説明

鉛フリー低融点ガラス及びその製造方法

【課題】低温プロセスで、耐水性に優れた鉛フリー低融点ガラスを提供する。
【解決手段】1)強リン酸ならびに2)無機材料(但し、前記1)を除く。)の少なくとも1種を含む混合物を熱処理することにより鉛フリー低融点ガラスを製造する方法であって、(1)無機材料の少なくとも1種の含有量が混合物中10モル%以上であり、
(2)熱処理温度が200〜450℃である、ことを特徴とする鉛フリー低融点ガラスの製造方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な鉛フリー低融点ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、PbO−SiO−B系ガラス、PbO−P−SnF系ガラス等の低融点ガラスは、成形加工に要するエネルギーひいてはコスト、製造コスト等の面で高融点ガラスに比して極めて有利であるため、省エネルギーに対する昨今の社会的要請とも合致しており、電子部品の封着、被覆等に汎用されている。さらに、低融点ガラスは高融点ガラスに比べ、さらに、光機能性能の有機物を破壊しない温度で溶融することが可能であり、光機能性有機物含有(非線形)光学材料のホストとして光スイッチなどの光情報通信デバイスなどへの応用が期待されている。
【0003】
ところが、鉛という有害物質を含むため、環境面あるいは健康面の観点から、鉛を含まないガラス、いわゆる鉛フリーガラスの要請が高くなっている。例えば、最近制定された WEEE/RoHS 指令(欧州議会制定の有害物質使用制限の指令)にもみられるように、有害物質の使用制限は世界レベルで進みつつある。このため、ガラスの製造業界においても、鉛フリーガラスの開発が盛んに進められている。
【0004】
従来よりガラスの製造方法として採用されている代表例として溶融法がある。これは、所定のガラス組成を有する原料粉末を均一に混合し、1000℃以上の高温で溶融し、急冷することによりガラスを製造する方法である。この方法は、高温での処理が必要となるので、それだけコスト、設備等における負担が大きい。
【0005】
溶融法では、融点を下げるために、鉛やアルカリ、ビスマスなどの含有を必要とする等、構成できるガラス組成には多くの制限があり、限界に来ている。これに対し、低温プロセスとして、ゾルゲル法、液相反応法等が知られている。ところが、ゾルゲル法で得られるガラスは多孔質であり、緻密なガラスを得ようとすれば、ガラス組成にも依存するが結局1000℃以上での高温処理が必要となる。
【0006】
これに対し、ゾルゲル法の欠点を改善するために、例えば有機無機ハイブリッドガラス状物質を製造する場合において、ゾルゲル法で作製されたゲル体と無水酸塩基反応法により得られた物質とを、混合し、加熱して溶融し、さらに熟成されたことを特徴とする有機無機ハイブリッドガラス状物質の製造方法(特許文献1)が提案されている。
【0007】
また、トリアルキルクロロシランとリン酸、又はトリアルキルクロロシランとリン酸及び金属塩化物を水を使用することなしに加熱反応させることより、RSiO0.5−RSiO−MO−P(但し、Rはメチル基又はエチル基、Mは2価の金属)系の有機−無機ハイブリッド低融点ガラス(但し、Rはメチル基又はエチル基、Mは2価金属)を製造する方法も知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−277207
【特許文献2】特開2004−43242
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの方法によって得られるガラスは、耐熱性、気密性等を向上できるものの、特に耐水性等の点ではなお改善の余地がある。
【0009】
従って、本発明の主な目的は、低温プロセスで、耐水性に優れた鉛フリー低融点ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑みて研究を重ねた結果、特定の方法により得られるガラスがこれまでにない優れた耐水性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の鉛フリー低融点ガラス及びその製造方法に係る。
1. 1)強リン酸ならびに2)無機材料(但し、前記1)を除く。)の少なくとも1種を含む混合物を熱処理することにより鉛フリー低融点ガラスを製造する方法であって、無機材料の少なくとも1種の含有量が混合物中10モル%以上であることを特徴とする鉛フリー低融点ガラスの製造方法。
2. 熱処理温度が200〜450℃である、前記項1に記載の製造方法。
3. 無機材料の少なくとも1種の含有量が混合物中10〜70モル%である、前記項1又は2に記載の製造方法。
4. 無機材料が、金属、金属酸化物及び金属塩の少なくとも1種である、前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5. 強リン酸が、リン含有率としてPを72.4〜84重量%含む、前記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6. 強リン酸が、オルトリン酸及びポリリン酸の少なくとも1種である、前記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
7. 無機材料の一部として酸化物微粒子を用いる、前記項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
