説明

金属錯体、それを含む組成物及びそれを用いた発光素子

【課題】成膜に湿式プロセスを適用でき、十分な発光性能を示す金属錯体およびこれを含む組成物を提供する。
【解決手段】式(1)で表される構造を有する金属錯体。
【化1】


[式中、Mは、銅、亜鉛、ルテニウム、銀、オスミウム、レニウム、イリジウム、白金、金およびランタンから選ばれる金属原子である。A〜Aは水素原子または炭素原子数が3以上のアルキル基、AとAは結合して環を形成していてもよい。R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、フッ素原子で置換されていてもよい、炭素原子数6以上のアルキル基、アラルキル基、アルカリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルコキシ基、アリールアルコキシ基またはアルコキシアリール基である。Zは一価の単座配位子を示し、pは該単座配位子の数。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体、該金属錯体及び電荷輸送性有機化合物を含有する組成物、並びに該金属錯体を含む発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の作製に有用な発光性の有機材料として、数多くの蛍光材料、燐光材料が提案されている。そのなかでも、燐光材料は蛍光材料と比較して高効率発光が得られるので、近年盛んに研究が行われており、多くの発光性金属錯体が開発されている。例えば、イリジウムを中心金属としたオルトメタル化錯体(Ir(ppy)3)が緑色発光を示す金属錯体として提案されている(非特許文献1)。また、白金を中心金属とした[[2,2’[1,2−フェニレンビス](ニトリロメチリジン)]ビス[フェノラート]]−N,N’,O,O’]白金(II)が、赤色発光を示す金属錯体として報告されている(非特許文献2)。
【0003】
また、有機EL素子に、新しい機能として、偏光発光が得られる技術開発が従来から行われている。例えば、アクリレート重合基を有するネマティック液晶化合物と、蛍光色素を発光材料として使用した、偏光EL素子が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平10−508979号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS, Vol.75, p.4 (1999)
【非特許文献2】M. E. Ivanovaら、「ツァーナル フィズィケスコイ キミー(Zhur. Fiz. Khim.)」、第65巻、1991年、第2957頁−第2964頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これまで開発された金属錯体は、通常それを含む組成物として、蒸着プロセスで発光層が作製される有機EL素子に適するものが多いものの、インクジェット方式やスピンコーティングの湿式プロセスで発光層が作製される有機EL素子に適するものが少ない。そのため、湿式プロセスで発光層を形成するのに適し、高効率発光が得られる金属錯体が求められている。ところが、従来知られている金属錯体は、その発光性能においてこのような要求を十分に満たしていない。
【0007】
そこで、本発明は、湿式プロセスを適用でき、十分な発光性能を示す金属錯体及びこれを含む組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は第一に、下記式(1)で表される構造を有する金属錯体を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Mは、銅、亜鉛、ルテニウム、銀、オスミウム、レニウム、イリジウム、白金、金及びランタンからなる群から選ばれる金属原子である。C及びCは各々sp3炭素原子である。A〜Aはそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数が3以上のアルキル基を表し、少なくとも2つは炭素原子数が3以上のアルキル基である。但し、AとAは相互に結合して炭素原子数4以上のアルキレン基を形成しC1及びCとともに環を形成していてもよい。このアルキレン基は、置換基を有していてもよい。R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数6以上のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルカリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルコキシアリール基を表し、R〜Rの少なくとも1つはフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が12以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルカリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が12以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルコキシアリール基である。Zは一価の単座配位子を示し、pは該単座配位子の数であって、(中心金属原子Mの価数−2)で表される。]
【0011】
本発明は第二に、上記の金属錯体と電荷輸送性有機化合物とを含む組成物を提供する。
本発明は第三に、上記金属錯体又は上記組成物を用いてなる膜を提供する。
本発明は第四に、上記膜を有する発光素子を提供する。
本発明は第五に、上記発光素子を用いた面状光源を提供する。
本発明は第六に、上記発光素子を用いた照明器具を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属錯体及びそれを含む組成物は、有機エレクトロルミネッセンス素子等の作製において、湿式プロセスにより、十分な発光効率を示す発光層が得られるものである。
また、本発明の金属錯体及びそれを含む組成物は、その好適な実施形態においては、素子作製過程において配向処理を施すことにより、偏光EL発光が得られるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の記載において、数平均分子量及び重量平均分子量は、サイズエクスクルージョンクロマトグラフィー(SEC)で測定した、ポリスチレン換算の数平均分子量及び重量平均分子量を意味する。
【0014】
<金属錯体>
本発明の金属錯体は前記式(1)で表される。
【0015】
本発明の金属錯体が有する中心金属原子Mは、銅、亜鉛、ルテニウム、銀、オスミウム、レニウム、イリジウム、白金、金、及びランタンからなる群から選ばれる金属原子であるが、高発光効率を得る観点から、ルテニウム、銀、オスミウム、レニウム、イリジウム、白金、金及びランタンからなる群から選ばれる金属原子が好ましく、イリジウム及び白金からなる群から選ばれる金属原子がより好ましい。
【0016】
前記式(1)中、C及びCは各々sp3炭素原子である。A〜Aはそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数が3以上のアルキル基を表し、少なくとも2つは炭素原子数が3以上のアルキル基である。但し、AとAは相互に結合して炭素原子数4以上のアルキレン基を形成しC1及びCとともに環を形成していてもよい。このアルキレン基は、置換基を有していてもよい。R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数6以上のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルカリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルコキシアリール基を表し、R〜Rの少なくとも1つはフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が12以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルカリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が12以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルコキシアリール基である。
【0017】
Zは一価の単座配位子を示し、nは該単座配位子の数であって、(中心金属原子Mの価数−2)で表される。
【0018】
−A〜Aの説明−
〜Aはそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数が3以上のアルキル基を表し、少なくとも2つは炭素原子数が3以上のアルキル基である。A〜Aで表されるアルキル基としては、例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素原子数3〜15のアルキル基が挙げられる。なお、AとAは相互に結合して炭素原子数4以上のアルキレン基(好ましくはテトラメチレン基)を形成しC1及びCとともに環を形成していてもよく、環を形成する場合に、環部分にヘテロ原子が含まれていてもよい。AとAが環を形成する場合は、飽和の6員環、飽和の複素環が挙げられ、好ましくは環部分として下記の構造が挙げられる。
【0019】
【化2】

【0020】
上記式中、Rは、水素原子、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数1以上のアルキル基、炭素原子数6以上のアリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアルカリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数1以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアルコキシアリール基を表す。複数存在するRは同一であっても異なっていてもよい。なお、上記のうち飽和の6員環の場合は、C、Cはキラル炭素原子であることが好ましい。また、Rの少なくとも1つはフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数3以上のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアルコキシアリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数3以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアルコキシアリール基であることが好ましい。
【0021】
上記Rで表されるアルキル基は、直鎖でも分岐でもよいが、直鎖が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素原子数が1〜15のアルキル基が挙げられ、炭素原子数8〜12のアルキル基が好ましい。
上記Rで表されるアラルキル基及びアルカリール基としては、フェニル基、フェニレン基を有するものが好ましく、下記式で表される基が例示される。
【0022】
【化3】

(式中、m及びnはそれぞれ独立に0〜15の整数、好ましくは0〜12の整数を表し、**は環との結合を表す。)
【0023】
上記Rで表されるアルコキシ基は、直鎖、分岐のいずれでもよいが、直鎖が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基等の炭素原子数1〜15のアルコキシ基が挙げられ、好ましくは炭素原子数6〜12のアルコキシ基が挙げられる。
上記Rで表されるアリールアルコキシ基及びアルコキシアリール基としては、フェニル基、フェニレン基を有するものや、アルコキシ基部分の炭素原子数が6〜12であるものが好ましく、下記式で表される基が例示される。
【0024】
【化4】

(式中、m、n及び**は、前記と同じ意味を有する。)
【0025】
−置換基R〜Rの説明−
以下、R〜Rが水素原子以外の置換基であって、これらがフッ素原子で置換されていない場合について説明する。
前記R〜Rで表されるアルキル基は、直鎖、分岐のいずれでもよいが、R〜Rの内で最も長い(即ち、直鎖の炭素原子数が最も多い)アルキル基の炭素原子数は10以上であることが好ましい。このアルキル基の炭素原子数は、通常、6〜20であるが、6〜15が好ましい。このアルキル基としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等が挙げられ、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基が好ましい。
【0026】
前記R〜Rで表されるアラルキル基及びアルカリール基は、直鎖、分岐のいずれでもよいが、アルキル基部分が直鎖であることが好ましい。またアラルキル基及びアルカリール基としては、フェニル基、フェニレン基を有するものが好ましい。アラルキル基及びアルカリール基としては以下が例示される。
【0027】
【化5】

