説明

金属酸化物蛍光体微粒子

【課題】種々の樹脂に分散可能な、発光強度が強い金属酸化物蛍光体微粒子、その製造方法及び該蛍光体を含有する樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と式(I):


(式中、Rは1価の有機基、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜4の、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示す)
で表され、かつ、分子量が190以上又は沸点が190℃以上である3官能性アルコキシシランとを200〜300℃で反応させることにより得られる金属酸化物蛍光体微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物蛍光体微粒子に関する。さらに詳しくは、金属酸化物前駆体を焼成することにより得られる金属酸化物蛍光体微粒子、その製造方法及び該蛍光体微粒子を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物蛍光体は、一般的には金属酸化物前駆体、例えば金属酢酸塩、金属硝酸塩、金属塩化物等を数百度以上の高温で焼成することにより得られる。このようにして得られた蛍光体は発光量子収率は高いが、一般的に粒子の成長が起きて粒子サイズが大きくなり、透明な蛍光体を得ることは難しい。
【0003】
これに対して、特許文献1では、母核となる化合物を含む溶液と、焼成することにより母核と反応して蛍光体を構成しうる金属元素を含む溶液とを混合して前駆体を形成し、焼成することにより、微粒子で単分散化された蛍光体が得られることが報告されている。
【0004】
特許文献2では、ゾル−ゲル法を用いて溶液中で粒子を調製する方法として、酢酸亜鉛、又は硝酸亜鉛等の酸化亜鉛の前駆体とアンモニア水溶液等の塩基を混合して水酸化亜鉛ゲルを得る工程と、該水酸化亜鉛ゲルをグリコール中に分散及び加熱処理して、酸化亜鉛ナノ粒子を分散したゾルを得る方法が報告されている。
【0005】
また、特許文献3では、表面処理剤として長鎖脂肪族カルボン酸を共存させて、高温、高圧の超臨界条件下で、金属酸化物微粒子前駆体水溶液を反応させると、粒子の核が生成した段階で表面処理剤が結合することにより粒成長を抑制し、さらに表面処理剤の立体反発効果により粒子の凝集を抑えて、微粒子を作製する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−119618号公報
【特許文献2】特開2007−070188号公報
【特許文献3】特開2006−282503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、無機蛍光体の前駆体分散液を噴霧焼成することが必須であり、特別な装置を要する。特許文献2の方法では、得られる蛍光体の結晶性が低く、発光量子収率がそれほど高くはないという問題点がある。また、特許文献3の方法では、超臨界条件で利用できる表面処理剤の種類が限られているため、得られる蛍光体の樹脂への分散性が低く、透明な発光体樹脂組成物を得ることが困難である。
【0008】
また、界面活性剤等を用いて粒子表面を保護する方法や、ミセル法、逆ミセル法等も知られているが、いずれも界面活性剤の除去が難しく、得られる蛍光体微粒子の樹脂への分散が難しく、また、耐熱性が悪い等の問題点がある。
【0009】
本発明の課題は、種々の樹脂に分散可能な、発光強度が強い金属酸化物蛍光体微粒子、その製造方法及び該蛍光体を含有する樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕 沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは1価の有機基、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜4の、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示す)
で表され、かつ、分子量が190以上又は沸点が190℃以上である3官能性アルコキシシランとを200〜300℃で反応させることにより得られる金属酸化物蛍光体微粒子、
〔2〕 沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と式(I):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rは1価の有機基、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜4の、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示す)
