説明

金属触媒構造体及びその製造方法

【課題】本発明は、高価な貴金属を少量しか用いず、触媒の材料コストを低減するとともに、熱凝集に伴う触媒活性の低下を抑制することができる金属触媒構造体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】空洞部25cと、空洞部25cに連通する孔部22とが設けられた殻状体25からなり、空洞部25cの内表面に高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる触媒活性層23が設けられている金属触媒構造体11を用いることによって前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属触媒構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点から、自動車の排ガスの毒性を低下させることが可能な金属触媒が注目され、その研究が活発になされている。前記金属触媒として、Pt(白金)からなるナノシートやナノ粒子などのナノ材料が報告されている(非特許文献1〜4)。
【0003】
金属触媒としては、様々な形状のものが作製されている。例えば、図14に示すように、支持材となる球状粒子125の表面に、球状粒子125の径より小さい径の、高い触媒活性を有する球状の金属微粒子121を配置してなる金属触媒111がある。
しかし、この金属触媒111を、触媒反応促進のために高温にすると、図15に示すように、支持材の球状粒子125同士が熱凝集する(以下、1次凝集)とともに、支持材の球状粒子125上で、金属微粒子121同士が熱凝集する(以下、2次凝集)。前記1次凝集及び前記2次凝集により、金属微粒子121の表面積が低下し、金属触媒111の触媒活性を低下させるという問題があった。
【0004】
従来、このような触媒活性の低下を補うために金属触媒の量を大幅に増やしていた。しかし、金属触媒の材料として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)等の高価な貴金属を用いる場合が多く、触媒の材料コストを増加させるという問題があった。更に、これらの金属は、資源の制約があり、流通量が少なく、容易に使用することはできないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Joo,S.H.;Choi,S.J.;Oh,I;Kwak,J;Liu,Z;Terasaki,O.;Ryoo,R.;Nature,2001,412,169−172
【非特許文献2】Wang,C.;Daimon,H.;Lee,Y.;Kim,J.;Sun,S.;J.Am.Chem.Soc.2007,129,6974−6975
【非特許文献3】Wang,C.;Daimon,H.;Onodera,T.;Koda,T.;Sun,S.;Angew.Chem.,Int.Ed.2008,47,3588−3591
【非特許文献4】Kijima,T.;Nagatomo,Y.;Takemoto,H.;Uota,M.;Fujikawa,D.;Sekiya,Y.;Kishishita,T.;Shimoda,M.;Yoshimura,T.;Kawasaki,H.;Sakai,G.;Adv.Funct.Mater.2009,19,1055−1058
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高価な貴金属を少量しか用いず、触媒の材料コストの低減とともに、熱凝集に伴う触媒活性低下の抑制を可能にする金属触媒構造体及びその製造方法を提供することを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
(1) 空洞部と、前記空洞部に連通する孔部とが設けられた殻状体からなり、前記空洞部の内表面に高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる触媒活性層が設けられていることを特徴とする金属触媒構造体。
(2) 前記殻状体が、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなることを特徴とする(1)に記載の金属触媒構造体。
【0008】
(3) 前記殻状体が、高機械的強度の遷移金属又はその合金からなり、前記空洞部の内表面に、高触媒活性の遷移金属又はその合金の粒子が担持されていることを特徴とする(1)に記載の金属触媒構造体。
(4) 前記粒子が、互いに離間して担持されていることを特徴とする(3)に記載の金属触媒構造体。
【0009】
(5) 前記粒子が密接して担持されており、膜状とされていることを特徴とする(3)に記載の金属触媒構造体。
(6) 前記粒子と前記殻状体との間に、金属酸化物層が設けられていることを特徴とする(3)〜(5)のいずれかに記載の金属触媒構造体。
【0010】
(7) 前記金属酸化物層がAl、コージライト、チタニア、セリア又はYSZのいずれか又はそれらの混合相からなることを特徴とする(6)に記載の金属触媒構造体。
