説明

鉄道車両における車両負荷軽減方法

【課題】利用客のために収集された乗車率等の既得情報を車両保守管理面に活用すること。
【解決手段】複数の車両が連結された鉄道車両における車両負荷軽減方法であって、ブレーキパッド摩耗量が、ブレーキパッド摩耗量を判定するための第3の閾値を超えていると判定されたときに、隣接車両間の乗車率差を判定するための第1段階の判定閾値である第1の閾値を、この第1の閾値よりも小さな閾値に変更するとともに、隣接車両間の乗車率差を判定するための第2段階の判定閾値である第2の閾値を、この第2の閾値よりも小さな閾値に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両における車両負荷軽減方法に関するものであり、特に、ブレーキパッド、車輪に対する負荷軽減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両内の混雑状況を把握するとともに、当該混雑状況を利用者に通知することによって、利用者を空いている車両に誘導して混雑の緩和を図ることを目的とした幾つかの発明が開示されている。
【0003】
例えば、車両に乗車する利用者が所持する乗車媒体の数を読み取り、これに基づく乗車状況のデータを、次駅以降の駅に設置されている表示手段に表示し、通知を行う乗車状況通知システムがある(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、車両内の乗客および駅構内の利用客に車両の混雑状況を文字表示および音声案内で知らせ、車両内の乗客および駅構内の利用客を空いている車両に誘導して混雑の緩和を図るようにした車両混雑状況案内装置がある(例えば、特許文献2)。
【0005】
さらに、列車の車両の乗車率を各車両に設けられた応荷重装置などによって導出される各車両の混雑状況の情報とホーム上の混雑状況とを、ホーム上に位置する乗客および駅構外に位置する人に通知するようにした乗車状況通知システムがある(例えば、特許文献3)。
【0006】
また、列車の車両ごとの乗車状況に基づいて、一の駅以降における列車の車両ごとの乗車状況を一の駅で列車に乗車予定の利用者に通知するようにした乗車状況通知システムがある(例えば、特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特開平08−167058号公報
【特許文献2】特開平11−291909号公報
【特許文献3】特開2000−190847号公報
【特許文献4】特開2005−324728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、上記特許文献などに示される従来技術のいずれも、列車内の乗客、あるいはプラットフォームや駅構内の利用客に対する所要情報の提供を目的としており、鉄道車両を保守管理する側に便宜を与えるものではなかった。
【0009】
一方、鉄道を運営管理する旅客鉄道会社は、安全かつ快適なサービスを提供する一方で、維持管理コストの削減という命題を追求して行かなければならない。このため、例えば利用客のために収集された乗車率等の既得情報に対し、車両保守管理面における活用への途が模索されていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、利用客のために収集された乗車率等の既得情報を車両保守管理面に活用するようにした、鉄道車両における車両負荷軽減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる鉄道車両における車両負荷軽減方法は、複数の車両が連結された鉄道車両における車両負荷軽減方法であって、前記各車両の車両重量を算出する車両重量算出ステップと、前記車両重量算出ステップによって算出された前記各車両ごとの車両重量に基づいて該車両ごとの乗車率を算出する乗車率算出ステップと、前記乗車率算出ステップによって算出された前記各車両ごとの乗車率に基づいて前記鉄道車両における隣接車両間の乗車率差を算出する乗車率差算出ステップと、前記隣接車両間の乗車率差と第1の閾値とを比較する乗車率差比較第1ステップと、前記乗車率差比較第1ステップの比較