鉄筋の定着構造
【課題】定着強度を向上させることができるとともに、定着長を短くすることで、部材コストの低減が図れる。
【解決手段】柱2の複数の柱主筋21、21、…の端部と基礎杭3の複数の杭主筋31、31、…の端部とのそれぞれに固定された柱側定着体5と杭側定着体6と、鉄筋コンクリート増の地中梁4のコンクリート43内に配置されるとともに、柱側定着体5と杭側定着体6の周囲を囲繞する外鋼管7と、を備えた定着構造1Aを提供する。
【解決手段】柱2の複数の柱主筋21、21、…の端部と基礎杭3の複数の杭主筋31、31、…の端部とのそれぞれに固定された柱側定着体5と杭側定着体6と、鉄筋コンクリート増の地中梁4のコンクリート43内に配置されるとともに、柱側定着体5と杭側定着体6の周囲を囲繞する外鋼管7と、を備えた定着構造1Aを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋の定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート造の構造物では、地中梁のコンクリート内に柱の主筋を埋設させて定着させる接合構造としているのが一般的である。このような定着構造として、主筋の先端に主軸方向に直角に曲がる直角フックや、湾曲して曲げられた半円状フックを固着したり、このようなフック形状が形成された主筋を設けることで定着強度をもたせていることが知られている。そして、さらに定着強度を増大させて定着長を短くする場合には、主筋の先端に定着体を設置することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−126972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の定着体を用いた鉄筋の定着構造では、さらに大きな定着強度を確保する場合、鉄筋の径寸法を大きくする方法しかなく、その場合、定着長が長くなってしまい、部材にかかるコストが増大するという問題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、定着強度を向上させることができるとともに、定着長を短くすることで、部材コストの低減が図れる鉄筋の定着構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄筋の定着構造では、鉄筋コンクリート造の部材の鉄筋をコンクリート接合部材に埋設させた鉄筋の定着構造であって、前記部材の鉄筋の端部に固定された定着体と、前記コンクリート接合部材のコンクリート内に配置されるとともに、前記定着体の周囲を囲繞する拘束部材と、を備えていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、鉄筋コンクリート造の第1部材と第2部材とをコンクリート接合部材を挟んで対向するように配置し、前記第1部材と第2部材のそれぞれの鉄筋を長さ方向に所定の定着長をもってオーバーラップさせてコンクリート接合部材に埋設させた鉄筋の定着構造であって、前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれの鉄筋の端部に固定された定着体と、前記コンクリート接合部材のコンクリート内に配置されるとともに、前記定着体の周囲を囲繞する拘束部材と、を備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明では、コンクリート接合部材内のコンクリートに埋設されている拘束部材は、その拘束圧によって内方側に充填されているコンクリートを拘束する。すなわち、コンクリート接合部材内に埋設される部材(第1部材、第2部材)における鉄筋の定着部周囲のコンクリートが拘束部材によって拘束された状態になる。そのため、定着体から周囲のコンクリートに作用する応力に対して拘束部材が抵抗力を発揮するため、定着体から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着構造としての耐力を向上させることができる。そして、定着構造の高耐力化を図ることで鉄筋の引抜き耐力が増大されるので、定着長を短くすることができる。
【0009】
また、本発明による鉄筋の定着構造は、柱と杭、柱と梁などの第1部材と第2部材との接合部において効果が大きい。この場合、柱や杭の主筋に定着体を固定して、梁のコンクリートに埋設し、その主筋の定着部の周囲に拘束部材を配置することで、上述した定着構造の耐力を向上させることが可能な構造を実現することができる。
【0010】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、拘束部材は、筒状体であることが好ましい。
本発明では、部材の鉄筋の定着長に相当する高さ寸法を有する筒状体を定着体を備えた鉄筋の周囲を囲繞するようにしてコンクリート接合部材のコンクリート内に配置することで、この筒状体が鉄筋に対する拘束部材として機能し、上述した定着構造の耐力を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、拘束部材は、スパイラル鉄筋であってもかまわない。
この場合、部材の鉄筋の定着長に相当する高さ寸法を有するスパイラル鉄筋を定着体を備えた鉄筋の周囲を囲繞するようにしてコンクリート接合部材のコンクリート内に配置することで、このスパイラル鉄筋が鉄筋に対する拘束部材として機能し、上述した定着構造の耐力を向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、拘束部材は、複数の帯鉄筋を同軸線上に配列した部材であってもよい。
この場合、部材の鉄筋の定着長に相当する高さ寸法となるように複数の帯鉄筋を定着体を備えた鉄筋の周囲を囲繞するようにして同軸線上に重ねて配列し、これら帯鉄筋をコンクリート接合部材のコンクリート内に配置することで、これら複数の帯鉄筋の集合体が鉄筋に対する拘束部材として機能し、上述した定着構造の耐力を向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、コンクリート接合部材は、梁であることが好ましい。
