説明

金属電極/セラミックス接合体及びその製造方法

【課題】 熱膨張係数差に起因する熱応力が相対的に小さく、高い強度及び優れた耐久性を示し、高温酸化雰囲気下で使用した場合であっても、長期間に渡って高い耐熱性、耐酸化性を示す金属電極/セラミックス接合体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 セラミックスと、該セラミックスの少なくとも一方の表面に接合された金属電極とを備え、前記金属電極は、連続体であり、かつ、複数個の凹部を有している金属電極/セラミックス接合体。このような金属電極/セラミックス接合体は、所定の凹凸構造を有する金属シートとセラミックスとを重ね合わせ、金属シートとセラミックスとを所定の条件下で加熱処理及び/又は電圧印加することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属電極/セラミックス接合体及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、長期的に機械的、機能的な特性を維持することが可能な金属電極/セラミックス接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属/セラミックス接合体は、高温強度、耐摩耗性、耐熱性、耐熱衝撃性、耐食性等の機械的特性が要求される各種構造用部品、あるいは、電気伝導性、イオン伝導性、圧電性、歪−電気抵抗特性、誘電性、非磁性等の電磁気的特性や熱伝導特性が要求される各種機能性部品に用いられている。
金属材料とセラミックス材料とを接合する方法としては、
(1)ボルト締め、嵌合等の機械的接合法、
(2)有機系又は無機系の接着剤を用いた接着剤法、
(3)セラミック材料の表面に金属薄膜を形成(メタライズ)し、金属薄膜を介して金属材料とロウ付けするメタライズロウ付け法、
(4)無電解メッキによりセラミック材料の表面に金属薄膜を形成するメッキ法、
(5)金属材料とセラミック材料とを直接、又は、適当なロウ材、中間層等を介して突き合わせて高温に加熱し、界面において構成元素の拡散を行わせる拡散接合法、
(6)CVD、電子ビーム、スパッタ、レーザーアブレーション、PLD、ALD、蒸着等による物理的な成膜方法、
(7)導電ペーストのスクリーン印刷によりペースト薄膜を形成する方法、
などが知られている。また、拡散接合法においては、元素のイオン性を利用して界面反応を強制的に引き起こすことにより拡散接合するField-Assisted Bonding法(電場を印加する方法)も知られている。
【0003】
これらの接合法は、金属/セラミックス接合体の用途やセラミックス素材の種類及び必要膜厚等に応じて使い分けられているが、高い信頼性が要求される用途には、一般に、メタライズ法、拡散接合法等の化学的接合法が用いられている。しかしながら、金属材料とセラミック材料との接合は、異種材料間での接合であるので、化学的接合法を用いた場合には、種々の問題が生ずることがある。
【0004】
例えば、化学的接合法を用いて金属材料とセラミックス材料とを接合するためには、一般的に、両者を高温に加熱する必要がある。セラミックス材料の熱膨張係数は、一般に金属材料の熱膨張係数より小さいので、両者を高温に加熱して接合した後、室温まで冷却すると、セラミックス材料には、金属材料との熱膨張係数差に起因する熱応力(引張応力)が発生する。この熱応力がセラミックス材料の機械的強度を超えると、セラミックス材料が破損するという問題がある。
【0005】
この問題を解決する方法としては、例えば、
(1)金属材料とセラミックス材料の中間の熱膨張係数を有する材料(例えば、W、Mo、Zr、Nb等)を界面に介在させる方法、
(2)金属材料とセラミックス材料との界面に軟質金属(例えば、Al、Au、Cu等)を介在させる方法、
(3)セラミックス側から金属側へ熱膨張係数を連続的に変化(傾斜)させる方法、
などが提案されている。
【0006】
また、各種機能性セラミックスには、その表面に相対的に厚さの薄い金属電極が接合される場合が多い。このような金属電極/セラミックス接合体においても、両者の熱膨張差、高温使用時における金属電極の酸化、接合された金属を介した熱伝導等に起因して、種々の問題が発生する場合があり、これを解決するための方法もいくつか提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、固体電解質の表面に第1の電極膜と第2の電極膜を接合し、電極膜の中央にリード線を接合し、第2の電極膜と開口部を有する金属箔とを接着層を介して接合した電気化学デバイスが開示されている。同文献には、(1)電極膜の中央にリード線を接合することによって固体電解質が均一に加熱され、熱歪みによる破損を抑制できる点、及び、(2)開口部を有する金属箔と第2の電極膜とを接着層を介して接合することによって、固体電解質とこれを取り付ける容器の熱膨張係数を互いに近い範囲で選択する必要がなくなり、材料の選択範囲が広がる点、が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、素子電極部を有する検出素子と、素子電極部に電気的に接続される金属端子とを備え、金属端子の表面に、金属端子より酸化しにくく、接触抵抗が金属端子より低い導電性材料からなる電気接触層を形成したガスセンサが開示されている。同文献には、金属端子の表面に電気接触層を形成することにより、高温環境下で使用した場合であっても、素子電極部と接触する金属端子の表面に酸化膜が形成されにくくなり、電気的接触抵抗値の増大が抑制できる点が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、多孔質の固体酸化物電解質膜の一方の面に炭化水素の酸化反応に対して高活性である第1電極を形成し、他方の面に炭化水素の酸化反応に対して低活性又は活性を有しない多孔質の第2電極を形成した単室型燃料電池が開示されている。同文献には、このような構成を採用することによって、内部抵抗が小さくなり、大電流が得られる点が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−239667号公報
