説明

金属錯体化合物及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 発光効率が高く、短波長の発光で、色純度の高い青色発光が得られる有機エレクトロルミネッセンス素子及びそれを実現する金属錯体化合物を提供する。
【解決手段】 3座キレート配位子及びシアノ基を配位子として有する部分構造を持つ特定構造の金属錯体化合物、並びに、一対の電極間に少なくとも発光層を有する一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機エレクトロルミネッセンス素子において、該有機薄膜層の少なくとも1層が、前記金属錯体化合物を含有し、両極間に電圧を印加することにより発光する有機エレクトロルミネッセンス素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な金属錯体化合物及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関し、特に、発光効率が高く、短波長の発光で、色純度の高い青色発光が得られる有機エレクトロルミネッセンス素子及びそれを実現する金属錯体化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子を液晶に代わるカラーディスプレイ用表示装置として用いることが活発に検討されている。しかし、大画面化を実現するにはまだその発光素子性能は不足している。この有機EL素子の性能向上手段として、りん光発光材料としてオルソメタル化イリジウム錯体(fac-tris(2-phenylpyridine)iridium)を発光材料に用いた緑色発光素子が提案されている (非特許文献1; 非特許文献2) 。
りん光発光を利用した有機EL素子、現状では緑色発光に限られるために、カラーディスプレイとしての適用範囲は狭いため、他の色についても発光特性が改善された素子の開発が望まれていた。特に青色発光素子については、外部量子収率5%を超えるものは報告されておらず、青色発光素子の改善ができればフルカラー化及び白色化が可能となり、りん光EL素子の実用化に向けて大きく前進する。
【0003】
現状、りん光発光錯体として、Irを含む化合物の開発が活発に行われており、緑色発光素子用としては下記化合物Aが知られている。一方、青色発光素子としては、下記化合物Bが知られているが、素子の寿命、効率の点で実用的でない。そこで、その他の青色発光素子用の錯体を開発する必要性があるが、現状では、化合物B以外には見出されていない。
【化1】

以上の化合物A及びBは、2座キレート配位子を用いた錯体であるが、類似の3座キレート配位子を用いた錯体は殆ど知られておらず、以下に示す化合物Cが知られている程度である(非特許文献3参照)。
【化2】

しかしながら、化合物Cより得られる発光波長は600nmの赤色領域発光であり、青色領域発光ではない。このような3座キレート配位子を用いた錯体で青色領域発光の錯体が実現できれば、新たな技術展開の可能性がある。
【0004】
【非特許文献1】D.F.O'Brien and M.A.Baldo et al "Improved energy transferin electrophosphorescent devices" Applied Physics letters Vol.74 No.3, pp442-444, January 18, 1999
【非特許文献2】M.A.Baldo et al "Very high-efficiencygreen organic light-emitting devices based on electrophosphorescence" Applied Physics letters Vol. 75 No.1, pp4-6, July 5, 1999
【非特許文献3】J-P. Collin et.al., J.Am.Chem.Soc., 121,5009(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、発光効率が高く、短波長の発光で、色純度の高い青色発光が得られる有機EL素子及びそれを実現する金属錯体化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは下記一般式(I)で表される3座キレート配位子及びシアノ基を配位子として有する部分構造を持つ金属錯体化合物を用いると、短波長の発光で、色純度の高い青色発光が得られるという青色化の新たな構造因子を明らかにし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、3座キレート配位子及びシアノ基を配位子として有する下記一般式(I)で表される部分構造を有する金属錯体化合物を提供するものである。
【0007】
【化3】

【0008】
(式中、Mは、周期律表第7〜12族のいずれかの金属原子であり、
Lは、周期律表第13〜17族のいずれかの原子を含有する化合物又は原子団であり、
Aは、記号Aを囲む円が窒素原子(N)を含む環状構造を示しており、置換基を有してもよい炭素数2〜20の含窒素複素環基であり、
nは1〜3、mは0〜2の整数であり、
1 〜R4 は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数3〜20の複素環基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルキニル基、又は置換基を有してもよい炭素数3〜20のシクロアルキル基であり、R1 とR2 、R3 とR4 は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
また、本発明は、一対の電極間に少なくとも発光層を有する一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機EL素子において、該有機薄膜層の少なくとも1層が、前記金属錯体化合物を含有し、両極間に電圧を印加することにより発光する有機EL素子を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、短波長の発光で、色純度の高い青色発光が得られる有機EL素子及びそれを実現する金属錯体化合物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の金属錯体化合物は、下記一般式(I)で表される部分構造を有するものである。
【化4】