(8) 前記高機械的強度の遷移金属がNiまたはFeであることを特徴とする(3)〜(7)のいずれかに記載の金属触媒構造体。
(9) 前記高触媒活性の遷移金属がPt、Rd又はPdであることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の金属触媒構造体。
【0011】
(10) 固体コアを成形する工程と、前記固体コアの表面に、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子を密接させて担持させて膜状体を形成するか、又は、前記粒子を担持させてから、前記粒子を覆うように高機械的強度の遷移金属又はその合金からなる膜状体を形成する工程と、前記固体コアを加熱により気化して前記膜状体の内側に空洞部を形成するとともに、ガス圧力により前記膜状体に孔部を形成する工程と、を有することを特徴とする金属触媒構造体の製造方法。
【0012】
(11) 前記粒子を担持させた後、高機械的強度の遷移金属又はその合金からなる膜状体を形成する前に、前記粒子を覆うように金属酸化物層前駆体層を形成することを特徴とする(10)に記載の金属触媒構造体の製造方法。
(12) 前記固体コアが有機高分子材料から成ることを特徴とする(10)又は(11)に記載の金属触媒構造体の製造方法。
(13) 前記有機高分子材料がポリスチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする(12)に記載の金属触媒構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属触媒構造体は、空洞部と、前記空洞部に連通する孔部とが設けられた殻状体からなり、前記空洞部の内表面に高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる触媒活性層が設けられている構成なので、高価な貴金属を少量しか用いず、触媒反応のコストを低減するとともに、熱凝集に伴う触媒活性の低下を抑制することができる。
【0014】
本発明の金属触媒構造体の製造方法は、固体コアを成形する工程と、前記固体コアの表面に、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子を密接させて担持させて膜状体を形成するか、又は、前記粒子を担持させてから、前記粒子を覆うように高機械的強度の遷移金属又はその合金からなる膜状体を形成する工程と、前記固体コアを加熱により気化して前記膜状体の内側に空洞部を形成するとともに、ガス圧力により前記膜状体に孔部を形成する工程と、を有する構成なので、高価な貴金属を少量しか用いず、触媒の材料コストを低減するとともに、熱凝集の際の触媒活性の低下を抑制した金属触媒構造体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の金属触媒構造体の一例を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は側面図であり、(c)は(a)のA−A’線における断面図である。
【図2】本発明の金属触媒構造体のCO酸化触媒反応の一例を示す図である。
【図3】本発明の金属触媒構造体の加熱前後の状態を示す図である。
【図4】本発明の金属触媒構造体の製造工程の一例を説明する図である。
【図5】本発明の金属触媒構造体の別の一例を示す断面図である。
【図6】本発明の金属触媒構造体の別の一例を示す断面図である。
【図7】本発明の金属触媒構造体の別の一例を示す断面図である。
【図8】本発明の金属触媒構造体の製造工程の別の一例を説明する図である。
【図9】本発明の金属触媒構造体の製造工程の別の一例を説明する図である。
【図10】本発明の金属触媒構造体の別の一例を示す断面図である。
【図11】金属触媒構造体(実施例1試料)のSEM写真である。
【図12】実施例1試料と比較例1試料のサイクリックヴォルタンメトリーである。
【図13】Pt単位質量当たりのCOの累積酸化反応率と、反応時間(開始後の時間)との関係を示すグラフである。
【図14】従来の金属触媒の一例を示す図である。
【図15】従来の金属触媒が高温で凝集する様子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である金属触媒構造体及びその製造方法について説明する。
【0017】
(本発明の第1の実施形態)
<金属触媒構造体>
図1は、本発明の第1の実施形態である金属触媒構造体を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は側面図であり、(c)は(a)のA−A’線における断面図である。
図1に示すように、本発明の第1の実施形態である金属触媒構造体11は、殻状体25と、粒子21とから概略構成されている。
【0018】