結果に基づいて、第1の案内メッセージを生成する第1の案内メッセージ生成ステップと、前記隣接車両間の乗車率差が前記第1の閾値よりも大きい場合に、さらに該第1の閾値よりも大きな値を持つ第2の閾値と比較する乗車率差比較第2ステップと、前記乗車率差比較第2ステップの比較結果に基づいて、第2の案内メッセージを生成する案内メッセージ生成第2ステップと、前記鉄道車両における各車両ごとの乗車率を利用客に通知するとともに、前記乗車率差比較第1ステップおよび前記案内メッセージ生成第1ステップ、または前記乗車率差比較第2ステップおよび前記案内メッセージ生成第2ステップの結果に応じて、前記第1の案内メッセージまたは前記第2の案内メッセージを付加的に表示する乗車状況通知ステップと、を有する乗車率制御ステップと、前記各車両ごとのブレーキパッド摩耗量を推定するブレーキパッド摩耗量推定ステップと、前記ブレーキパッド摩耗量と第3の閾値とを比較するブレーキパッド摩耗量比較ステップと、前記ブレーキパッド摩耗量比較ステップの比較結果に基づいて、前記第1の閾値および/または前記第2の閾値を変更する閾値変更ステップと、を有する閾値変更処理ステップと、を含み、前記ブレーキパッド摩耗量比較ステップにて前記ブレーキパッド摩耗量が前記第3の閾値を超えていると判定されたとき、前記閾値変更ステップは、前記第1の閾値を該第1の閾値よりも小さな閾値に変更するとともに、前記第2の閾値を該第2の閾値よりも小さな閾値に変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる鉄道車両における車両負荷軽減方法によれば、ブレーキパッド摩耗量が、ブレーキパッド摩耗量を判定するための第3の閾値を超えていると判定されたときに、隣接車両間の乗車率差を判定するための第1段階の判定閾値である第1の閾値を、この第1の閾値よりも小さな閾値に変更するとともに、隣接車両間の乗車率差を判定するための第2段階の判定閾値である第2の閾値を、この第2の閾値よりも小さな閾値に変更するようにしているので、隣接車両間の乗車率差が均一化される方向に制御され、ブレーキパッド摩耗量のバラツキの低減化を通じて、鉄道車両における車両負荷が軽減されるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる鉄道車両における車両負荷軽減方法および滑走低減方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1の説明に必要な鉄道車両の構成を示す図である。同図において、矢印で示す進行方向の1号車を先頭車両1とし、2,3号車を中間車両2,3、さらに4号車を後尾車両4として連結した鉄道車両5が構成されている。先頭車両1および後尾車両4は、車両間に構築された伝送路15に接続される運転制御部10、車両情報管理部12および応荷重信号発生部14を備えるとともに、車両情報管理部12には、表示器17a〜17dの表示を制御する表示制御部16、および所定の車両情報を入力するための車両情報入力部18が接続されている。中間車両2,3は、運転制御部10を除き、先頭車両1または後尾車両4と同等の構成とされる。なお、鉄道車両の外部(例えば、プラットフォーム、駅構内など)には、例えば無線回線によって車両情報管理部12と接続される表示制御器20、および表示制御器20と接続され、車両内の各表示器への表示情報と同様の情報を表示するための車外表示器22が備えられている。
【0015】
つぎに、実施の形態1にかかる鉄道車両における車両負荷軽減方法について図1〜図6−2を参照して説明する。ここで、図2は、本発明の実施の形態1にかかる車両負荷軽減方法のメインフローを示すフローチャートであり、図3は、図2のフローチャートにおける後半部のフローの詳細を示すフローチャートであり、図4は、図2のフローチャートにおける前半部のフローの詳細を示すフローチャートである。なお、図3のフローにおいて表示される案内表示の一例および案内メッセージのアナウンス例を、図5−1〜図6−2にそれぞれ示している。
【0016】
図2に示すように、実施の形態1にかかる処理フローは、ステップS20として実行される「ブレーキパッド摩耗量を考慮した閾値変更処理」と、ステップS10として実行される「乗車率制御処理」と、に区分される。