この場合、部材としての柱や杭の主筋に定着体を固定して、梁のコンクリートに埋設し、その主筋の定着部の周囲に拘束部材を配置することで、上述した定着構造の耐力を向上させることが可能な構造を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鉄筋の定着構造によれば、定着体から周囲のコンクリートに作用する応力に対して拘束部材が抵抗力を発揮するため、定着体から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、鉄筋の引抜き耐力を増大させることができる。これにより定着長を短くすることができ、部材コストの低減が図れる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態による定着構造1Aの構成を示す立断面図である。
【図2】図1に示すA−A線断面図である。
【図3】図1に示す定着構造1Aの作用を説明するための立断面図である。
【図4】同じく定着構造1Aの作用を説明するための断面図であって、図2に対応する図である。
【図5】実施例による試験モデルを示す図である。
【図6】図5に示す試験モデルを模擬した試験体の側面図である。
【図7】試験1の測定結果を示すグラフである。
【図8】試験2の測定結果を示すグラフである。
【図9】第2の実施の形態による定着構造1Bの構成を示す立断面図である。
【図10】第3の実施の形態による定着構造1Cの構成を示す立断面図である。
【図11】第4の実施の形態による定着構造1Dの構成を示す立断面図である。
【図12】図11に示す定着構造1Dの作用を説明するための立断面図である。
【図13】図14に示すB−B線断面図であって、定着構造1Dの作用を説明するための断面図である。
【図14】第1変形例による定着構造1Eの構成を示す立断面図である。
【図15】第2変形例による定着構造1Fの構成を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による鉄筋の定着構造の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本第1の実施の形態による鉄筋の定着構造1Aは、鉄筋コンクリート造の柱2(第1部材)と基礎杭3(第2部材)とを地中梁4(コンクリート接合部材)を介して接合する接合部Tに適用されている。
ここで、地中梁4は、所定の厚さ寸法を有する鉄筋コンクリート造の部材からなり、上面及び下面のそれぞれから所定の被り厚さをもった位置に上側主筋41と下側主筋42とが配筋されている。
【0018】
柱2は、円形断面をなし、周方向に一定間隔をもって配列された柱主筋21、21、…と、それら柱主筋21同士を水平方向に連結する配筋22とを備えており、地中梁4上に一体的に設けている。柱主筋21は、それぞれ地中梁4内に延びて埋設され、その下端が地中梁4の上側主筋41と下側主筋42との間で、且つ下側主筋42寄りに位置している。そして、柱主筋21の下端には、柱側定着体5(第1定着体)が固着されている。
【0019】
基礎杭3は、鉄筋コンクリート造の杭(RC杭)であり、コンクリート内部には複数の杭主筋31、31、…が周方向に一定間隔をもって配列されている。図2に示すように、平面視でこれら杭主筋31を結ぶ円は、上述した柱主筋21同士を結ぶ円よりも大径となる。杭主筋31は、それぞれ地中梁4内に延びて埋設され、その上端が地中梁4の上側主筋41と下側主筋42との間で、且つ上側主筋41寄りに位置している。そして、杭主筋31の上端には、杭側定着体6(第2定着体)が固着されている。
つまり、柱主筋21と杭主筋31とは、互いに所定の長さだけ上下方向にオーバーラップする定着長L(定着部T)をもって配置されている。
【0020】
柱側定着体5及び杭側定着体6としては、各鉄筋21、31と地中梁4のコンクリート43との付着強度を増大させるものであって、その形状、材質などとくに限定されることはなく、例えばEG定着板(合同製鐵株式会社製)や、Tヘッドバー(清水建設株式会社製、登録商標)、トーテツプレートナット(東京鐵鋼株式会社製、登録商標)などの周知の定着板を用いることができる。
【0021】
そして、地中梁4の内部には、定着体5、6を取り付けた柱主筋21及び杭主筋31における少なくとも定着部T(定着長Lで重なる部分)の周囲を囲繞する円筒状の外鋼管7(拘束部材)が設けられている。つまり、外鋼管7は、柱主筋21よりも外側に位置する杭主筋31よりもさらに外側に配置され、上端7aが杭側定着体6よりも上に位置するとともに、下端7bが柱側定着体5よりも下に位置している(図3参照)。外鋼管7は、内径寸法が外鋼管7の内面7cと杭側定着体6との間に所定間隔を有する寸法をなし、内周側には地中梁4のコンクリート43が充填されている。
【0022】
次に、上述した定着構造1Aの作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
図3及び図4に示すように、地中梁4内のコンクリート43に埋設されている外鋼管7は、その拘束圧F3によって内方側に充填されているコンクリート43を拘束する。すなわち、地中梁4内に埋設される柱主筋21の柱側定着体5の周囲、及び基礎杭3の杭側定着体6の周囲のコンクリート43が外鋼管7によって拘束された状態になる。
そのため、柱主筋21及び杭主筋31に引張力(図3に示す符号F1)が働くと、柱側定着体5及び杭側定着体6のそれぞれから周囲のコンクリート43に作用する応力F2に対して外鋼管7が抵抗力を発揮するため、柱側定着体5及び杭側定着体6から生じる図3の符号F0に示す割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着構造としての耐力を向上させることができる。ここで、符号F0は、割裂破壊やせん断破壊が生じ得る方向及び範囲を示している。そして、定着構造1Aの高耐力化を図ることで、定着長L1を短くすることができる。これにより、地中梁4の高さ寸法L2(コンクリート43の厚さ寸法)を小さくすることが可能となり、コストの低減が図れるという効果を奏する。
【0023】
また、外鋼管7が筒状体であることから、柱主筋21及び杭主筋31がオーバーラップする定着長L1に相当する高さ寸法を有する範囲をそれら柱主筋21及び杭主筋31の周囲を囲繞するようにして地中梁4のコンクリート43内に配置することで、この外鋼管7が柱主筋21及び杭主筋31に対する拘束部材として機能し、本定着構造1Aの耐力を向上させることができる。
【0024】
なお、本第1の実施の形態による定着構造1Aは、あくまでも定着を目的して用いられるものであって、根巻き鋼管による継手として適用されるものではない。そのため、例えば柱の鉄筋だけ、或いは杭の鉄筋だけでも外鋼管7によって拘束することで、定着長L1を短くすることができる。
【0025】
