説明

金属酸化物を触媒に用いるポリエステルの解重合方法、および当該解重合方法を用いたポリエステル原料の回収方法

【課題】 簡便な装置を用い、低コストで、容易かつ迅速に行なうことのできるポリエステルの解重合方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 二酸化鉛、酸化ランタン、二酸化マンガン、四酸化三鉛、酸化鉄(III)から選択される一種又は二種以上の金属酸化物粉末が分散したアルキレングリコールの存在下で、ポリエステルを含有する成型品または廃棄物にマイクロ波を照射することを特徴とするポリエステルの解重合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルを解重合する方法、および当該解重合方法を用いたポリエステル原料の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記することもある)に代表されるポリエステルは、その化学的安定性が優れていることから、繊維、フィルム、シート、あるいは飲料用のボトルなどに使用されている。
【0003】
近年、これらのポリエステル等の廃棄物の処理方法が問題となり、廃棄物を回収して再使用するための方法が各種検討されているが、その一つとして、ポリエステル等の廃棄物を解重合することによりモノマーに変換して回収し、そのモノマーを原料にして再度重合反応によってPET等のポリエステルを製造するケミカルリサイクルが検討されている。このケミカルリサイクルは不純物の分離が可能であり、原料としての品質も原油由来のバージン品とさほど変わらないため、資源の再利用を実現できる手段として期待されている。
【0004】
ポリエステルモノマーへの解重合方法としては大別すると、水を溶媒とする加水分解法、アルコールを溶媒とするアルコリシス法及びグリコールを溶媒とするグリコリシス法の3つの方法が提案されている。
【0005】
加水分解法としては、例えばPET溶融物を水蒸気と反応させ、ついで水酸化アンモニウムと反応させることにより、テレフタル酸およびエチレングリコール(以下、「EG」と略記することもある)に分解する方法が挙げられる(特許文献1)。この方法は反応のためにグリコールやアルコールを用いないで済むという利点があり、高圧の条件下で上記反応が行われるため耐圧の特殊な装置が必要であるという欠点がある。また、得られたテレフタル酸を生成するためにアルカリでアルカリ塩として溶解し、濾過可能な不純物を除き、再び酸によってテレフタル酸へ戻す工程が必要である。つまり、分解は可能であるが、精製方法にコストがかかる方法である。
【0006】
アルコリシス法は、例えばアルコール溶媒中で(必要に応じて触媒を添加して)加熱することにより、ポリエステルを解重合する方法である(特許文献2、特許文献3)。この方法には、例えばメタノールを溶媒としてPETを解重合した場合、有用で取り扱いやすいモノマーであるジメチルテレフタレートが解重合反応により直接的に生成し、解重合反応も比較的早いという利点がある。しかし、溶媒として用いるアルコールは低沸点であり、反応を進ませるためには加圧が必要であるため(例えば超臨界または亜臨界のメタノール中で反応させる)、耐圧の特別な装置が必要であるという欠点がある。
【0007】
グリコリシス法は、ポリエステルを過剰のアルキレングリコール溶媒中で炭酸ナトリウム等の触媒とともに加熱することにより解重合し、飽和二塩基酸のビス(ヒドロキシアルキル)テレフタレートとエチレングリコールを生成させる方法である(特許文献4、特許文献5)。例えば、溶媒としてエチレングリコールを用いた場合、解重合反応によりビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート(以下、BHETと略記することもある。)が生成し、さらにエステル交換触媒の存在下にてメタノールを添加し、エステル交換反応をすることによりジメチルテレフタレートを回収することができる。
【0008】
このグリコリシス法は常圧で反応させることができる。しかし、反応時間が比較的長いため(例えば特許文献4の実施例によれば4時間程度)稼働率が上げられない。また、溶媒のグリコールが長時間加熱されることにより劣化するという欠点がある。
【0009】
なお、特許文献6は水酸化ナトリウムおよび水を含むエチレングリコール溶媒中でPETを解重合することにより、テレフタル酸ジナトリウムを生成させる方法である。この解重合方法によれば、上記のグリコリシス法よりも短時間(15分〜1時間程度)で解重合させることが可能であり、例えば、特許文献6の実施例では180℃前後で1時間程度加熱撹拌することにより、PETを解重合してテレフタル酸ジナトリウムが得られたことが記載されている。
