説明

銀含有発泡体

本発明は、硫酸銀、クエン酸銀、酢酸銀、炭酸銀、乳酸銀、及びリン酸銀、又はこれらの塩の混合物からなる群から選択される銀塩を含む親水性ポリウレタン発泡体の製造方法に関する。この方法は、(a)界面活性剤、及び少なくとも一つの銀塩を含む水相を提供し、少なくとも一つの銀塩は水相に分散される段階;(b)二つ以上の官能基を有するイソシアネート末端ポリエーテルを提供する段階;(c)前記水相と前記イソシアネート末端ポリエーテルとを混合し、得られる混合物を発泡体が得られる型に直ちに移動する段階;(d)水分含有量が最大10重量%になるまで前記発泡体を乾燥する段階、を含む。本発明は前記方法によって製造される親水性ポリウレタン発泡体、及び前記発泡体を含む創傷用ドレッシングも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌性かつ親水性のポリウレタン発泡体に関する。より詳細には、前記抗菌性かつ親水性の発泡体はポリマーマトリックス内及び発泡体気泡内部の両方においてさらなる量の銀を含む。さらに本発明は、前記抗菌性かつ親水性の発泡体の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第97/42985号は開口部パターンを含む吸収性発泡材料の層を含む創傷用ドレッシングを開示する。ドレッシングを着けるとき着用者の皮膚に近接して存在する発泡材料の側に開口部が開き、発泡材料の層は皮膚接着性疎水性ゲルの層で被覆され、ドレッシングを着けるとき着用者の皮膚に近接して存在する発泡材料内の開口部の壁の末端部はゲルで被覆される。ドレッシング内に特定の抗菌性又は抗微生物性化合物を含むことに関しては何も開示されていない。
【0003】
米国特許第5,662,913号明細書は非環式ポリエーテルポリマーと共に錯体を形成することによって安定化される銀塩の使用について記載する。さらに銀塩のアニオンは銀イオンに関して過剰に存在する。米国特許第5,662,913号明細書に記載の安定化された銀塩錯体は発泡体内に含まれ得る。この特許に開示される発明の目的は、感染を防ぐための、光安定性、非汚染性抗微生物金属組成物を提供すること、及びポリウレタンベースの発泡体を抗微生物性にすることである。ポリウレタン構造体からの銀の放出を制御することに関しては何も開示されていない。
【0004】
国際公開第2004/007595号は銀化合物が制御されて放出されるように製造された柔軟な多孔質ポリウレタン発泡製品を開示する。構造体からの銀の放出は概して遅く、特定の用途では有利であるが、他の用途においては満足すべきものではない。
【0005】
欧州特許出願公開第1486523号明細書及び米国特許第4,937,273号明細書はどちらもゼオライト粒子に結合された抗微生物性銀を含むポリウレタン発泡体に関する。構造体からの銀の放出は概して遅く、特定の用途では有利であるが、他の用途においては満足すべきものではない。
【0006】
国際公開第2002/062403号は元素周期表の第IV族の金属で形成された放出可能な銀錯体、特に銀ジルコニウム塩、を備える創傷用ドレッシングの製造を開示する。本願の請求項1に記載の銀塩に関しては何も開示されていない。
【0007】
欧州特許出願公開第0059049号明細書はスルファジアジン銀を含む創傷用ドレッシングに関する。本願の請求項1に記載の銀塩に関しては何も開示されていない。
【0008】
創傷が異なれば、光微生物剤(銀等)の異なる放出パターンが必要とされる。しかしながら、感染した創傷、及び容易に感染され得る創傷に関して、初期に大量の抗微生物性の銀を放出することができ、及び長期にわたってそのような放出を維持することができるドレッシングを使用することが望ましいだろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第97/42985号
【特許文献2】米国特許第5,662,913号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/007595号
【特許文献4】欧州特許出願公開第1486523号明細書
【特許文献5】米国特許第4,937,273号明細書
【特許文献6】国際公開第2002/062403号
【特許文献7】欧州特許出願公開第0059049号明細書
【特許文献8】英国特許第1429711号明細書
【特許文献9】英国特許第1507232号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は創傷用ドレッシングとして使用され得る抗菌性かつ親水性のポリウレタン発泡体の製造方法を提供する。前記方法は以下の段階を含む。
(a)界面活性剤を含む水相を提供する段階;
