説明

金属錯体の製造方法

【課題】優れたガス吸着能力を示す酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体を容易且つ簡便に作製する。
【解決手段】先ず、Co(II)塩、Cu(II)塩、Zn(II)塩又はこれらの水和物のいずれか1種の水溶液と、1,4−ベンゼンジカルボン酸のピリジン溶液とを同一容器に収容し、前記塩又はその水和物と前記1,4−ベンゼンジカルボン酸とを反応させることでM(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(ただし、3≦x≦4、2≦y≦4)を合成する。次に、このM(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yを1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとともに同一溶媒に溶解して溶液を調製し、この溶液を所定温度に保持することで両者を反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを可逆的に吸着及び放出することが可能な金属錯体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、温暖化ガスであるNOXやSOX、CO2、炭化水素ガス等を全く排出しない燃料電池を走行駆動源とする燃料電池車が特に着目されている。すなわち、燃料電池車は、前記燃料電池を構成するアノード側電極に供給された燃料ガス中の水素と、カソード側電極に供給された酸化剤ガス中の酸素とが反応することによって生成するH2Oしか排出しないからである。
【0003】
ここで、燃料ガス及び酸化剤ガスとしては、それぞれ、水素及び大気が使用されることが一般的である。従って、燃料電池車には、水素を貯留する容器を搭載する必要がある。
【0004】
水素貯留容器に貯留される水素の量が多いほど、燃料電池を長時間にわたって発電させることができる。換言すれば、燃料電池車の走行可能距離を大きくすることが可能となる。この観点から、水素貯留容器の水素貯蔵量を大きくすることが種々試みられており、その1つとしては、水素吸蔵合金等の水素吸蔵材を水素貯留容器に収容することが挙げられる。
【0005】
水素吸蔵材は、自身の体積よりも多量の水素を吸蔵することが可能である。従って、単なる水素貯留容器に比して水素貯蔵量が増加する。しかも、水素の吸蔵が可逆的に行われるので、燃料電池を発電させる際に必要量の水素を放出させることも可能である。
【0006】
このような機能を営む水素吸蔵材の好適な例としては、多孔性の金属錯体が挙げられる。より具体的には、特許文献1に開示された酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体等である。ここで、酢酸銅(II)・一水和物型二核構造とは、特許文献1の図2及び図4に示されるように、カルボキシラート基を2個有する有機配位子イオン(-OOC−R−COO-)における前記カルボキシラート基中の2個の酸素原子を介して金属イオンに配位することによって、前記金属イオンを格子点として形成された二次元格子構造を指称する。
【0007】
この種の酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体は、例えば、特許文献1の段落[0035]及び図5(a)、図5(b)に示される2手法によって製造することができる。すなわち、第1の手法は、ジカルボン酸金属塩と、金属イオン源となる金属塩と、架橋配位子とをメタノール等の溶媒に溶解し、二次元格子構造を形成すると同時に前記架橋配位子による架橋反応を進行させることで架橋金属錯体を得るものである。
【0008】
また、第2の手法は、カルボン酸塩と金属塩とをメタノール等の溶媒に溶解し、次にこれらを反応させて二次元格子構造を形成した後、架橋配位子となる化合物を添加することで前記二次元格子構造を架橋し、これにより架橋金属錯体を得るものである。
【0009】
ここで、前記特許文献1では、金属イオンをCu、Zn、Mo、Ru、Cr、Ni、Rhのいずれかとして酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体を合成する場合が説明されている(段落[0024]参照)。
【0010】
【特許文献1】特開2006−328051号公報(特に、段落[0024]、[0035]、図5(a)、図5(b))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らの鋭意検討によれば、上記した酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体の水素吸蔵量は、金属イオンの相違に伴って変化する場合がある。従って、この種の金属錯体において、特許文献1に開示された金属イオンとは別種の金属イオンを含む構造とすることによって、水素吸蔵量がさらに向上することもあり得ると考えられる。
【0012】
しかしながら、理由は今ひとつ明らかではないが、特許文献1に開示された製造方法をもってして、別種の金属イオン、例えば、Coを含む酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体を合成することはできない。
【0013】
本発明は上記した問題を解決するためになされたものであり、酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体を得ることが極めて容易な金属錯体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明は、酢酸銅(II)・一水和物型二核構造を有し、一般式がM(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5で表される金属錯体の製造方法であって、
