説明

鉛蓄電池用極板およびこれを用いた鉛蓄電池

【課題】エキスパンド格子を用いた鉛蓄電池に振動が加わった際の、極板のダメージを抑制した鉛蓄電池を提供すること。
【解決手段】ロータリ式により得た、すなわち、シートにスリット形成すると同時に、スリットに挟まれた線状部をシート面に対して上下方向に交互に突出するよう加工した後、シートを幅方向に展開して得たエキスパンド網目のシート側部の無地部を切断除去する。但し、エキスパンド網目部を形成する線状部の、上枠骨から最も離間した線状部は、エキスパンド網目部の結節部を介して幅方向にわたって連続するよう、無地部を切断除去する。このような構成により、振動時の極板のダメージが極板最下部のマス目に限定され、極板全体のダメージを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキスパンド格子を用いた鉛蓄電池用極板およびこの極板を用いた鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池用極板に用いる格子としてエキスパンド格子が広く用いられている。エキスパンド格子は、鉛合金をスラブ状に鋳造し、このスラブを圧延して所定厚み、所定幅寸法のシートを作成し、その後、シートに千鳥状のスリットを形成して伸展する手法によって製造される。
【0003】
エキスパンド格子の製造方法として、形成するスリットに対応したダイス刃を往復運動させることによって、シートにスリットを形成するとともに、スリット部を伸展し、エキスパンド網目を形成する、いわゆるレシプロ方式によるもの(例えば特許文献1参照)と、回転運動する円板状カッターでシートにスリットを形成しエキスパンド網目を形成する、いわゆる、ロータリ方式(例えば特許文献2参照)が知られている。
【0004】
レシプロ方式によるものは、エキスパンド網目の生産速度は、ダイス刃の数(一格子におけるスリットの数)と、ダイス刃の往復速度によって決定付けられる。近年では、エキスパンド格子の集電効率の向上を目的とし、エキスパンド網目のマス目をより細かくする傾向にある。マス目を細かくすることは、スリットの長さを短くすることに対応するため、レシプロ方式におけるダイス刃の一往復運動毎に行なわれるシートの送り長さ(送りピッチ)が短くなり、結果として、時間当たりのエキスパンド網目の生産長さが短くなり、生産性が低下する。
【0005】
このようなレシプロ方式におけるエキスパンド網目の細目化による生産速度の低下を防止するには、送りピッチが短くなった分、ダイス刃の時間当たりの往復回数を増加させればよいが、ダイス刃の質量とダイス刃を駆動するプレス機の能力の関係上、この往復回数は1500回/分程度が実質的な上限であった。
【0006】
一方、ロータリ方式によるエキスパンド網目の生産速度は、円板状カッターの回転速度にのみ依存し、マス目のサイズの影響を受けることがないため、マス目を細目化に伴ってロータリ方式によるものが、レシプロ方式によるものに替わって、より活用されるようになってきた。
【0007】
ロータリ方式によるエキスパンド網目の形成は、特許文献1に示されたような円板状カッターで、シートにスリット形成するとともに、スリットによって形成された線状部をシート面に対して上下方向に突出するよう変形させた後、シートを幅方向に展開してエキスパンド網目を得る。
【0008】
ロータリ方式におけるシートの幅方向の展開は、特許文献3に示されたように、シートの中央部(エキスパンド格子における上枠骨に相当)を、シート幅方向への移動を制限しつつシート長手方向に送りだす間に、側部(エキスパンド格子における下枠骨に相当)を把持して、シート側部をシート長手方向に送りだすとともに、シート側部をシート幅方向に拡張することにより、エキスパンド網目を形成する。
【0009】
したがって、図1に示すように、従来のロータリ式によるエキスパンド格子101は、集電タブ102を備えた上枠骨103にエキスパンド網目104が連結し、エキスパンド網目104の上枠骨103に相対する部分には下枠骨105が位置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−338287号公報
【特許文献2】特開平3−204126号公報
【特許文献3】特開平11−102712号公報
