説明

鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材との異種金属溶接接合体

【課題】 従来の鋼と5000系アルミニウム合金など鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材の接合技術の背景に鑑み、これらの不利や問題点を全面的に解消し、同質部材同士の溶接と実質的に変わらない優れた接合強度と高い生産性などの利点を享受し得る異種金属接合体を提供する。
【解決手段】 本発明に係る異種金属溶接接合体は、鉄系合金部材1とアルミニウム系合金部材2とが鉄系合金部材1側からの入熱により溶接された接合体であって、鉄系合金部材1において溶解凝固した鉄系合金溶解凝固部Bと、アルミ合金部材2に溶け込んで凝固した鉄系合金溶け込み凝固部Aと、アルミニウム系合金部材2において溶解凝固したアルミニウム系合金溶解凝固部Gとが連続的に一体に構成されてなる溶接凝固部を有するとともに、アルミニウム系合金溶解凝固部Gが粒径3μm以下の結晶粒で構成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材とを溶接により接合して得られる接合体に関し、特にその溶接部の接合強度に優れた異種金属溶接接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境改善のためコストパフォーマンスのある自動車の軽量化による燃費改善とリサイクル性が強く求められている。
【0003】
アルミニウム(以下、「アルミ」と略称することがある。)の比重は鋼の比重7.8に対して2.7と小さく、耐食性、リサイクル性に優れ、比強度が鋼の2倍程度と高く、押出工法により複雑な形状の素材を経済的に得られることなどの特徴を有しており、自動車の軽量化に望ましい金属である。反面、アルミは鋼に比べて縦弾性係数が約1/3、強度が1/2以下と小さく、熱伝導性が良く(熱伝導率で約3倍)、凝固収縮率が大きいため溶接が鋼より難しく、鋼より材料コストが高いなど車の素材として使用し難い面も有している。
【0004】
したがって、鋼とアルミの各々の利点を活かしたハイブリッド化ができれば、自動車が求めているニーズにマッチした対応できることになる。
【0005】
このハイブリッド化を可能にするためには接合特性に優れた接合技術が必須になる。
【0006】
ところが、鉄系合金とアルミ系合金とを溶解して直接接合すると脆い金属間化合物を生成し、そのために十分な接合強度が得られず、実用化が極めて難しかった。このため、マグネシウムを含む5000系のアルミ合金が使用し難いロウ付け法・摩擦圧接法、あるいは部材同士を機械的に接合するため、接合材の形状、生産性、接合付帯設備などに制約がつくメカニカル接合法、使用対象部材の制約が大きいインサート材接合法が実用化されてきた。
【0007】
しかしこれらの接合法はいずれも以下のような不利や問題を有しており、その制約が多く、そのため鋼とアルミの各々の特徴を活かしたハイブリッド化がなかなか進展できなかった。
(メカニカル接合法)
ボルト接合、リベット接合、ネジ接合、メカニカルクリンチ、ヘミング、メカニカル成形接合など、部材同士を機械的に接合する方法である。しかし、この方法は、接合部品の形状制約、接合精度、生産性、および汎用性などの面で同質材料(鋼同士など)の溶接より一般的に劣る。
(ロウ付け法)
部材同士を媒介となるロウ材を溶かして接合する方法である。この方法は鋼とアルミの接合法としても提案(特許文献1など)されてはいるが、フラックスにより鋼、アルミの酸化皮膜を除去し、母材を溶解することなく、両金属の活性面とロウ材とで適切な化合物を生成することが必要になる。この適切な化合物を得るためロウ材の材料、接合品の材質・形状、接合強度、接合品質の信頼性に制約が付される。したがって、接合の作業性、生産性、汎用性はやはり、同質材料(鋼同士など)の溶接より一般的に不利を伴う。
(摩擦圧接法)
部材同士を加圧しながら回転させ、その際の摺動に伴う摩擦熱を利用した固相接合である。しかし、この方法は加圧回転が必要なことから接合部品に形状制約があり、接合で生じるバリの処理が必要なこと、ビード溶接のような長手方向の溶接が難しいことやMg含有アルミ合金(5000系)の場合は酸化物(MgO)の発生により溶接が困難になるなど作業性、汎用性、生産性の面でやはり同質材料(鋼同士など)の溶接より一般的に劣る。
(インサート材接合法)