M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(ただし、3≦x≦4、2≦y≦4)と、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとを反応させる工程を有することを特徴とする。
【0015】
ここで、一般式中のMは、Co、Cu、Znのいずれかである。また、DABCOは、下記構造式(1)に示される1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを示す。
【0016】
【化1】

【0017】
M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(3≦x≦4、2≦y≦4)と、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとを反応させることにより、結晶性が非常に高く構造が略均一な金属錯体が形成される。このため、得られた金属錯体は、単位重量当たりの表面積が著しく大きい。すなわち、該金属錯体は、比表面積が極めて大きな多孔体である。換言すれば、この金属錯体の表面には、ガスを吸着し得る気孔が多量に存在する。従って、この金属錯体は、優れたガス吸着能力を示す好適なガス吸着材となり得る。
【0018】
しかも、本発明によれば、従来技術では作製し得なかったCoの酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体をも作製することが可能である。すなわち、Coを含む金属錯体を容易且つ簡便に得ることができる。
【0019】
M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(3≦x≦4、2≦y≦4)は、例えば、Co(II)塩、Cu(II)塩、Zn(II)塩又はこれらの水和物のいずれか1種の水溶液と、1,4−ベンゼンジカルボン酸のピリジン溶液とを同一容器に収容し、前記塩又はその水和物と前記1,4−ベンゼンジカルボン酸とを反応させることで合成することができる。このように、本発明によれば、前記金属錯体の出発物質をも簡便な操作で容易に得ることが可能である。
【0020】
なお、前記塩又はその水和物と前記1,4−ベンゼンジカルボン酸との反応は、前記水溶液と前記ピリジン溶液とを互いに相分離した状態で接触させ、これにより形成される相界面で進行させることが好ましい。この場合、M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yを板状の単結晶として得ることができる。この単結晶を用いて前記金属錯体を合成すると、該金属錯体の結晶性が一層高くなる。すなわち、多孔性が確保され優れたガス吸着能力を示す金属錯体を生成することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(ただし、3≦x≦4、2≦y≦4)と、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとを反応させるようにしている。このため、結晶性が非常に高く構造が略均一な金属錯体を得ることができる。この金属錯体は、比表面積が著しく大きな多孔体であり、従って、優れたガス吸着能力を示す。
【0022】
しかも、本発明によれば、Coを含む酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体を容易且つ簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る金属錯体の製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、詳細に説明する。
【0024】
先ず、金属錯体につき説明する。本実施の形態に係る金属錯体は、酢酸銅(II)・一水和物型二核構造を有する多孔性物質である。すなわち、その一般式は、M(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5で表される。なお、DABCOは、構造式が下記の式(1)で示される1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンである。
【0025】
【化2】

【0026】
従って、該金属錯体の構造式は、下記の式(2)で表される。
【0027】
【化3】

【0028】
以上の一般式及び構造式において、MはCo、Cu、Znのいずれか1種の2価の金属イオンを示し、以下においても同様である。すなわち、本実施の形態に係る金属錯体は、金属イオン(Co、Cu又はZn)を中心に1,4−ベンゼンジカルボキシラートが配位して形成される酢酸銅(II)・一水和物型二核構造の金属錯体に対し、軸配位子として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンがさらに配位した構造をなす。
【0029】
このような構造の金属錯体は、後述するように、出発物質であるM(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(ただし、3≦x≦4、2≦y≦4)として単結晶を用いて合成した場合、結晶性が著しく大きくなる。すなわち、構造が略均一となる。このため、単位重量当たりの表面積(比表面積)が極めて大きな多孔体となり、その結果、ガス吸着能力が大きくなる。従って、この金属錯体は、ガス吸着材として好適である。