【0017】
ここで、ステップS10として実行される乗車率制御処理は、図3に示すフローに従う以下の処理が実行される。まず、各車両の車両重量が算出される(ステップS101)。車両重量の算出は、各車両に装備されている空気バネ(図示省略)のバネ圧に応じて変化する応荷重信号に基づいて行われる。この応荷重信号は、応荷重信号発生部14によって車両情報管理部12に伝達される。各車両情報管理部12は、伝達された応荷重信号に基づいて自車両の車両重量を算出するとともに、自車両の乗車率を算出する(ステップS102)。なお、算出された乗車率は、隣接車両の車両情報管理部12にも伝達され、当該乗車率の情報は、全車両の車両情報管理部12によって共有される。
【0018】
各車両情報管理部12は、隣接車両間の乗車率差を算出するとともに(ステップS103)、隣接車両間の乗車率差と所定第1の閾値(以下「閾値1」という)とを比較する(ステップS104)。ここで、隣接車両間の乗車率差の全てが閾値1(閾値1の値は正とする)よりも小さい場合には(ステップS104,Yes)、ステップS108の処理に移行する。一方、隣接車両間の乗車率差の少なくとも一つが閾値1よりも大きい場合には(ステップS104,No)、閾値1を超えた乗車率差について、さらに閾値1よりも大きな値を有する所定第2の閾値(以下「閾値2」という)との比較処理が行われる(ステップS105)。
【0019】
ここで、閾値1を超えた乗車率差の全てが閾値2(閾値2の値も正とする)よりも小さい場合には(ステップS105,No)、例えば、図5−1の乗車率現況の下部に示す案内メッセージ(第1の案内メッセージ)が生成されるとともに(ステップS106)、この第1の案内メッセージが付加された乗車率現況が表示される(ステップS108)。他方、閾値1を超えた乗車率差の一部に閾値2よりも大きいものがある場合には(ステップS105,Yes)、例えば、図6−1の乗車率現況の下部に示す案内メッセージ(第2の案内メッセージ)が生成されるとともに(ステップS107)、この第2の案内メッセージが付加された乗車率現況が表示される(ステップS108)。なお、乗車率差の全てが閾値1よりも小さい場合には(ステップS104,Yes)、案内メッセージのない乗車率現況が表示される(ステップS108)。
【0020】
図5−1に示すような乗車率現況を車内表示することにより、概略正確な車両内の混雑状況を乗客に伝達することができるので、乗客の行動心理に働きかけることができ、車両内の乗客数の車両間に渡る極端な偏りを解消することが可能となる。なお、乗車率現況の車内表示に併せて図5−2に示すような車内アナウンスを行うようにすれば、乗客数の偏り解消に関し、より効果的である。
【0021】
また、図6−1に示すような乗車率現況を車内表示することにより、混雑度の低い車両への移動を促すことができるので、車両内の乗客数を均一化する方向に誘導することが可能となる。なお、乗車率現況の車内表示に併せて図6−2に示すような車内アナウンスを行うようにすれば、乗客数の均一化に関し、より効果的である。
【0022】
なお、図5−1および図6−1に示すような乗車率現況を、例えばプラットフォーム、駅構内などに設置された車外表示器22に表示するようにすれば、車両間に渡る乗客数の偏りの解消、および車両内の乗客数の均一化に関し、より効果的である。
【0023】
つぎに、ステップS20として実行される閾値変更処理について説明する。この閾値変更処理では、図4のフローに従う以下の処理が実行される。
【0024】
まず、各車両ごとに、ブレーキパッドの摩耗量データが入力される(ステップS201)。ブレーキパッドの摩耗量データは、車両の定期検査時等において収集され、車両情報入力部18から入力されて車両情報管理部12に伝達される。また、各車両情報管理部12は、ブレーキパッドの摩耗量を推定する(ステップS202)。ブレーキパッドの摩耗量は、応加重信号に基づいて算出された車両情報や、運転制御部10から出力されるブレーキ指令信号などに基づき、各車両情報管理部12によって演算されるとともに、ブレーキ指令信号の都度その値が更新される。
【0025】