上述した第1の実施の形態による鉄筋の定着構造では、柱側定着体5及び杭側定着体6から周囲のコンクリート43に作用する応力に対して外鋼管7が抵抗力を発揮するため、それら柱側定着体5及び杭側定着体6から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、柱主筋21及び杭主筋31の引抜き耐力を増大させることができる。これにより定着長L1を短くすることができ、部材コストの低減が図れる効果を奏する。
【実施例】
【0026】
次に、上述した第1の実施の形態による鉄筋の定着構造1Aの効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0027】
本実施例では、柱主筋21と杭主筋31の定着部5、6を外鋼管7と共に取り出した図5に示す試験モデルMにおいて、この試験モデルMを模擬した図6に示す試験体10の鋼管11(拘束部材)内部のコンクリート12には鉄筋(柱主筋、杭主筋)を配置せずに、各鉄筋端部に固定される定着体のみを模した載荷点P1、P2を設け、その載荷点P1、P2に負荷を与えて載荷試験を行った。
【0028】
ここで、図6に示す試験体10は、外径寸法Dが406.4mmの筒状の鋼管11内にコンクリート12を充填させたものである。そして、試験体10の上面10a側に複数の第1模擬定着体13、13、…を試験体10の中心軸線に同軸に配置し、下面10b側に複数の第2模擬定着体14、14、…を試験体10の中心軸線Oに同軸に配置している。第1模擬定着体13の中心位置は、それぞれ中心軸線Oから半径方向に100mmの位置となっている。第2模擬定着体14の中心位置は、それぞれ中心軸線Oから半径方向に160mmの位置となっている。
【0029】
本試験では、第2模擬定着体14は基盤15上に配置され、その上に試験体10が載置され、さらにその試験体10の上に第1模擬定着体13が配置され、それら第1模擬定着体13に対して上方から荷重を与え、鋼板11の厚さ寸法tと、コンクリート12の強度と、試験体10の高さ寸法(定着長L)とを適宜変化させて2つの載荷試験(試験1、試験2)を行った。
試験1では、定着長Lが240mmの2種のコンクリート強度(fc1=20〜25N/mm2、fc2=33〜38N/mm2)からなるコンクリート12において、鋼板11の厚さ寸法tを0mm、3mm、6.4mm、9.5mmに変化させてそれぞれの最大荷重(kN)を測定した。
試験2では、2種の厚さ寸法(t1=6.4mm、t2=9.5mm)の鋼板11において、それぞれ定着長Lを80mm、160mm、240mmに変化させてそれぞれの最大荷重(kN)を測定した。
なお、上記鋼板11の厚さ寸法が6.4mmと9.5mmのものはSTK400の鋼材を使用し、同じく3mmのものはSS400の鋼材を使用しており、いずれも引張強さが400N/mm2以上の同程度の強度のものを用いている。
【0030】
図7は、試験1の結果を示している。鋼板11による拘束がある場合(鋼板11の厚さ寸法が3mm、6.4mm、9.5mmの場合)は、鋼板11による拘束のない鋼板11の厚さ寸法が0mmの場合に比べて最大荷重が大きくなっている。ここで、図7の822kNの線は、全鉄筋の降伏荷重ラインSを示しており、柱又は杭の軸方向の鉄筋の全てが降伏するときの荷重であって、降伏荷重ラインSを超える最大荷重があるものについては十分な耐力を有しているものと判断した。
これによると、fc1=20〜25N/mm2の部材では、鋼板厚さが3mm以上あれば最大荷重が1500kNを超えることが確認でき、厚さ3mmで鋼板の無い場合(厚さ0mm)の略2倍の最大荷重となり、fc2=33〜38N/mm2の部材では、鋼板厚さが6mm以上あれば最大荷重が1200kNを超えることが確認でき、厚さ6.4mmで鋼板の無い場合(厚さ0mm)の略3倍の最大荷重となった。
【0031】
図8に示す試験2では、160mm以上の定着長Lがあれば、全鉄筋の降伏荷重ラインSよりも大きくなり、十分な定着力が確保できることが確認できる。
【0032】
次に、本発明の鉄筋の定着構造による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0033】
(第2の実施の形態)
図9に示すように、第2の実施の形態による鉄筋の定着構造1Bは、上述した第1の実施の形態でRC杭からなる杭基礎3(図1参照)を対象としているが、これに代えて鋼管杭からなる基礎杭3Aを適用対象としたものである。
そして、本第2の実施の形態における基礎杭3Aは、鋼管体32の内部にコンクリート33が充填された構造であり、コンクリート33内部には上端から突出する複数の補強鉄筋34が周方向に一定間隔をもって配列されている。平面視でこれら補強筋34を結ぶ円は、柱主筋21同士を結ぶ円よりも大径となる。補強鉄筋34は、それぞれ地中梁4内に延びて埋設され、その上端が地中梁4の上側主筋41と下側主筋42との間で、且つ上側主筋41寄りに位置している。そして、補強鉄筋34の上端には、杭側定着体6が固着されている。つまり、柱主筋21と補強鉄筋34とは、互いに所定の長さだけ上下方向にオーバーラップする定着長L1(定着部T)をもって配置されている。
この場合、上述した第1の実施の形態と同様に柱側定着体5及び杭側定着体6から周囲のコンクリート43に作用する応力に対して外鋼管7が抵抗力を発揮するため、それら柱側定着体5及び杭側定着体6から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、柱主筋21及び杭主筋31の引抜き耐力が増大され、これにより定着長L1を短くすることができるので、部材コストの低減が図れる。
【0034】
(第3の実施の形態)
次に、図10に示す第3の実施の形態による鉄筋の定着構造1Cは、鉄筋コンクリート造の建物における柱2A(第1部材)と梁4A(コンクリート接合部材)との接合部に適用したものである。具体的には、柱2Aから上方に突出する柱主筋21が梁4Aのコンクリート43内に埋設され、その柱主筋21の上端の周囲を囲繞する円筒状の外鋼管7(拘束部材)が設けられている。柱主筋21の上端には、柱側定着体5が固着されている。つまり、柱主筋21は、外鋼管7に対して所定の長さだけ上下方向にオーバーラップする定着長L1(定着部T)をもって配置されている。
【0035】
第3の実施の形態もまた上述した実施の形態と同様に、柱側定着体5から周囲のコンクリート43に作用する応力に対して外鋼管7が抵抗力を発揮するため、それら柱側定着体5から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、柱主筋21の引抜き耐力が増大され、これにより定着長L1を短くすることができ、また梁4Aの高さ寸法L2を小さくすることが可能となるので、部材コストの低減が図れる利点がある。
