説明

鉄骨構造物の仕口構造

【課題】鉄骨梁の両端間の中間にある接合部に、鉄骨梁の軸方向に対して浅い角度をなして延在する鋼製引張材を接合するための仕口構造を、コンパクトな構造でスムーズな応力伝達が可能なものとする。
【解決手段】鉄骨梁10の第1端10aと接合部との間の部分である第1部分16と、鉄骨梁の第2端と接合部との間の部分である第2部分18とで、梁成または梁幅を異ならせて、第1部分の梁成または梁幅を第2部分の梁幅または梁成より小さくすることで、鉄骨梁に第1端側を向いた段部22を形成し、その段部に鋼製引張材12の端部を接合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄骨構造物の仕口構造に関し、より詳しくは、鉄骨梁に鋼製引張材を接合するための仕口構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば大規模工場用建物や大型倉庫、それに郊外型大規模店舗建物などでは、大スパンの鉄骨梁で支持した緩傾斜屋根や平屋根が多用されている。これらの屋根を支持する大スパンの鉄骨梁では、その鉄骨梁に作用する曲げ荷重を軽減するために、鋼製引張材がしばしば用いられている(例えば、特許文献1参照)。
そして、その場合に、鉄骨梁の両端間の中間にある接合部に、鉄骨梁の軸方向に対して浅い角度をなして延在する鋼製引張材を接合することがある。このような位置関係で鉄骨梁に鋼製引張材を接合するための従来の典型的な仕口構造は、例えば図5に示すようなものであった。
【0003】
図5において、緩傾斜屋根を支持する大スパンの鉄骨梁90はH形鋼から成る。この鉄骨梁90の下側フランジ92に、細長い三角形のガセットプレート94が溶接により結合され、複数枚の補強リブ96で補強されている。鋼製引張材98はガセットプレート94にボルト・ナットで締結されることにより、鉄骨梁90に接合されている。
【特許文献1】特開平5−171810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5に示した従来の仕口構造では、鉄骨梁90の軸方向に対する鋼製引張材98の延在方向が浅い角度をなしているため、ガセットプレート94がかなり長くなっており、それに伴ってガセットプレート94の溶接長も随分と長くなっている。そのことが、溶接工数の増大という不都合をもたらしているが、しかしながら、ガセットプレート94の長さを短縮すると、鋼製引張材56から作用する引張荷重によってガセットプレート94の溶接部に大きな応力が生じることから様々な不都合が発生するため、ガセットプレート94の小型化は困難である。また更に、ガセットプレート94から鉄骨梁90への応力伝達が剪断力による伝達となり、しかも、溶接ビード部は母材より硬く、弾性変形しにくいことから、溶接ビード部のうちの鋼製引張材98に近い方の端部に剪断応力の集中が生じてしまい、スムーズな応力伝達ができないという問題もあった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑み成されたものであり、本発明の目的は、鉄骨梁の両端間の中間にある接合部に、鉄骨梁の軸方向に対して浅い角度をなして延在する鋼製引張材を接合するための仕口構造を、コンパクトな構造でスムーズな応力伝達が可能なものとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄骨構造物の仕口構造は、鉄骨梁の第1端と第2端との間に位置する接合部に、該鉄骨梁の軸方向に対して浅い角度をなして該接合部から該鉄骨梁の前記第1端の側へ延在する鋼製引張材を接合するための仕口構造において、前記鉄骨梁の前記第1端と前記接合部との間の部分である第1部分と、前記鉄骨梁の前記第2端と前記接合部との間の部分である第2部分とで、梁成または梁幅を異ならせて、前記第1部分の梁成または梁幅を前記第2部分の梁幅または梁成より小さくすることで、前記鉄骨梁に前記第1端側を向いた段部を形成し、該段部に前記鋼製引張材の端部を接合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶接工数を増大させる長大なガセットプレートを使用せずに済み、コンパクトな構造とすることができ、また、引張荷重を引張応力によりダイレクトに伝達することのできる鉄骨構造物の仕口構造が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の好適な実施の形態に係る鉄骨構造物の仕口構造について、添付図面を参照して詳細に説明して行く。図1は、緩傾斜屋根を備えた鉄骨造建物の骨組を示した立面図であり、緩傾斜屋根は鉄骨梁10を備え、本発明の好適な実施の形態に係る鉄骨構造物の仕口構造を用いてこの鉄骨梁10に鋼製引張材12が接合されている。図2は、図1に示した鉄骨梁10と鋼製引張材12との接合部の仕口構造を示した詳細図である。