【0011】
一般式(I)において、Mは、周期律表第7〜12族のいずれかの金属原子であり、例えば、Re(レニウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Os(オスミウム)、Ru(ルテニウム)、Co(コバルト)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)原子等が挙げられ、これらの中でも第9族の金属原子、Re、Ptが好ましく、Ir、Re、Ptが特に好ましい。
一般式(I)において、nは1〜3、mは0〜2の整数であり、金属錯体化合物を中性に保つため、前記Mの金属原子の価数によって決まる値である。
一般式(I)において、Lは、周期律表第13〜17族のいずれかの原子を含有する化合物又は周期律表第13〜17族のいずれかの原子を含有する原子団である。
このLに含まれる周期律表第13〜17族の原子としては、B(ホウ素)、Al(アルミニウム)、C(炭素)、N(窒素)、O(酸素)、Si(ケイ素)、P(リン)、S(硫黄)、Ge(ゲルマニウム)、As(ヒ素)、Se(セレン)、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、I(ヨウ素)原子等が挙げられ、P、As、Sb、Nが好ましい。
【0012】
前記Lの示す化合物又は原子団としては、PR、AsR、SbR、NR、OR、CO、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数2〜20の複素環及びこれらを組み合わせて2座キレート配位子となったものから選ばれる少なくとも一種類であると好ましい。
前記ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子等が挙げられる。
前記炭素数2〜20の複素環としては、例えば、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピロール、フラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、オキサジアゾリン、ジフェニルアントラセン、インドリン、カルバゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ベンゾキノン、ピラロジン、イミダゾリジン、ピペリジン等が挙げられる。
前記Rは、水素原子、シアノ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数3〜20の複素環基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルキニル基、又は置換基を有してもよい炭素数3〜20のシクロアルキル基であり、Rの個数は複数であってもよく、その複数のRは同一でも異なっていてもよい。
【0013】
前記ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子等が挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。
前記芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ビフェニル、ターフェニル、フルオランテン等の残基が挙げられる。
前記複素環基としては、前記炭素数2〜20の複素環で挙げたものの残基等が挙げられる。
前記アルキルアミノ基としては、アミノ基の水素原子が前記アルキル基で置換されたものが挙げられる。
前記アリールアミノ基としては、アミノ基の水素原子が前記芳香族炭化水素基で置換されたものが挙げられる。
前記アルコキシ基は−OY’と表され、Y’としては、前記アルキル基で挙げたものと同様のものが挙げられる。
前記ハロゲン化アルコキシ基としては、前記アルコキシ基の水素原子が前記ハロゲン原子で置換されたものが挙げられる。
前記アリールオキシ基は−OY''と表され、Y''としては、前記芳香族炭化水素基で挙げたものと同様のものが挙げられる。
前記ハロゲン化アルキル基としては、前記アルキル基の水素原子が前記ハロゲン原子で置換されたものが挙げられる。
前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基等が挙げられる。
前記アルキニル基としては、例えば、エチニル基、メチルエチニル基等が挙げられる。
前記シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
また、これら各基の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、置換もしくは無置換のアミノ基、ニトロ基、シアノ基、置換もしくは無置換のアルキル基、フッ素置換アルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換の複素環基、置換もしくは無置換のアリールアルキル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0014】
また、前記Lの示す化合物又は原子団としては、下記一般式(1)〜(6)のいずれかで表される化合物も好ましい。
【化5】

【0015】
前記一般式(1)〜(3)、(5)及び(6)において、X及びYは、それぞれ独立に、O(酸素)、S(硫黄)、N(窒素)、P(リン)、As(ヒ素)又はSb(アンチモン)原子である。
前記一般式(2)〜(4)において、T及びEは、それぞれ独立に、N、P、As又はSb原子である。
前記一般式(5)において、Z1 は、−(CH2)−(qは1〜3の整数)、−CH=CH−又は−CH=C=CH−である。
前記一般式(6)において、Z2 は、=CR27−CR28=である。
【0016】
前記一般式(1)〜(6)において、R5 〜R28は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数3〜20の複素環基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルキニル基、又は置換基を有してもよい炭素数3〜20のシクロアルキル基であり、
これら各基の具体例としては前記Rで説明したものと同じである。
また、R5 〜R28のうち隣接するもの同士で互いに結合して環状構造を形成していてもよく、環状構造としては、例えば、シクロアルカン(例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロプロパン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等)、芳香族炭化水素環(例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ビフェニル、ターフェニル、フルオランテン等)及び複素環(例えば、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピロール、フラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、オキサジアゾリン、ジフェニルアントラセン、インドリン、カルバゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ベンゾキノン、ピラロジン、イミダゾリジン、ピペリジン等)が挙げられる。
【0017】
前記Lの具体例としては、例えば、以下のような例が挙げられる。
【化6】

