説明

銀パラジウム合金薄膜の製造方法

【課題】 比較的低温での処理で容易に銀パラジウム合金薄膜を提供する銀パラジウム合金薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 銀ナノ粒子を含有する第1インキ及びパラジウムナノ粒子を含有する第2インキのいずれか一方のインキを基板上に塗布して250℃〜350℃の温度で焼成して薄膜を形成し、得られた薄膜上に他方のインキを塗布して250℃〜350℃の温度で焼成して銀パラジウム合金薄膜を作製することを特徴とする銀パラジウム合金薄膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金薄膜の製造方法に関し、詳しくは耐硫化性及び耐マイグレーション性に優れた銀パラジウム合金薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀及び他の金属すなわち金、パラジウム、白金等からなる銀合金薄膜の優れた導電性及び反射性を維持しながら、耐マイグレーション性、耐硫化性等の耐久性が改善された銀合金薄膜が広く使用されている。特許文献1には、耐久性と反射率の高い銀合金薄膜を備えた表示体が提案されている。また特許文献2には、耐硫化性合金薄膜が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−124209号公報
【特許文献2】特開2001−164327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された方法では、装置が大掛かりで高価なスパッタを用いる必要があり、特許文献2に記載された方法では、銀合金を作製するのに高温で溶融する必要がある。
【0005】
本発明は、前記のような従来の銀合金薄膜の製造における高コスト性に着目し、比較的低温での処理で容易に銀パラジウム合金薄膜を製造する銀パラジウム合金薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1記載の発明は、銀ナノ粒子を含有する第1インキ及びパラジウムナノ粒子を含有する第2インキのいずれか一方のインキを基板上に塗布して250℃〜350℃の温度で焼成して薄膜を形成し、得られた薄膜上に他方のインキを塗布して250℃〜350℃の温度で焼成して銀パラジウム合金薄膜を作製することを特徴とする銀パラジウム合金薄膜の製造方法である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記銀パラジウム合金薄膜上に、さらに前記第1インキまたは第2インキを塗布して250℃〜350℃の温度で焼成することを特徴とする請求項1記載の銀パラジウム合金薄膜の製造方法である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記第1インキが、銀イオン及び保護剤を含む有機溶剤に還元剤を添加して得られる請求項1または2に記載の銀パラジウム合金薄膜の製造方法である。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記第2インキが、パラジウムイオン及び保護剤を含む有機溶剤に還元剤を添加して得られる請求項1または2に記載の銀パラジウム合金薄膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本願各請求項記載の発明によれば、比較的低温での処理で容易に銀パラジウム合金薄膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の銀パラジウム合金薄膜の製造方法について詳細に説明する。
(第1インキの作製)
第1インキ、すなわち銀ナノ粒子含有インキの作製について説明する。
銀イオンを構成する銀の塩としては、安息香酸銀、酢酸銀、クエン酸銀等のカルボン酸銀、あるいは硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀等の無機酸銀が用いられる。
【0012】
有機溶剤としては、例えば主鎖の炭素数が6以上18未満の炭化水素からなる有機溶剤を用いることが好ましい。炭素数が6未満であると、揮発性が高過ぎて取扱いが困難になり、逆に炭素数が18を越えると、粘性が高過ぎて取扱いが困難になり、また濃縮も困難になるためいずれも好ましくない。具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、トリメチルペンタン等の炭化水素が好ましい。銀の塩は、前記いずれかの有機溶剤に0.01mol/l〜1.0mol/lの濃度で溶解される。