で表され、かつ、分子量が190以上又は沸点が190℃以上である3官能性アルコキシシランとを200〜300℃で反応させる工程を含む、金属酸化物蛍光体微粒子の製造方法、ならびに
〔3〕 樹脂と前記〔1〕記載の金属酸化物蛍光体微粒子とを含有してなる、樹脂組成物
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、発光強度が強く、かつ、種々の樹脂に分散可能であるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、シランカップリング剤で金属酸化物微粒子を表面処理したものであって、金属酸化物微粒子前駆体と式(I):
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Rは1価の有機基、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜4の、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示す)
で表され、かつ、分子量が190以上又は沸点が190℃以上である3官能性アルコキシシランとを特定の条件下で反応させることに特徴を有する。
【0019】
通常、シランカップリング剤による粒子の表面処理は、水を含む溶媒中、例えばアルコール溶剤やケトン系の溶剤中で、酸性又はアルカリ性条件下、100℃以下の温度(例えば、室温)で行われて、シランカップリング剤のアルコキシシリル基が加水分解して粒子表面と反応する。即ち、水を必須とする条件下で粒子の表面処理が行われる。しかしながら、水が多いと粒子が成長しやすいため表面処理剤で処理する間に粒子が成長して粗大化したり、表面処理条件が合わない場合には生成した粒子が凝集したりする等の問題を引き起こすことがある。また、反応温度が高くないため粒子の結晶性が不十分となり、蛍光強度が弱くなる。そこで、本発明では、沸点が300℃前後の高沸点溶剤、即ち、沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中にて、金属酸化物前駆体と、特定の分子量又は沸点を有するシランカップリング剤とを200〜300℃の高温で反応させることにより、アルコキシシリル基の熱分解物を金属酸化物の粒子表面に結合させて表面処理を行う。アルコキシシリル基の熱分解反応は水を要しないため、粒子の成長を抑制し、かつ、粒子の生成と表面処理を逐次に行うことができるため、得られる粒子のサイズを制御することが可能となる。また、反応温度も高温であり、粒子の結晶性を高めて蛍光強度を強くすることができる。
【0020】
また、特許文献3では、耐熱性に優れた表面処理剤として長鎖脂肪族カルボン酸を用いて粒子の大きさを制御しているが、長鎖脂肪族カルボン酸は疎水性が高いために、得られた蛍光体粒子を分散できる樹脂が限定され、実用的ではないという問題がある。しかし、本発明では、式(I)におけるRを選択することにより、得られる蛍光体は種々の樹脂に分散することができる。
【0021】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と式(I):
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、Rは1価の有機基、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜4の、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示す)
で表され、かつ、分子量が190以上又は沸点が190℃以上である3官能性アルコキシシランと(以降、単に式(I)の3官能性アルコキシシランと記載することもある)を200〜300℃で反応させることにより得られる。
【0024】
金属酸化物前駆体における金属としては、金属酸化物が蛍光体になるのであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Mn、Eu、Y、Nb、Ce、Ba等が挙げられ、かかる金属の酸化物としては、SiO2、TiO2、ZnO2、SnO2、Al2O3、MnO2、NiO、Eu2O3、Y2O3、Nb2O3、InO、ZnO、Fe2O3、Fe3O4、Co3O4、ZrO2、CeO2、BaO・6Fe2O3、Al5(Y+Tb)3O12、BaTiO3、LiCoO2、LiMn2O4、K2O・6TiO2、AlOOH、ZnEu2O5等が例示される。
【0025】
