説明

針状繊維固定化材

【課題】有害なアスベスト等の針状繊維を飛散させることなく完全、安全、簡便、安価に固定化できる針状繊維固定化材及び該固定化方法を提供すること。また、本発明における針状繊維の固定化方法により得られたものが高い難燃性、耐熱性を有し、有価物である耐熱材を提供すること。
【解決手段】ポリ塩化アルミニウム、「樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂」及び「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」を配合してなることを特徴とする針状繊維固定化材、及び、その針状繊維固定化材を用いた、針状繊維の固定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は針状繊維固定化材に関し、該針状繊維固定化材を用いた建材の安全化工法及び解体撤去方法に関し、また、該針状繊維固定化材を用いた針状繊維の固定化方法によって得られる耐熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物を無害化して処理することの重要性が高まってきている。特に、悪魔の鉱物、静かな時限爆弾と呼ばれて恐れられているアスベスト(クリソタイル、クロシドライト等の各種石綿類)、合成ゾノトライト、ガラス繊維等の針状無機化合物(無機ファイバー)の処理は、廃棄処理中に飛散し易いこと、毒性を発揮する針状形状を、毒性を発揮しないような形状に変形することが難しいこと等から、その廃棄処理に関して更なる進展が望まれている。
【0003】
特に、アスベスト廃棄物は地球規模の問題であり、早急に解決しなければ後世に禍根を残すことになるといわれており、日本においても、年間100万トンの廃棄処理量が予測されている。しかしながら、飛散性のアスベスト廃棄物の処理に関し現在知られているものとして、1500℃以上の高温でプラズマ溶融スラグ化技術、ハロゲン化合物を使用した700℃での無害化技術等があるが、膨大なエネルギー消費問題を抱えていることから実用化には至っていない。また従前の有害物反応を単に転用しているに過ぎず、コストパフォーマンスや安全性に問題点があった(特許文献1〜3)。
【0004】
また、アスベストのように中皮腫等の要因とはならないが、アスベストの代替品である合成ゾノトライト等も、結合性に劣り、表面層繊維が容易に離脱し、離脱したものが浮遊し、それを吸引する恐れが高く、近い将来に健康被害が発生していることが発覚する可能性が高い。そのため、廃棄処理の問題点に関しても改良技術が今から望まれている。
【0005】
一方、ポリ塩化アルミニウムは、主に水質浄化剤として用いられており、針状繊維を固定化する用途には殆ど用いられていない。また、ポリ塩化アルミニウムを、既存の建築物や建材に付与し、該針状繊維を固定化する方法については殆ど知られていない。
【0006】
また、特許文献4及び特許文献5には、ポリ塩化アルミニウムと土壌とを含有する混練物を焼成してなる水質浄化剤が記載されているが、耐熱材等の「水質浄化とは関係のない有価物」が得られるというものではなく、また、特許文献4及び特許文献5の技術は、廃建材等の廃棄物の処理とは全く関係がない技術であった。
【0007】
【特許文献1】特開平7−171536号公報
【特許文献2】特開2005−279589号公報
【特許文献3】特開2007−105552号公報
【特許文献4】特開平6−304472号公報
【特許文献5】特開2000−325781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、有害なアスベスト等の針状繊維を、飛散させることなく、完全、安全、簡便、安価に固定化できる針状繊維固定化材及び針状繊維の固定化方法を提供することにある。更に、本発明の課題は、針状繊維の飛散、表出等を防止し、針状繊維を含有する建材を用いた建築物を安全に使用できるようにする建材の安全化工法を提供することにあり、また、針状繊維を固定化させ、針状繊維を含有する建材を安全に解体したり撤去したりする解体撤去方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の針状繊維の固定化方法により得られたものを一定の処理を行うことにより、優れた耐熱性を有する有価物である耐熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ポリ塩化アルミニウム、「樹脂エマルジョン若しくは水溶性樹脂」及び「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」を配合することによって、極めて良好に針状繊維を固定化できることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明における針状繊維の固定化方法により得られたものが高い難燃性能を発揮することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ポリ塩化アルミニウム、「樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂」及び「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」を配合してなることを特徴とする針状繊維固定化材を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記の針状繊維固定化材を針状繊維中に浸透させ固定化することを特徴とする針状繊維の固定化方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、上記の針状繊維固定化材を、既存の建築物に使用されている針状繊維を含有する建材に付与して該針状繊維を固定化することを特徴とする建材の安全化工法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記の針状繊維固定化材を、針状繊維を含む建材に付与して該針状繊維を固定化した後、該建材又は該建材が使用されている建築物を解体することを特徴とする解体撤去方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記の針状繊維の固定化方法により得られたものを加熱処理したものであり、実質的に針状繊維を含有せず、アルミニウム、「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウム」及び炭素質物を含有することを特徴とする耐熱材を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記問題点を解消し、上記課題を解決し、有害なアスベスト等の針状繊維を飛散させることなく、完全、安全、簡便、安価に固定化できる針状繊維固定化材及び針状繊維の固定化方法を提供することができる。