【0013】
保護剤は、有機溶剤への銀の塩の溶解を促進し、生成する銀ナノ粒子を保護して、その凝集を防止するために添加されるものであって、アルキルアミン、カルボン酸、アミド化合物、カルボニトリルから選ばれる少なくとも一種が用いられる。
【0014】
アルキルアミンは、炭素数5〜20のアルキルアミンが好適に用いられ、具体的には、
ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等が挙げられる。
【0015】
カルボン酸は、炭素数5〜20のカルボン酸が好適に用いられ、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、ヘキサデカン酸、ナフテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0016】
アミド化合物は、炭素数5〜20のアルキルアミド及び環状アミドが用いられ、具体的には、ペンタンアミド、ヘキサンアミド、ヘプタンアミド、ノナンアミド、デカンアミド、ウンデカンアミド、ドデカンアミド、ヘキサデカンアミド、オクタデカンアミド、ベンズアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が用いられる。
【0017】
カルボニトリルは、炭素数5〜20のカルボニトリルが好適に用いられ、具体的には、ペンタニトリル、ヘキサニトリル、ヘプタニトリル、オクタニトリル、ノナニトリル、デカニトリル、ウンデカニトリル、ドデカニトリル、ヘキサデカニトリル、オクタデカニトリル等が挙げられる。
【0018】
前記各種保護剤に共通して、炭素数が5未満の保護剤は、銀ナノ粒子を腐蝕させるおそれがあり、一方、炭素数が20を越える保護剤は、粘度上昇に伴って扱いが困難になり、さらには銀薄膜焼成時に熱分解することなく残留し、膜の均一性に悪影響を与えることがあるため好ましくない。
【0019】
添加される保護剤の量は、銀イオンの2倍から10倍モル程度であることが好ましい。保護剤の添加は、銀ナノ粒子の凝集を防止するには有効ではあるが、銀ナノ粒子の収率を低下させることもあるので、その添加量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0020】
銀イオン及び保護剤を含む有機溶剤に、還元剤を添加する。還元剤の種類は通常使用されるものであれば特に限定されず、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムなどの水素化ホウ素金属塩、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化アルミニウムセシウム、水素化アルミニウムベリリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム等の水素化アルミニウム塩、ヒドラジン化合物、クエン酸及びその塩、コハク酸及びその塩、アスコルビン酸及びその塩等がある。還元剤は、そのまま添加してもよいが、均一な反応性を確保するためには、水あるいはアルコールに溶解して添加することが好ましく、有機溶剤との相溶性を考慮すれば、アルコールに溶解して添加することがより好ましい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等が好適に用いられる。還元剤のアルコール溶液の濃度は、0.01mol/l〜0.1mol/lに設定されることが好ましい。
【0021】
還元剤の添加により、銀イオンを含む有機溶剤に特有の色を呈していた溶液が、銀ナノ粒子の生成を示す褐色に変色する。攪拌後、沈殿物を吸引ろ過等によって除去し、ろ過液をエバポレータ等で濃縮し、銀ナノ粒子を含む黒色の液体を得る。
【0022】
得られた黒色の液体をエバポレータ等によって濃縮することによって黒色の固体を得る。ここで、不純物を除去するために、得られた黒色の液体に銀ナノ粒子の貧分散媒であるメタノール、エタノール等のアルコールを添加することが好ましい。アルコールを加えた後、吸引ろ過によりアルコールに可溶である過剰有機成分である保護剤を除去し、フィルター上に残った沈殿物を前記第1有機溶剤に再分散させ、ろ過した後、乾燥させて黒色の固形物を得る。得られた黒色の固形物をトルエン等の有機溶剤に溶解することによって、第1インキが得られる。
【0023】
(第2インキの作製)
続いて、第2インキ、すなわちパラジウムナノ粒子含有インキの作製について説明する。
