説明

鉛蓄電池状態検出装置および鉛蓄電池状態検出方法

【課題】ジャンプスタートが実行された場合であっても、鉛蓄電池の状態を正確に検出すること。
【解決手段】車両に搭載されている鉛蓄電池の状態を検出する鉛蓄電池状態検出装置1において、鉛蓄電池14に流れる電流を検出する電流検出手段(電流センサ12)と、鉛蓄電池の電圧を検出する電圧検出手段(電圧センサ11)と、鉛蓄電池の端子に対して外部機器が直接接続され、電流検出手段を経由せずに鉛蓄電池が充電または放電された場合に、電流検出手段および電圧検出手段による電流と電圧の変化に基づいてこのような非正規の充放電を検出する非正規充放電検出手段(制御部10)と、電流検出手段および電圧検出手段によって検出された電流値および電圧値ならびに非正規充放電検出手段の検出結果を参照して鉛蓄電池の状態を検出する状態検出手段(制御部10)と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池状態検出装置および鉛蓄電池状態検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等においては、鉛蓄電池に蓄積されている電力によって動作する電気デバイスの数が増加するとともに、例えば、電動ステアリングおよび電動ブレーキ等のように走行の安全に関連するデバイスも鉛蓄電池によって駆動されるようになっている。このため、鉛蓄電池の充電状態(例えば、SOC:State of Charge)を正確に知る必要が高くなっている。
【0003】
一般的に、鉛蓄電池が安定した状態では、その開放端電圧(OCV:Open Circuit Voltage)と充電状態との間には比例関係があるので、開放端電圧を検出することで、充電状態を推定することができる。しかし、自動車等の車両の場合には、エンジン始動時に鉛蓄電池から各負荷への電力の供給があるとともに、オルタネータから鉛蓄電池への電力の供給があり、充電および放電が繰り返し発生する。充放電を行った後の蓄電池は、電気化学反応による極板表面でのイオンの生成・消滅反応、および、電解液の拡散や対流によるイオンの移動のそれぞれの影響を受けることから、開放電圧と充電状態の比例関係が成立しなくなってしまう。
【0004】
特許文献1,2には、充放電後でも、開放電圧および充電状態を正確に推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−2691号公報
【特許文献2】特開2009−300209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車等においては、鉛蓄電池の残容量が不足してエンジンの始動が困難になった場合の応急処置として、故障車の鉛蓄電池の端子と救援車の鉛蓄電池の端子をケーブルによって直接接続し、救援車からの電力の供給を受けることによってエンジンを始動する、いわゆる「ジャンプスタート」が実行される場合がある。
【0007】
このようなジャンプスタートが実行された場合、端子同士が接続されることから、電流センサをバイパスして電流が流れるので、例えば、特許文献1および2に記載された技術では、分極や成層化の影響を正確に推定することができない。このため、推定される開放電圧や充電状態が誤差を含んでしまうという問題点がある。また、ジャンプスタート以外にも、例えば、充電器が鉛蓄電池に直接接続されて、鉛蓄電池が充電されることがあるが、このような場合にも、推定される開放電圧や充電状態が誤差を含んでしまうという問題点がある。
【0008】
そこで、本発明は電流センサをバイパスする非正規の充放電がなされた場合であっても、鉛蓄電池の状態を正確に検出することが可能な鉛蓄電池状態検出装置および鉛蓄電池状態検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、車両に搭載されている鉛蓄電池の状態を検出する鉛蓄電池状態検出装置において、前記鉛蓄電池に流れる電流を検出する電流検出手段と、前記鉛蓄電池の電圧を検出する電圧検出手段と、前記鉛蓄電池の端子に対して外部機器が直接接続され、前記電流検出手段を経由せずに前記鉛蓄電池が充電または放電された場合に、前記電流検出手段および前記電圧検出手段による電流と電圧の変化に基づいてこのような非正規の充放電を検出する非正規充放電検出手段と、前記電流検出手段および前記電圧検出手段によって検出された電流値および電圧値ならびに前記非正規充放電検出手段の検出結果を参照して前記鉛蓄電池の状態を検出する状態検出手段と、を有する。