【0017】
すなわち、本発明の針状繊維固定化材や針状繊維の固定化方法を用いることにより、既存の建築物に使用されている「針状繊維を含有する建材」からの針状繊維の飛散、針状繊維の表出等を防止し、針状繊維を含有する建材を用いた建築物を、今後安全に使用できるようにすることが可能である。また、本発明の針状繊維固定化材を用い針状繊維を固定化して得られたものは、難燃性が更に向上する。言い換えれば、本発明の針状繊維固定化材が固化したものは、樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂を使用しているのにも関わらず高い難燃性を有する。そして、上記効果の結果として、建築物を今後安全に使用できる、建材の安全化工法を提供することが可能である。
【0018】
また、本発明によれば、針状繊維を固定化させ、針状繊維の飛散を未然に防止し、針状繊維を含有する建材やそれを含む建築物を、安全に解体する解体撤去方法を提供することができる。また、解体した建材の表面に弾性体皮膜が形成された状態で撤去できるので撤去が容易であり安全である。すなわち、作業者に安全な廃棄物の処理方法を提供できる。また、本発明の上記建材の安全化工法によって針状繊維を固定化した建築物が耐用年限を迎えて解体される際に、針状繊維が固定化されて針状繊維の飛散が未然に防止された状態で、安全に建材を解体撤去できるようにしておくことができる。
【0019】
また、本発明の針状繊維の固定化方法により得られたものに一定の処理を行うことにより、優れた耐熱性を有する有価物である耐熱材を提供することができ、廃棄物の有効利用ができるのみならず、安価な耐熱材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の具体的形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲内で任意に変形することができる。
【0021】
本発明の針状繊維固定化材は、少なくとも、ポリ塩化アルミニウム、「樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂」及び「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」を配合してなることを特徴とする。
【0022】
<ポリ塩化アルミニウム>
本発明における「ポリ塩化アルミニウム」とは、[Al(OH)Cl6−n(1≦n≦5)で表わされる物質で、OHが橋かけしたアルミニウムの多核錯体を主成分とするもの、又はその水溶液をいう。水酸化アルミニウムを塩酸に溶解させ、加圧下又は要すれば溶解助剤を加え、これに重合促進剤として硫酸基を添加して反応させたものが好ましい。溶解助剤や重合促進剤は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定はされない。また、上記式中、mは10以下が好ましい。
【0023】
本発明における「ポリ塩化アルミニウム」である「固形のポリ塩化アルミニウム」又は「ポリ塩化アルミニウムの水溶液」は、通常「PAC」と称されるので、以下、本発明でも、それらを総称して、「PAC」と略記する場合がある。本発明には、「ポリ塩化アルミニウム」又は「PAC」と称して、水の浄化用又は廃水処理用に一般に市販されているものも好適に使用できる。また、PACとしては、水溶液として液体状のもの、固体状のものの何れも使用することができる。本発明においては、PAC中のアルミニウム(Al)をAlに換算した濃度が10.0〜11.0質量%のもの(例えば、「JIS K1475」に記載のもの)等が好適に用いられる。
【0024】
<樹脂エマルジョン、水溶性樹脂>
本発明の針状繊維固定化材は、「樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂」が配合されることでペースト状になり、針状繊維を固定化する際の、塗膜性、固定化性能、弾性体皮膜の成型性等が向上する。配合された樹脂エマルジョンや水溶性樹脂は、上記のPACと相互作用することによりペースト状になるので、針状繊維固定化材が針状繊維表面で滞留し、針状繊維に浸透し易くなる。また、「樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂」が配合されることで、針状繊維に付与後、針状繊維の集合体の表面に弾性体皮膜が形成され、それにより完全に針状繊維を固定化でき、針状繊維の表出や飛散を効果的に防止でき、建材の安全化ができ、建材又は該建材が使用されている建築物を安全に解体したり撤去したりできる。また、より多くの対象物(例えば、壁であったり天井であったり)や用途に用いることができるようになる。
【0025】
また、本発明の針状繊維固定化材を用い針状繊維を固定化して得られたものは、針状繊維を含有する建材等がたとえ燃性を有していても、その建材の難燃性を向上させることができるが、樹脂エマルジョンや水溶性樹脂を配合させても、意外なことにその難燃性の向上を鈍らせることがない。本発明は、樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂が配合されていても、固化、硬化した部分に十分な難燃性があることを見出してなされた。
【0026】
また、後述するように、本発明の針状繊維固定化材を用いて針状繊維を固定化したものを加熱処理したものは優れた耐熱材となるが、本発明の針状繊維固定化材が樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂を配合することで、加熱処理後のその耐熱材に炭素質物を含有させることができ、更に耐熱性に優れた耐熱材を得ることができる。
【0027】
樹脂エマルジョンとしては特に限定はないが、具体的には、例えば、(メタ)アクリル系樹脂エマルジョン、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、エチレン酢酸ビニル系樹脂(以下、「EVA」と略記する場合がある)エマルジョン、スチレン系樹脂エマルジョン等のビニル系樹脂エマルジョン;ウレタン樹脂系エマルジョン;エポキシ樹脂系エマルジョン等が挙げられる。これらの中でも、酢酸ビニル系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂等のビニル系樹脂エマルジョンが、コストパフォーマンスが良い、ゴム弾性が出易く良好な弾性体皮膜が得られる等の点で好ましい。
