説明

鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末とこれを用いた超音波流速測定方法及び核破砕中性子源液体ターゲットシステム

【課題】 中性子源用の鉛ビスマス溶融液の流速を正確に測定するための超音波反射体として優れた特性を示すタングステンモリブデン合金粉末とその粉末を用いた鉛ビスマス溶融液流速測定方法とターゲットシステムとを提供すること。
【解決手段】 鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末は、タングステンを6〜46質量%含み残部が実質的にモリブデンのタングステンモリブデン合金からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギーの陽子ビームを鉛ビスマスに入射して、核破砕反応により高強度の中性子を発生させるとともに鉛ビスマスを熱媒体として利用する中性子源用液体金属ターゲット、および冷却材として利用する原子炉内のその流速測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステン、モリブデンは高融点、高硬度などの特質から様々な耐熱性を利用した用途に用いられてきた。それら金属を合金化したタングステンモリブデン合金の活用は、特許文献1ではタングステンモリブデン合金を配線に用いることや特許文献2では配線を形成するためのスパッタリングターゲット技術が開示されている。これらは低抵抗、耐エッチング性および他配線との低コンタクト抵抗という特質を利用して、塊状または配線の材料としての利用および製作を試みている。
【0003】
また、特許文献3ではヒーター、ランプに用いられる、タングステン粉末およびモリブデン粉末に酸化物を添加したタングステンモリブデン合金が開示されている。この特許文献3に開示された発明の場合には、タングステンに比較して、室温での電気抵抗が高く、高温に加熱した後も柔軟性を有するなどの特徴を生かしてタングステンモリブデン以外の添加物の導入によりヒーターとしての特性を向上しようとするものである。
【0004】
また、特許文献4には、タングステン及び/又はモリブデンと、鉄、コバルト、ニッケル及び銅の中から選択される少なくとも1種の遷移金属と、場所によってはすくなくとも1種の添加剤とから本質的に成り、鉄の含有量が金属の全重量に対して50重量%未満であり且つ添加剤全体の含有量が金属の全重量に対して3重量%未満であるプレアロイ粉末であって、走査電子顕微鏡で測定した基本粒子の大きさが200nmよりも大きく且つ5μm以下であるプレアロイ金属粉末が開示されている。この特許文献4に記載された発明ではタングステンの焼結性を向上するための添加物組成を検討したものである。
【0005】
高エネルギーの陽子ビームを重金属ターゲットに入射して、核破砕反応により高強度の中性子を発生させる中性子発生装置は、入射エネルギーに対して最も多くの中性子を発生させることができ、原子炉に比較して設備が簡素である。現在はタングステンやタンタル等で作製されたターゲットが水冷しながら使用されており、陽子とターゲット物質との核破砕反応により多数の高エネルギー中性子を発生させている。発生した高エネルギー中性子は、液体水素や重水でできた減速器で熱中性子や冷中性子に減速され、中性子ビーム輸送系を介して利用実験室に供給され中性子回折等の実験に利用されている。中性子を利用する生命科学、物質・材料研究、核物理、医療など多分野での利用がなされ、例えば英国ラザフォードアップルトン研究所の核破砕中性子線源ISISでは、800MeVの陽子、2.5×1013個からなるパルスビームを50Hzの周期で、水冷されたタンタル製ターゲットに打ち込むことにより約1015個cmsの中性子束を得ている。すなわち、160kwの陽子ビームで約1015個cmsの中性子線束を得ている。
【0006】
近年、中性子線利用研究の重要性が急速に増加しつつあり、次世代核破砕中性子線源の計画が米国(SNS計画)、日本(高エネ機構−原研統合計画)、EC(ESS計画)で進められている。これら世界の3大計画は、いずれも1017個/cms程度の中性子束を得るため、いまだ経験したことのないMWの陽子ビームをターゲットに入射させる予定で、ここでの陽子のエネルギーは1〜3GeVである。一般にMW級ビームのターゲットは、ターゲット内の発熱が数百kWに達するため、固体金属を水冷する現行の方式よりも、水銀ターゲット方式を採用しようと計画している。
【0007】