【特許文献4】特開昭55−61332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、図1に示したような、従来のロータリ式のエキスパンド格子101においては、上枠骨103と下枠骨105が存在し、左右の枠骨が存在しない。このような、上下2辺に枠骨が存在し、左右の2辺に枠骨が存在しない格子をもちいた鉛蓄電池では、振動が加わった場合に、電槽底部から鉛蓄電池極板に加わる応力が、極板面に波及し、特に極板の下部を中心として極板全体で、活物質と格子との密着性が低下し、鉛蓄電池の放電容量が低下するという課題があった。
【0012】
本発明は、このような、ロータリ式のエキスパンド極板を用いた場合に特有に生じる振動による容量低下を抑制した鉛蓄電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、凸状加工刃を円周上に配置した円板状カッターの複数枚を互いに間隔を介して積層してなるカッターロールの一対を組み合わせ、回転するこれらカッターロール対間に長尺状のシートを送り込むことにより、シートの長手方向に平行であり、かつ断続する複数のスリットで形成されるスリット条の複数を平行に形成し、互いに平行するスリット間に位置する線状部を前記シート表面に対して上下方向に交互に突出させるとともに、前記スリット条の断続部を交互に切断することにより、前記スリットを千鳥状とした後、前記シートを幅方向に展開して得たロータリ方式によるエキスパンド網目部を備えた鉛蓄電池用極板であって、前記エキスパンド網目部のシート幅方向の両側に形成された無地部の一方を切断加工して得た上枠骨およびこの上枠骨に連設された集電タブと、他方の無地部を分離除去してなる前記エキスパンド網目部と、前記エキスパンド網目部に充填された活物質とからなり、前記上枠骨の長さ方向を、前記鉛蓄電池用極板の幅方向としたときに、前記エキスパンド網目部を形成する線状部の、前記上枠骨から最も離間した線状部は、前記エキスパンド網目部の結節部を介して前記幅方向にわたって連続していることを特徴とする鉛蓄電池用極板を示すものである。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る発明は、請求項1の鉛蓄電池用極板において、前記上枠骨から最も離間した線状部であり、前記エキスパンド網目部の最下部のマス目の下部の2辺となる一対の線状部において、一方の線状部は、前記マス目の外側方向に向かって曲線状に形成され、他方の線状部は直線状に形成されることを特徴とするものである。
【0015】
そして、本発明の請求項3に係る発明は、請求項1もしくは2のいずれかに記載の鉛蓄電池用極板を、少なくとも正極板あるいは負極板として備えた鉛蓄電池を示すものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉛蓄電池の振動による容量低下を抑制できるという、顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来のロータリ式によるエキスパンド格子を示す図
【図2】(a)鉛合金シートをロータリ式によりエキスパンド網目を形成する過程の一部を示す図(b)カッターロールの対間を通過させた後の鉛合金シートを示す図
【図3】(a)エキスパンド網目部を形成する過程の一部を示す図(b)長尺状のエキスパンド網目から鉛蓄電池用極板を形成する過程を示す図
【図4】本発明の鉛蓄電池用極板を示す図
【図5】(a)本発明の好ましい実施形態による鉛蓄電池用極板を示す図(b)その要部を示す拡大図
【図6】比較例の格子を示す図
【図7】他の比較例の格子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態による鉛蓄電池用極板の構成を図面を用いて説明する。図2(a)は、極板の格子の材料となる鉛合金シート201をロータリ式によりエキスパンド網目を形成する過程の一部を示す図である。凸状加工刃202aを円周上に配置した円板状カッター202の複数枚を互いに間隔を介して積層してなるカッターロール301の一対を組み合わせ、回転するこれらカッターロール301の対間に長尺状の鉛合金シート201を送り込む。
【0019】
