説明

金属触媒,金属触媒の製造方法,電極,電極の製造方法,および燃料電池

【課題】導電性触媒物質と,導電性触媒物質の表面に形成されるプロトン伝導性物質コーティング層とを有する金属触媒,およびこの金属触媒を採用した電極を備える燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明によれば,導電性触媒物質表面にプロトン伝導性物質が均一にコーティングされ,電気化学反応のための三相界面の形成と制御とを容易にし,触媒粒子上に形成された薄いプロトン伝導性物質よりなるコーティング層を通して,気体反応物の触媒への接近を助け,電気化学反応で生成されたプロトンを効果的に伝達することが可能な金属触媒,およびこの金属触媒を採用した電極を備える燃料電池が提供される。このような触媒を用いて電極を形成する場合,理想的な3相界面電極構造を形成でき,このような電極を備えた燃料電池は効率などの性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,金属触媒,金属触媒の製造方法,電極,電極の製造方法,および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は,化石エネルギーに代わる未来の清浄エネルギー源として,多くの関心と期待とを集めている。
【0003】
燃料電池は,水素と酸素との電気化学的反応から直流の電気を生産する電力生成システムであって,電解質を中心にアノードとカソードの二電極が位置する膜電極複合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)と,気体を伝達する流路板とで構成されている。この際,電極は,炭素紙あるいは炭素布の支持層上に形成された触媒層よりなる。しかし,実際には,触媒層で気体反応物の触媒への接近が難しいために,電気化学反応により生成されたプロトンの迅速な移動が難しく,電極内の触媒が効果的に利用されていない。
【0004】
上記のカソード及びアノードは,触媒とイオノマーとを含有するスラリーを,支持層のガス拡散層の上部にキャスティングした後,このスラリーを乾燥させて触媒層を形成することによって完成される。
【0005】
【特許文献1】国際公開第99/004445号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように電極の触媒層を製作すれば,イオノマーが触媒層にドーピングまたは単純に混合されて製作される。そのため,触媒との分散性が落ち,触媒層内で凝集現象が激しくなる。そのために,2次気孔形成及びイオノマー不均一現象により,未反応触媒増加による触媒利用率の低下や,燃料供給通路の不足及び燃料の透過性低下など,様々な問題点が発生する。その結果,燃料電池の性能が顕著に減少するという問題点があった。また,電気化学反応のための三相界面の形成と制御が難しく,触媒効率が低下するという問題点があった。
【0007】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,触媒効率が改善された金属触媒およびその製造方法,上記触媒層を備えて効率が向上した電極およびその製造方法,ならびに上記電極を採用して効率などの性能が改善された燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために,本発明の第1の観点によれば,導電性触媒物質と;その物質の表面に形成されたプロトン伝導性物質コーティング層と;を有する金属触媒が提供される。
【0009】
上記のプロトン伝導性物質コーティング層は,ポリベンズイミダゾール,ポリエーテルケトン(PolyEtherKetone:PEK),ポリエーテルイミド(PolyEtherImide:PEI),ポリスルホン,およびパーフルオロスルホン酸からなる群より選択された1つ以上のイオノマーであるか,または,上記イオノマーが酸ドーピング処理されたものを含んでもよい。
【0010】
上記の酸は,リン酸であってもよい。
【0011】
上記の導電性触媒物質は,Pt,Fe,Co,Ni,Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Cu,Ag,Au,Sn,Ti,Cr,上記元素の混合物,上記元素の合金,および上記元素が担持されたカーボンであってもよい。
【0012】
上記導電性触媒物質は,白金が担持されたカーボン(Pt/C)であり,上記プロトン伝導性物質は,ポリベンズイミダゾールがリン酸ドーピング処理されたものであってもよい。