公知の文献としては、特許文献5に、「液体ターゲットおよび中性子発生設備」として液体ターゲットの構造、特許文献6に、「核破砕中性子線源用水銀ターゲット構造」として液体水銀ターゲットの流路や構造、特許文献7に、「液体金属ターゲットシステム」として液体ターゲットシステムに酸素濃度制御系統を接続するシステム、特許文献8に、「中性子発生装置」として液体ターゲットのヒートサイフォンを形成する構造、特許文献9に、「中性子源用液体金属ターゲット」として特許文献6の発明を改良した構造が開示されている。これらはいずれも液体水銀を念頭に中性子線ターゲットを開発しているだけでなく、流速測定の重要性についても検討がなされていない。もちろん本発明とは目的が異なる。
【0008】
水銀ターゲットにおいてはその流速測定についての測定に関しての知見が公表されていないが、液体の流速を測定するための手段についてはいくつかの公知文献が存在する。例えば、特許文献10および特許文献11の「ドップラー式超音波流量/流速測定装置」として、液体の流速を測定する手段としてキャビテーションによる気泡の発生やヒーターによる温度差を利用しての液体の流速測定方法が開示されているが、鉛ビスマスといった液体金属ではこれらの手段を適用することはできなかった。その他にも超音波で流速を測定する手段についての発明が種々あるが、液体金属への適用例はなく、液体金属の流速を測定できたとしても精度に問題があった。発明者らは液体と等速で移動する超音波反射材の開発こそが正確に流速を把握する手段であることを見出した。
【0009】
さらに、鉛ビスマスの合金だけに関して言えば、特許文献12に、「鉛ビスマス共晶合金の純化方法および純化装置」が開示されているが、原子炉用冷却材としての鉛ビスマス共晶合金の純化を目的としているだけでなく、ここにも流速測定に関する知見はない。
【0010】
次世代中性子源の次、言わば次次世代に考えられているのが、水銀ではなく鉛ビスマスをターゲットとし、1〜1.5GeVで20〜30MWクラスの中性子源である。前述の次世代水銀ターゲットよりも1桁入力エネルギーMWが大きく、ターゲットへの入熱が大きい。水銀は沸点が低く気相発生による除熱性能の劣化が起こり易いため、取り扱いの容易性からもターゲットは鉛ビスマスが適している。
【0011】
さらに、鉛ビスマスを冷却材としても使用することが考えられている。鉛ビスマスターゲット・冷却材を用いた中性子源システムは、原子力エネルギーの利用の結果、燃料の廃棄物中に含まれる発生する核分裂生成物やマイナーアクニドを核変換してより短寿命の核種に変換し、環境及び子孫への負荷を減らそうとする狙いがある。そのときに使う中性子を鉛ビスマスの原子核を壊して生産する。つまりは、鉛ビスマスのターゲットから得られた中性子を、核廃棄物の半減期を短縮して環境影響を小さくするために変換する技術を確立しようとするものである。そのため、鉛ビスマス溶融液中で構造材との共存性など構造成立性を確保する制御技術が現在研究開発され習得しようとされている。構造成立性の一つに材料の腐食、エロージョン特性がある。エロージョンは鉛ビスマスの流れと密接な関係がある。すなわち、流れが乱れ、材料表面から流線が剥離するような場所でエロージョンが起こるとされている。従って、構造物周りでの流れの可視化が必要となる。もう一つは、伝熱特性が挙げられる。すなわち、陽子ビームが貫通する材料中に核破砕反応によって蓄積される熱を、鉛ビスマス流で除去する必要がある。最大の効率を持って熱を除去できる構造とするためには流れの可視化が必要となる。通常、流れの可視化は水、及び気体を持って行われるが、鉛ビスマスのように比重が10.5g/ccの重い高温液体では、計算機によるシミュレーション結果を裏付ける実験が必要である。また、製作した機器の内部流れを検知したい場合も生じる。しかし、鉛ビスマスは光学的に不透明なため、流れの様子を知る手だてが超音波以外になく、鉛ビスマスを可視化(超音波流速を実測)する反射体粒子の開発が必須だとの結論に達した。
【0012】
【特許文献1】国際公開第95/16797号パンフレット
【特許文献2】特開平11−36067号公報
【特許文献3】特開2001−115228号公報
【特許文献4】特表2002−527626号公報
【特許文献5】特開平11−258399号公報
【特許文献6】特開平11−273896号公報
【特許文献7】特開2001−296400号公報
【特許文献8】特開2001−305299号公報
【特許文献9】特開2002−90500号公報
【特許文献10】特開平6−294670号公報
【特許文献11】特開平6−294671号公報