このような構成によれば、本発明は電流センサをバイパスする非正規の充放電がなされた場合であっても、鉛蓄電池の状態を正確に検出することが可能になる。
【0010】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記外部機器は、他の車両の鉛蓄電池であり、前記非正規充放電は、前記他の車両の鉛蓄電池がケーブルによって接続され、ジャンプスタートが実行された場合の充放電であり、前記非正規充放電検出手段は、前記ジャンプスタート実行時の前記充放電を検出する、ことを特徴とする。
このような構成によれば、ジャンプスタートが実行された場合であっても、鉛蓄電池の状態を正確に検出することができる。
【0011】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記非正規充放電検出手段によって非正規充放電が検出された場合には、当該非正規充放電によって生じる分極現象の変化量を考慮して前記鉛蓄電池の状態を推定することを特徴とする。
このような構成によれば、分極現象の変化によらず、鉛蓄電池の状態を正確に検出することができる。
【0012】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記非正規充放電検出手段によって非正規充放電が検出された場合には、当該非正規充放電によって生じる成層現象の変化量を考慮して前記鉛蓄電池の状態を推定することを特徴とする。
このような構成によれば、成層化現象の変化によらず、鉛蓄電池の状態を正確に検出することができる。
【0013】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記非正規充放電検出手段によって非正規充放電が検出された場合には、前記状態検出手段は、非正規充放電の際に測定した前記鉛蓄電池のインピーダンス値を廃棄することを特徴とする。
このような構成によれば、誤差を含む鉛蓄電池のインピーダンスを廃棄することにより、誤った状態検出が行われることを防止できる。
【0014】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記非正規充放電検出手段によって非正規充放電が検出された場合には、非正規充放電の発生を、他の装置に対して通知することを特徴とする。
このような構成によれば、非正規充放電の発生を他の装置に通知することにより、他の装置に特別な状況下にあることを知らしめることができる。
【0015】
また、本発明は、車両に搭載されている鉛蓄電池の状態を、電流検出手段および電圧検出手段の検出結果を参照して検出する鉛蓄電池状態検出方法において、前記鉛蓄電池の端子に対して外部機器が直接接続され、前記電流検出手段を経由せずに前記鉛蓄電池が充電または放電された場合に、前記電流検出手段および前記電圧検出手段による電流と電圧の変化に基づいてこのような非正規の充放電を検出する非正規充放電検出ステップと、前記電流検出手段および前記電圧検出手段によって検出された電流値および電圧値ならびに前記非正規充放電検出手段の検出結果を参照して前記鉛蓄電池の状態を検出する状態検出ステップと、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、本発明は電流センサをバイパスする非正規の充放電がなされた場合であっても、鉛蓄電池の状態を正確に検出することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、本発明は電流センサをバイパスする非正規の充放電がなされた場合であっても、鉛蓄電池の状態を正確に検出することが可能な鉛蓄電池状態検出装置および鉛蓄電池状態検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る始動可否判定装置の構成例を示す図である。
【図2】図1の制御部の詳細な構成例を示すブロック図である。
【図3】成層化および分極の影響による鉛蓄電池の電圧の変化を示す図である。
【図4】成層化および充電分極と実容量の関係を示す図である。
【図5】車両の走行中と休止中における電圧の変化を示す図である。
【図6】ジャンプスタートの有無を判定する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6に示すフローチャートの動作原理を説明するための図である。
【図8】図6に示すフローチャートの動作原理を説明するための図である。