図2(b)および図3(a)は、カッターロール301の対間を通過させた後の鉛合金シート201を示す図である。鉛合金シート201の長手方向に概略平行であり、かつ断続する複数のスリット201aで形成されるスリット条201bの複数を平行に形成し、互いに平行なスリット間に位置する線状部201d,201hを鉛合金シート201の表面に対して上下方向に交互に突出させるとともに、スリット条201bの断続部201cを交互に切断することにより、スリット201aを千鳥状とする。
【0020】
なお、本実施形態例では、特許文献2に示された手法により、スリット201aの形成工程と、断続部201cを交互に切断してスリット201aを千鳥状とする工程がカッターロール301の一対で行なわれる例を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、特許文献4に示されたような、スリット201aを構成するカッターロールの対と、断続部201cを交互に切断してスリット201aを千鳥状とするカッターロール対の4個のカッターロールを用いたものであってもよく、あるいは、これら2対のカッターロールが、一つのカッターロールを共有した、3つのカッターロールで構成されるものであってもよい。
【0021】
図3(a)は、前記で得た、スリット201aを千鳥状に形成した鉛合金シート201を、その幅方向に展開してエキスパンド網目部201eを形成する過程を示す。一般的な鉛蓄電池用極板におけるエキスパンド網目製造では、鉛合金シート201の幅方向中央部に、スリット201aを形成しない、帯状の無地部201fが形成される。また、鉛合金シート201を幅方向に展開すべく、鉛合金シート201の幅方向の両側部を挟持可能とするための、幅狭の無地部201gを鉛合金シート201の幅方向の両側部に配置する。
【0022】
本発明では、無地部201gを幅方向外側に、特許文献3で示したような公知の手法により所定寸法まで展開してエキスパンド網目部を形成した後、図3(a)に示したように、無地部201gを、プレス切断加工や、スリッタで切断することにより、エキスパンド網目部201eより除去する。
【0023】
その後、図3(b)に示したように、エキスパンド網目部201eに鉛蓄電池用の活物質302aを充填し、図3(b)に示したように、所定寸法形状に切断して本発明の鉛蓄電池用極板302を得る。
【0024】
上記の構成では、無地部201gの切断除去を活物質302aのエキスパンド網目部201eへの充填前に行なった例を記載したが、これに限定されることなく、エキスパンド網目部201eへの活物質302aの充填後、無地部201gを除去してもよい。なお、鉛合金シート201に一対のエキスパンド網目部201eを形成した例を示したが、これに限定されるものではない。
【0025】
図4は、本発明の鉛蓄電池用極板302を示す図であり、説明の便宜上、エキスパンド網目部201eから一部の活物質302aを除去した状態を示している。
【0026】
本発明の鉛蓄電池用極板302は、前記したエキスパンド網目部201eのシート幅方向の両側に形成された無地部の一方、すなわち、本実施形態例では、中央部に形成した無地部201fを切断加工して得た上枠骨302bおよびこの上枠骨302bに連設された集電タブ302cと、他方の無地部201gを分離除去したエキスパンド網目部201eと、エキスパンド網目部201eに充填された活物質302aを有する。
【0027】
そして、上枠骨302bの長さ方向(図4におけるA方向)を、鉛蓄電池用極板302の幅方向としたときに、エキスパンド網目部201eを形成する、展開された線状部201d,201hであり、かつ上枠骨302bから最も離間した線状部201hは、エキスパンド網目部201eの結節部201j(エキスパンド網目部201eを形成する前段階における断続部201cに相当)を介して幅方向にわたって連続していることを特徴とする。以上の構成から、本発明の鉛蓄電池用極板は、枠骨として上枠骨302bしか有さず、下部枠骨、左右両側部の枠骨は存在しない。なお、極板からの活物質脱落を抑制する上で最も離間した線状部201hは、断続せず、極板幅方向にわたって連続するよう、無地部201gを除去する。
【0028】