このような金属酸化物の前駆体としては、上記金属の金属塩が挙げられる。具体的には、例えば、生成される金属酸化物が酸化亜鉛(ZnO)である場合には、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等が例示され、塩の種類としては特に限定はなく、酢酸、硝酸、塩素、臭素、フッ素、シアン、ジエチルカルバメート、オキサレート、パークロレート、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。なかでも、熱分解温度が比較的低いことから、酢酸、硝酸が好ましい。なお、かかる前駆体は、無水物であっても、水和物であってもよい。
【0026】
本発明におけるシランカップリング剤は、式(I)で表わされ、分子量が190以上又は沸点が190℃以上である3官能性アルコキシシランを含有する。
【0027】
式(I)中のRは1価の有機基を示すが、金属酸化物前駆体との反応後には、得られる微粒子の表面に結合して残存することから、蛍光体の樹脂への分散性に影響を及ぼすものである。また、本発明における表面処理反応は、200〜300℃という高温下で行われることから、該条件下でも分解せずに微粒子表面に結合し得るものである。このような観点から、Rの好適例としては、具体的には、R全体の炭素数が6〜12となる、直鎖又は分枝鎖のアルキル基、アリール基が挙げられ、該アルキル基及びアリール基は、R全体の炭素数が前記範囲内となるのであれば、エポキシ基、1級、2級もしくは3級のアミノ基、(メタ)アクリロイル基等のビニル基、シクロヘキシルエポキシ基、グリシジル基又は芳香族基等の置換基を有していてもよい。これらのなかでも、耐熱性が高いエポキシ基、シクロヘキシルエポキシ基、グリシジル基が好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルとの総称である。
【0028】
式(I)中のR、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜4の、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示す。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられる。これらのなかでも、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましく、R、R及びRがいずれも、メチル基、エチル基、又はプロピル基であることがより好ましい。
【0029】
また、式(I)で表わされる3官能性アルコキシシランは、分子量が190以上、好ましくは190〜3000である。沸点は190℃以上であれば特に限定はない。本発明においては、式(I)で表わされる3官能性アルコキシシランは、分子量又は沸点が前記条件を満たすものであればよく、好ましくは、分子量及び沸点のいずれもが前記条件を満たすものであればよい。なお、本明細書において、3官能性アルコキシシランの分子量とは相対分子質量のことを意味し、分子式と構成原子の原子量とから算出される。また、沸点は、常圧(101.3kPa)下での沸点を意味し、後述の実施例に記載の方法に従って測定される。
【0030】
かかる条件を満たす式(I)で表される3官能性アルコキシシランとしては、2-〔(3,4)-エポキシシクロヘキシル〕エチルトリメトキシシラン(分子量246.4、沸点310℃)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(分子量248.4、沸点255℃)、3-グリシジドキシプロピルトリメトキシシラン(分子量236.3、沸点290℃)、フェニルトリメトキシシラン(分子量198.3、沸点218℃)、ヘキシルトリメトキシシラン(分子量206.4、沸点202℃)、デシルトリメトキシシラン(分子量262.5、沸点132℃/10mmHg)、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(分子量234.4、沸点100℃/4mmHg)、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(分子量222.4、沸点259℃)、(N-フェニル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(分子量255.4、沸点312℃)、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(分子量196.4、沸点219℃)、3-クロロプロピルトリメトキシシラン(分子量198.7、沸点196℃)、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン(分子量264.4、沸点190℃以上)、ヘキシルトリエトキシシラン(分子量248.4、沸点120.6℃/21mmHg)等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
