説明

銀ナノ粒子、銀コロイド、殺菌剤及び銀ナノ粒子の製造方法

【課題】十分に高度な殺菌性能を発揮することが可能な銀ナノ粒子を提供すること。
【解決手段】銀からなる粒子であって、平均粒子径が1〜5nmであり、且つ、粒子数を基準として全粒子の80%以上が略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子であることを特徴とする銀ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ粒子、銀コロイド、殺菌剤並びに銀ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、微細なナノサイズの金属粒子が製造されてきており、電子素子、光素子、記録媒体、電池、触媒等の様々な分野に応用されてきた。そして、このようなナノサイズの金属粒子の製造方法としては、液相中のターゲットに対してレーザー光を照射してレーザーアブレーションを施す液相レーザーアブレーション方法を利用することが研究されてきた。
【0003】
例えば、2006年発行の「J.Appl.Phys.」のvol.100の114912(非特許文献1)においては、純水中の金属板をターゲットにしてレーザーアブレーションを施す液相レーザーアブレーション方法が開示されている。しかしながら、非特許文献1に記載のような従来の液相レーザーアブレーション方法を、銀粒子の製造方法に応用しても殺菌性が十分に高い銀ナノ粒子を得ることができなかった。また、非特許文献1に記載のような従来の液相レーザーアブレーション方法においては、液中に放出された粒子により照射レーザー光が吸収されたり、あるいは、かかる粒子の再アブレートが起こったりし、放出粒子と照射レーザー光とが相互作用し、ターゲットに対して同じ照射条件で連続的にレーザー光を照射することができず、時間の経過とともにアブレーション効率が低下し、高い収率で粒子を製造することができなかった。また、このような非特許文献1に記載のような従来の液相レーザーアブレーション方法により得られる従来の銀粒子を分散媒中に分散させた場合(銀コロイドを調製した場合)においては、得られる銀コロイドを界面活性剤や分散剤などの保護剤や安定剤を用いることなく長期間安定して保存することはできなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W.T.Nichols,T.Sasaki,N.Koshizaki,J.Appl.Phys.,2006年発行,vol.100,114912
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分に高度な殺菌性能を発揮することが可能な銀ナノ粒子、その銀ナノ粒子を保護剤や安定剤などの化学試薬を使用することなく長期において安定して分散することが可能な銀コロイド、前記銀ナノ粒子を用いた殺菌剤、並びに、前記銀ナノ粒子を効率よく安定して製造することが可能な銀ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、銀粒子の平均粒子径を1〜5nmとし、且つ、その銀粒子の粒子数を基準として、全粒子の80%以上を略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子とすることにより、十分に高度な殺菌性能を発揮することが可能な銀ナノ粒子が得られることを見出すとともに、その銀ナノ粒子を分散媒中に分散させた銀コロイドが、驚くべきことに、保護剤や安定剤などの化学試薬を使用することなく長期において安定して銀ナノ粒子を分散することが可能なものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の銀ナノ粒子は、銀からなる粒子であって、平均粒子径が1〜5nmであり、且つ、粒子数を基準として全粒子の80%以上が略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子であることを特徴とするものである。
【0008】
このような本発明の銀ナノ粒子は、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内の底部上に配置させた銀からなるターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、前記銀からなるターゲットに対して前記レーザー光を前記処理容器の底部を透過させて照射し、前記溶媒中において銀のナノ粒子を形成することにより得られるものであることが好ましい。
【0009】
また、本発明の銀コロイドは、上記本発明の銀ナノ粒子が分散媒に分散していることを特徴とするものである。このような本発明の銀コロイドにおいては、前記銀ナノ粒子の含有量が10〜500mg/Lであることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の殺菌剤は、上記本発明の銀ナノ粒子を含むことを特徴とするものである。また、このような殺菌剤においては、前記銀ナノ粒子が分散媒に分散していることが好ましい。
【0011】
また、本発明の銀ナノ粒子の製造方法は、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内の底部上に配置させた銀からなるターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記銀からなるターゲットに対して前記レーザー光を前記処理容器の底部を透過させて照射し、前記溶媒中において銀のナノ粒子を形成して、上記本発明の銀ナノ粒子を得ることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分に高度な殺菌性能を発揮することが可能な銀ナノ粒子、その銀ナノ粒子を保護剤や安定剤などの化学試薬を使用することなく長期において安定して分散することが可能な銀コロイド、前記銀ナノ粒子を用いた殺菌剤、並びに、前記銀ナノ粒子を効率よく安定して製造することが可能な銀ナノ粒子の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の液相レーザーアブレーション装置の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。
【図2】比較例1において利用した液相レーザーアブレーション装置を模式的に示す概略縦断面図である。
【図3】実施例1で得られた銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】比較例1で得られた銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】実施例1で得られた銀ナノ粒子の粒子径の分布を示すグラフである。
【図6】比較例1で得られた銀ナノ粒子の粒子径の分布を示すグラフである。