【0013】
上記プロトン伝導性物質の含有量は,導電性触媒物質100質量部を基準として1〜50質量部であってもよい。
【0014】
上記課題を解決するために,本発明の第2の観点によれば,イオノマー(ionomer)を第1溶媒に混合して,イオノマー溶液を得る第1段階と;導電性触媒物質を上記第1溶媒に混合して,導電性触媒溶液を得る第2段階と;上記第2段階によって得た上記導電性触媒溶液を,上記第1段階によって得た上記イオノマー溶液に付加する第3段階と;上記第3段階によって得た結果物を,第2溶媒に付加する第4段階と;上記第4段階によって得た結果物から,上記第1溶媒及び上記第2溶媒を除去する第5段階と;を含み,上記導電性触媒物質と該導電性触媒物質の表面に形成されたプロトン伝導性物質コーティング層とを有する金属触媒の製造方法が提供される。
【0015】
上記第1溶媒は良溶媒であってもよい。また,上記第2溶媒は良溶媒であってもよい。
【0016】
上記の第5段階によって得た結果物を,酸処理する段階をさらに含んでもよい。
【0017】
上記の酸は,リン酸またはリン酸溶液であってもよい。
【0018】
上記の第1溶媒は,N−メチルピロリドン(NMP),ジメチルアセトアミド(DMAc),ジメチルホルムアミド(DMF)およびトリフルオロ酢酸(TFA)からなる群より選択された1つ以上であってもよい。
【0019】
上記の第2溶媒は,水またはヘキサンの少なくともいずれか一方であってもよい。
【0020】
上記のイオノマーは,ポリベンズイミダゾール,ポリエーテルケトン(PolyEtherKetone:PEK),ポリエーテルイミド(PolyEtherImide:PEI),ポリスルホン,およびパーフルオロスルホン酸からなる群より選択された1つ以上であってもよい。
【0021】
上記イオノマーの含有量は,導電性触媒物質100質量部を基準として,1〜50質量部であってもよい。
【0022】
上記第1段階における上記第1溶媒の含有量は,上記イオノマー100質量部を基準として4000〜6000質量部であり,上記第2段階における上記第1溶媒の含有量は,上記導電性触媒物質100質量部を基準として400〜600質量部であってもよい。
【0023】
上記第4段階における上記第2溶媒の含有量は,上記イオノマー100質量部を基準として20000〜40000質量部であってもよい。
【0024】
上記課題を解決するために,本発明の第3の観点によれば,上記の金属触媒を含む電極が提供される。
【0025】
上記課題を解決するために,本発明の第4の観点によれば,上記の金属触媒を,疎水性バインダー及び第3溶媒と混合して触媒層形成用の組成物を得る第1段階と;上記触媒層形成用の組成物を,電極支持体上にコーティングした後に乾燥させる第2段階と;上記第2段階の結果物を,酸処理する第3段階と;を含む電極の製造方法が提供される。
【0026】
上記の疎水性バインダーは,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),フッ素化されたエチレンプロピレン(FEP)からなる群より選択された1つ以上であり,上記疎水性バインダーの含有量は,上記金属触媒100質量部を基準として1〜40質量部であってもよい。
【0027】
上記の第3溶媒は,水及びイソプロピルアルコールから選択されてもよい。
【0028】
上記の酸は,リン酸またはリン酸溶液であってもよい。
【0029】
上記の第2段階の乾燥時に,上記触媒層形成用の組成物を60〜120℃で乾燥させるか,または−20〜−60℃で凍結乾燥させてもよい。
【0030】
上記課題を解決するために,本発明の第5の観点によれば,カソード,アノード及び上記カソードとアノードとの間に介在された電解質膜を含み,上記カソード及びアノードのうち少なくとも1つが,上記の金属触媒を含有する燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば,導電性触媒粒子表面にプロトン伝導性物質が均一にコーティングされ,電気化学反応のための三相界面の形成と制御とが容易となり,触媒粒子上に形成された薄いプロトン伝導性物質よりなるコーティング層を通して,気体反応物の触媒への接近を助け,電気化学反応で生成されたプロトンを効果的に伝達することが可能な,金属触媒,金属触媒の製造方法,電極,電極の製造方法,および燃料電池を提供することができる。このような金属触媒を用いて電極を形成する場合,理想的な三相界面電極構造を形成でき,このような電極を備えた燃料電池は,効率などの性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0033】