【0028】
水溶性樹脂は、公知のものを任意に用いることができるが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの加水分解物等の合成水溶性樹脂;でんぷん、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルでんぷん等の水溶性多糖類等が、安価である、操作性が良い、人体に安全である、建築物を解体する際に地面に浸み込んでも比較的害が少ない等の点で好ましい。中でも、ポリビニルアルコール又はでんぷんが、上記点から特に好ましい。ポリビニルアルコールは、酢酸ビニル等と共重合されていてもよく、すなわち酢酸ビニルのケン化度には水溶性が担保される限り限定はない。これらの樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂は、1種類のみを用いても2種類以上を混合して用いてもよい。また、樹脂エマルジョンと水溶性樹脂の両方を配合してもよい。
【0029】
<ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物>
本発明における「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」とは、具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム(重そう)、炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム(消石灰)又は水酸化カリウムである。何れも、前述したポリ塩化アルミニウムと相互作用をして本発明の針状繊維固定化材を生成させる。これらは一部でも水に溶解すればよい。従って、配合後に全てが完全に水に溶解する必要はなく、不溶なものが一部分散した状態であってもよい。
【0030】
上記「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」のうち、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム又は水酸化ナトリウムを用いると、前述したポリ塩化アルミニウムと相互作用して、「ペースト状の針状繊維固定化材」が生成され、前述した樹脂エマルジョンとの相溶性が良くなる、針状繊維固定化材が針状繊維中へ浸透し易くなるのでより好ましい。
【0031】
また、炭酸水素ナトリウムを用いると、前述するポリ塩化アルミニウムと反応して、「気泡を含んだペースト状の針状繊維固定化材」が生成され、難燃性が向上するため特に好ましい。「炭酸水素ナトリウムとポリ塩化アルミニウムとを反応等の相互作用をさせて得られる針状繊維固定化材」は気泡が発生するので、それによって針状繊維固定化方法により得られたものの難燃性が更に向上する。また、本発明の針状繊維固定化材を針状繊維に付与して得られたものを加熱処理したものは、独立気泡により熱伝導が抑制されるため、より耐熱性が向上した耐熱材が得られる。
【0032】
本発明の針状繊維固定化材には、更に、ホウ砂を配合させることも好ましい。「ホウ砂」は、化学式Na・10HO又はNa・5HOで示されるホウ酸塩鉱物である。本発明には通常市販されているホウ砂を好適に用いることができる。ホウ砂は粉末で配合させてもよいが、低温では溶解し難いので、好ましくは40℃以上、より好ましくは55℃〜97℃、特に好ましくは70℃〜95℃の温度範囲となるように加熱し溶解させてから配合してもよい。ホウ砂は一部が分散状態でもよいが全てを溶解させることが好ましい。
【0033】
ホウ砂は、PACと共に用いることによって、接着性、難燃性、後述する弾性体皮膜の成型性、乾燥性等を効果的に高めることができる。難燃性の向上は、PACを他の難燃化剤と組み合わせた場合より明確に高く、単にPACとホウ砂の相加的な効果だけでなく、PACに配位した水とホウ砂(の結晶水)の作用等、PACとホウ砂間の何らかの相互作用によって難燃性の向上がもたらされているものと考えられる。
【0034】
<水>
本発明の針状繊維固定化材には、更に「水」が配合されてもよい。水は、PAC中に含有されるが、かかる水以外に外部から水を添加して、最適濃度や最適粘度に適宜調整することができる。水を外部から加える場合、かかる水としては、前記した「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」を、溶解及び/又は分散させるために用いた水でもよく、針状繊維固定化材に配合される上記各成分を調製するために用いた水でもよい。
【0035】
<針状繊維>
本発明における針状繊維とは、繊維1本の形状が針状であるものをいう。例えば、クリソタイル(温石綿、白石綿)等の蛇紋石系、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライト等の角閃石系等のアスベスト;ウオラストナイト、ゾノトライト等のケイ酸カルシウム;ガラスウール;ロックウール;炭素繊維;アルミナ繊維;合成ゾノトライト;ガラス繊維等が挙げられる。これらのうち、アスベストは、多くの建材等に使用されている点、特に毒性が強い点、本発明の針状繊維固定化材の前記効果を発揮できる点等から、本発明の針状繊維固定化材の適用対象物として特に好ましい。
【0036】
<針状繊維固定化材>
本発明の針状繊維固定化材は、ポリ塩化アルミニウム、「樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂」及び「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」を配合してなることを特徴とし、これら各成分の詳細は上記の通りである。本発明の「針状繊維固定化材」とは、対象物である針状繊維を固定化する物質をいうが、ここで「針状繊維を固定化する」とは、針状繊維が針状繊維固定化材により被覆され、被覆された表面に針状繊維が存在しないことをいう。従って、針状繊維の固定化により針状繊維の表出と飛散を防止することができる。
【0037】