パラジウムイオンを構成するパラジウムの塩としては、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム等が用いられる。
【0024】
パラジウムの塩は、前記第1インキ作製に使用される有機溶剤と同等の有機溶剤に0.01mol/l〜1.0mol/lの濃度で溶解され、さらに前記第1インキの作製に用いられる保護剤と同等の保護剤が添加される。
【0025】
パラジウムイオン及び保護剤を含む有機溶剤に、還元剤を添加する。還元剤の種類は、前記第1インキ作製に使用される還元剤と同等のものをそのまま使用できる。
【0026】
還元剤の添加により、パラジウムイオンを含む有機溶剤に特有の色を呈していた溶液が、パラジウムナノ粒子の生成を示す褐色に変色する。攪拌後、沈殿物を吸引ろ過等によって除去し、ろ過液をエバポレータ等で濃縮し、パラジウムナノ粒子を含む黒色の液体を得る。
【0027】
得られた黒色の液体から第1インキ作製時と同様の手順に従って、黒色の固形物を得る。得られた黒色の固形物をトルエン等の有機溶剤に溶解することによって、第2インキが得られる。
【0028】
(銀薄膜の作製)
前記第1インキをスピンコート法、スクリーン印刷法、ディップコート法、インクジェット印刷法等の方法によってガラス等の基板上に展開し、膜厚0.1μm〜1.0μmの薄膜に調整する。これをマッフル炉、ホットプレート等を用いて焼成することにより、銀薄膜を作製する。ここで、焼成温度は250℃〜350℃、焼成時間は5分〜15分程度である。
【0029】
(銀パラジウム合金薄膜の形成)
得られた銀薄膜上に前記第2インキを前記第1インキと同様の方法で展開して成膜し、焼成温度250℃〜350℃、焼成時間5分〜15分で焼成することによって、全体がほぼ均一化した銀パラジウム合金薄膜が得られる。得られた銀パラジウム合金薄膜上にさらに第1インキまたは第2インキを塗布して250℃〜350℃の温度で焼成することによって、全体がほぼ均一化した、先に得られた銀パラジウム合金薄膜とは異なる組成の銀パラジウム合金薄膜が得られる。
【0030】
以上、基板上に第1インキを塗布して250℃〜350℃の温度で焼成して銀薄膜を作製し、得られた銀薄膜上に第2インキを塗布して焼成することによって銀パラジウム合金薄膜を得る方法を説明したが、第1インキと第2インキを逆に、すなわち基板上に第2インキを塗布して焼成してパラジウム薄膜を作製し、得られたパラジウム薄膜上に第1インキを塗布して250℃〜350℃の温度で焼成することによっても得られる。この場合も同様に、得られた銀パラジウム合金薄膜上にさらに第1インキまたは第2インキを塗布して250℃〜350℃の温度で焼成することによって、先に得られた銀パラジウム合金薄膜とは異なる組成の銀パラジウム合金薄膜が得られる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
酢酸銀2.50g、ナフテン酸20.3g、オクチルアミン19.4gを60℃で攪拌混合し、イソオクタン1000mlに溶解させた。得られた溶液を攪拌し、0.03mol/l水素化ホウ素ナトリウムプロパノール溶液550mlを滴下し、銀を還元した。さらに3時間攪拌して黒色の液体を得た。得られた黒色の液体をエバポレータを用いて濃縮した後、メタノールを添加して褐色の沈殿物を生成させた後、吸引ろ過により沈殿物を回収した。得られた沈殿物をイソオクタンに再分散させ、ろ過した後、乾燥させて黒色の固形物を得た。得られた黒色の固体を金属分濃度が30wt%となるように有機溶剤としてのトルエンに溶解して第1インキを調整し、ガラス基板上にスピンコート法によって展開し、300℃のマッフル炉にて30分間焼成した。焼成後、膜厚0.13μmの連続した銀薄膜を形成した。
【0032】
酢酸パラジウム1.68g、ドデシルアミン20.85g、イソオクタン50mlを液温70℃で1.5時間攪拌混合し、パラジウムイオン溶液を調整した。このパラジウムイオン溶液を攪拌しながら、0.1mol/l水素化ホウ素ナトリウム2-プロパノール溶液33mlを滴下し、パラジウムイオンを還元した。還元液をエバポレータで濃縮し、この液体にメタノールを加えて黒色の沈殿物を生成させた後、吸引ろ過により沈殿物を回収することにより不純物を除去した。得られた沈殿物をイソオクタンに再分散させ、エバポレータで濃縮した後、アスピレータで吸引して一晩乾燥させ黒色の固形物を得た。得られた黒色の固形物にトルエンを添加して金属濃度約2wt%の第2インキを調整し、スピンコート法によって前記銀薄膜上に展開し成膜した。作製した膜をホットプレートで大気下、300℃で5分間焼成し、膜厚0.14μmの薄膜を作製した。
