説明

鉄筋吊下げ配筋装置

【課題】既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に形成された配筋用縦スリットに、補強用の鉄筋を、所定のピッチで縦方向にスムーズに配筋できる鉄筋吊下げ配筋装置を提供する。
【解決手段】壁面部22に形成された配筋用縦スリット25に、補強用鉄筋11を吊り降ろして配筋する際に用いる鉄筋吊下げ配筋装置10であって、支持柱部30と、支持柱部30の所定の高さ位置に固定されるクランプ部33と、クランプ部32に把持されて壁面部22に向けて延設するガイドパイプ部34と、ガイドパイプ部34に案内されて壁面部22に向けて進退摺動する2重構造のスライドパイプ部37とからなる。スライドパイプ部37の外側パイプ35及び内側パイプ36の先端部には、ワイヤー部材39が巻き付けられるガイドプーリー38が取り付けられており、ワイヤー部材39の先端部には、補強用鉄筋11を着脱可能に把持する鉄筋把持部40が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に縦方向に延設して形成された配筋用縦スリットに、補強用鉄筋を上方から吊り降ろして配筋する際に用いる鉄筋吊下げ配筋装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばボックスカルバート形状に形成された鉄筋コンクリートによる地下構造物の耐震補強を行うための工法として、既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に、多数の補強用の鉄筋を、縦横に所定のピッチで壁面部の厚さ方向に埋設設置する耐震補強工法が採用されることがある。既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面に補強用鉄筋を埋設設置する場合、壁面部を貫通しない深さでコアボーリング孔を形成し、形成した各コアボーリング孔に補強用の鉄筋を配設した後に、例えば無収縮モルタルを充填して埋設する方法が一般に採用される。
【0003】
また、広い範囲の壁面部に、多数のコアボーリング孔を個々に穿孔形成してゆく作業は、多くの手間を要すると共に、既設の鉄筋コンクリート構造物に配筋されている既存の鉄筋を破断させたり、損傷させたりするおそれもあることから、既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に、ウォータージェットを用いて、既存の鉄筋を切断することなく鉛直方向に配筋用縦スリットを切削形成し、この配筋用縦スリットを利用して、補強用の鉄筋を既存の鉄筋に支持させて配筋し、しかる後に配筋用縦スリットにモルタルやコンクリートを充填して、補強用の鉄筋を既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に埋設する方法も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−67942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、既存の鉄筋コンクリート構造物は、例えば共同溝等として用いられていて、内部に電力用のケーブル配線や、各種の配管類が配設されている場合があり、これらの配線類や配管類は、維持管理を行い易いように、例えば支持架台によって支持されて、壁面部に沿わせて複数段に整列配置された状態で設置されていることが多い。このような場合に、例えば上述の壁面部に縦横に所定のピッチで多数のコアボーリング孔を形成して補強用の鉄筋を配設する方法では、壁面部に沿わせて設置された配線類や配管類が邪魔になって、施工することが困難である。
【0006】