【特許文献2】特開2004−219384号公報
【特許文献3】特開2002−313357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金属板若しくは箔を電極としたセラミックス/電極接合体においては、さらに金属板若しくは金属箔電極にメタルリード線を溶接、半田付け、導電ペーストやロウ付け等によってリード線付けを実施して使用する必要がある。このようなリード線付けを行うためには、金属板、金属箔若しくは金属厚膜がある一定厚さ以上の肉厚が必要になる。
また、金属電極/セラミックス接合体が高温酸化雰囲気下で使用される場合、金属電極には、耐熱性及び耐酸化性に優れた各種耐熱材料が用いられる。一般に、耐熱材料には、緻密な酸化物を生成する元素(例えば、Al、Cr、Si等)が含まれている。このような耐熱材料を高温酸化雰囲気下に曝すと、その表面に緻密な酸化膜が形成され、この酸化膜が酸素の拡散を抑制することによって、耐熱材料の酸化の進行を抑制する。従って、長期間に渡って耐熱性及び耐酸化性を維持するためには、金属電極は、ある一定量以上の体積が必要になる。
【0012】
しかしながら、耐熱材料からなる金属電極の厚さが厚くなるほど、熱膨張係数差に起因して発生する熱応力が大きくなり、金属/セラミックス界面、又は、セラミックス側で剥離が発生するおそれがある。これを回避するために、金属電極の厚さをある一定以上に薄くすると、リード線付けが困難になるか、もしくは金属電極に含まれるAl、又は、Y、Yb、La等の希土類元素の絶対量が少なくなるために、実用上十分な耐熱性、耐酸化性が得られない。
また、熱膨張係数差に起因する熱応力を軽減するために金属電極とセラミックス材料の間に中間層を介在させ、応力緩和を図る方法を用いた場合、一般に中間層として使用可能な材料の強度、耐熱性、耐酸化性等が低いために、500℃以上の高温では使用できないという問題がある。また、中間層を挟むことによって処理が煩雑となり、コスト高になるという問題がある。さらに、中間層の組成によっては、接合界面に低融点の化合物を生成する場合があるので、材料選択の自由度が小さい。
さらに、金属電極を接合した金属/セラミック接合体においては、一般に、メタル箔の厚さが厚いほど、それらの熱膨張率差に起因して発生する熱応力が増加し、接合体が剥離しやすくなるという問題がある。この問題を解決するため、(1)メタル箔の厚さを薄くする、(2)接合温度を低下させる、という方法も考えられる。
しかしながら、メタル箔を薄くするのに伴って熱応力は低下するが、メタル電極にリード線を溶接あるいはロウ付け等をする場合に、メタル電極にリード線が溶接しにくくなるか、あるいは、溶接が可能な場合にも十分な溶接強度が得られないという問題がある。
一方、接合温度を低下させると、元素の拡散不足のために十分な接合強度が得られない、又は、接合体の耐熱強度が低下するおそれがある。
さらに、メタル箔を用いる場合において、所定のの厚さに圧延加工するためには、かなりの圧延加工が必要となり、プロセスが煩雑となり、コスト高となるおそれがある。従って、実用上、十分な接合及び溶接強度や耐熱性を得るためには、金属電極としてある一定以上の厚さが必要となる。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、熱膨張係数差に起因する熱応力が相対的に小さく、高い強度及び優れた耐久性を示す金属電極/セラミックス接合体及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、高温酸化雰囲気下で使用した場合であっても、長期間に渡って高い耐熱性、耐酸化性を示す金属電極/セラミックス接合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る金属電極/セラミックス接合体は、セラミックスと、該セラミックスの少なくとも一方の表面に接合された金属電極とを備え、前記金属電極は、連続体からなり、かつ、複数個の凹部を有していることを要旨とする。
また、本発明に係る金属電極/セラミックス接合体の製造方法は、連続体からなり、かつ、複数個の凹部を有している金属シートとセラミックスとを重ね合わせ、前記金属シートと前記セラミックスとを加熱処理及び/又は電圧印加する接合工程を備えていることを要旨とする。
また、本発明に係る金属電極/セラミックス接合体の製造方法の2番目は、不連続体からなり、複数個の凹部を有している金属シートとセラミックスとを重ね合わせ、前記金属シートと前記セラミックスとを加熱する接合工程と、前記金属シートを剥離させる剥離工程とを備えていることを要旨とする。
また、本発明に係る金属電極/セラミックス接合体の製造方法の3番目は、複数個の貫通孔が形成されたマスクをセラミックス表面に重ね、媒体を溶剤に溶解させた溶液を前記マスクの上から塗布し、前記溶剤を除去することによって前記セラミックス表面に前記媒体からなる突起を形成する突起形成工程と、前記突起が形成されたセラミックス表面に金属薄膜を形成する薄膜形成工程と、前記突起を除去する除去工程とを備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