(式中、m、n及び**は、前記と同じ意味を有する。)
【0028】
前記R〜Rで表されるアルコキシ基は、直鎖、分岐のいずれでもよいが、直鎖が好ましい。このアルコキシ基の炭素原子数は、通常、6〜15、好ましくは8〜12である。アルコキシ基としては、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ラウリルオキシ基等、炭素原子数が15までのアルコキシ基等が挙げられ、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基が好ましい。
【0029】
前記R〜Rで表されるアリールアルコキシ基及びアルコキシアリール基は、直鎖、分岐のいずれでもよいが、アルコキシ基部分が直鎖であることが好ましい。また、アリール基部分としてはフェニル基が好ましく、アルコキシ基部分としては炭素原子数8〜12であることが好ましい。アリールアルコキシ基及びアルコキシアリール基としては、フェニル基、フェニレン基を有するものが好ましく、またアルコキシ基部分の炭素原子数は8〜12であることが好ましい。アリールアルコキシ基及びアルコキシアリール基としては以下が例示される。
【0030】
【化6】

(式中、m、n及び**は、前記と同じ意味を有する。)
〜Rが水素原子以外の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基が好ましい。
【0031】
−単座配位子Zの説明−
本発明の金属錯体における中心金属Mには、中心金属Mの価数が2より大きい場合に、一価の単座配位子Zがさらに配位していてもよい。一価の単座配位子としては、芳香環を有している(芳香環を有する単座配位子である)ことが好ましく、当該芳香環構造内(芳香環中)に、配位原子を含むことがより好ましく、さらには芳香環中の配位原子が炭素原子又は窒素原子であるか、芳香環が縮合環であることが好ましい。該単座配位子Zの数pは(中心金属原子Mの価数−2)に等しい。金属原子Mの価数は、金属種類によって異なり、例えばレニウム(+2価〜+7価)は複数の価数をとりうるが、特に配向性を示すためには、錯体構造の平面性の観点から、金属の価数は2価が好ましい。
【0032】
・単座配位子の例:
一価の単座配位子としては、例えば下記式(S−1)で表される配位子が挙げられる。
【0033】
【化7】

〔式(S−1)中、*は金属に配位している原子を表し、複数のRは、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数7〜13のアリールオキシ基、炭素原子数7〜13のアラルキル基、炭素原子数7〜13のアルカリール基、炭素原子数7〜13のアリールアルコキシ基、炭素原子数7〜13のアルコキシアリール基、又はハロゲン原子を示す。〕
【0034】
ここで述べたアルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アルカリール基、アリールアルコキシ基、アルコキシアリール基は、R〜Rに関して説明したものと同じものが好ましく、アリール基、アリールオキシ基としては、フェニル基、フェニルオキシ基が好ましい。
【0035】
前記式(1)で表される構造を有する金属錯体の中でも、下記式(2)で表される構造を有する金属錯体が好ましい。
【0036】
【化8】

〔式中、Rは前記と同じ意味を表す。R〜R、Z及びpは式(1)に定義の通りであり、*はキラル炭素原子を表す。〕
【0037】
さらに、下記式(3)で表される構造を有する金属錯体がより好ましい。
【0038】
【化9】

〔式中、Mは白金原子又はイリジウム原子であり、Mが白金原子であるときpは0であり、Mがイリジウム原子であるときpは1であり、R〜Rの少なくとも一つは炭素原子数8〜15のアルコキシ基であり、R〜Rの少なくとも一つは炭素原子数8〜15のアルコキシ基である。〕
【0039】
<金属錯体の例示>
前記金属錯体としては、以下に示す金属錯体が挙げられる。
【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
【化14】

【0045】
【化15】

【0046】
【化16】

【0047】
【化17】

【0048】
【化18】

【0049】
【化19】

【0050】
【化20】

【0051】
【化21】

【0052】
【化22】

【0053】
前記金属錯体としては、安定した高効率発光の観点から、禁制遷移を解きやすい三重項励起状態の寿命が短い、中性の金属錯体が好ましい。
【0054】
前記金属錯体は、配向性を有していてもよい。配向性を高める観点から、R〜Rの少なくとも2つが炭素連鎖の長い基(炭素原子数6〜12のアルキル基、炭素原子数6〜12のアルコキシ基が好ましい。)を含むことが望ましい。その場合、RとR、又はRとRが炭素連鎖の長い基となることが好ましい。また、R〜Rとして炭素連鎖の長い基が2以上存在しない場合(0又は1である場合)には、A〜Aの少なくとも2つが、炭素連鎖の長い基又は芳香環を含む基であることにより、配向性を高めることができる。
【0055】
次に、前記金属錯体の製造方法を説明する。
前記金属錯体は、配位子となる化合物と金属化合物とを溶液中で反応させることにより合成することができる。
【0056】
錯体化の方法(即ち、配位子となる化合物と金属化合物とを溶液中で反応させる方法)としては、例えば、Inorg.Chem.2006、45、10976、Dalton Trans.2004,2237に記載の方法が挙げられる。
錯体化の反応は、通常、−80℃から300℃、好ましくは溶媒の融点から200℃で反応させることができる。溶媒の沸点以上で反応させる場合は、反応温度における溶媒の蒸気圧に耐える加圧反応装置を用いることができる。加熱の方法としては、オイルバス、ヒータ等の通常の加熱のほか、マイクロウエーブを用いた加熱も可能である。反応時間は個別の反応に応じて必要な時間でよく、通常、30分から48時間であり、好ましくは12時間から24時間である。
【0057】
前記配位子となる化合物は、例えば、Inorg.Chem.2006、45、10976、Dalton Trans.2004,2237に記載の方法で合成することができる。
また、前記金属化合物としては、無機金属化合物及び有機金属化合物のいずれも用いることができる。無機金属化合物としては、例えば、金属塩化物、金属臭化物、金属ヨウ化物等の金属ハロゲン化物や、塩化金属酸ナトリウム、塩化金属酸カリウム等のハロゲン化金属酸塩が挙げられる。無機金属化合物としては、金属が白金の場合、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金、塩化白金酸ナトリウム、塩化白金酸カリウム、臭化白金酸カリウム等が挙げられる。有機金属化合物としては、金属が白金の場合、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロ白金(II)、ジクロロビス(ジメチルスルホキシド)白金(II)等が挙げられる。これらの金属化合物は市販品を使用してもよい。
【0058】
<組成物>
本発明の組成物は、上記本発明の金属錯体と電荷輸送性有機化合物とを含む。
【0059】
本発明の組成物は、例えばホスト化合物として電荷輸送性有機化合物を本発明の金属錯体と混合したものである。ホスト化合物としては、これまで知られている、金属錯体燐光発光化合物用の低分子ホスト化合物や、高分子化合物等が挙げられる。電荷輸送性は、正孔、電子両方を輸送する性質を有することが好ましいが、用いる金属錯体の性質によっては、一方の電荷のみを主として輸送する性質を有していてもよい。
【0060】
本発明の組成物を用いてなるEL素子が偏光EL発光を示す場合は、本発明の組成物にホスト化合物として用いる電荷輸送性有機化合物を配向させることが必要であるが、これにあわせて、金属錯体も配向する性質を有する。そのためには、該電荷輸送性有機化合物は液晶相を示すことが好ましく、金属錯体はその電荷輸送性有機化合物の液晶相と相溶し、均一な相を示すことが好ましい。また、本発明の金属錯体も液晶相を示すことが好ましい。さらに、該組成物は均一な相を形成しかつ液晶相を示すことが好ましい。液晶相の温度範囲は、室温以上が好ましく、60〜250℃の範囲に結晶−液晶転移温度を有することがより好ましい。
前記電荷輸送性有機化合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0061】
前記電荷輸送性有機化合物は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよいが、発光素子に用いた時に発光効率や寿命等の素子特性や成膜性の観点から、低分子化合物である場合には、ポリスチレン換算の数平均分子量(又は分子量)が4×10以上3×10未満であることが好ましく、4.8×10以上3×10未満であることがより好ましく、高分子化合物である場合には、ポリスチレン換算の数平均分子量が3×103〜1×108であることが好ましく、1×104〜1×106であることがより好ましい。なお、本明細書において、ポリスチレン換算の数平均分子量(又は分子量)が3×103以上の化合物を高分子化合物といい、他方、数平均分子量は3×103未満である化合物を低分子化合物という。また、前記電荷輸送性有機化合物はかかる意味において高分子化合物であるか低分子化合物であるかにかかわらず、デンドリマーやオリゴマー等の形態で存在してもよい。
【0062】
低分子ホスト化合物としては、下記化合物を挙げることができる。
【0063】
【化23】