これに対して、上述のウォータージェットを用いて配筋用縦スリットを切削形成する方法を応用して、例えば配線類や配管類を支持する複数段の支持架台の間の隙間を介して、配線類や配管類の裏側の壁面部の所定の位置にウォータージェット噴射ノズルを挿入するためのコアボーリング孔を穿孔形成し、これらのコアボーリング孔にウォータージェット噴射ノズルを挿入して壁面部を縦方向に切削することにより配筋用縦スリットを形成し、形成した配筋用縦スリットに補強用の鉄筋を配筋した後に、モルタルやコンクリートを充填して、補強用の鉄筋を配線類や配管類の裏側の壁面部に埋設する方法が考えられる。
【0007】
しかしながら、上述のコアボーリング孔とウォータージェットによる方法では、配線類や配管類等による障害物の裏側の壁面部に、補強用の鉄筋を配筋するための配筋用縦スリットを形成することは容易であるが、配線類や配管類等による障害物の裏側の配筋用縦スリットは、これらの障害物が邪魔になって作業員の手が届き難い場所に形成されるため、配筋用縦スリットに補強用の鉄筋を所定のピッチで縦方向に配筋する作業を行うことが困難になる。
【0008】
本発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物の例えば配線類や配管類等による障害物の裏側の壁面部に形成された配筋用縦スリットに、補強用の鉄筋を、所定のピッチで縦方向にスムーズに配筋してゆくことのできる鉄筋吊下げ配筋装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に縦方向に延設して形成された配筋用縦スリットに、補強用鉄筋を上方から吊り降ろして縦方向に所定のピッチで配筋する際に用いる鉄筋吊下げ配筋装置であって、縦方向に立設した状態で固定される支持柱部と、該支持柱部に上下方向にスライド移動可能に取り付けられ、該支持柱部の所定の高さ位置に固定可能なクランプ部と、該クランプ部に把持されて前記壁面部に向けて横方向に延設するガイドパイプ部と、該ガイドパイプ部に案内されて前記壁面部に向けて横方向に進退摺動する、外側パイプ及び内側パイプからなる2重構造のスライドパイプ部とを含んで構成されており、前記スライドパイプ部の前記外側パイプ及び前記内側パイプの先端部には、ガイドプーリーが各々取り付けられており、これらのガイドプーリーに各々巻き付けられることで、一対のワイヤー部材が、前記内側パイプの中空内部を介して、前記支持柱部が固定された作業空間から前記ガイドプーリーの下方部分に亘って、前記作業空間からの操作によって進退可能に延設しており、且つ前記ワイヤー部材の前記ガイドプーリーの下方部分側の先端部には、前記補強用鉄筋を着脱可能に把持する鉄筋把持部が各々取り付けられている鉄筋吊下げ配筋装置を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
そして、本発明の鉄筋吊下げ配筋装置は、前記支持柱部が、上端部及び下端部にジャッキベースが取り付けられた支持柱からなり、前記ジャッキベースを前記作業空間の底盤部及び天盤部に押し付けて支持反力を得た状態で、前記支持柱が前記作業空間に固定されることが好ましい。
【0011】
また、本発明の鉄筋吊下げ配筋装置は、前記鉄筋把持部が、電磁石と、該電磁石に磁着可能な金属板を先端に備える鉄筋巻込み用ベルトとを含んで構成されており、前記鉄筋巻込み用ベルトによって前記補強用鉄筋を巻き込み、前記金属板を前記電磁石に磁着して前記補強用鉄筋を把持した状態から、前記補強用鉄筋を所定の位置まで吊り降ろした後に、前記電磁石の電源をオフにすることで把持した状態を開放して、前記ワイヤー部材と共に引き上げ可能となっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鉄筋吊下げ配筋装置によれば、既設の鉄筋コンクリート構造物の例えば配線類や配管類等による障害物の裏側の壁面部に形成された配筋用縦スリットに、補強用の鉄筋を、所定のピッチで縦方向にスムーズに配筋してゆくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係る鉄筋吊下げ配筋装置を用いて配筋用縦スリットに補強用鉄筋を配筋する状況を説明する略示断面図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係る補強用鉄筋の取付け構造によって耐震補強される既設コンクリート構造物を例示する略示断面図である。