8. 前記項1〜7のいずれかの製造方法により得られる鉛フリー低融点ガラス。
9. ガラス転移温度が140〜300℃である、前記項8に記載の鉛フリー低融点ガラス。
10. ガラス軟化温度が150〜340℃である、前記項8に記載の鉛フリー低融点ガラス。
11. 30℃〜ガラス転移温度における熱膨張係数が50×10−7〜300×10−7/℃である、前記項8に記載の鉛フリー低融点ガラス。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法では、強リン酸の存在下において比較的多量の無機材料を熱処理するので、少なくとも耐水性が従来品に比して優れたガラスを得ることができる。また、比較的低温で合成できるため、製造コスト、設備コスト(メンテナンスコストも含む。)等においても有利であり、工業的規模での生産に適している。
【0013】
本発明のガラスは、耐水性のほか、1)ガラス転移温度が低い、2)ガラス軟化温度が低い、3)熱膨張係数が小さい、等の少なくとも1つの特徴をもつ。例えば、従来の鉛含有ガラスは、ガラス転移温度:310℃、ガラス軟化温度:350℃、熱膨張係数:115×10−7/℃であるのに対し、本発明では、ガラス転移温度:250℃、ガラス軟化温度:290℃、熱膨張係数:110×10−7/℃という特性を有するガラスを提供することができる。
【0014】
このような本発明ガラスは、例えばエレクトロニクス分野における封着ガラス、フォトニクスガラス等に用いることができる。また、例えばブラウン管の電子銃のファンネル又はネックチューブ、プラズマディスプレイパネルの隔壁部分、電子回路部品の封着部等に幅広く適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1.リン酸系ガラスの製造方法
本発明の鉛フリー低融点ガラスの製造方法は、1)強リン酸ならびに2)無機材料(但し、前記1)を除く。)の少なくとも1種を含む混合物を熱処理することにより鉛フリー低融点ガラスを製造する方法であって、無機材料の少なくとも1種の含有量が混合物中10モル%以上であることを特徴とする。
【0016】
強リン酸
本発明では、強リン酸を用いる。本発明では、強リン酸の酸としての溶解作用とともに、加熱時に生じる分解作用を利用することにより、低温での溶融効果(ひいてはガラス化)を効率的に得ることができる。
【0017】
強リン酸は、リン含有率がP換算で72.4重量%以上含むリン酸とされている(例えば、文献「定量における強リン酸の利用」木羽敏泰、化学技術3、No.1,pp.77-80(1959)参照)。本発明における「強リン酸」も上記強リン酸と同義である。本発明における「強リン酸」も上記強リン酸と同義である。より具体的には、強リン酸として、オルトリン酸(HPO)又はそれよりもP(五酸化二リン)含有率が高い各種リン酸の混合物を用いる。ちなみに、オルトリン酸HPOのリン含有率(理論値)は、P換算で[141.95/2)/98]×100=72.4重量%となる。ただし、実際は、オルトリン酸の一部が二量体、三量体等を形成し、これらを含む混合物になっていることが多いので、混合物全体としてのリン含有量はP換算で72.4重量%以上となる。このような混合物の場合の上記リン含有率は、アッベの屈折計による測定によって求めることが望ましい(例えば、文献「ポリリン酸中の化学反応」木羽敏泰、有機合成化学協会誌、1967年、第25巻、P1162〜P1175参照)。
【0018】
強リン酸の具体例としては、オルトリン酸のほか、ピロリン酸(H)、トリリン酸(H10)、テトラリン酸(H13)等のポリリン酸(特に直鎖状ポリリン酸)の混合物等が挙げられる。
【0019】
また、強リン酸を調製するために使用する原料としては、オルトリン酸水溶液(オルトリン酸85重量%の水溶液)、オルトリン酸等のほか、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)等のリン酸のアンモニウム塩が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。これらは市販品を使用することもできる。特に、本発明では、通常はオルトリン酸水溶液を使用することができる。
【0020】
上記の低温での溶融効果は、強リン酸中のリン含有率が高いほど良く、前記のようにリン含有率がP換算で72.4重量%以上含むリン酸を用いることにより所望の溶融効果を得ることができる。ただし、上記リン含有率がP換算で85重量%を超えると環状ポリリン酸(HPO又は分枝鎖状酸が生成し始め、分解作用が低下することがある。このため、リン含有率の上限値はP換算で85重量%とすることが望ましい。すなわち、本発明の強リン酸のリン含有率はP換算で72.4〜85重量%とすることが望ましい。強リン酸のリン含有率に対して各種ポリリン酸の比率及び比重は一義的に決まる。例えば、380℃で作製した強リン酸の比重は2.08(15℃)、リン含有率はP換算で80.1重量%、オルトリン酸が16.7重量%、ピロリン酸(H)が38.6重量%、トリリン酸(H10)が24.8重量%、テトラリン酸(H13)19.9重量%である。一般的に、強リン酸の組成はこのように各種ポリリン酸の混合物であり、化学式で一義的に記載できないので、P換算比率で表現される。
【0021】