金属電極に所定の大きさを有する凹部を所定個数形成すると、凹部のない一様な厚さを有する電極に比べて、熱膨張係数差に起因する熱応力を軽減することができる。また、金属電極に凹部を形成すると、発生する熱応力を低く維持したまま、見かけの厚さを厚くすることができる。そのため、高温酸化雰囲気下で使用した場合であっても、長期間に渡って高い耐熱性、耐酸化性を示す。さらに、リード線の溶接、半田付け等を容易に実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る金属電極/セラミック接合体は、セラミックス材料と、セラミックスの少なくとも一方の表面に接合された金属電極とを備えている。
【0017】
本発明において、セラミックス材料の種類は、特に限定されるものではなく、種々の構造用セラミックス材料、あるいは、機能性セラミックス材料に対して本発明を適用することができる。また、セラミックス材料の形状も、特に限定されるものではなく、種々の形状を有するセラミックス材料に対して本発明を適用することができる。
【0018】
セラミックス材料としては、具体的には、
(1)窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)等の窒化物、
(2)炭化ケイ素(SiC)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ホウ素(BC)等の炭化物、
(3)アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、酸化モリブデン(MoO)、セリア(CeO)、イットリア(Y)、酸化ビスマス(Bi)、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタニア(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)、スピネル(AlMgO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、LaWO、LaBO、LaPO等の酸化物、
(4)ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)等のホウ化物、
(5)ケイ化チタン(TiSi)、ケイ化ジルコニウム(ZrSi)等のケイ化物、
(6)LaZr、SmZr、GdZr等のパイクロール型酸化物、
(7)SrCeO、SrCe1−x(M=Sc、Zn、Y、Mn、In、Nd、Sm、Dy、Yb)、La1−xCaCrO、La1−xSrCrO、YMnO、La1−xCoMnO、LaSrMnO、LaFeO、La1−xCaCoO、La1−xSrCoO、SrCeO、CaZrO、SrZrO、SrTiO、SrTi、BeZrO、BaCeO、BaCe1−xGd、CaHfO、KTaO等のペロブスカイト型酸化物、
がある。また、セラミックス材料は、これらの複合セラミックスであっても良い。
【0019】
本発明において、金属電極は、連続体からなる。ここで、「連続体」とは、電極を厚さ方向及び接合界面と平行方向に見た時に、電極を構成する金属材料が一体的になっていることを言う。例えば、
(1)電極を厚さ方向に見た時に、別個の金属材料(例えば、金属繊維)が物理的に接触した状態、又は、別個の金属材料が、その大きさに比べて相対的に小さな接触面積で接合している状態にあるもの、あるいは、
(2)接合界面と平行方向に見た時に、金属電極が孤立した突起の集合体からなるもの、
(以下、これらの状態にあるものを「不連続体」という。)は、本発明に言う「連続体」には含まれない。不連続体は、接合面積が小さく、十分な接合強度が得られないので、金属電極として用いるのは好ましくない。
【0020】
「不連続体」としては、具体的には、織物メッシュ、メタル粒子、短繊維集合体などがある。
また、「連続体」としては、具体的には、
(1) 金属箔、
(2) 織物メッシュのような不連続体をセラミックス材料表面に重ね合わせ、固相拡散接合及び/又は金属材料の一部溶融を行い、残留した不連続体をセラミックス材料表面から剥離させた後にセラミックス材料表面に残る金属材料の接合物及び/又は融着物、
(3) スパッタ、PLD(パルスレーザーデポジション)、蒸着等の気相法により、所定のパターンでセラミックス表面に形成された薄膜、
(4) メッキ、
などがある。
【0021】
また、本発明において、金属電極は、複数個の凹部を有している。ここで、「凹部」とは、金属電極の実厚さが見かけの厚さの半分以下である領域をいう。また、「見かけの厚さ」とは、図1に示すように、金属電極の最表面を滑らかな包絡線で結び、接合界面から垂直に計った包絡線までの距離をいう。
強度及び耐酸化性に優れた金属電極/セラミックス接合体を得るためには、金属電極は、以下のような条件を満たすものが好ましい。
【0022】
第1に、金属電極は、その見かけの厚さが5μm以上300μm以下であるものが好ましい。金属電極の見かけの厚さが5μm未満であると、金属電極の総体積が小さくなるために、実用上、十分な耐久性、耐酸化性及び電極リード線の溶接性が得られない。一方、金属電極の見かけの厚さが300μmを超えると、金属材料とセラミックス材料の熱膨張係数差に起因する熱応力が増大し、接合直後に発生する電極剥離、及び、強度、信頼性、耐熱衝撃性、電気抵抗値の安定性等の低下が生ずる。リード線溶接性、耐久性、耐酸化性に優れ、かつ、機械的特性に優れた接合体を得るためには、金属電極の見かけの厚さは、さらに好ましくは、10μm以上80μm以下、さらに好ましくは、10μm以上50μm以下、さらに好ましくは、20μm以上40μm以下である。
【0023】