【図3】本発明の好ましい一実施形態に係る鉄筋吊下げ配筋装置の構成を説明する側方から見た略示側断面図である。
【図4】(a),(b)は、鉄筋吊下げ配筋装置のガイドパイプ部やスライドパイプ部を進退させる状況を説明する上方から見た略示断面図である。
【図5】(a),(b)は、補強用の鉄筋を吊り降ろす状況を説明する側方から見た略示断面図である。
【図6】図7(a)を上方から見たクランプ部の略示上面図である。
【図7】図6を下方から見たクランプ部の略示後面図である。
【図8】(a),(b)は、鉄筋把持部の構成を説明する略示斜視図である。
【図9】既設の鉄筋コンクリート構造物の配線類や配管類等による障害物の裏側の壁面部に形成される配筋用縦スリットを説明する、(a)は(b)のA−Aに沿った略示正面図、(b)は(a)のB−Bに沿った略示断面図である。
【図10】(a)〜(d)は、本発明の好ましい一実施形態に係る鉄筋吊下げ配筋装置を用いて補強用鉄筋の配筋する状況を説明する略示断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示す本発明の好ましい一実施形態に係る鉄筋吊下げ配筋装置10は、例えば図2に示すような、ボックスカルバート形状の地下構造物として構築された既設の鉄筋コンクリート構造物20に対して耐震補強を行う際に、当該鉄筋コンクリート構造物20において共同溝として用いられている上段トンネル部21の地盤に面した側の壁面部22に、補強用鉄筋11を縦方向に所定のピッチで配筋するための装置として用いられる。本実施形態では、共同溝として使用されている上段トンネル部21には、内部に電力用のケーブル配線等の各種の配線類や配管類23が、支持架台24によって支持されて、耐震補強しようとする壁面部22に沿って設置されており、これらの配線類や配管類23が障害物となって、これらの裏側の壁面部22に形成された配筋用縦スリット25(図9(a)、(b)参照)に作業員の手作業によって補強用鉄筋11の配筋作業を行うことが困難な状況になっている。本実施形態の鉄筋吊下げ配筋装置10は、このような配線類や配管類23の裏側の壁面部22に形成された配筋用縦スリット25に、所定のピッチで縦方向にスムーズに補強用鉄筋11を配筋することを可能にする機能を備えている。
【0015】
なお、本実施形態では、地下構造物として構築された既設の鉄筋コンクリート構造物20の下段トンネル部26は、例えば地下鉄用のトンネルとなっている。
【0016】
そして、本実施形態の補強用鉄筋の鉄筋吊下げ配筋装置10は、既設の鉄筋コンクリート構造物20の壁面部22に縦方向に延設して形成された配筋用縦スリット25に、補強用鉄筋11を上方から吊り降ろして縦方向に所定のピッチで配筋する際に用いる配筋装置であって、縦方向に立設した状態で固定される支持柱部30と、支持柱部30に上下方向にスライド移動可能に取り付けられ、支持柱部30の所定の高さ位置に固定可能なクランプ部33と、クランプ部33に把持されて壁面部22に向けて横方向に延設するガイドパイプ部34と、ガイドパイプ部34に案内されて壁面部22に向けて横方向に進退摺動する、外側パイプ35及び内側パイプ36からなる2重構造のスライドパイプ部37とを含んで構成されている。スライドパイプ部37の外側パイプ35及び内側パイプ36の先端部には、ガイドプーリー38が各々取り付けられており、これらのガイドプーリー38に各々巻き付けられることで、一対のワイヤー部材39が、内側パイプ36の中空内部を介して、支持柱部30が固定された作業空間45からガイドプーリー38の下方部分に亘って、作業空間41からの操作によって進退可能に延設しており、且つワイヤー部材39のガイドプーリー38の下方部分側の先端部には、補強用鉄筋11を着脱可能に把持する鉄筋把持部40が各々取り付けられている。
