説明

鉄道車両用の車軸蓋部材

【課題】蓋内部空間が負圧発生時に、密封性の低下を抑制することができる鉄道車両用の車軸蓋部材を提供する。
【解決手段】車軸1の軸端に設けられる円筒部材2にその開口を覆うように装着され、有底筒状に形成されているとともに、円筒部材2の端部外周に形成される外周嵌合部21に嵌合する内周嵌合部41を備え、合成樹脂からなる鉄道車両用の車軸蓋部材4において、車軸蓋部材4の底面44から、この底面44に対向する車軸1の端面15方向に突出して、端面15との間に所定の隙間Sが形成される突出部42を備え、端面15と車軸蓋部材4との間の蓋内部空間5が負圧発生時に、車軸蓋部材4が弾性変形して、突出部42が端面15に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用の車軸蓋部材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車軸は、車軸の軸端近傍に設けられる軸受により支持され、この軸受の軸方向の外方であって車軸の軸端に設けられる円筒部材の外周面に車軸蓋部材を嵌合して装着し、外部からの雨水などが軸受に浸入することを防止している。この車軸蓋部材は、車軸の検査をする際の脱着を容易にするために、合成樹脂からなり、円筒部材の外周面に弾性変形させて容易に嵌合できるようにしている。(特許文献1)
【0003】
そして、鉄道車両運転時に、車軸が回転することにより車軸の温度が上昇すると、車軸蓋部材と車軸の軸端との間に形成される蓋内部空間の内圧が上昇する。内圧が上昇すると、車軸蓋部材の嵌合状態が不安定となり、密封性が低下して雨水などが軸受に浸入する場合がある。そこで、図4に示すように、車軸蓋部材80に排気弁81を設けることにより、蓋内部空間82の内圧が上昇したときには、蓋内部空間82から排気弁81を介して外部空間に排気されて内圧を一定にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−35523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鉄道車両の洗浄においては、車軸83の軸端周りは湯洗浄が数回繰り返される。湯洗浄されることにより車軸83の軸端周りの温度が上昇すると排気弁81により蓋内部空間82の圧力を一定に保つ。
【0006】
そして、車軸83の軸端周りが冷めて、短時間の間に車軸83の軸端周りの温度が低下して蓋内部空間82の圧力が低下し負圧になると、図4の破線で示すように車軸蓋部材80の中央部84がX方向に変形する。これにより、円筒部材85の肩部と接する位置P10が支点となって、車軸蓋部材80の嵌合部86がY方向に変形し、嵌合部86と円筒部材85との間の締め代が小さくなって密封性が低下する。
【0007】
そして、車軸83の軸端周りが再び湯洗浄されると、密封性が低下した嵌合部86と円筒部材85との間から洗浄水が蓋内部空間82に浸入する場合がある。蓋内部空間82に水が浸入して滞留すると、車軸83の軸端が腐食し、さらに、軸受内部空間87に水が浸入する場合がある。そこで、鉄道車両用の車軸蓋部材80は、蓋内部空間82が負圧発生時に、密封性の低下を抑制することが課題となっていた。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、蓋内部空間が負圧発生時に、密封性の低下を抑制することができる鉄道車両用の車軸蓋部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る鉄道車両用の車軸蓋部材の構成上の特徴は、
鉄道車両用の車軸の軸端に設けられる円筒部材にその開口を覆うように装着され、有底筒状に形成されているとともに、前記円筒部材の端部外周に形成される外周嵌合部に嵌合する内周嵌合部を備え、合成樹脂からなる鉄道車両用の車軸蓋部材において、
前記車軸蓋部材の底面から、この底面に対向する前記車軸の端面方向に突出して、前記車軸の端面との間に所定の隙間が形成される突出部を備え、
前記車軸の端面と前記車軸蓋部材との間の蓋内部空間が負圧発生時に、前記車軸蓋部材が弾性変形して、前記突出部が前記車軸の端面に当接することである。
【0010】
請求項1の鉄道車両用の車軸蓋部材によれば、車軸の端面と車軸蓋部材との間の蓋内部空間が負圧発生時に、車軸蓋部材が車軸の端面側に弾性変形して、車軸蓋部材の底面から突出する突出部が車軸の端面に当接する。そして、それ以降は弾性変形しないので、外周嵌合部と内周嵌合部との間の嵌合状態の変化はほとんどなく、密封性の低下を抑制することができる。