特に、本発明では、無機材料との混合に先立って、予め上記の原料を所定の温度で加熱し、濃縮して得られた濃縮体を強リン酸として用い、これを無機材料と混合することが望ましい。加熱すると盛んに水蒸気を発生するので、積極的にガラス管等で水蒸気をアスピレーター等で吸引することによって効率的に濃縮体を作製することができる。加熱温度は、通常280〜450℃とし、特に370〜400℃とすることが望ましい。450℃を超えると、環状ポリリン酸及び分枝鎖状酸が比較的多量に生成し、強リン酸が本来有する分解作用が弱くなり、所望のガラスが得られなくなる。
【0022】
このように、本発明では、例えば、無機材料との混合に先立って、オルトリン酸水溶液を280〜450℃で熱処理して得られる濃縮体を予め調製し、これを無機材料と混合する工程を好適に採用することができる。これにより、いっそう効率的に(短時間で)本発明ガラスを製造することができる。
【0023】
無機材料
無機材料の少なくとも1種としては、前記強リン酸以外のものであれば特に限定されず、所望のガラス組成に応じて適宜選択することができる。
【0024】
無機材料としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、銀、白金、亜鉛等の遷移金属のほか、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、テルル、アンチモン等の単体又はその化合物を挙げることができる。また、これらのうち金属は、これら金属を含む合金又は金属間化合物であっても良い。
【0025】
これらの化合物としては、上記元素の酸化物(酸性酸化物、塩基性酸化物、両性酸化物等);上記元素の炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、珪酸塩、等の無機酸塩;上記元素のシュウ酸塩、酢酸塩等の有機酸塩等;上記元素の水酸化物、上記元素の窒化物、上記元素の塩化物等が挙げられる。また、これらの化合物は、上記元素を2種以上含んでいても良い。
【0026】
これらの化合物の具体例としては、AgO、AgNO、Al(NO、金属Al、Al、Ba(NO、Ba(OH)、BaCO、Ca(OH)、CaCO、CaO、Ce(NO、Co(NO・6HO、CoO(II)、Cr(CHCOO)(III)、金属Cr、CrO(IV)、CsCO、CuCl(II)、CuCl(I)、Fe、Ga、GaN、Gd、In、KCO、La(CO、La、Li、Mg(NO・6HO、金属Mg、MgCO、MnCO(II)、MnO、MoO(IV)、NaCO、NaHCO、Nb、Nb、NiO(II)、Pr11、RbCO、SbCl、RbCO、SiO(II)、Sm、SnCl、SnO、SrCO、TeO、TiO(II)、Y、ZnCl、Zr(OH)、ZrCl(IV)、ZrO(NO・2HO、RSiCl、RSiCl(R:炭化水素基等の有機部位)等で表されるシリコン系有機クロライド化合物、ZnCl,AlCl,GeCl,MnCl等の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0027】
さらに、本発明では、上記元素の供給源となり得る無機材料も用いることができる。例えば、ガラス、鉱物等も用いることができる。
【0028】
本発明では、後記のように、酸化物微粒子を用いる場合は、特に無機材料としてはケイ素酸化物以外のものであることが好ましい。
【0029】
本発明では、無機材料は、塩化物を使用した場合、反応時に塩化水素ガスが発生するが、それ以外は水素、水蒸気、二酸化炭素、窒素酸化物等が発生するもの(すなわち、反応時に腐食性ガスが発生しないもの)を好適に用いることができる。
【0030】
本発明では、無機材料の割合は混合物中10モル%以上とし、好ましくは10〜70モル%とする。
【0031】
また、本発明では、無機材料の一部として、酸化物微粒子を用いることもできる。これにより、ガラスの低温溶融効果を損なうことなく、ガラス化反応をより効率的に進めることが可能となる。酸化物微粒子は、限定的でなく、例えばケイ素、チタン等の酸化物の微粒子を用いることができる。特に、本発明では、ケイ素酸化物の微粒子(シリカ微粒子)を用いることが望ましい。シリカ微粒子自体は、公知又は市販のものでも良く、またその製造方法も限定されない。
【0032】
酸化物微粒子は、限定的でなく、例えばケイ素、チタン等の酸化物の微粒子を用いることができる。特に、本発明では、ケイ素酸化物の微粒子(特にシリカ微粒子)を用いることが望ましい。シリカ微粒子自体は、公知又は市販のものでも良く、またその製造方法も限定されない。
【0033】
酸化物微粒子(一次粒子)の平均粒径は、通常は2〜20nm程度、好ましくは5〜10nmのものを用いることが好ましい。この範囲内の酸化物微粒子を用いることによって、特にガラス化反応し易く、最終ガラス組成物中に酸化物微粒子の含有量を高くかつ低温温度でガラスを作製することができるという効果を得ることができる。なお、酸化物微粒子は、凝集していても良いが、容易に一次粒子に解れる程度のゆるい凝集状態であることが望ましい。
【0034】
酸化物微粒子としてシリカ微粒子を用いる場合、シリカ微粒子の表面にはシラノール基(Si−OH)が存在していることが好ましい。この場合、シラノール基の存在密度(割合)は、2個/nm以上、特に4〜10個/nmであることが好ましい。かかる存在割合でシラノール基が存在する場合には、特にガラス化反応し易く、最終ガラス組成物中に酸化物微粒子の含有量を高くかつ低温温度でガラスを作製することができるという効果が得られる。
【0035】
酸化物微粒子の使用量は、用いる酸化物微粒子の種類等に応じて適宜設定できるが、一般的には前記無機材料の合計中1〜60モル%、特に3〜50モル%程度とすることが好ましい。上記範囲内に設定することによって、特にガラスの耐水性向上に対する寄与が大きくなるという効果を得ることができる。