本発明の第1の実施形態に係る金属触媒物質は,導電性触媒物質と,この導電性触媒物質の表面に形成されたプロトン伝導性物質コーティング層とを有する。上記のプロトン伝導性物質は,ポリベンズイミダゾール,PEK,PEI,ポリスルホン,パーフルオロスルホン酸からなる群より選択された1つ以上のイオノマーであるか,または上記イオノマーが酸ドーピング処理されたものである。
【0034】
上記の酸は,特に制限されるものではないが,例えば,リン酸などを挙げることができる。また,上記のリン酸としては,リン酸が水に希釈された約85質量%のリン酸水溶液を使用することも可能である。
【0035】
上記の導電性触媒物質としては,例えば白金(Pt),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),オスミウム(Os),イリジウム(Ir),銅(Cu),銀(Ag),金(Au),スズ(Sn),チタン(Ti),クロム(Cr),これらの元素の混合物,これらの元素の合金,及び上記の元素が担持されたカーボンがある。
【0036】
望ましくは,上記の導電性触媒物質は,白金が担持されたカーボン(Pt/C)であり,上記のプロトン伝導性物質は,ポリベンズイミダゾール(PolyBenzImidazole:PBI)がリン酸ドーピング処理されたものである。
【0037】
ポリベンズイミダゾールのリン酸ドーピングレベルは,望ましくは200〜750mol%程度の範囲である。
【0038】
本実施形態に係る金属触媒において,上記プロトン伝導性物質の含有量は,例えば,導電性触媒物質100質量部を基準として1〜50質量部である。もし,プロトン伝導性物質の含有量が1質量部未満ならば,触媒層内で,十分な三相界面形成に必要なポリベンズイミダゾールの含有量が足りなくなり,触媒の効率低下を招いてしまう。また,50質量部を超えれば,ポリベンズイミダゾールが触媒上に厚い層を形成し,気体反応物の触媒への拡散を遅くしてしまい,望ましくない。
【0039】
図1Aを参照して,本実施形態に係る金属触媒の構造を説明するが,導電性触媒としては,カーボンに担持された白金(Pt/C)触媒を,そして,プロトン伝導性物質としては,ポリベンズイミダゾール(PBI)を一例として説明する。
【0040】
図1Aは,本実施形態に係る金属触媒の構造を概略的に説明する概略図である。
【0041】
金属触媒100は,カーボン110の上部にPBI120がコーティングされており,カーボン110の表面上部には,Pt粒子130が存在し,図示されていないが,Pt粒子130の表面にも,PBIが多孔性を有しつつ,薄くコーティングされている。
【0042】
そして,図示されていないが,上記PBIにリン酸ドーピングのような酸ドーピングを実施すれば,PBIのN−H部位にHPOが水素結合で結合され,プロトン伝導経路が形成される。ここで,カーボン11は,電子移動経路となり,プロトンはリン酸を通じて伝導される。
【0043】
図1Bは,従来の金属触媒の構造を概略的に説明する概略図である。
【0044】
図1Bを参照すれば,従来の金属触媒10は,カーボン11の表面にPt粒子13が存在し,このカーボン11の表面近傍にPBI12が存在する。このような構造を有する場合,PBIとPt/Cとの分散性が落ち,電気化学反応のための三相界面の確保が難しくなって,触媒の効率が低下する。
【0045】
本実施形態において,PBIは,相分離現象によって高分子が析出する現象により,Pt/C粉末上に導電性触媒としてコーティングされる。
【0046】
非結晶性PBIを,良溶媒(good solvent)である第1溶媒(例えば,NMP)中に完全溶解して均一な溶液を形成すると同時に,これと別の容器にPt/C粉末を第1溶媒のNMPに混合する。その後,上記Pt/C−NMP溶液をPBI−NMP溶液に滴加し,これらを均一に撹拌及び混合する。そして,上記PBI−NMP溶液とPt/C−NMP溶液との混合物を,PBIに対する溶解性の全くない第2溶媒の非溶媒(例えば,水またはヘキサン)に滴定すれば,良溶媒と非溶媒との間に相分離現象が生じ,PBI膜がPt/C粉末上にコーティングされる。この際,相分離原理によって,Pt/C粉末に析出されるPBI膜の厚さ及び吸着の程度は,上記混合溶液の撹拌器の回転速度(rpm)及び超音波強度によって調節されることが可能である。