【図9】分極補正係数および成層化補正係数を求める処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図10】走行中および休止中の電圧変化を示す図である。
【図11】クランキング抵抗を廃棄する処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
(A)実施形態の構成の説明
図1は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池状態検出装置を有する車両の電源系統を示す図である。この図において、鉛蓄電池状態検出装置1は、制御部10、電圧センサ11、電流センサ12、温度センサ13、および、放電回路15を主要な構成要素としており、鉛蓄電池14の状態を検出する。ここで、制御部10は、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13からの出力を参照し、鉛蓄電池14の状態を検出する。電圧センサ11は、鉛蓄電池14の端子電圧を検出し、制御部10に通知する。電流センサ12は、鉛蓄電池14に流れる電流を検出し、制御部10に通知する。温度センサ13は、鉛蓄電池14自体または周囲の環境温度を検出し、制御部10に通知する。放電回路15は、例えば、直列接続された半導体スイッチと抵抗素子等によって構成され、制御部10によって半導体スイッチがオン/オフ制御されることにより鉛蓄電池14を間欠的に放電させる。
【0020】
鉛蓄電池14は、例えば、正極(陽極板)に二酸化鉛、負極(陰極板)に海綿状の鉛、電解液として希硫酸を用いた、いわゆる液式鉛蓄電池によって構成され、オルタネータ16によって充電され、スタータモータ18を駆動してエンジンを始動するとともに、負荷19に電力を供給する。オルタネータ16は、エンジン17によって駆動され、交流電力を発生して整流回路によって直流電力に変換し、鉛蓄電池14を充電する。
【0021】
エンジン17は、例えば、ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジン等のレシプロエンジンまたはロータリーエンジン等によって構成され、スタータモータ18によって始動され、トランスミッションを介して駆動輪を駆動し車両に推進力を与えるとともに、オルタネータ16を駆動して電力を発生させる。スタータモータ18は、例えば、直流電動機によって構成され、鉛蓄電池14から供給される電力によって回転力を発生し、エンジン17を始動する。負荷19は、例えば、電動ステアリングモータ、デフォッガ、イグニッションコイル、カーオーディオ、および、カーナビゲーション等によって構成され、鉛蓄電池14からの電力によって動作する。
【0022】
図2は、図1に示す制御部10の詳細な構成例を示す図である。この図に示すように、制御部10は、CPU(Central Processing Unit)10a、ROM(Read Only Memory)10b、RAM(Random Access Memory)10c、通信部10d、表示部10e、I/F(Interface)10fを有している。ここで、CPU10aは、ROM10bに格納されているプログラム10baに基づいて各部を制御する。ROM10bは、半導体メモリ等によって構成され、プログラム10ba等を格納している。RAM10cは、半導体メモリ等によって構成され、プログラム10baを実行する際に生成されるパラメータ10caを格納する。通信部10dは、他の装置(例えば、図示しないECU(Engine Control Unit))等に通信線を介して接続され、他の装置との間で情報を授受する。表示部10eは、CPU10aから供給される情報を表示する、例えば、液晶ディスプレイ等によって構成される。I/F10fは、電圧センサ11、電流センサ12、および、温度センサ13から供給される信号をデジタル信号に変換して取り込むとともに、放電回路15に駆動電流を供給してこれを制御する。
【0023】
(B)実施形態の動作の概略の説明
つぎに、図3〜5を参照して、実施形態の動作の概略について説明する。以下では、液式鉛蓄電池の分極現象および成層化現象について説明した後に本実施形態の動作の概略について説明する。まず、分極現象について説明する。分極現象には充電時に発生する充電分極と放電時に発生する放電分極とが存在する。ここで、充電分極現象とは、充電時の鉛蓄電池14の電極表面における電気化学反応の遅れなどにより電極表面のイオン密度が高くなり、鉛蓄電池14の出力電圧が高くなる現象をいう。また、放電分極現象とは、放電時に電極表面にイオン密度が低くなり、鉛蓄電池14の出力電圧が低くなる現象をいう。