【0036】
以下に、本発明の酸化物微粒子の代表例としてシリカ微粒子についてさらに詳細に説明する。
【0037】
本発明では、シリカ微粒子として、一次粒子径が10nm以下で、かつ、シリカ微粒子表面のシラノール基密度が2個/nm以上有し、1次粒子がゆるい凝集状態であり容易に1次粒子にほぐせるもの(ナノシリカ微粒子)を好適に用いることができる。
【0038】
本発明で用いるシリカ微粒子の製造方法は、前記のとおり、限定されない。その合成方法として気相法と液相法とに大別され、具体的には1)乾式シリカ、2)湿式シリカ、3)ゾル−ゲル法シリカ、4)コロイダルシリカがある。
【0039】
1)乾式シリカは、四塩化珪素等のシラン系ガスを酸水素炎中で燃焼させて得られるものであり、「ヒュームドシリカ」とも称されている。一般に、乾式シリカは、比表面積(BET法)が30〜500m/gであり、製造直後のシラノール基の存在密度は1〜1.5個/nm、空気中において飽和すると5個/nm程度となる。また、乾式シリカは、一般に細孔はなく、表面はひだ状になっており無孔質(緻密質)である。
【0040】
また、 乾式シリカは、四塩化珪素等のシラン系ガスを酸水素炎中で燃焼させて得られるため、製造直後のシラノール基密度はnm当たり1〜3個程度である。この場合、加湿処理するか、あるいはシリカ微粒子を水を含む極性溶媒中に分散させて、シリカの表面シラノール基密度をnm当たり4個以上に予め調製することが可能である。
【0041】
2)湿式シリカは、珪酸ソーダを鉱酸で中和することによって溶液中でシリカを析出させる沈殿法によって得られるシリカが代表的であり、ホワイトカーボンとも称されている。また、同様に、珪酸ソーダを酸で中和することによって作るゲル法シリカも使用することができる。
【0042】
湿式法シリカは、中和反応後に濾過や洗浄を行った後の乾燥工程を施さない脱水シリカケークを直接使用することもできる。湿式シリカは、平均4〜5個/nmのシラノール基密度を有し、飽和させると8個/nm程度となる。また、表面には細孔がある。
【0043】
3)ゾル−ゲル法シリカは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の珪素のアルコキシドを酸性又はアルカリ性の含水有機溶媒中で加水分解することによって得られるものである。
【0044】
4)コロイダルシリカは、一般に珪酸ソーダ水溶液を陽イオン交換性樹脂に通してシリカゾルを生成させた後、これを加熱熟成して粒子を成長させることによって得られるものである。
【0045】
上記熟成条件は、使用するシリカの種類、状態等によって異なる。例えば、乾式シリカは、四塩化珪素等のシラン系ガスを酸水素炎中で燃焼させて得られるため、製造直後のシリカ微粒子のシラノール基密度はnm当たり1〜3個程度である。このように表面のシラノール基が少ないシリカに対しては、上記熟成時間を比較的長時間行う処理が推奨される。
【0046】
以上をまとめると、乾式シリカは製造直後1〜1.5個/nm、空気中において飽和すると5個/nm、細孔はない無孔質シリカであり、湿式シリカは平均4〜5個/nmで飽和させて8個/nmのシラノール基密度を有する。当然、シラノール基密度が高くて、一次粒子径が小さければ小さいほどガラス化反応が起こりやすく、シリカ微粒子を高含有量あるいはより低温温度でガラスを作製することができる。上記1)〜4)のうち、本発明では、特に湿式シリカを用いることが好ましい。
【0047】
原料として使用するシリカ微粒子は、粉末状であっても良いし、オルガノシリカゾルのスラリーの様態であっても良い。ただし、水を使用しないことが好ましいので、スラリーは有機溶媒(非水系溶媒)で分散した状態である必要がある。比表面積に関しては、大きければ大きいほど好ましいが、大きすぎると1次粒子が凝集してしまいなかなか凝集をほどくことができない。仮に1次粒子が凝集していても、容易に凝集をほどくことが可能であれば問題ない。
【0048】
なお、本発明におけるシリカ微粒子表面のシラノール基の存在密度(個/nm)は、赤外線吸収法により3750cm−1の孤立シラノール基の水酸基部分の伸縮振動の吸収、3640〜3680cm−1の水素結合したシラノール基の吸収強度を測定することによって測定・算出することができる。あるいは、水素化リチウムアルミニウムとシラノール基を反応させることによって測定・算出することもできる。
【0049】
また、強リン酸の割合は、P換算で混合物中30モル%以上90モル%以下とし、好ましくは40〜60モル%とする。
【0050】
混合物の調製
混合物は、上記の2成分を均一に混合すれば良い。混合方法は限定されず、例えばミキサー、ニーダー等の公知の装置を使用すれば良い。また、混合順序は、熱処理される前にこれら2成分が均一に混合されている限り、特に限定されない。混合は、水が実質的に存在しない条件下で行うことが好ましい。
【0051】
混合物の調製に際し、必要に応じて、他の成分(溶媒等)を配合することもできる。ただし、溶媒を用いる場合は、水以外の溶媒、特に非水系溶媒を用いることが好ましい。非水系溶媒としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、アセトン、キシレン、トルエン等の有機溶媒が挙げられる。
【0052】
熱処理
本発明では、上記混合物を熱処理することによりガラスを作製する。本発明では、熱処理により混合物を溶融させることが好ましい。
【0053】