殻状体25には、空洞部25cと、空洞部25cと外部とを連通する孔部22が設けられている。空洞部25cの内表面に、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子21が配置され、触媒活性層23を形成する。粒子21は、孔部22を介して外部から空洞部25c内に導入されたガスの成分を触媒反応させることが可能である。
【0019】
粒子21は、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子であり、例えば、Pt粒子である。
また、粒子21は互いに離間するように配置してもよく、あるいは、1原子層以下の厚みから成る膜状に形成してもよい。1粒子は、1原子〜数十原子からなる。粒子21を互いに十分離間するように配置した場合、これを1原子層以下の厚みから成る膜状とみなすことができる。
【0020】
図2は、金属触媒構造体11のCO酸化触媒反応の一例を示す図である。
粒子21としてPtを用いた例を示している。孔部22を介して、外部から空洞部25c内にCOガスとOガスを導入することにより、粒子21の表面でCOをOで酸化し、COを生成することができる。
なお、触媒反応はCO酸化に限られるものではない。
【0021】
殻状体25は、高機械的強度の遷移金属又はその合金からなる。遷移金属としては例えば、Fe、Ni、またはPt等を利用することができる。殻状体25を、高機械的強度の遷移金属又はその合金で構成することにより、殻状体25同士を凝集するように接触させたとしても、殻状体25は塑性変形を受けず、空洞部25cが不可逆的に押しつぶされることはない。
ここで、高機械的強度とは、材料の降伏強度>50MPaを意味する。高機械的強度の遷移金属としては、例えば、Fe(降伏強度〜90MPa)、Ni(降伏強度〜58MPa)等を挙げることができる。
更に、高機械的強度の遷移金属を高融点(>1000℃)の材料とすることにより、殻状体25の熱凝集(1次凝集)を抑制することができる。
【0022】
図3は、金属触媒構造体11の加熱前後の状態を示す図である。
図16に示す従来の金属触媒と異なり、金属触媒構造体11は殻状体25の空洞部25c内に触媒活性層23を設ける構成なので、支持体25同士を接触させて熱凝集(1次凝集)させたとしても、粒子21を熱凝集(2次凝集)させることがなく、粒子21の表面積を維持することができ、触媒反応効率の低下を抑制することができる。
また、熱凝集が生じない材料で殻状体25を構成すれば、殻状体25同士の1次凝集自体を抑制することができる。
【0023】
殻状体25の形状は、略球状とされている。しかし、これに限られるものではなく、直方体状、円錐体状、多面体状等としてもよい。
なお、殻状体25の大きさは、略球状の場合、長径が2μm以上0.1mm以下とすることが好ましい。長径が0.1mmを超える殻状体は構造的に脆弱となり、空洞部を保持できなくなるため、好ましくない。逆に殻状体25の長径が2μm未満の場合には、通常1〜2μm程度の直径を持つ孔部22(図11を参照)と殻状体25の大きさが同程度となり、空洞部25cが形成されない結果、触媒反応層23が外部に露出して1次凝集を起こす危険性があるため、好ましくない。
【0024】
殻状体25の内表面に触媒活性層23を設ける構成なので、内表面積が大きくなるように空洞部25cを形成することが好ましい。例えば、殻状体25の形状が略球状である場合には、空洞部25cの形状も略球状とすることが好ましい。
【0025】
殻状体25の厚さは、殻状体25の径の0.1%以上25%以下とすることが好ましく、0.5%以上10%以下とすることがより好ましい。0.1%未満とした場合、殻状体25の大きさ、殻状体25を構成する遷移金属又はその合金の高機械的強度にもよるが、熱凝集の際、殻状体25が塑性変形を受け、空洞部25cが不可逆的に押しつぶされるおそれがある。一方、25%超とした場合には、空洞部25cの大きさが小さくなり、触媒活性領域23が小さくなり、触媒効率を低下させるほか、固体コアの気化に伴う圧力上昇を利用する本願の製造方法では、孔部22を形成できないおそれがある。
【0026】
孔部22は、触媒反応させる物質(ガス)の導入孔であるとともに、触媒反応により生成した物質(ガス)の排出孔である。そのため、孔部22の形状、大きさ、数は、触媒反応させる物質の導入し易さ及び触媒反応により生成した物質の排出し易さ、触媒活性層23の面積等を考慮して決定することが好ましい。
孔部22の大きさは、支持体の外表面積の0.5%以上40%未満であることが好ましく、2%以上30%未満であることがより好ましい。これにより、殻状体25を接触させても、触媒活性領域23を1次凝集から保護することができるため、触媒反応の効率を高く保つことができるとともに、触媒反応させる物質の導入及び排出し易さを高く保ち、触媒反応を効率的に行うことができる。0.5%未満とした場合には、触媒反応させる物質を効率よく導入し、触媒反応により生成した物質を効率よく排出することができず、触媒反応の効率を向上させることができない。一方、40%以上とした場合には、外部から隔絶された空洞部25cを形成することができない場合が発生しうる。