【0011】
請求項2に係る鉄道車両用の車軸蓋部材の構成上の特徴は、前記突出部は、その径方向中心が前記車軸の軸心と略同一であることである。
【0012】
請求項2の鉄道車両用の車軸蓋部材によれば、突出部は、その径方向中心が車軸の軸心と略同一であるので、車軸蓋部材が円周方向に均等に弾性変形して、外周嵌合部と内周嵌合部との間の嵌合状態が均等となるため、密封性の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蓋内部空間が負圧発生時に、密封性の低下を抑制することができる鉄道車両用の車軸蓋部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態である車軸蓋部材を装着した鉄道車両の車軸周りの一部縦断面図である。
【図2】図1の突起部の変形例を説明する図である。
【図3】図1の突起部の変形例を説明する図である。
【図4】従来技術の車軸蓋部材を装着した鉄道車両の車軸周りの一部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の鉄道車両用の車軸蓋部材を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態である車軸蓋部材を装着した鉄道車両の車軸周りの一部縦断面図である。図1を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、車両インナ側とは図1における右側を示し、車両アウタ側とは図1における左側を示すものとする。
【0016】
鉄道車両の車軸1は、軸端近傍に外嵌装着される複列の円筒ころ33からなる転がり軸受3により支持されている。また、車軸1は、転がり軸受3の内輪32が車両アウタ側から軸ナット11により押し付けられ、軸ナット11が車軸1の外周に形成されるキー溝12に嵌合して車両アウタ側に装着される止め輪13を介してボルト14により締め付けられて、車軸1に内輪32が固定される。
【0017】
円筒部材2は、転がり軸受3の外輪31に取り付けられ、軸ナット11及び内輪32の間に所定の隙間を介して車軸1の軸端外周に配置されて、転がり軸受3を非接触に密封している。円筒部材2の外周端部には径方向内向きの周溝である外周嵌合部21が形成されている。円筒部材2の材料としては、例えば、炭素鋼板のSPCCが用いられる。
【0018】
車軸蓋部材4は、合成樹脂製の弾性体からなる有底円筒状に形成されており、その内周端部には径方向内向きに全周に亘って突出する内周嵌合部41が円筒部材2の外周嵌合部21に嵌合して、円筒部材2の開口を覆うように装着されて密封する。これにより、車軸1の端面15と車軸蓋部材4との間に蓋内部空間5が形成される。また、車軸蓋部材4は、装着時に弾性的に拡径して装着後に弾性的に縮径して円筒部材2に装着され、離脱時には弾性的に拡径して離脱後に弾性的に縮径して円筒部材2から離脱される。
【0019】
車軸蓋部材4は、車両アウタ側端面には、蓋内部空間5の圧力が上昇したときに、蓋内部空間5から外部空間に排気して蓋内部空間5の圧力を一定に保つ排気弁43が設けられている。車軸1の回転により車軸1の温度が上昇して、蓋内部空間5の圧力が上昇したときには、蓋内部空間5から排気弁43を介して外部空間に排気されて内圧を一定にしている。
【0020】
車軸蓋部材4は、径方向に軸心P1と略同一、且つ、底面44から、この底面44に対向する車軸の端面15の方向に円柱状に突出して、端面15との間に所定の隙間Sが形成される突出部42を備える。
【0021】
鉄道車両の洗浄においては、車軸1の軸端周りは湯洗浄が数回繰り返される。車軸蓋部材4は、湯洗浄されることにより車軸1の軸端周りの温度が上昇すると蓋内部空間5の圧力が上昇して、蓋内部空間5から排気弁42を介して外部空間に排気されて蓋内部空間5の圧力を一定に保つ。
【0022】
そして、車軸蓋部材4は、車軸1の軸端周りが冷めて、短時間の間に車軸1の軸端周りの温度が低下して蓋内部空間5の圧力が低下して負圧になると、車軸蓋部材4の中央部が車軸の端面15の方向に弾性変形し、円筒部材2の肩部と接する位置P2が支点となって、車軸蓋部材4の内周嵌合部41がA方向に弾性変形する。
【0023】
しかしながら、車軸蓋部材4は、車軸蓋部材4の中央部が変形し始めると、直ぐに突出部42が車軸1の端面15に当接するので、内周嵌合部41はほとんど変形することはない。そのため、外周嵌合部21と内周嵌合部41との間の嵌合状態の変化(悪化)はほとんどなく、密封性の低下を抑制することができる。
