込む。
【0044】
(2)一方、CPUは、初期状態においては出力端子50q、50rへそれぞれインターフェースを介して閉信号を出力し、それに接続されている電子制御の開閉弁44e、44yへ送ると共に、出力端子50pへ開信号を出力し、それに接続されている電子制御弁42eへ送る。
【0045】
(3)さらに、初期状態においてCPUは、電子制御直流電源30ヘインターフェースを介して電圧値をゼロとするデータを出力して電源端子50x、50yの出力電圧をゼロとして、それに接続する電解槽の電極の端子43a、45a間の電位をゼロとして電解槽を未稼動状態とする。
【0046】
(4)以上の初期状態において、CPUは、単位時間毎に前記水量センサー42bの出力データを入力端子50jより読込み、予め定めた水量値を超えるか否かを作業メモリー上で判断し、超えたときは、洗浄工程が開始されたとして、直流電圧の出力端子50x、50yから所定の極性の電圧値を出力する。この直流電圧の印加により電解槽40がアルカリイオン水生成の稼動状態となる。
【0047】
(5)さらに、その生成アルカリイオン水を所定のpH値(例えばpHl2)にして、その値を維持するために、CPUは以下の第1の手段を備える。すなわち、CPUは入力端子50h、50iよりそれぞれ所定時間毎のpH計41a、42aの値を作業メモリー上に読込み、前記所定のpH値と比較し、そのpH値に達するまでは、単位時間当たりのpH値増減率(pH値の時間微分値)が予め定めた増減率の範囲内にあれば、現在の電極印加直流電圧をそのまま維持し、一方、前記増減率の範囲外にあるときは、前記時間微分値が正の場合は電圧が高すぎると判断し、予め定めた電圧に減算値を加え(即ち電圧をへらし)、前記時間微分値が負の場合は電圧が少ないと判断し、予め定めた加算値を加え(即ち電圧を増やして)、印加する直流電圧を調整し、所定のpH値に一致するまで繰返す。(第1の手段)
【0048】
(6)また、CPUは、以下の第2の手段を備える。すなわち、CPUは、前記第1の手段の処理課程において、前記単位時間当たりのpH値の増加率を上げるための前記直流電圧の増加を繰返し、pH値の増加が少ないために、印加する電圧が電解槽電極の定格電圧の最大値に達したときは、CPUは出力端子50qヘインターフェースを介して開信号を出力し、それに接続するスラッジ排出管44dの排出弁44eへ開信号を送って、その弁を開くと共に、出力端子50pへ開信号を出力し、イオン水排水弁42上の開閉弁42eへ閉信号を送り、さらに出力端子50rへ開信号を出力して接続された補給管41x上の開閉弁41yを開ける。
【0049】
以上の状態に加えて、電子制御直流電源30へは、インターフェースを介して出力端子50x、50yの極性を反転させる信号を送り、それに接続する電解槽の2電極端子43a、45aの極性を反転させる。
【0050】
この電極反転により電極に付着しているスラッジが剥離され、隔膜44の内側中心棒電極43から落下したスラッジは、スラッジ排出管44dから外部へ排出される。(第2の手段)
【0051】
以上の第2の手段により、電解槽40の電極にスラッジが付着して電解槽40のイオン水生成の効率低下が起きた際の回復を自動的に行う。
【0052】
図3は、本発明の第2の実施の形態を示す構成図である。以下に、本発明の第2の実施例を説明するが、図3において、図1と同符号は同じ機能なので説明を省略する。
【0053】
第1の実施例で、洗浄工程は1工程であったが、第2実施例ではその洗浄工程を、第1の洗浄工程と第2の洗浄工程の2工程で行うのが特徴である。
【0054】
この実施例では、第1の洗浄工程では、主として金属表面の加工屑や、加工油などをアルカリイオン水で除去し、第2の洗浄工程では、PH値12以上の強アルカリイオン水で、その金属表面に酸化被膜を形成する。
【0055】
前述したように、本発明では、アルカリイオン水生成装置にセラミック混入樹脂バインダー層隔膜44を使用しているので、そのセラミックを構成する鉱物質である珪素がイオン化された状態でイオン水に存在する。このため、第2の洗浄工程では、金属加工部品の鉄鋼表面に珪酸塩の防錆被膜が形成される。
【0056】
従って最終工程の洗浄工程の処理時間は、第1の洗浄工程の処理時間より長くして、防錆被膜をより厚くするようにすることが望ましい。
【0057】
以上のように第1と第2の工程に区分することにより、より効率的に金属表面の洗浄、防錆効果をあげることができる。
【0058】
図3において、11は第1の洗浄工程の第1の洗浄槽を示し、12は第2の洗浄工程の洗浄槽を示す。
【0059】