Phはフェニル基である。
【0018】
一般式(I)において、Aは、記号Aを囲む円が示す窒素原子(N)を含む環状構造を示しており、置換基を有してもよい炭素数2〜20の含窒素複素環基であり、例えば、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ピロール、インドリン、カルバゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピラロジン、イミダゾリジン、ピペリジン等が挙げられ、ピリジンが好ましい。
また、置換基としては、前記と同様の例が挙げられる。
【0019】
一般式(I)において、R1 〜R4 は、それぞれ独立に、前記R5 〜R28と同じであり、これら各基の具体例及び置換基としては前記Rで説明したものと同じである。
また、R1 とR2 、R3 とR4 は互いに結合して環状構造を形成していてもよく、環状構造の例としては前記R5 〜R28で説明したものと同じである。
【0020】
一般式(I)において、前記3座キレート配位子が下記一般式(7)又は(8)で表される化合物であると好ましい。
【化7】

【0021】
一般式(7)及び(8)において、R29〜R35及びR36〜R46は、それぞれ独立に、前記R1 〜R4 と同じであり、これら各基の具体例及び置換基としては前記Rで説明したものと同じである。
また、R29〜R35及びR36〜R46のうち隣接するもの同士で互いに結合して環状構造を形成していてもよく、環状構造の例としては前記R5 〜R28で説明したものと同じである。
【0022】
また、前記3座キレート配位子としては下記化合物のいずれかであると好ましい。
【化8】

【0023】
本発明の金属錯体化合物は、下記一般式(I−1)又は(I−2)で表されるものであると好ましい。
【化9】

【0024】
一般式(I−1)及び(I−2)において、R29〜R35及びR36〜R46は、それぞれ前記と同じである。
本発明の金属錯体化合物の具体例を以下に例示するが、これら例示化合物に限定されるものではない。
【化10】