【0030】
次に、本実施の形態に係る金属錯体の製造方法につき説明する。
【0031】
本実施の形態に係る金属錯体の製造方法は、該金属錯体の出発原料であるM(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(ただし、3≦x≦4、2≦y≦4)を作製する工程と、得られたM(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yから金属錯体を合成する工程とを有する。
【0032】
M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yを得るには、例えば、以下のようにすればよい。
【0033】
先ず、Co(II)塩、Cu(II)塩、Zn(II)塩又はこれらの水和物のいずれか1種を純水に溶解し、水溶液とする。前記塩の具体例としては、蟻酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。なお、水溶液における塩の濃度は、1〜2重量%程度で十分である。
【0034】
その一方で、1,4−ベンゼンジカルボン酸をピリジンに溶解し、ピリジン溶液を調製する。このピリジン溶液における1,4−ベンゼンジカルボン酸の濃度は、0.16〜0.32重量%程度が適切である。
【0035】
以上のようにして調製した前記水溶液と前記ピリジン溶液とを同一容器に貯留する。ここで、水溶液とピリジン溶液とは互いに混和せず、このため、互いに相分離を起こす。金属塩又はその水和物を溶解した水溶液と、1,4−ベンゼンジカルボン酸を溶解したピリジン溶液とでは前者の方が高比重であり、従って、水溶液の上方にピリジン溶液を5〜10ml/分程度の緩やかな速度で供給するようにすると、両溶液は互いに混じり合うことなく速やかに分離する。このため、二層が積層されたような状態となる。
【0036】
この状態で両溶液を15〜30℃で12〜48時間程静置すれば、その間、両溶液が接触する相界面において、金属塩又はその水和物と1,4−ベンゼンジカルボン酸との反応が進行する。その結果、単核構造錯体であるM(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(3≦x≦4、2≦y≦4)が生成する。
【0037】
このようにして相界面で金属塩又はその水和物と1,4−ベンゼンジカルボン酸とを反応させた場合、M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(3≦x≦4、2≦y≦4)を板状単結晶として得ることができる。
【0038】
M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(3≦x≦4、2≦y≦4)は、1個のMに対してカルボキシラート基、ピリジン及びH2Oがそれぞれ2個ずつ配位することで形成される単核構造を基本単位とする。そして、横方向においては、Mに配位した2個のカルボキシラート基が−C64−によって結合され、一方、縦方向においては、Mに配位したピリジンが、該基本単位の上下方向に位置する別の基本単位中のピリジンとピリジン環スタックを形成することによって互いに結合する。このピリジン環スタックの形成に伴って二次元の格子が構成され、その結果、M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yが単結晶として生成する。
【0039】
次に、このM(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yを、濾過等によって溶媒と分離した後、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとともに溶媒に溶解して溶液を調製する。溶媒の好適な例としては、メタノール、トルエン、ジメチルフォルムアミドが挙げられる。なお、この溶液におけるM(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yの濃度は1〜10重量%程度が好ましく、また、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンは、M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yに対してモル数で2〜3倍程度が好ましい。2倍未満では反応率が十分ではなく、3倍を超えると反応率が略飽和するのでコスト的に不利となるからである。
【0040】
この溶液を撹拌しながら25〜65℃で0.5〜24時間保持すれば、M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yと1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとが互いに反応し、一般式及び構造式が上記のように表される金属錯体が粉末結晶として生成する。
【0041】
この粉末結晶は、M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)yとして単結晶のものを用いると、結晶性が非常に高く且つ比表面積が著しく大きくなる。従って、優れたガス吸着能力を示す。
【0042】
また、このような過程を経ることにより、MがCoであっても上記した一般式及び構造式の金属錯体を容易且つ簡便に作製することが可能となる。すなわち、本実施の形態によれば、従来技術では作製し得なかったCoの酢酸銅(II)・一水和物型二核構造金属錯体を得ることができる。
【実施例1】
【0043】