【0024】
一方、成層化現象とは、放電中や充電中に電解液の上部と下部に比重差が生じ、これによって出力電圧が変化する現象をいう。具体的には、液式鉛蓄電池では、放電初期は電極の垂直方向の上部が優先的に放電されるため、電解液の上部の比重は下部よりも低くなる。つぎに充電では、放電で生成した硫酸鉛は金属鉛と硫酸に変化するので電解液中へ高濃度の硫酸が放出される。そのため、放出された硫酸は下部に向かって沈降し、電解液の上部と下部に比重差が生じる成層化が発生する。
【0025】
図3は、分極現象および成層化現象と電圧との関係を示している。図3に示すように、成層化現象および充電分極現象は、鉛蓄電池14の電圧が開放電圧よりも高くなる方向に影響し、時間とともにその影響は減少していく。また、放電分極現象は、鉛蓄電池14の電圧が開放電圧よりも低くなる方向に影響し、時間とともにその影響は減少していく。
【0026】
図4は、開放電圧と成層化および充電分極の関係を示す図である。図4の左側に示すように、鉛蓄電池14の見かけの電圧として測定される電圧は、成層化および充電分極による電圧の増加分を含んでいる。前述のように、成層化および充電分極による電圧の増加分は、時間の経過とともに減少するので、所定の時間が経過した後は、図4の右側に示すように図4の左側に比較して成層化および充電分極の部分が減少している。
【0027】
図5は、鉛蓄電池14の走行中および車両休止中における電圧変化を示している。図5では、走行中においては鉛蓄電池14の電圧は14V程度を保っているが、車両休止中においては時間の経過とともに電圧が減少し、開放電圧に近づいて行く。
【0028】
ここで、成層化および分極による電圧変化は、単なる見かけの電圧上昇であって、鉛蓄電池14の放電可能な容量とは無関係である。したがって、成層化および充電分極を含む見かけの電圧に基づいて鉛蓄電池14の開放電圧および充電率を判定すると、実際の開放電圧または充電率よりも大きい値が得られてしまう。そこで、成層化および分極による影響を除外して、正確な開放電圧および充電率を得るために、鉛蓄電池14に流れる充放電電流の積算値から分極量および成層化量を推定し、推定された分極量および成層化量に基づいて図4の実容量を示す開放電圧を求めることが従来から行われており、例えば、特許文献2等に具体的な方法が記載されている。
【0029】
ところで、鉛蓄電池14があがった場合(充電量が低下し、エンジンを始動できなくなった場合)には、他の車両の鉛蓄電池と故障車の鉛蓄電池14を接続ケーブルによって直接接続し、他の車両の鉛蓄電池から電力の供給を受けて、エンジン17を始動する、いわゆる「ジャンプスタート」が実行される場合がある。このようなジャンプスタートでは、鉛蓄電池の端子同士がケーブルによって直接接続されることから、2つの鉛蓄電池の間に流れる電流は、電流センサ12では検出されない。このため、前述した鉛蓄電池14に流れる充放電電流の積算値に誤差が生じるため、分極量および成層量の推定値が誤差を含んでしまう。この結果、実際の開放電圧または充電率よりも高い値が推定されてしまい、充電量に余裕があると思って鉛蓄電池14を使用すると、電池があがってしまったり、エンジン17が再始動不能になったりする場合がある。
【0030】
そこで、本実施形態では、後述するように鉛蓄電池14に流れる電流と電圧の変化から、ジャンプスタートの実行の有無を検出する。そして、ジャンプスタートが検出された場合には、ジャンプスタート発生フラグを立てて、鉛蓄電池状態検出装置1の通信部10dに接続されさている他の装置(例えば、図示せぬECU)に対してジャンプスタートの発生を通知する。また、電流積算から求めた開放電圧OCV1および電圧推移から求めたOCV2に基づいて成層化および分極による影響を排除するための補正係数の値を調整する。さらに、ジャンプスタートの際に求めた鉛蓄電池14の内部抵抗については、他の鉛蓄電池との間で電流の授受が行われることから正確でないため廃棄する。このような処理により、ジャンプスタートが実行された場合に、他の装置に対してジャンプスタートの発生を通知し、例えば、通常とは異なる(電力消費を抑えた)動作モードで動作させることで、電力の消費を抑えることができる。また、成層化および分極による影響を排除するための補正係数の値を調整することで、実容量を正確に知ることができる。また、鉛蓄電池14の内部抵抗を廃棄することで、正確ではないパラメータに基づいて誤った判断がなされることを防止できる。
【0031】
(C)実施形態の詳細な動作の説明