【図7】コロイド(A)〜(C)及び純水中の大腸菌の菌数と経過時間(培養時間)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
(銀ナノ粒子)
先ず、本発明の銀ナノ粒子について説明する。すなわち、本発明の銀ナノ粒子は、銀からなる粒子であって、平均粒子径が1〜5nmであり、且つ、粒子数を基準として全粒子の80%以上が略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子であることを特徴とするものである。
【0016】
このような銀ナノ粒子は、平均粒子径が1〜5nmのものである。このような平均粒子径が前記下限未満では小さすぎるため取り扱いが困難となり、他方、前記上限を超えると、サイズが大きくなりすぎるため充分な量子サイズ効果(殺菌性)が期待できなくなる。また、同様の観点で、より高度な効果が得られることから、前記平均粒子径は2〜3nmであることがより好ましい。このような平均粒子径は、任意の100個以上の粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡(TEM)により測定して平均化することにより求めることができる。また、このような銀ナノ粒子の粒子径は、粒子の断面の最大直径を意味し、粒子の断面が円形でない場合には、その粒子の断面の最大の外接円の直径とする。
【0017】
また、このような銀ナノ粒子としては、前記平均粒子径の±50%の範囲内の粒子径を有する粒子数の割合が全粒子数に対して90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。平均粒子径の±50%の範囲内の粒子径を有する粒子数の割合が前記下限未満になると、粒子径が不均一であるため、粒子ごとの特性のばらつきが大きくなる傾向にある。なお、このような銀ナノ粒子の粒子径の分布は、任意の100個以上の粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することにより求めることができる。
【0018】
さらに、このような銀ナノ粒子の比表面積としては50m/g以上(より好ましくは100〜2000m/g)が好ましい。比表面積が前記下限未満になると、例えば吸着材としての特性が低下する傾向にある。なお、このような銀ナノ粒子の比表面積はBET法により求めることができ、より具体的には、窒素ガスを試料に吸着させ、吸着等温線を測定して解析することにより求めることができる。
【0019】
また、本発明の銀ナノ粒子は、略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子を含むものである。本発明にいう「略四角錐」とは、概略、四角錐とみなすことが可能な形状であることをいい、略四角形の底面とそれに接する略三角形の4つの側面とを有する形状として認識できれるものであればよく、明瞭な稜線が形成されていない形状や頂点や辺の一部が欠けた形状も含む。また、「略八面体」とは、概略、八面体とみなすことが可能な形状であることをいい、略三角形の8つの外面を有する形状として認識できるものであればよく、明瞭な稜線が形成されていない形状や頂点や辺の一部が欠けた形状も含む。また、ここにいう「略三角形」とは、概略、三角形とみなすことが可能な形状であればよく、各頂点が丸みを帯びていてもよい。更に、「略四角形」とは、概略、四角形とみなすことが可能な形状であればよく、各頂点が丸みを帯びていてもよい。また、ここにいう「略三角形」及び「略四角形」の各頂点が丸みを帯びている場合、2辺(「略四角錐」又は「略八面体」中において「稜線」に相当する線分2本)に挟まれた頂点部分の曲率半径が3nm以下であることが好ましく、0.5〜2nmであることがより好ましい。また、このような「略三角形」及び「略四角形」の面は完全な平面を形成していなくてもよく、概略、平面とみなすことが可能な形状(略平面状)であればよい。そして、「略三角形」及び「略四角形」の面が曲面となっている場合には、その面の曲率半径の最小値が2nm以上であることが好ましく、2〜10nmの範囲にあることが好ましい。また、「略四角錐」又は「略八面体」の形状においては、2つの面の交差部分が丸みを帯びていてもよく、この場合には、各面に挟まれた部分の曲率半径の最大値が2nm以下であることが好ましく、0.1〜1nmの範囲にあることがより好ましい。また、「略四角錐」又は「略八面体」の形状においては、各頂点を結ぶ線分(稜線)が曲線であってもよく、その場合には、前記線分の曲率半径の最小値が0.5nm以上であることが好ましく、1〜2nmの範囲にあることがより好ましい。なお、このような「略四角錐」又は「略八面体」の形状は、各形状に応じた略平面状の「略三角形」又は「略四角形」の形状を有する外面(側面)を認識できる点で、略球状(球体(真球状)、回転楕円体(楕円球状)及びこれらの一部が欠けた形状などを含む球体に近似できる形状)とは異なるものとして認識可能である。また、このような銀ナノ粒子の形状(上述の曲率半径を含む。)は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定して求めることができる。なお、上述の曲率半径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像を用いて、高倍観察をして粒子の形状、サイズ等を決定することにより計算して求めることができる。
【0020】
また、本発明の銀ナノ粒子においては、略四角錐の形状を有する粒子と略八面体の形状を有する粒子との総量が粒子数を基準として全粒子の80%以上となる。すなわち、本発明の銀ナノ粒子は、粒子数を基準として全粒子の80%以上が略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子である。このような略四角錐の形状を有する粒子と略八面体の形状を有する粒子の総量(割合)が前記下限未満では殺菌剤に使用した際に十分に高度な殺菌性能を発揮できなくなるばかりか、その銀ナノ粒子を用いてコロイドを形成した際に、保護剤等の化学試薬を用いなければ、銀ナノ粒子を安定して分散させることができなくなる。また、本発明においては、同様の観点で、より高い効果が得られることから、略四角錐の形状を有する粒子と略八面体の形状を有する粒子の総量が粒子数を基準として全粒子の80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。なお、このような略四角錐の形状を有する粒子と略八面体の形状を有する粒子の総量(割合)は、任意の100個以上の粒子の形状を透過型電子顕微鏡(TEM)により測定することにより求めることができる。
【0021】