1000mgの酢酸コバルト(II)・四水和物をビーカー内で100mlの純水に溶解して水溶液とした。その一方で、667mgの1,4−ベンゼンジカルボン酸を400mlのピリジンに溶解してピリジン溶液を調製した。
【0044】
次に、前記水溶液が貯留されたビーカーの内周壁に、三角ロートの足部の先端部を接触させた。なお、足部の先端部は、該水溶液に浸漬されない位置とした。
【0045】
さらに、濾紙が挿入された該三角ロートの濾過部から、前記ピリジン溶液を少量ずつ添加した。すなわち、該ピリジン溶液は、濾紙を緩やかに通過し、三角ロートの足部及びビーカーの内周壁を伝わって前記水溶液の上方に供給された。水溶液とピリジン溶液は互いに混じり合わずに即座に相分離を起こし、結局、水溶液上にピリジン溶液が積層された二層状態となった。
【0046】
その後、室温で24時間静置した。この静置の最中に、酢酸コバルト(II)・四水和物と1,4−ベンゼンジカルボン酸とが水溶液とピリジン溶液との界面で互いに反応し、単核構造錯体であるCo(II)(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3の薄赤色板状単結晶が生成した。そして、濾過を行うことによってこの単結晶を溶媒と分離した。
【0047】
次に、この単結晶から1gを秤量し、内容量が200mlのナスフラスコに移した。その一方で、0.436gの1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを200mlのメタノールに溶解したメタノール溶液を調製し、このメタノール溶液を前記ナスフラスコに移液して混合溶液とした。ここで、0.436gの1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンのモル数は、1gのCo(II)(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3のモル数の2倍に相当する。
【0048】
次に、この混合溶液をスターラで撹拌しながら65℃で24時間保持することで、Co(II)(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)3と1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとを反応させ、青色の粉末結晶を生成物として得た。その後、この粉末結晶を濾過によって回収した。さらに、この粉末結晶を真空下において100℃で2時間保持することで熱乾燥を行い、最終生成物とした。
【0049】
この最終生成物の元素分析を行ったところ、該最終生成物における元素数比は、Co(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5と極めてよく一致していた。
【0050】
また、最終生成物につきX線回折測定を行った。回折パターンを図1に示す。この回折パターンにおけるピークの出現位置は、銅イオンを中心として有機配位子イオンである1,4−ベンゼンジカルボキシラートが配位した酢酸銅(II)・一水和物型二核構造の金属錯体に対し、軸配位子として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンがさらに配位したCu(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5の回折パターン(シミュレーション)におけるピークの出現位置と略合致する。
【0051】
以上の結果から、最終生成物がCo(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5であり、その構造式は上記の式(2)で示される通りであることが分かる。
【実施例2】
【0052】
1000mgの蟻酸銅(II)・四水和物をビーカー内で100mlの純水に溶解して水溶液を調製する一方、736mgの1,4−ベンゼンジカルボン酸を100mlのピリジンに溶解してピリジン溶液を調製した。以降は上記と同一の操作を行い、単核構造錯体であるCu(II)(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)2の青色板状単結晶を得た。
【0053】
この単結晶から1gを秤量し、内容量が200mlのナスフラスコに移した。その一方で、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを200mlのメタノールに溶解したメタノール溶液を調製し、このメタノール溶液を前記ナスフラスコに移液して混合溶液とした。この場合、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを0.447gとすることにより、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンのモル数をCu(II)(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)2のモル数の2倍とした。
【0054】
次に、この混合溶液をスターラで撹拌しながら室温で48時間保持することで、Cu(II)(p−OOC−C64−COO)(NC553(H2O)2と1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとを反応させ、緑色の粉末結晶を生成物として得た。その後、上記と同様に、この粉末結晶を濾過によって回収し、真空下で100℃において2時間保持することで熱乾燥を行い、最終生成物とした。
【0055】
この最終生成物の元素分析を行ったところ、該最終生成物における元素数比は、Cu(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5と極めてよく一致していた。