【0017】
本実施形態では、鉄筋吊下げ配筋装置10を構成する支持柱部30は、図3にも示すように、上端部及び下端部にジャッキベース31が取り付けられた支持柱32からなり、ジャッキベース31を作業空間45を形成する上段トンネル部21の底盤部21a及び天盤部21bに押し付けて支持反力を得た状態で、支持柱32が作業空間45に固定されるようになっている。支持柱32としては、例えば直径が48.6mm程度の太さの足場パイプを用いることができる。
【0018】
鉄筋吊下げ配筋装置10を構成するクランプ部33は、図6及び図7(a),(b)にも示すように、例えば垂直に交わる軸心が立体交差状に配置された一対のパイプクランプ部33a,33bを備える公知のクランプ部材からなり、第1クランプレバー33cからの操作で開閉可能な縦方向の軸心を有する第1パイプクランプ部33aによって支持柱32を把持することで、支持柱部30の所定の高さ位置に、クランプ部33を固定することができるようになっている。また第2クランプレバー33dからの操作で開閉可能な横方向の軸心を有する第2パイプクランプ部33bによってガイドパイプ部34を把持することで、ガイドパイプ部34を、壁面部22に向けて横方向に延設させた状態で、支持柱部30に固定することができるようになっている。
【0019】
ガイドパイプ部34としては、図3〜図5(a),(b)に示すように、例えば直径が43mm程度、長さが733mm程度の鋼管パイプを用いることができる。ガイドパイプ部34の側面には、これの延設方向に沿って、後述する外側パイプ35や内側パイプ36の側面に一体接合されたスライドハンドル35a,36aを突出させて、これのスライド移動を案内するガイドレール溝34a(図7(a),(b)参照)が、ガイドパイプ部34の両端部を除く略全長に亘って切り込み形成されている。ガイドパイプ部34は、クランプ部33の第2パイプクランプ部33bによって把持される位置を調整することによって、壁面部22との離間距離を適宜調整することができる。ガイドパイプ部34の中空内部には、2重構造のスライドパイプ部37が、進退摺動可能に装着される。
【0020】
スライドパイプ部37は、図3〜図5(a),(b)に示すように、外側パイプ35と内側パイプ36とからなる2重構造を備える。外側パイプ35としては、例えば直径が34mm程度、長さが753mm程度の鋼管パイプを用いることができる。外側パイプ35には、これの後端部分の側面から突出して、スライドハンドル35aが一体接合されて設けられている。スライドハンドル35aよりも前方部分の側面には、内側パイプ36に一体接合されたスライドハンドル36aを突出させると共に、これのスライド移動を案内する、ガイドレール溝35b(図7(a),(b)参照)が切り込み形成されている。内側パイプ36としては、例えば直径が22mm程度、長さが930mm程度の鋼管パイプを用いることができる。内側パイプ36には、これの後端部分の側面から突出して、スライドハンドル36aが一体接合されて設けられている。
【0021】
また、本実施形態では、外側パイプ35や内側パイプ36の先端部には、例えば支持ブラケットを介してガイドプーリー38が各々取り付けられている。これらのガイドプーリー38には、各々、ワイヤー部材39が巻き付けられる。ワイヤー部材39には、ガイドプーリー38から下方に延設する部分の先端部に鉄筋把持部40が各々取り付けられ、ワイヤー部材39の他方の部分は、各々内側パイプ36の中空内部を介して、支持柱部30が固定された作業空間45まで延設している。作業空間45において、各ワイヤー部材39の進退操作を行うことによって、鉄筋把持部40を介して吊り下げた補強用鉄筋11を、吊り降ろしたり、吊り上げたり、傾けたりすることができるようになっている。
【0022】