【0064】
【化24】

【0065】
【化25】

【0066】
【化26】

【0067】
【化27】

【0068】
【化28】

【0069】
【化29】

【0070】
【化30】

【0071】
【化31】

【0072】
【化32】

【0073】
【化33】

【0074】
また、ホスト化合物としては高分子化合物も用いることができる。この高分子化合物としては、非共役系高分子化合物、共役系高分子化合物が挙げられる。ここで、非共役系高分子化合物とは、ビニレン基やアクリレート基等を繰り返し単位として有する高分子化合物を表し、共役系高分子化合物とは、主鎖に芳香環を含むポリマーを表す。
非共役系高分子化合物としては、ポリビニルカルバゾール、特開2003−133073号公報に記載のアクリレートポリマーが挙げられ、さらに下記式で表される構造のアクリレートポリマーが挙げられる。
【0075】
<アクリレートポリマーの例示>
【0076】
【化34】

【0077】
【化35】

【0078】
【化36】

【0079】
【化37】

【0080】
【化38】

【0081】
【化39】

【0082】
【化40】

【0083】
【化41】

【0084】
【化42】

【0085】
【化43】

【0086】
【化44】

(式中、n及びmはそれぞれ独立に、重合度を表す。)
【0087】
本発明の組成物に用いる非共役系高分子化合物のポリスチレン換算の重量平均分子量は8×10〜1×10が好ましく、さらに好ましくは1.8×10〜5×10である。また、重量平均分子量と数平均分子量との比Mw/Mnは、比較的小さいことが好ましい。
共役系高分子化合物としては、主鎖に芳香環を含むポリマーが挙げられ、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいフルオレンジイル基、置換基を有していてもよいジベンゾチオフェンジイル基、置換基を有していてもよいジベンゾフランジイル基、置換基を有していてもよいジベンゾシロールジイル基等を繰り返し単位として主鎖に含むものや、それらのユニットとの共重合体が好ましい。前記共役系高分子化合物としては、置換基を有していてもよいベンゼン環を部分構造として有する高分子化合物や、特開2003−231741号公報、特開2004−059899号公報、特開2004−002654号公報、特開2004−292546号公報、US5708130、WO99/54385、WO00/46321、WO02/077060、「有機ELディスプレイ」(時任静士、安達千波矢、村田英幸 共著、オーム社)111頁、月刊ディスプレイ(vol.9、No.9、2002年)47〜51頁等に記載の高分子化合物も挙げられ、例えば、下記式で表される繰り返し単位からなる高分子化合物が挙げられる。
【0088】
【化45】

【0089】
ホスト化合物として用いる高分子化合物は、上記式で表される繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。また、ホスト化合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0090】
本発明の組成物に用いる共役系高分子化合物のポリスチレン換算の数平均分子量は3×103〜1×108が好ましく、さらに好ましくは1×104〜1×106である。ポリスチレン換算の重量平均分子量は3×103〜1×108であり、好ましくは5×104〜5×106である。
【0091】
前記電荷輸送性有機化合物が高分子化合物である場合、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する高分子化合物、例えば、ブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。前記電荷輸送性有機化合物には、主鎖に枝分かれがあり、末端部が3つ以上あるものやデンドリマーも含まれる。
【0092】
前記ホスト化合物の最低三重項励起エネルギー(TH)と、本発明の金属錯体の最低三重項励起エネルギー(TM)とが、
TH>TM−0.2(eV)
の関係を満たすことが好ましい。前記最低三重項励起エネルギー、最低三重項励起エネルギーの値は、いずれも計算科学的手法で得ることができ、例えば、特開2007−106990号公報に記載の計算方法で求めることができる。
【0093】
また、本発明に用いる電荷輸送性有機化合物は、偏光EL発光を得る場合は、液晶相を示す方が好ましい。該電荷輸送性有機化合物が示す液晶相は、ネマティック相が好ましい。液晶相の温度範囲は、室温より高温が好ましく、60℃〜130℃の範囲で、結晶−液晶転移温度を有することが好ましい。
【0094】
本発明の組成物中の金属錯体は、組み合わせる電荷輸送性有機化合物の種類や、所望の特性により異なるのが、電荷輸送性有機化合物の量を100重量部としたとき、通常0.01〜80重量部、好ましくは0.1〜60重量部である。また、金属錯体は1種単独でも2種以上の組み合わせでもよい。
【0095】
本発明の組成物は、溶媒又は分散媒を含んでいてもよい。この溶媒又は分散媒としては、膜の成分を均一に溶解又は分散し安定なものを公知の溶媒から選択して使用できる。この溶媒としては、塩化炭化水素系溶媒(クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等)、エーテル系溶媒(テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、脂肪族炭化水素系溶媒(シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等)、多価アルコール及びその誘導体(エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシエタン、プロピレングリコール、ジエトキシメタン、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等)、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシド等)、アミド系溶媒(N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等)等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0096】
前記溶媒又は分散媒を含む組成物をインクジェット印刷法に適用する場合には、該組成物の吐出性及びその再現性を良好にするために、該組成物は更なる添加剤を含有していてもよい。更なる添加剤としては、ノズルからの蒸発を押さえるために高沸点の溶媒(アニソール、ビシクロヘキシルベンゼン等)等が挙げられる。前記溶媒又は分散媒を含む組成物は、25℃における粘度が1〜100mPa・sであることが好ましい。
【0097】
<本発明の組成物を用いた膜>
次に、本発明の金属錯体又は組成物を用いてなる膜について説明する。
本発明の膜の成膜方法としては、真空蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法等)、スパッタリング法、LB法、分子積層法、塗布法(キャスティング法、スピンコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等)等が挙げられる。これらの中では、製造プロセスを簡略化できる点で、塗布法が好ましい。塗布法による成膜に用いられる溶液は、前記溶媒又は分散媒を含む組成物が用いられる。本発明の金属錯体及びそれを含む組成物は塗布法(湿式プロセス)を適用できることが利点である。
【0098】
<配向処理法>
また、本発明の膜は、成膜工程において配向処理を施すことにより、偏光発光を示す。本発明の膜は、少なくとも面内の1方向に配向処理を施されたものであることが好ましい。
【0099】
配向処理法としては、特表平10−508979号公報、特開2003−133073号公報、特開2004−31210号公報等に記載されている公知の手法を使うことができる。例えば、基板上にあらかじめ膜を形成し、これを一方向にラビングした後、本発明の組成物からなる膜を形成し、配向させる。さらに、ラビング後にアニール処理を施すことにより配向度がより高い膜を得ることもできる。ここでラビングとは、膜や紙等でこする処理を指し、液晶ディスプレイの製造等で広く使われている手法である。ラビングする膜としては、ポリイミド膜や、導電性あるいは正孔注入層として機能するPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)等が使用できる。アニール処理は、発光層を形成した後、その発光層を液晶相の温度、あるいは等方相まで昇温した後、徐冷することである。
また、本発明の金属錯体又はそれを含む組成物を用いてなる膜そのものを、布やテフロン(登録商標)ブロック等で直接こするフリクション法等でも配向させることができる。
【0100】
本発明の組成物で、ホスト化合物として液晶相を示し、重合性基を有する電荷輸送性有機化合物を用いる場合は、上記記載の配向処理を施した膜上に該組成物からなる発光層を形成した後、液晶相の温度、あるいは等方相まで昇温、徐冷、配向させた後、光照射等で重合、高分子化することにより、配向を固定する。
【0101】
<発光素子>
本発明の発光素子は、本発明の金属錯体を含む上記膜を発光層として用いてなるものである。該発光素子としては、例えば、陽極及び陰極からなる電極と、該電極間に設けられ前記金属錯体を含む層(前記組成物の状態で含んでもよい)とを有する発光素子が挙げられる。また、本発明の組成物を用いて膜を形成させ、この膜を用いて本発明の発光素子を作製することもできる。
【0102】
本発明の発光素子は、陽極と陰極からなる一対の電極と、該電極間に少なくとも発光層を有する一層(単層型)又は複数層(多層型)の膜が挟持されているものである。これらの膜からなる層の少なくとも1層は、本発明の金属錯体を含むものである。該金属錯体は多くの場合、ホスト化合物である前記電荷輸送性有機化合物との組成物として含まれているが、該膜中の前記金属錯体及び前記電荷輸送性有機化合物の合計含有量は、発光層全体の重量に対して、通常、0.1〜100重量%であり、0.1〜30重量%であることが好ましく、0.5〜30重量%であることがより好ましく、1〜30重量%であることが特に好ましい。
【0103】
本発明の発光素子が前記単層型である場合には、唯一存在する前記膜が発光層であり、この発光層が前記金属錯体を含有する。また、本発明の発光素子が多層型である場合には、例えば、以下の層構成をとり、おのおのの場合において発光層が前記金属錯体を含有する。
(a)陽極/正孔注入層(正孔輸送層)/発光層/陰極
(b)陽極/発光層/電子注入層(電子輸送層)/陰極
(c)陽極/正孔注入層(正孔輸送層)/発光層/電子注入層(電子輸送層)/陰極
【0104】
本発明の発光素子の陽極は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層等に正孔を供給するものであり、4.5eV以上の仕事関数を有することが効果的である。陽極の材料には、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等を用いることができる。具体的には、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの導電性金属酸化物と金属との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質、ポリアニリン類、ポリチオフェン類(PEDOT等)、ポリピロール等の有機導電性材料、これらとITOとの積層物等が挙げられる。
【0105】
本発明の発光素子の陰極は、電子注入層、電子輸送層、発光層等に電子を供給するものである。陰極の材料としては、金属、合金、金属ハロゲン化物、金属酸化物、電気伝導性化合物又はこれらの混合物を用いることができる。陰極の材料としては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)並びにそのフッ化物及び酸化物、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウム、セシウム等)並びにそのフッ化物及び酸化物、金、銀、鉛、アルミニウム、合金及び混合金属類(ナトリウム−カリウム合金、ナトリウム−カリウム混合金属、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−アルミニウム混合金属、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−銀混合金属等)、希土類金属(インジウム、イッテルビウム等)等が挙げられる。
【0106】
本発明の発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層は、陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有しているものであればよい。これらの層の材料には、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、有機シラン誘導体等、これらを含む重合体等が挙げられる。その他にも、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマーが挙げられる。これらの材料は1成分単独であっても複数の成分が併用されていてもよい。また、前記正孔注入層及び前記正孔輸送層は、前記材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0107】
本発明の発光素子の電子注入層及び電子輸送層は、陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれかを有しているものであればよい。これらの層の材料には、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8 − キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、有機シラン誘導体等が挙げられる。また、前記電子注入層及び前記電子輸送層は、前記材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0108】
また、本発明の発光素子において、電子注入層、電子輸送層の材料としては、絶縁体又は半導体の無機化合物も使用することもできる。電子注入層、電子輸送層が絶縁体や半導体で構成されていれば、電流のリークを有効に防止して、電子注入性を向上させることができる。このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲニド、アルカリ土類金属カルコゲニド、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を使用できる。好ましいアルカリ土類金属カルコゲニドとしては、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、CaSeが挙げられる。また、電子注入層、電子輸送層を構成する半導体としては、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Li、Na、Cd、Mg、Si、Ta、Sb及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物、窒化物及び酸化窒化物等が挙げられる。これら酸化物、窒化物及び酸化窒化物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0109】
陰極と接する膜との界面領域に還元性ドーパントが添加されていてもよい。還元性ドーパントとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属錯体、アルカリ土類金属錯体及び希土類金属錯体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0110】
本発明の発光素子の発光層は、電圧印加時に陽極又は正孔注入層より正孔を注入することができ、陰極又は電子注入層より電子を注入することができる機能、注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる機能、電子と正孔の再結合の場を提供し、これを発光につなげる機能を有するものである。本発明の発光素子の発光層には、本発明の金属錯体又は本発明の組成物を用いることが好ましい。
【0111】
本発明の発光素子では、前記各層の形成方法としては、真空蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法等)、スパッタリング法、LB法、分子積層法、塗布法(キャスティング法、スピンコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等)等が挙げられる。これらの中では、製造プロセスを簡略化できる点で、塗布法が好ましい。前記塗布法では、前記金属錯体及び前記電荷輸送性有機化合物を溶媒に溶解して塗布液を調製し、該塗布液を所望の層(又は電極)上に、塗布・乾燥することによって形成することができる。
【0112】
また、本発明の発光素子では、発光層形成時に前記記載の配向処理を施すことにより、偏光発光を得ることができる。
【0113】
本発明の発光素子の各層の好ましい膜厚は、材料の種類や層構成によって異なるが、一般的には膜厚が薄すぎるとピンホール等の欠陥が生じやすく、逆に厚すぎると高い印加電圧が必要となり発光効率が悪くなるため、30nm〜1μmが好ましい。
【0114】
本発明の発光素子の用途としては、例えば、面状光源、照明器具、光源、サイン用光源、バックライト用光源、ディスプレイ装置、プリンターヘッドが挙げられる。前記ディスプレイ装置としては、公知の駆動技術、駆動回路等を用い、セグメント型、ドットマトリクス型等の構成を選択することができる。
【実施例】
【0115】
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0116】
<金属錯体(MC−1)の合成>
【0117】
【化46】