「針状繊維固定化材」は、上記各成分を配合してなるものであって、各成分の単なる混合物を意味することもあれば、各成分の化学反応等の相互作用が完全に終了した後の最終物質を意味することもあれば、各成分が反応等の相互作用の途中にあるものを意味することもある。すなわち、本発明の「針状繊維固定化材」は、単なる混合物、化学反応等の相互作用が終了した後の最終物質、又は、各成分が反応等の相互作用途中にあるものを意味する。各成分を配合した直後に針状繊維に付与し、その後徐々に化学反応等の相互作用が起こるようにしてもよいし、ある程度化学反応等の相互作用が進みペースト状になったものを針状繊維に付与してもよい。また、針状繊維に付与されてから、化学反応等の相互作用を実質的に完全に進ませ固化するようにしてもよい。
【0038】
<「針状繊維固定化材」における各成分の配合量>
本発明の「針状繊維固定化材」におけるアルミニウム(Al)をAlに換算した濃度が10質量%のポリ塩化アルミニウム(PAC)(例えば、「JIS K1475」に記載のもの)としての配合量は、針状繊維固定化材全体に対して、10〜90質量%が好ましく、20〜75質量%がより好ましく、特に好ましくは30〜60質量%である。ポリ塩化アルミニウムが多過ぎると、相対的に樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂の量が減少して造膜性が劣る場合があり、少な過ぎると針状繊維の無害化が不十分となり本発明の前記効果が減少する場合がある。またポリ塩化アルミニウムが多過ぎても少な過ぎても、粘度が適当の範囲に入らずペースト状にならない、針状繊維に浸透しにくい、針状繊維固定化材の造膜性、取り扱い性等の物性が劣る等の場合がある。
【0039】
本発明の「針状繊維固定化材」における樹脂エマルジョンや水溶性樹脂の配合量は、針状繊維固定化材全体に対して樹脂(固形分)換算で、5〜85質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましく、40〜60質量%が特に好ましい。樹脂エマルジョンや水溶性樹脂が多過ぎると、針状繊維の固定化処理方法により得られたものの難燃性が不十分になる場合があり、一方、少な過ぎると、針状繊維固定化材の粘度が適当な範囲に入らず針状繊維の固定化方法の操作性が悪化する、建材等への付与量が不十分になる、硬化速度(弾性体皮膜の生成速度等)が遅くなる、固定化が十分にできず針状粒子が飛散したり表出したりしたままになる、加熱処理後の耐熱材の耐熱性が不十分になる、アスベスト等の針状繊維の再湿が懸念される等の場合がある。
【0040】
本発明の「針状繊維固定化材」における「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」の配合量は、針状繊維固定化材全体に対して、0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1〜15質量部が特に好ましい。「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」が多過ぎると、針状繊維固定化材を針状繊維に付与する前に固体状又はゲル状になってしまう場合がある。一方、少な過ぎると、ペースト状にならず建材等への付与量が不十分になる、固定化が十分にできず針状粒子が飛散する状態や表出したままになる、針状繊維への浸透やその後の膨潤が不十分となる、硬化速度(弾性体皮膜の生成速度等)が遅くなる、難燃性が低下する、PACによる酸性が強いまま残るので建材に付与した時に鉄骨が腐食する等の場合がある。クロシドライトはアルカリ性にすると、浸透、軟化、先端が丸くなる傾向が強いので、上記アルカリ成分の配合量は多い(例えば、1質量%以上)ことが好ましい。
【0041】
<針状繊維固定化材の調製方法>
本発明の「針状繊維固定化材」を調製する際の配合手順としては、例えば、以下の通りである。ただし、後記する手順は一例であり、本発明はその具体的手順には限定されない。
【0042】
すなわち、「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」に、水又は熱水を適宜加えて良く攪拌した後、ポリ塩化アルミニウム(PAC)を更に配合し、針状繊維固定化材の前駆体を得る。
【0043】
上記針状繊維固定化材の前駆体に、樹脂エマルジョン及び/又は水溶性樹脂を加え攪拌すると本発明の針状繊維固定化材が得られる。本発明の針状繊維固定化材は、含有する各成分を混合攪拌することで容易に調製することができる。ここで、ポリ塩化アルミニウム(PAC)は、針状繊維固定化材の前駆体調製時に全量加えてもよく、針状繊維固定化材の前駆体調製時及び針状繊維固定化材調製時に分けて加えてもよい。ポリ塩化アルミニウム(PAC)を加える際、一気に加えると炭酸ガス(CO)の発泡が急激に進行して容器外に吹きこぼれる場合があるため、徐々に複数回に分けて加えることが好ましい。また、攪拌操作は穏やかに行うことが好ましい。
【0044】
<針状繊維の固定化方法>
本発明の針状繊維の固定化方法は、上記の針状繊維固定化材を針状繊維中に浸透させ固定化することを特徴とする。上記の針状繊維固定化材を針状繊維に付与し、それを固定化する際に、針状繊維固定化材は針状繊維に浸透する。本発明の針状繊維固定材は、針状繊維同士の絡み合いの空間に浸み込むことは勿論、針状繊維自体にも浸透することが特長である。本発明の針状繊維の固定化方法は、針状繊維固定化材が針状繊維中に浸透するように固定化されれば特にその方法に限定はないが、例えば以下の方法がある。
【0045】
すなわち、本発明の針状繊維固定化材を、針状繊維施工部位に吹き付けると、該針状繊維固定化材が針状繊維に浸透し、例えば、針状繊維が膨潤、発泡しながら体積が増大し、針状繊維が軟化したり、先端が丸くなったりして無害化する。針状繊維固定化材を吹き付ける方法には特に制限はなく常法に従い行うことができる。例えば、エアレススプレー、エアスプレー、スプレーガン等を用いることができるが、針状繊維固定化材の経済性、操作の簡易性、安全性等の点で、エアレススプレーを用いることが好ましい。
【0046】
発泡及び/又は膨潤が穏やかになるまで放置することが好ましい。この針状繊維の発泡及び/又は膨潤により、針状繊維の先端針部が鈍角化される(丸くなる)。このときの針状繊維は、針状繊維固定化材を吹き付ける前の約3〜10倍の体積になるようにすることが好ましい。
【0047】