つぎに、図6〜11を参照して、本実施形態の詳細な動作について説明する。図6は、ジャンプスタート等の非正規の充放電が実行されたことを検出するために、図2に示す制御部10において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。なお、図6に示す処理は、電流および電圧の変動が激しい車両の走行中においては、例えば、10ms周期で実行され、これらの変動が緩やかな停止中においては、例えば、1s周期で実行される。図6に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0032】
ステップS1では、CPU10aは、電流センサ12の出力を参照し、その時点における電流値I1を取得する。
【0033】
ステップS2では、CPU10aは、前回の処理によって求めた(後述するステップS9の処理によってRAM10cに格納された)電流値I2を、RAM10cのパラメータ10caから取得し、ステップS1において取得した電流値I1との差ΔI(=I1−I2)を計算する。
【0034】
ステップS3では、CPU10aは、電圧センサ11の出力を参照し、その時点における電圧値V1を取得する。
【0035】
ステップS4では、CPU10aは、前回の処理によって求めた電圧値V2を、RAM10cのパラメータ10caから取得し、ステップS3において取得した電圧値V1との差ΔV(=V1−V2)を計算する。
【0036】
ステップS5では、CPU10aは、車両の停止中に測定され、RAM10cにパラメータ10caとして格納されている静的インピーダンスZを取得する。ここで、静的インピーダンスZとは、鉛蓄電池14が電気的に平衡な状態において測定される鉛蓄電池14の内部インピーダンスをいう。この静的インピーダンスは、車両が停止中において、放電回路15によって所定の周期でパルス放電が実行され、そのときの電流および電圧の変化から測定される。なお、後述するクランキング抵抗は、スタータモータ18によってエンジン17を始動する際(大電流が流れる際)に検出される電流および電圧から求められる抵抗であり、これを静的インピーダンスに対して、動的インピーダンスと称する。
【0037】
ステップS6では、CPU10aは、以下の式(1)に基づいてDを算出する。
【0038】
D=ΔV−Z×ΔI ・・・(1)
【0039】
ここで、鉛蓄電池14の電圧Vと、電流Iと、インピーダンスZとの間には、オームの法則が成り立つことから、正常時にはΔV=Z×ΔI(ΔV−Z×ΔI=0)が成立する。しかし、ジャンプスタートが実行される場合、故障車側では電流Iは検出されないにも拘わらず、救援車からの電流の供給によって電圧が上昇する。この結果、故障車側では、図7に示すように、Dの値がプラスの値となる。なお、図7の例では、横軸は時間を示し、縦軸は電圧および電流を示し、図の中央部分でジャンプスタートが実行され(鉛蓄電池同士がケーブルで接続され)、その際に一時的にΔV−Z×ΔI>0となっている。一方、救援車側では電流Iが検出されないにも拘わらず故障車側に電流を供給することから、電圧が下降する。この結果、救援車側では、図8に示すように、Dの値がマイナスの値となる。図8の例では、図の中央部分でジャンプスタートが実行され(鉛蓄電池同士がケーブルで接続され)、その際に一時的にΔV−Z×ΔI<0となっている。
【0040】
ステップS7では、CPU10aは、ステップS6で求めたDの絶対値|D|が閾値Thよりも大きいか否かを判定し、|D|>Thが成立する場合(ステップS7:Yes)にはステップS8に進み、それ以外の場合(ステップS7:No)にはステップS9に進む。ここで、閾値Thとしては、図7および図8に示すΔV−Z×ΔIの変化を検出できる値であるとともに、電圧や電流変動に基づくノイズに影響されない値であればよい。
【0041】
ステップS8では、CPU10aは、ジャンプスタートが発生したことを示すジャンプスタート発生フラグを“1”に設定する。なお、ジャンプスタート発生フラグは、図1に示す鉛蓄電池状態検出装置1の通信部10dに接続されている他の装置(例えば、負荷19およびECU(不図示))からも参照できるので、他の装置は、例えば、通常とは異なる(電力消費を抑えた)動作モードで動作させることで、電力の消費を抑えることができる。
【0042】
ステップS9では、CPU10aは、ステップS1,S3で検出した電流I1と電圧V1とを、前回値を保持する変数I2,V2にそれぞれ代入する。この結果、これらの値は、RAM10cのパラメータ10caに格納され、次回の処理においてI2,V2として使用される。