【0036】
(第4の実施の形態)
次に、図11に示す第4の実施の形態による鉄筋の定着構造1Dは、隣り合うプレキャストコンクリート桁(以下、PC桁16という)同士(第1部材、第2部材)の鉄筋継手部(接合部)に施工される場所打ちコンクリート部17に適用したものである。
PC桁16には、それぞれ桁主筋161が配筋されており、その桁主筋161が桁側部16aより突出しており、場所打ちコンクリート部17(コンクリート接合部材)内に埋設されている。そして、場所打ちコンクリート部17内の桁主筋161は、それら主筋161毎に周囲を囲繞する円筒状の外鋼管18(拘束部材)が設けられている。そして、桁主筋161の突出端には、桁側定着体19が固着されている。つまり、桁主筋161は、外鋼管18に対して所定の長さだけ上下方向にオーバーラップする定着長L1(定着部T)をもって配置されている。
【0037】
図12及び図13に示すように、第4の実施の形態もまた上述した実施の形態と同様に、桁主筋161に引張力F1が働くと、桁側定着体19から周囲のコンクリート171に作用する応力F2に対して外鋼管18が抵抗力F3を発揮するため、それら桁側定着体19から生じる図12に示す符号F0の割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、桁主筋161の引抜き耐力が増大され、これにより定着長L1を短くすることができ、また場所打ちコンクリート部17の幅寸法L2(PC桁16、16同士の間隔)を小さくすることが可能となるので、場所打ちコンクリート部17のコンクリート171等の部材コストの低減が図れる利点がある。
【0038】
以上、本発明による鉄筋の定着構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では筒状体である外鋼管7、18を拘束部材としているが、このような鋼管に代えてスパイラル鉄筋や帯鉄筋等の拘束圧が期待できる構成のものを採用することが可能である。拘束部材として、要は定着部の側方(周囲)からの拘束圧が期待できる部材であれば良いのであって、例えば、PC鋼材による拘束や、土圧、水圧等がかかる部材などを採用することが可能である。
【0039】
具体的に図14に示す第1変形例による定着構造1Eは、上述した第1の実施の形態の外鋼管7に代えてスパイラル鉄筋8を適用した構造となっている。つまり、スパイラル鉄筋8(拘束部材)は、柱主筋21と杭主筋31とがオーバーラップする定着長L1に相当する高さ寸法を有している。そして、スパイラル鉄筋8を定着部Tの周囲を囲繞するようにして地中梁4のコンクリート43内に配置することで、このスパイラル鉄筋8が柱主筋21と杭主筋31に対する拘束部材として機能し、定着構造の耐力を向上させることができる。
【0040】
また、図15に示す第2変形例による定着構造1Fは、拘束部材として複数の帯鉄筋9、9、…を同軸線上に配列した部材であってもよい。この場合、柱主筋21と杭主筋31とがオーバーラップする定着長L1に相当する高さ寸法となるように複数の帯鉄筋9、9、…を柱側定着体5を備えた柱主筋21及び杭側定着体6を備えた杭主筋31の周囲を囲繞するようにして同軸線上に重ねて配列し、これら帯鉄筋9を地中梁4のコンクリート43内に配置することで、これら複数の帯鉄筋9の集合体が前記主筋21、31に対する拘束部材として機能し、定着構造1Fの耐力を向上させることができる。
【0041】
さらにまた、本実施の形態では柱2と基礎杭3とを地中梁4を介して接合する構造を適用対象としているが、本定着構造の適用対象としてこのような構造に制限されることはない。つまり、柱と杭とを直接接合する構造、柱と柱との層間接合部などに採用することができる。
また、柱、基礎杭、地中梁、拘束部材としての鋼管の形状、主筋の配置、数量などの構成は適用する条件に応じて適宜変更可能である。例えば、本実施の形態では柱2の断面形状を円形としているが、四角断面等の多角形状の柱に採用することも可能である。
【0042】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施の形態を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0043】
1A、1B、1C、1D、1E、1F 定着構造
2、2A 柱(第1部材)
3、3A 基礎杭(第2部材)
4 地中梁(コンクリート接合部材)
4A 梁(コンクリート接合部材)
5 柱側定着体(定着体)
6 杭側定着体(定着体)
7、18 外鋼管(拘束部材)
8 スパイラル鉄筋(拘束部材)
9 帯鉄筋(拘束部材)
16 PC桁(第1部材、第2部材)
17 場所打ちコンクリート(コンクリート接合部材)
19 桁側定着体(定着体)
21 柱主筋
31 杭主筋
161 桁主筋
L 定着長
T 定着部
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋の定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート造の構造物では、地中梁のコンクリート内に柱の主筋を埋設させて定着させる接合構造としているのが一般的である。このような定着構造として、主筋の先端に主軸方向に直角に曲がる直角フックや、湾曲して曲げられた半円状フックを固着したり、このようなフック形状が形成された主筋を設けることで定着強度をもたせていることが知られている。そして、さらに定着強度を増大させて定着長を短くする場合には、主筋の先端に定着体を設置することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−126972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の定着体を用いた鉄筋の定着構造では、さらに大きな定着強度を確保する場合、鉄筋の径寸法を大きくする方法しかなく、その場合、定着長が長くなってしまい、部材にかかるコストが増大するという問題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、定着強度を向上させることができるとともに、定着長を短くすることで、部材コストの低減が図れる鉄筋の定着構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄筋の定着構造では、鉄筋コンクリート造の部材の鉄筋をコンクリート接合部材に埋設させた鉄筋の定着構造であって