【0047】
上記混合溶液の回転速度は,約250rpm,超音波強度条件は約0.3kW,時間は約20〜30分である。
【0048】
本実施形態では,PBIのようなイオノマーが導電性触媒を取り囲んでいる構造を予め形成し,その後にプロトン伝導性を与えて電気化学反応のための三相界面の形成と制御とを容易にすると共に,触媒上に形成された薄いコーティング層を通して気体反応物が触媒へ接近することを補助する。そして,電気化学反応で生成されたプロトンを効果的に伝達する。
【0049】
以下に,本実施形態に係る金属触媒及びそれを用いた電極の製造方法を説明する。
【0050】
図2は,本実施形態に係る金属触媒及びこの金属触媒を用いた電極の製造工程を説明するための流れ図である。
【0051】
図2を参照すると,導電性触媒物質と,プロトン伝導が可能なイオノマーとを各々第1溶媒に分散または溶解させて,それぞれ導電性触媒溶液Bとイオノマー溶液Aとを得る。ここで,イオノマーの例としては,例えばポリベンズイミダゾール,PEK,PEI,ポリスルホン,パーフルオロスルホン酸(商品名:ナフィオン)などがある。そして,上記イオノマーの含有量は,例えば導電性触媒触媒100質量部を基準として1〜50質量部を使用する。もし,イオノマーの含有量が1質量部未満ならば,触媒層内で,十分な三相界面形成に必要なイオノマーの含有量が足りなくなり,触媒の効率低下を招いてしまう。また,50質量部を超過すれば,イオノマーが触媒上に厚い層を形成して,気体反応物の触媒への拡散を遅くするので,望ましくない。
【0052】
上記第1溶媒は,良溶媒であって,プロトン伝導性物質に対する溶解度を有し,導電性金属触媒に対する良い分散性を有することが望ましい。第1溶媒の具体的な例として,例えば,N−メチルピロリドン(NMP),ジメチルホルムアセトアミド(DMAc),ジメチルホルムアミド(DMF),トリフルオロ酢酸(TFA)などがある。ここで,上記導電性触媒物質を分散するための第1溶媒の含有量は,例えば導電性触媒物質100質量部を基準として400〜600質量部を使用し,上記イオノマーを溶解するための第1溶媒の含有量は,例えばイオノマー100質量部を基準として4000〜6000質量部を使用することが可能である。もし,第1溶媒の含有量が上記の範囲未満ならば,プロトン伝導性物質を十分に溶解できず,また,導電性触媒物質を均一に分散できない。また,上記範囲を超えて使われれば,乾燥過程が長くなってしまう。
【0053】
上記導電性触媒溶液Bをイオノマー溶液Aに滴加した後,この混合物を第2溶媒に滴定する。
【0054】
このような滴定過程を通じて,撹拌速度と超音波により制御された相分離現象によって,析出したイオノマー膜が導電性触媒表面に化学的に吸着し,導電性触媒とイオノマーとの間の結合が維持される。
【0055】
上記第2溶媒は,低沸点であるために乾燥が容易であるという特性を有しており,このような溶媒は,”非溶媒”とも呼ばれる。このような第2溶媒の具体的な例として,例えば水,ヘキサンから選択された1つ以上を使用することが可能である。そして,第2溶媒の含有量は,イオノマー100質量部を基準にして,例えば20000〜30000質量部を使用することができる。
【0056】
前述した過程の後,乾燥過程を経てから,上記過程によって得た結果物を,酸溶液により処理する段階を経ることもできる。この場合,上記酸溶液としては,例えばリン酸またはリン酸溶液を使用することができる。上記リン酸溶液としては,例えば約85質量%のリン酸水溶液を使用することが可能である。
【0057】
前述したような過程を経ることで,対応する塩が形成され,最終的に導電性触媒の表面にプロトン伝導性物質よりなるコーティング層を有する金属触媒を得ることができる。上記コーティング層は,本実施形態に係る相分離原理により,PBIの滴定濃度によって,触媒Pt/C表面には多孔性の不連続的または連続的なコーティング層が形成される。すなわち,濃度が上昇するほど連続的なコーティング層が形成されるが,PBIの含有量がPt/C質量100質量部を基準に約20質量部以下,特に15〜20質量部である場合,多孔性不連続層が形成される。
【0058】
上記のような金属触媒を疎水性バインダー及び第3溶媒と混合し,これをガス拡散層(Gas Diffusion Layer:GDL)にキャスティングした後,これを乾燥すれば,電極が得られる。ここでは,上記GDLとして,例えば,炭素紙または炭素布などを使用する。
【0059】
