説明

鉛電池の充電状態の見積方法

鉛電池の充電状態の見積方法は、少なくとも1つのカットオフ期間の間、一体型液間基準電極と電池負端子との間の開路電圧差(V−)を測定することを備える。さらに、方法は、カットオフに先立って前記電池を流れる電流の符号を判定すること、及び、前記電流の前記符号に応じて充電校正曲線(C1、C2)又は放電校正曲線(D1、D2)における前記開路電圧差に基づいて、充電状態(SOC)を見積もることをさらに備え、前記充電校正曲線又は放電校正曲線は、ある校正手続の間、あらかじめ決定されている。カットオフ期間は、好ましくは、少なくとも5分間の期間を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一体型液間基準電極(integrated liquid junction reference electrode)を備える、鉛電池(lead-acid battery)の充電状態(state of charge)を見積(estimate)方法に関するものであり、前記方法は、少なくとも1つのカットオフ期間(cut-off period)の間の基準電圧と電池負端子(negative battery terminal)との開路電圧差(open circuit voltage difference)の測定を有する。
【背景技術】
【0002】
電池の充電状態(SOC)は、通常、放電電流、温度、電圧限界等に関する所定の条件における放電によって、電池の電気化学容量(electrochemical capacity)(Ah、又は、基準容量に対する割合in%)を参照することが可能となる。SOCの見積及び表示は、エネルギーの電気化学的保存(electrochemical storage of energy)を用いる各システムから、特に必要とされている。電池の健康状態(state of health)(SOH)は、異なる劣化現象(degradation phenomena)による、電池の不可逆な容量ロスを参照する。電池の健康状態は、通常、電池の可能全容量(available full capacity)と、例えば、電池の標準容量、又は、最大容量(maximum capacity)といった、いくつかの基準値と、の間の割合として、表される。
【0003】
鉛電池においては、電解質濃度の値は、広い幅を持って変化し、放電の終止時における約20%(重量%)から、電池がフル充電された時の約40%(重量%)までである。濃度は、電解質の濃度、又は、比重として表わされる。電解質の濃度は、主に、充電/放電プロセスにおける硫酸の作用に基づくものである。下記の式は、化学反応を示し、電池の充電中の、それぞれ、電池の正電極(positive electrode)及び負電極(negative electrode)におけるものである。
【数1】

【数2】

【0004】
図1の曲線A及び曲線Bは、それぞれ、電池の充電状態(SOC)in%に対する、電解質中の[HSO]のモル濃度(mole/l)の変化と、電解質濃度d g/cmの変化とを示し、50Ahの鉛電池は、完全な充電状態において、1.28g/cmの濃度を持つ765mlの硫酸を含んでいる。両方の曲線は、直線に近い。
【0005】
従って、SOCは、電池からの電解質サンプルの簡単な滴定(titration)により、光学的回折(optical refraction)を用いた濃度測定により、又は、電池と一体化したイオン濃度センサにより、見積もることができ、例えば、米国特許5,288,563に開示されている。直接的な濃度測定における実質的な欠点は、濃度を局所的にしか測定できないことである。この欠点は、実質的なものであり、電解質濃度が層化(stratification)を起こすような重力の作用による垂直方向と、特に、放電中の正極板(positive plate)における電解質の顕著な局所的な希釈を導くような反応1と2との間の違いによる水平方向と、の両方に分類される、古典的なプロファイルを持つことによるものである。
【0006】
酸の濃度は、例えば、電池の充電状態を見積もるために用いることができる開路電圧Vcellといった、電池の電気的パラメータに対して、非常に強い影響力を有する。このことは、主に、所定の条件において、鉛電池の開路電圧は、システムPb/PbSO//HSO//PbSO/PbOの起電力Eに近似することによるものである。ネルンスト式によれば、以下のようになる。
【数3】