発泡が穏やかになったら、針状繊維固定化材を吹き付けた表面をプラスチックコテ等で平坦になるように押さえることが好ましい。この操作で更に針状繊維固定化材が針状繊維の深部にまで浸透するよう促すことができる。吹き付けた針状繊維固定化材が硬化するまで自然放置させる。該自然放置により針状繊維が完全に固定化される。使用する針状繊維固定化材の種類により乾燥時間は適宜調節すればよいが、6時間以上が好ましく、10〜30時間が特に好ましい。自然乾燥させる時間が短過ぎる場合、すなわち本発明の針状繊維固定化材と針状繊維との反応時間が短い場合は針状繊維の先端針部が残存し本発明の効果が不十分である、針状繊維固定化材の粘着性残存により表面に不純物が付着し易くなる等の場合がある。
【0048】
こうして、針状繊維の集合体の表面に弾性体皮膜が形成され針状繊維が完全に固定化される。針状繊維が本発明の針状繊維固定化材で完全に被覆されるので、針状繊維の表出や飛散を防止できる状態にできる。
【0049】
上記針状繊維の固定化方法により得られたものは、その(当然難燃性である)針状繊維部分以外の部分(本発明の針状繊維固定化材が硬化した部分)も難燃性を有する。本発明の針状繊維固定化材は、適当な粘度や良好な塗布性を与えるために、樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂を配合してなるが、かかる樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂が配合されていても、十分な難燃性を有することを特徴とする。例えば、本発明はそのような難燃性を示すものに限定はされないが、連続耐熱レベル450℃が可能である。本発明は、樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂が配合されていても十分な難燃性を有する。
【0050】
<建材の安全化工法>
本発明の針状繊維固定化材は、既存の建築物に使用されている針状繊維を含有する建材に付与し、該針状繊維を固定化する「建材の安全化工法」に好適に用いられる。すなわち、上記針状繊維固定化材は、針状繊維を含有する建材に付与し、その建材が用いられている既存の建築物を、その後安全に使用し続けることを可能にする。「安全に」とは、針状繊維の表出や飛散を防止し、また、該建材の難燃性を更に向上させることをもいう。
【0051】
本発明の針状繊維固定化材を、針状繊維を含有する建材に付与することによって、上記建材の表面に弾性体皮膜を形成させることができる。弾性体皮膜の弾性率は、明らかに脆くなく硬くない状態からゴム状の弾性を有するまでの範囲である。弾性体皮膜が形成されることによって、針状繊維を含有する建材をより安全に使用できるようになる。本発明の針状繊維固定化材の建材への付与は前記したようにスプレー等により行うことが好ましい。
【0052】
また、本発明の針状繊維固定化材の硬化したものは、樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂を使用しているにも関わらず、不燃性であり、連続耐熱レベル約450℃が可能である。
【0053】
また、かかる「建材の安全化工法」を施した建築物は、耐用年限を迎えて解体される際に、針状繊維が固定化されて針状繊維の飛散が未然に防止された状態で、安全に建材を解体したり撤去したりできるようになっている。
【0054】
<解体撤去方法>
本発明の針状繊維固定化材を、針状繊維を含む建材に付与して該針状繊維を固定化した後、該建材又は該建材が使用されている建築物を解体する解体撤去方法は、解体中に針状繊維が飛散しないため極めて安全性に優れている。更に、本発明の針状繊維固定化材を、針状繊維を含む建材に付与し、該建材の表面に弾性体皮膜を形成させることにより該針状繊維を固定化した後、該建材又は該建材が使用されている建築物を解体し、該建材の表面に弾性体皮膜が形成された状態で撤去する上記解体撤去方法は、建材の表面に弾性体皮膜が形成された状態になっているため、針状繊維の表出や飛散がなく人体に安全であることに加えて、建材がある程度の大きさのかたまりに解体できるため、建材の撤去、トラック等への積み込み、処理場等への運搬等が極めて容易になる。前記したように、「樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂」を配合することによって、建材の表面に弾性体皮膜が形成されるようになる。
【0055】
本発明の建材の解体撤去方法は、上述した本発明の針状繊維の固定化方法を用いることを特徴とする。本発明の針状繊維固定化材を、建材に前記したスプレー等により付与し、その後に建材又は該建材が使用されている建築物を解体し撤去する。本発明の建材の解体撤去方法は主に以下の2種類の方法が挙げられる。
【0056】
本発明の建材の解体撤去方法の好ましい例としては、針状繊維を含有する建材又は該建材が使用されている建築物を解体する前に、本発明の針状繊維固定化方法を用いる方法である。建材を解体する前に本発明の針状繊維固定化方法を用いることにより、建材解体時には針状繊維は飛散せず、解体作業者が針状繊維の影響を受けることがない。また、建材の表面に弾性体皮膜が形成された状態で解体ができ、針状繊維の表出や飛散がないことに加えて、処理場等への運搬が極めて容易になる。
【0057】
また、本発明の建材の解体撤去方法の他の好ましい例としては、本発明の針状繊維固定化方法を用いて針状繊維を固定化させた建材(前記安全化工法の施された建材)を、該建材が使用されている建築物の耐用期間終了まで使用した後に解体する方法である。針状繊維が固定化された建材であれば、建材の使用期間中に針状繊維の表出や飛散は防止される。更に建材の耐用期間終了後に解体する際においても、針状繊維が固定化されているので、針状繊維が飛散せず、また針状繊維が被覆された表面に存在しないので、解体作業者や周辺住民への針状繊維による健康被害を与えることなく解体することができる。
【0058】
解体後は、何れの工法を用いても、針状繊維が固定化されているので針状繊維による悪影響を受けることはない。また、建材の表面に弾性体皮膜が形成された状態のまま、効率よく処理場等への運搬が可能になる。解体後は常法に従って廃棄してもよいが、解体後に、該建材を加熱処理する処理場等まで移動し、後述の加熱処理を行うことが好ましい。
【0059】
<耐熱材>
本発明の耐熱材は、上記の針状繊維の固定化方法により得られたものを加熱処理したものであり、実質的に針状繊維を含有せず、アルミニウム、「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウム」及び炭素質物を含有することを特徴とする。なお、「針状繊維の固定化方法により得られたもの」は、上記加熱処理前に粉砕等をしてもよい。
【0060】