熱処理温度は限定的ではないが、通常は200〜450℃とし、特に380〜400℃とすることが望ましい。450℃を超えると、環状ポリリン酸が比較的多量に生成し、強リン酸がもつ分解作用が弱くなり、所望のガラスが得られなくなる。
【0054】
熱処理雰囲気は、限定的ではなく、大気中、不活性ガス雰囲気中等のいずれであっても良い。特に、不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。不活性ガスとしては、例えば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。また、熱処理雰囲気は、乾燥した雰囲気とすることが好ましく、例えば相対湿度50%以下とすることがより好ましい。
【0055】
また、熱処理の際における昇温速度は5℃〜30℃/分が好ましく、より好ましくは10℃〜20℃/分が好ましい。冷却速度は特に制限はないが、室温まで迅速に低下させるのに超したことはない。
【0056】
2.鉛フリー低融点ガラス
本発明は、前記の製造方法で得られる鉛フリー低融点ガラスも包含する。すなわち、1)強リン酸ならびに2)無機材料(但し、前記1)を除く。)の少なくとも1種を含む混合物を熱処理することにより鉛フリー低融点ガラスを製造する方法であって、(1)無機材料の少なくとも1種の含有量が混合物中10モル%以上であり、(2)熱処理温度が200〜450℃である、ことを特徴とする鉛フリー低融点ガラスの製造方法により得られる鉛フリー低融点ガラス(本発明ガラス)も包含する。
【0057】
本発明ガラスの形態は、通常はバルク体であるが、粒状、板状等の各種の形態をとることができる。
【0058】
本発明ガラスの基本組成は、用いる無機材料等によって異なるが、特にP−SnO系、P−Al系、P−AgO系、P−SnO−Zn系、P−MgCO−SnO系、P−SnO−ZnO系、P−Sn−Zn系、P-SnO−MnCO系、P−SnO−SiO系組成が好ましい。しかし、必ずしもこれらに限定されたものではない。
【0059】
本発明ガラスのガラス軟化温度(Ts)は、通常は150〜340℃程度、好ましくは180〜300℃の範囲内である。
【0060】
本発明ガラスのガラス転移温度(Tg)は、通常は140〜300℃程度、好ましくは150〜280℃の範囲内である。
【0061】
本発明ガラスの熱膨張係数(30℃〜ガラス転移温度までの平均熱膨張測定値)は、通常50×10−7〜300×10−7/℃程度、好ましくは50×10−7〜250×10−7/℃である。
【0062】
本発明ガラスの耐水性は、純水に本発明ガラスを浸漬することにより測定する。具体的には、本発明ガラス1gを温度20℃の純水10mLに浸漬し、経時的にpHを測定し、中性を維持できる期間を調べる。本発明ガラスはリン酸系ガラスであることから、ガラス成分が溶出する場合(耐水性が低い場合)は酸性に変化する。一方、ガラス成分が溶出しない場合は、それだけ長期にわたり中性(pH=7付近)を維持することができる。本発明ガラスは、通常1ヶ月以上、特に2ヶ月以上にわたり中性を維持することができる。
【0063】
本発明ガラスの密度は、限定的ではないが、緻密であることが好ましいことから、通常2.0〜4.0g/cm程度、好ましくは2.5〜3.6g/cmである。
【実施例】
【0064】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をさらに明確にする。ただし、本発明の範囲は、これら実施例に限定されない。
【0065】
調製例1
(強リン酸の調製)
市販のオルトリン酸水溶液(オルトリン酸成分85%)を約300g、500ccのコニカルビーカーに取り、500W電熱器の中央において、温度計を硬質ガラスの保護管に入れてリン酸中に浸し、また直径8mmのガラス管を液面近く支持してその他端をアスピレーターにつないで吸引をしながら、加熱すると盛んに水蒸気を出して濃縮が行われ温度は上昇した、液温が380℃に達し、5分間保持後、自然に室温まで冷却し強リン酸を作製した。P換算で80.1重量%、比重は2.08(15℃)、組成はオルトリン酸(HPO)が16.7重量%、ピロリン酸(H)が38.6重量%、トリリン酸(H10)が24.8重量%、テトラリン酸(H13)19.9重量%であった。以下の実施例では、すべてこの強リン酸を用いた。
【0066】
実施例1
・ ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、SnO:50モル%、ZnO:5モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ400℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0067】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):198℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):228℃
・熱膨張係数(α):173×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0068】
実施例2
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、SnO:50モル%、Zn:5モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ400℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0069】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):186℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):218℃