【0007】
上記式において、Eは、1組の電極の標準電極ポテンシャルであり、
Rは、一般気体定数:R=8.314472JK−1mol−1であり、
Tは、ケルビン温度であり、
Fは、ファラデー定数であり、
H2SO4とaH2Oとは、それぞれHSOとHOとの化学活量(chemical activity)を示す。
【0008】
しかしながら、充電又は放電の後の長い緩和時間の後においてのみ、開路電圧Vcellは、電池の起電力Eと近い値となる。図2及び図5に示される、時間に対する鉛電池の開路電圧Vcellは、それぞれ、充電及び放電が終止した際のものである。
【0009】
電池電圧Vcellは、正極板の化学ポテンシャルと負極板(negative plate) の化学ポテンシャルとの間の差に対応する。これらの開路ポテンシャルを示す電圧は、同じ参照電極に対して個別に測定され、例えば、Ag/AgSO参照電極については、開路状態の下で放電が終止した際と充電が終止した際との、図3及び図6中の開路正極板電圧(open circuit positive plate voltage)V+として、及び、図4及び図7中の開路負極板電圧(open circuit negative plate voltage)V−として、示される。充電後(図3及び図4)及び放電後(図6及び図7)の両方において、負極板電圧V−は、正極板電圧V+と比べて、早く定常状態に到達する。
【0010】
このことは、付加参照電極(additional reference electrode)PbO/PbSO、又は、Hg/HgSOと、負極板と、の間の差を用いて、鉛電池の充電状態を見積もるという欧州特許出願EP−A−595466において、用いられている。PbO/PbSOの参照電極の貧弱な長期安定性(long-term stability)は、鉛電池を永久的使用に対応させることを難しくしており、また、Hg/HgSO電極は、高価で、且つ、環境に対して有害である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、周知の鉛電池の充電状態の見積方法の欠点を克服することであり、特に、この見積の精度を向上させることである。
【0012】
本発明によれば、クレームに記載された方法によって、この目的は達成され、特に、カットオフに先立って電池に流れる電流の符号を判定すること、及び、符号に応じて充電校正曲線(charge calibration curve)又は放電校正曲線(discharge calibration curve)における開路電圧差に基づいて、充電状態を見積もることをさらに備え、充電校正曲線又は放電校正曲線は、ある校正手続(calibration procedure)の間、あらかじめ決定されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】公知の50Ahの鉛電池の充電状態(SOC)に対する、電解質中のHSOのモル濃度(曲線A)と、電解質密度d(曲線B)と、を示す。
【図2】時間に対する、充電後の開路電圧Vcellを示す。
【図3】時間に対する、充電後の正極板電圧V+を示す。
【図4】時間に対する、充電後の負極板電圧V−を示す。
【図5】時間に対する、放電後の開路電圧Vcellを示す。
【図6】時間に対する、放電後の正極板電圧V+を示す。
【図7】時間に対する、放電後の負極板電圧V−を示す。
【図8】上記の50Ahの鉛電池における、SOCに対する計算された接合部ポテンシャル(junction potential)Ejの変化を示す。
【図9】異なる充電及び放電条件における、SOCに対する、鉛電池の負極板電圧の絶対値|V−|と、本発明による見積方法において用いられる4つの補正曲線(C1、C2、D1、D2)と、を示す。
【図10】本発明による方法を行うための装置を概略的に示す。
【図11】鉛電池の論理的接合ポテンシャルEjに対する、電解質の相対的水分ロスの変化(曲線E)と、電解質の比重G(曲線F)の変化と、を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
他の利点及び特徴は、本発明の特定の実施形態についての下記の説明により、さらに明らかにされる。本発明の特定の実施形態は、単なる例示であって、本発明を限定するものではない。本発明の特定の実施形態は、添付の図面により示される。
【0015】
本発明によるSOCの見積方法は、SOCと、開路負極板電圧V−と、の間に存在する相互関係、例えば、負極板と、Ag/AgSO、Hg/HgSO、又は、Cu/CuSO等の液間の基準電極と、の間の開路電圧差を用いる。
【0016】
Pb/PbSOの負電極と、Ag/AgSO、又は、Hg/HgSOの基準電極と、の間のポテンシャル差ΔEに対応する負極板電圧V−は、以下の式によって与えられる。
【数4】