本実施形態では、鉄筋把持部40は、図8(a),(b)に示すように、好ましくは、電磁石41と、電磁石41に磁着可能な金属板42を先端に備える鉄筋巻込み用ベルト43とを含んで構成されている。鉄筋把持部40は、鉄筋巻込み用ベルト43によって補強用鉄筋11を巻き込み、金属板42を電磁石41に磁着して補強用鉄筋11を把持した状態から、補強用鉄筋11を所定の位置まで吊り降ろした後に、電磁石41の電源をオフにすることで把持した状態を開放して、ワイヤー部材39と共に引き上げ可能となっている。電磁石41に通電するための配線もまた、内側パイプ36の中空内部を介して作業空間45まで延設しており、作業空間45での操作によって、鉄筋把持部40を開放することが可能となっている。また、内側パイプ36の先端部や鉄筋把持部40に、監視カメラを適宜取り付けておき、配筋用縦スリット25の内部の状況を確認しながら、補強用鉄筋11の配筋操作を行うようにすることが好ましい。
【0023】
本実施形態では、上述の構成を備える鉄筋吊下げ配筋装置10を使用して、例えば以下のようにして、配線類や配管類23の裏側の壁面部22に形成された配筋用縦スリット25に、補強用鉄筋11を縦方向に所定のピッチで配筋する。
【0024】
ここで、既設の鉄筋コンクリート構造物20の共同溝として用いられている上段トンネル部21に設置された配線類や配管類23の裏側の壁面部22に、配筋用縦スリット25を形成するには、例えば図9(a),(b)に示すように、例えば公知のコアボーリング装置(図示せず)を使用して、壁面部22にコアボーリング孔29を穿孔形成する。コアボーリング孔29を穿孔形成する作業は、例えば配線類や配管類23を支持して壁面部22に複数段に取り付けられている支持架台24の間の空間部分26a,26bや、これらの上方又は下方の空間部分27a,27bから、例えば壁面部22に対して垂直な方向に向けて、コアボーリング装置の穿孔部を回転さながら圧入することによって容易に行うことができる。またこれによって、例えば壁面部22の内側面側に配筋された既存の鉄筋28aを回避した位置において、好ましくは壁面部22の外側の地盤側に配筋された既存の鉄筋28bに致る手前までの深さで、複数のコアボーリング孔29を、縦方向に一列に並べた状態で容易に形成することができる。
【0025】
複数のコアボーリング孔29を形成したら、各々のコアボーリング孔29を縦方向に繋げて配筋用縦スリット25を形成する。コアボーリング孔29を縦方向に繋げる作業は、例えば各々のコアボーリング孔29に、又は適宜選択したコアボーリング孔29に、複数段に取り付けられた支持架台24の間の空間部分26a,26bや、これら上方又は下方の空間部分27a,27bを介して、例えば上述の特許文献1で用いた装置と同様のウォータージェット装置(図示せず)の噴射ノズル部を挿入し、上方又は下方に向けてウォータージェットを噴射することによってコンクリートを切削する。これによって、既存の鉄筋28aを切断することなく露出させた状態で、上下のコアボーリング孔29を繋げるようにして、縦方向に連続して延設する配筋用縦スリット25を、コアボーリング孔29の深さに相当する例えば500mm程度深さで、且つ例えば70mm程度の幅となるように、容易に形成することができる。
【0026】
このような配筋用縦スリット25を、上段トンネル部21のトンネル軸方向に所定の間隔をおいて、配線類や配管類23の裏側の壁面部22に複数列に形成したら、本実施形態の鉄筋吊下げ配筋装置10を使用して、各々の配筋用縦スリット25に補強用鉄筋11を、作業員の手によって配筋用縦スリット25に直接配筋することなく、例えば作業空間45からの遠隔操作によって、補強用鉄筋11を上方から吊り降ろして縦方向に所定のピッチで配筋する。
【0027】
ここで、補強用鉄筋11は、本実施形態では、例えば29mm程度の直径を有する異形鉄筋となっている。また、補強用鉄筋11は、鉄筋コンクリート構造物20の壁面部22の内側面側に配筋されている既存の鉄筋28aのうちの特に帯状鉄筋と、配筋用縦スリット25の最深部との間の間隔部分に、斜めに吊り下げた状態で吊り降ろし可能な長さとして、例えば480mm程度の長さを有している。さらに、補強用鉄筋11は、縦方向の所定のピッチとして、例えば200mm程度のピッチで各配筋用縦スリット25に配筋されると共に、隣接する配筋用縦スリット25間のピッチに相当する横方向のピッチとして、例えば500mm程度のピッチで壁面部22に配筋される。