【特許文献12】特開2001−108793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明の技術的課題は、中性子源用の鉛ビスマス溶融液の流速を正確に測定するための超音波反射体として優れた特性を示すタングステンモリブデン合金粉末とその粉末を用いた鉛ビスマス溶融液流速測定方法とターゲットシステムとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、タングステンを6〜46質量%含み残部が実質的にモリブデンのタングステンモリブデン合金からなることを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、前記鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、空孔率を10%以下、密度を10.5〜13.0g/cmとしたことを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、前記鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、粒子の大きさをAとし、測定に使用する超音波の波長Bに対して、AはB/4−B/20からB/4+B/10の範囲に9割以上の粒子が分布していることを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、酸素濃度を100質量ppm以下としたことを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、粉末表面をニッケルで被覆したことを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末。
【0019】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末を用いたことを特徴とする核破砕中性子源液体ターゲットシステムが得られる。
【0020】
また、本発明によれば、タングステンを6〜46質量%含み残部が実質的にモリブデンからなる鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末を媒体とし、鉛ビスマス溶融液流に超音波を流体の流れ方向に対して平行以外の方向で入射して、ドップラー効果により鉛ビスマス溶融液の流速を測定することを特徴とする超音波流速測定方法が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、前記に記載の超音波流速測定方法を用いたことを特徴とする核破砕中性子源液体ターゲットシステムが得られる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、中性子源用の鉛ビスマス溶融液の流速を正確に測定するための超音波反射体として優れた特性を示すタングステンモリブデン合金粉末を得ることができる。また、その粉末を用いたターゲットシステムを構築できる。
【0023】
また、本発明においては中性子源用の鉛ビスマス溶融液を中心に記述したが、原子炉冷却用などとして鉛ビスマスを溶融する場合にも本発明の粉末を用いて同様の手法により流速測定を精密に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を更に詳細に説明する。
【0025】
本発明は、鉛ビスマス溶融液の中性子源ターゲットに関し、ターゲットシステムにとって重要な流速を明らかにするための手段を提供するものである。
【0026】
鉛ビスマスは、鉛とビスマスとの重量比率が44.8(%):55.2(%)の共晶合金である。
【0027】
図1は鉛ビスマスの二元系状態図である。また、この融点は125.5℃であるので、液体である金属としては、ナトリウムと同様な取り扱い技術を適用することが可能で、従来の液体金属技術を活用できるという利点がある。
【0028】
融点が98℃のナトリウムは化学的に活性が高いことから、取り扱い時には空気中の水と反応して発火するのを防止するために、不活性雰囲気内で作業することが必要であったり、特別な設備対策などが必要であるばかりでなく、ナトリウム火災を引き起こす可能性もあるために、漏洩を防止する対策や防火対策も必要であることから比較すれば、液体金属としての取り扱いはナトリウムよりも遥かに容易である。
【0029】
目的や使用方法は異なるものの、先述の特許文献12でも議論されているように、鉛ビスマスは使用環境により純度が劣化してその基本物性が損なわれたり、鉛が不純物と化合、固化することで共晶点に対する組成がずれて融点が上昇したり、粘度が変化する問題は本発明と共通のものである。液体ターゲットである鉛ビスマス溶融液中で新たな不純物となる材質の溶出や、粉末を投入することによる鉛ビスマスへの酸素の溶解があることは避けられなければならない。
【0030】