第2の洗浄槽12のアルカリイオン水12aはポンプ20により汲み上げられ電解槽40へ流入させる。図3では、第1の実施例のように濾過装置は必ずしも必要とせず、直接電解槽40へ流入させる場合を示している。
【0060】
電解槽40で、アルカリイオン水12aを所定のpH値にして、第2の洗浄槽12へ戻す。その際、第1の実施例におけるようにコンピュータ制御装置50により生成するアルカリイオン水を所定のpH値に自動的に制御する。その自動制御に関しては第1の実施例の場合と同様なので説明を省略する。
【0061】
一方、第1の洗浄槽11のアルカリイオン水11aは、ポンプ60により第2の洗浄槽12より汲上管61で汲み上げてその排水を排出管62によって第1の洗浄槽へ入れる。
【0062】
第2の洗浄槽12のアルカリイオン水12aの水位が所定以上減る場合は、その不足分を補給水wとして、開閉弁41yを開いて補給管41xから分岐管を介して補給する。
【0063】
この補給は、第2の洗浄槽12の水位センサーの信号をコンピュータ制御装置が入力端子より読込み、所定の水位となるまで電子制御の開閉弁41yへの開信号を送ることで行うことができる。
【0064】
第1の洗浄槽11のアルカリイオン水11aは、洗浄により金属粉や加工油を含むので、ポンプ80により汲上管81を介して汲み上げ、排出管82を介して濾過装置75へ流入させる。75aはフィルターである。濾過装置75の排出水は第1の洗浄槽11又は第2の洗浄槽12へ戻し再利用する。
【0065】
或いは、濾過装置75の処理水は、補給タンク(図示せず)へ貯蔵し、補給水Wとして再利用することにしてもよい。
【0066】
図4は本発明の第3に実施例を示す構成図である。第3の実施例は、金属板の圧延工程に於ける洗浄防錆システムである。
【0067】
図4において、100は圧延加工板を示し、その圧延加工板100は複数n段連続して順次圧延ローラー130で圧延され、図4には最終の第n圧延工程及びその1つ前の圧延工程のみが図示されている。
【0068】
それぞれの、圧延ローラー130で圧延された圧延加工板100は、冷却水140が入っている加工板搬送機構用水槽110に入る。この水槽110の底には圧延された圧延加工板100を前方に搬送移動させ次の工程へ進むように加工板搬送機又は回転モータつきロ一ラ群120が配置されている。
【0069】
一方、アルカリイオン水210aが収容された水槽210には、回転自在な不織布巻枠200aに巻かれた不織布200が浸るように収容されている。
【0070】
水槽210内のアルカリイオン水210aは、汲上管221のポンプ220により汲み上げ、電解槽40に流入させ、pH値を所定の値(例えばpH12)に維持するように処理され、回収管222より水槽210へ回収される。
【0071】
この電解槽40は、コンピュータ制御装置50により、自動的に所定のpH値のアルカリイオン水に維持されるように制御されている。このコンピュータ制御装置50の自動動作については、第1の実施例における場合とほとんど同様であるので説明を省略する。
【0072】
以上のように、pH値が所定の値に維持された水槽210の中で、不織布200は充分にアルカリイオン水に浸された状態となる。
【0073】
第n圧延工程により、所定の幅と厚さに圧延加工された圧延加工板100と、前記アルカリイオン水に湿潤された不織布200とを図4に示すように重ね合わせて、不織布付き加工板300として、加工板捲取機構310で巻き取る。
【0074】
尚、この図4の実施例では、圧延加工板100の下側に不織布200を重ねる形態を示したが、不織布200を上側に重ねる形態としてもよい。また、不織布200の幅は、圧延加工板と約等しいかそれより幅広であることが望ましい。
【0075】
いずれにしても、巻き取られる圧延加工板100は、隣接する板の間にアルカリイオン水が湿潤された不織布が入り、巻き取られてから加工板が長時間アルカリイオン水に浸されることとなり、充分な防錆被膜が形成された状態で保管することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の金属表面洗浄防錆システムの第1実施例の構成図である。
【図2】本発明のコンピュータ制御装置を示す構成図である。
【図3】本発明の金属表面洗浄防錆システムの第2の実施の形態を示す構成図である。
【図4】本発明の金属表面洗浄防錆システムの第3の実施の形態を示す構成図である。
【符号の説明】
【0077】
10 洗浄槽
10a 洗浄水
11 第1の洗浄槽
12 第2の洗浄槽
13 金属材料、金属加工部品
14 網籠