【0017】
上記式において、t+は、H+の輸率(transport number)であり、
HSO4−cellとaHSO4-REとは、それぞれ、鉛電池中と、基準電極中と、のHSO4の化学活量であり、
ΔEは、負極の標準化学ポテンシャル(standard electrochemical potential)と、基準電極と、の間の差であり、
Ejは、例えば、基準電極と電池電極との間の液間ポテンシャルであるといった、接合ポテンシャル(junction potential)である。
【0018】
ΔEは、温度にのみ依存し、一方、接合ポテンシャルEjは、液間の両側の濃度差によって変化する。従って、基準電極の酸濃度が、一定に維持されている場合には、接合ポテンシャルEjは、論理的には、鉛電池の充電の状態を示すパラメータとして用いることができる。システムが熱力学的平衡(thermodynamic equilibrium)にある場合に限り、式(4)は変化するが、システムが定常状態に達した場合には、式(4)は、良い近似式としてみなすことができる。
【0019】
しかしながら、実際には、式(4)は、開路状態に長い期間置かれた後であっても、十分に満足することは難しく、図8に示されるように、接合ポテンシャルEjの関数として計算されたSOCの依存性(dependence)は、SOCを見積もるための基準(criterion)としては、用いることができない。このことは、充電後であろうとも放電後であろうとも、カットオフ(cut-off)後の負極板において、3つのタイプの現象が起こることに、主に関連している。最初に、電気化学二重層(electrochemical double layer)の第1の自己放電、又は、第1の自己充電は、古典的には、セル(cell)が動作している間、電極面(level)に生じ、初期高速ポテンシャル減衰(initial fast potential decay)(充電後)、又は、初期高速ポテンシャル上昇(initial fast potential rise)(放電後)に対応し、電極板の孔(pore)の中の電解質の濃度の早い均一化(equalization)と関連する。従って、開路ポテンシャルにおけるゆっくりとした充電は、電池の中の電解質全体の均一化によるものであり、最終的には、Pb/PbSO負電極の自己放電を生じることとなる。
【0020】
この問題は、SOCに対する、鉛電池の開路負極板電圧の絶対値|V−|が表わされた図9に示される。図9中においては、四角のドットと丸のドットとは、鉛電池の放電後及び充電後にそれぞれ測定された開路負極板電圧に対応する。白と黒とのドットは(四角又は丸のどちらとも)、それぞれ、放電又は充電の1時後に測定した値と、放電又は充電の5分後に測定した値と、に対応する。
【0021】
ヒシテリスは、充電後の開路負極板電圧の値に対応するカーブ(白丸ドット)と、放電後の開路負極板電圧の値に対応するカーブ(白四角ドット)と、の間に、1時間後であっても存在する。しかしながら、5分後(黒ドット)と1時間後(白ドット)とに測定された値に対応する値の間に存在する小さな差は、5分後にはすでに定常状態に達していることを示している。従って、この期間は、負極板電圧に基づく充電状態の信頼できる見積のためには、充分である。例えば、上記のヨーロッパ特許出願EP−A−595466に提案されているように1分未満といったような、この期間が5分未満である場合には、測定された開路負極板電圧は、定常状態の値からは、大幅に異なり、SOCの見積もりには、信頼性がない。
【0022】
図9において、充電後に測定された値(四角ドット)と、放電後に測定された値(丸ドット)と、の間の上記のヒシテリスによって示されるように、信頼できるSOCの見積は、値の持つ2つのタイプの違いを区別することをさらに要求する。このことは、カットオフに先立って電流の符号(sign)を判定することによって、得ることができ、正の符号は、充電を表わし、負の符号は、放電を表わす。そして、SOCは、測定された開路負極板電圧V−と、校正手続の間にあらかじめ決定された適切な校正曲線と、に基づいて見積もることができる。充電校正曲線は、電流の符号がカットオフに先立った充電を示す場合には、測定した開路負極板電圧に基づいて行われるSOCの見積に、用いられ、放電校正曲線は、電流の符号がカットオフに先立った放電を示す場合には、用いられる。
【0023】
良い精度を持つSOC結果を得るためには、校正は、鉛電池の各タイプ、大きさ、デザインごとに個々に、論理的に行われなくてはならない。しかしながら、校正手続は、できるだけ、シンプル、且つ、迅速に行わなければならない。図8及び9に示されるように、接合ポテンシャルEjと、開路負極板電圧V−とは、電池のSOC充電状態のリニア関数ではなく、従って、直線的な(straight)校正線を必要とするものではない。
【0024】
図8中のSOCに対する接合ポテンシャルEjを示す曲線、又は、電解質濃度に対する接合ポテンシャルを示す曲線は、実際には、単調な関数に対応する。例えば、放物線(parabola)といった、2次多項式によって、非常に良い精度を持って、補間(interpolate)することができる。例えば、SOC=50%から2度上に対応する点付近のEj(SOC)関数を示すテイラー級数(Taylor series)に従った補間を介して、図8に対応する接合ポテンシャルEjとSOCと間の以下のような2次式を得ることを可能にする。
【数5】

