説明

金属被覆炭素短繊維の製造方法

【課題】金属めっき浴中に良好に炭素短繊維を分散させてこの炭素短繊維の表面に均一に無電解めっきを施すことができる金属被覆炭素短繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】10〜1000ppmの架橋型カルボキシビニルポリマーおよび/または10〜1000ppmのHLB値が10以下の非イオン性界面活性剤を含有する金属めっき浴中で炭素短繊維を無電解めっきして前記炭素短繊維の表面を金属で被覆することを特徴とする金属被覆炭素短繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっきにより炭素短繊維の表面を金属で被覆する金属被覆炭素短繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、耐熱性、耐久性、耐薬品性、軽量性、高弾性率、小熱膨張率などの工業材料としての優れた性質を多数有するため、有機高分子や金属などと複合され、いわゆる繊維強化プラスチック(FRP)や繊維強化金属(FRM)などの複合材として種々の用途、例えば、導電性、電磁波シールド性等を必要とする用途に使用されている。近年、これらの複合材の力学的特性や電気的特性などを向上させるために表面に金属を被覆した炭素繊維が要求されるようになった。
【0003】
炭素繊維に金属被覆を施す方法として、特開平3−206173号公報(特許文献1)や特開平8−100367号公報(特許文献2)に、炭素繊維束を水溶液中で開繊処理し、続いてパラジウムコロイドを炭素繊維表面に吸着させた後、無電解めっきにより金属被覆炭素繊維を製造する方法が開示されている。これらの製造方法では、開繊処理時にカチオン性界面活性剤を含む水溶液、またはアリルアミン重合体とアルカリ金属塩とを含む水溶液を用いて金属皮膜の密着性を高めたり、付着量を増大させたりしている。
【0004】
これらの製造方法は、炭素繊維束を開繊した単繊維1本1本それぞれの表面に無電解めっきにより金属皮膜を形成をする場合には有効であるが、炭素繊維として切断した炭素短繊維を用いる場合に適用すると無電解めっき処理時に炭素短繊維同士の凝集が見られ、炭素短繊維の表面に均一にめっきを施すことが困難であった。このため、炭素短繊維の表面に均一に無電解めっきを施すことができる方法を開発する必要があった。
【特許文献1】特開平3−206173号公報
【特許文献2】特開平8−100367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、金属めっき浴中に良好に炭素短繊維を分散させてこの炭素短繊維の表面に均一に無電解めっきを施すことができる金属被覆炭素短繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素短繊維を無電解めっきする際に用いる金属めっき浴中に架橋型カルボキシビニルポリマーおよび/またはHLB値が10以下の非イオン性界面活性剤を特定の濃度で添加することにより、無電解めっき時の炭素短繊維同士の凝集を防止でき、さらに炭素短繊維の表面に均一に無電解めっきを施すことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の金属被覆炭素短繊維の製造方法は、10〜1000ppmの架橋型カルボキシビニルポリマーおよび/または10〜1000ppmのHLB値が10以下の非イオン性界面活性剤を含有する金属めっき浴中で炭素短繊維を無電解めっきして前記炭素短繊維の表面を金属で被覆することを特徴とするものである。
【0008】
前記架橋型カルボキシビニルポリマーはアクリル酸ポリマーであることが好ましく、前記非イオン性界面活性剤は下記式(1):
RO(CHCHO)H (1)
(式(1)中、Rは炭素数8〜22の飽和または不飽和の炭化水素基を表し、nは平均付加モル数を表し、1〜5の実数である。)
で表される化合物であることが好ましい。また、前記炭素短繊維の長さは1〜10mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属めっき浴中に良好に炭素短繊維を分散させてこの炭素短繊維の表面に均一に無電解めっきを施すことができ、さらにこれにより製造された金属被覆炭素短繊維を凝集させずに得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0011】
本発明の金属被覆炭素短繊維の製造方法は、10〜1000ppmの架橋型カルボキシビニルポリマーおよび/または10〜1000ppmのHLB値が10以下の非イオン性界面活性剤を含有する金属めっき浴中で炭素短繊維を無電解めっきして前記炭素短繊維の表面を金属で被覆することを特徴とするものである。