(b)二つ以上の官能基を有するイソシアネート末端ポリエーテルを提供する段階;
(c)前記水相と前記イソシアネート末端ポリエーテルとを混合し、得られる混合物を発泡体が得られる型又は連続ウェブに直ちに移動する段階;
(d)水分含有量が最大10重量%になるまで、好ましくは最大8重量%になるまで、さらに好ましくは最大5重量%になるまで、前記発泡体を乾燥する段階。
【0011】
本発明の本質的な特徴は段階(a)における水相が銀塩を含むことである。前記銀塩の一部は前記水相に分散される。本発明の有利な点は、抗微生物性銀イオンが長期間にわたって好ましい方法で発泡体から放出されることである。前記銀塩は硫酸銀、クエン酸銀、酢酸銀、炭酸銀、乳酸銀、及びリン酸銀、又はこれらの塩の混合物からなる群から選択される。
【0012】
さらに、段階(c)において混合物が加えられる前に、前記型又は連続ウェブを工程紙で裏打ちすることが好ましい。前記工程紙は乾燥段階(d)の前に取り除かれる。
【0013】
段階(d)の後得られる発泡体の一つの表面に、触媒の存在下で、硬化により架橋されたシリコーンゲルを形成する、一つ以上のゲル形成シリコーン成分を添加することも好ましい。前記触媒は好ましくは白金錯体である。
【0014】
最後に、本発明は微細孔サイズが30から1000μmの間である抗菌性かつ親水性のポリウレタン発泡体を提供し、前記発泡体は上述の方法によって製造されてよい。好ましくは、48時間後の発泡体の1cmあたりの累積された銀放出量は0.2mg/cmより大きく、より好ましくは0.25mg/cmより大きく、最も好ましくは0.30mg/cmより大きい。さらには、72時間後の発泡体の1cmあたりの累積された銀放出量は好ましくは0.3mg/cmより大きく、より好ましくは0.35mg/cmより大きく、最も好ましくは0.40mg/cmより大きい。好ましくは48時間後、より好ましくは96時間後、最も好ましくは120時間後の累積された銀放出量は最大0.80mg/cmである。
【0015】
好ましくは、発泡体の抗菌特性は、ASTM E 2149基準法に従って35℃±2℃の温度において10mlのバクテリア含有模擬創傷液体(ウシ胎仔血清とペプトン水(0.9%(wt)NaClと0.5%(wt)ペプトンとを含む水溶液)との1:1溶液)に曝されたとき、直径20mm及び厚さ5mmの前記発泡体の円形サンプルが、Pseudomonas aeruginosaの生存細胞数を72時間で10から10未満に低減することができる、及びStaphylococcus aureusの生存細胞数を120時間で10から10未満に低減することができるようなものである。
【0016】
本発明は前記銀放出発泡体を含む創傷ドレッシングも提供する。
【0017】
したがって、本発明は抗菌性銀イオンの長時間にわたる放出が改良された、抗菌性かつ親水性発泡体の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の親水性発泡体は基本的には親水性ポリウレタン発泡体である。適切な親水性ポリウレタン発泡体はHypol(商標)発泡体として知られるものを含む。Hypol発泡体はDow Chemicalsによって市販されるHypol親水性プレポリマーから作ることができる。
【0019】
適合する親水性ポリウレタン発泡体は、二つ以上の官能基を有するイソシアネート末端ポリエーテルを表面活性剤及び水と混合して、その混合物を表面上にキャストすることによって作られてよい。
【0020】
好ましいイソシアネート末端ポリエーテルは、Dow Chemicalsによって市販されるHypol FHP 2000、2001、3000、3001、2002、及び2000HDを含む。HypolはW.R.Grace and Co.による小冊子「Hypol:foamable hydrophilic polymers−laboratory procedures and foam formulations」に記載される。それらの調製及び使用は、英国特許第1429711号明細書及び英国特許第1507232号明細書に記載されている。
【0021】
適合する親水性ポリマー発泡体を形成するのに適切な界面活性剤は非イオン性界面活性剤を含む。好ましい非イオン性界面活性剤は、BASF Wyandotteによって市販されるPluronic(商標)として知られるオキシプロピレン−オキシエチレンブロックコポリマーである。好ましいPluronic界面活性剤はL65、F87、P38、P75、及びL62を含む。
【0022】