第2に、金属電極は、凹部の最大長さdが0.01mm以上1.0mm以下であるものが好ましい。ここで、凹部の「最大長さd」とは、図2に示すように、凹部に外接する最小の円の直径をいう。凹部の最大長さdが0.01mm未満であると、金属材料とセラミックス材料の熱膨張係数差に起因する熱応力が増大し、強度、信頼性が低下する。一方、凹部の最大長さdが1.0mmを超えると、金属電極の総体積が小さくなり、あるいは、金属電極の総面積に対する凹部の面積の割合をある一定の値に維持するためには、凹部のピッチを大きくする必要があり、かえって熱応力が増大する。リード線溶接性、耐久性、耐酸化性に優れ、かつ、機械的特性に優れた接合体を得るためには、凹部の最大長さdは、さらに好ましくは、0.05mm以上0.8mm以下、さらに好ましくは、0.05mm以上0.5mm以下、さらに好ましくは、0.08mm以上0.3mm以下である。
【0024】
凹部の形状は、特に限定されるものではなく、菱形、四角形、多角形、三角形、円形、楕円形、丸形等、いずれの形状であっても良い。また、各凹部の形状は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。さらに、凹部は、金属電極を貫通する貫通孔であっても良く、あるいは、金属電極を貫通しない非貫通孔であっても良い。
また、凹部が非貫通孔である場合、金属電極は、
(1)セラミックスとの接合面が平坦であり、セラミックスと接合されていない非接合面に凹部を有するもの、
(2)セラミックスとの接合面に凹部を有し、セラミックスと接合されていない非接合面が平坦であるもの、あるいは、
(3)セラミックスとの接合面、及び、セラミックスと接合されていない非接合面の双方に凹部を有するもの、
のいずれであっても良い。特に、上記(1)のケースは、セラミックスと金属電極との間に高い接合強度が得られるので、金属電極の構造として特に好適である。
【0025】
第3に、金属電極は、凹部のピッチが凹部の最大長さdの0.3倍以上100倍以下が好ましい。ここで、「凹部のピッチ」とは、図2に示すように、隣接する凹部の最短距離をいう。凹部のピッチが凹部の最大長さdの0.3倍未満であると、金属電極の総体積が小さくなるために、実用上、十分な耐久性、耐酸化性、電極特性やリード線溶接性が得られない。一方、凹部のピッチが凹部の最大長さdの100倍を超えると、金属材料とセラミックス材料の熱膨張係数差に起因する熱応力が増大し、強度、信頼性が低下する。耐久性、耐酸化性、及び、リード線溶接性に優れ、かつ、機械的特性に優れた接合体を得るためには、凹部のピッチは、さらに好ましくは、凹部の最大長さdの1倍以上8倍以下、さらに好ましくは、1倍以上6倍以下、さらに好ましくは、3倍以上5倍以下である。
【0026】
凹部は、金属電極表面に不規則に配列していても良く、あるいは、規則配列していても良い。凹部の配列方法としては、具体的には、千鳥状、直線状、円状、ヘリンボン状、綾状、並び列状などがある。また、凹部が不規則配列している場合、各凹部間のピッチが上述した範囲内にあれば良い。
さらに、金属電極の凹部は、金属電極面内の中央部と外周部でピッチや孔径、および厚さを変化させても良い。この場合、内周部に比べて外周部のピッチを小さくしたり、孔径を大きくすることにより、応力緩和しやすくなる場合がある。
【0027】
本発明において、金属電極の組成は、特に限定されるものではなく、セラミック材料の組成、金属電極/セラミック接合体の用途、要求特性等に応じて種々の材料を用いることができる。また、基本的な選定基準としては、
(1)できるだけ熱膨張率の小さい金属/セラミックスの組み合わせを用いる、
(2)弾性率の小さいメタルを用いる、又は、
(3)高強度のセラミックスを用いる
など、接合によって生じる熱応力や、熱応力によるセラミックスの破壊を抑止できる組み合わせが好ましい。但し、耐熱性及び/又は耐酸化性、並びに、耐久性に優れた金属電極/セラミック接合体を得るためには、金属電極は、耐酸化性・耐熱材料が好ましい。
【0028】
ここで、「耐酸化性・耐熱材料」とは、(1)耐熱性及び/又は耐酸化性に優れた材料であって、耐剥離性が高く、耐酸化性が高く、かつ、安定で緻密な酸化物を形成可能な元素(以下、これを「酸化膜形成元素」という。)を含む金属材料、あるいは、(2)耐熱性に優れ、かつ、使用温度において酸化膜を形成しにくい金属材料、をいう。
【0029】
金属電極/セラミックス接合体を高温酸化雰囲気下で使用すると、一般に、金属電極表面に酸化膜が生成する。この酸化膜が剥離したり、あるいは、酸化膜が酸素を拡散させやすいものであると、使用中に金属電極の酸化が進行し、相対的に短期間で金属電極の電気抵抗が増大する。
これに対し、金属電極として、所定の酸化膜形成元素を含む金属材料を用いると、金属電極表面には、剥離しにくく、かつ、緻密な酸化膜が形成される。また、酸化膜の一部が剥離した場合であっても、酸化膜形成元素が金属表面に拡散し、新たな酸化膜が形成される。そのため、金属電極内部への酸素の拡散が抑制され、金属電極の耐熱性、耐酸化性の劣化を抑制することができる。
また、金属電極として、使用温度において酸化膜を形成しにくい金属材料を用いた場合も同様であり、酸素の拡散に起因する金属電極の特性劣化を抑制することができる。
【0030】
酸化膜形成元素としては、具体的には、Al、Cr、Si、Nb、Mn、Ni、Ce、Mg、Ca、Ti、Zn、Ta等がある。金属電極中には、これらの酸化膜形成元素の内、いずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
金属電極中に含まれる酸化膜形成元素の量は、金属電極内部への酸素の拡散を抑制でき、かつ、金属電極の加工性を低下させないように、金属電極の組成、酸化膜形成元素の種類等に応じて、最適な量を選択する。
金属電極中に含まれる酸化膜形成元素の量は、具体的には、1000℃以上の高温使用条件において酸化膜を100時間以上、形成するために必要な量以上が好ましい。また、金属電極中に含まれる酸化膜形成元素の量は、5wt%以上が好ましい。特に、Al含有量が5wt%以上である材料は、金属電極として好適である。
【0031】