上記疎水性バインダーの例として,例えばポリテトラフルオロエチレン(PolyTetraFluoroEthylene:PTFE),フッ素化されたエチレンプロピレン(Fluorinated Ethylene Propylene:FEP)などを挙げることができる。上記疎水性バインダーの含有量は,金属触媒100質量部を基準として,例えば1〜40質量部であることが望ましい。もし,疎水性バインダーの含有量が上記範囲を超えれば,十分なプロトン伝導度及び電気伝導度を得ることが出来ない。
【0060】
上記第3溶媒及びその含有量は,疎水性バインダー物質によって変わる。第3溶媒の例として,例えば水,イソプロピルアルコールまたはその混合溶媒を使用することができる。そして,上記第3溶媒の含有量は,金属触媒100質量部を基準として例えば,500〜10000質量部とすることができる。
【0061】
上記乾燥過程を実施するための条件としては,特に限定されるものではないが,例えば,60〜120℃で一般乾燥するか,または−20〜−60℃で凍結乾燥することができる。もし,一般乾燥時,上記温度範囲を超えてしまうと,十分な乾燥が行われないか,カーボン支持体が酸化されてしまう。凍結乾燥時に上記範囲を超えてしまうと,凝集現象が発生してしまい望ましくない。
【0062】
次いで,上記過程によって得られた電極に酸溶液をドーピングする過程を経る。もし,金属触媒粒子にPBIをコーティングする場合,このようなリン酸溶液のドーピング過程を経れば,PBIのN−H部位にHPOが水素結合で結合するので,プロトン伝導経路が形成される。
【0063】
以下では,本実施形態に係る燃料電池を詳細に説明する。
【0064】
本実施形態に係る燃料電池は,カソード,アノード及び上記カソードとアノードとの間に介在された電解質膜を含むが,この際,上記カソード及びアノードのうち,少なくとも一方が,前述した本実施形態に係る担持触媒を含有している。
【0065】
本実施形態に係る燃料電池は,具体的な例を上げれば,リン酸型燃料電池(Phosphoric Acid Fuel Cell:PAFC),水素イオン交換膜燃料電池(Proton Exchange Membrane Fuel Cell:PEMFC)または直接メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)として作製することができる。このような燃料電池の構造及び製造方法は,特に限定されず,具体的な例が各種文献に詳細に記載されているので,ここでは,その詳細な説明を省略する。
【0066】
以下,本発明を下記実施例に基づいて説明するが,本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
PBI0.2gを,NMP10mlと,常温,250rpmで30分間撹拌して,PBI溶液を製造した。
【0068】
上記PBI溶液と別途に,Pt/C2.0gを,NMP10mlと,常温,250rpmで10分間撹拌して,Pt/C溶液を製造した。
【0069】
超音波条件下で,上記PBI溶液にPt/C溶液を滴加した後に,水50mlに少量ずつ滴加した。次いで,上記溶液を80℃で24時間乾燥し,PBIコーティング層を有するPt/C触媒を得た。
【0070】
上記PBIコーティング層を有するPt/C触媒1gを,疎水性バインダーであるフルオロサーフ(商品名)0.1gと,溶媒であるHFPE(Hydrofluoropolyethers)9.9mlを混合し,常温で3時間ほど撹拌して,触媒層形成用の組成物をスラリー状態で得た。
【0071】
上記スラリーを炭素紙上にアプリケータ(ギャップ:約120μm)を使用してコーティングした後,80℃で3時間,そして120℃で1時間乾燥して電極を完成した。
【0072】
(実施例2)
PBIコーティング層を有するPt/C触媒の製造時に,水の代わりにヘキサンを使用したことを除いては,実施例1と同じ方法によって実施して電極を完成した。
【0073】
(実施例3)
PBIコーティング層を有するPt/C触媒の製造時に,一般乾燥の代わりに凍結乾燥を実施することを除いては,実施例1と同じ方法によって実施して電極を完成した。
【0074】
(実施例4)
製造されたPBIコーティング層を有するPt/C触媒にリン酸を処理したことを除いては,実施例1と同じ方法によって実施して電極を完成した。
【0075】
(実施例5)
実施例1によって完成された電極にリン酸を処理した後,燃料電池セルを構成した。
【0076】
(実施例6)