【0012】
本発明に用いる金属めっき液としては、通常の無電解めっきに使用される金属めっき液、例えばニッケル、錫、コバルト、銅、銀、金、またはこれらの合金などのめっき液が挙げられる。これらのうち、ニッケル−リン、ニッケル−ホウ素などの通常のニッケル系無電解めっき液が好ましい。
【0013】
本発明に用いる架橋型カルボキシビニルポリマーは、少なくとも、カルボキシル基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーの重合物を架橋剤で架橋するか、または前記モノマーを重合する際に二官能以上のモノマーを微量配合することにより得られ、モノマー成分としてエチレン性不飽和結合を有するその他のモノマーを併用してもよい。
【0014】
カルボキシル基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸などが挙げられる。これらのモノマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、これらのモノマーのうち、アクリル酸が好ましい。
【0015】
その他のモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのモノマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記架橋剤および前記二官能以上のモノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレン−ビス−アクリルアミド、イソシアヌル酸トリアクリレートなどのエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明に用いる架橋型カルボキシビニルポリマーとしては、モノマー成分の1種がアクリル酸である架橋型アクリル酸ポリマー(架橋型アクリル酸ホモポリマーおよび架橋型アクリル酸コポリマー)が好ましく、架橋型ポリアクリル酸(架橋型アクリル酸ホモポリマー)がより好ましい。このような架橋型カルボキシビニルポリマーの市販品としては、ハイビスワコー104(商品名、和光純薬工業(株)製)、ジュンロンPW−150(商品名、日本純薬(株)製)などが挙げられる。また、前記架橋型カルボキシビニルポリマーは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記架橋型カルボキシビニルポリマーの分子量は特に制限されないが、一般的な分子量範囲、例えば10万〜1000万であることが好ましく、100万〜700万であることがより好ましい。分子量が上記下限未満になると無電解めっき時に炭素短繊維が凝集してめっき不良(めっきが不均一)となる傾向にある。他方、分子量が上記上限を超えると前記架橋型カルボキシビニルポリマーのめっき液への溶解が困難となる傾向にある。
【0019】
本発明の金属被覆炭素短繊維の製造方法では、前記架橋型カルボキシビニルポリマーを金属めっき浴中の濃度が10〜1000ppmとなるように、好ましくは10〜200ppmとなるように前記金属めっき液に添加する。前記架橋型カルボキシビニルポリマーの濃度が上記下限未満になると無電解めっき時に炭素短繊維が凝集してめっきが不均一となる傾向にある。他方、上記上限を超えると架橋型カルボキシビニルポリマーの増粘効果により、金属めっき浴から金属被覆炭素短繊維を取り出すことが困難になる傾向にある。
【0020】
また、前記架橋型カルボキシビニルポリマーの代わりにポリエチレングリコールなどのその他の水溶性ポリマーを用いた場合には炭素短繊維が凝集してめっきが不均一となる傾向にある。
【0021】
なお、前記架橋型カルボキシビニルポリマーは、必要に応じて水酸化ナトリウム、アンモニア、水溶性アミン類などの適当な中和剤で中和した後、前記金属めっき液に添加してもよい。
【0022】
本発明に用いる非イオン性界面活性剤はHLB値が10以下のものであれば特に制限されないが、HLB値が3〜8のものが好ましい。HLB値が上記上限を超えると無電解めっき時に炭素短繊維が凝集してめっきが不均一となる傾向にある。なお、本発明においてHLB値はGriffinの式により算出される値である。
【0023】
前記非イオン性界面活性剤としては、下記式(1):
RO(CHCHO)H (1)
(式(1)中、Rは炭素数8〜22の飽和または不飽和の炭化水素基を表し、nは平均付加モル数を表し、1〜5の実数である。)
で表される化合物が好ましい。
【0024】
このような化合物において、炭素短繊維との親和性とめっき液への溶解性の観点から、前記炭化水素基中の炭素数は8〜22であることが好ましく、前記炭化水素基は、飽和のもの、または直鎖のものが好ましく、直鎖状の飽和炭化水素基がより好ましい。