部材同士間にクラッド材をインサートしてスポット溶接などによって接合する方法である。しかし、この方法はクラッド材のインサートに伴う部品形状に制約が付されることと、作業性に劣ることおよびコスト面の課題を有し、やはり同質材料(鋼同士など)の溶接より一般的に劣るものである。
【特許文献1】特開平5−111757号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来の鋼と5000系アルミニウム合金など鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材との接合技術の背景に鑑み、これらの不利や問題点を全面的に解消し、同質部材同士の溶接と実質的に変わらない優れた接合強度と高い生産性などの利点を享受し得る画期的な異種金属接合体ならびにその接合技術の開発と実用化をその課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような課題の解決のために完成されたものであって、その要旨とする特徴は以下のとおりである。
(1)鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材とが鉄系合金部材側からの入熱により溶接された異種金属溶接接合体であって、前記鉄系合金部材において溶解凝固した鉄系合金溶解凝固部と、前記アルミ合金部材に溶け込んで凝固した鉄系合金溶け込み凝固部と、前記アルミニウム系合金部材において溶解凝固したアルミニウム系合金溶解凝固部とが連続的に一体に構成されてなる溶接凝固部を有するとともに、前記アルミニウム系合金溶解凝固部が粒径3μm以下の結晶粒で構成されてなることを特徴とする異種金属溶接接合体。
(2)前記アルミニウム系合金溶解凝固部の厚みが30〜100μmである請求項1に記載の異種金属溶接接合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた接合強度を備えた鉄系合金部材とアルミ系合金部材の異種金属接合体を提供することができる。この溶接法は鉄系合金とアルミ系合金とが直接接合できるため高い生産性を実現でき、かつ強度部材用の5000系アルミ合金の接合も可能になることより、適用対象部材が拡がり、かつ接合部材強度の向上に繋がる。このように本発明はこの種技術分野における実用性の面で顕著な効果を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者は鋼などを素材とする鉄系合金部材と5000系アルミ合金を素材とするアルミ系合金部材の接合について、従来から困難とされてきた溶接法を見直し、実現の可能性があるかどうかを改めて試みることにした。そこで、各種の溶接実験、検討を進めた結果、レーザ溶接などの入熱密度ならびにアスペクト比の高い溶接法を利用して、鉄系合金部材側から入熱して、主としてアルミ系合金部材側から急速に抜熱、冷却することで接合部を急冷凝固させることにより、両部材の接合部を鉄にアルミが過飽和に固溶した過飽和固溶体組織として接合強度を高めることができることを確認し、先に特許出願(特願2004−213426)を行った。
【0012】
さらに継続して実験を行い、これらの結果を総合的に解析したところ、鉄系合金部材側から入熱により溶解し、アルミ系合金部材側からの抜熱、急冷により凝固した鉄系合金部材の領域における鉄系合金の溶解凝固部(鉄系合金溶解凝固部)と、鉄系合金部材の領域で同様に溶解したのちアルミ系合金部材の領域に溶け込んで同様に凝固した鉄系合金の溶け込み凝固部(鉄系合金溶け込み凝固部)とによって構成された溶接凝固部(鉄系合金溶接凝固部)の凝固プロフィールがその接合強度や品質に重要な影響を与えることを解明し、別途特許出願を行った(特願2004−324027)。
【0013】
そして、上記実験結果についてさらに詳細な解析を行ったところ、溶解した鉄系合金がアルミ系合金部材に溶け込んで凝固し鉄系合金溶け込み凝固部を形成する際に、その近傍のアルミ系合金も溶解し凝固してアルミニウム系合金凝固部を形成するが、このアルミニウム系合金凝固部がアルミ系合金部材側からの抜熱、急冷により微細化した結晶粒からなる組織を有することが、上述した鉄にアルミが過飽和に固溶した過飽和固溶体組織や鉄系合金溶接凝固部の凝固プロフィールともあいまって接合体の接合強度や品質に重要な影響を与えていることが判明し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