【0025】
同様のアプローチは、充電と放電との校正曲線の両方に適用することができる。図9は、2つの充電校正曲線C1(連続線)及びC2(点線)と、2つの放電校正曲線D1(連続線)及びD2(点線)とを示す。充電校正曲線C1と放電校正曲線D1との1つのペアは、校正曲線の生成のための手続の第1タイプによって生成され、一方、充電校正曲線C2と放電校正曲線D2とのもう一方のペアは、第2タイプの手続によって生成される。
【0026】
第1及びそれ以外の校正手続における正確なタイプは、5%から95%の間のSOC領域で測定された全ての実験値を含み、対応する校正曲線(C1又はD1)は、二次多項式を用いた線形最小二乗回帰法(linear least squares regression)により、計算される。
【0027】
校正手続の第2タイプは、3つの実験値を考慮したものであり、それぞれ、低SOC値、中SOC値、高SOC値である。これらの3つの校正ポイントは、実際には、2次多項補間式(second order interpolation polynomial)を形成するためには、十分である。十分な精度を有する校正多項式(calibration polynomial)を生成するための3つの最適なSOC値は、それぞれ、5から10%の間、43から47%の間、及び、80から85%の間である、部分的な充電状態である。そして、校正手続は、良く充電された鉛電池を用いるべきであり、その鉛電池は、最初に、上記のSOC領域(5−10%、43−47%、及び、80−85%)において少なくとも3回の5分間の中断をともないながら、全体として定電流(galvanostatically)で、100%の放電深度(depth of discharge)まで、放電され、その後、同じ3つのSOC領域における少なくとも3回の5分間の中断期間をともないながら、定電流で充電される。測定された開路電圧V−が、SOC=0%に対応する値と比べて多い(more positive)場合には、電池は、完全に放電したと考えられる。
【0028】
第2の高速3点校正手続(second fast three-points calibration procedure)は、完全であるが遅い第1の校正手続と比べても、十分な精度を有する。
【0029】
校正後には、電池のSOCの見積は、対応する校正曲線を示す以下のような校正多項式に基づいて、得ることができる。
【数6】

【0030】
係数k0、k1、及び、k2は、校正手続において計算されたものである。これらの係数は、有利には、第1の校正手続(各校正曲線のための3つ以上の校正ポイントを持つ)における最小二乗一次回帰(linear least squares regression)、又は、3点校正手続(three-points calibration procedure)における以下の式によって得ることができる。
【数7】

