説明

鉛蓄電池の充電方法

【課題】 サルフェーションにより劣化した鉛電池を短時間で再生処理する方法を提供する。
【解決手段】 正極の活物質が主として過酸化鉛よりなり、負極の活物質が主として金属鉛よりなり、電解液が希硫酸よりなり、該電解液100重量部中に、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩の少なくとも一つを0.005ないし1重量部が含まれる鉛蓄電池の充電方法であって、該鉛蓄電池の単電池の端子電圧が約2.2Vないし2.6Vとなるまで第一段階の充電をした後、更に充電電流が0.01C以上、0.1C以下で、且つ該単電池の端子電圧が2.7Vないし3.0Vの条件下で、充電時間Hと充電電流Cとの積H×Cが0.5以上となる時間第二段階の充電を行なう鉛蓄電池の充電方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池の再生方法に関し、特に、電解液中に有機ポリマーを添加して高い充電終止電圧と大電流を適用する鉛蓄電池の充電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は充放電の繰り返しに伴い、負極の電極活物質が電気化学反応に伴い、活物質の再結晶化が進行する結果、これらの粒子が成長し、電気的導通が断たれたり活物質の表面積が減少し、電池の容量が減少したり内部抵抗が増大する。従来、この劣化した電極を活性化する目的で、本発明者等はポリビニルアルコール(PVA)等を電解液中に添加する方法を発明している(特許文献1,2参照)。これらの方法では特性の回復した電池は1年以上の長期間にわたりその特性が持続する長所がある反面、鉛蓄電池を充分に活性化するためには充放電を何回も繰返す必要があり、速効性に乏しかった。また本発明者等は、ポリビニルアルコール等を電解液中に添加して大電流で長時間放電を行うことにより、電池の容量を回復する方法を発明した(特許文献3参照)。然しながら、この方法でも特性は徐々に回復するが回復の度合いがゆるやかであった。更に本発明者等は、大電流放電の後、端子電圧が2.25ないし2.6Vとなるまで充電する充放電サイクルを数十回以上繰り返す方法を発明した(特許文献4参照)。然しこの方法は何回も充放電を繰り返す必要があり、再生に長時間を要する欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特開2000−149981号公開公報
【特許文献2】 特開2001−313064号公開公報
【特許文献3】 特開2004−356076号公開公報
【特許文献4】 特開2009−16324号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第一の目的は劣化した鉛蓄電池の容量を極めて短時間で増大させ、劣化前に近い容量に回復させることにある。本発明の第二の目的は鉛蓄電池の充放電サイクル寿命を長期間維持させることにある。
【問題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、正極の活物質が主として過酸化鉛よりなり、負極の活物質が主として金属鉛よりなり、電解液が希硫酸よりなり、該電解液100重量部中に、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩の少なくとも一つを0.005ないし1重量部が含まれる鉛蓄電池の充電方法であって、該鉛蓄電池の単電池の端子電圧が約2.2Vないし2.6Vとなるまで第一段階の充電をした後、更に充電電流が0.01C以上、0.1C以下で、且つ該単電池の端子電圧が2.6Vないし3.1V、好ましくは2.7Vないし3.0Vの条件下で、充電時間Hと充電電流Cとの積H×Cが0.3以上、好ましくは0.5以上となる時間第二段階の充電を行なう鉛蓄電池の充電方法であり、更に好ましくは、前記第一段階の充電を充電電流が0.05C以上、0.3C以下で行なう鉛蓄電池の充電方法である。
【0006】
なお、ここでCとは電池の定格容量を1時間で充電または放電するに相当する電流の大きさを表し、nC=充放電電流(A)÷定格容量(AH)で表されるnの値が小さいほど小電流での充放電を意味する。
【発明の効果】
【0007】
即ち、本発明は、従来一般に行なわれている単電池の端子電圧が約2.2Vないし2.6Vとなる満充電を行なった後、鉛蓄電池の電解液中にポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダ等の有機ポリマーが存在せしめることにより負極の水素過電圧を高めて水の電気分解を防止しつつ、充電電流が0.01C以上、0.1C以下で、且つ単電池の端子電圧が2.6Vないし3.1Vの高い値で長時間充電することにより、電極活物質の再生が円滑に行なわれ、容量の低下した電池を容易に再生できることを見出したことに基づくものである。
【0008】
本発明の高端子電圧−長時間充電処理においては、第二段階の充電条件が特に重要である。その内の充電電流については、0.01Cを下回ると電池容量の回復が極めて遅くなり実用性に乏しい。また、0.1Cを超える電流では、端子電圧が高くなりすぎて、かえって電極の劣化を促進する。端子電圧については、2.6Vより低い状態で充電を継続しても、低下した電池容量の回復は小さく、3.1Vを超えると電極の劣化を促進する。充電時間は、充電電流の大きさと電池の劣化の度合いによって好ましい値が決まるが、通常数時間ないし数十時間であり、第二段階の充電に使用した電気量が電池の公称容量の30%以上となるように設定するのが望ましい。また、その時間は電極の劣化を防止するため単電池の端子電圧が3.1Vを超えない範囲とするのが望ましい。
【0009】
本発明で電解液に添加する有機ポリマーの量は、電解液100重量部に対し、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩の少なくとも一つを0.005ないし1重量部とするのが好ましく、0.005重量部未満では効果が小さく、1重量部を超えると電解液の粘度が上昇して発泡等の現象を生じて好ましくない。
【0010】
本発明の第一段階の充電は、充電で負極に生じる金属鉛の結晶をより多孔質にするため、比較的大きな電流値、即ち0.05C以上、0.3C以下が望ましく、0.05C未満では容量の回復率が小さく、0.3C以上ではサイクル寿命がかえって低下する。
【0011】
本発明の利点は、サルフェーションの解消を極めて短時間で行なうことができる点にある。即ち、従来サルフェーションの解消には、単電池の端子電圧が2.4Vないし2.5Vで2日間以上行なうことが必要であったのに対し、本発明の方法によれば、その数分の一以下の10ないし12時間でサルフェーションをほぼ完全に解消することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の方法による劣化電池の再生効果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図1に基づいて説明する。
【実施例】
【0014】
6個の単電池を直列に接続した定格容量40Ah、12Vの鉛蓄電池を用い、表1に示すように、その電解液中にポリビニルアルコール0.5gないし1.5gを加えて溶解した試験体、試験番号2、3、4を準備した。また比較例としてポリビニルアルコールを含まない電池、試験番号1も準備した。これらの電池を終止電圧14.5Vで満充電した後、35A放電で放電終止電圧9Vまで放電した場合の電気容量を測定し、初期値とした。
【表1】