【0010】
特許文献7は、水酸化ナトリウムおよびエチレングリコール溶媒中でPETにマイクロ波を照射することにより解重合を行い、テレフタル酸ジナトリウムを生成させる方法である。この解重合方法は、マイクロ波を加熱源とすることにより、上記特許文献6よりも更に短時間(1〜2分)で解重合させることを可能とし、例えば、特許文献7の実施例ではマイクロ波を2分間照射し加熱攪拌することによりPETを解重合してテレフタル酸ジナトリウムを得ている。
【0011】
特許文献8は、酸化チタン微粉末およびエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコール溶媒中でPETにマイクロ波を照射することにより解重合を行い、ビス(ヒドロキシアルキル)テレフタレートとエチレングリコールを生成させる方法である。この解重合方法は、酸化チタンを触媒に用いて、マイクロ波を加熱源とすることにより解重合を可能とし、例えば、特許文献8の実施例ではマイクロ波を30分間照射し加熱攪拌することによりPETを解重合してBHETを得ることに成功している。なお、マイクロ波加熱ではなく、熱媒等の通常加熱では全く反応が進行しないことも記載されている。
【0012】
しかし、特許文献8の方法では、嵩密度の低い酸化チタン微粉末を使用する必要があり、このような酸化チタン微粉末は比較的高価であることから、コストの点で十分なものとは言えない。また、粒径が小さいことから、反応後の酸化チタン微粉末の分離除去(原料モノマーの分離精製)が煩雑となってしまう場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2003−527363号公報
【特許文献2】特開平11−100336号公報
【特許文献3】特開2003−300916号公報
【特許文献4】特開2002−167468号公報
【特許文献5】特開2004−300115号公報
【特許文献6】特開平11−302208号公報
【特許文献7】特許第4680266号
【特許文献8】特許第4531855号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、従来公知のポリエステルの解重合方法である加水分解法およびアルコリシス法では、高温または高圧条件下の反応条件に耐え得る特殊な装置が必要とされていた。他方、グリコリシス法は、常圧で反応させることができるものの、反応時間が比較的長いという問題があった。また、例えば、酸化チタン微粉末とエチレングリコール溶媒を用いてマイクロ波加熱を行なう方法も提案されているものの、コスト面や原料モノマーの分離精製のし易さの点で満足のいくものと言えなかった。本発明は、このような従来のポリエステルの解重合方法における問題点の解決を目的としている。
【0015】
すなわち、本発明は、簡便な装置を用い、低コストで、容易かつ迅速に行なうことのできるポリエステルの解重合方法を提供することを目的とする。さらに、このような解重合方法を用いた不純物の少ないポリエステル原料の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明のポリエステルの解重合方法は、二酸化鉛、酸化ランタン、二酸化マンガン、四酸化三鉛、酸化鉄(III)から選択される一種又は二種以上の金属酸化物粉末を反応触媒とし、当該金属酸化物粉末が分散したアルキレングリコールの存在下で、ポリエステルを含有する成型品または廃棄物にマイクロ波を照射することを特徴とする。上記アルキレングリコールとしては、エチレングリコールまたはプロピレングリコールが好ましい。また、上記ポリエステルを含有する成型品または廃棄物としては、例えばポリエチレンテレフタレートを含有する成型品または廃棄物が好適である。
【0017】
また、本発明のポリエステル原料の回収方法は、特定の種類の金属酸化物粉末が分散したアルキレングリコールにポリエステルを含有する成型品または廃棄物を浸漬させる工程、上記の解重合方法に従ってマイクロ波を照射し、ポリエステルを解重合することにより、アルキレングリコールと飽和二塩基酸のビス(ヒドロキシアルキル)エステルを生成させる工程を含むことを特徴とする。また、解重合反応で生成したアルキレングリコールは、この解重合反応の溶媒に加えて再使用することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の解重合方法では、従来の加水分解法およびアルコリシス法で必要とされていた加熱・加圧装置が不要であり、マイクロ波加熱装置もしくは、家庭用電子レンジを使用して実施することができる。このため、回収されたPETボトル等の廃棄物をその地域で減容化し、モノマー化することが容易になり、さらにポリエステル工場へ運搬し、再使用することなども可能となる。