実施例6の燃料電池は,実施例1の触媒を含有するカソード,PtRuブラック触媒を含有するアノード,及びナフィオン117電解質膜で構成された。そして,燃料としては水素を,酸化剤としては空気を利用した。
【0077】
(比較例1)
Pt/C触媒1gをPBI0.1g,疎水性バインダーであるポリビニリデンフルオライドと混合し,常温で3時間程撹拌して,触媒層形成用の組成物をスラリー状態で得た。
【0078】
上記スラリーを炭素紙上にアプリケータ(ギャップ:約120μm)を使用してコーティングした後,80℃で3時間,そして120℃で1時間乾燥して電極を完成した。
【0079】
上記実施例1によって製造された電極の電流−電圧(I−V)特性を調べたところ,その結果は,図3に示したようになった。
【0080】
図3は,本実施形態によるPBIコーティング触媒粉末を適用した電極を採用した単位セル,および,従来の方式により製作された電極を採用した単位セルの分極特性を示したグラフ図である。
【0081】
アノードには,純粋水素が100ml/minで,カソードには,空気(air)が200ml/minで各々供給され,単位セルは,150℃で作動された。電流密度0.2A/cmにおける実施例の電極は,電圧が約0.53Vを示し,比較例の電極の電圧が約0.5Vであることに比べて,さらに優れた特性が得られた。
【0082】
また,上記実施例1及び比較例1での,Pt/C粉末上へのPBIコーティングの度合いを定量的に確認するために,TEM−EDS分析を実施した。
【0083】
分析の結果,比較例1により製作された電極におけるPt/C粉末表面の場合は,PBIのNの含有量が約40質量%と確認されたが,実施例1によるPBIのコーティングされたPt/C粉末表面の場合は,Nの含有量が約20質量%と確認された。したがって,上記実施例1の場合は,Pt/C上にPBIがさらに均一にコーティングされているということが分かった。
【0084】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は,燃料電池関連の技術分野に好適に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1A】本発明の金属触媒の構造を概略的に説明する概略図である。
【図1B】従来の金属触媒の構造を概略的に説明する概略図である。
【図2】本発明による電極の製造工程を説明するための流れ図である。
【図3】本発明の実施例1によって製造された電極のI−V特性を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0087】
10 金属触媒
11 カーボン
12 プロトン伝導性物質
13 白金触媒粒子
100 金属触媒
110 カーボン
120 プロトン伝導性物質
130 白金触媒粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性触媒物質と;
その物質の表面に形成されたプロトン伝導性物質コーティング層と;
を有することを特徴とする,金属触媒。
【請求項2】
前記プロトン伝導性物質コーティング層は,
ポリベンズイミダゾール,ポリエーテルケトン,ポリエーテルイミド,ポリスルホン,およびパーフルオロスルホン酸からなる群より選択された1つ以上のイオノマーであるか,
または,前記イオノマーが酸ドーピング処理されたものを含むことを特徴とする,請求項1に記載の金属触媒。
【請求項3】
前記酸は,リン酸であることを特徴とする,請求項2に記載の金属触媒。
【請求項4】
前記導電性触媒物質は,Pt,Fe,Co,Ni,Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Cu,Ag,Au,Sn,Ti,Cr,前記元素の混合物,前記元素の合金,および前記元素が担持されたカーボンであることを特徴とする,請求項1〜3のいずれかに記載の金属触媒。
【請求項5】
前記導電性触媒物質は,白金が担持されたカーボン(Pt/C)であり,
前記プロトン伝導性物質は,ポリベンズイミダゾールがリン酸ドーピング処理されたものであることを特徴とする,請求項1に記載の金属触媒。
【請求項6】
前記プロトン伝導性物質の含有量は,導電性触媒物質100質量部を基準として1〜50質量部であることを特徴とする,請求項1〜5のいずれかに記載の金属触媒。
【請求項7】
イオノマーを第1溶媒に混合して,イオノマー溶液を得る第1段階と;
導電性触媒物質を前記第1溶媒に混合して,導電性触媒溶液を得る第2段階と;