3官能性アルコキシシランの反応量は、金属酸化物前駆体100重量部に対して、300〜1800重量部が好ましく、300〜1700重量部がより好ましく、350〜1650重量部がさらに好ましい。300重量部以上であると、金属酸化物微粒子の成長が抑制されて微細な粒子が得られ、蛍光体を発光させることができ、1800重量部以下であると、樹脂組成物への分散性が良好であり添加できる蛍光体量を増加することができる。
【0032】
なお、本発明では、本発明の効果を損なわない範囲で、式(I)の3官能性アルコキシシラン以外の他のシランカップリング剤を使用してもよい。シランカップリング剤の総量における式(I)の3官能性アルコキシシランの含有量は、70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい
【0033】
上記金属酸化物前駆体と3官能性アルコキシシランの反応を行う媒体(反応溶媒)として、本発明では、ポリオール系溶媒を用いる。
【0034】
ポリオール系溶媒としては、シランカップリング剤の熱分解反応と粒子の表面処理反応を考慮すると、極性溶媒が望ましく、また300℃程度の高温条件下でも気化や分解しにくい高沸点溶媒、即ち沸点が250℃以上である溶媒を用いる必要がある。本発明では、沸点が250℃以上となるのであれば、ポリオール系溶媒は1成分のみで構成されても、2成分以上で構成されてもよい。2成分以上で構成される場合には、溶媒混合物の沸点が250℃以上となるのであれば、沸点が250℃未満の溶媒が含まれていてもよい。沸点が250℃以上である溶媒としては、ポリエチレングリコール(沸点300℃以上)が好ましい。なお、本明細書において、ポリオール系溶媒の沸点とは常圧(101.3kPa)下での沸点を意味し、後述の実施例に記載の方法に従って測定される。
【0035】
ポリエチレングリコールとしては、分子量が大きく室温で固体であるものは、反応操作が複雑になるので好ましくない。また、分子量が小さすぎると、反応中に気化して反応系の濃度が変動したり、高温で熱分解して着色の原因となったりするので好ましくない。従って、ポリエチレングリコールの分子量としては、150〜500が好ましく、150〜400がより好ましい。その中でも沸点や粘性から考慮すると、テトラエチレングリコール(沸点314℃以上)やトリエチレングリコール(沸点125〜127℃/0.1mmHg)が好ましい。
【0036】
本発明では、シランカップリング剤の熱分解反応に影響を与えないのであれば、前記ポリオール系溶媒以外の他の溶媒を使用してもよい。他の溶媒としては、ラウリルアルコールやオレイルアルコール等の長鎖脂肪族アルコール等の非水系溶媒が挙げられる。溶媒総量におけるポリオール系溶媒の総含有量は、50重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい
【0037】
ポリオール系溶媒の総存在量は、金属酸化物前駆体と3官能性アルコキシシランの総量100重量部に対して、500〜1200重量部が好ましく、600〜1000重量部がより好ましい。500重量部以上であると蛍光体微粒子の粒子成長を抑制することができ、1200重量部以下であると生産性が良好である。
【0038】
反応温度は200〜300℃であるが、蛍光体微粒子の結晶性を向上する観点から、250〜300℃が好ましい。反応時間は、0.1〜1時間が好ましい。
【0039】
かくして、本発明の金属酸化物蛍光体微粒子が得られる。金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径は、1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましい。なお、本明細書において、金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径は、後述の実施例に記載の方法に従って、測定することができる。
【0040】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子の好ましい製造方法は、沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と、式(I)で表され、分子量が190以上又は沸点が190℃以上である3官能性アルコキシシランとを200〜300℃で反応させる工程を含む方法である。
【0041】
具体的には、例えば、金属酸化物前駆体、式(I)で表される3官能性アルコキシシラン、沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒をそれぞれオートクレーブ用ガラス容器に入れ、該ガラス容器をオートクレーブ内に設置後、ガラス容器とオートクレーブの空隙にポリオール系溶媒等を充填して密封し、攪拌下で、200〜300℃の温度条件下で10分間保持する。その後、室温まで冷却してから、得られた溶液を酢酸エチル等の有機溶媒中に混合して遠心分離により、金属酸化物蛍光体微粒子を回収する工程等が挙げられる。