そこで、後述するような予備試験、発明の実施の形態において実証した形のタングステンモリブデン合金を作製し活用することにより、液体ターゲットである鉛ビスマスを変質(不純物の導入、組成を変化)させることなく、また、確実かつ正確に流速を測定できることにより、核破砕中性子源液体ターゲットシステムを信頼性が高く、高度にコントロールされたシステムとすることができる。
【0031】
ここで、鉛ビスマス溶融液の流速は液体ターゲットとしての温度維持、流動性維持のために非常に重要な因子であり、その正確な流速の測定およびそれをフィードバックした循環装置のコントロールは、ターゲットとしての特性を十分に発揮するために重要な項目である。
【0032】
本発明に係るタングステンを6〜46質量%含み残部が実質的にモリブデンからなるタングステンモリブデン合金粉末によれば、鉛ビスマス溶融液中で浮かびあがったまま、もしくは沈降したままにならず、鉛ビスマス溶融液と同一速度で流動する鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末が得られる。
【0033】
また、本発明に係る鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、空孔率を10%以下、密度を10.5〜13.0g/cmとしている。本発明の鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末によれば、鉛ビスマス溶融液中で浮かびあがったままや沈降したままにならず、鉛ビスマス溶融液と同一速度で流動し、速度誤差の少ない鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末が得られる。
【0034】
また、本発明に係る鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、粒子の大きさをAとし、測定に使用する超音波の波長Bに対して、AはB/4−B/20からB/4+B/10の範囲に9割以上の粒子が分布している。この本発明の粉末によれば、鉛ビスマス溶融液中での超音波流速測定に関し、安定して超音波による流速測定ができる粉末が得られる。
【0035】
本発明に係る鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、酸素濃度を100質量ppm以下とした。この粉末によれば、余分な不純物であり、流れを乱すスラグの生成を極力抑える鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末が得られる。
【0036】
本発明に係る鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、粉末表面をニッケルで被覆した粉末によれば、表面凹凸を減少させ、鉛ビスマスとの濡れ性に優れる鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末が得られる。
【0037】
本発明に係る粉末を用いた核破砕中性子源液体ターゲットシステムによれば、正確な鉛ビスマス溶融液流速測定により、長寿命で安定した核破砕中性子源液体ターゲットシステムの制御を行なうことが出来る。
【0038】
本発明に係るタングステンを6〜46質量%含み残部が実質的にモリブデンからなる鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末を媒体とし、鉛ビスマス溶融液流に超音波を(流れに対して角度をつけて)入射して、ドップラー効果により鉛ビスマス溶融液の流速を測定する超音波流速測定方法によれば、反射体が溶融して反射特性を劣化させること無く良好な流速測定を行なうことができる。
【0039】
本発明に係る超音波流速測定方法を用いた核破砕中性子源液体ターゲットシステムによれば、装置およびシステムの制限が少なく、設計の自由度の大きな鉛ビスマス液体ターゲットシステムを得ることができる。
【0040】
以下、本発明について更により具体的に説明する。
【0041】
まず、鉛ビスマス溶融液のみでは液体金属であるが故に光学的に不透明であり速度測定を行なうことはできない。また、鉛ビスマス溶融液だけを媒体とする場合には超音波による反射が起こらず、ドップラー効果による測定を行なうことができない。
【0042】