、前記部材の鉄筋の端部に固定された定着体と、前記コンクリート接合部材のコンクリート内に配置されるとともに、前記定着体の周囲を囲繞する拘束部材と、を備えていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、鉄筋コンクリート造の第1部材と第2部材とをコンクリート接合部材を挟んで対向するように配置し、前記第1部材と第2部材のそれぞれの鉄筋を長さ方向に所定の定着長をもってオーバーラップさせてコンクリート接合部材に埋設させた鉄筋の定着構造であって、前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれの鉄筋の端部に固定された定着体と、前記コンクリート接合部材のコンクリート内に配置されるとともに、前記定着体の周囲を囲繞する拘束部材と、を備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明では、コンクリート接合部材内のコンクリートに埋設されている拘束部材は、その拘束圧によって内方側に充填されているコンクリートを拘束する。すなわち、コンクリート接合部材内に埋設される部材(第1部材、第2部材)における鉄筋の定着部周囲のコンクリートが拘束部材によって拘束された状態になる。そのため、定着体から周囲のコンクリートに作用する応力に対して拘束部材が抵抗力を発揮するため、定着体から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着構造としての耐力を向上させることができる。そして、定着構造の高耐力化を図ることで鉄筋の引抜き耐力が増大されるので、定着長を短くすることができる。
【0009】
また、本発明による鉄筋の定着構造は、柱と杭、柱と梁などの第1部材と第2部材との接合部において効果が大きい。この場合、柱や杭の主筋に定着体を固定して、梁のコンクリートに埋設し、その主筋の定着部の周囲に拘束部材を配置することで、上述した定着構造の耐力を向上させることが可能な構造を実現することができる。
【0010】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、拘束部材は、筒状体であることが好ましい。
本発明では、部材の鉄筋の定着長に相当する高さ寸法を有する筒状体を定着体を備えた鉄筋の周囲を囲繞するようにしてコンクリート接合部材のコンクリート内に配置することで、この筒状体が鉄筋に対する拘束部材として機能し、上述した定着構造の耐力を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、拘束部材は、スパイラル鉄筋であってもかまわない。
この場合、部材の鉄筋の定着長に相当する高さ寸法を有するスパイラル鉄筋を定着体を備えた鉄筋の周囲を囲繞するようにしてコンクリート接合部材のコンクリート内に配置することで、このスパイラル鉄筋が鉄筋に対する拘束部材として機能し、上述した定着構造の耐力を向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、拘束部材は、複数の帯鉄筋を同軸線上に配列した部材であってもよい。
この場合、部材の鉄筋の定着長に相当する高さ寸法となるように複数の帯鉄筋を定着体を備えた鉄筋の周囲を囲繞するようにして同軸線上に重ねて配列し、これら帯鉄筋をコンクリート接合部材のコンクリート内に配置することで、これら複数の帯鉄筋の集合体が鉄筋に対する拘束部材として機能し、上述した定着構造の耐力を向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係る鉄筋の定着構造では、コンクリート接合部材は、梁であることが好ましい。
この場合、部材としての柱や杭の主筋に定着体を固定して、梁のコンクリートに埋設し、その主筋の定着部の周囲に拘束部材を配置することで、上述した定着構造の耐力を向上させることが可能な構造を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鉄筋の定着構造によれば、定着体から周囲のコンクリートに作用する応力に対して拘束部材が抵抗力を発揮するため、定着体から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、鉄筋の引抜き耐力を増大させることができる。これにより定着長を短くすることができ、部材コストの低減が図れる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態による定着構造1Aの構成を示す立断面図である。
【図2】図1に示すA−A線断面図である。
【図3】図1に示す定着構造1Aの作用を説明するための立断面図である。
【図4】同じく定着構造1Aの作用を説明するための断面図であって、図2に対応する図である。
【図5】実施例による試験モデルを示す図である。
【図6】図5に示す試験モデルを模擬した試験体の側面図である。
【図7】試験1の測定結果を示すグラフである。
【図8】試験2の測定結果を示すグラフである。
【図9】第2の実施の形態による定着構造1Bの構成を示す立断面図である。
【図10】第3の実施の形態による定着構造1Cの構成を示す立断面図である。
【図11】第4の実施の形態による定着構造1Dの構成を示す立断面図である。
【図12】図11に示す定着構造1Dの作用を説明するための立断面図である。
【図13】図14に示すB−B線断面図であって、定着構造1Dの作用を説明するための断面図である。
【図14】第1変形例による定着構造1Eの構成を示す立断面図である。
【図15】第2変形例による定着構造1Fの構成を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による鉄筋の定着構造の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本第1の実施の形態による鉄筋の定着構造1Aは、鉄筋コンクリート造の柱2(第1部材)と基礎杭3(第2部材)とを地中梁4(コンクリート接合部材)を介して接合する接合部Tに適用されている。
ここで、地中梁4は、所定の厚さ寸法を有する鉄筋コンクリート造の部材からなり、上面及び下面のそれぞれから所定の被り厚さをもった位置に上側主筋41と下側主筋42とが配筋されている。
【0018】
柱2は、円形断面をなし、周方向に一定間隔をもって配列された柱主筋21、21、…と、それら柱主筋21同士を水平方向に連結する配筋22とを備えており、地中梁4上に一体的に設けている。柱主筋21は、それぞれ地中梁4内に延びて埋設され、その下端が地中梁4の上側主筋41と下側主筋42との間で、且つ下側主筋42寄りに位置している。そして、柱主筋21の下端には、柱側定着体5(第1定着体)が固着されている。