また、本発明の銀ナノ粒子は、後述する本発明の銀ナノ粒子の製造方法により得られたものであることが好ましい。すなわち、本発明の銀ナノ粒子は、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内の底部上に配置させた銀からなるターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、前記銀からなるターゲットに対して前記レーザー光を前記処理容器の底部を透過させて照射し、前記溶媒中において銀のナノ粒子を形成することにより得られるものであることが好ましい。このように、本発明の銀ナノ粒子の製造方法を利用して得られた粒子は、略四角錐の形状を有する粒子と略八面体の形状を有する粒子の総量が全粒子の80%以上となる。これに対して、従来技術に記載のような従来のレーザーアブレーション方法を利用した場合には、形成されるほぼ全てのナノ粒子の形状が略球状となり、略四角錐の形状を有する粒子と略八面体の形状を有する粒子の総量が全粒子の80%以上となるような銀ナノ粒子を製造することはできない。
【0022】
また、このような銀ナノ粒子の用途は特に制限されず、例えば、殺菌剤に使用することも可能であり、また、酸化触媒などの触媒成分として使用することも可能である。
【0023】
(銀コロイド)
本発明の銀コロイドは、上記本発明の銀ナノ粒子が分散媒に分散していることを特徴とするものである。
【0024】
このような本発明の銀コロイドは、保護剤や安定剤などの化学試薬(界面活性剤、分散剤等も含む)を含まずに、分散媒中に銀ナノ粒子を十分に安定して分散させることが可能なものである。そのため、本発明の銀コロイドにおいては、コロイド中に含まれた銀ナノ粒子の本来の機能を十分に発揮させることが可能であり、例えば、銀コロイドを殺菌剤に用いた場合には、その銀ナノ粒子の有する殺菌性能を十分に発揮させることが可能となる。なお、従来の銀のナノメートルサイズの粒子を含むコロイドにおいては、保護剤や安定剤などの化学試薬などを共存させる化学的な手法により銀の粒子を安定分散させていたが、このような従来の手法では、前記化学試薬が機能低下の原因となる場合もあり、その使用時に前記化学試薬を除去する工程を実施する必要があった。例えば、セラミックスに担持させて使用する場合、上記本発明の銀コロイドはセラミックスにそのまま担持すればよいが、化学試薬などが共存する従来のコロイドでは、化学試薬を除去するために焼成工程を実施する必要がある。このような観点から、本発明の銀コロイドは銀ナノ粒子の本来の性能を簡便に利用可能なものといえる。
【0025】
また、本発明の銀コロイドは、前記銀ナノ粒子の含有量が10〜500mg/L(より好ましくは100〜300mg/L)であることが好ましい。このような銀ナノ粒子の含有量が前記下限未満では、濃度が低すぎるため、銀コロイドの本来の特性を必ずしも十分に得ることができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、それ以上濃度を上げても、銀コロイドの特性が向上しなくなる傾向にある。なお、本発明においては、このように、銀ナノ粒子の濃度が十分に高い銀コロイドを保護剤や安定剤などの化学試薬(界面活性剤、分散剤等も含む)を含まない形態のものとして、長期間、安定して存在させることが可能である。
【0026】
また、このような銀コロイドの分散媒としては、特に制限されず、水、各種の有機溶媒を適宜用いることができ、例えば、エタノール、イソプロパノール、キシレン、ケロシン、メタノール、水、アセトン、液体窒素等が挙げられる。このような分散媒としては安全性や蒸気圧等の熱力学的物性、取り扱い易さといった観点から、水が特に好ましい。また、このような銀コロイドの分散媒としては、銀コロイドをより効率よく製造が可能となるという観点から、後述の本発明の銀ナノ粒子の製造方法において用いる溶媒と同様のものであることが好ましい。このように、本発明の銀ナノ粒子の製造方法において用いる溶媒を、そのまま分散媒として使用する場合には、後述の液相レーザーアブレーション法により、本発明の銀コロイドを直接製造することが可能となる。
【0027】
(殺菌剤)
本発明の殺菌剤は、上記本発明の銀ナノ粒子を含むことを特徴とするものである。このように、本発明の殺菌剤は、上記本発明の銀ナノ粒子を含んでいればよく、他の構成は特に制限されない。このように、本発明の殺菌剤は、上記本発明の銀ナノ粒子の殺菌性能(例えば大腸菌などの細菌やカビの胞子等を殺菌する効果)を利用するものである。
【0028】
また、このような殺菌剤としては、より効率よく製造することが可能であるという観点から、上記本発明の銀ナノ粒子が分散媒に分散しているものであることが好ましい。このような殺菌剤の分散媒としては、特に制限されず、水、各種の有機溶媒を適宜用いることができ、例えば、エタノール、イソプロパノール、キシレン、ケロシン、メタノール、水、アセトン、液体窒素等が挙げられる。このような分散媒としては安全性や蒸気圧等の熱力学的物性、取り扱い易さといった観点から、水が特に好ましい。また、このような殺菌剤の分散媒としては、より効率よく殺菌剤の製造が可能となるという観点から、後述の本発明の銀ナノ粒子の製造方法において用いる溶媒と同様のものが好ましい。このように、本発明の銀ナノ粒子の製造方法において用いる溶媒をそのまま分散媒として使用する場合には、後述の液相レーザーアブレーション法により、本発明の殺菌剤を直接製造することが可能となる。
【0029】
また、上記本発明の銀ナノ粒子が分散媒に分散している形態のものである場合、前記銀ナノ粒子の含有量が10〜500mg/L(より好ましくは100〜300mg/L)であることが好ましい。このような銀ナノ粒子の含有量が前記下限未満では、殺菌性能を十分に発揮することができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、殺菌性を得るという観点からは必要以上の粒子が存在することとなる傾向にある。なお、本発明の殺菌剤が、上記本発明の銀ナノ粒子が分散媒に分散している形態のものである場合、上記本発明の銀コロイドをそのまま本発明の殺菌剤として利用することが好ましい。
【0030】
(銀ナノ粒子の製造方法)
本発明の銀ナノ粒子の製造方法は、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内の底部上に配置させた銀からなるターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記銀からなるターゲットに対して前記レーザー光を前記処理容器の底部を透過させて照射し、前記溶媒中において銀のナノ粒子を形成して、上記本発明の銀ナノ粒子を得ることを特徴とする方法である。このような方法により、上記本発明の銀ナノ粒子を効率よく安定して製造することができる。そのため、本発明の銀ナノ粒子の製造方法は、上記本発明の銀ナノ粒子を製造することが可能な方法として好適に利用することが可能な方法である。