【0118】
(1)4−(デシロキシ)サリチルアルデヒドの合成:
2,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド(6.94g)、1−ブロモデカン(11.2g)、炭酸水素カリウム(5.16g)及び微量のヨウ化カリウムを70mlのDMFに加えた。得られた混合物を135℃に昇温し、4時間攪拌した。この混合物を室温まで冷却した後、1N−塩酸(500ml)中に注いだ。クロロホルムで反応物を抽出し、有機層の溶媒を留去した。残留物を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィー(展開液はヘキサン:酢酸エチル=9:1(体積比))にて精製し、無色の油状物として4−(デシロキシ)サリチルアルデヒドを得た。収量は10.4g(収率72%)であった。
・測定値:
1H NMR (300 MHz, CDCl3, δ): 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 3H), 1.27-1.79 (m, 16H), 4.00 (t,2H), 6.41 (d, 1H), 6.51 (dd, 1H), 7.40 (d, 1H), 9.70 (s, 1H), 11.5 (s, 1H).
【0119】
(2)N,N’−ビス(4−デシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミンの合成:
上記(1)で得られた4−(デシロキシ)サリチルアルデヒド(4.12g)、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサン(0.94g)及び無水エタノール(30ml)を混合し、得られた溶液を50℃で14時間攪拌した。この溶液を室温まで冷却し、溶媒を除去した。残留物を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィー(展開液はトルエン:THF=15:1(体積比))にて精製した後、これを濃縮した。得られた生成物をメタノールで再結晶し、目的物であるN,N’−ビス(4−デシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミンを得た。収量は3.02g(収率は65%)であった。
・測定値:
1H NMR (δ, CDCl3): 0.79 (t, J = 6.6 Hz, 6H), 0.99-1.87 (m, 40H), 3.21 (s, 2H), 3.82 (t, 4H), 6.18-6.38 (4H, m), 6.93 (2H, d), 8.07 (2H, s), 13.8 (2H, s)
・理論値: C40H62N2O4 (635);
・MS-FAB+(m-NBA): m/z 635 [M]+.
【0120】
(3)金属錯体(MC−1)[N,N’−ビス(4−デシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミノネート白金(II)錯体]の合成:
N,N’−ビス(4−デシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミン(2.00g)を、ジクロロビス(ジメチルスルホキシド)白金(II)(1.36g)と無水アセトニトリル(20ml)中に懸濁し、懸濁液を50℃で6時間激しく攪拌した。その後溶媒を減圧下で蒸発除去し、テトラヒドロフラン/酢酸エチルで再結晶を行い、目的物であるN,N’−ビス(4−デシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミノネート白金(II)錯体(金属錯体(MC−1))を0.65g得た。収率は25%であった。
・測定値:
1H NMR (δ, CDCl3): 0.89 (t, 6H), 0.95-1.76 (m, 40H), 3.50 (s, 2H), 3.93 (t, 4H), 6.22 (d, 2H), 6.70 (s, 2H), 7.11 (d, 2H), 7.75 (s, 2H).
MS-FAB+(m-NBA): m/z 828 [M]+.
【実施例2】
【0121】
<金属錯体(MC−2)の合成>
【0122】
【化47】