つぎに、各車両情報管理部12は、ブレーキパッドの摩耗量と所定第3の閾値(以下「閾値3」という)とを比較する(ステップS203)。ここで、ブレーキパッドの摩耗量が閾値3(閾値3の値は正とする)よりも小さい場合には(ステップS203,Yes)、この処理フローを抜け出る(図2のステップS10に移行)。一方、ブレーキパッドの摩耗量が閾値3よりも大きいものが1以上ある場合には(ステップS203,No)、閾値3を超えた車両における閾値1(図3のステップS104参照)を閾値1'(0<閾値1'<閾値1)に変更するとともに、閾値3を超えた車両における閾値2(図3のステップS105参照)を閾値2'(0<閾値2'<閾値2)に変更し(ステップS204)、本処理フローを抜け出る。
【0026】
つぎに、実施の形態1における閾値変更処理の必要性について説明する。まず、ブレーキパッドの摩耗は、ブレーキ力に比例する。また、ブレーキ力は車両重量、すなわち乗客数に依存して増大する。したがって、乗客数をコントロールすることによって、ブレーキパッド摩耗量のバラツキの低減化が可能となる。もし、ブレーキパッド摩耗量が極端に突出している車両があった場合には、例えば定期検査のときに、当該車両のみを交換するといった保守作業を強いられる。一方、各車両におけるブレーキパッド摩耗量のバラツキを低減化することができれば、列車ごとの入れ替えを行った際にブレーキパッドの交換作業を併せて行えばよく、整備のためのコスト、予備車両を確保するためのコストなどの削減が可能となる。このため、ブレーキパッド摩耗量に基づく閾値変更処理は、鉄道車両の整備性を向上させ、ひいては保守管理におけるコスト削減に繋がることになる。
【0027】
上記の処理を、具体例を用いて説明する。図5−1および図6−1に示した乗車率現況では、例えば、閾値1は10%、閾値2は20%に設定されている。ここで、上記ステップS203の比較処理において、例えば4号車のブレーキパッドの摩耗量が閾値3を超えているとの判定がなされたと仮定する。このとき、4号車の閾値1(10%)は閾値1'(例えば5%)に変更され、閾値2(20%)は閾値2'(例えば10%)に変更される。なお、1〜3号車の各閾値は変更されない。
【0028】
上記のような閾値変更処理を行うことにより、4号車以外の車両重量の増加に比べて4号者の車両重量の増加が抑制されることとなるので、4号者のブレーキパッドの摩耗量の減少を抑制することができる。
【0029】
なお、本実施の形態では、閾値1および閾値2として、2つの閾値を有する場合について説明したが、3つ以上の閾値を設定して判定し、判定結果に応じた案内メッセージを表示およびアナウンスしてもよい。
【0030】
また、ブレーキパッドの摩耗量を判断する際に、一つの閾値(閾値3)を用いるようにしているが、ブレーキパッドの消耗度を複数の閾値を用いて多段階に判定するようにしてもよい。この場合、閾値1'および閾値2'として、それぞれ複数の閾値を設定することができる。
【0031】
また、本実施の形態では、ブレーキパッドの摩耗量が車両情報入力部18から入力されるものとして説明したが、運転制御部10、もしくは運転制御部10に接続される運転制御台(図示省略)を通じて当該摩耗量に関する情報を入力するようにしてもよい。
【0032】
また、本実施の形態では、各車両情報管理部12は、算出した乗車率等の情報を隣接車両の車両情報管理部12にも伝達するようにしているが、この実施態様に限定されるものではない。例えば、先頭車両1である1号車の車両情報管理部12がマスタ装置として、他の車両情報管理部12の情報を収集するとともに、全ての車両の乗車率を算出して他の車両の車両情報管理部12に伝達するような実施態様であっても構わない。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ブレーキパッド摩耗量が、ブレーキパッド摩耗量を判定するための第3の閾値を超えていると判定されたときに、隣接車両間の乗車率差を判定するための第1段階の判定閾値である第1の閾値を、この第1の閾値よりも小さな閾値に変更するとともに、隣接車両間の乗車率差を判定するための第2段階の判定閾値である第2の閾値を、この第2の閾値よりも小さな閾値に変更するようにしているので、隣接車両間の乗車率差が均一化される方向に制御され、ブレーキパッド摩耗量のバラツキの低減化を通じて、鉄道車両における車両負荷を軽減することができる。