本発明では、ロータリ式の上下に枠骨が存在し、左右に枠骨が存在しないエキスパンド格子を用いた鉛蓄電池において発生していた、鉛蓄電池に、振動を加えた後に生じる容量低下が抑制できる。
【0029】
これは、本発明においては、無地部201gを除去したことにより、極板最下部のマス目302dに応力が集中し、他の部分への応力の影響が抑えられることによると考えられる。
【0030】
さらに、本発明は、ロータリ式によるエキスパンド網目部に活物質を充填した、鉛蓄電池用極板において、極板下部の無地部201gを切断除去しても、鉛蓄電池の電圧特性に有意な低下が認められず、極板下部の無地部201gは、極板の集電特性に殆んど悪影響を及ぼさないことがわかった。また、無地部201gを切断除去することにより、極板が軽量化でき、鉛蓄電池全体の質量も大幅に低下することができる。
【0031】
さらに、従来の無地部201g、すなわち下枠骨105を有した極板に比較して、下枠骨105の幅寸法分、極板面の高さ寸法が少なくなるため、同一極板面高さで、従来例の極板と、本発明による極板を比較すると、活物質302aを充填可能な、エキスパンド網目部201eの面積をより大きくできるため、電圧特性を同一か、それ以上としつつ、軽量化された極板を得ることができる。なお、本発明において、電圧特性とは、所定条件での放電時の電圧特性のことであって、放電電力に言い換えられる値である。
【0032】
また、本発明の鉛蓄電池用極板302においては、ロータリ式という、工法上の特質、すなわち、シート面に対して、線状部を上下方向に交互に突出するよう展開した後、シート幅方向に展開するため、結節部201jが極板厚みの中心部に位置して活物質302aにその大部分が被覆され、かつ、結節部201jの間を連結する、展開された線状部201d,201hには捩れが生じている。したがって、エキスパンド網目部201eから無地部201gを除去したとしても、エキスパンド網目部201eにおける最下部のマス目302dに充填された活物質302aの、鉛蓄電池用極板302からの脱落が顕著に抑制される。
【0033】
なお、図4に示した例では、除去する前の無地部201gと、最下部に位置する線状部201hで形成されていたマス目であった部分302eに活物質302aを充填していないが、この部分302eに活物質302aを充填してもよい。部分302eに充填された活物質302aは、部分302eに線状部201hと結節部201jを共有するマス目302dに充填された活物質と連続していることから、脱落が抑制されるためである。但し、振動が激しい、農機や建機用、大型車両用といった用途においては、部分302eからの活物質302aの脱落が避け得ない場合があり、このような場合には、部分302eへの活物質302aの充填は避けるべきである。
【0034】
また、特許文献1で示されたような、レシプロ方式のエキスパンド網目に本発明を適用することはできない。レシプロ方式のエキスパンド網目は、網目の展開がレシプロ運動するダイス刃によって行なわれ、その展開方向は、シートへのダイス刃の侵入方向の一方向のみであることから、線状部に生じる捩れはロータリ式のものに比較して顕著に抑制され、また、線状部と線状部を連結する結節部は、極板厚み中心ではなく、表面付近に偏芯して存在するため、周囲を囲まれないマス目からの活物質の脱落は、ロータリ式のものに比較して顕著であるためである。
【0035】
図5(a)は、本発明の好ましい実施形態による鉛蓄電池用極板401を示す図であり、図5(b)は、その要部(図5(a)にて破線の楕円αで示した箇所)を示す拡大図である。図5(a)では、図4と同様、説明の便宜上、下部の活物質302aを除去した状態のものを示している。
【0036】
図5(a)および(b)に示した本発明の鉛蓄電池用極板401は、前記した本発明の鉛蓄電池用極板302の構成を有し、さらに以下の構成を有する。
【0037】
すなわち、上枠骨302bから最も離間した線状部201hであり、エキスパンド網目部201eの最下部のマス目302dの下部の2辺となる一対の線状部201hにおいて、一方の線状部201hは、マス目302dの外側方向に向かって曲線部201kで示すように曲線状に形成され、他方の線状部201hは直線部201mで示すように直線状に形成されることを特徴とする。
【0038】