【0019】
また、従来のグリコリシス反応等ではポリエステルの解重合に長時間を要していたが、本発明の解重合方法では、解重合の反応時間が著しく短縮され、例えば、30分〜1時間程度で100%近い反応率で解重合させることが可能であり、ポリエステルを含有する成型品または廃棄物の解重合を迅速かつ効率的に行うことができる。
【0020】
また、本発明の解重合方法で用いられる金属酸化物粉末は、例えば、特許文献8で使用される酸化チタン微粉末に対して、価格が1/8〜1/40程度と安価であり、コスト面で有利である。また、本発明の解重合で用いられる金属酸化物粉末は、粒径をそれほど小さくしなくてもよいため、特許文献8の酸化チタン微粉末と比べて取り扱い易く、解重合反応後の分離除去(原料モノマーの分離精製)も容易である。
【0021】
また、本発明の解重合方法では、例えば、反応溶媒に用いたアルコール残基を有する飽和二塩基酸のエステル化合物が得られる。このような化合物は、さらにメタノール等とエステル交換してジメチルテレフタレートなどに変換した後にポリエステルの製造原料とすることが可能である。
【0022】
さらに、本発明の解重合方法を用いれば、マイクロ波照射によりポリエステル等が加熱されたとしても照射時間は短時間であるため、解重合により生成したアルキレングリコールが劣化することが少なく、純度の高いアルキレングリコールを回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の解重合方法の対象とするポリエステルを含有する成型品または廃棄物の態様は特に限定されるものではなく、公知の一般的な手段により製造、回収されたものであればよい。以下、ポリエステルを含有する成型品または廃棄物に関する事項について順次説明する。
【0024】
(ポリエステル)
本発明の解重合方法の対象となる「ポリエステル」は、飽和二塩基酸とアルキレングリコールを重合してなるポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)である。これらのポリエステルを解重合することにより、飽和二塩基酸とアルキレングリコールを回収することができる。
【0025】
(アルキレングリコール)
ポリエステルを構成する、すなわち本発明により回収することができるアルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ベンゼンジオールなどが挙げられる。
【0026】
(飽和二塩基酸)
ポリエステルを構成する、すなわち本発明により回収することができる飽和二塩基酸としては、例えばテレフタル酸、フタル酸(オルト体)、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。また、その他のジカルボン酸として、例えばヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸およびコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸なども上記の飽和二塩基酸として挙げられる。
【0027】
(成型品、廃棄物)
本発明の解重合方法およびモノマー回収方法の産業上の利用においては、ポリエステルを含有する成型品、特に廃棄物を対象とすることが想定される。この廃棄物とは成型品を使用した後に発生する廃棄物のほか、成型品製造時に発生する残余物、不良品等をいう。例えば、使用済みのPET製ボトル、カップ、ひも、包装容器等、あるいはこれらを成型する際のバリ、スプール、真空成型後のカップ切り取り後のシート等が挙げられる。
【0028】
また、ポリエステルを含有する成型品は、ポリエステルのみで構成された成形品もしくは、ポリエステルとその他の成分(着色剤等の公知慣用の添加物)とを含有する成形品であってもよい。また、ポリエステルを含む布や衣類であってもよい。
【0029】
<反応溶媒>
本発明の解重合方法では、金属酸化物が分散したアルキレングリコールの存在下で解重合を行う。以下、解重合反応に用いられるアルキレングリコールおよび金属酸化物について順次説明する。
【0030】
(アルキレングリコール)