【0034】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2にかかる車両負荷軽減方法のメインフローを示すフローチャートであり、図8は、図7のフローチャートにおける前半部のフローの詳細を示すフローチャートである。なお、鉄道車両の構成については、実施の形態1の構成と同一あるいは同等であり、これらの各構成部には、同一符号を付して示すとともに、その説明を省略する。
【0035】
つぎに、実施の形態2にかかる車両負荷軽減方法について図1、図7、図8の各図面を参照して説明する。
【0036】
図7に示すように、実施の形態2にかかる処理フローは、ステップS30として実行される「滑走による車輪の摩耗・変形を考慮した閾値変更処理」と、ステップS10として実行される「乗車率制御処理」と、に区分される。なお、「乗車率制御処理」のステップは、実施の形態1と同一であるため、以下の説明では、図8の処理フローに従う閾値変更処理を中心に説明する。
【0037】
まず、車両情報管理部12は、雨天信号をモニタする(ステップS301)。なお、雨天信号のモニタは、例えば雨天時に作動されるワイパー作動信号に基づいて行うことができるが、運転士または車掌の手動入力によって雨天信号が出力される実施態様等を含み、降雨を検知することにより雨天信号を出力するものであれば、いずれの実施態様であっても構わない。
【0038】
各車両情報管理部12は、雨天信号の存在を判定する(ステップS302)。ここで、雨天信号が存在しない場合には(ステップS302,No)、この処理フローを抜け出る(図7のステップS10に移行)。一方、雨天信号が存在する場合には(ステップS302,Yes)、先頭車両1における閾値1(図3のステップS104参照)を閾値1''(閾値1''>0、かつ、閾値1''<閾値1)に変更するとともに、先頭車両1における閾値2(図3のステップS105参照)を閾値2''(閾値2''>0、かつ、閾値2''<閾値2)に変更する閾値2'(閾値2'>0、かつ、閾値2'<閾値2)に変更し(ステップS204)、本処理フローを抜け出る。
【0039】
つぎに、実施の形態2における閾値変更処理の必要性について説明する。まず、滑走とは、鉄道車両の車輪がレール面上を回転することなく滑って進行する状態を指していう。車輪の滑走は、車輪の摩耗・変形の原因となり、ブレーキ距離の延伸や乗り心地の悪化、列車走行制御の低下に繋がるとともに、摩耗・変形が激しい場合には、車輪形状を元の良好な状態に戻すための転削と呼ばれる保守作業を強いられる。したがって、車輪の滑走を回避することは、ブレーキパッドの摩耗と同様に、鉄道車両の整備性の向上、ひいては保守整備に関するコスト削減に繋がる。
【0040】
一方、車輪の滑走は、車輪とレール踏面との粘着係数が小さい雨天時の先頭車における発生頻度が高い。したがって、滑走の発生を抑制するためには、雨天時の先頭車両にかかるブレーキ力を粘着力よりも小さくすることが好ましい。そこで、この実施の形態では、雨天時の先頭車両に、不必要なブレーキ力が印加されないような制御を行っている。
【0041】
上記の処理を、具体例を用いて説明する。例えば、図5−1に示すように、閾値1が10%、閾値2が20%に設定され、かつ、雨天信号が検出されているとき、上記ステップS303の処理において、例えば、先頭車両の閾値1(10%)は閾値1''(例えば5%)に変更され、閾値2(20%)は閾値2''(例えば10%)に変更される。なお、先頭車両以外の各閾値は変更されない。
【0042】
上記のような閾値変更処理を行うことにより、何も行わないときと比べて、先頭車両に印加されるブレーキ力が低下するので、車輪の滑走を防止、あるいはその発生頻度を減少させることができ、滑走に起因する車輪の摩耗・変形を抑制することが可能となる。
【0043】
なお、本実施の形態でも、実施の形態1と同様に、2つの閾値(閾値1、閾値2)を有する場合について説明したが、3つ以上の閾値を設定して判定し、判定結果に応じた案内メッセージを表示およびアナウンスしてもよい。