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の銀のナノ粒子の製造方法の好適な実施形態について説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
図1は、本発明の銀のナノ粒子の製造方法に好適に用いることが可能な液相レーザーアブレーション装置の好適な一実施形態を示す概略縦断面図である。
【0033】
図1に示す液相レーザーアブレーション装置は、レーザー発振器10と、ミラー11と、処理容器12と、溶媒13と、ターゲット14とを備えるものである。なお、図1中、符号Bは処理容器12の底部を示し、符号Lはレーザー光を示す。このような液相レーザーアブレーション装置は、レーザー発振器10から発せられたレーザー光Lが、光路上に配置されたミラー11に反射された後に処理容器12の底部Bを透過し、処理容器12内に配置されているターゲット14に照射されるように構成されている。すなわち、このような液相レーザーアブレーション装置において処理容器12は、ターゲット14に対して処理容器12の底部Bを透過したレーザー光Lが照射されるように配置されている。
【0034】
レーザー発振器10は、レーザー光Lを発生させることが可能なものであればよく、特に制限されず、パルス幅が80フェムト秒〜100ナノ秒のパルスレーザー光を照射できるレーザー光発生装置を好適に用いることができる。また、このようなレーザー光発生装置の中でも、パルス幅が80フェムト秒〜100ナノ秒であり、波長が19nm〜10.6μm(より好ましくは248nm〜10.6μm)であり、且つ、1パルスあたりのエネルギーが50mJ〜5J(より好ましくは200mJ〜2J)であるパルスレーザー光を照射できるレーザー光発生装置がより好ましい。このようなレーザー発振器10は、例えば、YAGレーザー装置、エキシマレーザー装置によって構成されるものが挙げられ、中でも、YAGレーザー装置によって構成されるものがより好ましい。
【0035】
また、ミラー11は、特に制限されるものではなく、公知の反射板等(例えば鏡等)を適宜用いることができる。また、ミラー11は、それ自体を回転させることで、その反射面の角度を変えて、ターゲット14の同じ位置に繰り返し照射されないように、レーザー光Lの照射位置を移動させることができる。そのため、ミラー11は、ターゲットに対して、より均一にレーザー光を照射するという観点から、その反射面の角度を変えることができるように回転可能な状態にして利用してもよい。
【0036】
また、処理容器12は、レーザー光Lを透過可能な底部Bを有する容器である。本発明においては、処理容器12において底部Bをレーザー光Lが透過可能なものとすることにより、底部B上に配置されているターゲット14に対して、底部を透過させたレーザー光Lを直接照射することを可能とする。なお、従来の液相レーザーアブレーション処理では、容器内のターゲットに対して溶媒を介してレーザー光を照射していた。このような従来の液相レーザーアブレーション処理においては、レーザーアブレーション処理を続けるにつれて溶媒中の放出粒子の濃度が高くなり、放出粒子とレーザー光との相互作用(放出粒子によるレーザー光の吸収や再アブレート等)が無視できなくなる。そのため、従来の液相レーザーアブレーション処理においては、溶媒中において生成された粒子に起因して、長期に亘り安定してアブレーション処理を施すことができなかった。また、このような放出粒子によるレーザー光の吸収や再アブレートにより、形成される粒子は均一性の低いものとなっていた。これに対して、本発明においては、溶媒を介してレーザー光を照射することなく、処理容器12の底部Bを透過させたレーザー光を直接ターゲットに照射するため、溶媒中に生成された粒子が放出されても、レーザー光が溶媒13中に分散されている粒子により吸収、散乱等されることがなく、ターゲットに対して同じ照射条件で連続的にレーザー光を照射することが可能である。
【0037】
このような処理容器12は、レーザー光Lを透過可能な底部Bを有し且つ容器12内に溶媒13を保持することが可能なものであればよく、公知の容器を適宜用いることができる。なお、ここにいう「レーザー光Lを透過可能な底部B」とは、レーザー光Lを照射する際において、少なくともレーザー光Lの光路となる部分がレーザー光Lに対して透明である底部をいう。従って、このような底部Bは、その全体がレーザー光Lを透過可能な構造となるようにしてもよく、あるいは、底部Bのレーザー光Lの光路となる部分のみがレーザー光Lを透過可能な構造となるようにしてもよい。
【0038】
このような処理容器12の形状としては特に制限されず、例えば、図1に示すようなコップ状の形状の他、丸底フラスコ、ナス型のフラスコ、梨型フラスコ等の形状が挙げられる。また、このような処理容器12において底部Bは、少なくともレーザー光Lの光路となる部分が利用するレーザー光Lが透過可能な材料により形成されていればよい。このような材料としては特に制限されず、例えば、利用するレーザー光に応じてガラス等を適宜用いてもよい。また、処理容器12としては、底部Bの少なくともレーザー光Lの光路となる部分がレーザー光に対して透明であればよいため、他の面は適宜異なる材料からなるものとしてもよい。また、処理容器12としては、その全体が同一の材料(レーザー光Lを透過可能な材料)からなるものであってもよい。
【0039】
また、このような処理容器12としては、底部Bが平面である容器の場合には底面の直径又は底部Bが平面でない容器(例えば、梨型フラスコ状の容器など)の場合にはターゲット粉末が堆積している領域の横断面の最大面の直径が、レーザー光の照射光形状の直径とがほぼ同じ直径(より好ましくはレーザー光の照射光形状の直径に対して1.0〜1.5倍程度の直径)であることが好ましい。このような容器を用いることにより、より効率よく、レーザーアブレーションを施すことが可能となる。
【0040】
溶媒13としては特に制限されず、液相レーザーアブレーション方法に用いることが可能な公知の溶媒を適宜用いることができる。このような溶媒としては特に制限されないが、例えば、エタノール、イソプロパノール、キシレン、ケロシン、メタノール、水、アセトン、液体窒素等が挙げられる。
【0041】
ターゲット14は銀からなるものである。このような銀からなるターゲット14の形状としては特に制限されないが、粉末状のもの(更に好ましくは平均一次粒子径が100〜700μmの粉末状のもの)を用いることが好ましい。なお、このような平均一次粒子径は、100個以上の一次粒子の粒子径を走査型電子顕微鏡(SEM)により測定して平均化することにより求めることができる。
【0042】
このような銀からなるターゲット14が粉末である場合において、ターゲット14の好適な密度は、圧縮により容易に変化するものであるため、一概には言えないが、そのターゲットの材料のバルク体の密度の8割以下とすることが好ましく、6割以下とすることが好ましい。
【0043】