【0043】
以上の処理によれば、故障車側および救援車側の双方においてジャンプスタートの発生を検出することができる。
【0044】
つぎに、図9を参照して、成層化および分極による影響を除外するための補正係数の値を調整するための処理について説明する。図9の処理は、例えば、所定の周期で実行される処理である。このフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0045】
ステップS20では、CPU10aは、ジャンプスタート発生フラグが“1”であるか否かを判定し、“1”である場合(ステップS20:Yes)にはステップS21に進み、それ以外の場合(ステップS20:No)には処理を終了する。例えば、図10に示す時間t2においてジャンプスタートが実行された場合には、図6のステップS8の処理においてジャンプフラグが“1”の状態にされるので、ステップS20ではYesと判定されてステップS21に進む。
【0046】
ステップS21では、CPU10aは、電圧推移から開放電圧OCV2を求める。具体的には、図5に示すように、エンジン17が停止されると、鉛蓄電池14の電圧は時間の経過とともに徐々に低下し、開放電圧に近づいていく。このとき、ある時点における電圧の変化率mと、開放電圧との間の差の電圧dVとの間には、一定の相関関係が存在することが知られている。そこで、このような相関関係を数値化したテーブルまたは数式をRAM10cに格納しておき、ある時点における鉛蓄電池14の電圧Vと変化率mとに基づいてテーブル等を参照することで、電圧推移からOCV2を求めることができる。図10の例では、時間t3においてエンジン17が停止された後のOCV2は破線で示すように変化する。
【0047】
ステップS22では、CPU10aは、電流積算によって求められ、RAM10cにパラメータ10caとして格納されている開放電圧OCV1の最終更新値を取得する。ここで、電流積算とは、鉛蓄電池14から放電または充電される電流値を常時測定し、その電流測定値を積算することで鉛蓄電池14の充電率を求める方法である。開放電圧OCV1と充電率SOC1との間には、略線形の関係が存在するので、このような関係に基づいて充電率SOC1から開放電圧OCV1を求めることができる。電流積算に基づく開放電圧OCV1および充電率SOC1の計算は、所定の時間間隔で実行され、求められた開放電圧OCV1および充電率SOC1はRAM10cにパラメータ10caとして上書きして格納される。図10の例では、時間t3においてエンジン17が停止される時点で最後に格納された開放電圧OCV1が取得される。
【0048】
ステップS23では、CPU10aは、開放電圧OCV1と開放電圧OCV2の差(OCV1−OCV2)を、分極補正係数C1rを求めるための関数f1()に適用し、分極補正係数C1rを求める。ここで、分極補正係数C1rとは、分極による誤差を除外するために制御部10が推測値として有している分極量C1を、ジャンプスタートの検出に応じて補正するための係数である。具体的には、ジャンプスタートが検出された場合には、例えば、C1←C1−C1r(←は変数への値の代入を示す)とされ、分極量C1が補正される。
【0049】
開放電圧OCV1は電流積算によって求められる。このため、ジャンプスタートが実行された場合、他の鉛蓄電池との間で流れる電流については、電流センサ12で検出できないため、このとき流れる電流は開放電圧OCV1には反映されない。一方、開放電圧OCV2については、電流積算とは異なる方法(詳細は後述する)で求められ、この方法では他の鉛蓄電池との間で流れる電流を含めた状態でOCV2が測定される。このため、これらの差(OCV1−OCV2)の値は、ジャンプスタートが実行された場合には、実行されない場合に比較して大きくなる。そこで、関数f1()を実現する方法の一例としては、例えば、(OCV1−OCV2)の値と分極補正係数C1rとを対応付けしたテーブルをRAM10cに予め準備し、当該テーブルに前述した差の値を適用することで、分極補正係数C1rを得ることができる。
【0050】
ステップS24では、CPU10aは、開放電圧OCV1と開放電圧OCV2の差(OCV1−OCV2)を、成層化補正係数C2rを求めるための関数f2()に適用し、成層化補正係数C2rを求める。ここで、成層化補正係数C2rとは、成層化による誤差を除外するために制御部10が推測値として有している成層化量C2を、ジャンプスタートの検出に応じて補正するための係数である。具体的には、ジャンプスタートが検出された場合には、例えば、C2←C2−C2rとされ、成層化量C2が補正される。なお、開放電圧OCV1と開放電圧OCV2の関係は前述した場合と同様であり、また、成層化補正係数C2rと(OCV1−OCV2)との対応関係を示すテーブルをRAM10cに予め準備し、当該テーブルに基づいて判断することで、成層化補正係数C2rを得ることができることも前述の場合と同様である。