また、金属電極は、上述した酸化膜形成元素に加えて、又は、これらに代えて、酸化膜安定化元素を含むものが好ましい。ここで、「酸化膜安定化元素」とは、金属電極の表面に形成された酸化膜を安定化させる機能を有する元素をいう。
一般に、金属材料の表面に形成される酸化膜には、下地の金属材料と密着性の良いものと、悪いものがあることが知られている。酸化膜が下地の金属材料との密着性が悪いものである場合、金属材料にある種の元素(酸化膜安定化元素)を添加すると、酸化膜と下地の密着性が向上し、酸化膜の剥離を抑制することができる。本発明において、酸化膜安定化元素は、必ずしも必要なものではないが、酸化膜安定化元素を含む金属電極を用いると、高温酸化雰囲気下で長時間使用した場合であっても、耐熱性及び/又は耐酸化性を維持することが可能な金属電極/セラミックス接合体が得られる。
【0032】
このような酸化膜安定化元素としては、具体的には、Y、Yb、La、Ce、Ta、Th等の希土類元素がある。酸化膜安定化元素は、金属電極中に金属状態で含まれていても良く、あるいは、酸化物若しくは複酸化物状態で含まれていても良い。また、金属電極中には、これらの酸化膜安定化元素の内、いずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。特に、Al、Cr、Si等の酸化膜形成元素のいずれか1種と希土類元素の双方を含む材料は、金属電極として好適である。
金属電極中に含まれる酸化膜安定化元素の量は、酸化膜の密着性を高めることができ、かつ、金属電極の加工性を低下させないように、金属電極の組成、酸化膜安定化元素の種類等に応じて、最適な量を選択する。
【0033】
金属電極の材料としては、具体的には、
(1) Fe−Cr−Al合金、Fe−Cr−Al−La合金、Ni−Cr−Al合金、Fe−Cr−Si合金、Fe−Cr−Y合金、Fe−Cr−La合金、Cr−Fe−Al−Ni合金、Cr−Fe合金、Ni−Cr−Mo−Fe合金、Ni−Cr−Fe合金、Cr−Ni−Fe合金、Cr−Al−Fe−Y合金等の耐酸化性・耐熱材料、
(2) Al、W、Nb、Zr、Ta、Ti、Ni、Pt、In、La、Pd、Au、Sm、Sn、Fe、Cu、Gd、Si、Co、Y、Yb、Fe、Sc、Ru、Ti、Th、Cr、Hf、Zn、Ag、Ir、Mo、Re等、又は、これらの合金からなる耐熱材料
等がある。
【0034】
金属電極とセラミックス材料の組み合わせは、特に限定されるものではなく、金属電極/セラミックス接合体の用途等に応じて、任意に選択することができる。
但し、耐熱性に優れた金属電極/セラミックス接合体を得るためには、接合後の界面に、金属電極の融点より高い融点を有する拡散層が形成されるように、金属電極とセラミック材料の組み合わせを選択するのが好ましい。
例えば、PtやNiのケイ化物は、PtやNiより融点が低いことが知られている。従って、金属電極又はセラミック材料のいずれか一方にPt及び/又はNiが含まれる場合には、界面にこれらのケイ化物が生成しないように、他方にSiを含まないものを用いるのが好ましい。
【0035】
次に、本発明に係る金属電極/セラミックス接合体の製造方法について説明する。本発明の第1の実施の形態に係る金属電極/セラミックス接合体の製造方法は、所定の条件を満たす金属シートとセラミックスとを重ね合わせ、金属シートとセラミックスとを加熱処理及び/又は電圧印加する接合工程を備えている。
【0036】
本実施の形態において、「金属シート」とは、連続体からなり、かつ、複数個の凹部を有しているものをいう。金属シートは、具体的には、
(1) その見かけの厚さが5μm以上300μm以下であり、
(2) 凹部の最大長さdが0.01mm以上1.0mm以下であり、
(3) 凹部のピッチが最大長さdの0.3倍以上100倍以下であるもの、
が好ましい。なお、「連続体」、「凹部」、「最大長さd」等の定義、及び、金属シートの材料として耐酸化性・耐熱材料が好ましい点は、上述した通りである。
金属シートとしては、具体的には、
(1) 所定の形状を有する貫通孔が、所定のピッチで規則的又は不規則的に形成された金属箔、
(2) その片面又は両面に、所定の形状を有する非貫通孔が、所定のピッチで規則的又は不規則的に形成された金属箔、
などがある。
このような金属シートは、一定の厚さを有する金属箔に対して、化学的エッチング、物理的エッチング、光学的エッチング、打ち抜き、プレス、エンボス加工、圧延等の処理を施すことにより得られる。この時、処理条件を最適化することによって、凹部の形状、配置、凹部の配列周期等を任意に変化させることができる。
【0037】
金属シートとセラミックス材料との接合は、両者を直接、重ね合わせて接合するものであっても良く、あるいは、金属シートとセラミックス材料の間に適当な構成組成物、ロウ材、中間層等を介在させて、接合するものでも良い。
接合温度及び時間は、金属シート及びセラミックス材料の組成、中間層等を用いる場合にはその組成、これらの組み合わせ等に応じて最適なものを選択する。一般に、接合温度が金属シート、中間層等の融点に比べて低すぎる場合、及び/又は、接合時間が短すぎる場合には、十分な接合強度は得られない。一方、接合温度が金属シート、中間層等の融点に比べて高すぎる場合、及び/又は、接合時間が長すぎる場合には、金属シートが溶融し、あるいは、セラミックス側に生成する拡散層の厚さが厚くなるので好ましくない。
【0038】
また、接合は、金属シート/セラミックス界面を加圧しながら行う。最適な圧力は、金属シート及びセラミックス材料の組成、中間層等を用いる場合にはその組成、これらの組み合わせ、接合温度等に応じて異なる。一般に、接合時の圧力が小さすぎる場合には、金属シートとセラミック界面に非接触部が生じやすいため、構成元素の拡散むらが生じ、十分な接合強度は得られない。一方、接合時の圧力が大きくなりすぎると、金属シート及び/又はセラミックス材料が変形及び破壊するおそれがあるので好ましくない。接合時の加圧力は、具体的には、0.5MPa以上100MPa以下が好ましい。