20、60、80 ポンプ
21、61、81 汲上管
22、62、82 排出管
25、75 濾過装置
25a、75a フィルター
30 電子制御直流電源
40 電解槽
40a 電解槽上蓋
40b 電解液
41 洗浄水流入管
41a pH計
41x 補給管
41y 開閉弁
42 イオン水排出管
42a pH計
42b 水量センサー
42e 開閉弁
43 中心棒電極(負極)
43a 負極端子
44 イオン交換隔膜
44a 隔膜に接続する入ロパイプ部
44b 隔膜に接続する出ロパイプ部
44c ガス抜きパイプ
44d スラッジ排出管
44e 排出弁
45 円筒状電極
50 コンピュータ制御装置
50h、i、j 入力端子
50P、q、r 出力端子
50x、y 直流電圧出力端子
90 イオン水生成装置
100 圧延加工板
110 水槽(加工板搬送機用)
120 搬送機、ローラー群
130 圧延ローラー
140 冷却水
200 不織布
200a 不織布捲枠
210 水槽
210a アルカリイオン水
220 ポンプ
221 汲上管
222 回収管
300 不織布付加工板
310 加工板捲取機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料又は金属加工部品を洗浄するための洗浄水を収容する洗浄槽と、電解槽中にイオン交換隔膜を介して対向する正・負電極を設けて、所定のpH値のイオン水を生成するイオン水生成装置とを備え、
前記洗浄槽内における金属材料又は金属加工部品の少なくとも洗浄工程時間中に、その洗浄水を汲み上げ、次にその洗浄水を前記イオン水生成装置へ流入させ、そのイオン水生成装置により流入水をpH値12以上の高pHにイオン化したイオン水を生成させ、次にその生成イオン水を前記洗浄槽へ戻し、
前記金属材料または金属加工部品の表面を、前記生成イオン水により所定時間以上洗浄することを特徴とする金属表面洗浄防錆方法。
【請求項2】
前記イオン水は、アルカリイオン水であり、圧延油、防錆油等の油脂及び酸化皮膜、金属粉などの付着物を除去し、その表面に防錆効果のある皮膜を形成させることを特徴とする請求項1記載の金属表面洗浄防錆方法。
【請求項3】
前記洗浄槽は、脱脂及び金属粉等の付着物を除去洗浄する第1の洗浄槽と、金属表面に珪酸塩として防錆皮膜を作らせる第2の洗浄槽とからなり、
さらに、前記電解槽のイオン交換隔膜はセラミック又はセラミック混入樹脂バインダー層隔膜からなり、
先ず第1の洗浄槽で金属表面をアルカリイオン水で洗浄する第1の洗浄工程を行い、次に、第2の洗浄槽で金属表面にアルカリイオン水で防錆皮膜を形成させる第2の洗浄工程を行い、
それらの第1、第2洗浄工程作業中を含む所定時間中に第2の洗浄槽のアルカリイオン水を汲み上げ前記イオン水生成装置に流入させ、そこで前記所定のpH値に改質させると共に、第2の洗浄槽で汲み上げたアルカリイオン水を第1の洗浄槽へ供給し、
第1の洗浄槽には、更に、その槽内のアルカリイオン水を振動させるための超音波発生装置又はエアーバブリング装置を設け、
前記アルカリイオン水を撹拌或は水流を発生させて金属表面の洗浄作用を効率的にし、洗浄を終えて第2の洗浄槽へ浸る金属表面へのアルカリイオン水の防錆皮膜形成を効率的にすることを特徴とする請求項1記載の金属表面洗浄防錆方法。
【請求項4】
前記第1の洗浄槽は、第1の洗浄槽内で洗浄使用されたアルカリイオン水を汲み上げるポンプと、粗塵フィルターと、油脂除去フィルターとを備え、
前記金属材料又は金属加工部品を洗浄した処理水を前記ポンプで汲み上げ、前記粗塵フィルターと油脂除去フィルターを通過させて塵及び油脂成分を除去し、その浄化した処理水を再び第2の洗浄槽又は第1の洗浄槽或いは前記イオン生成装置に戻して再利用することを特徴とする請求項3記載の金属表面洗浄防錆方法。
【請求項5】
金属材料又は金属加工部品を洗浄するための洗浄水を入れる洗浄槽と、その洗浄槽内で金属表面から除去された各種油、金属粉、表面処理皮膜を含んだ洗浄水を流入させて濾過する濾過装置と、前記洗浄槽から洗浄水を汲み上げ濾過装置に排出するポンプと、前記濾過装置から排出した洗浄水を流入させ所定のpH値のイオン水を生成し前記洗浄槽へ排出するイオン水生成装置とを少なくとも備え、
前記イオン水生成装置は、電解槽とその生成イオン水のPh値を制御するコンピュータ制御装置とからなり、
前記電解槽は、円筒形イオン交換隔膜と、その円筒形隔膜の中心軸に配設した棒状電極と、前記隔膜の外側に配設した電解溶液透過性又はメッシュ状の円筒形電極とを所定の間隔距離で保持し、その電解溶液は隔膜の外側を満たし、