【0051】
以上の処理により、分極補正係数C1rと成層化補正係数C2rとを得る。このような補正係数を用いることにより、ジャンプスタートによって成層化および分極が変化した場合でも、変化前の成層化量および分極量をこれらの補正係数によって補正することで、変化後の成層化量および分極量を得ることができる。
【0052】
つぎに、図11を参照して、クランキング抵抗Rを廃棄する処理について説明する。図11に示すフローチャートの処理は、例えば、一定の時間間隔で実行される。この図11の処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0053】
ステップS40において、CPU10aは、ジャンプスタート発生フラグが“1”であるか否かを判定し、“1”である場合(ステップS40:Yes)にはステップS41に進み、それ以外の場合(ステップS40:No)には処理を終了する。
【0054】
ステップS41では、CPU10aは、ジャンプスタート時におけるクランキング(スタータモータ18によってエンジン17を回転駆動すること)において測定され、RAM10cにパラメータ10caとして格納されているクランキング抵抗Rを廃棄する。ここで、クランキング抵抗Rとは、スタータモータ18によってエンジン17を回転駆動する際に鉛蓄電池14からスタータモータ18に流れる電流と、鉛蓄電池14の端子電圧とから求めるインピーダンスの実部成分である。すなわち、ジャンプスタートにおけるクランキングでは、他の車両の鉛蓄電池との間で電流が授受されるため、クランキング抵抗Rを正確に求めることができないため、このようなクランキング抵抗Rは廃棄する。このため、誤差を含むクランキング抵抗に基づいて誤った判断がされることを防止できる。
【0055】
(D)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の実施形態では、ジャンプスタートが実行される場合を例に挙げて説明したが、本願における「非正規充放電」とは、これのみに限定されるものではなく、例えば、商用電源電力を直流電力に変換して鉛蓄電池を充電する充電器によって充電がされる場合や、鉛蓄電池に外部機器(例えば、直流電力を交流電力に変換するインバータ等)が接続された場合にこれを非正規充放電として検出するようにしてもよい。
【0056】
また、以上の実施形態では、式(1)に基づいて非正規充放電であるジャンプスタートを検出するようにしたが、これ以外の式を用いるようにしてもよい。例えば、インピーダンスではなくコンダクタンスGを用いて、以下の式(2)に基づいて判定するようにしてもよい。
【0057】
D=ΔI−G×ΔV・・・(2)
【0058】
あるいは、静的インピーダンスZではなく、一定の定数Kを用いて、ΔI×KとΔVとの差が変化した場合に非正規充放電が実行されたと判定するようにしてもよい。
【0059】
また、分極量および成層化量については、ステップS23およびステップS24に示す式に基づいて補正を行うようにしたが、これ以外の式に基づいて補正を行うようにしてもよい。さらに、分極量および成層化量を個別に補正するようにしたが、これらをまとめて1つの量とし、これらをまとめて補正するようにしてもよい。
【0060】
また、以上の実施形態では、故障車と救援車の双方を検出するために、図6のステップS7の処理によりDの絶対値と閾値Thとを比較してジャンプスタートの発生を判定するようにした。ここで、救援車側では、ジャンプスタートに起因して分極量および成層化量は減少することから、分極量および成層化量による影響は故障車側に比較すると小さい。しかしながら、救援車側では、ジャンプスタートにより、電流が外部に取り出されることから、センサによって検出されている充電率よりも実際の充電率の方が低い状態となる。この場合、検出された充電率に基づいて鉛蓄電池14を使用していると、鉛蓄電池14のあがりを招いてしまうことがある。そこで、例えば、図6のステップS8の処理においてジャンプスタート発生フラグを“1”にした後に、Dがプラスの場合には図9,11の処理を実行し、Dがマイナスの場合には、例えば、図9の処理は実行せずに図11の処理のみを実行し、充電率が検出された充電率よりも低いことを通知するとともに、必要に応じて充電率を再計算するようにしてもよい。すなわち、故障車と救援車のそれぞれにおいて実行する処理を区別するようにしてもよい。なお、Dがマイナスの場合に、必要に応じて、図11の処理のみならず図9の処理を実行するようにしてもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