【0042】
本発明はまた、上記金属酸化物蛍光体微粒子を含有する樹脂組成物を提供する。
【0043】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、分散性が良好であり、かつ、式(I)で表される3官能性アルコキシシランの置換基の種類によって分散性を調節することが可能であることから、本発明の樹脂組成物は構成樹脂の種類に関係なく、金属酸化物蛍光体微粒子が良好に分散しており、かつ、該微粒子がナノオーダーサイズであることから、透明性に優れる発光体となる。
【0044】
構成樹脂としては、特に限定はなく、例えば、光半導体素子封止材として使用できる公知の樹脂が挙げられる。
【0045】
樹脂組成物における金属酸化物蛍光体微粒子の含有量は、樹脂の種類や樹脂組成物の用途によって、適宜、調節することができる。
【0046】
また、本発明の樹脂組成物は、前記構成樹脂及び金属酸化物蛍光体微粒子に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、本発明の金属酸化物蛍光体微粒子を含有するものであれば、特に限定なく調製することができる。なお、得られた樹脂組成物は、例えば、表面を剥離処理した離型シートの上に適当な厚さに塗工して、加熱乾燥することによりシート状に成形してもよい。
【0048】
かくして得られる樹脂組成物は、青色又は白色LED素子を搭載した光半導体装置(液晶画面のバックライト、信号機、屋外の大型ディスプレイ、広告看板等)に用いられる光半導体素子封止材として好適に使用し得るものである。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0050】
〔金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径〕
金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径とは、金属酸化物蛍光体微粒子の一次粒子の平均粒子径のことであり、透過型電子顕微鏡TEMにて、画像に映った粒子100個の直径を測定し、それらの平均値を平均粒子径とする。
【0051】
〔3官能性アルコキシシラン及びポリオール系溶媒の沸点〕
蒸留法によって測定する。なお、常圧下での測定が困難な場合は、測定可能な蒸気圧下での沸点を測定する。
【0052】
実施例1
オートクレーブ用ガラス容器に、無水酢酸亜鉛1.54g(8mmol)、2-〔(3,4)-エポキシシクロヘキシル〕エチルトリメトキシシラン(商品名:KBM303、信越化学社製、分子量246.4、沸点310℃)8.97g(36mmol)(金属酸化物前駆体100重量部に対して582重量部)、テトラエチレングリコール80mL(沸点314℃、金属酸化物前駆体と3官能性アルコキシシランの総量100重量部に対して856重量部)を加えた。オートクレーブ(耐圧ガラス社製)内にガラス容器を入れて、ガラス容器とオートクレーブの反応容器のギャップ間にテトラエチレングリコール30gを加えてから密封した。攪拌しながら20℃/分の速度で300℃まで昇温し、300℃で10分間保持した後、室温までゆっくり冷却した。その後、得られた溶液を酢酸エチルにより析出させ、遠心分離機にて黄白色の固体(酸化亜鉛蛍光体微粒子)を回収した。
【0053】
実施例2
実施例1において、反応に用いるテトラエチレングリコールの量を80mLから100mLに変更した以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。なお、テトラエチレングリコールの使用量は、金属酸化物前駆体と3官能性アルコキシシランの総量100重量部に対して1070重量部であった。
【0054】
実施例3
実施例1において、加熱前のオートクレーブ用ガラス容器に、酢酸ユウロピウムを0.05g(0.1mmol)をさらに加えた以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛・ユウロピウム蛍光体微粒子を得た。なお、KBM303の使用量は、金属酸化物前駆体100重量部に対して564重量部であった。
【0055】
実施例4
実施例1において、KBM303を8.97g(36mmol)用いる代わりに、3-グリシジドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM403、信越化学社製、分子量236.3、沸点290℃)8.51g(36mmol)(金属酸化物前駆体100重量部に対して553重量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0056】