【数8】

【数9】

【0031】
0、S1、及び、S2は、SOCの3つの校正値であり、f0、f1、及び、fは、開路負極板電圧V−に対応する値である。
【0032】
開路電圧の測定に用いるための電圧計の精度が、例えば、ミリボルトスケールといった、+/−0.5mVである場合、3点校正手続を推奨する。それどころか、電圧計の精度が高い場合には(例えば、+/−0.1mV)、SOCの見積において、高い精度を得ることができるように、有利には、校正は3点以上行うことかできる。
【0033】
0、k1、及び、k2が利用できる場合には、対応する校正曲線SOC(V−)全体は、上は100%から、下は0%のSOCの値を数値的に生成することができ、電池モニター回路のメモリに保存される。電池の充電状態の見積は、測定された開路負電極板電圧V−と、適切にデジタル化(digitalize)された充電校正曲線又は放電校正曲線と、の間のシンプルな比較によって行うことができる。
【0034】
図9に示されるように、開路負極板電圧値V−は、各校正曲線において、少なくとも20mV以内の領域において、変化する(充電校正曲線C1とC2に対しては約20mV、放電曲線D1とD2とに対しては30mV以上)。従って、負極板の電圧の測定が、+/−0.5mVの精度で行われた場合、SOCの値のフルスケールは、少なくとも20ポイントにおいて一定となり、SOCの見積におけるエラーは、せいぜい、約5%となる。
【0035】
校正手続は、好ましくは、複数の外界温度(ambient temperature)に対応する校正曲線のペア(充電及び放電)を決定することを備える。従って、SOCの見積は、温度を測定することと、測定された温度と関連した校正曲線のペアを選択することと、を備える。10℃の各インターバル(15±5℃、25±5℃ 等)に対する校正曲線のペアは、5%の領域のSOCエラーを保持するのに十分である。
【0036】
図10の独自の実施形態においては、鉛電池1は,古典的には、複数のセルを備える。カットオフに先立って、電池1を流れる電流Iの符号は、電池の負端子(negative terminal)2にシリーズに接続されるシャントRの電圧Vの符号を測定することによって得ることができる。電池モニター回路3は、シャントRの両側の端子と、電池の負端子2と、電池の正端子(positive terminal)4と、基準電極5と、に接続され、好ましくは、負端子2に近い最後のセル6と一体化する。また、電池モニター回路3は、好ましくは、電池管理ユニット(battery management unit)7と接続された双方向のデータリンク(bidirectional data link)によって接続され、シャントRを介して、電池の正端子4と電池の負端子2とに接続される。
【0037】
従って、電池モニター回路3は、電池負端子2と電池管理ユニット7との間を接続する電力供給の部分である、シャントRの電圧と、例えば、負極板電圧V−といった、負端子2と基準電極5の間の電圧差と、を測定する。
【0038】
電池モニター回路3と電池管理ユニット7とを(もし)電池正端子4と接続すれば、電池モニター回路3と電池管理ユニット7とを電池負端子2とに接続したことと相まって、回路3とユニット7とに確実に電力供給がなされることにつながる。しかしながら、この電池正端子の接続は、SOCの見積のために、基準電極5と電池負端子2との間の開路電圧差を測定する5分間のカットオフ期間の間、遮断する。従って、少なくとも電池モニター回路3は、小型補助電池(small auxiliary battery)(図10には示されてはいない)によって供給されるべきであり、例えば、約100mAhが供給され、この5分間のカットオフ期間の間の電池モニター回路のオペレーションを確保する。このカットオフ期間以外においては、補助電池は、充電フローティング期間(floating regime of charge)を保つことができる。
【0039】
好ましい実施形態においては、電池モニター回路3は、電池ケースの頭の部分に挿入することができる。
【0040】
先に述べたように、電池モニター回路3は、電池の充電状態の見積ができる。好ましい実施形態においては、対応する電池管理ユニット7が、充電の終止時と放電の終止時それぞれの回路3の情報を送ることができた場合には、回路モニター回路は、電池の水分損失(water loss)の見積を決定し、及び/又は、電池の健康状態(SOH)の見積を行うことができる。そして、電池モニター回路3は、全体の電池状態モニター(full battery state monitor)として動作する。SOC、SOH、及び、水分損失の見積もられた値は、例えば、電池モニター回路3、又は、電池管理ユニット7の中に一体化することができる、3つの異なるスケールの上に、表示することができる。
【0041】
鉛電池の過充電の間、水は、水素と酸素とに分離される。従って、数回の充電/放電サイクルの後に電池がフル充電に達する際には、電解質の濃度は、初期状態のものよりも、高いものとなる。このことは、充電校正曲線のSOC100%に対応する開路負極板電圧よりも少ない(negative)ことを導く。これらの電圧の絶対値の間の差は、式(4)の接合ポテンシャルEjとおおよそ等しいものである。従って、このように測定された開路負極板電圧の絶対値|V−|の増加は、先に説明し、且つ、示した、見積もられた水分損失に変換することができる。
【0042】
図11の曲線Eは、相対的な水分損失WL(in%)の計算された変化を示し、例えば、論理的接合ポテンシャルEjに対する、SOCが100%のときの電解質中の水分の初期重さによって標準化された水分損失である。図11の曲線Fは、Ejに対する、SOCが100%のときの電解質の比重Gの変化を示す。図11に示されるように、4.5mVの接合ポテンシャルの増加は、約20%の水分損失と、約1.325の比重の増加とに、対応する。このことは、実体的な電解質の不足を示している。
【0043】
曲線EとFとは、直線に近く、それぞれ、1ミリボルトごとに4.2%と0.0098との傾きを持つ。従って、例えば、測定された開路負極板電圧の絶対値(|V−|)の間の差の増加と、100%の充電を示す充電校正曲線の対応する電圧と、である、相対的水分損失WLが開路接合ポテンシャルEjの増加1ミリボルトに対して4.2%増加することに基づくという条件、又は、比重Gが、開路接合ポテンシャルEjの増加1ミリボルトに対して0.0098増加することに基づくという条件、により、水分損失を見積もることは簡単である。
【0044】
電池の健康状態(SOH)は、電池容量の不可逆なロス(irreversible loss)として定義される。電池が老朽化(aging)する間、電解質濃度が変わることを考慮すると、主に、2つの異なる容量ロスのメカニズムが存在する。第1は、不可逆、又は、硫酸化(sulphation)が難しいことにより、電池を充電することを不可能にすることであり、一方、第2は、負電極の活性量における活性ロスの拡大や、正電極の活性が弱まり(softening)、且つ、正電極の活性が落ちていく(shedding)ことや、正極グリッドの腐食等のような様々な現象が生じることにより、電池を放電することを不可能にすることである。電池の健康状態を測定するために、電池モニター回路3は、電池の充電又は放電に関与する一体化された電池管理ユニット7から、例えば、1から3日以内に、又は、1回から3回の充電/放電サイクル以内にといった短い時間の間における充電の終止時と放電の終止時とをそれぞれ示す信号、又は、データを受け取る必要がある。
【0045】
電池モニター回路3が、電池管理ユニット7から、充電がオーバーしている表示(indication)を受け取った際には、例えば、充電の終止時における見かけの充電状態SOCappchといった、対応する充電の状態を見積もる。電池が完全に充電すると、この値は、100%と等しくなるものである。しかし、活性材料の部分が硫酸化した場合、セルの中の酸濃度が低くなり、見積もられたSOCappchが、100%未満となる。充電の終止時の見かけの充電状態は、充電の終止時の不完全な健康状態(PSOHch)として定義され、電池の硫酸化を示す。
【数10】