【0123】
(1)4−(n−ウンデシロキシ)フェノールの合成:
ヒドロキノン(20g)を1−ブロモウンデカン(10.0g)とメチルエチルケトン(50ml)の混合物に溶解し、微量のヨウ化カリウムと炭酸カリウム(6.21g)を徐々に加えた。その後、得られた溶液を24時間、還流しながら攪拌した。溶媒を減圧下で蒸発除去し、粗生成物を酢酸エチルで抽出、1N塩酸と水で洗った。洗浄後の生成物を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィー(展開液はクロロホルム)にて精製し、ヘキサン/アセトン混合液で再結晶することにより、目的物である4−(n−ウンデシロキシ)フェノールを得た。収量は9.22g(収率82%)であった。
・測定値:
1H NMR (300 MHz, CDCl3, δ): 0.88 (t, 3H), 1.27-1.79 (m, 18H), 3.89 (t, 2H), 4.48 (s, 1H), 6.73-6.91 (m, 4H).
【0124】
(2)5−(ウンデシロキシ)サリチルアルデヒドの合成:
上記(1)で得られた4−(ウンデシロキシ)フェノール(10.0g)をヘキサメチレンテトラアミン(5.3g)とトリフルオロ酢酸(40ml)中に懸濁した。懸濁液を100℃で1時間激しく攪拌し、さらに室温で2時間攪拌した。4N−塩酸(40ml)をこれに加え、混合物をジクロロエタンで抽出した。有機溶媒を減圧下で蒸発除去し、得られた黒色油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル:ヘキサン=1:9(体積比))で精製して、目的物である5−(ウンデシロキシ)サリチルアルデヒドを得た。収量は2.11g(収率19%)であった。
【0125】
(3)N,N’−ビス(5−ウンデシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミンの合成:
上記(2)で得られた5−(ウンデシロキシ)サリチルアルデヒド(4.39g)を(1R,2R)−1,2−シクロヘキサンジアミン(0.94g)及び無水エタノールと混合し、その溶液を50℃で12時間攪拌した。溶液を室温に戻した後、溶媒を蒸発除去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液 トルエン:THF=15:1(体積比))で精製し、溶液を濃縮した。得られた反応物をメタノールで再結晶を行い、目的物であるN,N’−ビス(5−ウンデシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミンを2.32g得た。(収率48%)
・測定値:
1H NMR (δ, CDCl3): 0.79 (t, 6H), 0.91-1.95 (m, 44H), 3.22 (s, 2H), 3.92 (t, 4H), 6.13-6.29 (m, 4H), 7.01 (d, 2H), 8.06 (s, 2H), 13.6 (s, 2H)
・理論値: C42H66N2O4 (663)
・MS-FAB+(m-NBA): m/z 663 [M]+.
【0126】
(4)金属錯体(MC−2)[N,N’−ビス(5−ウンデシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミノネート白金(II)錯体]の合成:
上記(3)で得られたN,N’−ビス(5−ウンデシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミン(2.00g)とジクロロビス(ジメチルスルホキシド)白金(II)(1.36g)を無水アセトニトリル(20ml)中に懸濁した。得られた懸濁物を強力に50℃で6時間攪拌した後、溶媒を減圧下で蒸発除去した。テトラヒドロフラン/酢酸エチルの混合溶媒で再結晶を行い、目的物であるN,N’−ビス(5−ウンデシロキシサリチリデン)−(1R,2R)−(−)シクロヘキサンジアミノネート白金(II)錯体(金属錯体(MC−2))を0.52g得た。収率は20%であった。
・測定値:
1H NMR (δ, CDCl3): 0.89 (t, 6H), 0.95-2.01 (44H, m), 3.23 (s, 2H), 3.97 (t, 4H), 6.25 (d, 2H), 6.69 (s, 2H), 7.01 (d, 2H), 7.78 (s, 2H).
MS-FAB+(m-NBA): m/z 856 [M]+
・理論値: C42H64N2O4Pt (856): C, 58.93; H, 7.54; N, 3.27; O, 7.48.
・測定値: C, 58.65; H, 7.57; N, 3.25; O, 7.56.
【実施例3】
【0127】
<EL素子(A)の作製>
スパッタ法により45nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板に、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(エイチ・シー・シュタルク社、商品名:CLEVIOS P VP AI4083)を用いてスピンコートにより65nmの厚みで成膜し、ホットプレート上で200℃にて10分間乾燥させた。
次に、後述の高分子化合物(I−1)を0.8重量%のキシレン溶液の状態でスピンコートして、約20nmの厚みに成膜した。その後、ホットプレート上で180℃、60分間熱処理した。
【0128】
次に、クロロホルム溶媒中に0.8重量%の濃度で溶解させた下記式:
【0129】
【化48】

で表される化合物(HL−1)(東京化成社製)の溶液と、0.8重量%の濃度でクロロホルム溶媒中に溶解させた金属錯体(MC−1)の溶液とを、重量比で、90:10となるように混合して、組成物(以下、「組成物1」と言う。)を調製した。組成物1をスピンコートにより3500rpmの回転速度で成膜した。膜厚は約80nmであった。これを窒素ガス雰囲気下、60℃で10分間乾燥させた後、陰極としてバリウムを約5nm、次いでアルミニウムを約60nm蒸着して、EL素子(A)を作製した。なお、真空度が、1×10-4Pa以下に到達した後に金属の蒸着を開始した。
得られたEL素子(A)に電圧を印加したところ、このEL素子(A)から金属錯体(MC−1)に由来する530nmにピークを有するEL発光が得られ,最大発光効率は5.1cd/Aであった。
【0130】
<高分子化合物(I−1)の合成>
高分子化合物(I−1)は以下のとおりに合成した。
ジムロートを接続したフラスコに、下記式:
【0131】
【化49】

【0132】
で表される化合物A 5.25g(9.9mmol)、下記式:
【0133】
【化50】

で表される化合物B 4.55g(9.9mmol)、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(商品名:アリコート(Aliquat)336、アルドリッチ社製) 0.91g、及びトルエン69mlを加えてモノマー溶液を得た。窒素雰囲気下、モノマー溶液を加熱し、80℃で、酢酸パラジウム 2mg、及びトリス(2−メチルフェニル)ホスフィン 15mgを加えた。得られたモノマー溶液に、17.5重量%炭酸ナトリウム水溶液 9.8gを注加した後、110℃で19時間攪拌した。次に、そこへ、トルエン1.6mlに溶解させたフェニルホウ酸 121mgを加え、105℃で1時間攪拌した。
【0134】
有機層を水層と分離した後、有機層にトルエン300mlを加えた。有機層を3重量%酢酸水溶液 40ml(2回)、イオン交換水 100ml(1回)の順番で洗浄し、水層と分離した。有機層にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物 0.44g、トルエン 12mlを加え、65℃で、4時間攪拌した。
得られた反応生成物のトルエン溶液を、あらかじめトルエンを通液したシリカゲル/アルミナカラムに通液し、得られた溶液をメタノール 1400mlに滴下したところ、沈殿物が生じたので、この沈殿物を濾過、乾燥させ、固体を得た。この固体をトルエン 400mlに溶解させ、メタノール 1400mlに滴下したところ、沈殿物が生じたので、この沈殿物を濾過、乾燥させ、高分子化合物(I−1)を6.33g得た。該高分子化合物(I−1)の、後述の〔分析条件1〕で測定したポリスチレン換算の数平均分子量Mnは8.8×104であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは3.2×105であった。
なお、高分子化合物(I−1)は、仕込み原料から、下記式:
【0135】
【化51】