【0027】
例えば、殻状体25として、直径0.01mm(10μm)程度の略球状のものを用いた場合には、孔部の大きさを直径0.001mm(1μm)程度とする。これにより、十分な量のガスを空洞部25c内に導入し、空洞部25c内から排出可能であるとともに、触媒反応をさせるのに十分な面積の触媒活性層23を確保することができ、触媒反応を効率的に行うことができる。
なお、孔部22の形状及び数は、特に限定されない。
【0028】
<金属触媒構造体の製造方法>
本発明の第1の実施形態である金属触媒構造体11の製造方法は、固体コアを成形する工程(第1工程)と、前記固体コアの表面に、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子を担持させてから、前記粒子を覆うように高機械的強度の遷移金属又はその合金からなる膜状体を形成する工程(第2工程)と、前記固体コアを加熱により気化して前記膜状体の内側に空洞部を形成するとともに、ガス圧力により前記膜状体に孔部を形成する工程(第3工程)と、を有する。
【0029】
図4は、金属触媒構造体11の製造工程を説明する図である。
(第1工程)
まず、図4(a)に示すように、固体コア31を球状に成形する。成形の形状は、直方体状、円錐体状、多面体状等としてもよい。
固体コア31は、殻状体25および触媒活性粒子21を構成する材料の融点よりも低い温度で加熱することによって気化する材料でできている必要がある。固体コアの材料として、例えば、有機高分子材料を挙げることができる。有機高分子材料は、成形しやすく、常温・常圧の大気下で安定であるとともに、容易に融解・気化させることができるためである。有機高分子材料としては、ポリスチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0030】
(第2工程)
次に、図4(b)に示すように、固体コア31の外表面に粒子21を1粒子以下の厚さで担持させる。粒子21は、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子であり、例えば、Pt粒子である。
次に、図4(c)に示すように、粒子21を覆うように、膜状体24を形成する。膜状体24は、高機械的強度の遷移金属又はその合金からなり、例えば、Fe、Ni等である。
【0031】
前記担持方法は、例えば、以下のウェットプロセスを用いることができる。
まず、球状に成形した固体コア31をエタノール溶液に浸漬させる。
次に、HPtClとヒドラジン(還元剤)をエタノール溶液に分散させ、無電解メッキにより、固体コア31の外表面にPtからなる粒子を担持させる。
次に、Niイオンを溶解した水溶液にPt粒子を担持させた固体コア31を分散して、無電解メッキにより、Pt粒子を覆うように、Niからなる膜状体24を形成させる。なお、膜状体24は、固体コア31と粒子21を完全に覆った閉殻状に形成させる必要がある。
無電解メッキにより、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子を容易に担持させることができるとともに、膜状体24も容易に形成することができ、更に、それらの厚さを高精度で制御することができる。
【0032】
(第3工程)
次に、膜状体24まで形成した固体コア31をオーブン内に配置し、常圧大気中において、所定の温度で所定時間加熱する。
加熱温度は、固体コア31を気化できる温度であればよい。固体コア31を気化することにより、膜状体24の内側に空洞部25cを形成することができる。また、生成したガスの圧力により、膜状体24に孔部22を形成することができる。孔部22が形成されると、ガスは孔部22から外部へ排出される。
例えば、固体コア31の材料としてポリスチレンを用いた場合には、500℃近傍に加熱することによってポリスチレン蒸気を生成でき、生成したガスの圧力により、膜状体24に孔部22を容易に形成することができる。
以上の工程により、図4(d)に示すように、金属触媒構造体11を製造することができる。
【0033】
(本発明の第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態である金属触媒構造体を示す図である。
本発明の第2の実施形態である金属触媒構造体12は、粒子21が互いに離間するように担持されている他は、金属触媒構造体11と同様の構成とされている。
この構成でも、空洞部25c内に触媒活性層23が設けられている構成なので、加熱の際、金属触媒構造体12が1次凝集を起こしても、空洞部25c内の触媒活性層23の面積に影響を与えることはなく、触媒活性が低下することはない。
【0034】
(本発明の第3の実施形態)
図6は、本発明の第3の実施形態である金属触媒構造体を示す図である。
本発明の第3の実施形態である金属触媒構造体13は、粒子21が互いに密接して付着されて、膜状に形成されている他は、金属触媒構造体11と同様の構成とされている。