実施例5
実施例1において、無水酢酸亜鉛1.54g(8mmol)の代わりに酢酸イットリウム四水和物1.36g(4mmol)を用い、KBM303の量を8.97g(36mmol)から4.92g(20mmol)(金属酸化物前駆体100重量部に対して362重量部)に変更し、テトラエチレングリコールの量を80mLから40mL(金属酸化物前駆体と3官能性アルコキシシランの総量100重量部に対して716重量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして酸化イットリウム蛍光体微粒子を得た。
【0057】
実施例6
実施例1において、KBM303を8.97g(36mmol)用いる代わりに、ヘキシルトリエトキシシラン(商品名:KBE3063、信越化学社製、分子量248.4、沸点120.6℃/21mmHg)を8.94g(36mmol)(金属酸化物前駆体100重量部に対して581重量部)加えた以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0058】
実施例7
実施例1において、KBM303を8.97g(36mmol)用いる代わりに、フェニルトリメトキシシラン(商品名:KBM103、信越化学社製、分子量198.3、沸点218℃)を7.14g(36mmol)(金属酸化物前駆体100重量部に対して464重量部)加えた以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0059】
実施例8
実施例1において、KBM303を8.97g(36mmol)用いる代わりに、(N-フェニル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM573、信越化学社製、分子量255.4、沸点312℃)を9.19g(36mmol)(金属酸化物前駆体100重量部に対して597重量部)加えた以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0060】
実施例9
実施例1において、テトラエチレングリコール80mLをオートクレーブ用ガラス容器に入れる代わりに、ポリエチレングリコール(分子量200〜300、沸点300℃以上)80mLを加えた以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0061】
実施例10
実施例1において、テトラエチレングリコール80mLをオートクレーブ用ガラス容器に入れる代わりに、テトラエチレングリコール40mLと1,4-ブタンジオール(沸点230℃)40mLを加えた以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。なお、テトラエチレングリコール40mLと1,4-ブタンジオール40mLの溶媒混合物の沸点は、250℃以上であった。
【0062】
比較例1
実施例1において、KBM303を8.97g(36mmol)用いる代わりに、ラウリン酸8.9g(金属酸化物前駆体100重量部に対して578重量部)を加えた以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0063】
比較例2
実施例1において、KBM303を8.97g(36mmol)用いる代わりに、プロピルトリメトキシシラン(商品名:LS-1382、信越化学社製、分子量164.3、沸点142℃)を5.91g(36mmol)(金属酸化物前駆体100重量部に対して384重量部)加えた以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0064】
比較例3
実施例1において、テトラエチレングリコール80mLをオートクレーブ用ガラス容器に入れる代わりに、1,4-ブタンジオール80mLを加えた以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0065】
比較例4
実施例1において、反応温度を300℃から180℃に変更する以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛蛍光体微粒子を得た。
【0066】
比較例5
酢酸亜鉛二水和物1.09g(5mmol)を無水エタノール50mLに溶解し、0℃に冷却した。一方、水酸化リチウム一水和物0.76g(18mmol)を無水エタノール30mLに懸濁し、そこに、前記酢酸亜鉛溶液を滴下ロートを用いて10分間かけて滴下し、0℃で2時間反応させた。次に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(分子量179.3、沸点208℃)3.59g(20mmol)をメタノール(沸点64.7℃)10mLに溶解した液を滴下し、0℃で24時間反応させて、酸化亜鉛リチウム蛍光体微粒子を得た。