【0028】
また、本実施形態では、図1に示すように、配筋用縦スリット25に上方から吊り降ろされる補強用鉄筋11は、配筋される所定のピッチに対応する長さを有するスペーサーロッド13の両端に上部連結台14と下部受け台15とを取り付けた少なくとも2本のスペーサー治具12を、上部連結台14を介して連結した状態で吊り降ろされるようになっており、下部受け台15は、開放側を下方に向けた凹受け部を備えており、この凹受け部を、先行して配筋された下段の補強用鉄筋11’の上部に載置することで補強用鉄筋11を下段の補強用鉄筋11’に支持させて、配筋用縦スリット25に補強用鉄筋11を縦方向に所定のピッチで配筋できるようになっている。
【0029】
補強用鉄筋11を配筋用縦スリット25に配筋するには、例えば支持柱部30を固定して鉄筋吊下げ配筋装置10を作業空間45にセットした後に、図10(a)〜(d)に示すように、配筋用縦スリット25の最下部に配筋される補強用鉄筋11を、最下部スペーサー治具50を使用して、最下段の支持架台24の下方の空間部分27bからの作業員の手作業によって配筋した後(図10(a)参照)に、この最下部の補強用鉄筋11を先行して配筋された下段の補強用鉄筋11’として、鉄筋吊下げ配筋装置10を用いて、好ましくは支持架台24の上方の空間部分27aから、2段目の補強用鉄筋11を、2本のスペーサー治具12を連結した状態で、下部受け台15の凹受け部16が下段の補強用鉄筋11’の上部に載置されるまで吊り降ろす(図10(b)参照)。
【0030】
ここで、補強用鉄筋11を吊り下げる際に、補強用鉄筋11は、ガイドパイプ部34によってガイドされるスライドパイプ部37の壁面部22に向けた進退長さや、外側パイプ35に対する内側パイプ36の進退長さや、或いはガイドプーリー38に巻き付けられた一対のワイヤー部材39の進退長さを適宜調節して、壁面部22の内側面側に配筋されている既存の鉄筋28aのうち特に帯状鉄筋に引っ掛からないように、例えば斜めにした状態や水平にした状態で、適宜姿勢変更させながら吊り降ろして行くことができる。また、上下に隣接する2段の補強用鉄筋11に取り付けられる各2本のスペーサー治具12は、下段のスペーサー治具12の上部連結台14と、上段のスペーサー治具12の下部受け台15とが重なり合わないように、これらを横方向にずらした状態で各補強用鉄筋11に取り付けておくことが好ましい。
【0031】
下部受け台15の凹受け部を下段の補強用鉄筋11’の上部に載置して2段目の補強用鉄筋11を配筋したら、引き続いて、当該配筋した補強用鉄筋11を先行して配筋された下段の補強用鉄筋11’として、さらに上段の補強用鉄筋11を、2本のスペーサー治具12を連結した状態で、下部受け台15の凹受け部16が下段の補強用鉄筋11’の上部に載置されるまで、順次吊り降ろしてゆく(図10(c)参照)。
【0032】
このようにして、複数段の補強用鉄筋11を、配線類や配管類23の裏側の配筋用縦スリット25の内部に、本実施形態の鉄筋吊下げ配筋装置10を用いて、縦方向に所定のピッチでスムーズに配筋してゆくことが可能になる(図10(d)参照)。
【0033】
そして、図10(d)に示すように、配線類や配管類23の裏側の配筋用縦スリット25の内部に、複数段の補強用鉄筋11を縦方向に所定のピッチで配筋したら、配筋用縦スリット25の壁面部22の内側面側の開口を型枠で閉塞した後に、配筋用縦スリット25の内部に、これの下方部分から例えば無収縮モルタルを注入充填して固化させることにより、既設の鉄筋コンクリート構造物20の壁面部22の耐震補強工事が終了する。