・熱膨張係数(α):176×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0070】
実施例3
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、SnO:44モル%、Zn(NO・6HO:11モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、10℃/minの昇温速度で400℃まで上げた後、400℃で電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0071】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):196℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):225℃
・熱膨張係数(α):180×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0072】
実施例4
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、Sn:17モル%、Zn(NO・6HO:38モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ400℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0073】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):190℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):232℃
・熱膨張係数(α):170×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0074】
実施例5
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、Sn:17モル%、Zn:38モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、10℃/minの昇温速度で400℃まで上げた後、400℃で電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0075】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):192℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):228℃
・熱膨張係数(α):185×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0076】
実施例6
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、Al:11モル%、Zn:44モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ400℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0077】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):201℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):232℃
・熱膨張係数(α):167×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0078】
実施例7
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、MgCO:7モル%、SnO:33モル%、MnCO:15モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、10℃/minの昇温速度で400℃まで上げた後、400℃で電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0079】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):208℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):238℃
・熱膨張係数(α):160×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0080】
実施例8
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、AgO:34モル%、ZnO:21モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、10℃/minの昇温速度で400℃まで上げた後、400℃で電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0081】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):189℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):222℃
・熱膨張係数(α):183×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0082】
実施例9
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、AgO:32モル%、ZnO:9モル%、TeO:14モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ400℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):168℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):202℃
・熱膨張係数(α):186×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0083】
実施例10
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、Al(NO:6モル%、AgO:32モル%、ZnO:3モル%、TeO:14モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ400℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):178℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):210℃
・熱膨張係数(α):176×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0084】
実施例10
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、Al(NO:6モル%、AgO:32モル%、ZnO:3モル%、TeO:14モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ300℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):160℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):197℃
・熱膨張係数(α):245×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0085】
実施例11
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、Al(NO:1モル%、SnO:39モル%、Y:7モル%、La(CO:4モル%、MgCO:4モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ400℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):190℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):226℃
・熱膨張係数(α):165×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0086】
実施例12
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、Al(NO:4モル%、SnO:39モル%、Ga:4モル%、La(CO:4モル%、MgCO:4モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ400℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0087】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):193℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):220℃
・熱膨張係数(α):168×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0088】
実施例13
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、Al(NO:4モル%、LiCO:3モル%、NaCO:3モル%、KCO:3%、SnO:34モル%、Sm:4モル%、Zn:4モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ400℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0089】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):176℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):212℃
・熱膨張係数(α):174×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0090】
実施例14