【0009】
図1に示したように、緩傾斜屋根を支持する鉄骨梁10の第1端10aと第2端10bとの間に位置する接合部に、鋼製引張材12が接合されている。そして、この鋼製引張材12は、鉄骨梁10の軸方向に対して浅い角度αをなして、接合部から鉄骨梁10の第1端10aの側へ延在している。本発明は、鉄骨梁10の軸方向に対する鋼製引張材12の延在方向がなす角度αが浅いほど、図5に示した従来の仕口構造と比較した場合の効果が顕著であり、この角度αは、45°以下であることが好ましく、30°以下であればなお好ましい。
【0010】
図1及び図2から明らかなように、鉄骨梁10は、第1端10aと接合部との間の部分である第1部分16と、第2端10bと接合部との間の部分である第2部分18とで、梁成を異ならせて、第1部分16の梁成を第2部分18の梁成より小さくしてある。第1部分16と第2部分18とは、いずれもH形鋼として構成され、夫々にウェブと、上側フランジ16a、18aと、下側フランジ16b、18bとを備えている。尚、図示例では、第2部分18のフランジ18a、18bの幅は、第1部分16のフランジ16a、16bと同幅もしくはそれより大きな幅とするようにしている。
【0011】
鉄骨梁10の第1部分16の上側フランジ16aと第2部分18の上側フランジ18aとは実質的に連続しており、即ち、第1部分16の上縁と第2部分18の上縁とは面一としてある。そのため、鉄骨梁10の接合部の下縁側が段違いになっており、この接合部の下縁側の段違いの部分にスチフナープレート20を設けることによって、第1端10a側を向いた段部22を形成してある。より詳しくは、図示例のチフナープレート20は、鉄骨梁10の第1部分16のウェブと第2部分18のウェブとの間に溶接されており、その幅が第2部分18のフランジ18a、18bと同幅とされており、第2部分18を高さ方向に横断して延在するようにして設けられている。また、スチフナープレート20には、鉄骨梁10の第1部分16の下側フランジ16bの延長部を形成するようにして、補強リブ24が溶接されている。
【0012】
こうして形成した段部22に、ガセットプレート26を介して鋼製引張材12の端部を接合してある。より詳しくは、ガセットプレート26は、この段部22において、スチフナープレート20と、第1部分18の下側フランジ16bとに溶接されており、鋼製引張材12は、このガセットプレート26にボルト・ナットで締結されている。また、スチフナープレート20は、その延在方向(即ち、そのプレート面の延在方向)が、鋼製引張材12の延在方向(即ち、その長手軸心の延在方向)と、略々直交するようにして設けられている。
【0013】
以上に説明した本発明に係る仕口構造によれば、鉄骨梁10の第1部分16の梁成が、第2部分18の梁成より小さくなるのであるが、図1から明らかなように、第1部分16には曲げ荷重が殆ど作用しないのに対して、第2部分18には大きな曲げ荷重が作用するような骨組であるため、この梁成の差は極めて合理的なものである。そして、鋼製引張材12から鉄骨梁10に作用する引張荷重は、図5の従来の仕口構造のように剪断応力によって伝達するのではなく、引張応力によってダイレクトに伝達するため、先に述べたような従来の仕口構造に付随する不都合は、本発明によって払拭される。
【0014】
本発明に係る鉄骨構造物の仕口構造は、図1に示した鉄骨造建物ばかりでなく、様々な鉄骨構造物に使用することができる。図3は、平屋根を備えた鉄骨造建物の骨組を示した立面図であり、平屋根は鉄骨梁30を備え、図2の仕口構造を用いてこの鉄骨梁30に鋼製引張材32が接合されている。ただし、図3の鉄骨造建物においては、図2の仕口構造を、その上下を逆にして用いている。即ち、鉄骨梁30の第1部分36と第2部分38とで梁成を異ならせて、第1部分の梁成を第2部分38の梁成より小さくしてあることは同じであるが、第1部分36の下側フランジと第2部分38の下側フランジとが連続しており、従って、第1部分36の下縁と第2部分38の下縁とが面一となっている。そして、鉄骨梁30の接合部の上縁側が段違いになっており、この接合部の上縁側の段違いの部分にスチフナープレート40を溶接することによって、鉄骨梁30の第1端30a側を向いた段部42が形成されている。上下が逆であることを除けば、図3に示した仕口構造は図2に示したものと同一である。この図3の構成によっても、図1の構成と同様の効果が得られる。
【0015】