【0056】
また、最終生成物につきX線回折測定を行ったところ、図2に示す回折パターンが得られた。この回折パターンにおけるピークは、上記のシミュレーションによるCu(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5の回折パターンにおけるピークと略同位置に出現していた。
【0057】
以上の結果から、最終生成物がCu(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5であり、且つその構造式が上記の式(2)の通りであることが明らかである。
【実施例3】
【0058】
1000mgの酢酸亜鉛(II)・二水和物をビーカー内で100mlの純水に溶解して水溶液を調製した。これとは別に、757mgの1,4−ベンゼンジカルボン酸を400mlのピリジンに溶解してピリジン溶液を調製した。以降は上記と同一の操作を行い、単核構造錯体であるZn(II)(p−OOC−C64−COO)(NC554(H2O)4の無色板状単結晶を得た。
【0059】
この単結晶から1gを秤量し、内容量が200mlのナスフラスコに移した。その一方で、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンを200mlのメタノールに溶解したメタノール溶液を調製し、このメタノール溶液を前記ナスフラスコに移液して混合溶液とした。この場合においても、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンのモル数をZn(II)(p−OOC−C64−COO)(NC554(H2O)4のモル数の2倍とするべく、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンの量を0.44gとした。
【0060】
次に、この混合溶液をスターラで撹拌しながら室温で48時間保持し、これにより、Zn(II)(p−OOC−C64−COO)(NC554(H2O)4と1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとを反応させた。得られた白色粉末結晶を濾過によって回収し、上記と同様に、真空下で100℃において2時間保持することで熱乾燥を行い、最終生成物とした。
【0061】
この最終生成物の元素分析を行ったところ、該最終生成物における元素数比は、Zn(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5と極めてよく一致していた。
【0062】
また、最終生成物につきX線回折測定を行った。得られた回折パターンを図3に示す。この回折パターンにおけるピークの出現位置も、上記のシミュレーションによるCu(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5の回折パターンにおけるピークの出現位置と略同位置であった。
【0063】
従って、最終生成物はZn(II)(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5であり、その構造式は上記式(2)の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1において得られた最終生成物のX線回折パターンである。
【図2】実施例2において得られた最終生成物のX線回折パターンである。
【図3】実施例3において得られた最終生成物のX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸銅(II)・一水和物型二核構造を有し、一般式がM(p−OOC−C64−COO)(DABCO)0.5で表される金属錯体の製造方法であって、
M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(ただし、3≦x≦4、2≦y≦4)と、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンとを反応させる工程を有することを特徴とする金属錯体の製造方法。
ここで、一般式中のMはCo、Cu、Znのいずれかであり、DABCOは下記構造式(1)に示される1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンである。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、Co(II)塩、Cu(II)塩、Zn(II)塩又はこれらの水和物のいずれか1種の水溶液と、1,4−ベンゼンジカルボン酸のピリジン溶液とを同一容器に収容し、前記塩又はその水和物と前記1,4−ベンゼンジカルボン酸とを反応させて前記M(p−OOC−C64−COO)(NC55x(H2O)y(ただし、3≦x≦4、2≦y≦4)を得る工程を有することを特徴とする金属錯体の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法において、前記水溶液と前記ピリジン溶液とを互いに相分離した状態で接触させ、その相界面で前記塩又はその水和物と前記1,4−ベンゼンジカルボン酸とを反応させることを特徴とする金属錯体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−35493(P2009−35493A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199262(P2007−199262)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】