この構成でも、空洞部25c内に触媒活性層23が設けられている構成なので、加熱の際、金属触媒構造体13が1次凝集を起こしても、空洞部25c内の触媒活性層23の面積に影響を与えることはなく、触媒活性が低下することはない。
【0035】
(本発明の第4の実施形態)
図7は、本発明の第4の実施形態である金属触媒構造体を示す図である。
図7に示すように、本発明の第4の実施形態である金属触媒構造体14は、粒子21が互いに密接して付着され、膜状に形成されて、殻状体45とされている他は、金属触媒構造体13と同様の構成とされている。
【0036】
殻状体45には、空洞部45cと、空洞部45cと外部とを連通する孔部42が設けられている。殻状体45は、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなるので、空洞部45cの内表面45aは、孔部42を介して外部から空洞部45c内に導入されたガスの成分を触媒反応させることが可能な触媒活性層23となっている。
【0037】
殻状体45は高機械的強度を有するので、加熱の際、殻状体45を凝集させても、空洞部45aを安定に保持して、触媒活性層23を安定に保持することができ、触媒活性を低下させないようにできる。なお殻状体45は、Pt、Rh又はPdなどの高機械的強度、高触媒活性の遷移金属からなる。
【0038】
図8、9は、金属触媒構造体14の製造方法の一例を示す図である。
金属触媒構造体14の製造方法は、固体コアを成形する工程(第1工程)と、前記固体材料の表面に、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子を密接させて担持させて膜状体を形成する工程(第2工程)と、前記固体コアを加熱により気化して前記膜状体の内側に空洞部を形成するとともに、ガス圧力により前記膜状体に孔部を形成する工程(第3工程)と、を有する。
本実施形態の第1工程、第3工程は、第1の実施形態の第1工程、第3工程と同様である。
【0039】
(第1工程)
まず、図8(a)に示すように、固体コア31を球状に成形する。固体コア31の材料としては、ポリスチレン等を挙げることができる。
【0040】
(第2工程)
次に、図8(b)に示すように、固体コア31の外表面を覆うように、粒子21を担持させて、膜状体44を形成する。粒子21は、高機械的強度、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子であり、例えば、Pt粒子である。
膜状体44は、固体コア31を完全に覆う閉殻状になるように形成させる必要がある。
【0041】
前記担持方法は、例えば、以下のウェットプロセスを用いることができる。
まず、図9(a)に示すように、球状に成形した固体コア31をエタノール溶液に浸漬させる。
次に、図9(b)に示すように、HPtClとヒドラジン(還元剤)をエタノール溶液に分散させ、無電解メッキにより、固体コア31の外表面にPtからなる粒子を担持させて、膜状体44を形成する。Pt粒子を用いた場合、膜状体44はPt被膜となる。
無電解メッキにより、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子を容易に担持させて、膜状体44も容易に形成することができ、更に、その厚さを高精度で制御することができる。
【0042】
(第3工程)
次に、固体コア31をオーブン内に配置し、常圧大気中、所定の温度で所定時間加熱する。これにより、固体材料31を気化でき、膜状体44の内側に空洞部45cを形成することができる。また、生成したガスの圧力により、膜状体44に孔部42を形成することができる。孔部42が形成されると、ガスは孔部42から外部へ排出され、殻状体45が形成される。
例えば、固体コア31の材料としてポリスチレンを用いた場合には、500℃近傍に加熱することにより、図9(c)に示すように、ポリスチレン蒸気を生成し、ガス圧力により、孔部を形成して、これを排出することにより、図8(c)及び図9(d)に示す金属触媒構造体14を製造することができる。
【0043】
本実施形態では、第2工程で、前記固体材料の表面に、高機械的強度かつ高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる膜を形成し、これを殻状体45とする構成なので、第1〜第3の実施形態の金属触媒構造体11〜13よりも容易に製造できる。
【0044】
(本発明の第5の実施形態)
図10は、本発明の第5の実施形態である金属触媒構造体を示す図である。
本発明の第5の実施形態である金属触媒構造体15は、粒子21と殻状体25との間に金属酸化物層26が設けられた他は金属触媒構造体11と同様の構成である。
【0045】
金属酸化物層26は、Al、コージライト、チタニア、セリア又はYSZのいずれかまたはそれらの混合物からなることが好ましい。これにより、粒子21を強く金属酸化膜26に固着させて、空洞部25cの内表面に安定して保持することができる。コージライト(CORDIERITE)は、2MgO・2Al・5SiOの組成を有する。また、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)は、ジルコニア(酸化ジルコニウム:ZrO)とイットリア(酸化イットリウム:Y)からなる。