【0039】
例えば、Fe−Cr−Al、Ni−Cr−Al等のFe基又はNi基耐熱鋼からなる金属シートとSiとを接合する場合、接合温度は、600℃以上1200℃以下が好ましい。接合時間及び接合圧力は、接合温度に応じて、最適な条件を選択する。
【0040】
さらに、接合は、単に加圧しながら加熱するだけでも良いが、接合時に電界、電場を印加する、いわゆるField-Assisted Bonding法を用いても良い。接合時に電界を印加すると、界面反応が強制的に引き起こされるので、良好な接合体を得ることができる。あるいは、単に金属シートとセラミックスの積層体に電圧を印加し、ジュール熱によって接合しても良い。
【0041】
なお、接合時の加圧には、一般に、カーボン治具又はBN等の離型材が塗布されたカーボン治具が用いられる。このような治具を用いて金属シート/セラミックス材料の積層体を加圧すると、カーボン治具表面から炭素及び/又は窒素が金属シートに拡散し、金属電極表面に炭素及び/若しくは窒素の拡散層、並びに/又は、炭化物層及び/又は窒化物層が生成する場合がある。このような拡散層等が金属電極表面に生成すると、金属電極の耐酸化性、耐熱性を低下させる原因となる。
このような場合には、金属シートに予め炭素及び/又は窒素の拡散を抑制する処理を施すのが好ましい。このような処理としては、具体的には、
(1) 酸化膜形成元素を含む金属シートを、接合前に酸化処理し、金属シート表面に薄い酸化膜を形成する方法、
(2) 金属シートの表面に炭素との親和性が低い金属層(例えば、白金、ロジウム等の貴金属層)を形成する方法、
(3) 金属シートの表面に、金属シートより酸化膜形成元素の含有量が多い金属層を形成する方法、
(4) BN、Al等の反応性の低い離型層をカーボンパンチとメタルシートの間に形成する方法、
などがある。
【0042】
このようにして得られた金属電極/セラミックス接合体は、必要に応じて、金属電極の表面にリード線その他の金属部品をさらに接合しても良い。この場合、金属電極の上に直接、又は、適当なロウ材、中間層等を介して金属部品を接合しても良く、あるいは、金属電極表面の炭化層、窒化層、酸化膜等を除去した後、金属電極の表面に金属部品を接合しても良い。
【0043】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る金属電極/セラミックス接合体の製造方法について説明する。本実施の形態に係る製造方法は、所定の条件を満たす金属シートとセラミックスとを重ね合わせ、金属シートとセラミックスとを加熱する接合工程と、金属シートとを剥離させる剥離工程とを備えている。
【0044】
本実施の形態において、「金属シート」とは、不連続体からなり、かつ、複数個の凹部を有しているものをいう。
金属シートは、具体的には、
(1) 凹部の最大長さdが0.01mm以上1.0mm以下であり、
(2) 凹部のピッチが最大長さdの0.3倍以上100倍以下であるもの、
が好ましい。
なお、本実施の形態において、金属シートの厚さは、特に限定されるものではなく、金属シートを剥離させた後に、セラミックス表面に残る金属層の見かけの厚さが5μm以上300μm以下となるものであればよい。
また、「不連続体」、「凹部」、「最大長さd」等の定義、及び、金属シートの材料として耐酸化性・耐熱性材料が好ましい点は、上述した通りである。
不連続体からなる金属シートとしては、具体的には、金属繊維からなる織物メッシュ、2枚以上のパンチングメタルのような網状シートを積層した複層シート、メタル粒子集合体、短繊維集合体、などがある。
【0045】
接合温度は、0.6Tm以上0.9Tm以下(Tmは、金属シートの融点)が好ましい。接合温度が0.6Tm未満であると、セラミックス表面に連続体からなる金属電極を形成するのが困難となる。一方、接合温度が0.9Tmを超えると、金属シートが完全に溶融し、セラミックス表面に所定の凹凸構造を有する金属電極を形成するのが困難となる。接合時間は、セラミックス表面に、連続体からなり、かつ、所定の凹凸構造を有する金属電極が得られるように、金属シート及びセラミックスの組成、接合温度等に応じて、最適な時間を選択する。
【0046】
また、接合は、金属シート/セラミックス界面を加圧しながら行う。最適な圧力は、金属シート及びセラミック材料の組成、中間層等を用いる場合にはその組成、これらの組み合わせ、接合温度等に応じて異なる。一般に、接合時の圧力が小さすぎる場合には、金属シートとセラミック界面に非接触部が生じやすいため、十分な接合強度は得られない。一方、接合時の圧力が大きくなりすぎると、金属シート及び/又はセラミック材料が変形するおそれがあるので好ましくない。接合時の加圧力は、具体的には、0.5MPa以上100MPa以下が好ましい。
【0047】
所定の条件下で加熱すると、金属シートが拡散接合及び/又は一部溶融することによって、セラミックス表面に、連続体からなり、かつ、所定の凹凸構造を有する金属電極が形成される。金属電極表面には、不連続体からなる金属シートの残留物が残っているので、接合後にこれを剥離させる。
【0048】
このようにして得られた金属電極/セラミックス接合体は、必要に応じて、金属電極の表面にリード線その他の金属部品をさらに接合しても良い。この場合、金属電極の上に直接、又は、適当なロウ材、中間層等を介して金属部品を接合しても良く、あるいは、金属電極表面の炭化層、窒化層、酸化膜等を除去した後、金属電極の表面に金属部品を接合しても良い。