【0033】
得られた薄膜をX線回折装置(XRD)で測定したところ、図1に示すように第1インキのみから得られた銀薄膜あるいは第2インキのみから得られたパラジウム薄膜のX線回折パターン(それぞれ比較例1、比較例2)とは異なる、銀パラジウム合金の生成を示唆する回折パターンが得られた。これらのことから、得られた薄膜は銀パラジウム合金薄膜であることが確認された。
【0034】
(実施例2)
前記実施例1の銀パラジウム合金薄膜上にさらに第2インキをスピンコート法によって展開し成膜した。同様にホットプレートで大気下、300℃で5分間焼成し、膜厚0.17μmの薄膜を作製した。得られた薄膜をX線回折装置(XRD)で測定したところ、図1に示すように第1インキのみから得られた銀薄膜あるいは第2インキのみから得られたパラジウム薄膜のX線回折パターン(それぞれ比較例1、比較例2)とは異なる、銀パラジウム合金の生成を示唆する回折パターンが得られた。これらのことから、得られた薄膜は銀パラジウム合金薄膜であることが確認された。
【0035】
(実施例3)
前記実施例1におけるドデシルアミンをステアリルアミンにした以外は実施例1と同様にして膜厚0.16μmの薄膜を作製した。得られた薄膜をX線回折装置(XRD)で測定したところ、図2に示すように第1インキのみから得られた銀薄膜あるいは第2インキのみから得られたパラジウム薄膜のX線回折パターン(それぞれ比較例1、比較例3)とは異なる、銀パラジウム合金の生成を示唆する回折パターンが得られた。これらのことから、得られた薄膜は銀パラジウム合金薄膜であることが確認された。
【0036】
(実施例4)
前記実施例2におけるドデシルアミンをステアリルアミンにした以外は実施例2と同様にして膜厚0.22μmの薄膜を作製した。得られた薄膜をX線回折装置(XRD)で測定したところ、図2に示すように第1インキのみから得られた銀薄膜あるいは第2インキのみから得られたパラジウムのパラジウム薄膜のX線回折パターン(それぞれ比較例1、比較例3)とは異なる、銀パラジウム合金の生成を示唆する回折パターンが得られた。これらのことから、得られた薄膜は銀パラジウム合金薄膜であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
+
【0038】
大掛かりな装置及び高温での熱処理を必要とすることなく銀パラジウム合金薄膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1及び実施例2の銀パラジウム合金薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例3及び実施例4の銀パラジウム合金薄膜のX線回折パターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀ナノ粒子を含有する第1インキ及びパラジウムナノ粒子を含有する第2インキのいずれか一方のインキを基板上に塗布して250℃〜350℃の温度で焼成して薄膜を形成し、得られた薄膜上に他方のインキを塗布して250℃〜350℃の温度で焼成して銀パラジウム合金薄膜を作製することを特徴とする銀パラジウム合金薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記銀パラジウム合金薄膜上に、さらに前記第1インキまたは第2インキを塗布して250℃〜350℃の温度で焼成することを特徴とする請求項1記載の銀パラジウム合金薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記第1インキが、銀イオン及び保護剤を含む有機溶剤に還元剤を添加して得られる請求項1または2に記載の銀パラジウム合金薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記第2インキが、パラジウムイオン及び保護剤を含む有機溶剤に還元剤を添加して得られる請求項1または2に記載の銀パラジウム合金薄膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−286338(P2006−286338A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103198(P2005−103198)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】