ここで、まず鉛ビスマス溶融液中での化学的安定性を検討するために、150℃に加熱した鉛ビスマス溶融液に種々の粉末を投入し、それらが100時間後に重量変化を起こすか、鉛ビスマス溶融液が変質や融点変化を起こす状況について確認した。平均粒径が各10μmの粉末で試験した結果、チタン、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステンなどの高融点金属が鉛ビスマスとの反応を起こしにくいことを確認した。これらの中で、タングステン、モリブデンを用いることが工業的に安価に製造でき、しかも鉛ビスマスの密度に近いために同一流速で流れる材質であることが予測できた。これらの知見に基づき、タングステン、モリブデンを合金化することにより所定の密度を予め計算して得ることを考えた。タングステンの密度19.2g/cm(×10kg/m)、モリブデンの密度10.2g/cm(×10kg/m)であり、これらを1cm当たりの質量換算して計算を行なうことで、例えば、目的密度10.5g/cm(×10kg/m)であれば原料のモリブデンとタングステンの質量比を93.9:6.1とすれば良く、10.9g/cm(×10kg/m)であれば原料のモリブデンとタングステンの質量比を86.3:13.7とすれば良いことが判った。さらに、合金化することで質量変化、つまりは鉛ビスマスとの反応も抑制され、150℃100時間でモリブデン、タングステンではそれぞれ1%、0.5%であった重量変化が、合金化することにより0.1%未満になった。
【0043】
ここで、本発明のタングステンモリブデン合金は、種々の条件を検討した結果、モリブデン粉末中にタングステン中間酸化物であるWOもしくはW1849などの組成を混合し、大気圧水素中での700〜1800℃の1時間以上の還元処理、それに続く1000〜2000℃での10−3Pa真空中熱処理を5分以上行なうことにより、合金組成を形成し、例えばジョークラッシャーやハンマーミルなどによる粉砕により目的とする粉末を得ることが出来た。但し、原料粉末についてはタングステンを金属W粉末やWOとすることでも問題なく合金組成を得ることができた。また、水素中での熱処理のみで、真空中での熱処理を行なわずとも合金粉末を得ることができた。粉砕粉末は篩分によって任意の粒度の粉末を得ることができ、また、目的の粒度の粉末を得るためには熱処理温度を上記条件内にて制御することにより、任意の粒度を得ることができた。以上のような工程を選択することにより、工業的に容易に大量生産可能な工程を確立することができた。
【0044】
図2(a)は作製した粉末の電子顕微鏡写真(100倍)、図2(b)は図2(a)で示す粉末の拡大写真である(1000倍)。図3はXRDのデータを示す図である。
【0045】
図3に示すように、タングステンが固溶していなければ131°にピークが現れるべきところであるが、タングステンピークは存在せず、タングステンモリブデンが完全に固溶した状態でCuKαおよびCuKαのピークのみが確認できた。これらの粉末はXRDによる測定により、タングステンとモリブデンのピークが分離していないため、完全に固溶していることが判った。また、粉末を埋め込み樹脂に混合し、研磨し電子顕微鏡で粉末断面のタングステン、モリブデンイメージを観察した結果からも、分散状態が均一であることを確認できた。その結果を図4に示す。
【0046】
図4(a)は粉末断面の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)、図4(b)は図4(a)のタングステンのイメージを示す電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
【0047】
また、通常の製造方法では、製造されるモリブデン粉末の粒径を大きくするために、一旦粉末をプレス、焼結しスラグを作製したタングステンモリブデン合金を機械的な粉砕方法によって粗粒を得る方法が考えられる。その場合、本発明中で検討している空孔率は10%を超え、例えば空孔率15〜20%になり、密度が10.5g/cmを下回り実効的に鉛ビスマス溶融液中で浮いたままの粉末となった。また、空孔率が10%を超えた状態でタングステン比率を増やすことによって見かけの密度を上昇させても、空孔率が10%を超えることで超音波の反射率が10%以上低下し、実効的に測定を行なうことができなくなった。ここでの空孔率は、所定の粉末を試料研磨用透明な埋め込み樹脂に投入し、研磨、光学顕微鏡での観察により測定した。例えば50倍での光学顕微鏡観察により透明樹脂から判断できる閉空孔の面積を粒子面積で割った値を空孔率とした。密度はアルキメデス法により、空中重量と水中重量の差を容積として計算した。
【0048】
鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、粒子の大きさをAとし、測定に使用する超音波の波長Bに対して、AはB/4−B/20からB/4+B/10の範囲に9割以上の粒子が分布している粉末によれば、鉛ビスマス溶融液中での超音波流速測定に関し、超音波による速度の測定に安定した粉末が得られる。Aの最小値がB/4−B/20を下回る粉末が全体の1割を超えるような粉末では、測定されるべき超音波が反射に寄与せずに吸収体となるため、測定精度が極端に低下した。また、粒子の最大値であるB/4+B/10以上の大きさの粒子が全体の1割を超えても、超音波の反射への寄与がない粒子が増加することとなり、測定感度が悪化し、誤差が5%増加した。種々の試験の結果、B/4−B/20からB/4+B/10の範囲に9割以上の粒子が分布していることにより、1%以下の再現が可能な精密な測定を行なうことが出来た。なお、粒子の分布は島津製作所製のSALD−3100にて測定を行なった。