【0049】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る金属電極/セラミックス接合体の製造方法について説明する。本実施の形態に係る製造方法は、複数個の貫通孔が形成されたマスクをセラミックス表面に重ね、媒体を溶剤に溶解させた溶液を前記マスクの上から塗布し、前記溶剤を除去することによって前記セラミックス表面に前記媒体からなる突起を形成する突起形成工程と、前記突起が形成されたセラミックス表面に金属薄膜を形成する薄膜形成工程と、前記突起を除去する除去工程とを備えている。
「媒体」としては、例えば、熱軟化性または溶剤に溶けやすい樹脂やワックス、及び、カーボン等の酸化処理により除去可能な物質が挙げられる。
セラミックス表面にマスクを重ね、その上から溶液を塗布し、乾燥させると、セラミックス表面に所定のパターンで複数個の突起を形成することができる。次に、突起が形成されたセラミックス表面に、スパッタ法、PLD法、蒸着法等を用いて薄膜を形成する。さらに、突起を適当な溶剤で除去し、あるいは酸化除去すれば、セラミックス表面に、連続体からなり、かつ、所定の凹凸構造を有する金属電極を形成することができる。
【0050】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る金属電極/セラミックス接合体の製造方法について説明する。本実施の形態に係る製造方法は、気相法を用いてセラミックス表面に所定の凹凸構造を有する金属電極を形成することを特徴とする。気相法を用いた金属電極の形成方法としては、スパッタ法、PLD(パルスレーザーデポジション)法、蒸着法などがある。
セラミックス表面を所定のパターンを有するマスクで覆い、気相法を用いて金属薄膜を堆積させると、セラミックス表面に所定の凹凸構造を有する金属電極/セラミックス接合体が得られる。
【0051】
次に、本発明に係る金属電極/セラミックス接合体及びその製造方法の作用について説明する。
一般に、金属材料の熱膨張係数は、セラミックス材料より大きいので、これらを高温において接合し、室温まで冷却すると、接合界面には、熱膨張係数差に起因する熱応力が発生する。この熱応力がセラミックス材料の破壊強度を超えると、接合直後に、接合界面近傍には、クラックが発生する。また、熱応力がセラミックス材料の破壊強度を超えない場合であっても、使用中に繰り返し応力(例えば、振動による共振など)が作用すると、相対的に短期間で金属電極が剥離し、セラミックス材料が持つ電気的特性を長期間に渡って発現させるのが困難となる。
一方、金属電極として織物メッシュのような不連続体を用いると、熱応力は、ある程度緩和することができる。しかしながら、不連続体は、接合面積が相対的に小さいので、実用上、十分な接合強度は得られない。
【0052】
これに対し、金属電極に、所定の凹凸構造を設けると、凹部によって接合時の熱応力を緩和することができる。そのため、接合直後におけるクラックの発生や、繰り返し応力が作用した時の耐久性の低下を抑制することができる。
【0053】
また、金属電極/セラミックス接合体を高温酸化雰囲気下で使用する場合、金属電極が酸化すると、金属電極の電気抵抗が増加するので、セラミックス材料が持つ電気的特性を長期にわたって発現させるのが困難となる。そのため、このような場合には、金属電極として、酸化膜形成元素を含む耐熱性・耐酸化性材料を用いるのが好ましい。また、耐久性を向上させるためには、金属電極に含まれる酸化膜形成元素の量は、多いほどよい。
【0054】
しかしながら、酸化膜形成元素を多量に添加すると、一般に、硬化・脆化し、金属材料の加工性が低下するので、圧延による薄板加工が困難になるか、若しくは、製造コストの増大を招く。一方、酸化膜形成元素の添加量が少量であると、加工性は改善されるが、酸化膜形成元素の絶対量が少なくなる。そのため、一定の耐久性を得るためには、金属電極をある程度厚くする必要があり、残留応力の増大を招く。
【0055】
これに対し、金属電極に凹凸構造を設けると、残留応力を増大させることなく、金属電極の見かけの厚さを厚くすることができる。そのため、金属電極の総体積が大きくなる(すなわち、金属電極に含まれる酸化膜形成元素の絶対量が多くなる)ので、耐久性を向上させることができる。しかも、金属電極中の酸化膜形成元素の添加量を多くする必要がないので、加工性を低下させるおそれも少ない。また、薄板化が困難な素材においても、エッチング等による加工により、薄板化した場合と同様な応力緩和が可能となる。
さらに、金属電極に、リード線等の金属部品をロウ付けする場合、ロウ付けを容易化するためには、金属電極には、ある程度の厚さが必要となる。本発明に係る金属電極/セラミックス接合体は、金属電極が所定の凹凸構造を有しているので、ロウ付けの際には、厚いところを介してロウ付けが行われる。そのため、金属部品のロウ付けも極めて容易に行うことができる。
【実施例】
【0056】
(実施例1〜15)
種々の組成を有する金属箔に対し、所定形状の孔を有するマスクを用いてエッチング処理し、所定の形状及び最大長さdを有する貫通孔を所定のピッチで形成した。次に、図3に示すように、機能性セラミックス10の両側を、貫通孔12a、12a…を有する金属箔12、12でサンドイッチ状に挟み、真空炉を用いて、真空中において所定の条件下で熱処理した。
【0057】
(比較例1〜12)
機能性セラミックスの両側を、貫通孔を有しない種々の金属箔でサンドイッチ状に挟み、真空炉を用いて、真空中において、所定の条件下で熱処理した。
【0058】
実施例1〜15及び比較例1〜12で得られた金属電極/セラミックス接合体について、外観検査を行い、剥離の有無を調べた。表1に、その結果を示す。なお、表1には、接合に用いた金属箔の組成、孔形状、接合条件等も併せて示した。貫通孔を有しない金属箔を用いた比較例1〜12の場合、いずれも、金属電極の一部に剥離が認められた。これに対し、貫通孔を有する金属箔を用いた実施例1〜15の場合、いずれも、金属電極の剥離は認められなかった。
【0059】