【0019】
基礎杭3は、鉄筋コンクリート造の杭(RC杭)であり、コンクリート内部には複数の杭主筋31、31、…が周方向に一定間隔をもって配列されている。図2に示すように、平面視でこれら杭主筋31を結ぶ円は、上述した柱主筋21同士を結ぶ円よりも大径となる。杭主筋31は、それぞれ地中梁4内に延びて埋設され、その上端が地中梁4の上側主筋41と下側主筋42との間で、且つ上側主筋41寄りに位置している。そして、杭主筋31の上端には、杭側定着体6(第2定着体)が固着されている。
つまり、柱主筋21と杭主筋31とは、互いに所定の長さだけ上下方向にオーバーラップする定着長L(定着部T)をもって配置されている。
【0020】
柱側定着体5及び杭側定着体6としては、各鉄筋21、31と地中梁4のコンクリート43との付着強度を増大させるものであって、その形状、材質などとくに限定されることはなく、例えばEG定着板(合同製鐵株式会社製)や、Tヘッドバー(清水建設株式会社製、登録商標)、トーテツプレートナット(東京鐵鋼株式会社製、登録商標)などの周知の定着板を用いることができる。
【0021】
そして、地中梁4の内部には、定着体5、6を取り付けた柱主筋21及び杭主筋31における少なくとも定着部T(定着長Lで重なる部分)の周囲を囲繞する円筒状の外鋼管7(拘束部材)が設けられている。つまり、外鋼管7は、柱主筋21よりも外側に位置する杭主筋31よりもさらに外側に配置され、上端7aが杭側定着体6よりも上に位置するとともに、下端7bが柱側定着体5よりも下に位置している(図3参照)。外鋼管7は、内径寸法が外鋼管7の内面7cと杭側定着体6との間に所定間隔を有する寸法をなし、内周側には地中梁4のコンクリート43が充填されている。
【0022】
次に、上述した定着構造1Aの作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
図3及び図4に示すように、地中梁4内のコンクリート43に埋設されている外鋼管7は、その拘束圧F3によって内方側に充填されているコンクリート43を拘束する。すなわち、地中梁4内に埋設される柱主筋21の柱側定着体5の周囲、及び基礎杭3の杭側定着体6の周囲のコンクリート43が外鋼管7によって拘束された状態になる。
そのため、柱主筋21及び杭主筋31に引張力(図3に示す符号F1)が働くと、柱側定着体5及び杭側定着体6のそれぞれから周囲のコンクリート43に作用する応力F2に対して外鋼管7が抵抗力を発揮するため、柱側定着体5及び杭側定着体6から生じる図3の符号F0に示す割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着構造としての耐力を向上させることができる。ここで、符号F0は、割裂破壊やせん断破壊が生じ得る方向及び範囲を示している。そして、定着構造1Aの高耐力化を図ることで、定着長L1を短くすることができる。これにより、地中梁4の高さ寸法L2(コンクリート43の厚さ寸法)を小さくすることが可能となり、コストの低減が図れるという効果を奏する。
【0023】
また、外鋼管7が筒状体であることから、柱主筋21及び杭主筋31がオーバーラップする定着長L1に相当する高さ寸法を有する範囲をそれら柱主筋21及び杭主筋31の周囲を囲繞するようにして地中梁4のコンクリート43内に配置することで、この外鋼管7が柱主筋21及び杭主筋31に対する拘束部材として機能し、本定着構造1Aの耐力を向上させることができる。
【0024】
なお、本第1の実施の形態による定着構造1Aは、あくまでも定着を目的して用いられるものであって、根巻き鋼管による継手として適用されるものではない。そのため、例えば柱の鉄筋だけ、或いは杭の鉄筋だけでも外鋼管7によって拘束することで、定着長L1を短くすることができる。
【0025】
上述した第1の実施の形態による鉄筋の定着構造では、柱側定着体5及び杭側定着体6から周囲のコンクリート43に作用する応力に対して外鋼管7が抵抗力を発揮するため、それら柱側定着体5及び杭側定着体6から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、柱主筋21及び杭主筋31の引抜き耐力を増大させることができる。これにより定着長L1を短くすることができ、部材コストの低減が図れる効果を奏する。
【実施例】
【0026】
次に、上述した第1の実施の形態による鉄筋の定着構造1Aの効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0027】
本実施例では、柱主筋21と杭主筋31の定着部5、6を外鋼管7と共に取り出した図5に示す試験モデルMにおいて、この試験モデルMを模擬した図6に示す試験体10の鋼管11(拘束部材)内部のコンクリート12には鉄筋(柱主筋、杭主筋)を配置せずに、各鉄筋端部に固定される定着体のみを模した載荷点P1、P2を設け、その載荷点P1、P2に負荷を与えて載荷試験を行った。
【0028】
ここで、図6に示す試験体10は、外径寸法Dが406.4mmの筒状の鋼管11内にコンクリート12を充填させたものである。そして、試験体10の上面10a側に複数の第1模擬定着体13、13、…を試験体10の中心軸線に同軸に配置し、下面10b側に複数の第2模擬定着体14、14、…を試験体10の中心軸線Oに同軸に配置している。第1模擬定着体13の中心位置は、それぞれ中心軸線Oから半径方向に100mmの位置となっている。第2模擬定着体14の中心位置は、それぞれ中心軸線Oから半径方向に160mmの位置となっている。
【0029】
本試験では、第2模擬定着体14は基盤15上に配置され、その上に試験体10が載置され、さらにその試験体10の上に第1模擬定着体13が配置され、それら第1模擬定着体13に対して上方から荷重を与え、鋼板11の厚さ寸法tと、コンクリート12の強度と、試験体10の高さ寸法(定着長L)とを適宜変化させて2つの載荷試験(試験1、試験2)を行った。
試験1では、定着長Lが240mmの2種のコンクリート強度(fc1=20〜25N/mm2、fc2=33〜38N/mm2)からなるコンクリート12において、鋼板11の厚さ寸法tを0mm、3mm、6.4mm、9.5mmに変化させてそれぞれの最大荷重(kN)を測定した。
試験2では、2種の厚さ寸法(t1=6.4mm、t2=9.5mm)の鋼板11において、それぞれ定着長Lを80mm、160mm、240mmに変化させてそれぞれの最大荷重(kN)を測定した。