で示される繰り返し単位と、下記式:
【0136】
【化52】

で示される繰り返し単位を、1:1(モル比)で有する重合体であると推測される。
なお、上記高分子化合物(重合体)のポリスチレン換算の数平均分子量及び重量平均分子量は、サイズエクスクルージョンクロマトグラフィー(SEC)(島津製作所製、商品名:LC−10Avp)により求めた。なお、SECの分析条件として、[分析条件1]に示す方法を用いた。
【0137】
[分析条件1]
測定する高分子化合物(重合体)は、約0.05重量%の濃度になるようにテトラヒドロフランに溶解させ、SECに50μL注入した。SECの移動相としてテトラヒドロフランを用い、0.6mL/分の流速で流した。カラムとして、TSKgel SuperHM−H(東ソー製)2本とTSKgel SuperH2000(東ソー製)1本とを直列に繋げて用いた。検出器には示差屈折率検出器(島津製作所製、商品名:RID−10A)を用いた。
【0138】
LC−MSの測定は、以下の方法で行った。測定試料を約2mg/mLの濃度になるようにクロロホルム又はテトラヒドロフランに溶解させて、LC−MS(アジレント・テクノロジー製、商品名:1100LCMSD)に約1μL注入した。LC−MSの移動層には、約0.1重量%の酢酸を加えたイオン交換水と、約0.1重量%の酢酸を加えたアセトニトリルとを比率を変化させながら用い、0.2mL/分の流量で流した。カラムは、L−column 2 ODS(3μm)(化学物質評価研究機構製、内径2.1mm、長さ100mm、粒径3μm)を用いた。
NMRの測定は、以下の方法で行った。測定試料5〜10mgを約0.5mLの重クロロホルム又は重ジメチルスルホキシドに溶解させて、NMR(バリアン(Varian, Inc.)製、商品名:MERCURY 300)を用いて測定した。
【実施例4】
【0139】
<EL素子(D)の作製>
クロロホルム溶媒中に0.8重量%の濃度で溶解させた化合物(HL-1)の溶液と、0.8重量%の濃度でクロロホルム溶媒中に溶解させた金属錯体(MC−2)の溶液とを、重量比で90:10となるように混合して組成物(以下、「組成物4」と言う。)を調製した。組成物1の代わりに組成物4を用いた以外は実施例3と同様にしてEL素子(D)を作製した。その過程において、組成物4をスピンコートにより3500rpmの回転速度で成膜した。膜厚は約80nmであった。
得られたEL素子(D)に電圧を印加したところ、このEL素子(D)から金属錯体(MC−2)に由来する610nmにピークを有するEL発光が得られ、最大発光効率は1.7cd/Aであった。
【実施例5】
【0140】
<EL素子(B)の作製>
スパッタ法により45nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板に、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(エイチ・シー・シュタルク社、商品名:CLEVIOS P VP AI4083)を用いてスピンコートにより65nmの厚みで成膜し、ホットプレート上で200℃にて10分間乾燥させた。得られた基板を室温に戻した後、基板表面をラビングした。
【0141】
次に、1,1,2,2−テトラクロロエタン溶媒中に2.0重量%の濃度で溶解させた後述の高分子化合物(H−1)の溶液と、2.0重量%の濃度で1,1,2,2−テトラクロロエタン溶媒中に溶解させた金属錯体(MC−1)の溶液とを、重量比で、90:10となるように混合して、組成物(以下、「組成物2」と言う。)を調製した。組成物2をスピンコートにより1600rpmの回転速度で成膜した。膜厚は約80nmであった。これを、窒素雰囲気下、ホットプレートで160℃、2時間加熱後、直ちに室温まで冷却した。
【0142】
・高分子化合物(H−1)
【0143】
【化53】