また、このような銀からなるターゲット14の粉末の密度としては、4〜10g/cmであることが好ましく、4〜7g/cmであることがより好ましい。なお、このような密度が前記上限を超えると、レーザーアブレーションにより生成された粒子を液相中に放出させることが困難となり、粒子の収率が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では、アブレーションによって生成されるプルームにより加熱される粒子が減少するため、略四角錐及び略八面体の形状を有する銀ナノ粒子の収率が減少する傾向にある。
【0044】
また、ターゲット14は、処理容器12の底部B上に配置される。このようにターゲット14を処理容器12の底部B上に配置することにより、底部Bを透過させたレーザー光Lを、溶媒を介することなく、ターゲット14に対して直接照射することができ、液中に放出された粒子の影響を受けずに、ターゲット14に対して同じ照射条件で連続的に安定してレーザー光Lを照射することが可能である。また、ターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する方法は特に制限されず、例えば、溶媒が導入されている処理容器12内にターゲット14の粉末を添加して処理容器12の底部B上に沈積(堆積)させて、粉末状のターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する方法、粉末状のターゲットを処理容器12の底部B上に置いた後、ターゲットの粉末が分散しないようにしながら処理容器内に溶媒を導入して、粉末状のターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する方法等が挙げられる。
【0045】
また、ターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する際には、レーザーアブレーションにより生成された粒子が十分に液中に放出されるように、底部Bからのターゲット14の堆積された厚み(高さ)を適宜変更することが好ましい。前記最大厚みを比較的厚くすると、レーザーアブレーションにより生成された粒子を放出させることが困難となる傾向にある。このように、底部Bからのターゲット14の堆積された厚み(高さ)に関して、前記最大厚みの好適な値は、その密度によっても異なるものであり、一概には言えないが、基本的には、その厚さが15mm以下(より好ましくは5mm〜10mm)となるようにして処理容器12の底部B上に配置することが好ましい。このような厚みが15mmを超えると、粒子の収率が低下する傾向にある。
【0046】
次に、図1に示す液相レーザーアブレーション装置を用いて銀ナノ粒子を製造する工程について説明する。
【0047】
このような液相レーザーアブレーション装置を用いた銀ナノ粒子の製造工程(液相レーザーアブレーション工程)は、図1に示す液相レーザーアブレーション装置を用い、処理容器12の底部B上に配置されている銀からなるターゲット14に対して、レーザー光Lを処理容器12の底部Bを透過させて照射し、溶媒13中において銀のナノ粒子を形成して、銀ナノ粒子を得る方法である。
【0048】
このような液相レーザーアブレーション工程においては、先ず、レーザー発振器10からレーザー光Lを出射させた後、そのレーザー光Lを光路上に配置されたミラー(反射板)11により反射させる。次に、ミラー11を反射したレーザー光Lは、処理容器12の底部Bを透過し、これにより処理容器12内に入射され、処理容器12の底部B上に配置された銀からなるターゲット14に照射される。このようにして、処理容器12の底部B上に配置された銀からなるターゲット14に、処理容器12の底部Bを透過したレーザー光Lが照射されると、液相内において、銀からなる粒子が形成、放出され、その粒子が溶媒中に分散される。このように、本発明においては、処理容器12内のターゲット14に対して底部Bを透過させたレーザー光を直接照射するため、処理容器12内において、溶媒13中に存在する放出粒子に起因するレーザー光Lの散乱や前記放出粒子によるレーザー光Lの吸収、前記放出粒子の再アブレート等が起こらない。そのため、本発明によれば、ターゲット14に対して同じ照射条件で長期に亘り連続的に安定してレーザー光を照射することが可能であり、これにより粒子を安定的に製造することができる。
【0049】
このようにして銀からなるターゲット14にレーザー光Lを照射する際のレーザー光Lの照射形状(レンズ等により集光する場合には集光形状)や照射強度条件等は、不純物の混入を防止するために処理容器12が破損しないような条件とすればよく、特に制限されないが、公知の条件を適宜採用することができ、容器の材料の種類、溶媒の種類、ターゲットの種類等に応じて目的とする粒子を得ることが可能な条件を適宜採用することができる。例えば、ターゲット14に照射されるレーザー光Lの1パルスあたりの照射強度が10W/cm〜1010W/cm(より好ましくは10W/cm〜10W/cm)となるようにしてもよく、また、レーザー光Lの照射面形状を直径0.5〜5mm程度となるようにしてもよい。更に、レーザーアブレーション時の温度条件は特に制限されないが、室温(25℃)程度であることが好ましい。
【0050】
このようにして、本発明にかかるレーザーアブレーション装置を用い、銀からなるターゲット14にレーザー光Lを照射することで、平均粒子径が1〜5nmであり、且つ、粒子数を基準として全粒子の80%以上が略四角錐又は略八面体の形状を有する銀ナノ粒子を得ることができる。また、このようにして銀からなる粒子を製造した後においては、溶媒を除去又はろ過する等して銀ナノ粒子を適宜回収してもよく、あるいは、溶媒中に分散させた状態(コロイド)のままとしてもよい。なお、このようにして得られる本発明の銀ナノ粒子は、保護剤や安定剤などの化学試薬(界面活性剤、分散剤等も含む)を使用しなくても、溶媒中に分散された状態(コロイド)で十分に安定しており、コロイドの状態で十分に長期間保存することも可能である。また、このようにして得られる銀ナノ粒子を溶媒中に分散させた状態(コロイド)のままとする場合において、銀コロイドの濃度は、濃縮によって調整してもよく、あるいは、製造時のアブレーションの条件(レーザー光の照射時間等)を変化させることによって調製してもよい。
【0051】
以上、図1を利用して本発明の銀ナノ粒子の製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明の銀ナノ粒子の製造方法に利用することができる液相レーザーアブレーション装置及び液相レーザーアブレーション工程は上記実施形態に限定されるものではない。
【0052】