【0025】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、炭素数8〜22の飽和または不飽和の炭化水素基を有する公知の高級アルコールにエチレンオキシドを、高級アルコール1モル当たり平均1〜5モルの範囲で付加することによって得ることができる。
【0026】
前記式(1)において平均付加モル数nが1モル未満では水への溶解性がないため界面活性剤として作用せず、他方、5モルを超えると無電解めっき時に炭素短繊維が凝集してめっきが不均一となる傾向にある。ただし、本発明の非イオン性界面活性剤は、HLB値が10以下のもの、好ましくはエチレンオキシドの平均付加モル数nが1〜5のものであれば、高級アルコール1モルに対してエチレンオキシドが6モル以上付加したものを含んでいてもよい。
【0027】
本発明の金属被覆炭素短繊維の製造方法では、前記非イオン性界面活性剤を金属めっき浴中の濃度が10〜1000ppmとなるように、好ましくは10〜100ppmとなるように前記金属めっき液に添加する。前記非イオン性界面活性剤の濃度が上記下限未満になると無電解めっき時に炭素短繊維が凝集してめっきが不均一となる傾向にある。他方、上記上限を超えると炭素短繊維の表面への金属皮膜形成が阻害される傾向にある。前記非イオン性界面活性剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
また、前記非イオン性界面活性剤の代わりにカチオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤を用いた場合には炭素短繊維が凝集してめっきが不均一となる。
【0029】
本発明の金属被覆炭素短繊維の製造方法において、前記架橋型カルボキシビニルポリマーおよび前記非イオン性界面活性剤はそれぞれ単独で使用しても無電解めっき時の炭素短繊維の凝集を防止することができるが、より効果的に凝集を防止できる点で両者を併用することが好ましい。
【0030】
本発明に用いる炭素短繊維は例えば市販の炭素繊維を切断することより得ることができる。前記炭素繊維は特に制限されず、レーヨン系、ポリアクリロニトリル系、およびピッチ系などの各種公知の炭素繊維を使用できる。前記炭素短繊維の長さは1〜10mmであることが好ましい。
【0031】
本発明の金属被覆炭素短繊維の製造方法では、前記炭素短繊維の表面に予め触媒活性を有する金属を付着させることが好ましい。金属触媒を付着させる方法は、特に制限されないが、例えば以下の(1)および(2)の方法が挙げられる。
【0032】
(1)炭素短繊維をセンシタイザー液[例えば、塩化スズ(II)二水和物(10g/L)、36%塩酸(10mL/L)]に浸漬して表面にSn2+を吸着させ、水洗した後、アクチベータ液[例えば、塩化パラジウム(II)(0.2g/L)、36%塩酸(2mL/L)]に浸漬してレドックス反応(Sn2++Pd2+→Sn4++Pd)を開始させて炭素短繊維表面にパラジウム核を沈着させる方法(センシタイジング−アクチベーション法)。
【0033】
(2)炭素短繊維をキャタリスト液[例えば、塩化パラジウム(II)(0.2g/L)、塩化スズ(II)二水和物(10g/L)、36%塩酸(200mL/L)]に浸漬して表面にSn2+・Pd2+を吸着させ、水洗した後、アクセレータ液[例えば、98%硫酸(100g/L)]で処理して反応(Sn2+・Pd2+→Sn4++Pd)を開始させて炭素短繊維表面にパラジウム核を沈着させる方法(キャタリスト−アクセレータ法)。
【0034】
なお、センシタイザー液などの水溶液に炭素短繊維を浸漬・分散させる場合には微量の界面活性剤を添加したり、超音波処理を施したりすることが好ましい。
【0035】
本発明の金属被覆炭素短繊維の製造方法は、前記架橋型カルボキシビニルポリマーおよび/または前記非イオン性界面活性剤を前記濃度で含有する金属めっき浴中に前記炭素短繊維、好ましくは前記金属触媒を付着させた炭素短繊維を浸漬させた後、水洗、乾燥処理を施すものであり、これにより凝集していない金属被覆炭素短繊維を得ることができる。
【0036】
浸漬時間は通常10分〜5時間の範囲であり、浸漬温度は通常30〜70℃の範囲である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、ニッケル無電解めっき液およびパラジウム触媒付着炭素短繊維は以下の方法により各実施例毎に調製した。また、金属被覆炭素短繊維の分散状態およびめっき状態は以下の方法により評価した。
【0038】
(パラジウム触媒付着炭素短繊維の調製)