1 鉛蓄電池状態検出装置
10 制御部(非正規充放電検出手段、状態検出手段)
10a CPU
10b ROM
10c RAM
10d 通信部
10e 表示部
10f I/F
11 電圧センサ(電圧検出手段)
12 電流センサ(電流検出手段)
13 温度センサ
14 鉛蓄電池
15 放電回路
16 オルタネータ
17 エンジン
18 スタータモータ
19 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されている鉛蓄電池の状態を検出する鉛蓄電池状態検出装置において、
前記鉛蓄電池に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記鉛蓄電池の電圧を検出する電圧検出手段と、
前記鉛蓄電池の端子に対して外部機器が直接接続され、前記電流検出手段を経由せずに前記鉛蓄電池が充電または放電された場合に、前記電流検出手段および前記電圧検出手段による電流と電圧の変化に基づいてこのような非正規の充放電を検出する非正規充放電検出手段と、
前記電流検出手段および前記電圧検出手段によって検出された電流値および電圧値ならびに前記非正規充放電検出手段の検出結果を参照して前記鉛蓄電池の状態を検出する状態検出手段と、
を有することを特徴とする鉛蓄電池状態検出装置。
【請求項2】
前記外部機器は、他の車両の鉛蓄電池であり、
前記非正規充放電は、前記他の車両の鉛蓄電池がケーブルによって接続され、ジャンプスタートが実行された場合の充放電であり、
前記非正規充放電検出手段は、前記ジャンプスタート実行時の前記充放電を検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池状態検出装置。
【請求項3】
前記非正規充放電検出手段によって非正規充放電が検出された場合には、当該非正規充放電によって生じる分極現象の変化量を考慮して前記鉛蓄電池の状態を推定することを特徴とする請求項1または2に記載の鉛蓄電池状態検出装置。
【請求項4】
前記非正規充放電検出手段によって非正規充放電が検出された場合には、当該非正規充放電によって生じる成層現象の変化量を考慮して前記鉛蓄電池の状態を推定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池状態検出装置。
【請求項5】
前記非正規充放電検出手段によって非正規充放電が検出された場合には、前記状態検出手段は、非正規充放電の際に測定した前記鉛蓄電池のインピーダンス値を廃棄することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池状態検出装置。
【請求項6】
前記非正規充放電検出手段によって非正規充放電が検出された場合には、非正規充放電の発生を、他の装置に対して通知することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池状態検出装置。
【請求項7】
車両に搭載されている鉛蓄電池の状態を、電流検出手段および電圧検出手段の検出結果を参照して検出する鉛蓄電池状態検出方法において、
前記鉛蓄電池の端子に対して外部機器が直接接続され、前記電流検出手段を経由せずに前記鉛蓄電池が充電または放電された場合に、前記電流検出手段および前記電圧検出手段による電流と電圧の変化に基づいてこのような非正規の充放電を検出する非正規充放電検出ステップと、
前記電流検出手段および前記電圧検出手段によって検出された電流値および電圧値ならびに前記非正規充放電検出手段の検出結果を参照して前記鉛蓄電池の状態を検出する状態検出ステップと、
を有することを特徴とする鉛蓄電池状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−141258(P2012−141258A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1074(P2011−1074)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】