【0025】
【化11】

【0026】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極からなる一対の電極間に少なくとも発光層を有する一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機EL素子において、該有機薄膜層の少なくとも1層が、本発明の金属錯体化合物を含有し、両極間に電圧を印加することにより発光するものである。
本発明の有機EL素子は、前記発光層が、本発明の金属錯体化合物を含有すると好ましく、本発明の金属錯体化合物を発光層全重量に対して1〜30重量%含有すると好ましい。
また、通常、前記発光層は真空蒸着又は塗布により薄膜化するが、塗布の方が製造プロセスが簡略化できることから、本発明の金属錯体化合物を含有する層が、塗布により成膜されてなると好ましい。
【0027】
本発明における有機EL素子の素子構造は、電極間に有機層を1層又は2層以上積層した構造であり、その例としては、(i)陽極、発光層、陰極、(ii)陽極、正孔注入・輸送層、発光層、電子注入・輸送層、陰極、(iii) 陽極、正孔注入・輸送層、発光層、陰極、(iv)陽極、発光層、電子注入・輸送層、陰極等の構造が挙げられる。
本発明における化合物は上記のどの有機層に用いられてもよく、他の正孔輸送材料、発光材料、電子 輸送材料にドープさせることも可能である。有機EL素子の各層の形成方法は特に限定されないが、蒸着法のほか,本発明の発光組成物を溶解し、または組成物を形成する化合物をそれぞれ溶解した後、この溶液を用い各種の湿式方法により発光媒体または発光層を形成できる。溶液のディッピング法、スピンコーティング法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法等の塗布法、インクジェット法などによる公知の方法で形成することができる。本発明の有機EL素子の各有機層の膜厚は特に制限されないが、一般に膜厚が薄すぎるとピンホール等の欠陥が生じやすく、逆に厚すぎると高い印加電圧が必要となり効率が悪くなるため、通常は数nmから1μmの範囲が好ましい。
【0028】
発光層を形成する発光溶液調製時に用いる溶媒例としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなどのハロゲン系炭化水素系溶媒や、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶媒、メタノールやエタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールなどのアルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、オクタン、デカンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル系溶媒等が挙げられる。なかでも、ハロゲン系炭化水素系溶媒や炭化水素系溶媒が好ましい。また、これらの溶媒は単独で使用しても複数混合して用いてもよい。なお、使用可能な溶媒はこれらに限定されるものではない。また、上記化合物を含む発光溶液にはドーパントをあらかじめ溶解させておいてもよい。
【0029】
本発明に用いられる電子注入・輸送材料は特に限定されず、通常電子注入・輸送材料として使用されている化合物であれば何を使用してもよい。例えば、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ビス{2−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール}−m−フェニレン等のオキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、キノリノール系の金属錯体が挙げられる。また電子注入・輸送層を構成する無機化合物として、絶縁体または半導体を使用することが好ましい。
【0030】
電子注入・輸送層が絶縁体や半導体で構成されていれば、電流のリークを有効に防止して、電子注入性を向上させることができる。このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を使用するのが好ましい。電子注入・輸送層がこれらのアルカリ金属カルコゲナイド等で構成されていれば、電子注入性をさらに向上させることができる点で好ましい。
具体的に、好ましいアルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、Li2 O、Na2 S及びNa2 Seが挙げられ、好ましいアルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS及びCaSeが挙げられる。また、好ましいアルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl及びNaCl等が挙げられる。また、好ましいアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF2 、BaF2 、SrF2 、MgF2 及びBeF2 等のフッ化物や、フッ化物以外のハロゲン化物が挙げられる。
【0031】
また、電子注入・輸送層を構成する半導体としては、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Li、Na、Cd、Mg、Si、Ta、Sb及びZnの少なくとも一つの元素を含む酸化物、窒化物又は酸化窒化物等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。また、電子注入・輸送層を構成する無機化合物が、微結晶または非晶質の絶縁性薄膜であることが好ましい。電子輸送層がこれらの絶縁性薄膜で構成されていれば、より均質な薄膜が形成されるために、ダークスポット等の画素欠陥を減少させることができる。なお、このような無機化合物としては、上述したアルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0032】
さらに、電子注入・輸送層は、仕事関数が2.9eV以下の還元性ドーパントを含有していてもよい。ここで、還元性ドーパントとは、電子輸送性化合物を還元ができる物質と定義される。したがって、一定の還元性を有するものであれば、様々なものが用いられ、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物又は希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体、希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも一つの物質を好適に使用することができる。
【0033】
また、より具体的に、好ましい還元性ドーパントとしては、Na(仕事関数:2.36eV)、K(仕事関数:2.28eV)、Rb(仕事関数:2.16eV)及びCs(仕事関数:1.95eV)からなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属や、Ca(仕事関数:2.9eV)、Sr(仕事関数:2.0〜2.5eV)及びBa(仕事関数:2.52eV)からなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ土類金属が挙げられ、仕事関数が2.9eVのものが特に好ましい。これらのうち、より好ましい還元性ドーパントは、K、Rb及びCsからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属であり、さらに好ましくは、Rb及びCsであり、最も好ましのは、Csである。これらのアルカリ金属は、特に還元能力が高く、電子注入域への比較的少量の添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。
また、仕事関数が2.9eV以下の還元性ドーパントとして、これら2種以上のアルカリ金属の組合わせも好ましく、特に、Csを含んだ組み合わせ、例えば、CsとNa、CsとK、CsとRb、CsとNaとKとの組み合わせであることが好ましい。Csを組み合わせて含むことにより、還元能力を効率的に発揮することができ、電子注入域への添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。
【0034】
有機EL素子の陽極は、正孔を正孔注入・輸送層及び/又は発光層に注入する役割を担うものであり、4.5eV以上の仕事関数を有することが効果的である。本発明に用いられる陽極材料の具体例としては、酸化インジウム錫合金(ITO)、酸化錫(NESA)、金、銀、白金、銅等が適用できる。また、陰極としては、電子注入・輸送層及び/又は発光層に電子を注入する目的で、仕事関数の小さい材料が好ましい。
また、有機EL素子においては、陽極の上に正孔注入(輸送)層を用いても良い。正孔注入・輸送層の例としては、例えば、特開昭63−295695号公報、特開平2−191694号公報等に記載されている、通常有機EL素子に用いられている各種有機化合物およびポリマーを用いることができる。例えば、芳香族第三級アミン、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、あるいはポリビニルカルバゾール、ポリエチレンジオキシチオフェン・ ポリスルフォン酸(PEDOT・ PSS)等が挙げられる。
【0035】
有機EL素子の陰極材料は特に限定されないが、具体的にはインジウム、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−スカンジウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等が使用できる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
合成実施例1(金属錯体化合物の合成)
以下の経路により上記金属錯体化合物2を合成した。
【化12】