図4は、車寄せの庇を備えた鉄骨造建物の骨組の一部分を示した立面図であり、庇は鉄骨梁50を備え、図3と同様に上下を逆にした図2の仕口構造を用いてこの鉄骨梁50に構成引張材52が接合されている。この例からも分かるにように、本発明は、鉄骨構造物の様々な部分に適用し得るものであり、鉄骨梁の第1端と第2端との間に位置する接合部に、鉄骨梁の軸方向に対して浅い角度をなしてその接合部から鉄骨梁の第1端の側へ延在する鋼製引張材を接合するための仕口構造として、広く採用し得るものである。
【0016】
また、上に示した具体例は、鋼製引張材が鉄骨梁の上側または下側を延在する場合のものであったが、鋼製引張材が鉄骨梁の側方を延在するようにして、鋼製引張材を鉄骨梁に接合する場合にも、本発明を適用することも可能である。そのような場合には、鉄骨梁の第1端と接合部との間の部分である第1部分と、鉄骨梁の第2端と接合部との間の部分である第2部分とで、梁幅を異ならせて、第1部分の梁幅を第2部分の梁幅より小さくすることで、鉄骨梁に第1端側を向いた段部を形成し、その段部に前記鋼製引張材の端部を接合するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】緩傾斜屋根を備えた鉄骨造建物の骨組を示した立面図であり、緩傾斜屋根は鉄骨梁を備え、本発明の好適な実施の形態に係る鉄骨構造物の仕口構造を用いてこの鉄骨梁に鋼製引張材が接合されている。
【図2】図1に示した鉄骨梁と鋼製引張材との接合部の仕口構造を示した詳細図である。
【図3】平屋根を備えた鉄骨造建物の骨組を示した立面図であり、平屋根は鉄骨梁を備え、図2の仕口構造を用いてこの鉄骨梁に鋼製引張材が接合されている。
【図4】車寄せの庇を備えた鉄骨造建物の骨組の一部分を示した立面図であり、庇は鉄骨梁を備え、図2の仕口構造を用いてこの鉄骨梁に構成引張材が接合されている。
【図5】従来の典型的な鉄骨構造物の仕口構造を示した図である。
【符号の説明】
【0018】
10……鉄骨梁、12……鋼製引張材、16……鉄骨梁の第1部分、18……鉄骨梁の第2部分、20……スチフナープレート、22……段部、26……ガセットプレート、30……鉄骨梁、32……鋼製引張材、40……スチフナープレート、42……段部、50……鉄骨梁、52……鋼製引張材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨梁の第1端と第2端との間に位置する接合部に、該鉄骨梁の軸方向に対して浅い角度をなして該接合部から該鉄骨梁の前記第1端の側へ延在する鋼製引張材を接合するための仕口構造において、
前記鉄骨梁の前記第1端と前記接合部との間の部分である第1部分と、前記鉄骨梁の前記第2端と前記接合部との間の部分である第2部分とで、梁成または梁幅を異ならせて、前記第1部分の梁成または梁幅を前記第2部分の梁幅または梁成より小さくすることで、前記鉄骨梁に前記第1端側を向いた段部を形成し、該段部に前記鋼製引張材の端部を接合した、
ことを特徴とする鉄骨構造物の仕口構造。
【請求項2】
前記鉄骨梁の前記第1部分と前記第2部分とで梁成を異ならせ、前記第1部分の上縁と前記第2部分の上縁とを面一にすることで、前記鉄骨梁の下縁側に前記段部を形成し、前記鋼製引張材が前記鉄骨梁の下方を延在するようにしたことを特徴とする請求項1記載の鉄骨構造物の仕口構造。
【請求項3】
前記鉄骨梁の前記第1部分と前記第2部分とで梁成を異ならせ、前記第1部分の下縁と前記第2部分の下縁とを面一にすることで、前記鉄骨梁の上縁側に前記段部を形成し、前記鋼製引張材が前記鉄骨梁の上方を延在するようにしたことを特徴とする請求項1記載の鉄骨構造物の仕口構造。
【請求項4】
前記鉄骨梁が、緩勾配屋根または平屋根を支持する鉄骨梁であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の鉄骨構造物の仕口構造。
【請求項5】
前記鉄骨梁の前記接合部にスチフナープレートを設け、該スチフナープレートによって前記段部を画成してあり、該スチフナープレートの延在方向と前記鋼製引張材の延在方向とが略々直交していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の鉄骨構造物の仕口構造。
【請求項6】
前記鋼製引張材がガセットプレートを介して前記段部に接合されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の鉄骨構造物の仕口構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−132170(P2006−132170A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321651(P2004−321651)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】