【0046】
金属酸化物層26を設けた構成でも、空洞部25c内に触媒活性層23が設けられている構成に変わりはなく、したがって加熱の際、金属触媒構造体15が1次凝集を起こしても、空洞部25c内の触媒活性層23の面積に影響を与えることはなく、触媒活性が低下することはない。さらに、金属酸化物層26が粒子21を強固に固着するため、2次凝集を抑制することができ、触媒活性の低下を防ぐことができる。
【0047】
次に、金属触媒構造体15の製造方法について説明する。
本実施形態は、第1の実施形態と同様の工程を含むので、図4、図9を利用して説明する。
金属触媒構造体15の製造方法は、固体コア表面に、無電解メッキによって粒子21を担持させた後、高機械的強度の遷移金属又はその合金からなる膜状体25を形成する前に、前記粒子21を覆うように金属酸化物前駆体層を形成する。金属酸化物前駆体層の材料としては、例えば、Alエトキシド等を用いることができる。
【0048】
続いて、金属酸化物前駆体層を覆うように、再び無電解メッキによって、高機械強度の遷移金属またはその合金から成る殻状体25を形成させる。殻状体25は、金属酸化物前駆体層を完全に覆う閉殻状でなくてはならない。
次に、固体コア31をオーブン内に配置し、常圧大気中、所定の温度で所定時間加熱する。これにより、固体コア31を気化でき、殻状体25の内側に空洞部25cを形成することができる。また、生成したガスの圧力により、殻状体25に孔部22を形成することができる。孔部22が形成されると、ガスは孔部22から外部へ排出される。固体コアの気化とともに、金属酸化物前駆体は分解・酸化され、金属酸化物層26が形成される。例えばAlエトキシドを前駆体に用いた場合には、Al層が形成される。
【0049】
固体コア31の材料としてポリスチレンを用いた場合には、500℃近傍に加熱することにより、図9(c)に示すように、ポリスチレン蒸気を生成し、ガス圧力により、孔部を形成して、これを排出することにより、図10に示す金属触媒構造体15を製造することができる。
【0050】
本発明の実施形態である金属触媒構造体及びその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
まず、Ptイオンを溶解した常温常圧のアルコール溶媒中に、市販のポリスチレン(PS)微細粉末を分散後、化学還元剤であるヒドラジン水溶液を滴下することにより、PS表面にPt被膜を析出させた。これを取出し、水洗・乾燥後、常圧大気中で500℃まで加熱し、PSを気化した。PSの融解・気化に伴い、Pt被膜内部に空洞が形成されると同時に、PSガスがPt被膜を破り、脱出口を形成し、中空殻状構造を持つ金属触媒構造体が得られた(実施例1試料)。
図11は、金属触媒構造体(実施例1試料)のSEM写真である。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同じ条件で調整したPtイオンを溶解した常温常圧のアルコール溶媒中に、実施例1と同じポリスチレン(PS)微細粉末を分散後、実施例1と同じヒドラジン水溶液を滴下することにより、PS表面にPt被膜を析出させ、Pt被膜PS(比較例1試料)を作製した。
【0053】
<試料評価>
まず、金属触媒構造体を、プロトン伝導体であるナフィオンとともにグラシーカーボン電極表面に分散し、これを電極として、常温常圧の水中における電気化学的水素酸化反応に対する活性評価を行った(図12)。図12のサイクリックヴォルタンメトリー結果に示す通り、Pt単位重量で比較した時、金属触媒構造体(実施例1試料)の水素酸化電流値は、任意のポテンシャルにおいて、Pt被膜PS(比較例1試料)の水素酸化電流値の約2倍であった。電気化学的水素酸化反応に対する触媒活性は、一般に触媒表面の面積に比例する。上記の結果から、金属触媒構造体が、その幾何学形状から期待される通り、Pt被膜PSの約2倍の表面積を持つことが結論される。
【0054】
次に、PSが融解しない程度の高温(125℃)における、金属触媒構造体とPt被膜PSの、CO酸化反応に対する触媒活性を評価した。図13は、Pt単位質量当たりのCOの累積酸化反応率と、反応時間(反応開始後の時間)との関係を示すグラフである。
図13に示す通り、0分(開始時)では、金属触媒構造体(実施例1試料)による単位時間当たりのCOの累積酸化反応率(曲線の傾きに該当する)は、Pt被膜PS(比較例1試料)の約2倍である。しかし、反応開始55分後には、金属触媒構造体(実施例1試料)による単位時間当たりのCOの累積酸化反応率は、Pt被膜PS(比較例1試料)の約10倍となる。
【0055】