本発明の耐熱材においては、針状繊維は短く切断されて針状繊維ではない状態にすることが可能である。前記針状繊維の固定化方法により針状繊維の先端針部が鈍角化されており(丸くなっており)、実質的に先端部が尖った針状繊維を含有しないようにできるが、更に、かかる加熱処理によって、針状繊維を短く切断することができる。本発明の耐熱材に含有されるアルミニウム、「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウム」及び炭素質物は、上記した「針状繊維固定化材」由来であり、その具体的組成及び具体的構造は特に限定されない。
【0061】
上記炭素質物の炭素源は、前記した樹脂エマルジョン及び/又は水溶性樹脂であるが、建材に含有される有機物であってもよい。該耐熱材に炭素質物が含有される場合、該炭素質物は、炭素化により黒鉛(グラファイト)構造ができていても、その中間段階である炭素前駆体でもよく、無定形炭素であってもよい。ポリ塩化アルミニウムが配合されているため、不活性気体や真空中での加熱処理では勿論のこと、空気、酸素等の活性気体中での加熱処理でも加熱処理後の耐熱材に炭素質物が残存する。
【0062】
加熱処理により得られた本発明の耐熱材の体積平均直径は、0.1μm〜1mmが好ましく、0.5μm〜0.5mmが更に好ましく、1μm〜100μmが特に好ましい。加熱処理により得られた直後の耐熱材の体積平均直径が大きい場合は、上記範囲内になるように粉砕してもよい。また予め粉砕した後に加熱処理をして、上記範囲内の耐熱材を得てもよい。耐熱材の体積平均直径が大き過ぎる場合は、その後に成型し難い等の場合がある。
【0063】
本発明の耐熱材は、上記した針状繊維の固定化方法により得られたものを加熱処理して得られる。加熱処理する方法は加熱炉中に静置して加熱溶融する方法、火炎を直接接炎する方法、連続焼成炉に供給する方法、スライダー落下方式による方法等が挙げられる。タワー型生成炉を用いて炉内に連続的に落下する方式の場合、連続的に短時間で粒径の揃った耐熱材が得られる点で好ましい。また、ハンドバーナー等によって、火炎を直接接炎する方法も熱効率が良い等の点で好ましい。火炎を直接接炎する方法における燃焼ガスは特に限定はないが、水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、一酸化炭素、都市ガス等が好ましい。
【0064】
加熱処理する際の炉内温度又は炉内設定温度は600℃以上が好ましい。より好ましくは650℃〜1300℃であり、特に好ましくは700℃〜1200℃、更に好ましくは750℃〜1000℃である。炉内温度又は炉内設定温度が低過ぎると、耐熱材が生成しない場合がある。一方、高過ぎる場合は、不必要であり、コストアップになる場合がある。
【0065】
加熱処理における対象物(針状繊維の固定化方法により得られたもの)の温度は、上記炉内温度又は炉内設定温度にすると、通常、定常状態で750℃以上となるが、800℃〜1100℃の範囲になるようにすることが特に好ましい。針状繊維の固定化方法により得られたものに樹脂エマルジョンが共存すると、対象物の温度は炉内温度又は炉内設定温度より高くなり易く、加熱の際のコストダウンが可能である。本発明では、炉内温度より加熱処理における対象物の温度が高くなるようにできるので、針状繊維固定化材の組成をそのように調整することが好ましい。
【0066】
加熱処理雰囲気は特に限定はなく、真空中;窒素、アルゴン等の不活性気体中;空気、酸素等の活性気体中等の何れでもよい。本発明においては、加熱処理を空気中で行っても、針状繊維の固定化方法により得られたものに樹脂エマルジョンが含有されている場合、有機化合物が全て燃えて、有機化合物中の炭素が全て二酸化炭素として消失してしまうことがなく、炭素質物として耐熱材中に残存させることが好ましい。加熱処理して得られたものに炭素質物が残存すると、本発明の耐熱材の耐熱性が更に向上する。
【0067】
加熱処理の時間としては、特に限定はないが、加熱炉中に静置して加熱処理する方法においては、1分〜40分が好ましく、2分〜20分が更に好ましい。また、炉内で火炎を直接接炎する方法においては、1分〜20分が好ましく、2分〜10分が更に好ましい。
【0068】
本発明の耐熱材は、難燃性、耐熱性等に優れている。特に、耐熱材中に含有されるアルミニウム酸化物、炭素質物等は耐熱性を向上させる。
【0069】
<作用・原理>
本発明において、針状繊維を完全に無害固定化処理することができる作用・原理は明らかではないが、以下のことが考えられる。ただし本発明は、以下の作用・原理の範囲に限定されるわけではない。すなわち、針状繊維固定化材がポリ塩化アルミニウムを含有することにより、針状繊維の繊維先端針部を鈍角化し、針状繊維が針状繊維固定化材に被覆され固定化される。更に針状繊維固定化材が、ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物を配合してなることにより、酸性のPACとアルカリ性物質の相互作用によって粘性が上がりペースト状になり、針状繊維への造膜性が向上する。また、針状繊維固定化材と針状繊維とが反応し易くなり、針状繊維中に浸透させることができ、針状繊維を無害化し、完全に固定化できるようになると考えられる。
【0070】
また、針状繊維固定化材が樹脂エマルジョンを含有することにより適当な粘度となるので、より好適に針状繊維中に浸透させることができ、針状繊維を完全に固定化できると考えられる。また、ポリ塩化アルミニウムの共存によって、樹脂エマルジョン中の樹脂等の有機物は、加熱処理後に炭素質物となって耐熱材中に残存するものと考えられる。
【実施例】
【0071】
本発明を、より具体的な実施例、比較例で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中に記載の「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。また、使用する物質が結晶であり結晶水を含む場合は、その結晶水を除いた質量で示してある。
【0072】
製造例1
<針状繊維固定化材A>
25%炭酸ナトリウム水溶液27部及びPAC(王子製紙社製、JIS K1475の条件を満たすもの)73部を3分間攪拌混合すると発泡しながらペースト状になった。得られたペースト状組成物10部に、上記のPAC42部及び酢酸ビニルエマルジョン(中部サイデン化学社製、マルカボンド153、固形分として42%)48部を加え、針状繊維固定化材Aとした。
【0073】
製造例2
<針状繊維固定化材B>