本発明の解重合方法で反応溶媒に用いられるアルキレングリコールとしては、前述のポリエステルのモノマーとして挙げたアルキレングリコールを使用することができるが、解重合の対象となるポリエステルを構成するアルキレングリコールとは同一であっても異なっていもよい。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ベンゼンジオールなどが挙げられる。なかでもエチレングリコールまたはプロピレングリコールが安価でかつ低粘度であるため好ましい。これらのアルキレングリコールは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
(金属酸化物粉末)
本発明で用いられる金属酸化物粉末は、二酸化鉛、酸化ランタン、二酸化マンガン、四酸化三鉛、酸化鉄(III)から選択される一種又は二種以上である。なかでも二酸化鉛、酸化ランタン、二酸化マンガンが高活性であるため好ましい。本発明で用いられる金属酸化物粉末の平均粒径は、通常100μm以下、好ましくは50μm〜50nm、さらに好ましくは10μm〜100nmである。
【0032】
なお、本発明で用いられる上記金属酸化物粉末は、例えば、特許文献8で使用される酸化チタン微粉末に対して、価格が1/8〜1/40程度と安価であり、コスト面で有利である。また、特許文献8で使用される酸化チタン微粉末は、一般に粒径が20nm以下でないと十分な触媒活性を示すことができないのに対して、本発明で用いられる上記金属酸化物粉末は、100μm以下程度の粒子径でも十分な触媒活性を示す。このため、本発明で用いられる金属酸化物粉末は、特許文献8の酸化チタン微粉末と比べて取り扱い易く、解重合反応後の分離除去(原料モノマーの分離精製)も容易である。
【0033】
<マイクロ波照射>
(マイクロ波)
本発明の解重合方法では、ポリエステルの解重合反応を促進するためにマイクロ波を用いる。マイクロ波は周波数が100MHz〜100GHz程度の高周波である。例えば、日本においては一般的に2450MHzのマイクロ波の使用が家庭用に認められており、食品解凍用としては915MHzのマイクロ波も使用されているが、いずれの波長も本発明において使用できる。
【0034】
(マイクロ波発生装置)
このようなマイクロ波を発生させるための装置としては、例えば家庭用または業務用に用いられている電子レンジの他、公知のバッチ式、あるいは連続式の各種マイクロ波発生、処理装置を用いることができる。
【0035】
なお、いずれのマイクロ波発生装置を用いる場合でも、ポリエステル/反応溶媒からなる反応物は、マイクロ波を吸収しない容器、例えばガラス、セラミックスまたはフッ素樹脂製の容器に収容することが望ましい。大型反応容器の場合は、部分的に石英ガラスまたは耐熱ガラスの窓を設けて、そこへマイクロ波の発振部を取り付けて反応容器に照射しても良い。発振部からは金属の導波管を通してマイクロ波を導いた装置を用いることも可能である。
【0036】
<解重合方法>
本発明のポリエステルの解重合方法は、一般的に反応溶媒を調製する工程、ポリエステルをこの反応溶媒に浸漬する工程、およびマイクロ波を照射して解重合反応を進行させる工程などにより構成される。
以下、ポリエステルの解重合方法についてステップを追って説明する。
【0037】
(任意工程:洗浄・粉砕処理等)
回収したポリエステルの廃棄物を対象とする場合は、本発明の解重合方法に供する前に、これらの廃棄物を洗浄し、廃棄物に付着している汚れ、例えば内容物、土等を除去することが望ましい。
【0038】
また、本発明における解重合反応は反応速度が速いため、回収したポリエステルの廃棄物等は比較的大きい切片のまま解重合反応に供することが可能であるが、より効率的に反応を進行させるために公知の粉砕方法を用いて粉砕処理を行ってもよい。
【0039】
さらに、必要に応じて比重分離等の公知の方法を用いてポリエステルとポリエステルより軽いキャップやラベルなどの異種プラスチックの成分を分離除去してもよい。
【0040】
なお、上述のようにキャップ、ラベル、異物等を完全に除去しなくとも本発明の解重合反応にはなんら影響を及ぼさないので、現状のケミカルリサイクル法のように分別・洗浄・粉砕を綿密に行う必要はない。
【0041】
(工程1:反応溶媒の調製)
本発明の解重合方法では、まずアルキレングリコールに反応触媒である金属酸化物粉末を添加し分散させ反応溶媒を調製する。これらの金属酸化物粉末はアルキレングリコールを撹拌しながら少しずつ添加することが好ましい。金属酸化物粉末のアルキレングリコールへの添加量はポリエステル100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部、特に好ましくは1.0〜7質量部の範囲である。