【0037】
Ir(ttpy)Cl3 (0.1g, 0.16mmol)、エチレングリコール(15ml)、KCN(0.064g, 0.96mmol) を100mlなす型フラスコに入れ、650Wmicrowave 照射装置(四国計測社製ZMW-007型) にて、マイクロ波を断続的に3分間4回に分けて照射して加熱攪拌した。室温まで放冷後、純水を100ml 加え30分間攪拌した。その後、遠心分離により上澄み液を除去した後、ろ過により沈殿を集めた。クロロホルム、ジエチルエーテルで洗浄した後に乾燥し、化合物2を黄色粉末として0.05g得た(収率58%)。得られた化合物についてFD−MS(フィールドディソープションマススペクトル)測定を行い、目的化合物であることを確認した。FD−MSの結果を以下に示す。
FD-MS :calcd for IrC25H17N6=593, found, m/z=593 (100)
得られた化合物2の発光スペクトルを室温にて測定したところ、λmax = 493nm(励起波長 475nm) であった。その結果を図1に示す。
これに対し、原料に用いたIr(ttpy)Cl3 の発光スペクトルは、λmax = 610nmである。この結果より、金属錯体化合物に3座配位子に加え、さらにシアノ基を導入することで、大幅な発光波長の短波長化の効果があることが分かる。
【0038】
実施例1(有機EL素子の作製)
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。その基板の上に、スピンコート法で正孔注入層に用いるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)を100nmの膜厚で成膜し、次いで窒素雰囲気下で合成実施例1で合成した金属錯体化合物2を下記ホスト材料Hに対して7重量%混合し、窒素ガスを15分間バブリングさせたクロロホルム溶媒を用いて濃度0.5重量%のクロロホルム溶液としてPEDOTの上にスピンコート法で成膜した。この層は発光層として機能する。この時の膜厚は50nmであった。この膜上に膜厚25nmの下記BAlqの膜を成膜した。このBAlq膜は、正孔障壁層として機能する。次いでこの膜上に膜厚5nmの下記Alqを成膜した。このAlq膜は電子注入層として機能する。この後、フッ化リチウムを0.1nmの厚さに蒸着し、次いでアルミニウムを150nmの厚さに蒸着した。このAl/LiFは陰極として機能する。このようにして有機EL素子を作製した。
得られた素子を封止後、通電試験を行なったところ、電圧7.6V、電流密度0.74mA/cm2 にて、発光輝度100cd/m2 でCIE色度(0.17,0.28)の青緑色発光が得られ、発光効率は13.5cd/Aであった。
【0039】
【化13】

【0040】
比較例1
実施例1において、金属錯体化合物2の代わりに、公知文献Inog.Chem., 6513(2004)記載の下記金属錯体化合物D1を用いた以外は同様にして有機EL素子を作製した。
得られた素子を封止後、通電試験を行なったところ、電圧8.8V、電流密度0.68mA/cm2 にて、発光輝度101cd/m2 でCIE色度(0.51,0.48)の橙色発光が得られ、発光効率は6.5cd/Aであった。
【化14】

【0041】
比較例2
実施例1において、金属錯体化合物2の代わりに、上記Ir(ttpy)Cl3 を用いた以外は同様にして有機EL素子を作製した。
得られた素子を封止後、通電試験を行なったところ、電圧22.4V、電流密度8.48mA/cm2 にて、発光輝度98cd/m2 でCIE色度(0.66,0.39)の赤色発光が得られ、発光効率は1.2cd/Aであった。
このように同じ中心金属でかつ3座キレート配位子を用いたものであっても、本発明のように配位子構造を最適化した金属錯体化合物を用いた場合、より青色化させ、かつ高い発光効率の有機EL素子となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上詳細に説明したように、本発明の金属錯体化合物を用いた有機EL素子は、発光効率が高く、短波長の発光で、色純度の高い青色発光が得られる。このため、各種表示素子、ディスプレイ、バックライト、照明光源、標識、看板、インテリア等の分野に適用でき、特にカラーディスプレイの表示素子として適している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、合成実施例1で製造した金属錯体化合物の発光スペクトルの測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3座キレート配位子及びシアノ基を配位子として有する下記一般式(I)で表される部分構造を有する金属錯体化合物。
【化1】