前記第2段階によって得た前記導電性触媒溶液を,前記第1段階によって得た前記イオノマー溶液に付加する第3段階と;
前記第3段階によって得た結果物を,第2溶媒に付加する第4段階と;
前記第4段階によって得た結果物から,前記第1溶媒及び前記第2溶媒を除去する第5段階と;
を含み,
前記導電性触媒物質と該導電性触媒物質の表面に形成されたプロトン伝導性物質コーティング層とを有することを特徴とする,金属触媒の製造方法。
【請求項8】
前記第5段階によって得た結果物を,酸処理する段階をさらに含むことを特徴とする,請求項7に記載の金属触媒の製造方法。
【請求項9】
前記酸は,リン酸またはリン酸溶液であることを特徴とする,請求項8に記載の金属触媒の製造方法。
【請求項10】
前記第1溶媒は,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミド,ジメチルホルムアミドおよびトリフルオロ酢酸からなる群より選択された1つ以上であることを特徴とする,請求項7〜9のいずれかに記載の金属触媒の製造方法。
【請求項11】
前記第2溶媒は,水またはヘキサンの少なくともいずれか一方であることを特徴とする,請求項7〜10のいずれかに記載の金属触媒の製造方法。
【請求項12】
前記イオノマーは,ポリベンズイミダゾール,ポリエーテルケトン,ポリエーテルイミド,ポリスルホン,およびパーフルオロスルホン酸からなる群より選択された1つ以上であることを特徴とする,請求項7〜11のいずれかに記載の金属触媒の製造方法。
【請求項13】
前記イオノマーの含有量は,前記導電性触媒物質100質量部を基準として,1〜50質量部であることを特徴とする,請求項7〜12のいずれかに記載の金属触媒の製造方法。
【請求項14】
前記第1段階における前記第1溶媒の含有量は,前記イオノマー100質量部を基準として4000〜6000質量部であり,
前記第2段階における前記第1溶媒の含有量は,前記導電性触媒物質100質量部を基準として400〜600質量部であることを特徴とする,請求項7〜13のいずれかに記載の金属触媒の製造方法。
【請求項15】
前記第4段階における前記第2溶媒の含有量は,前記イオノマー100質量部を基準として20000〜40000質量部であることを特徴とする,請求項7〜14のいずれかに記載の金属触媒の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属触媒を含むことを特徴とする,電極。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属触媒を,疎水性バインダー及び第3溶媒と混合して触媒層形成用の組成物を得る第1段階と;
前記触媒層形成用の組成物を,電極支持体上にコーティングした後に乾燥させる第2段階と;
前記第2段階の結果物を,酸処理する第3段階と;
を含むことを特徴とする,電極の製造方法。
【請求項18】
前記疎水性バインダーは,ポリテトラフルオロエチレン,フッ素化されたエチレンプロピレンからなる群より選択された1つ以上であり,
前記疎疎水性バインダーの含有量は,前記金属触媒100質量部を基準として1〜40質量部であることを特徴とする,請求項17に記載の電極の製造方法。
【請求項19】
前記第3溶媒は,水及びイソプロピルアルコールから選択されることを特徴とする,請求項17または18に記載の電極の製造方法。
【請求項20】
前記酸は,リン酸またはリン酸溶液であることを特徴とする,請求項17〜19のいずれかに記載の電極の製造方法。
【請求項21】
前記第2段階での乾燥時に,前記触媒層形成用の組成物を,60〜120℃で乾燥させるか,
または−20〜−60℃で凍結乾燥させることを特徴とする,請求項17〜20のいずれかに記載の電極の製造方法。
【請求項22】
カソード,アノード及び前記カソードとアノードとの間に介在された電解質膜を含み,
前記カソード及びアノードのうち,少なくとも一方が,請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属触媒を含有することを特徴とする,燃料電池。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−142293(P2006−142293A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−326473(P2005−326473)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】