なお、上記鋼板11の厚さ寸法が6.4mmと9.5mmのものはSTK400の鋼材を使用し、同じく3mmのものはSS400の鋼材を使用しており、いずれも引張強さが400N/mm2以上の同程度の強度のものを用いている。
【0030】
図7は、試験1の結果を示している。鋼板11による拘束がある場合(鋼板11の厚さ寸法が3mm、6.4mm、9.5mmの場合)は、鋼板11による拘束のない鋼板11の厚さ寸法が0mmの場合に比べて最大荷重が大きくなっている。ここで、図7の822kNの線は、全鉄筋の降伏荷重ラインSを示しており、柱又は杭の軸方向の鉄筋の全てが降伏するときの荷重であって、降伏荷重ラインSを超える最大荷重があるものについては十分な耐力を有しているものと判断した。
これによると、fc1=20〜25N/mm2の部材では、鋼板厚さが3mm以上あれば最大荷重が1500kNを超えることが確認でき、厚さ3mmで鋼板の無い場合(厚さ0mm)の略2倍の最大荷重となり、fc2=33〜38N/mm2の部材では、鋼板厚さが6mm以上あれば最大荷重が1200kNを超えることが確認でき、厚さ6.4mmで鋼板の無い場合(厚さ0mm)の略3倍の最大荷重となった。
【0031】
図8に示す試験2では、160mm以上の定着長Lがあれば、全鉄筋の降伏荷重ラインSよりも大きくなり、十分な定着力が確保できることが確認できる。
【0032】
次に、本発明の鉄筋の定着構造による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0033】
(第2の実施の形態)
図9に示すように、第2の実施の形態による鉄筋の定着構造1Bは、上述した第1の実施の形態でRC杭からなる杭基礎3(図1参照)を対象としているが、これに代えて鋼管杭からなる基礎杭3Aを適用対象としたものである。
そして、本第2の実施の形態における基礎杭3Aは、鋼管体32の内部にコンクリート33が充填された構造であり、コンクリート33内部には上端から突出する複数の補強鉄筋34が周方向に一定間隔をもって配列されている。平面視でこれら補強筋34を結ぶ円は、柱主筋21同士を結ぶ円よりも大径となる。補強鉄筋34は、それぞれ地中梁4内に延びて埋設され、その上端が地中梁4の上側主筋41と下側主筋42との間で、且つ上側主筋41寄りに位置している。そして、補強鉄筋34の上端には、杭側定着体6が固着されている。つまり、柱主筋21と補強鉄筋34とは、互いに所定の長さだけ上下方向にオーバーラップする定着長L1(定着部T)をもって配置されている。
この場合、上述した第1の実施の形態と同様に柱側定着体5及び杭側定着体6から周囲のコンクリート43に作用する応力に対して外鋼管7が抵抗力を発揮するため、それら柱側定着体5及び杭側定着体6から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、柱主筋21及び杭主筋31の引抜き耐力が増大され、これにより定着長L1を短くすることができるので、部材コストの低減が図れる。
【0034】
(第3の実施の形態)
次に、図10に示す第3の実施の形態による鉄筋の定着構造1Cは、鉄筋コンクリート造の建物における柱2A(第1部材)と梁4A(コンクリート接合部材)との接合部に適用したものである。具体的には、柱2Aから上方に突出する柱主筋21が梁4Aのコンクリート43内に埋設され、その柱主筋21の上端の周囲を囲繞する円筒状の外鋼管7(拘束部材)が設けられている。柱主筋21の上端には、柱側定着体5が固着されている。つまり、柱主筋21は、外鋼管7に対して所定の長さだけ上下方向にオーバーラップする定着長L1(定着部T)をもって配置されている。
【0035】
第3の実施の形態もまた上述した実施の形態と同様に、柱側定着体5から周囲のコンクリート43に作用する応力に対して外鋼管7が抵抗力を発揮するため、それら柱側定着体5から生じる割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、柱主筋21の引抜き耐力が増大され、これにより定着長L1を短くすることができ、また梁4Aの高さ寸法L2を小さくすることが可能となるので、部材コストの低減が図れる利点がある。
【0036】
(第4の実施の形態)
次に、図11に示す第4の実施の形態による鉄筋の定着構造1Dは、隣り合うプレキャストコンクリート桁(以下、PC桁16という)同士(第1部材、第2部材)の鉄筋継手部(接合部)に施工される場所打ちコンクリート部17に適用したものである。
PC桁16には、それぞれ桁主筋161が配筋されており、その桁主筋161が桁側部16aより突出しており、場所打ちコンクリート部17(コンクリート接合部材)内に埋設されている。そして、場所打ちコンクリート部17内の桁主筋161は、それら主筋161毎に周囲を囲繞する円筒状の外鋼管18(拘束部材)が設けられている。そして、桁主筋161の突出端には、桁側定着体19が固着されている。つまり、桁主筋161は、外鋼管18に対して所定の長さだけ上下方向にオーバーラップする定着長L1(定着部T)をもって配置されている。
【0037】
図12及び図13に示すように、第4の実施の形態もまた上述した実施の形態と同様に、桁主筋161に引張力F1が働くと、桁側定着体19から周囲のコンクリート171に作用する応力F2に対して外鋼管18が抵抗力F3を発揮するため、それら桁側定着体19から生じる図12に示す符号F0の割裂破壊やせん断破壊が抑制され、定着強度を向上させることができ、桁主筋161の引抜き耐力が増大され、これにより定着長L1を短くすることができ、また場所打ちコンクリート部17の幅寸法L2(PC桁16、16同士の間隔)を小さくすることが可能となるので、場所打ちコンクリート部17のコンクリート171等の部材コストの低減が図れる利点がある。
【0038】
以上、本発明による鉄筋の定着構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では筒状体である外鋼管7、18を拘束部材としているが、このような鋼管に代えてスパイラル鉄筋や帯鉄筋等の拘束圧が期待できる構成のものを採用することが可能である。拘束部材として、要は定着部の側方(周囲)からの拘束圧が期待できる部材であれば良いのであって、例えば、PC鋼材による拘束や、土圧、水圧等がかかる部材などを採用することが可能である。
【0039】