金属触媒構造体(実施例1試料)による単位時間当たりのCOの累積酸化反応率は、0分から55分までの反応時間の間、ほぼ一定値を保っていた。金属触媒構造体(実施例1試料)は、加熱条件下にあっても、一定の触媒活性を保つことができたものと判断される。一方のPt被膜PS(比較例1試料)においては、反応時間の経過に伴い、単位時間当たりのCO酸化反応率が低下してゆく。Pt被膜PS(比較例1試料)は、加熱による熱凝集に伴い、触媒活性を失っていったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の金属触媒構造体及びその製造方法は、高価な貴金属を少量しか用いず、触媒の材料コストを低減するとともに、熱凝集に伴う触媒活性の低下を抑制することができる金属触媒構造体及びその製造方法に関するものであり、毒性ガスを無毒化する触媒材料を取り扱う産業一般に有用な技術であり、更に環境産業等において利用可能性がある。なお、本発明の適用範囲は特定の触媒活物質に限定されるものではないため、用途に応じた適切な触媒活物質を選択することにより、上記以外の触媒産業にも利用可能性がある。
【符号の説明】
【0057】
11、12、13、14、15、16…金属触媒構造体、21…粒子、22…孔部、23…触媒活性層、24…膜状体、25…殻状体、25c…空洞部、26…金属酸化物層、31…固体材料、42…孔部、44…膜状体、45…殻状体、45a…内表面、45c…空洞部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞部と、前記空洞部に連通する孔部とが設けられた殻状体からなり、
前記空洞部の内表面に高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる触媒活性層が設けられていることを特徴とする金属触媒構造体。
【請求項2】
前記殻状体が、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなることを特徴とする請求項1に記載の金属触媒構造体。
【請求項3】
前記殻状体が、高機械的強度の遷移金属又はその合金からなり、
前記空洞部の内表面に、高触媒活性の遷移金属又はその合金の粒子が担持されていることを特徴とする請求項1に記載の金属触媒構造体。
【請求項4】
前記粒子が、互いに離間して担持されていることを特徴とする請求項3に記載の金属触媒構造体。
【請求項5】
前記粒子が密接して担持されており、膜状とされていることを特徴とする請求項3に記載の金属触媒構造体。
【請求項6】
前記粒子と前記殻状体との間に、金属酸化物層が設けられていることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の金属触媒構造体。
【請求項7】
前記金属酸化物層がAl、コージライト、チタニア、セリア又はYSZのいずれか又はそれらの混合相からなることを特徴とする請求項6に記載の金属触媒構造体。
【請求項8】
前記高機械的強度の遷移金属がNiまたはFeであることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項に記載の金属触媒構造体。
【請求項9】
前記高触媒活性の遷移金属がPt、Rd又はPdであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属触媒構造体。
【請求項10】
固体コアを成形する工程と、
前記固体コアの表面に、高触媒活性の遷移金属又はその合金からなる粒子を密接させて担持させて膜状体を形成するか、又は、前記粒子を担持させてから、前記粒子を覆うように高機械的強度の遷移金属又はその合金からなる膜状体を形成する工程と、
前記固体コアを加熱により気化して前記膜状体の内側に空洞部を形成するとともに、ガス圧力により前記膜状体に孔部を形成する工程と、を有することを特徴とする金属触媒構造体の製造方法。
【請求項11】
前記固体コアの表面に前記粒子を担持させた後、高機械的強度の遷移金属又はその合金からなる膜状体を形成する前に、前記粒子を覆うように金属酸化物前駆体層を形成することを特徴とする請求項10に記載の金属触媒構造体の製造方法。
【請求項12】
前記固体コアが有機高分子材料から成ることを特徴とする請求項10又は11に記載の金属触媒構造体の製造方法。
【請求項13】
前記有機高分子材料がポリスチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする請求項12に記載の金属触媒構造体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−200660(P2012−200660A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66987(P2011−66987)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月29日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/ja107589m」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】