【0067】
得られた微粒子について、以下の試験例1〜3の方法に従って評価を行った。結果を表1及び2に示す。
【0068】
試験例1〔分散性〕
得られた微粒子が溶媒に分散するか否かを評価した。分散する場合を「○」、分散しない場合を「×」とし、分散する場合には分散媒も併せて示した。
【0069】
試験例2〔発光波長〕
得られた微粒子を、日立蛍光光度計F4500を用いて365nmの波長で励起させた際の蛍光スペクトルを取得し、その極大波長を測定した。なお、測定には、試験例1で分散させた微粒子の溶液をサンプルとして用いた。
【0070】
試験例3〔発光強度〕
得られた微粒子について、粒子濃度が1重量%のメタノール溶液を調製し、365nmの波長で励起させた際の発光強度を、以下の判断基準に従って評価した。
【0071】
<発光強度の評価基準>
A:一般的な照明が点灯した部屋でも十分に発光が確認できる
B:一般的な照明が点灯した部屋で何とか発光が確認できる。
C:暗室のみで発光が確認できる
D:暗室でも発光が確認できない
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
結果、実施例の蛍光体微粒子は、いずれも粒子径が小さくて分散性が良好であり、かつ、発光強度が強いものであった。一方、比較例4は、反応温度が180℃であったため、シランカップリング剤の熱分解が起こらず、表面処理された金属酸化物微粒子が得られなかった。また、比較例5は、メタノール中で、反応温度が0℃の条件で、シランカップリング剤の加水分解による表面処理が行われたが、反応温度が低いため、金属酸化物微粒子の結晶性が低く、実施例品に比べて発光強度が低いものであった。
【0075】
次に、上記の金属酸化物蛍光体微粒子を樹脂に分散させた。
【0076】
分散例1(実施例1の分散例1)
攪拌機、還流冷却器及び窒素導入管を備えた容器に、エチルアクリレート6g、2-ヒドロキシエチルアクリレート3g、酢酸エチル6g、及び2−プロパノール6gを加えた。重合開始剤として、アゾイソブチロニトリル0.01gを加え、窒素置換後、70℃で5時間反応を行い、アクリル樹脂溶液を得た。次いで、実施例1の酸化亜鉛蛍光体微粒子分散液0.5gを加え、剥離処理を施したPET上に膜厚30μmになるようにキャストし、乾燥することにより透明蛍光シートを得た。日立蛍光光度計F4500にて365nmの波長で励起したところ、470nmに極大波長を有する蛍光を発した。
【0077】
分散例2(実施例2の分散例1)
分散例1と同様の実験装置に、ジアミン誘導体としてm-BAPS(商品名:m-BAPS、和歌山精化社製)10.08gと無水ジメチルアセトアミド20gを加えて、ジアミンを溶解させた。次いで、実施例2の酸化亜鉛蛍光体微粒子分散液0.5gを添加後、あらかじめ150℃で3時間乾燥させたオキシジフタル酸無水物(商品名:ODPA、マナック社製)8.97gを攪拌しながら加え、さらに室温にて攪拌した。その後、粘度を調整するために、ジメチルアセトアミドを適宜加え、最終的に8gのジメチルアセトアミドを加え、3時間攪拌を行ない、ポリアミド酸溶液を得た。得られた溶液を膜厚50μmになるようにガラス板上に塗工し、100℃で1時間、150℃で1時間、さらに250℃で1時間加熱して透明蛍光シートを得た。分散例1と同様にして365nmの波長で励起したところ、470nmに極大波長を有する蛍光を発した。
【0078】
分散例3(実施例3の分散例1)
分散例1と同様の実験装置に、平均粒子径15nmのコロイダルシリカ(スノーテックスO-40、日産化学社製、固形分濃度40%)5.0g、メタノール10.0g、及び2−メトキシエタノール5.0gを加えたところに、テトラエトキシシラン0.8gとジメチルジメトキシシラン(商品名:KBM22、信越化学社製)1.6gをメタノール3.0gに溶解した液を滴下ロートを用いて5分間かけて滴下した。60℃で15分間攪拌した後、室温に冷却し、溶媒を減圧下、重さ8g程度になるまで濃縮した後、2−プロパノール10.0gとテトラヒドロフラン10.0gを加えた。再び60℃に昇温し、シリコーン誘導体(商品名:X-40-9225、信越化学社製、分子量2000〜3000)6.0gを2−プロパノール6.0gに溶解した液を10分間かけて滴下した。さらに60℃で2時間反応後、室温に冷却し、シリコーン樹脂を得た。次いで、実施例3の酸化亜鉛・ユウロピウム蛍光体微粒子分散液を2.0g加え、暫く攪拌を行い、均一に混ざった段階で減圧下、溶媒を留去した。剥離処理を施したPET基材上に膜厚100μmになるように塗工した。100℃で1時間加熱乾燥を行い、透明蛍光シートを得た。分散例1と同様にして365nmの波長で励起したところ、490nmに極大波長を有する蛍光を発した。
【0079】
分散例4(実施例4の分散例1)