具体的に図14に示す第1変形例による定着構造1Eは、上述した第1の実施の形態の外鋼管7に代えてスパイラル鉄筋8を適用した構造となっている。つまり、スパイラル鉄筋8(拘束部材)は、柱主筋21と杭主筋31とがオーバーラップする定着長L1に相当する高さ寸法を有している。そして、スパイラル鉄筋8を定着部Tの周囲を囲繞するようにして地中梁4のコンクリート43内に配置することで、このスパイラル鉄筋8が柱主筋21と杭主筋31に対する拘束部材として機能し、定着構造の耐力を向上させることができる。
【0040】
また、図15に示す第2変形例による定着構造1Fは、拘束部材として複数の帯鉄筋9、9、…を同軸線上に配列した部材であってもよい。この場合、柱主筋21と杭主筋31とがオーバーラップする定着長L1に相当する高さ寸法となるように複数の帯鉄筋9、9、…を柱側定着体5を備えた柱主筋21及び杭側定着体6を備えた杭主筋31の周囲を囲繞するようにして同軸線上に重ねて配列し、これら帯鉄筋9を地中梁4のコンクリート43内に配置することで、これら複数の帯鉄筋9の集合体が前記主筋21、31に対する拘束部材として機能し、定着構造1Fの耐力を向上させることができる。
【0041】
さらにまた、本実施の形態では柱2と基礎杭3とを地中梁4を介して接合する構造を適用対象としているが、本定着構造の適用対象としてこのような構造に制限されることはない。つまり、柱と杭とを直接接合する構造、柱と柱との層間接合部などに採用することができる。
また、柱、基礎杭、地中梁、拘束部材としての鋼管の形状、主筋の配置、数量などの構成は適用する条件に応じて適宜変更可能である。例えば、本実施の形態では柱2の断面形状を円形としているが、四角断面等の多角形状の柱に採用することも可能である。
【0042】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施の形態を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0043】
1A、1B、1C、1D、1E、1F 定着構造
2、2A 柱(第1部材)
3、3A 基礎杭(第2部材)
4 地中梁(コンクリート接合部材)
4A 梁(コンクリート接合部材)
5 柱側定着体(定着体)
6 杭側定着体(定着体)
7、18 外鋼管(拘束部材)
8 スパイラル鉄筋(拘束部材)
9 帯鉄筋(拘束部材)
16 PC桁(第1部材、第2部材)
17 場所打ちコンクリート(コンクリート接合部材)
19 桁側定着体(定着体)
21 柱主筋
31 杭主筋
161 桁主筋
L 定着長
T 定着部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の部材の鉄筋をコンクリート接合部材に埋設させた鉄筋の定着構造であって、
前記部材の鉄筋の端部に固定された定着体と、
前記コンクリート接合部材のコンクリート内に配置されるとともに、前記定着体の周囲を囲繞する拘束部材と、
を備えていることを特徴とする鉄筋の定着構造。
【請求項2】
鉄筋コンクリート造の第1部材と第2部材とをコンクリート接合部材を挟んで対向するように配置し、前記第1部材と第2部材のそれぞれの鉄筋を長さ方向に所定の定着長をもってオーバーラップさせてコンクリート接合部材に埋設させた鉄筋の定着構造であって、
前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれの鉄筋の端部に固定された定着体と、
前記コンクリート接合部材のコンクリート内に配置されるとともに、前記定着体の周囲を囲繞する拘束部材と、
を備えていることを特徴とする鉄筋の定着構造。
【請求項3】
前記拘束部材は、筒状体であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄筋の定着構造。
【請求項4】
前記拘束部材は、スパイラル鉄筋であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄筋の定着構造。
【請求項5】
前記拘束部材は、複数の帯鉄筋を同軸線上に配列した部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄筋の定着構造。
【請求項6】
前記コンクリート接合部材は、梁であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉄筋の定着構造。
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の部材の鉄筋をコンクリート接合部材に埋設させた鉄筋の定着構造であって、
前記部材の鉄筋の端部に固定された定着体と、
前記コンクリート接合部材のコンクリート内に配置されるとともに、前記定着体の周囲を囲繞する拘束部材と、
を備えていることを特徴とする鉄筋の定着構造。
【請求項2】
鉄筋コンクリート造の第1部材と第2部材とをコンクリート接合部材を挟んで対向するように配置し、前記第1部材と第2部材のそれぞれの鉄筋を長さ方向に所定の定着長をもってオーバーラップさせてコンクリート接合部材に埋設させた鉄筋の定着構造であって、
前記第1部材及び前記第2部材のそれぞれの鉄筋の端部に固定された定着体と、
前記コンクリート接合部材のコンクリート内に配置されるとともに、前記定着体の周囲を囲繞する拘束部材と、
を備えていることを特徴とする鉄筋の定着構造。
【請求項3】
前記拘束部材は、筒状体であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄筋の定着構造。
【請求項4】
前記拘束部材は、スパイラル鉄筋であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄筋の定着構造。
【請求項5】
前記拘束部材は、複数の帯鉄筋を同軸線上に配列した部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄筋の定着構造。
【請求項6】
前記コンクリート接合部材は、梁であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉄筋の定着構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−149439(P2012−149439A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8702(P2011−8702)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】
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