【0034】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば本発明の鉄筋吊下げ配筋装置を用いて補強用鉄筋を配筋することで補強される既設の鉄筋コンクリート構造物は、ボックスカルバート形状の地下構造物の壁面部である必要は必ずしも無く、その他の種々の既設の鉄筋コンクリート構造物を補強用鉄筋によって補強する際の装置として、本発明を採用することができる。また、配筋作業の邪魔になる障害物は、配線類や配管類以外の障害物であっても良い。さらに、本発明の鉄筋吊下げ配筋装置を用いて配筋される補強用鉄筋は、スペーサー治具を連結した状態で吊り降ろされるものである必要は必ずしもなく、補強用鉄筋を単独で吊り降ろして配筋する際にも本発明の鉄筋吊下げ配筋装置を用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
10 鉄筋吊下げ配筋装置
11 補強用鉄筋
12 スペーサー治具
20 既設の鉄筋コンクリート構造物
22 壁面部
23 配線類や配管類
24 支持架台
25 配筋用縦スリット
28a,28b 既存の鉄筋
29 コアボーリング孔
30 支持柱部
31 ジャッキベース
32 支持柱
33 クランプ部
34 ガイドパイプ部
35 外側パイプ
36 内側パイプ
37 スライドパイプ部
38 ガイドプーリー
39 ワイヤー部材
40 鉄筋把持部
41 電磁石
42 金属板
43 鉄筋巻込み用ベルト
45 作業空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の鉄筋コンクリート構造物の壁面部に縦方向に延設して形成された配筋用縦スリットに、補強用鉄筋を上方から吊り降ろして縦方向に所定のピッチで配筋する際に用いる鉄筋吊下げ配筋装置であって、
縦方向に立設した状態で固定される支持柱部と、該支持柱部に上下方向にスライド移動可能に取り付けられ、該支持柱部の所定の高さ位置に固定可能なクランプ部と、該クランプ部に把持されて前記壁面部に向けて横方向に延設するガイドパイプ部と、該ガイドパイプ部に案内されて前記壁面部に向けて横方向に進退摺動する、外側パイプ及び内側パイプからなる2重構造のスライドパイプ部とを含んで構成されており、
前記スライドパイプ部の前記外側パイプ及び前記内側パイプの先端部には、ガイドプーリーが各々取り付けられており、これらのガイドプーリーに各々巻き付けられることで、一対のワイヤー部材が、前記内側パイプの中空内部を介して、前記支持柱部が固定された作業空間から前記ガイドプーリーの下方部分に亘って、前記作業空間からの操作によって進退可能に延設しており、
且つ前記ワイヤー部材の前記ガイドプーリーの下方部分側の先端部には、前記補強用鉄筋を着脱可能に把持する鉄筋把持部が各々取り付けられている鉄筋吊下げ配筋装置。
【請求項2】
前記支持柱部は、上端部及び下端部にジャッキベースが取り付けられた支持柱からなり、前記ジャッキベースを前記作業空間の底盤部及び天盤部に押し付けて支持反力を得た状態で、前記支持柱が前記作業空間に固定される請求項1記載の鉄筋吊下げ配筋装置。
【請求項3】
前記鉄筋把持部は、電磁石と、該電磁石に磁着可能な金属板を先端に備える鉄筋巻込み用ベルトとを含んで構成されており、前記鉄筋巻込み用ベルトによって前記補強用鉄筋を巻き込み、前記金属板を前記電磁石に磁着して前記補強用鉄筋を把持した状態から、前記補強用鉄筋を所定の位置まで吊り降ろした後に、前記電磁石の電源をオフにすることで把持した状態を開放して、前記ワイヤー部材と共に引き上げ可能となっている請求項1又は2記載の鉄筋吊下げ配筋装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−132247(P2012−132247A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286435(P2010−286435)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】