図1に本願発明に係る溶接接合体の模式的な断面図を示している。ここにおいて、1は鉄系合金部材、2はアルミ系合金部材であり、3は両部材の接合面である。この鉄系合金部材1とアルミ系合金部材2にかけてワインカップ状を呈した部分は、本接合体の溶接により溶解、再凝固して形成された溶接凝固部(以下、単に「凝固部」と略称することがある。)を示している。
【0015】
この溶接凝固部は、鉄系合金部材1の領域において鉄系合金がそのまま溶解、凝固したカップ部に相当する鉄系合金溶解凝固部Bと、鉄系合金部材1の領域で溶解した鉄系合金がその後にアルミ系合金部材2の領域に溶け込んで凝固した把持部に相当する砲弾状の鉄系合金溶け込み凝固部Aと、上記溶解した鉄系合金が侵入したことによりいったん溶解しその後凝固した、上記砲弾状の鉄系合金溶け込み凝固部Aを包み込むアルミニウム系溶解凝固部Gとが、接合面3を貫通し、順次連続した状態で一体的に形成されたものである。
【0016】
鉄系合金溶解凝固部Bは実質的に鉄系合金の固溶体相であり、鉄系合金溶け込み凝固部Aは鉄系合金にアルミ系合金のアルミが5〜40%過飽和に固溶した過飽和固溶体相となっており、アルミの固溶量はアルミ系合金部材との境界面に近いほど高くなっている。そして、アルミニウム系合金溶解凝固部Gは実質的にアルミ系合金である。いずれも、EPMAの面分析、AES分析の結果などにより確認されている。鉄系合金溶け込み凝固部Aとアルミニウム系溶解凝固部Gとは鉄系合金部材1とアルミ系合金部材2との実際の溶接接合部となり、その高い接合強度を維持する上で重要な役割を担っている。この接合部には接合強度を著しく低下させる原因となる脆い金属間化合物は存在しない。この事実もAES分析で確かめられている。
【0017】
また、アルミニウム系合金溶解凝固部Gを介して砲弾状にアルミ系合金部材2に食い込んだ鉄系合金溶接接合部(A+B)は砲弾状部分全体の1次アンカー効果と、さらにこの砲弾状部の外面に形成された微細な凹凸部がアルミニウム系合金溶解凝固部Gを介してアルミ系合金部材2の内面に食込んで生じた2次アンカー効果の両方作用によりその接合強度が一層高められている。
【0018】
そして、アルミニウム系溶解凝固部Gが微細組織で構成されることにより、さらに具体的には粒径3μm以下の結晶粒で構成されることで最大限の接合強度と耐食性を確保することができる。
【0019】
すなわち、アルミニウム系溶解凝固部Gの結晶粒を3μm以下とすることにより、当該部位の材料特性(強度および耐食性)が母材であるアルミ系合金部材2の1.5倍以上に向上する(伊藤清文:「JRCM REPORT/アルミニウム系スーパーメタルの研究開発(終了報告)」,JRCM NEWS,No.190,2002年8月,p.2〜3参照)。この結果、上記鉄系合金溶接接合部(A+B)によるアンカー効果等とあいまって接合強度をより高めるとともに、異種材料間で発生しやすい電食反応にも耐えうる耐食性を確保できる。
【0020】
さらに、アルミニウム系溶解凝固部Gの厚みは30〜100μmとするのが好ましい。30μm未満では接合部を引き剥がそうとする力が働いたときに砲弾状の鉄系合金溶接接合部(A+B)を支持する力が不足するおそれが高くなり、いっぽう、100μmを超えるとアルミ系合金の溶解量が増えてアルミ系合金部材2中の熱影響部が拡大して母材強度が低下するおそれが高くなるためである。
【0021】
次に本発明接合体の製作に際しての好ましい溶接条件などについて述べる。
【0022】
まず、溶接方法としては炭酸ガスレーザ溶接、YAGレーザ溶接などのレーザ溶接法を採用することが有利である。このレーザ溶接法はアーク溶接法などと異なり、入熱密度(106W/cm2以上)が非常に高く、アスペクト比(溶け込み深さ/溶け込み幅)が極めて高い溶接ビードが得られる特徴がある。したがって、鉄系合金とアルミ系合金の接合部の溶け込み幅を小さくした状態で溶解接合に十分な入熱を瞬時に行うことができるため、入熱後の冷却が急速(冷却速度:103K/s以上)に進行し(「自己冷却」と呼ばれる。)、接合部を急冷凝固させることができ、これにより接合部において、鉄系合金側で数μm〜10μm以下の微細な急冷凝固組織でかつ過飽和固溶体相を得るとともに、アルミ系合金側で3μm以下の微細な急冷凝固組織を得ることができるのである。ちなみに、冷却速度をさらに上昇させて104K/s程度以上とすると、金属組織はアモルファス化する可能性が高くなり、さらに接合強度の上昇、耐腐食性の向上が期待できる。