このような最下部の線状部201hの形状は、図3(a)に示した、鉛合金シート201を送出しつつ、幅方向に伸張してエキスパンド網目部201eを形成する過程において、最終的な無地部201fの送出速度と、最終的な無地部201gの送出速度との差を大きくすることにより、図5(b)に詳細に示したような、曲線部201kと直線部201mとからなる線状部201hの形状を得ることができる。その後、無地部201gを切断除去すればよい。
【0039】
上記したような、本発明の好ましい形態によれば、鉛蓄電池用極板下部が振動等により電槽下部によってダメージを受けた際、鉛蓄電池用極板の変形が最下部の線状部201hに集中するため、それ以外の部分でのダメージは抑制される。このようなダメージの程度は、振動前後の電圧特性や容量特性の差によって表れるが、本発明の好ましい構成によれば、このような振動による極板へのダメージをさらに抑制できるという、顕著な効果を奏する。
【0040】
そして、前記した本発明の実施形態の鉛蓄電池用極板302を用いて鉛蓄電池を構成すれば、振動を加えた後の容量低下が抑制された鉛蓄電池を得ることができる。また、無地部201gの除去によっても電圧特性を損なうことなく、軽量化された鉛蓄電池を得ることができる。また、このような効果は、正極、負極のいずれにおいても得られるものであり、本発明を正極、負極のいずれにも適用してもよい。最も好ましくは両極に適用することである。
【0041】
さらに、前記した好ましい本発明の実施形態の鉛蓄電池用極板401によれば、振動後における容量低下がさらに抑制できる。正極、負極のいずれにおいても得られるものであり、最も好ましくは、両極に適用することである。
【実施例】
【0042】
実施例1では、本発明の鉛蓄電池用極板および比較例による鉛蓄電池用極板を用いて、JIS D5301(始動用鉛蓄電池)で規定する12V、48Ahの55D23形鉛蓄電池(以下、電池)を作成した。各電池は、充放電サイクルを繰り返して5時間率容量が安定した状態とし、その後、各電池に加速度5Gの上下振動を2時間連続で加えた後、25℃中で144時間放置し、再度、5時間率容量を測定した。そして、振動前の5時間率容量(C5)に対する振動後の5時間率容量(C´5)の百分率(100×C´5/C5)を容量維持率(単位;%)として求めた。以下に各電池に使用した極板の格子の仕様を説明する。
【0043】
(比較例1の極板A1+、A1−)
比較例1による極板A1+は、図1に示したロータリ式のエキスパンド格子101に正極活物質ペーストを充填し、熟成乾燥した正極板である。極板A1−は、エキスパンド格子101に負極活物質ペーストを充填し、熟成乾燥した負極板である。
【0044】
エキスパンド格子101の組成は、正極用がPb−1.6質量%Sn−0.06質量%Caであり、負極用がPb−0.2質量%Sn−0.07質量%Caである。エキスパンド格子101は正極用、負極用ともに、極板面の幅寸法が130mm、高さ寸法が110mmである。この高さ寸法は、上枠骨103の高さ寸法5.0mm、下枠骨105の高さ寸法3.0mmを含む。エキスパンド格子101の厚み寸法は、正極用が1.4mm、負極用が1.2mmである。なお、それぞれの格子に活物質を充填した後の極板厚みは、極板A1+で1.5mm、負極板A1−で1.3mmである。
【0045】
(比較例2の極板A2+、極板A2−)
比較例2による極板A2+および極板A2−は、図6に示したレシプロ式のエキスパンド網目502を有した格子501を備える。格子501の外寸、上枠骨503の寸法、エキスパンド網目502の形状寸法は網目中、最下部に位置する最下部骨504を除き、比較例1による極板A1+および極板A1−に用いたものと同一である。最下部骨504の高さ方向の太さは1.5mmであった。
【0046】
レシプロ方式による格子501では、最下部骨504を台形形状のダイス刃で形成するため、直線状とはならず、図6に示したように、台形が下方に突出したような形状を有する。格子501の厚み寸法は、正極用が1.4mm、負極用が1.2mmである。なお、それぞれの格子に活物質を充填した後の極板厚みは、極板A2+で1.5mm、負極板A2−で1.3mmである。
【0047】
(比較例3の極板A3+、極板A3−)