分散例3において、実施例3の酸化亜鉛・ユウロピウム蛍光体微粒子分散液を用いる代わりに、実施例4の酸化亜鉛蛍光体微粒子分散液を2.0g加えた以外は、分散例3と同様にして、透明蛍光シートを得た。分散例1と同様にして365nmの波長で励起したところ、473nmに極大波長を有する蛍光を発した。
【0080】
分散例5(実施例5の分散例1)
ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC-M、日本ソーダ社製)を固形分濃度10%になるようにメタノールに溶解した液5gに、実施例5の酸化イットリウム蛍光体微粒子分散液0.5gを加え、剥離処理を施したPET基材上に膜厚10μmになるように塗工した。100℃で1時間加熱乾燥を行い、透明蛍光シートを得た。分散例1と同様にして365nmの波長で励起したところ、455nmに極大波長を有する蛍光を発した。
【0081】
分散例6(実施例1の分散例2)
実施例1の酸化亜鉛蛍光体微粒子をテトラエチレングリコールに分散した液(固形分濃度7.6重量%)1.0gに、多官能イソシアネート(商品名:タケネートD-120N、三井ポリウレタン社製)0.5gを加え、剥離処理を施したPET基材上に膜厚10μmになるように塗工した。100℃で3時間加熱乾燥を行い、透明蛍光シートを得た。分散例1と同様にして365nmの波長で励起したところ、454nmに極大波長を有する蛍光を発した。
【0082】
分散例7(比較例1の分散例1)
分散例1において、実施例1の酸化亜鉛蛍光体微粒子分散液を用いる代わりに、比較例1の酸化亜鉛蛍光体微粒子分散液を用いて分散例1と同様にして透明蛍光シートを得ようとしたが、分散性が悪く、蛍光シートは得られなかった。
【0083】
分散例8(比較例2の分散例1)
分散例1において、実施例1の酸化亜鉛蛍光体微粒子分散液を用いる代わりに、比較例2の酸化亜鉛蛍光体微粒子分散液を用いて分散例1と同様にして透明蛍光シートを得ようとしたが、分散性が悪く、蛍光シートは得られなかった。
【0084】
分散例9(参考例1の分散例1)
分散例1において、実施例1の酸化亜鉛蛍光体微粒子分散液を用いる代わりに、参考例1として、市販の酸化亜鉛水分散液(商品名:ZW-143、住友大阪セメント社製、粒子サイズ:約40nm)を用いて分散例1と同様にして透明蛍光シートを得ようとしたが、分散性が悪く、蛍光シートは得られなかった。
【0085】
これらより、実施例の金属酸化物蛍光体微粒子は、構成樹脂が異なっても、分散性よく透明な発光体樹脂組成物を提供することができる。なお、参考例1の金属酸化物蛍光体微粒子は、アクリル樹脂への分散性が低く、発光体樹脂組成物を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の金属酸化物蛍光体微粒子は、例えば、液晶画面のバックライト、信号機、屋外の大型ディスプレイや広告看板等の半導体素子を製造する際に、封止樹脂組成物に含有させて好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と式(I):
【化1】

(式中、Rは1価の有機基、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜4の、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示す)
で表され、かつ、分子量が190以上又は沸点が190℃以上である3官能性アルコキシシランとを200〜300℃で反応させることにより得られる金属酸化物蛍光体微粒子。
【請求項2】
金属酸化物蛍光体微粒子の平均粒子径が1〜100nmである、請求項1記載の金属酸化物蛍光体微粒子。
【請求項3】
沸点が250℃以上であるポリオール系溶媒中、金属酸化物前駆体と式(I):
【化2】

(式中、Rは1価の有機基、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜4の、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示す)
で表され、かつ、分子量が190以上又は沸点が190℃以上である3官能性アルコキシシランとを200〜300℃で反応させる工程を含む、金属酸化物蛍光体微粒子の製造方法。
【請求項4】
樹脂と請求項1又は2記載の金属酸化物蛍光体微粒子とを含有してなる、樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−209172(P2010−209172A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54980(P2009−54980)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】