例えば、図1に示す実施形態(上記実施形態)においてはミラー11を用いているが、本発明にかかる液相レーザーアブレーション装置としては、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ前記溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内の底部上に配置させたターゲットとを備え、且つ、前記処理容器が、前記ターゲットに対して前記処理容器の底部を透過したレーザー光が照射されるように配置されていればよく、ミラー11を用いなくてもよく、この場合には、直接レーザー光が処理容器の底部を透過するように、レーザー発振器10と処理容器12とを配置すればよい。
【0053】
また、上記実施形態においては集光レンズを用いていないが、レーザー光を照射する際により高い照射強度を得る等といった観点等から、レーザー光の光路上に集光レンズを配置してもよい。なお、このような集光レンズとしては特に制限されず、公知の集光レンズを適宜利用することができ、中でも、ターゲット14に照射されるパルスレーザー光Lの照射強度を10W/cm〜1010W/cmとすることを可能とする集光レンズを好適に利用することができ、10W/cm〜10W/cmとすることが可能な集光レンズをより好適に利用することができる。なお、処理容器12の材質によっては、レーザー光のフルエンスが大きくなりすぎると容器が破損して不純物の混入や溶媒の漏れが起こる場合もあるため、これを防止するために処理容器の材質等に応じて集光レンズの設計やその使用の有無等を適宜変更すればよい。
【0054】
また、上記実施形態においては、処理容器12の底部Bの断面が直線状のものとなっているが、かかる底部Bの形状は特に制限されるものではない。なお、このような処理容器12の底部Bの形状としては、より効率よくレーザーアブレーションを施すという観点から、底部Bのレーザー光Lが照射される領域にターゲットが集まるような形状とすること(例えば底部Bの形状を丸底とすること等が挙げられる:これにより丸底の最下部に向かって重力により粉末状のターゲットが自然に集まるようにすることが可能となる。)が好ましい。このような底部Bのレーザー光Lが照射される領域にターゲットが集まるような形状としては、例えば、処理容器12の底部Bの縦断面の形状がU字型、V字型、短辺が最下部側となる台形型等となるような形状が挙げられる。処理容器12の底部Bの形状を、底部Bのレーザー光Lが照射される領域にターゲットが集まるような形状とすることにより、レーザー光Lの照射によってターゲットから粒子が放出される際に、かかる放出粒子によりターゲットの粉末が押しのけられて移動したとしても、レーザー光Lの照射される領域にターゲットの粉末が重力等により集まるため、より高い効率でターゲットに対してレーザーアブレーション処理を施すことが可能となり、より効率よく本発明の銀ナノ粒子を得ることが可能となる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
図1に示すような液相レーザーアブレーション装置を用いて、液相レーザーアブレーションを施し、銀ナノ粒子を得た。すなわち、先ず、レーザー発振器10としてNd:YAGレーザー装置を用い、処理容器12としてガラス製の梨型フラスコ(容量100mL)を用い、溶媒13としては純水(100mL)を用いた。また、ターゲット14としては銀の粉末(ニラコ社製、325mesh、平均一次粒子径10μm:SEMにより確認)を550mg用いた。また、このような銀の粉末は、先ず、処理容器12内に純水を導入した後に添加することにより、処理容器12の底部B上に堆積させた。なお、処理容器12の底部Bからの銀の粉末の厚みは最大で3mmであった。
【0057】
また、液相レーザーアブレーションを施す工程においては、上述のような装置を用いて、レーザー発振器10からNd:YAGレーザーの2倍高周波の波長532nmのレーザー光Lを400mJ/pulse,10Hzの条件で発振し、ターゲット14に対して、レーザー光Lを処理容器12の底部Bを透過させて照射した。なお、ターゲット14へのレーザー光の照射光形状のサイズは直径10mmであった。また、レーザー光Lはフルエンスに換算すると0.51J/cmであった。このようにして、処理容器12の底部B上に配置された粉末状のターゲット14にレーザー光Lを60分間照射してレーザーアブレーションを施して、溶媒中に分散された状態の銀ナノ粒子を得た。
【0058】
(実施例2)
レーザー光Lの照射条件を、400mJ/pulse,10Hzから580mJ/pulse,10Hzに変更して、レーザー光Lをフルエンスに換算した場合に0.78J/cmとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、溶媒中に分散された状態の銀ナノ粒子を得た。
【0059】
(実施例3)
ガラス製の梨型フラスコ(容量100mL)の代わりに試験管(内径:13mm、容量20mL)を処理容器12として用い、溶媒13の使用量を100mLから10mLに変更し、銀の粉末の使用量を550mgから501mgに変更した以外は、実施例1と同様にして、溶媒中に分散された状態の銀ナノ粒子を得た。
【0060】
(比較例1)
図2に示す液相レーザーアブレーション装置を用いて、液相レーザーアブレーション処理を施した。図2に示す液相レーザーアブレーション装置は、基本的に、レーザー発振器10と、レーザー光Lの光路上に配置されたミラー11と、集光レンズ21と、石英製の窓Wを備える密封型の処理容器12と、溶媒13と、処理容器12に保持されたバルク状のターゲット14とを備える。
【0061】
このような液相レーザーアブレーション装置においては、レーザー発振器10としてNd:YAGレーザー装置を用い、集光レンズ21として焦点距離が100mmの合成石英レンズを用いた。なお、ターゲット14の表面上の集光サイズが直径1.2mmとなるように、集光レンズ21は処理容器12の窓Wに密着させるようにして配置した。また、処理容器12としては、石英製の窓Wが設置される面及びターゲット14が保持される面が円形であり、且つ、長さが100mmの円筒状の容器(容器内の円形の面の内径が80mm)を用いた。また、このような処理容器12はアクリル樹脂製のものとし、窓Wは直径40mm、厚み8mmの石英製のものとした。また、溶媒13としては純水を用い、容器12内を溶媒13で満たした。また、ターゲット14としては直径40.0mm、厚み1.0mmの銀からなる円盤(バルク状のターゲット)を用いた。
【0062】
そして、液相レーザーアブレーションを施す工程においては、かかる装置を用いて、レーザー発振器10からNd:YAGレーザーの2倍高周波の波長532nmのレーザー光Lを400mJ/pulse,10Hzの条件で発振し、集光レンズ12により、ターゲット14の表面上の集光サイズが直径1.2mmとなるようにして、純水中においてレーザー光Lをターゲットに照射した。なお、このようにして照射したレーザー光Lはフルエンスに換算すると35.4J/cmであった。また、このようなレーザー光Lの照射時間は60分間とした。なお、レーザー光Lの照射の際には、ターゲット14の表面の同じ位置に繰り返しレーザー光Lが照射されて穴が開ないように、ミラー11を適宜回転させながらレーザー光Lを照射した。このようにして、バルク状のターゲット14に対してレーザー光Lを照射してレーザーアブレーションを施すことにより、溶媒中に分散された状態の比較のための銀ナノ粒子を得た。