比較例3による格子501´は、図7に示したように、格子501から最下部骨504を切断除去した構成であり、その他は、格子501と変わらない。したがって、極板高さのみ、比較例2の極板に比較して1.5mm低い。その他の形状寸法に変化はなく、比較例2のものと変わらない。また、格子501´の厚み、およびこの格子501´に活物質ペーストを充填した後の極板厚みも、比較例1および比較例2の厚みに一致させた。
【0048】
(従来例の極板R+、極板R−)
従来例の極板R+および極板R−は、それぞれ比較例1〜3に示した極板と同一外形寸法、活物質充填容積を有し、かつ、その4辺のすべてが枠骨で囲われた鋳造格子に、活物質ペーストを充填した極板であり、正極が極板R+、負極が極板R−である。また、格子の合金組成は、前記した比較例1〜3のものと同一である。
【0049】
(本発明例1の極板B1+、極板B1−)
本発明例1の極板B1+、極板B1−は、図4に示した鉛蓄電池用極板302に相当する。本実施例においては、比較例1の極板から下枠骨105を除去した構成であり、外形寸法は比較例1の極板よりも3.0mm低い。その他の形状、寸法は、比較例1の極板に変化はない。極板B1+が正極、極板B1−が負極であり、活物質の充填量は、比較例1〜4の極板から5%低減されている。また、格子の合金組成は、前記した比較例1〜4のものと同様である。
【0050】
(本発明例2の極板B2+、極板B2−)
本発明例2の極板B2、B2−は、図5(a)および(b)に示した鉛蓄電池用極板401である。最下部のマス目302dの最下部の交点(結節部201j)に連結される2つの線状部201hのうち、一方の線状部201hが曲線部201kで示すようにマス目302dの外側方向に曲線状で張り出し、もう一方の線状部201hが直線部201mで示すように直線状となっている。
【0051】
このような線状部201hの形態差は、本発明の実施の形態で記載したとおり、鉛合金シート201の中央部(無地部201fに相当)の送り速度と、鉛合金シート201の側部(無地部201gに相当)の送り速度の差を有る程度以上とすることで達成できる。但し、差が過大であると、マス目の著しい変形がもたらされ、また線状部の極端な細りや切断が発生する。したがって、格子合金組成、機械的特性に応じて、線状部201hの切断や、線状部201hと結節部201jとの離間が生じない範囲で、適宜、これら送り速度の関係を決定すべきである。
【0052】
本発明例2の極板B2+、極板B2−は、本発明例1の極板に比較して、最下部の線状部201hを変形させる関係上、エキスパンド網目の展開寸法を本発明例1のものに比較して1.0mm少なくした。したがって、極板面の高さも同様に、本発明例1よりも1.0mm低く、109.0mmである。その他の寸法形状は、本発明例1のものと同様である。本発明例2の極板の格子の合金組成は、上記した極板と同様であり、活物質充填量は本発明例1と変わるところはない。極板B2+が正極板、極板B2−が負極板である。
【0053】
上記した各極板を表1の組み合わせで55D23形の電池を作成し、前記したように、各電池は、充放電サイクルを繰り返して5時間率容量が安定した状態とし、その後、各電池に加速度5Gの上下振動を2時間連続で加えた後、25℃中で144時間放置し、再度、5時間率容量を測定した。そして、振動前の5時間率容量(C5)に対する振動後の5時間率容量(C´5)の百分率(100×C´5/C5)を容量維持率(単位;%)として求めた。これらの結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示した結果から、本発明の電池は、比較例の電池に比較して、振動後の容量維持率の低下が顕著に抑制されていた。表1に示した各電池を放電して振動後の5時間率容量C´5を測定した後、満充電状態にして分解調査したところ、比較例の電池は、本発明例の電池と比較して、極板下部の格子と活物質、および活物質自体に亀裂の発生が進行していた。また、各電池から活物質をサンプリングして硫酸鉛の定量を行なった。その結果、本発明では、比較例のものよりも硫酸鉛量が少ない傾向にあり、また、比較例は、特に極板下部に硫酸鉛が集中して分布していた。
【0056】
これらのことから、比較例の電池の容量維持率の低下は、電池に振動を加えた際に生じた、格子と活物質界面の亀裂あるいは活物質粒子間の亀裂に硫酸が侵入し、固定化したことにより、生じたものと推測される。