【0046】
同様に、電池モニター回路3が、電池管理ユニット7から、放電がオーバーしている表示を受け取った際には、例えば、放電の終止時における見かけの充電状態SOCappdschといった、対応する充電の状態を見積もる。電池が完全に放電すると、この値は、0%と等しくなるものである。いくつかの劣化現象が、放電の終止時における電池の完全な放電を限定する場合、見積もられたSOCappdschは、0%を上回ることとなり、この値は、放電の終止時における不完全な健康状態(PSOHdsch)を見積もるために用いることができる。
【数11】

【0047】
完全な健康状態の値SOHは、以下によって見積もることができる。
【数12】

【0048】
例えば、硫酸化により、電池が容量ロス10%のものとなった場合、PSOHch=SOCappch=90%となる。活性材料の脱離により、電池が容量ロス10%のものとなった場合、SOCappdsch=10%となり、式(12)により、電池の健康状態SOHは80%となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体型液間基準電極(5)を備える鉛電池(1)の充電状態の見積方法であって、少なくとも1つのカットオフ期間の間、前記基準電極(5)と電池負端子(2)との間の開路電圧差(V−)を測定することを備える見積方法において、
カットオフに先立って前記電池を流れる電流(I)の符号を判定すること、及び、前記符号に応じて充電校正曲線又は放電校正曲線(C1、C2、D1、D2)における前記開路電圧差(V−)に基づいて、充電状態(SOC)を見積もることをさらに備え、
前記充電校正曲線又は放電校正曲線は、ある校正手続の間、あらかじめ決定されている、
ことを特徴とする見積方法。
【請求項2】
前記符号の判定は、前記電池負端子(2)にシリーズに接続されたシャント(R)の電圧(V)の前記符号を測定することを備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カットオフ期間は、少なくとも5分の期間を持つことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基準電極は、Ag/AgSO、Hg/HgSO、又は、Cu/CuSO の基準電極であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記校正手続は、前記負端子(2)の複数の温度のそれぞれについての充電校正曲線及び放電校正曲線のペア(C、D)を決定することを備え、さらに、前記方法は、前記負端子の温度を測定することを備え、前記見積は、測定された前記温度と関連する前記充電校正曲線及び放電校正曲線のペアに基づいて行われることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記校正手続は、それぞれ、高、中、低の充電状態である少なくとも3つの校正ポイントと、二次方程式である前記校正曲線の係数を計算することと、を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記高、中、低の充電状態は、それぞれ、80から85%、43から47%、5から10%である充電状態に対応することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
測定された前記開路電圧差の絶対値(|V−|)が、100%の充電状態を示す前記充電校正曲線の対応する電圧差の絶対値を超えた場合、水分損失(WL)を見積もることを備え、前記水分損失は、前記絶対値の差の関数であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記絶対値の差の1mV増加は、4.2%の相対的水分損失、又は、0.0098の電解質の比重の増加、と等しいことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項10】
放電及び充電のそれぞれの終止時における第1及び第2の充電状態の値(SOCappch、SOCappdsch)を決定することを備え、前記第1の充電状態の値と前記第2の充電状態の値との間の差は、見積もられた前記電池の健康状態(SOH)を示すことを特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び第2の充電状態の値(SOCappch、SOCappdsch)は、1から3日以内、又は、1から3充電/放電サイクル以内に、測定されることを特徴とする請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−501120(P2011−501120A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528493(P2010−528493)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004169
【国際公開番号】WO2009/047581
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(510225292)コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ (97)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F−75015 Paris, FRANCE
【Fターム(参考)】