【0044】
また、雨天信号を検出したか否かに応じて、上記2つの閾値を変更するようにしているが、これら2つの閾値を降雨量の大小に応じて多段階に変更するようにしてもよい。この場合、閾値1'および閾値2'として、それぞれ複数の閾値を設定することができる。なお、降雨量の大小は、例えばワイパーの速度を検出し、あるいは運転士または車掌の手動入力によって行うような実施態様を採用することができる。
【0045】
また、本実施の形態では、各車両情報管理部12は、算出した乗車率等の情報を隣接車両の車両情報管理部12にも伝達するようにしているが、この実施態様に限定されるものではない。例えば、先頭車両1である1号車の車両情報管理部12がマスタ装置として、他の車両情報管理部12の情報を収集するとともに、全ての車両の乗車率を算出して他の車両の車両情報管理部12に伝達するような実施態様であっても構わない。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態によれば、雨天であることを判別したときに、鉄道車両の先頭車両において、隣接車両間の乗車率差を判定するための第1段階の判定閾値である第1の閾値を、この第1の閾値よりも小さな閾値に変更するとともに、隣接車両間の乗車率差を判定するための第2段階の判定閾値である第2の閾値を、この第2の閾値よりも小さな閾値に変更するような閾値変更処理を行うようにしているので、このような閾値変更処理を行わないときと比べて、先頭車両に印加されるブレーキ力を低下させることができ、車輪の滑走の発生頻度を減少させることができるとともに、滑走に起因する車輪の摩耗・変形を抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明にかかる鉄道車両における車両負荷軽減方法は、利用客のために収集された乗車率等の既得情報を車両保守管理面に活用することができる発明として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態1の説明に必要な鉄道車両の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる鉄道車両における車両負荷軽減方法のメインフローを示すフローチャートである。
【図3】図2のフローチャートにおける乗車率制御処理フローの詳細を示すフローチャートである。
【図4】図2のフローチャートにおける閾値変更処理フローの詳細を示すフローチャートである。
【図5−1】図3のフローにおいて表示される案内表示の一例(第1の案内表示)を示す図である。
【図5−2】図3のフローにおいて表示される案内メッセージのアナウンス例(第1の案内メッセージ)を示す図である。
【図6−1】図3のフローにおいて表示される案内表示の一例(第2の案内表示)を示す図である。
【図6−2】図3のフローにおいて表示される案内メッセージのアナウンス例(第2の案内メッセージ)を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2にかかる車両負荷軽減方法のメインフローを示すフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートにおける閾値変更処理フローの詳細を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1 先頭車両
2,3 中間車両
4 後尾車両
5 鉄道車両
10 運転制御部
12 車両情報管理部
14 応荷重信号発生部
15 伝送路
16 表示制御部
17a〜17d 表示器
18 車両情報入力部
20 表示制御器
22 車外表示器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両が連結された鉄道車両における車両負荷軽減方法であって、
前記各車両の車両重量を算出する車両重量算出ステップと、
前記車両重量算出ステップによって算出された前記各車両ごとの車両重量に基づいて該車両ごとの乗車率を算出する乗車率算出ステップと、