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、Al(NO:4モル%、LiCO:3モル%、NaCO:3モル%、KCO:3%、SnO:27モル%、Mg:11モル%、Zn:4モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ380℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0091】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):172℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):210℃
・熱膨張係数(α):169×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる
実施例15
・ ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、SnCl:50モル%、ZnCl:5モル%のトータル100モル%を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ420℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0092】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):173℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):202℃
・熱膨張係数(α):213×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。
【0093】
実施例16
(1)ガラスの製造
強リン酸(P):45モル%、SnO:50モル%、ZnO:5モル%のトータル100モル%に対し、メタノールシリカゾル:3モル%(平均粒径8nm、シラノール基密度:5.3個/nm、pH3.1)を用い、最初からこれらの原料を上記モル比率となるように混合した。その混合物を白金坩堝もしくは金坩堝に充填した後、あらかじめ420℃の温度に保持しておいた電気炉内に坩堝をセットし、電気炉内で4時間、原料成分を加熱して溶融させた。得られた溶融物をステンレス板上に流し出し、最終生成物として低融点ガラスを得た。これは、透明な均一なガラスであった。
(2)物性の評価
前記(1)で得られたガラスについて各種の物性を測定した。その結果を以下に示す。
【0094】
・熱分析装置(DSC)によりガラス転移温度(Tg):217℃
・熱機械測定装置(TMA)によりガラス軟化温度(Ts):243℃
・熱膨張係数(α):108×10−7
・耐水性:純水浸漬試験により調べた。ガラスを純水に室温で浸漬し、pH試験紙で定期的にpHを調べる。リン酸系ガラスであるため、ガラスの耐水性が低いと純水のpHが中性の7から酸性側にシフトする。本ガラスは、浸漬後、3日後もpHは中性のままであり、ガラス表面も透明のままであった。これより、ガラス転移温度、ガラス軟化温度、熱膨張係数含めて現在使用されている鉛含有ガラスと同等以上の性能を有していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)強リン酸ならびに2)無機材料(但し、前記1)を除く。)の少なくとも1種を含む混合物を熱処理することにより鉛フリー低融点ガラスを製造する方法であって、無機材料の少なくとも1種の含有量が混合物中10モル%以上であることを特徴とする鉛フリー低融点ガラスの製造方法。
【請求項2】
熱処理温度が200〜450℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
無機材料の少なくとも1種の含有量が混合物中10〜70モル%である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
無機材料が、金属、金属酸化物及び金属塩の少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
強リン酸が、リン含有率としてPを72.4〜84重量%含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
強リン酸が、オルトリン酸及びポリリン酸の少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
無機材料の一部として酸化物微粒子を用いる、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの製造方法により得られる鉛フリー低融点ガラス。
【請求項9】
ガラス転移温度が140〜300℃である、請求項8に記載の鉛フリー低融点ガラス。
【請求項10】
ガラス軟化温度が150〜340℃である、請求項8に記載の鉛フリー低融点ガラス。
【請求項11】
30℃〜ガラス転移温度における熱膨張係数が50×10−7〜300×10−7/℃である、請求項8に記載の鉛フリー低融点ガラス。


【公開番号】特開2007−269531(P2007−269531A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95750(P2006−95750)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【Fターム(参考)】