【0042】
(工程2:ポリエステルの浸漬)
次に、工程1で調製した反応溶媒にポリエステルを浸漬させる。この際の反応溶媒とポリエステルとの重量比は1〜50:1程度、好ましくは1〜15:1程度、特に好ましくは1〜3:1程度の範囲である。
【0043】
(工程3:マイクロ波の照射による解重合反応)
以上の準備が完了した後、上記反応溶媒/ポリエステル混合体にマイクロ波を照射する。反応形式はバッチ式、連続式のいずれでもよい。これらの混合体は前述のようにマイクロ波を吸収しない容器に収容された状態で反応に供されることが望ましい。
【0044】
重合反応の時間は特に制限されるものではなく、使用する反応溶媒(アルキレングリコール、金属酸化物)および解重合反応に供する対象物の種類や量などに応じて適宜調整することが可能であるが、通常5分〜10時間、好ましくは10分〜1時間、特に好ましくは15分〜45分間の範囲で行われる。
【0045】
<モノマーの回収方法>
本発明においてポリエステルを解重合した場合、アルキレングリコールと飽和二塩基酸のビス(ヒドロキシアルキル)エステルが生成し、回収することができ、得られたアルキレングリコールや飽和二塩基酸はポリエステルの原料として再利用することができる。
【0046】
(アルキレングリコールの回収)
本発明の解重合方法における反応溶媒として、ポリエステルの構成成分とは異なるアルキレングリコールを用いた場合、解重合により生成したアルキレングリコールと反応溶媒は一旦混合するが、公知の蒸留・濃縮法により分離、回収することが可能である。
【0047】
一方、解重合反応で生成したアルキレングリコールと反応溶媒が同一種の場合、分離することなく解重合工程の反応溶媒として再利用できる。
【0048】
(飽和二塩基酸のビス(ヒドロキシアルキル)エステルの回収)
本発明の解重合方法にて得られる飽和二塩基酸のビス(ヒドロキシアルキル)エステルは、反応溶媒の種類により変化する。例えば反応溶媒としてエチレングリコールを用いてPETを解重合した場合、モノマーとしてBHETが生成し、反応溶媒としてプロピレングリコールを用いてPETを解重合すると、モノマーとして主にビス(ヒドロキシプロピル)テレフタレートが生成し回収することができる。
【0049】
このようにして得られる飽和二塩基酸のビス(ヒドロキシアルキル)エステルは、さらにメタノールとエステル交換反応させることにより飽和二塩基酸のジメチルエステルとして回収することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制約されるものではない。
【0051】
マイクロ波発生装置としては、電子レンジ(YAMAZEN社製;MAX−R16)を用いた。
【0052】
[実施例1]
100ml平底丸型フラスコにエチレングリコール6.2g(100mmol)を入れ、平均粒子径5〜10μmの二酸化鉛粉末0.060g(0.25mmol)を少しずつ添加し分散させた。次にPET0.96g(5mmol)入れて、容器は解放したまま電子レンジに入れ、10分間マイクロ波照射(2450MHz,500W)を3回行い、合計30分間マイクロ波を照射した。放冷後、アセトン40mlを用いて生成物を溶解して、未反応のPETと二酸化鉛をろ別した。次に減圧下でアセトンを留去した。さらにクーゲルロール蒸留装置を用いて減圧留去し未反応のエチレングリコールを、3.1g得た。結果を表1に示す。残渣としてBHETを白色固体として1.2g(収率95%)得た。また、未反応のPETは全く回収されなかったので、反応率は99%以上であった。結果を表1に示す。なお、IR測定およびNMR測定の結果より構造同定を行った。
【0053】
[実施例2]
反応触媒を二酸化鉛粉末から平均粒子径3〜5μmの酸化ランタン粉末に変更した以外は実施例1と同様にPETの解重合及びモノマーの回収を実施した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
反応触媒を二酸化鉛粉末から平均粒子径3〜5μmの二酸化マンガン粉末に変更した以外は実施例1と同様にPETの解重合及びモノマーの回収を実施した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
反応触媒を二酸化鉛粉末から平均粒子径1〜3μmの四酸化三鉛粉末に変更した以外は実施例1と同様にPETの解重合及びモノマーの回収を実施した。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