【0057】
本発明の電池では、最下部のマス目で硫酸鉛の蓄積が進行していたが、他のマス目では、このような硫酸鉛の蓄積が抑制されていた。
【0058】
以上のことから、本発明によれば、鉛蓄電池に振動を加えた際のダメージが最下部のマス目に限定され、結果として振動後の容量維持率に優れた鉛蓄電池を得られた。
【0059】
なお、振動前の初期容量は、本発明例および比較例ともに有意差がなく、殆んど同一であった。また、300A放電(−18℃)における5秒目の電圧を計測したところ、本発明例および比較例ともに有意差はなかった。一方、本発明例の鉛蓄電池では、格子が軽量化されるとともに、活物質充填量も削減されているため、55D23形電池を例にとれば、比較例の電池1の質量が19.0kgのところ、本発明例の電池15では、100gの軽量化が可能であった。
【0060】
以上、本発明によれば、エキスパンド格子を用いた鉛蓄電池における振動によるダメージを抑制でき、また、軽量化も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、エキスパンド格子を用いた鉛蓄電池に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
101 エキスパンド格子
102 集電タブ
103 上枠骨
104 エキスパンド網目
105 下枠骨
201 鉛合金シート
201a スリット
201b スリット条
201c 断続部
201d 線状部
201e エキスパンド網目部
201f 無地部
201g 無地部
201h 線状部
201j 結節部
201k 曲線部
201m 直線部
202 円板状カッター
202a 凸状加工刃
301 カッターロール
302 鉛蓄電池用極板
302a 活物質
302b 上枠骨
302c 集電タブ
302d マス目
302e 部分
401 鉛蓄電池用極板
501,501´ 格子
502 エキスパンド網目
503 上枠骨
504 最下部骨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状加工刃を円周上に配置した円板状カッターの複数枚を互いに間隔を介して積層してなるカッターロールの一対を組み合わせ、回転するこれらカッターロール対間に長尺状のシートを送り込むことにより、シートの長手方向に平行であり、かつ断続する複数のスリットで形成されるスリット条の複数を平行に形成し、互いに平行するスリット間に位置する線状部を前記シート表面に対して上下方向に交互に突出させるとともに、前記スリット条の断続部を交互に切断することにより、前記スリットを千鳥状とした後、前記シートを幅方向に展開して得たロータリ方式によるエキスパンド網目部を備えた鉛蓄電池用極板であって、
前記エキスパンド網目部のシート幅方向の両側に形成された無地部の一方を切断加工して得た上枠骨およびこの上枠骨に連設された集電タブと、
他方の無地部を分離除去してなる前記エキスパンド網目部と、
前記エキスパンド網目部に充填された活物質とからなり、
前記上枠骨の長さ方向を、前記鉛蓄電池用極板の幅方向としたときに、
前記エキスパンド網目部を形成する線状部の、前記上枠骨から最も離間した線状部は、前記エキスパンド網目部の結節部を介して前記幅方向にわたって連続していることを特徴とする鉛蓄電池用極板。
【請求項2】
前記上枠骨から最も離間した線状部であり、前記エキスパンド網目部の最下部のマス目の下部の2辺となる一対の線状部において、一方の線状部は、前記マス目の外側方向に向かって曲線状に形成され、他方の線状部は直線状に形成される請求項1に記載の鉛蓄電池用極板。
【請求項3】
請求項1もしくは2のいずれかに記載の鉛蓄電池用極板を、少なくとも正極板あるいは負極板として備えた鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−181491(P2011−181491A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1750(P2011−1750)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】