【表1】

【0060】
(実施例16)
機能性セラミックスの両側に、凹凸構造を有する金属電極を接合した接合モデルを想定し、FEM解析により接合による応力計算を行った。金属電極は、Fe−Cr−Al−Y系耐熱鋼箔とし、接合温度は、1050℃とした。また、凹凸構造は、金属電極の外周部にのみ形成し、凹部は、四角穴(非貫通孔、深さ15μm)又は丸穴(非貫通孔、深さ15μm)とした。また、凹部の最大長さd(直径又は対角線長さ)、凹部のピッチ、及び、金属電極の厚さを変えて応力解析を行った。図4に、その結果を示す。
【0061】
図4より、
(1) 箔厚及び穴ピッチが一定である場合において、穴サイズ(凹部の最大長さd)が大きくなるほど、接合体に発生する最大応力が小さくなること(図4(a))、
(2) 箔厚及び穴サイズが一定である場合において、穴ピッチが大きくなるほど、接合体に発生する最大応力が小さくなること(図4(b))、及び、
(3) 穴サイズ及び穴ピッチが一定である場合において、箔厚が薄くなるほど、接合体に発生する最大応力が小さくなること(図4(c))、
がわかる。
【0062】
(実施例17)
厚さ50μmの穴開き及び穴無しの2種類のメタルシートを用いて、1000℃×390kg/cm(38MPa)×10分の熱処理を実施した。穴無しのメタルシートを接合したサンプルは、接合後、セラミック内部で破壊し、2つに分離するような現象が認められた。一方、穴開きのメタルシートを用いた金属電極/セラミックス接合体においては、上記のような剥離現象は認められず、穴開きメタルを用いると、熱応力の緩和効果が大きいことがわかった。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る金属電極/セラミックス接合体は、600℃以上の高温酸化雰囲気下で使用される各種構造用部品、及び、各種機能性部品として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】金属電極の見かけの厚さと実厚さの関係を示すための金属電極/セラミックス接合体の断面模式図である。
【図2】最大長さd及びピッチの関係を示すための金属電極表面の拡大平面図である。
【図3】本発明に係る金属電極/セラミックス接合体の概略構成図である。
【図4】機能性セラミックスの両側に、各種の凹凸構造を有する金属電極を温度1050℃で接合した接合モデルについて行ったFEMによる応力解析の結果であって、図4(a)は、穴サイズと最大応力との関係、図4(b)は、穴ピッチと最大応力との関係、図4(c)は、箔厚と最大応力との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスと、
該セラミックスの少なくとも一方の表面に接合された金属電極とを備え、
前記金属電極は、連続体からなり、かつ、複数個の凹部を有している
金属電極/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記金属電極は、その見かけの厚さが、5μm以上300μm以下である請求項1に記載の金属電極/セラミックス接合体。
【請求項3】
前記凹部の最大長さdが、0.01mm以上1.0mm以下である請求項1又は2に記載の金属電極/セラミックス接合体。
【請求項4】
前記凹部のピッチが、前記凹部の最大長さdの0.3倍以上100倍以下である請求項1から3までのいずれかに記載の金属電極/セラミックス接合体。
【請求項5】
前記凹部の形状は、菱形、四角形、多角形、三角形、円形、楕円形又は丸形である請求項1から4までのいずれかに記載の金属電極/セラミックス接合体。
【請求項6】
前記金属電極は、前記セラミックスとの接合面が平坦であり、前記セラミックスと接合されていない非接合面に前記凹部を有する請求項1から5までのいずれかに記載の金属電極/セラミックス接合体。
【請求項7】
前記凹部は、規則配列している請求項1から6までのいずれかに記載の金属電極/セラミックス接合体。
【請求項8】
前記金属電極は、耐酸化性・耐熱材料からなる請求項1から7までのいずれかに記載の金属電極/セラミックス接合体。
【請求項9】
連続体からなり、かつ、複数個の凹部を有している金属シートとセラミックスとを重ね合わせ、前記金属シートと前記セラミックスとを加熱処理及び/又は電圧印加する接合工程を備えた金属電極/セラミックス接合体の製造方法。
【請求項10】
不連続体からなり、複数個の凹部を有している金属シートとセラミックスとを重ね合わせ、前記金属シートと前記セラミックスとを加熱する接合工程と、
前記金属シートを剥離させる剥離工程とを備えた金属電極/セラミックス接合体の製造方法。
【請求項11】
前記接合工程は、0.5MPa以上100MPa以下の加圧下において、前記金属シートと前記セラミックスとを接合させるものである請求項9又は10に記載の金属電極/セラミック接合体の製造方法。
【請求項12】
複数個の貫通孔が形成されたマスクをセラミックス表面に重ね、媒体を溶剤に溶解させた溶液を前記マスクの上から塗布し、前記溶剤を除去することによって前記セラミックス表面に前記媒体からなる突起を形成する突起形成工程と、
前記突起が形成されたセラミックス表面に金属薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記突起を除去する除去工程とを備えた金属電極/セラミックス接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−22893(P2007−22893A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211861(P2005−211861)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】