【0023】
また、このレーザ溶接によって鉄系合金部材1とアルミ系合金部材2を溶接する場合は、その入熱を、熱反射の少なく、アルミより比重が大きくその自重をうまく利用して溶湯を食い込ませて前記溶け込み凝固部を容易に形成することが可能な、鉄系合金側から行うことが良い。
【0024】
十分な接合強度が得られるレーザ溶接条件は基本的には高エネルギー密度で鉄側から安定的に入熱し、比較的広い溶解幅を確保しながら溶解した十分の量の鉄を短時間にアルミ側に適量砲弾状に食い込ませ、これにより前述した1次と2次の両方のアンカー効果を発揮する図1の鉄系合金溶け込み凝固部Aの形成を可能にすることである。この条件を満たすために、図2に示すように、まず、鉄系合金部材(1)側からレーザ光(R)を照射して入熱を行い、溶融鉄(M)の内側に生成されたキーホール(K)内に金属蒸気(V)が封じ込められないようにし、この蒸気(V)による突沸を防ぐことが必要になる。また溶融鉄(M)が飛び散らないよう入熱を調整する必要がある。溶融鉄(M)がアルミ合金部材(2)に差し込むことにより凝固後鉄側表面に引けによる凹みが発生しやすい。凝固表面の過度な凹み発生を防ぐためには、入熱は溶接深さ方向だけでなく、凝固時に入熱周辺から溶融鉄(M)量を補充するため、幅方向にも行う必要がある。この幅方向の入熱はキーホール(K)生成に伴って得られる金属蒸気(V)を鉄表面上すなわちキーホール(K)の上方近傍でプラズマ発光させて、ここに発生したプラズマ雲(P)を継続的に維持させることが重要となる。
【0025】
そして、さらに優れた接合強度を得るために、接合部の冷却速度を103K/s以上、好ましくは104K/s以上に高めて、自己冷却によりアルミ系合金溶解凝固部Gを3μm以下の結晶粒からなる微細組織にする必要がある。接合部の冷却速度を高める手段としては、溶接速度の上昇、接合部材の質量増加による抜熱量の増加等の手段がある。しかしながら、溶接速度を上昇させるには単位時間当たりの入熱量を増加する必要があり上記溶融鉄(M)の突沸等の問題が生じるおそれがある。また、鉄系合金部材の質量を増加させるために例えばその厚みを増すと鉄系合金部材を貫通させるために溶接速度を低下させる必要があるので、却って冷却速度が低下する可能性が高く、厚みの代わりに幅や長さを増加させても鉄系合金は熱伝導率がそれほど高くないので十分な冷却速度が得られない。したがって、鉄系合金部材よりも熱伝導度が格段に高いアルミ系合金部材の質量を増加させる(すなわち、厚み、幅、長さのいずれか1つ以上を増加させる)のが最も効果的である。
【0026】
炭酸ガスレーザ溶接を用いて本発明接合体を製作する具体的な溶接条件としては、入熱の出力を700〜775Wとし、溶接速度を375〜400mm/分とすることが推奨される。
【0027】
以下に、鋼とアルミの良好な溶解接合品質が得られる本発明を実施例に基づいて詳述する。
【実施例】
【0028】
ステンレス管(SUS304,SUS316L)にアルミ棒またはアルミ管(A3003,A5052)を圧入したサンプルをレーザ溶接機(松下溶接システム社製YB−L150A8,ノズル径φ4またはφ5、溶接速度:400mm/分、出力形態;CW)を用いてステンレスパイプ側からレーザを照射し、溶接接合した。そしてこれらステンレス−アルミ接合体の接合強度および接合品質ならびにアルミ系合金溶解凝固部の結晶粒径を調査した結果を表1に示す。なお、接合強度および接合品質の評価基準は下記のとおりである。
【0029】
[接合強度]
◎:母材破断、○:継ぎ手効率75%以上、△:継ぎ手効率20%以上、75%未満、×:未接合または継ぎ手効率20%未満。
【0030】
[接合品質]
◎:接合界面が連続した特異組織からなり、かつ気泡欠陥、凹み異常、引け異常がないもの、○:接合界面が連続した特異組織からなるが、微小な気泡、凹み、引けの欠陥を有するもの、△:部分的に接合界面が特異組織からなるもの、×:未接合または接合界面が脆い化合物からなるもの。
【0031】
なお、アルミ系合金溶解凝固部の結晶粒径の調査は、接合部を強制的に引き剥がし、そのアルミ系合金部材側(以下、「アルミ側サンプル」と呼ぶ。)を30%リン酸溶液でエッチングしたのち顕微鏡撮影することにより行った。
【0032】
表1の実験結果から、アルミ系合金溶解凝固部の結晶粒径が本発明の範囲(3μm以下)を満たす実施例(No.1〜4、11、12、15、16)については、接合界面が良好で、引張試験においてすべて母材破断に至っており、優れた接合強度と接合品質を有していることが分かる。なお、これらの実施例については、アルミ系合金溶解凝固部の厚みはすべて本発明の範囲(30〜100μm)を満たしていた。