【0063】
[実施例1〜3及び比較例1で得られた銀ナノ粒子の特性の評価]
〔透過型電子顕微鏡(TEM)による測定〕
実施例1〜3及び比較例1で得られた銀ナノ粒子をそれぞれ透過型電子顕微鏡(TEM:日本電子株式会社製の商品名「JEM−2100F」)により測定して、各銀ナノ粒子の平均粒子径を求めるととともに、各銀ナノ粒子中の略四角錐及び略八面体の形状の粒子の存在比率を求めた。なお、このような測定は、任意の100個の粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)により観測することによって行った。すなわち、各銀ナノ粒子の平均粒子径は、任意の100個の粒子の粒子径をそれぞれ測定して平均化することにより求め、略四角錐及び略八面体の形状の粒子の存在比率は測定した粒子のうちの略四角錐及び略八面体の形状の粒子の数を求めて計算した。なお、このような透過型電子顕微鏡(TEM)測定の結果のうち、実施例1で得られた銀ナノ粒子及び比較例1で得られた銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真をそれぞれ図3(実施例1)及び図4(比較例1)に示す。また、測定した任意の100個の粒子の粒子径の結果から、実施例1で得られた銀ナノ粒子及び比較例1で得られた銀ナノ粒子の粒子径の分布のグラフを作成し、図5(実施例1)及び図6(比較例1)にそれぞれ示す。
【0064】
このような測定の結果、各銀ナノ粒子の平均粒子径はそれぞれ2nm(実施例1)、3nm(実施例2)、5nm(実施例3)、12nm(比較例1)であった。また、各銀ナノ粒子中の略四角錐及び略八面体の形状の粒子の存在比率はそれぞれ粒子数を基準として95%(実施例1)、92%(実施例2)、94%(実施例3)、0%(比較例1)であった。なお、このような銀ナノ粒子うち、略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子として認識されたものは、いずれも「略三角形」及び/又は「略四角形」の外面(側面)を確認できるものであり、そのような外面として認識される「略三角形」及び/又は「略四角形」の面において2辺(「略四角錐」又は「略八面体」中において「稜線」に該当する線分2本)に挟まれた頂点部分の曲率半径はいずれも3nm以下であり、その面の曲率半径の最小値がいずれも2nm以上であり、各外面に挟まれた部分の曲率半径の最大値はいずれも2nm以下であり、各頂点を結ぶ線分(稜線)における曲率半径の最小値はいずれも1nm以上であった。なお、ここにいう曲率半径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像を用いて、高倍率でナノ粒子を観察し、曲率半径を測定することにより計算して求めた値である。また、本発明の銀ナノ粒子(実施例1〜3)は、図3のTEM写真に示すような略四角錐の形状の粒子と、略八面体の形状の粒子との総量の比率が80%以上であるのに対して、比較のための銀ナノ粒子(比較例1)は、図4に示す結果からも明らかなように基本的に略球状の粒子からなるものとなっていた。このような結果から、液相レーザーアブレーションの方法として、レーザー光を溶媒を介さずに処理容器の底部から直接照射する方法(実施例1〜3)を採用することで、平均粒子径が1〜5nmであり、且つ、粒子数を基準として全粒子の80%以上が略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子である銀ナノ粒子が得られることが分かった。これに対して、従来の液相レーザーアブレーションの方法(比較例1)を採用した場合には、得られる銀ナノ粒子の100%の形状が略球状(上述のような「略三角形」の外面が確認できない形状)となってしまい、略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子の含有量が十分なものとはならないことが分かった。
【0065】
また、図5及び6に示す粒子径の分布のグラフからも明らかなように、本発明の銀ナノ粒子(実施例1)においては、粒子径の均一性が十分に高く、平均粒子径の±50%(1nm)の範囲内の粒子径を有する粒子数の割合が全粒子数に対して93%であるのに対して、比較のための銀ナノ粒子(比較例1)においては、平均粒子径の±50%の範囲内の粒子径を有する粒子数の割合が全粒子数に対して58%であり、粒子径のばらつきが大きかった。なお、実施例2及び3で得られた銀ナノ粒子においては、平均粒子径の±50%の範囲内の粒子径を有する粒子数の割合が全粒子数に対してそれぞれ91%(実施例2)、89%(実施例3)であった。このような結果から、本発明の銀ナノ粒子の製造方法(実施例1〜3)を採用することで、非常に均一性の高い粒子が得られることが分かった。また、本発明の銀ナノ粒子の比表面積(BET法)は、それぞれ281m/g(実施例1)、260m/g(実施例2)、275m/g(実施例3)であった。
【0066】
〔銀コロイドの安定性〕
実施例1〜3及び比較例1で得られた銀コロイド(銀ナノ粒子が溶媒中に分散された状態のもの)をそのまま利用し、かかる銀コロイドを暗室に放置して、表面プラズモンによる着色を数時間おきに目視により確認した。
【0067】
実施例1〜3で得られた銀コロイド(銀ナノ粒子が溶媒中に分散された状態のもの)においては、3ヶ月経過した後においても表面プラズモンによる着色が確認された。また、実施例1〜3で得られた銀コロイドにおいては、3ヶ月経過した後においても沈殿物を目視にて確認できなかった。これに対して、比較例1で得られた銀コロイド(比較のための銀ナノ粒子が溶媒中に分散された状態のもの)においては、約2時間経過した時点で溶媒が無色透明となっており、ナノ粒子に特有の表面プラズモンによる着色が確認できなかった。また、このような比較のための銀ナノ粒子(比較例1)が溶媒中に分散された銀コロイドにおいては、約2時間経過した時点で凝集した沈殿が確認された。このような結果から、本発明の銀ナノ粒子(実施例1〜3)が分散媒中に分散された銀コロイドにおいては、分散性を長期間安定して保つことができることが分かり、分散剤等の化学試薬を使用しなくても十分に高度な分散性が得られることが分かった。
【0068】