反応触媒を二酸化鉛粉末から平均粒子径500nm〜1μmの酸化鉄(III)粉末に変更した以外は実施例1と同様にPETの解重合及びモノマーの回収を実施した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
100mlナス型フラスコにEG6.2g(100mmol)を入れ、平均粒子径3〜5μmの酸化セリウム粉末0.043g(0.25mmol)を少しずつ添加し分散させた。次にPET0.96g(5mmol)を入れて、オイルバスにて撹拌しながら加熱還流を2時間行った。放冷後、アセトン40mlを用いて未反応のPETと酸化セリウムをろ別した。このとき未反応のPETを0.8g回収した。次に減圧下でアセトンを留去した。さらに未反応のEGを、クーゲルロール蒸留装置を用いて減圧留去した。結果を表1に示す。白色固体のBHET0.22g(収率17%)を得た。
【0058】
[比較例2]
反応触媒を酸化セリウム粉末から平均粒子径100nm〜1μmの四酸化三鉄粉末に変更した以外は比較例1と同様にPETの解重合及びモノマーの回収を実施した。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
反応触媒を酸化セリウム粉末から平均粒子径8〜10μmの五酸化バナジウム粉末に変更した以外は比較例1と同様にPETの解重合及びモノマーの回収を実施した。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例4]
反応触媒を酸化セリウム粉末から平均粒子径2〜5μmの酸化銅粉末に変更した以外は比較例1と同様にPETの解重合及びモノマーの回収を実施した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
上記表1に示すように、二酸化鉛、酸化ランタン、二酸化マンガン、四酸化三鉛、酸化鉄(III)の粉末をエチレングリコール中に分散させた溶媒を用いて、マイクロ波を照射することによって、30分程度の短い反応時間で効率よくポリエチレンテレフタレートを解重合できることがわかった(実施例1〜5)。一方で、酸化セリウム、四酸化三鉄、五酸化バナジウム、酸化銅の粉末を用いた場合、同様の条件でマイクロ波処理を行なっても、ポリエチレンテレフタレートを十分に分解することができず、原料モノマーの収率は低かった(比較例1〜4)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化鉛、酸化ランタン、二酸化マンガン、四酸化三鉛、酸化鉄(III)から選択される一種又は二種以上の金属酸化物粉末が分散したアルキレングリコールの存在下で、ポリエステルを含有する成型品または廃棄物にマイクロ波を照射することを特徴とするポリエステルの解重合方法。
【請求項2】
前記アルキレングリコールがエチレングリコールおよび/またはプロピレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルの解重合方法。
【請求項3】
前記ポリエステルを含有する成型品または廃棄物が、ポリエチレンテレフタレートを含有する成型品または廃棄物であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルの解重合方法。
【請求項4】
二酸化鉛、酸化ランタン、二酸化マンガン、四酸化三鉛、酸化鉄(III)から選択される一種又は二種以上の金属酸化物粉末が分散したアルキレングリコールにポリエステルを含有する成型品または廃棄物を含浸させる工程、及び請求項1から3のいずれかに記載のポリエステルの解重合方法を用いてアルキレングリコールと飽和二塩基酸のビス(ヒドロキシアルキル)エステルを生成させる工程を含むことを特徴とするポリエステル原料の回収方法。
【請求項5】
解重合反応で生成したアルキレングリコールを解重合反応の分散媒として再使用することを特徴とする請求項4に記載のポリエステル原料の回収方法。

【公開番号】特開2013−57006(P2013−57006A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196167(P2011−196167)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化学会 第91春季年会講演予稿集IIの表紙(目次)、奥付、「マイクロ波照射を用いるPETのグリコリシス型解重合における触媒の影響」掲載頁(541頁)の写し、及び社団法人日本化学会による同学会発表についての証明書
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】