ピッチ系炭素繊維(三菱化学産資(株)製、商品名「DIALEAD K13C2U」を5mmの長さに切断して炭素短繊維を得た。この炭素短繊維10gをセンシタイザー液[塩化スズ(II)二水和物(20g/L)、36%塩酸(10mL/L)]1Lに15分間浸漬処理した。浸漬後の炭素短繊維をイオン交換水で水洗し、次いでアクチベータ液[塩化パラジウム(II)(1g/L)、36%塩酸(2mL/L)]に15分間浸漬した後、水洗して表面にパラジウム核を付着させた。パラジウムの付着性を高めるため、上記処理を3回繰り返し、パラジウム触媒付着炭素短繊維を得た。
【0039】
(ニッケル無電解めっき液の調製)
蒸留水1Lに硫酸ニッケル六水和物20g、クエン酸三ナトリウム二水和物30g、ホスフィン酸ナトリウム一水和物10gを溶解し、アンモニア水によりpH9に調整し、ニッケル無電解めっき液を得た。
【0040】
(金属被覆炭素短繊維の分散状態の評価方法)
得られた金属被覆炭素短繊維の絡み合いによる凝集の有無を目視にて観察し、評価した。
【0041】
(金属被覆炭素短繊維のめっき状態の評価方法)
得られた金属被覆炭素短繊維の表面をマイクロスコープで観察し、めっき状態を評価した。
【0042】
(実施例1)
前記ニッケル無電解めっき液1Lに、非イオン性界面活性剤C1225O(CHCHO)H(HLB値:6.4)20mg(めっき浴中の濃度:20ppm)および架橋型ポリアクリル酸(日本純薬(株)製、商品名「ジュンロンPW−150」、架橋剤成分:ジビニルベンゼン)50mg(めっき浴中の濃度:50ppm、アンモニアにてpHを約9まで中和の上、架橋型ポリアクリル酸純分で換算。以下の実施例および比較例において同じ)を添加し、金属めっき浴を調製した。この金属めっき浴中に前記パラジウム触媒付着炭素短繊維4gを50℃で60分間攪拌しながら浸漬させた後、水洗、乾燥処理を施してニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集せず、めっき状態も均一であることを確認した。
【0043】
(実施例2)
前記非イオン性界面活性剤C1225O(CHCHO)Hの添加量を50mg(めっき浴中の濃度:50ppm)に変更した以外は実施例1と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集せず、めっき状態も均一であることを確認した。
【0044】
(実施例3)
前記架橋型ポリアクリル酸(日本純薬(株)製、商品名「ジュンロンPW−150」)の添加量を100mg(めっき浴中の濃度:100ppm)に変更した以外は実施例1と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集せず、めっき状態も均一であることを確認した。
【0045】
(実施例4)
前記非イオン性界面活性剤C1225O(CHCHO)Hの添加量を100mg(めっき浴中の濃度:100ppm)、および前記架橋型ポリアクリル酸(日本純薬(株)製、商品名「ジュンロンPW−150」)の添加量を100mg(めっき浴中の濃度:100ppm)に変更した以外は実施例1と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集せず、めっき状態も均一であることを確認した。
【0046】
(実施例5)
非イオン性界面活性剤としてC1225O(CHCHO)Hの代わりにC1835O(CHCHO)H(HLB値4.9)を20mg(めっき浴中の濃度:20ppm)添加した以外は実施例1と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集せず、めっき状態も均一であることを確認した。
【0047】
(実施例6)
前記非イオン性界面活性剤C1835O(CHCHO)Hの添加量を50mg(めっき浴中の濃度:50ppm)に変更した以外は実施例5と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集せず、めっき状態も均一であることを確認した。
【0048】
(実施例7)
ニッケル無電解めっき液1Lに、非イオン性界面活性剤C1225O(CHCHO)H(HLB値:6.4)10mg(めっき浴中の濃度:10ppm)を添加し、金属めっき浴を調製した。この金属めっき浴中に前記パラジウム触媒付着炭素短繊維4gを50℃で60分間攪拌しながら浸漬させた後、水洗、乾燥処理を施してニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集せず、めっき状態も均一であることを確認した。
【0049】
(実施例8)
非イオン性界面活性剤としてC1225O(CHCHO)Hの代わりにC1835O(CHCHO)H(HLB値4.9)を10mg(めっき浴中の濃度:10ppm)添加した以外は実施例7と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集せず、めっき状態も均一であることを確認した。