前記乗車率算出ステップによって算出された前記各車両ごとの乗車率に基づいて前記鉄道車両における隣接車両間の乗車率差を算出する乗車率差算出ステップと、
前記隣接車両間の乗車率差と第1の閾値とを比較する乗車率差比較第1ステップと、
前記乗車率差比較第1ステップの比較結果に基づいて、第1の案内メッセージを生成する第1の案内メッセージ生成ステップと、
前記隣接車両間の乗車率差が前記第1の閾値よりも大きい場合に、さらに該第1の閾値よりも大きな値を持つ第2の閾値と比較する乗車率差比較第2ステップと、
前記乗車率差比較第2ステップの比較結果に基づいて、第2の案内メッセージを生成する案内メッセージ生成第2ステップと、
前記鉄道車両における各車両ごとの乗車率を利用客に通知するとともに、前記乗車率差比較第1ステップおよび前記案内メッセージ生成第1ステップ、または前記乗車率差比較第2ステップおよび前記案内メッセージ生成第2ステップの結果に応じて、前記第1の案内メッセージまたは前記第2の案内メッセージを付加的に表示する乗車状況通知ステップと、
を有する乗車率制御ステップと、
前記各車両ごとのブレーキパッド摩耗量を推定するブレーキパッド摩耗量推定ステップと、
前記ブレーキパッド摩耗量と第3の閾値とを比較するブレーキパッド摩耗量比較ステップと、
前記ブレーキパッド摩耗量比較ステップの比較結果に基づいて、前記第1の閾値および/または前記第2の閾値を変更する閾値変更ステップと、
を有する閾値変更処理ステップと、
を含み、
前記ブレーキパッド摩耗量比較ステップにて前記ブレーキパッド摩耗量が前記第3の閾値を超えていると判定されたとき、前記閾値変更ステップは、前記第1の閾値を該第1の閾値よりも小さな閾値に変更するとともに、前記第2の閾値を該第2の閾値よりも小さな閾値に変更する
ことを特徴とする鉄道車両における車両負荷軽減方法。
【請求項2】
複数の車両が連結された鉄道車両における車両負荷軽減方法であって、
前記各車両の車両重量を算出する車両重量算出ステップと、
前記車両重量算出ステップによって算出された前記各車両ごとの車両重量に基づいて該車両ごとの乗車率を算出する乗車率算出ステップと、
前記乗車率算出ステップによって算出された前記各車両ごとの乗車率に基づいて前記鉄道車両における隣接車両間の乗車率差を算出する乗車率差算出ステップと、
前記隣接車両間の乗車率差と第1の閾値とを比較する乗車率差比較第1ステップと、
前記乗車率差比較第1ステップの比較結果に基づいて、第1の案内メッセージを生成する第1の案内メッセージ生成ステップと、
前記隣接車両間の乗車率差が前記第1の閾値よりも大きい場合に、さらに該第1の閾値よりも大きな値を持つ第2の閾値と比較する乗車率差比較第2ステップと、
前記乗車率差比較第2ステップの比較結果に基づいて、第2の案内メッセージを生成する案内メッセージ生成第2ステップと、
前記鉄道車両における各車両ごとの乗車率を利用客に通知するとともに、前記乗車率差比較第1ステップおよび前記案内メッセージ生成第1ステップ、または前記乗車率差比較第2ステップおよび前記案内メッセージ生成第2ステップの結果に応じて、前記第1の案内メッセージまたは前記第2の案内メッセージを付加的に表示する乗車状況通知ステップと、
を有する乗車率制御ステップと、
雨天時を意味する雨天信号の有無を判別する雨天信号判別ステップと、
前記雨天信号判別ステップの判定結果に基づいて、前記第1の閾値および/または前記第2の閾値を変更する閾値変更ステップと、
を有する閾値変更処理ステップと、
を含み、
前記雨天信号判別ステップにて雨天であることが判別されたとき、前記閾値変更ステップは、前記鉄道車両の先頭車両における前記第1の閾値を該第1の閾値よりも小さな閾値に変更するとともに、前記第2の閾値を該第2の閾値よりも小さな閾値に変更する
ことを特徴とする鉄道車両における車両負荷軽減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−254701(P2008−254701A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101817(P2007−101817)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】