(式中、Mは、周期律表第7〜12族のいずれかの金属原子であり、
Lは、周期律表第13〜17族のいずれかの原子を含有する化合物又は原子団であり、
Aは、記号Aを囲む円が窒素原子(N)を含む環状構造を示しており、置換基を有してもよい炭素数2〜20の含窒素複素環基であり、
nは1〜3、mは0〜2の整数であり、
1 〜R4 は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数3〜20の複素環基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルキニル基、又は置換基を有してもよい炭素数3〜20のシクロアルキル基であり、R1 とR2 、R3 とR4 は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(I)において、Lが、PR、AsR、SbR、NR、OR
(前記Rは、水素原子、シアノ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数3〜20の複素環基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルキニル基、又は置換基を有してもよい炭素数3〜20のシクロアルキル基であり、Rの個数は複数であってもよく、その複数のRは同一でも異なっていてもよい。)、
CO、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数2〜20の複素環及びこれらを組み合わせて2座キレート配位子となったものから選ばれる少なくとも一種類である請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項3】
前記一般式(I)において、Lが、下記一般式(1)〜(6)のいずれかで表される化合物である請求項1に記載の金属錯体化合物。
【化2】

(式中、X及びYは、それぞれ独立に、O(酸素)、S(硫黄)、N(窒素)、P(リン)、As(ヒ素)又はSb(アンチモン)原子であり、
T及びEは、それぞれ独立に、N、P、As又はSb原子であり、
1 は、−(CH2)−(qは1〜3の整数)、−CH=CH−又は−CH=C=CH−であり、
2 は、=CR27−CR28=であり、
5 〜R28は、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素数3〜20の複素環基、置換基を有してもよい炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルケニル基、置換基を有してもよい炭素数2〜12のアルキニル基、又は置換基を有してもよい炭素数3〜20のシクロアルキル基であり、R5 〜R28のうち隣接するもの同士で互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【請求項4】
前記一般式(I)において、Mが周期律表第9族のいずれかの金属原子である請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項5】
前記一般式(I)において、MがRe(レニウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Os(オスミウム)又はRu(ルテニウム)原子である請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項6】
前記一般式(I)において、MがIr(イリジウム)又はPt(白金)原子である請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項7】
前記一般式(I)において、MがRe(レニウム)原子である請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項8】
前記3座キレート配位子が下記一般式(7)で表される化合物である請求項1に記載の金属錯体化合物。
【化3】

(式中、R29〜R35は、それぞれ独立に、前記R1 〜R4 と同じであり、R29〜R35のうち隣接するもの同士で互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【請求項9】
前記3座キレート配位子が下記一般式(8)で表される化合物である請求項1に記載の金属錯体化合物。
【化4】

(式中、R36〜R46は、それぞれ独立に、前記R1 〜R4 と同じであり、R36〜R46のうち隣接するもの同士で互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【請求項10】
下記一般式(I−1)で表される請求項1に記載の金属錯体化合物。
【化5】

(式中、R29〜R35は、それぞれ独立に、前記R1 〜R4 と同じであり、R29〜R35のうち隣接するもの同士で互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【請求項11】
下記一般式(I−2)で表される請求項1に記載の金属錯体化合物。
【化6】

(式中、R36〜R46は、それぞれ独立に、前記R1 〜R4 と同じであり、R36〜R46のうち隣接するもの同士で互いに結合して環状構造を形成していてもよい。)
【請求項12】
一対の電極間に少なくとも発光層を有する一層又は複数層からなる有機薄膜層が挟持されている有機エレクトロルミネッセンス素子において、該有機薄膜層の少なくとも1層が、請求項1〜11のいずれかに記載の金属錯体化合物を含有し、両極間に電圧を印加することにより発光する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記発光層が、請求項1〜11のいずれかに記載の金属錯体化合物を含有する請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
青色系発光する請求項12又は13に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記金属錯体化合物を含有する層が、塗布により成膜されてなる請求項12〜14のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−137676(P2006−137676A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326093(P2004−326093)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】