【0050】
(実施例9)
ニッケル無電解めっき液1Lに、架橋型ポリアクリル酸(日本純薬(株)製、商品名「ジュンロンPW−150」)10mg(めっき浴中の濃度:10ppm)を添加し、金属めっき浴を調製した。この金属めっき浴中に前記パラジウム触媒付着炭素短繊維4gを50℃で60分間攪拌しながら浸漬させた後、水洗、乾燥処理を施してニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集せず、めっき状態も均一であることを確認した。
【0051】
(比較例1)
前記非イオン性界面活性剤C1225O(CHCHO)Hの添加量を2000mg(めっき浴中の濃度:2000ppm)に変更した以外は実施例7と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集していなかったが、めっき状態は不均一で、めっきされていない部分が見られた。
【0052】
(比較例2)
前記非イオン性界面活性剤C1225O(CHCHO)Hの添加量を5mg(めっき浴中の濃度:5ppm)に変更した以外は実施例7と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集し、めっき状態は不均一で、炭素繊維破断によるめっき剥離が見られた。
【0053】
(比較例3)
非イオン性界面活性剤としてC1225O(CHCHO)Hの代わりにC1225O(CHCHO)H(HLB値11.7)を20mg(めっき浴中の濃度:20ppm)添加した以外は実施例7と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維は凝集し、めっき状態は不均一で、炭素繊維破断によるめっき剥離が見られた。
【0054】
(比較例4)
前記架橋型ポリアクリル酸(日本純薬(株)製、商品名「ジュンロンPW−150」)の添加量を2000mg(めっき浴中の濃度:2000ppm)に変更した以外は実施例9と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維はやや凝集し、めっき状態は不均一で、炭素繊維破断によるめっき剥離が見られた。
【0055】
(比較例5)
架橋型ポリアクリル酸の代わりにアクリル酸ナトリウムを20mg(めっき浴中の濃度:20ppm)添加した以外は実施例9と同様にしてニッケル被覆炭素短繊維を得た。得られたニッケル被覆炭素短繊維はやや凝集し、めっき状態は不均一で、炭素繊維破断によるめっき剥離が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、炭素短繊維を凝集させずにその表面に均一に無電解めっきを施すことができ、これにより製造された金属被覆炭素短繊維を凝集させずに得ることができる。
【0057】
したがって、本発明の製造方法により得られた金属被覆炭素短繊維は凝集していないため、取り扱い性の点で種々の材料として有用であり、特にFRPやFRMなどの複合材用の材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜1000ppmの架橋型カルボキシビニルポリマーおよび/または10〜1000ppmのHLB値が10以下の非イオン性界面活性剤を含有する金属めっき浴中で炭素短繊維を無電解めっきして前記炭素短繊維の表面を金属で被覆することを特徴とする金属被覆炭素短繊維の製造方法。
【請求項2】
前記架橋型カルボキシビニルポリマーがアクリル酸ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の金属被覆炭素短繊維の製造方法。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤が下記式(1):
RO(CHCHO)H (1)
(式(1)中、Rは炭素数8〜22の飽和または不飽和の炭化水素基を表し、nは平均付加モル数を表し、1〜5の実数である。)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属被覆炭素短繊維の製造方法。
【請求項4】
前記炭素短繊維の長さが1〜10mmであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の金属被覆炭素短繊維の製造方法。

【公開番号】特開2009−35777(P2009−35777A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201522(P2007−201522)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】