【0033】
いっぽう、未接合等のため結晶粒径の測定が不能または不実施であった比較例(No.5〜10、13,14,17)においてはそのほとんどが接合強度および接合品質ともに不良な結果を示した。
【0034】
以下に、接合強度および接合品質とも良好であった実施例2の溶接接合体について、接合部を引き剥がした後のアルミ側サンプルの組織観察を行った結果を示す。
【0035】
図3に示すように、アルミ系合金溶解凝固部は粒径3μm以下(平均粒径1μm程度)の結晶粒からなる組織を呈し、母材より明らかに微細化されているのが分かる。
【0036】
また、同アルミ側サンプルを30%リン酸溶液でエッチングすることにより、図4に示すように、母材の部分は腐食されてポーラスな組織になるのに対し、アルミ系合金溶解凝固部は腐食されずに緻密な組織が維持され、母材と明瞭に区別されて観察される。このことから、アルミ系合金溶解凝固部の組織は母材の組織より格段に耐食性に優れることが確認できた。また、同図よりアルミ系合金溶解凝固部の厚みは平均で80μm程度であることが分かる。
【0037】
また、同アルミ側サンプルをEPMAで面分析を行ったところ、アルミ系合金溶解凝固部内に鉄含有量50質量%程度の鉄リッチな部位が偏在することが判明したものの、この部位をEDXで分析した結果、少なくともFe−Al金属間化合物は生成していないことを確認した。
【0038】
さらに、同アルミ側サンプルをマイクロビッカース(Hv300g)で硬度分布を調査した結果、図5に示すように、アルミ系合金溶解凝固部内の鉄リッチな部位(黒色部)でHv269と高い硬度が測定されたものの、同部内のアルミ微細組織の部位(白色部)でHv60、アルミ熱影響部でHv50、アルミ母材でHv52であり、アルミの部位では硬度の変化は小さいことが分かった。
【0039】
なお、表1に示すように、アルミ管を用いた場合にはすべて比較例となっているのに対し、アルミ棒を用いた場合には溶接条件に依存するものの実施例となるものが多く存在する。このことから、肉薄のアルミ管を用いた場合は、接合部における冷却速度が不足して本発明の規定するアルミ系合金溶解凝固部での結晶粒径3μm以下の微細組織が得られにくいのに対し、肉厚のアルミ棒を用いた場合は、接合部における冷却速度が確保され本発明の規定するアルミ系合金溶解凝固部での結晶粒径3μm以下の微細組織が得られやすいことが分かる。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る溶接接合体の模式的な断面図である。
【図2】本発明におけるレーザ溶接による鉄系合金部材とアルミ系合金部材の接合時の状態を示す模式図である。
【図3】実施例における接合部アルミ側のミクロ組織を示す断面図である。
【図4】実施例における接合部アルミ側のエッチング状況を示す断面図である。
【図5】実施例における接合部アルミ側の硬度分布を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1:鉄系合金部材 2:アルミニウム系合金部材 3:接合面
A:溶け込み凝固部 B:溶解凝固部 G:アルミニウム系合金溶解凝固部
R:レーザ光 M:溶融鉄 K:キーホール V:金属蒸気
P:プラズマ雲


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系合金部材とアルミニウム系合金部材とが鉄系合金部材側からの入熱により溶接された異種金属溶接接合体であって、前記鉄系合金部材において溶解凝固した鉄系合金溶解凝固部と、前記アルミ合金部材に溶け込んで凝固した鉄系合金溶け込み凝固部と、前記アルミニウム系合金部材において溶解凝固したアルミニウム系合金溶解凝固部とが順次連続して一体に構成されてなる溶接凝固部を有するとともに、前記アルミニウム系合金溶解凝固部が粒径3μm以下の結晶粒で構成されてなることを特徴とする異種金属溶接接合体。
【請求項2】
前記アルミニウム系合金溶解凝固部の厚みが30〜100μmである請求項1に記載の異種金属溶接接合体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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