一方、その隔膜の円筒パイプの下部及び上部にはそれぞれ洗浄水の入口/出口パイプ部を設け、入口パイプ部は洗浄水流入管を介して前記濾過装置に接続し、出口パイプ部はイオン水排出管を介して前記洗浄槽に接続し、洗浄水流入管及びイオン水排出管にはそれぞれpH計を設け、さらにイオン水排出管には水量計を設け、
前記コンピュータ制御装置は、その入力端子に接続した水量センサーからのデータをA/D変換器或はインターフェースを介して入力し、予め定めた水量以上であれば、さらにpH計からのデータを入力して作業メモリー上に読込むと共に、その出力端子に接続した電解槽の両電極へ直流電圧を出力し、電解槽を稼動状態とする手段と、
前記作業メモリー上で所定時間毎の流入/排出側のpH計のデータと、前記所定のpH値とを比較し単位時間当たりのpH値増減率が予め定めた増減率範囲外にあれば、前記直流電圧に予め定める増減値を加えて出力し、所定のpH値に一致するまで繰返す手段を少なくとも備えることを特徴とする金属表面洗浄防錆システム。
【請求項6】
前記イオン水生成装置は、さらに、前記隔膜に接続する入口パイプ部にスラッジ排出管と排水弁を設け、前記イオン水排出管上に開閉弁を設け、前記洗浄水流入管上に分岐管を介して補給水を流入する補給管と開閉弁を設け、
前記コンピュータ制御装置は、さらに、前記単位時間当たりのpH値増加率を上げるため、前記直流電圧の増加を繰返し、pH値の増加が少なく電解槽の電極電圧が最大値に達した時は、その出力端子へインターフェースを介して開信号を出力し、それに接続するスラッジ排出管の排出弁へ開信号を送ると共に、イオン水排出管上の開閉弁へ閉信号を送り、さらに補給管上の開閉弁へ開信号を送り、電極印加電圧の極性を変更し、所定時間この状態を保持してスラッジを排出する第2の手段を備えることを特徴とする請求項5記載の金属表面洗浄防錆システム。
【請求項7】
金属圧延加工工程を複数段連続して順次所定の厚さに圧延し、最後にその圧延板を捲枠へ捲取る捲取機構を備えた圧延工程ラインにおいて、
前記圧延工程ラインと並行して設けたイオン水水槽と、そのイオン水水槽の中に設置され、不織布が捲かれた巻枠と、所定のpH値のアルカリイオン水を生成し前記イオン水水槽へ排出するイオン水生成装置と、前記イオン水水槽からイオン水を汲み上げ前記イオン水生成装置へ流入させるポンプと、前記圧延工程ラインの最終工程から所定厚さに圧延された加工板の幅と前記アルカリイオン水に浸された不織布の幅とを少なくとも約等しくして、その加工板と不織布を重ねて捲枠へ捲取る捲取機構を少なくとも備え、
前記イオン水生成装置は、電解槽とその生成イオン水のpH値を制御するコンピュータ制御装置とからなり、
前記電解槽は、円筒形イオン交換隔膜と、その円筒形隔膜の中心軸に配設した棒状電極と、前記隔膜の外側に配設した電解溶液透過性又はメッシュ状の円筒状電極とを所定の間隔距離で保持し、その電解溶液は隔膜の外側を満たし、
一方、その隔膜の円筒パイプの下部及び上部にはそれぞれ洗浄水の入口/出口パイプ部を設け、入口パイプ部は洗浄水流入管を介して前記濾過装置に接続し、出口パイプ部はイオン水排出管を介して前記洗浄槽に接続し、洗浄水流入管及びイオン水排出管にはそれぞれpH計を設け、さらにイオン水排出管には水量計を設け、
前記コンピュータ制御装置は、その入力端子に接続した水量センサーからのデータをA/D変換器或はインターフェースを介して入力し、予め定めた水量以上であれば、さらにpH計からのデータを入力して作業メモリー上に読込むと共に、その出力端子に接続した電解槽の両電極へ直流電圧を出力し、電解槽を稼動状態とする手段と、
前記作業メモリー上で所定時間毎の流入/排出側のpH計のデータと、前記所定のpH値とを比較し単位時間当たりのpH値増減率が予め定めた増減率範囲外にあれば、前記直流電圧に予め定める増減値を加えて出力し、所定のpH値に一致するまで繰返す手段を少なくとも備え、
前記捲取機構により捲き取られた加工板と隣接する加工板との間には前記所定のpH値のアルカリイオン水が浸された不織布が配置されていることを特徴とする金属表面洗浄防錆システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−2219(P2006−2219A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180253(P2004−180253)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【出願人】(503324184)株式会社E&CS (5)
【Fターム(参考)】