また、実施例1で得られた銀コロイド(実施例1で形成された銀ナノ粒子が溶媒中に分散された状態のもの)100mLをガラス容器(容量:500mL)に移し替えた後、エパボレーターを用いて溶媒を徐々に除去して、その銀コロイドの濃縮を行った。このような濃縮は、前記銀コロイドの質量を適宜測定しながら行った。なお、銀コロイドの濃度は、溶媒を完全に蒸発させた後の銀ナノ粒子の質量と、濃縮時に測定した銀コロイドの質量とに基づいて求めた。このような濃縮工程の結果、銀コロイドの全体の質量が1.16gとなった時点(銀コロイドの濃度が12g/L)においても、粒子の凝集は生じておらず、表面プラズモンによる着色が確認されたことから、本発明の銀ナノ粒子(実施例1)は、12g/Lという高濃度でも溶媒(分散媒)中に安定して分散していることが分かった。また、銀コロイドの濃度が12g/Lとなった後においても更に濃縮を続けたが、その後も粒子の凝集による沈殿等は確認されなかった(なお、銀コロイドの濃度が12g/Lとなった後には銀コロイドの質量は特に測定しなかった。)。一方、比較のための銀ナノ粒子を含む銀コロイド(比較例1)においては、上述のように数時間で凝集が生じてしまい、濃縮を行うことはできなかった。また、実施例1とは製造時に用いた溶媒の量や処理容器の種類が異なる実施例3で得られた銀コロイドは、溶媒中における当初の銀ナノ粒子の濃度が12g/Lであった。このように、本発明(実施例1及び3)においては、製造時に用いる溶媒の量や処理容器の種類を適宜変更したり、溶媒を濃縮することで、所望の濃度の安定した銀コロイドを製造することが可能であることが分かった。また、本発明の銀コロイドにおいては、銀ナノ粒子の濃度を十分に高濃度(少なくとも12g/L)とすることができることが分かった。
【0069】
〔殺菌性能の評価試験〕
実施例1及び比較例1で得られた銀コロイド(実施例1及び比較例1で得られた銀ナノ粒子が溶媒(純水)に分散された状態のもの)を利用して、殺菌性能を評価した。なお、このような殺菌性能の評価試験には、殺菌剤として、実施例1で得られた銀コロイド(以下、「コロイド(A)」という。)、コロイド(A)を純水にて10倍に希釈したコロイド(B)、比較例1で得られた銀コロイド(以下、「コロイド(C)」という。)又は純水をそれぞれ用いた。そして、このような殺菌性能の評価試験においては、先ず、大腸菌を10mL LB培地に植菌して37℃の温度条件で15時間、100rpmで振とうする前培養を行って培養液を得た。次に、前記培養液を生理食塩水で50000倍に希釈した後、得られた希釈培養液0.5mLを試験管に入れた。次いで、その試験管に2×LB培地2.5mL、滅菌水1.5mL、及び、前記殺菌剤5mLを添加し、37℃、100rpmの条件で振とうした。このようにして試験管の振とうを開始した後、0時間、6時間及び24時間経過した後の試験管内の培養液をそれぞれLB寒天プレートに0.1mL撒き、そのLB寒天プレートを37℃で24時間静置して大腸菌を培養した後、そのプレート上に形成されたコロニーをそれぞれカウントして、各殺菌剤の殺菌性能を評価した。このようにして各殺菌剤の殺菌性能を測定した結果を図7に示す。なお、殺菌剤として利用したコロイド(A)の銀ナノ粒子の濃度は200mg/Lであり、コロイド(B)の銀ナノ粒子の濃度は20mg/Lであり、コロイド(C)の銀ナノ粒子の濃度は2mg/Lであった。
【0070】
図7に示す結果からも明らかなように、本発明の銀ナノ粒子(実施例1)が純水中に分散されたコロイド(A)及び(B)からなる殺菌剤を用いた場合においては、24時間経過後において大腸菌が死滅していることが確認された。これに対して、比較例1で得られた銀ナノ粒子が純水中に分散されたコロイド(C)の殺菌性能は純水とほとんど変わりがなく、大腸菌に対する殺菌性を十分に示さないことが分かった。このような結果から、本発明の銀ナノ粒子(実施例1)は、従来の製造方法で形成された球状の銀のナノ粒子では得られないような十分に高度な殺菌性能を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明によれば、十分に高度な殺菌性能を発揮することが可能な銀ナノ粒子、その銀ナノ粒子を保護剤や安定剤などの化学試薬を使用することなく長期において安定して分散することが可能な銀コロイド、前記銀ナノ粒子を用いた殺菌剤、並びに、前記銀ナノ粒子を効率よく安定して製造することが可能な銀ナノ粒子の製造方法を提供することが可能となる。したがって、本発明の銀ナノ粒子は、特に殺菌性能に優れるため、殺菌剤の材料等として有用である。
【符号の説明】
【0072】
10…レーザー発振器、11…ミラー、12…処理容器、13…溶媒、14…ターゲット、L…レーザー光、B…処理容器の底部、21…集光レンズ、W…窓。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀からなる粒子であって、平均粒子径が1〜5nmであり、且つ、粒子数を基準として全粒子の80%以上が略四角錐又は略八面体の形状を有する粒子であることを特徴とする銀ナノ粒子。
【請求項2】
レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内の底部上に配置させた銀からなるターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、前記銀からなるターゲットに対して前記レーザー光を前記処理容器の底部を透過させて照射し、前記溶媒中において銀のナノ粒子を形成することにより得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の銀ナノ粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銀ナノ粒子が分散媒に分散していることを特徴とする銀コロイド。
【請求項4】
前記銀ナノ粒子の含有量が10〜500mg/Lであることを特徴とする請求項3に記載の銀コロイド。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の銀ナノ粒子を含むことを特徴とする殺菌剤。
【請求項6】
前記銀ナノ粒子が分散媒に分散していることを特徴とする請求項5に記載の殺菌剤。
【請求項7】
レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、前記レーザー光が透過可能な底部を有し且つ溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内の底部上に配置させた銀からなるターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記銀からなるターゲットに対して前記レーザー光を前記処理容器の底部を透過させて照射し、前記溶媒中において銀のナノ粒子を形成して、請求項1に記載の銀ナノ粒子を得ることを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−177158(P2012−177158A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40610(P2011−40610)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】