製造例1において酢酸ビニルエマルジョンに代えて、EVAエマルジョン(電気化学社製、EVA65、固形分として65%)を固形分として同量用いた以外は製造例1と同様にして配合し針状繊維固定化材Bを得た。
【0074】
製造例3
<針状繊維固定化材C>
50%炭酸ナトリウム水溶液27部及びPAC(王子製紙社製、JIS K1475の条件を満たすもの)73部を3分間攪拌混合し、常温乾燥させると粉末状になった。得られた粉末状組成物48部に、アクリル共重合体(サイペイント社製、SUPRA、固形分として32%)52部を加え、針状繊維固定化材Cとした。
【0075】
製造例4
<針状繊維固定化材D>
25%炭酸ナトリウム水溶液7部及びPAC(王子製紙社製、JIS K1475の条件を満たすもの)93部を配合すると液状組成物dが得られた。得られた液状組成物dを50部に、製造例2と同様のEVAエマルジョンをエマルジョンとして50部を加え、針状繊維固定化材Dとした。
【0076】
製造例5
<針状繊維固定化材E>
製造例4においてEVAエマルジョンの代わりにポリビニルアルコール(日本合成化学社製、GL−05、固形分として8%)45部、製造例4で得られた液状組成物dを55部用いた以外は製造例4と同様にして配合し針状繊維固定化材Eを得た。
【0077】
製造例6
<針状繊維固定化材F>
製造例4においてEVAエマルジョンの代わりにウレタンエマルジョン(第一工業製薬社製、固形分として40%)を固形分として同量用いた以外は製造例4と同様にして配合し針状繊維固定化材Fを得た。
【0078】
製造例7
<針状繊維固定化材G>
製造例4において25%炭酸ナトリウム水溶液7部の代わりに、25%炭酸カリウム水溶液7部を用いた以外は製造例4と同様にして配合し針状繊維固定化材Gを得た。
【0079】
比較製造例1
<針状繊維固定化材a>
製造例1における針状繊維固定化材AにおいてPACを配合しない以外は製造例1と同様にして針状繊維固定化材aを得た。
【0080】
比較製造例2
<針状繊維固定化材b>
製造例1における針状繊維固定化材Aにおいて炭酸ナトリウムを配合しない以外は製造例1と同様にして配合し針状繊維固定化材bを得た。
【0081】
比較製造例3
<針状繊維固定化材c>
製造例1における針状繊維固定化材Aにおいて酢酸ビニルエマルジョンを配合しない以外は製造例1と同様にして配合し針状繊維固定化材cを得た。
【0082】
実施例1
<針状繊維の固定化>
針状繊維である25%アスベスト含有スレート廃材1mあたり、上記針状繊維固定化材A〜Gそれぞれ250g/mをエアレススプレーで吹き付けると、針状繊維固定化材がアスベストに浸透し、8〜10分間激しく発泡しながらアスベストの繊維が膨潤し体積が増大していった。発泡が次第に穏やかになると、アスベストの先端部が鈍角を形成しながら(丸くなりながら)約7倍の体積となった。更に、プラスチックコテでアスベスト施工部位を押さえ、針状繊維固定化材をアスベスト繊維に浸透させた。
【0083】
その後、22時間自然乾燥(温度18℃、湿度80%)させると、アスベスト施工部位がゴムシート状の弾性体皮膜で被覆され、アスベストが完全に固定化された。また、その先端部が丸くなっていることが観察された。これをそれぞれ「針状繊維固定化済みスレート廃材A〜G」とする。
【0084】
実施例2
実施例1において、針状繊維固定化材Aを、アスベストとして実質的にクロシドライトのみを用いた施工部位に吹き付けた以外は実施例1と同様にして行ったところ、クロシドライトの針状繊維が完全に固定化され表出がなくなり、飛散の可能性もなくなった。クロシドライトの先端部が鈍角を形成していた(丸くなっていた)。これを針状繊維固定化済みスレート廃材Hとする。
【0085】
実施例3
実施例1において、針状繊維固定化材Aを、アスベストとして実質的にクリソタイルのみを用いた施工部位に吹き付けた以外は実施例1と同様にして行ったところ、クリソタイルの針状繊維の先端部が鈍角を形成し(丸みを帯び)、また完全に固定化されて表出と飛散が抑えられた。これを針状繊維固定化済みスレート廃材Iとする。
【0086】
比較例1
<針状繊維の固定化>
針状繊維固定化材a〜cを実施例1と同様にしてアスベスト施工部位に吹き付けたが、アスベストの体積は増大せず、アスベスト施工部位がゴムシート状の膜で被覆されることもなく、アスベストは固定化されなかった。
すなわち、PACを含有させない場合(比較製造例1、針状繊維固定化材a)、アスベストに吹き付けても発泡せず、乾燥後も被覆できなかったので、難燃性及び耐熱性評価も実施できなかった。
炭酸ナトリウムを含有させない場合(比較製造例2、針状繊維固定化材b)、アスベストに付与する際、粘度上昇が起らずペースト状にならず、また硬化性が悪くなったため、難燃性及び耐熱性評価には至らなかった。また、酸性が強いので本発明の安全化工法に適用した時に建材内の鉄骨を腐食させる。
樹脂エマルジョンである酢酸ビニルエマルジョンを含有させない場合(比較製造例3、針状繊維固定化材c)、ゴムシート状の弾性体皮膜ができなかった。そのため、難燃性及び耐熱性評価には至らなかった。
【0087】
評価例1
<難燃性評価>
バーナーの火炎を2分間照射して難燃性を評価した。実施例1〜実施例3で得られた針状繊維固定化済みスレート廃材A〜Iは何れも燃焼せず、煙も出なかったので、被覆されているゴムシート状の弾性体皮膜は「難燃性」ありと評価できた。また、連続耐熱レベル450℃が可能であった。
【0088】
実施例4
<耐熱材A〜G>
上記実施例1において得られたシート状の針状繊維固定化済みスレート廃材A〜G各1kgを、800℃に設定したパイロカーボン炉で15分間加熱処理したところ、実質的にアスベストを含有せず、炭素質物、アルミニウム、及び、ナトリウム若しくはカリウムを含有する耐熱材A〜Gが得られた。耐熱材A〜Gは、何れも粒子状であり灰色をしていた。
【0089】
実施例5
<耐熱材H>
上記実施例2において得られた針状繊維固定化済みスレート廃材Hを200gとり、900〜1000℃のハンドバーナーで、3分間加熱処理すると、実質的にクロシドライトを含有せず、炭素質物、アルミニウム及びナトリウムを含有する粒子状の耐熱材Hが得られた。
【0090】
実施例6
<耐熱材I>
上記実施例3において得られた針状繊維固定化済みスレート廃材Iを200gとり、900〜1000℃のハンドバーナーで、4分間加熱処理すると、実質的にクリソタイルを含有せず、炭素質物、アルミニウム及びナトリウムを含有する粒子状の耐熱材Iが得られた。
【0091】
評価例2
<粒子形状の評価>