(式中、括弧に付した添え字は、各繰り返し単位のモル比を表す。)
【0144】
室温まで冷却した基板を蒸着装置に移し、陰極としてバリウムを約5nm、次いでアルミニウムを約60nmの厚さで蒸着して、EL素子(B)を作製した。なお、真空度が、1×10-4Pa以下に到達した後に金属の蒸着を開始した。
得られたEL素子(B)に電圧を印加したところ、このEL素子(B)から金属錯体(MC−1)に由来する580nmにピークを有するEL発光が得られ、最大発光効率は0.45cd/Aであった。また、このEL発光は、ラビング方向と平行な方向の偏光発光であり、偏光度は580nmで11であった。なお、偏光度の測定は、以下のようにして測定した。即ち、蛍光分光光度計(日本分光社製、商品名:FP-6500)を用いて、検知部の前に偏光板を設置し、EL発光している素子を、ラビング方向と偏光板の吸収軸が平行になるように設置した場合の発光強度(L1)と、垂直になるように設置した場合の発光強度(L2)を測定し、L2/L1を偏光度とした。
【0145】
<高分子化合物(H−1)の合成法>
高分子化合物(H−1)は以下のとおりに合成した。
【0146】
・モノマー1:[2-{4'-(6-メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)ビフェニル-4-イル}-5-(9-メチルカルバゾール-3-イル)-1,3,4-オキサジアゾール]の合成
【0147】
4-(4-ヒドロキシフェニル)安息香酸 17 g (79.5 mmol)、6-ブロモヘキサノール16.4 g (91 mmol) を、エタノール200 mlに溶解させ、ヨウ化カリウムをスパチュラ一杯加え60℃で加熱し撹拌した。さらに、水酸化カリウム8 g (140 mmol) をエタノール20 mlに溶解させたものをゆっくり滴下し、90℃で10時間加熱し撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去した後、反応溶液に水500 mlを加え、pH調整した後に、沈殿物をろ過し、白色固体を得た。減圧乾燥後、回収した白色固体をメタノールで洗浄し、白色粉末として4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)ビフェニル-4'-カルボン酸10.6 g (33.5 mmol) を得た。(収率 42%)・測定値:
1H-NMR (δ, DMSO-d6): 1.40-1.87 (8H, m), 4.10 (2H, t), 4.22 (2H, t), 7.12 (2H, d), 7.74 (2H, d), 7.81 (2H, d), 8.09 (2H, d), 10.7 (1H, s)
・理論値:C19H23O4 (315): C, 72.36%; H, 7.35%; O, 20.29%
・測定値:C, 72.70%; H, 6.90%; O, 20.40%
【0148】
4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)ビフェニル-4'-カルボン酸 8.2 g (26 mmol)、トリエチルアミン5.5 mlに、1,4-ジオキサンを100 ml加え、氷冷下、窒素雰囲気下で撹拌しながらメタクリル酸クロリド6 mlをゆっくり滴下した。滴下が終了した後、室温で48時間撹拌した。反応終了後、反応溶媒に水500 mlを加え、酢酸エチルで抽出し、洗浄した。得られた溶液に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去した後、粗生成物を酢酸100 mlに溶解させて100℃で1時間加熱し撹拌を行った。反応終了時に水500 mlを加え、沈殿物をろ別し、水で洗浄した。減圧乾燥後、エタノールにより再結晶を行い、白色粉末として4-(6-メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)ビフェニル-4'-カルボン酸5.0 g (13 mmol) を得た。(収率 50%)
・測定値:
1H-NMR (δ, DMSO-d6): 1.40-1.87 (8H, m), 1.95 (3H, s), 4.02 (2H, t), 4.11 (2H, t), 5.66 (1H, s), 6.02 (1H, s), 7.04 (2H, d), 7.68 (2H, d), 7.75 (2H, d), 8.12 (2H, d), 10.6 (1H, s)
・理論値: C23H26O5 (382): C, 72.23%; H, 6.85%; O, 20.92%
・測定値: C, 72.30%; H, 6.90%; O, 20.80%
【0149】
窒素置換した後、0℃に冷却しながら、DMF10 mlに塩化ホスホリル8.0 g (50 mmol) をゆっくりと滴下し、室温で1時間撹拌した。次いで、0℃に冷却し、N-メチルカルバゾール 5.4 g (30 mmol)を1,2-ジクロロエタン13 mlに溶解させ、そこに、滴下した。その後、1時間かけて90℃まで加熱し、そのまま8時間加熱し撹拌した。反応終了後、水500 mlを加え、ジクロロメタンで有機層を抽出し、抽出した有機層を無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。無水硫酸マグネシウムをろ別した後、溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物を、展開溶媒 (ジクロロメタン:ヘキサン=3:1(体積比))を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、3-ホルミル-9- メチルカルバゾールの結晶 4.8 g (23 mmol) を得た。(収率 77%)
・測定値:
1H-NMR (δ, CDCl3): 3.89 (3H, s), 7.30-8.1 (4H, m), 8.05 (1H, d), 8.15 (1H, d), 8.60 (1H, s), 10.10 (1H, s)
・理論値: C14H11NO: C, 80.36%; H, 5.30%; N, 6.69%, O, 7.65%.
・測定値:C, 80.3%; H, 5.36%; N, 6.74%; O, 7.60%.
【0150】
3-ホルミル-9-メチルカルバゾール 2.9 g (14 mmol)、塩酸ヒドロキシルアミン1.2 g (17 mmol)、酢酸3.0 g (50 mmol)及びピリジン2.0 g (25 mmol) をDMF10 mlに溶解させ、140℃で5時間加熱し撹拌した。反応終了後、水 500 mlを加え、ジクロロメタン、塩酸を用いて抽出、洗浄を順番に行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、無水硫酸マグネシウムをろ別し、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を展開溶媒 (ジクロロメタン:ヘキサン=3:1(体積比))を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製した。さらに、ヘキサン/エタノールの混合溶媒を用いて再結晶を行い、3-シアノ-9-メチルカルバゾールの結晶を2.1 g (10 mmol)得た。(収率 71%)
・測定値:
1H-NMR (δ, CDCl3): 3.89 (3H, s), 7.25-8.1 (5H, m), 8.15 (1H, d), 8.60 (1H, s),
・理論値:C14H10N2 (206): C, 81.53%; H, 4.89%; N, 13.58%.
・測定値:C, 81.50%; H, 5.00%; N, 13.50%.
【0151】
3-シアノ-9-メチルカルバゾール (3.1 g, 15 mmol)、アジ化ナトリウム (15 g, 230 mmol)及び塩化アンモニウム (12 g, 230 mmol)を脱水DMF110 mlに溶解させ、140℃で10時間加熱し撹拌した。その後、室温に冷却し、反応溶液を水500 mlに注いだところ、沈殿物が得られた。その沈殿物をろ別して、水で洗浄した。得られた粗生成物をメタノールで再結晶し、3-(5-テトラゾリル)-9-メチルカルバゾールの結晶3.2 g (13 mmol)を得た。(収率 87%)
・測定値:
1H-NMR (δ, DMSO-d6): 3.89 (3H, s), 7.30-8.1 (4H, m), 8.15 (1H, d), 8.60 (1H, s).
・理論値: C14H11N5 (249): C, 67.46%; H, 4.45%; N, 28.09%.
・測定値: C, 67.52%; H, 4.40%; N, 28.08%.
【0152】
4-(6-メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)ビフェニル-4'-カルボン酸 2.5 g (6.6 mmol) に塩化チオニル20 mlを加え,60℃で2時間加熱し撹拌した。その後、アスピレーターにより過剰の塩化チオニルを留去した。その後、脱水ピリジン20 ml、3-(5−テトラゾリル)-9-メチルカルバゾール 2.5 g (10 mmol) を加え、140℃で24時間加熱し撹拌した。室温まで冷却した後、希塩酸水溶液を加え、析出した固体を回収した。この固体を塩化メチレンに溶解させ、水で3回洗浄した後、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。無水硫酸マグネシウムをろ別した後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を、展開溶媒 (クロロホルム:テトラヒドロフラン=1:1) を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製した。さらに、エタノール/ジクロロメタンの混合溶媒を用いた再結晶により、淡黄色の結晶として2-{4'-(6-メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)ビフェニル-4-イル}-5-(9-メチルカルバゾール-3-イル)-1,3,4-オキサジアゾール(モノマー1)2.5 g (4.2 mmol) を得た。(収率 64%)
・測定値:
1H-NMR (δ, CDCl3): 1.45-1.89 (8H, m), 1.96 (3H, s), 4.03 (2H, t), 4.18 (2H, t), 5.55 (1H, s), 6.11 (1H, s), 6.98 (2H, d), 7.30-7.75 (8H, m), 8.21 (4H, m), 8.91 (1H, s)
・理論値: C37H35N3O4 (585): C, 75.88%; H, 6.02%; N, 7.17%; O, 10.93%.
・測定値: C, 75.86%; H, 6.00%; N, 7.15%; O, 10.99%.
【0153】
・モノマー2: [2-{4'-(11-メタクリロイルオキシウンデシルオキシ)フェニル}-5-(4-N,N-ジフェニルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール]の合成
【0154】
4-ヒドロキシ安息香酸 10g (72 mmol)、炭酸カリウム10 g (72 mmol)をDMF100 mlに溶解させ、ヨウ化カリウムをミクロスパチュラ一杯加え、60℃で加熱し撹拌した。さらに、11-ブロモ-1-ウンデカノール15 g (60 mmol)をDMF20 mlに溶解させたものを滴下し,90℃で5時間加熱し撹拌した。その後、反応溶液に水500 mlを加え、pH調整したところ、沈殿物が得られた。この沈殿物をろ過し、白色固体を得た。この白色固体を減圧乾燥した後、回収した白色固体をクロロホルムで再結晶し、白色粉末として4-(11-ヒドロキシウンデシルオキシ)安息香酸 12.1 g (39 mmol) を得た。(収率 54%)
・測定値:
1H NMR (300MHz, CDCl3): 1.26-1.75 (18H, m), 3.63 (2H, t), 4.26 (2H, t), 6.83 (2H, d), 7.94 (2H, d), 10.7 (1H, s)
【0155】
4-(11-ヒドロキシウンデシルオキシ)安息香酸 8.0 g (26 mmol)、トリエチルアミン5.5 mlに、1,4-ジオキサンを100 ml加え、氷冷下、窒素雰囲気下で撹拌しながら、メタクリル酸クロリド6 mlをゆっくり滴下した。滴下終了後、室温で48時間撹拌した。その後、反応溶媒に水500 ml 加え、酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を洗浄した。この有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。無水硫酸マグネシウムをろ別し、溶媒を減圧留去したところ、粗生成物が得られた。この粗生成物を酢酸100 mlに溶解させて100℃で1時間加熱し撹拌を行った。反応終了時に、そこに水500 mlを加えたところ、沈殿物が生じた。この沈殿物をろ別し、水で洗浄した。減圧乾燥後、エタノールにより再結晶を行い、白色粉末として4-(11-メタクリロイルオキシウンデシルオキシ)安息香酸 6.0 g (16 mmol) を得た。(収率 62%)
・測定値:
1H-NMR (δ, DMSO-d6): 1.40-1.87 (18H, m), 1.95 (3H, s), 4.02 (2H, t), 4.11 (2H, t), 5.66 (1H, s), 6.02 (1H, s), 7.04 (2H, d), 8.12 (2H, d), 10.6 (1H, s)
【0156】
N,N−ジフェニル−p−シアノアニリン (4.1 g, 15 mmol)、アジ化ナトリウム (15 g, 230 mmol)及び塩化アンモニウム (12 g, 230 mmol)を脱水DMF110 mlに溶解させ、140℃、10時間加熱し撹拌した。その後、室温に冷却し、得られた反応溶液を水500 mlに注いだところ、沈殿物が生じた。この沈殿物をろ別して、水で洗浄した。得られた粗生成物をメタノールで再結晶し、N,N−ジフェニル−p−(5−テトラゾリル)アニリンの結晶4.1 g (13 mmol) を得た。(収率 87%)
・測定値:
1H-NMR (300MHz, DMSO-d6): 6.60 (4H, d), 6.69 (2H, d), 6.89 (2H, t), 7.25-7.30 (4H, m), 8.10 (2H, d), 8.60 (1H, s)
【0157】
4-(11-メタクリロイルオキシ)ウンデシルオキシ}安息香酸 2.5 g (6.6 mmol)に塩化チオニル20 mlを加え、60℃、2時間加熱し撹拌した。その後、アスピレーターにより過剰の塩化チオニルを留去した。その後、脱水ピリジン20 ml、N,N−ジフェニル−p−(5−テトラゾリル)アニリン 3.1 g (10 mmol)を加え、140℃、24時間加熱し撹拌した。得られた反応溶液を室温まで冷却した後、そこに希塩酸水溶液を加え、析出固体を回収した。得られた固体を塩化メチレンに溶解させ、水で3回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。無水硫酸マグネシウムをろ別した後、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を、展開溶媒(クロロホルム:テトラヒドロフラン=1:1)を用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより精製した。さらに、エタノール/ジクロロメタンの混合溶媒を用いた再結晶により、淡黄色の結晶として2-{4-(11-メタクリロイルオキシウンデシルオキシ)フェニル}-5-{4-(N, N-ジフェニルアミノ)フェニル}-1,3,4-オキサジアゾール(モノマー2)2.7 g (4.2 mmol) を得た。(収率 64%)
・測定値:
1H NMR (300MHz, CDCl3): 1,45-1.89 (18H, m), 1.96 (3H, s), 4.03 (2H, t), 4.18 (2H, t), 5.55 (1H, s), 6.11 (1H, s), 6.98 (2H, d), 7.10-7.55 (8H, m), 7.56 (2H, d), 7.72 (2H, d), 7.95 (2H, d), 8.21 (2H, d).
・理論値: C41H45 N3O4: C, 76.49; H, 7.05; N, 6.53; O, 9.94
・測定値: C, 76.80; H, 7.23; N, 6.33; O, 9.64
【0158】
上記で得られた2種のモノマー(モノマー1:モノマー2のモル比は0.7:0.3であり、合計1.0gである。)と2、2'-アゾビスイソブチロニトリル(2種のモノマーの合計量に対して1モル%)とを蒸留したTHF(5mL)に溶解させ、3回以上の凍結−ポンプ−解凍サイクルによって脱気した。得られた混合物を封管したチューブ中、60℃で48時間加熱し攪拌した。得られた溶液を冷却後、攪拌下、メタノール/トルエン(20/1)(体積比)の混合溶媒中に滴下したところ、沈殿物が生じた。この沈殿物をジクロロメタンに溶解させ、メタノール/トルエン(20/1)(体積比)に滴下して再沈殿させることを数回繰り返して精製した後、真空乾燥させ、高分子化合物(H−1)を0.6g得た(収率60%)。[分析条件1]で測定した高分子化合物(H−1)のポリスチレン換算の数平均分子量Mnは1.2×10であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは2.5×10であった。
【0159】
<高分子化合物(H−1)の液晶性の測定>
高分子化合物(H−1)の液晶性の確認を偏光顕微鏡観察(オリンパス社製、商品名:BX50)、示差走査熱量測定(Seiko I&E社製、商品名:SSC-5200、DSC220C)により行った。
高分子化合物(H−1)を2枚のガラス基板に挟み、ホットステージ(Mettler製、商品名:FP-90、FP82HT)に設置して加熱しながら偏光顕微鏡で観察したところ、117℃付近より液晶に特徴的な光学組織(シュリーレン組織)が出現した。また、約180℃以上に加熱すると暗視野となり、複屈折性が消失した。示差走査熱量測定を行ったところ、117℃付近にガラス転移に由来する変曲点が現れた。さらに180℃付近にブロードなピークを確認した。
以上の結果より、高分子化合物(H−1)は、117℃付近から180℃の間で液晶相を示した。
【実施例6】
【0160】
<EL素子(C)の作製>
1,1,2,2−テトラクロロエタン溶媒中に2.0重量%の濃度で溶解させた高分子化合物(H−1)の溶液と、2.0重量%の濃度で前記と同種の溶媒中に溶解させた金属錯体(MC−2)の溶液とを、重量比で、95:5となるように混合して、組成物(以下、「組成物3」と言う。)を調製した。組成物2の代わりに組成物3を用いた以外は実施例5と同様にしてEL素子(以下、「EL素子(C)」と言う。)を作製した。その過程において、組成物3をスピンコートにより1600rpmの回転速度で成膜した。膜厚は約85nmであった。
得られたEL素子(C)に電圧を印加したところ、このEL素子(C)から金属錯体(MC−2)に由来する605nmにピークを有するEL発光が得られ、最大発光効率は0.48cd/Aであった。また、このEL発光は、ラビング方向と平行な方向に偏光発光しており、偏光度は605nmで18であった。なお、偏光度の測定は実施例5と同様にして行った。
【実施例7】
【0161】
<EL素子(E)の作製>
スパッタ法により45nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板に、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の溶液(エイチ・シー・シュタルク社、商品名:CLEVIOS P VP AI4083)を用いてスピンコートにより65nmの厚みで成膜し、ホットプレート上で200℃にて10分間乾燥させた。
次に、高分子化合物(I−1)を0.8重量%のキシレン溶液の状態でスピンコートして約20nmの厚みに成膜した。その後、ホットプレート上で180℃、60分間熱処理した。
【0162】
次に、キシレン溶媒中に1.2重量%の濃度で溶解させた後述の高分子化合物(H−2)の溶液と、1.2重量%の濃度でキシレン溶媒中に溶解させた金属錯体(MC−1)の溶液とを、重量比で90:10となるように混合して組成物(以下、「組成物5」と言う。)を調製した。組成物5をスピンコートにより3000rpmの回転速度で成膜した。膜厚は約70nmであった。これを窒素ガス雰囲気下、160℃で10分間乾燥させた後、陰極としてバリウムを約4nm,次いてアルミニウムを約80nm蒸着して、EL素子(E)を作製した。なお、真空度が、1×10−4Pa以下に到達した後に金属の蒸着を開始した。
得られたEL素子(E)に電圧を印加したところ、このEL素子(E)から金属錯体(MC−1)に由来する530nmにピークを有するEL発光が得られ、最大発光効率は0.43cd/Aであった。
【0163】
<高分子化合物(H−2)の合成法>
高分子化合物(H−2)は以下のとおりに合成した。
200mLフラスコに、1,4−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−2,5−ジヘキシルベンゼン 2.4925g(5.00mmol)、9,9−ビス(4−n−ヘキシルフェニル)−2,7−ジブロモフルオレン 2.5781g(4.00mmol)、N,N−ビス(4−ブロモフェニル)−N−(4−sec−ブチルフェニル)アミン 0.4592g(1.00mmol)、トルエン50mLを加えた。アルゴンガス雰囲気下で加熱し、酢酸パラジウム 1.8mg、トリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン 10.6mgを加え、105℃で20重量%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液 16.6mLを滴下した。塩基滴下開始から21時間、105℃で攪拌した。
次にフェニルホウ酸 611.3mg、酢酸パラジウム 1.8mg、トリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン 10.6mg、トルエン30mLを追加して、更に8時間攪拌した。
水層を除去した後、N,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物 3.04g、イオン交換水 30mLを加え、85℃で2.5時間攪拌した。
有機層を水層と分離した後、有機層をイオン交換水(2回)、3重量%酢酸水溶液(2回)、イオン交換水(2回)の順番で洗浄した。有機層をメタノールに滴下して析出した固体を沈殿させ、沈殿物を濾過後乾燥し固体を得た。この固体をトルエンに溶解して溶液を得、あらかじめトルエンを通液したシリカゲル及びアルミナを充填したカラムに該溶液を通液した。カラムを通過した溶液をメタノールに滴下したところ、沈殿物が生じた。この沈殿物を濾過後乾燥させ、高分子化合物(H−2)を3.088g得た。[分析条件1]で測定した高分子化合物(H−2)のポリスチレン換算の数平均分子量Mnは4.5×10であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは8.0×10であった。
なお、高分子化合物(H−2)は、以下の3種の繰り返し単位を50:40:10のモル比(原料の仕込み量から求めた理論値である)で有する高分子化合物である。
【0164】
【化54】