【0049】
次に酸素の影響について検討を行なった。150℃に加熱した鉛では固溶する酸素濃度は約10−7質量%であることが発明者により明らかにされている。超音波反射体として導入した材質が多くの酸素を含んでいると、新たな酸素供給源となり、鉛酸化物が生成され、溶融液の流動に悪影響を及ぼす。また、鉛ビスマス中酸素濃度を制御した流れでは、制御外の余分な酸素供給源は排除されなければならない。従い、酸素濃度はなるべく低い方が好ましい。好ましくは酸素濃度は50質量ppm以下であることが望ましいが、合金粉末は工業的には大気中で粉砕する工程を避けることは難しく酸素濃度を極限まで減らすことが困難なため、100質量ppmを目安として制御されるべきであった。
【0050】
鉛ビスマス溶融液測定用粉末において、その表面をニッケルで、めっき、蒸着、スパッタなどの方法によりコーティングすることにより、粉末表面の凹凸が減少し、また、鉛ビスマスとの濡れ性が向上することによって、安定して測定を行なうことが出来るまでの時間が短く、また、測定精度も向上した状態で測定を行なうことが出来た。ニッケルの表面はその形成方法にかかわらず同様の効果を発揮し、また、ニッケルの厚みは1μm以上500μm以下の範囲において、同様の効果をもらたした。
【0051】
これらを鉛ビスマス溶融液を用いた中性子源用液体ターゲットシステムで超音波反射体として流速測定を行なうことが可能となる。
【0052】
ドップラー効果により鉛ビスマス溶融液の流速を測定する超音波流速測定方法の詳細について以下に示す。発信器で周波数foの超音波パルス信号を流体中に発信する。超音波パルス信号が流体中の反射体に当ると、超音波が散乱し、跳ね返った超音波が受信器(発信器を兼ねる)に戻る。このときの時間遅れtは、次の数1式で示される。
【数1】

【0053】
上記数1式中、xは、発信器と反射体間距離、cは液体中での音速である。
【0054】
もし、反射体が超音波発信方向に速度vで移動しているなら、ドップラー効果によりfoからfdだけずれた周波数が受信器に入る。ドップラー効果は次の数2式で表される。
【数2】

【0055】
上記数2式に従い、反射体の速度(流体の超音波方向への速度成分)vは、次の数3式で示される。
【数3】

【0056】
さらに、超音波の波長をλとすると、次の数4式で示される。
【数4】

【0057】
そして、超音波を反射体で跳ね返らせるためには、λと反射体粒子径は次の数5式を満たす必要がある。
【数5】

【0058】
例えば、4MHzの超音波周波数では、鉛ビスマスの音速を1500m/s
として、波長は375μm、従い必要な反射体粒子最小直径は94μmとなる。2MHzの超音波に対しては反射体粒子最小直径は188μmとなる。必要以上に大きな粒子は流れの細部を乱すので、好ましくない。また、小さな粒子は超音波の反射に寄与せずに測定の妨害となる。
【0059】
ここで、超音波受信器(発信器を兼ねる)は、市販の装置を用いることが出来るが、例えばMET−FLOW SA製、UVP Monitor Model UVP−DUOを用いて測定を行なった。上記装置の測定限界から、測定を確認できたのは45.8〜5498mm/sの流速であった。しかし、本発明では測定装置により限定されるものでなく、測定装置の発展により上述以外への流速の対応も可能であることは当然である。
【0060】
図5は上述の超音波流速測定方法を用いた本発明の核破砕中性子源ターゲットシステムの一例を示す図である。図6は図5のターゲットシステムを用いたシミュレーション結果の一例を示す図である。図5において、鉛ビスマス冷却槽10から突出したターゲット容器11の端部2箇所に超音波センサ12,13を配置している。ターゲット容器11は、容器状の外側部1と筒状の内壁部2とを備え、ターゲット容器11の先端外側11aから、陽子を白抜きの矢印14で示すように入射させる。
【0061】
突出部11の表面側は、矢印15で示すように外側に向って、ターゲットとしてタングステンモリブデン合金粉末を含む鉛ビスマスからなるターゲット液が流れ、先端部で半径方向に集まり、中心側においては、ターゲット液は矢印16で示すように流れる。
【0062】