実施例4で得られた耐熱材A、実施例5で得られた耐熱材H及び実施例6で得られた耐熱材Iを、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と略記する)を用いて10000倍で測定した。結果をそれぞれ図1、図2、図4に示す。針状繊維特有の針状形態は全く見られなかった。また、実施例6で得られた耐熱材Iを、屈折率n25℃=1.550、屈折率n25℃=1.680及び屈折率n25℃=1.700とした位相差顕微鏡を用いて600倍で観察した。結果を、図6に示す。クリソタイル特有の針状形態は全く見られなかった。
【0092】
評価例3
<結晶構造の評価>
実施例5及び実施例6で得られた耐熱材H及び耐熱材Iを、CuKα線を用いた粉末X線回折装置を用い、そのX線回折パターンを測定した。結果を、それぞれ図3及び図5に示す。クロシドライト結晶、クリソタイル結晶に特有のX線回折ピークが何れも見られなかった。
【0093】
評価例4
<耐熱性評価>
実質的に空気を遮蔽したマッフル炉中に入れ、1000℃で24時間加熱し、耐熱性を評価した。耐熱材A〜Iは何れも加熱による成分の分解が起こらず、加熱の前後で外観に全く変化が見られなかったので、「耐熱性」ありと評価した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の針状繊維固定化材及び針状繊維の固定化方法は有害なアスベスト等の針状繊維を飛散させることなく完全、安全、簡便、安価に固定化することが可能である。よって、人体に影響を及ぼすアスベストを含む耐火被覆材等を安全に無害化することができる。特に、針状繊維の固定化を、建材の表面に弾性体皮膜を形成することにより行えるので、建材の表面に弾性体皮膜が形成された状態で撤去することができ、作業性、安全性が向上する。また、建物が耐用年限を迎えて解体されるとき、アスベストの飛散が未然に防止された状態で安全に建物を解体撤去することができる。
【0095】
また本発明の耐熱材は、難燃性及び耐熱性に優れ、低コストで取り扱いも容易なため、ほとんどの分野において、既存の耐熱材に代えて用いることが可能である。特に、樹脂に混合、混錬して用いることで、高い難燃性、耐熱性、低コスト、取り扱いの容易性等を有する難燃性樹脂製品に応用することができ、また、住宅火災が懸念される内装用の壁、天井部位等に、簡易な方法で高い難燃性、耐熱性、無煙性を有する塗膜を形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施例4で得られた耐熱材Aを、SEMを用いて10000倍で撮影した写真である。
【図2】実施例5で得られた耐熱材Hを、SEMを用いて10000倍で撮影した写真である。
【図3】実施例5で得られた耐熱材Hの、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンである。
【図4】実施例6で得られた耐熱材Iを、SEMを用いて10000倍で撮影した写真である。
【図5】実施例6で得られた耐熱材Iの、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンである。
【図6】実施例6で得られた耐熱材Iの、(a)屈折率n25℃=1.550、(b)屈折率n25℃=1.680、(c)屈折率n25℃=1.700とした位相差顕微鏡で測定した600倍の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化アルミニウム、「樹脂エマルジョン又は水溶性樹脂」及び「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウムの、炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物」を配合してなることを特徴とする針状繊維固定化材。
【請求項2】
該樹脂エマルジョンがビニル系樹脂エマルジョンである請求項1記載の針状繊維固定化材。
【請求項3】
該水溶性樹脂がポリビニルアルコールである請求項1記載の針状繊維固定化材。
【請求項4】
更に、ホウ砂を配合してなる請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の針状繊維固定化材。
【請求項5】
該針状繊維がアスベストである請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の針状繊維固定化材。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の針状繊維固定化材を針状繊維中に浸透させ固定化することを特徴とする針状繊維の固定化方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の針状繊維固定化材を、既存の建築物に使用されている針状繊維を含有する建材に付与して該針状繊維を固定化することを特徴とする建材の安全化工法。
【請求項8】
上記針状繊維の固定化を、上記建材の表面に弾性体皮膜を形成することにより行う請求項7記載の建材の安全化工法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の針状繊維固定化材を、針状繊維を含む建材に付与して該針状繊維を固定化した後、該建材又は該建材が使用されている建築物を解体することを特徴とする解体撤去方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の針状繊維固定化材を、針状繊維を含む建材に付与し、該建材の表面に弾性体皮膜を形成することにより該針状繊維を固定化した後、該建材又は該建材が使用されている建築物を解体し、該建材の表面に弾性体皮膜が形成された状態で撤去する請求項9記載の解体撤去方法。
【請求項11】
請求項5記載の針状繊維の固定化方法により得られたものを加熱処理したものであり、実質的に針状繊維を含有せず、アルミニウム、「ナトリウム、カルシウム若しくはカリウム」及び炭素質物を含有することを特徴とする耐熱材。

【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−115573(P2010−115573A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289082(P2008−289082)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(591095214)株式会社HI−VAN (11)
【Fターム(参考)】