【0015】
これらの電池を充電電流3A、終止電圧14.5Vで満充電し、夫々の電池について35A放電で放電終止電圧9Vまで放電した場合の電気容量を測定した。この操作を5回繰り返し、電気容量を測定した。その結果を図1に示す。図1の1ないし4で示す折れ線は試験番号1ないし4の測定値を示す。充放電の繰り返しにより電気容量が低下したこれらの電池について、本発明の方法として、第一段階の充電が5A、第二段階の充電が終止電圧17V、終止時点での充電電流が1Aで1回目の再生処理をした結果、図1の折れ線の右端から2番目の値に示すように本発明の方法による試験番号2、3、4の電池では、電気容量が19.2ないし19.8Ahと初期値近くまで回復した。一方比較例の試験番号1の電池では、電気容量が18.3Ahまで回復したが、その後の充放電サイクルでの電気容量の低下が激しく、実用性に乏しかった。更に2回目の再生処理として、試験番号2、4について第一段階の充電を端子電圧14.5V、充電電流4.5Aで行い、第二段階の再生処理を、充電電圧17V、充電終止時の電流1.8Aで35時間行なった結果、図1のグラフの折れ線の右端に示す示すように、夫々22.7Ah、21.4Ahに回復した。
【符号の説明】
【0016】
1: 比較例の電池の各処理後の電気容量
2: 本発明の方法による試験番号2の試験体の各処理後の電気容量
3: 本発明の方法による試験番号3の試験体の各処理後の電気容量
4: 本発明の方法による試験番号4の試験体の各処理後の電気容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極の活物質が主として過酸化鉛よりなり、負極の活物質が主として金属鉛よりなり、電解液が希硫酸よりなり、該電解液100重量部中に、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩の少なくとも一つを0.005ないし1重量部が含まれる鉛蓄電池の充電方法であって、該鉛蓄電池の単電池の端子電圧が約2.2Vないし2.6Vとなるまで第一段階の充電をした後、更に充電電流が0.01C以上、0.1C以下で、且つ該単電池の端子電圧が2.7Vないし3.0Vの条件下で、充電時間Hと充電電流Cとの積H×Cが0.5以上となる時間第二段階の充電を行なうことを特徴とする鉛蓄電池の充電方法。
【請求項2】
正極の活物質が主として過酸化鉛よりなり、負極の活物質が主として金属鉛よりなり、電解液が希硫酸よりなり、該電解液100重量部中に、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩の少なくとも一つを0.005ないし1重量部が含まれる鉛蓄電池の充電方法であって、該鉛蓄電池の単電池の端子電圧が約2.2Vないし2.6Vとなるまで第一段階の充電をした後、更に充電電流が0.01C以上、0.1C以下で、且つ該単電池の端子電圧が2.6Vないし3.1Vの条件下で、充電時間Hと充電電流Cとの積H×Cが0.3以上となる時間第二段階の充電を行なうことを特徴とする鉛蓄電池の充電方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、第一段階の充電を、充電電流が0.05C以上、0.3C以下で行なう鉛蓄電池の充電方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−64552(P2012−64552A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227951(P2010−227951)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【出願人】(596115953)
【出願人】(596062772)
【Fターム(参考)】