図6に示すように、容器内のターゲット液である鉛ビスマスの流速分布は、陽子の入射側に向う流れ3と、陽子の出射側から冷却槽10に向う流れ5における矢印で示され、その矢印の大きさが流速の大きさを示している。このように、流速分布をシミュレーションだけでなく実測できることが確認でき、実測点2点とシミュレーションの差異がないことから、システム全体の流速分布についても明らかにすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明に係るタングステンモリブデン合金粉末は、中性子源用の鉛ビスマス溶融液の流速を正確に測定するための超音波反射体として最適である。また、その粉末を用いたターゲットシステムも同様に鉛ビスマス溶融液の流速の測定に最適である。
【0064】
また、本発明に係る流速測定方法は、鉛ビスマスを溶融する場合等における精密な流速測定に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】鉛ビスマスの二元系状態図である。
【図2】本発明の粉末の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の粉末の一例のXRDデータ(CuKα)を示す図である。
【図4】本発明の粉末の一例の断面の電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の粉末を超音波流速測定に用いたターゲットシステムの一例を示す図である。
【図6】図5のターゲットシステムのターゲット容器内の流速分布計算例(シミュレーション結果例)を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 外側部
2 内壁部
3 陽子の入射方向へのターゲット液の流れ
5 冷却槽に向うターゲット液の流れ
10 冷却槽
11 ターゲット容器
12,13 超音波センサ
14 陽子の入射方向を示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを6〜46質量%含み残部が実質的にモリブデンのタングステンモリブデン合金からなることを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、空孔率を10%以下、密度を10.5〜13.0g/cmとしたことを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末。
【請求項3】
請求項1に記載の鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、粒子の大きさをAとし、測定に使用する超音波の波長Bに対して、AはB/4−B/20からB/4+B/10の範囲に9割以上の粒子が分布していることを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末。
【請求項4】
請求項1に記載の鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、酸素濃度を100質量ppm以下としたことを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末。
【請求項5】
請求項1に記載の鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末において、粉末表面をニッケルで被覆したことを特徴とする鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末。
【請求項6】
請求項1〜5の内のいずれか一つに記載の鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末を用いたことを特徴とする核破砕中性子源液体ターゲットシステム。
【請求項7】
タングステンを6〜46質量%含み残部が実質的にモリブデンからなる鉛ビスマス溶融液流速測定用粉末を媒体とし、鉛ビスマス溶融液流に超音波を流体の流れ方向に対して平行以外の方向で入射して、ドップラー効果により鉛ビスマス溶融液の流速を測定することを特徴とする超音波流速測定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波流速測定方法を用いたことを特徴とする核破砕中性子源液体ターゲットシステム。


【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−28580(P2006−28580A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208648(P2004−208648)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【Fターム(参考)】