【実施例8】
【0165】
<EL素子(F)の作製>
キシレン溶液中に1.2重量%の濃度で溶解させた高分子化合物(H−2)の溶液と、1.2重量%の濃度でキシレン溶媒中に溶解させた金属錯体(MC−2)の溶液とを、重量比で90:10となるように混合して組成物(以下、「組成物6」と言う。)を調製した。組成物5の代わりに組成物6を用いた以外は実施例7と同様にしてEL素子(F)を作製した。その過程において、組成物6をスピンコートにより3000rpmの回転速度で成膜した。膜厚は約70nmであった。
得られたEL素子(F)に電圧を印加したところ、このEL素子(F)から金属錯体(MC−2)に由来する610nmにピークを有するEL発光が得られ、最大発光効率は0.15cd/Aであった。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の金属錯体及びそれを含む組成物は、有機エレクトロルミネッセンス素子等の発光素子の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有する金属錯体。
【化1】

[式中、Mは、銅、亜鉛、ルテニウム、銀、オスミウム、レニウム、イリジウム、白金、金及びランタンからなる群から選ばれる金属原子である。C及びCは各々sp3炭素原子である。A〜Aはそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数が3以上のアルキル基を表し、少なくとも2つは炭素原子数が3以上のアルキル基である。但し、AとAは相互に結合して炭素原子数4以上のアルキレン基を形成しC1及びCとともに環を形成していてもよい。このアルキレン基は、置換基を有していてもよい。R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数6以上のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルカリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルコキシアリール基を表し、R〜Rの少なくとも1つはフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が12以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルカリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が6以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数が12以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数12以上のアルコキシアリール基である。Zは一価の単座配位子を示し、pは該単座配位子の数であって、(中心金属原子Mの価数−2)で表される。]
【請求項2】
下記式(2)で表される構造を有する請求項1に記載の金属錯体。
【化2】

〔式中、Rは、水素原子、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数1以上のアルキル基、炭素原子数6以上のアリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアルカリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数1以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアルコキシアリール基を表す。複数存在するRは同一であっても異なっていてもよい。R〜R、Z及びpは式(1)について定義の通りであり、*はキラル炭素原子を表す。〕
【請求項3】
前記Rの少なくとも1つがフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数3以上のアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアラルキル基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアルコキシアリール基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数3以上のアルコキシ基、フッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアリールアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素原子数7以上のアルコキシアリール基である、請求項2に記載の金属錯体。
【請求項4】
前記Mが、ルテニウム、銀、オスミウム、レニウム、白金、イリジウム、金及びランタンからなる群から選ばれる金属原子である請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項5】
液晶相を示す請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属錯体と電荷輸送性有機化合物とを含む組成物。
【請求項7】
電荷輸送性有機化合物が液晶相を示す請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
さらに、溶媒又は分散媒を含む請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属錯体又は請求項6〜8のいずれか1項に記載の組成物を用いてなる膜。
【請求項10】
少なくとも面内の1方向に配向処理を施されたものである請求項9に記載の膜。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の膜を有する発光素子。
【請求項12】
偏光発光を発生する請求項11に記載の発光素子。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の発光素子を用いた面状光源。
【請求項14】
請求項11又は12に記載の発光素子を用いた照明器具。

【公開番号】特開2011−46699(P2011−46699A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170655(P2010−170655)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】