【0024】
以上のように、本実施の形態に係る鉄道車両用の車軸蓋部材4によれば、車軸1の端面15と車軸蓋部材4との間の蓋内部空間5が負圧発生時に、車軸蓋部材4の中央が車軸1の端面15側に弾性変形して、車軸蓋部材4の底面44から突出する突出部が車軸1の端面15に当接する。そして、それ以降は弾性変形しないので、外周嵌合部21と内周嵌合部41との間の嵌合状態の変化(悪化)はほとんどなく、密封性の低下を抑制することができる。
【0025】
なお、上記実施形態では、図1に示すように突出部42が、1個、且つ、円柱状に形成されるとしたが、それに限るものではなく、例えば、突出部が複数の場合や内部が空洞の筒状に形成される構成に適用してもよい。
【0026】
図2(a)は、図1の突起部42の変形例を説明する図であり、図2(b)は図2(a)の車軸蓋部材4のB矢視図である。図2(a),(b)に示すように、突出部42aは内部が空洞の筒状に形成されている。この車軸蓋部材4によれば、円柱状の突出部42に対して、軽量化や低コストのために同じ体積とした場合には、内部が空洞の筒状の突出部42aは車軸1の端面15に当接する位置が径方向に大きいので、車軸蓋部材4が円周方向により均等に弾性変形して、図1に示す外周嵌合部21と内周嵌合部41との間の嵌合状態がより均等となるため、外周嵌合部21と内周嵌合部41との間の嵌合状態の変化(悪化)はほとんどなく、密封性の低下を確実に抑制することができる。
【0027】
図3(a)は、図1の突起部42の変形例を説明する図であり、図3(b)は図3(a)の車軸蓋部材4のC矢視図である。図3(a),(b)に示すように、突出部42bが円周上の6箇所に均等配置されて突出群42b1を形成している。この車軸蓋部材4によれば、突出群42b1は、この径方向中心P3が車軸1の軸心P1と略同一であるので、車軸蓋部材4が円周方向に均等に弾性変形して、図1に示す外周嵌合部21と内周嵌合部41との間の嵌合状態が均等となるため、密封性の低下を抑制することができる。
【0028】
また、上記実施形態では、転がり軸受3が、複列の円筒ころ33からなる構成としたが、それに限るものではなく、例えば、複列の円錐ころからなる構成に適用してもよく、また、単列の円筒ころからなる構成に適用してもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、円筒部材2の外周嵌合部21と車軸蓋部材4の内周嵌合部41との嵌合は、外周嵌合部21が凹み、内周嵌合部41が突出するとしたが、それに限るものではなく、例えば、外周嵌合部21が突出し、内周嵌合部41が凹む構成に適用してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1:車軸、 2:円筒部材、 3:転がり軸受、 4:車軸蓋部材、5:蓋内部空間、 11:軸ナット、 12:キー溝、 13:止め輪、 14:ボルト、 15:車軸の端面、 21:外周嵌合部、 31:外輪、 32:内輪、 33:円筒ころ、 41:内周嵌合部、 42,42a,42b:突出部、 42b1:突出群、 43:排気弁、 44:底面、 P1:軸心、 S:隙間、 P3:突出群の径方向中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用の車軸の軸端に設けられる円筒部材にその開口を覆うように装着され、有底筒状に形成されているとともに、前記円筒部材の端部外周に形成される外周嵌合部に嵌合する内周嵌合部を備え、合成樹脂からなる鉄道車両用の車軸蓋部材において、
前記車軸蓋部材の底面から、この底面に対向する前記車軸の端面方向に突出して、前記車軸の端面との間に所定の隙間が形成される突出部を備え、
前記車軸の端面と前記車軸蓋部材との間の蓋内部空間が負圧発生時に、前記車軸蓋部材が弾性変形して、前記突出部が前記車軸の端面に当接することを特徴とする鉄道車両用の車軸蓋部材。
【請求項2】
前記突出部は、その径方向中心が前記車軸の軸心と略同一であることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用の車軸蓋部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−108539(P2013−108539A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252503(P2011−252503)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】