適切な銀源は水に対して適度な溶解度を有する銀塩である。銀塩が殺菌条件において安定であること、及び薬学的に許容できることも重要である。本発明の一つの実施形態において、水に対して適度な溶解度を有する銀塩は水に対する溶解度が低い銀塩と混合される。製造プロセスの間銀塩の一部が水性反応混合物内に分散されることは不可欠である。本発明により使用され得る銀塩の例は、硫酸銀、クエン酸銀、酢酸銀、炭酸銀、乳酸銀、及びリン酸銀、又はこれらの塩の混合物からなる群のなかにみられる。
【0023】
典型的な発泡体を調製するために、100重量部のHypol FHP 2000、2001、3000、3001、2002、又は2000HDが、0.3から7重量部の界面活性剤又は界面活性剤の混合物、2から9重量部の硫酸銀等の銀塩、及び30から300重量部の水と混合され、発泡混合物が表面上にキャストされる。典型的な発泡混合体はクリーム時間約20〜30秒、ライズ時間約60〜250秒、及び硬化時間約400〜800秒である。さらに、適切な発泡微細孔サイズは30から1000μmの間で変化し得る。
【0024】
既に述べたように本発明の抗菌性かつ親水性ポリウレタン発泡体は、一つ以上のゲル形成シリコーン成分をそこに加え、添加されたシリコーンが硬化によって架橋ゲルを形成することを可能にすることによって、一面がシリコーンゲルで被覆されてよい。本発明の抗菌性かつ親水性ポリウレタン発泡体のコーティングとして使用される架橋シリコーンゲルは、都合がよいことに、その引張強度、透過性、及び剥離強度という観点で特徴付けられ得る。ここで使用される用語として、「引張強度」は問題となる架橋シリコーンゲルの幅5cm、厚さ3mmの細長い試験片に加えることができる(標準的なInstron試験機による)最大の引張負荷を意味する。
【0025】
架橋シリコーンゲルは、従来技術で知られるように、例えば反応性基を有する線形シリコーン等、様々なゲル形成シリコーン成分及び混合物から形成されてよい。好ましくは、白金触媒等の適切な触媒の存在下で、ゲルはビニル置換シリコーン成分とヒドリド含有シリコーン成分との間の反応によって形成される。
【0026】
使用されるゲル形成シリコーン成分は、100〜10000mPasの範囲内の粘度、350〜40,000の範囲の数平均分子量を有してよく、例えば、1gあたり0.004〜0.4mmolの反応性基を有してよい。
【0027】
シリコーンゲルが二つ以上のシリコーン成分の混合物を架橋することによって形成されるとき、様々な成分の分子量及び/又はそれらの反応性基による置換の度合いは異なっていてよい。これは、単に成分の比率を変化させることによって、様々な物理特性を有するゲルが形成されることを可能にする。
【0028】
本発明の抗菌性かつ親水性ポリウレタン発泡体において使用するための適切な架橋シリコーンを形成するための成分は、例えばWackerからWacker Silgel 612との名で入手可能である。
【0029】
既に述べたように、本発明の構造体は発泡された材料のシートを一つ以上の非架橋シリコーン成分でコーティングした後架橋を起こさせることによって形成される。一つの成分のビニル基を他の成分のヒドリド基と反応させることによって形成されるゲルの場合、そのような硬化は濃度5から15ppmの白金錯体等の触媒の存在下で一般的に実行される。そのような場合、ゲルは数日間室温で硬化させることによって形成されてよいが、高い温度が好ましく使用される。例えば、シリコーンゲルは40℃から120℃の温度で、好ましくは80℃から100℃の間の温度で硬化されることによって形成され得る。温度80℃において、硬化には一般的に10秒から10分、例えば1から5分かかる。温度50℃において、硬化には一般的に10分から2時間、例えば15分から1時間かかる。
【0030】
化学的に適切なゲル(ポリジメチルシロキサンゲル)を形成するシリコーン成分の一つの例は、白金触媒を使用した2成分型硬化RTVシリコーン、例えば、ドイツ、Burghausen、Wacker−Chemie GmbHのSilGel 612、米国、Carpinteria、NuSil TechnologyのMED−6340等、である。
【0031】
このように、本発明は、使用時に着用者の皮膚に近接して存在する発泡材料の側に開く開口部のパターンを含む、吸収性、抗菌性、かつ親水性の銀イオン含有ポリウレタン発泡材料の層によって特徴付けられるドレッシングを提供する。好ましくは、発泡材料は皮膚に付着する親水性架橋シリコーンゲル層のコーティングを有し、発泡材料の開口部の壁は、ドレッシングが使用されるとき着用者の皮膚に近接して存在する前記壁の端部においてゲルで被覆される。
【0032】
そこから体液が僅かにのみ又は通常の量滲出する創傷を意図する第1の好ましい実施形態において、発泡体は抗菌性発泡材料内の微細孔からなる開口部パターンを有する。架橋シリコーンゲルが配置される場合、前記ゲルは全ての微細孔を塞ぐことなくゲル層上に隣接する発泡材料の開いた微細孔内部にも僅かに広がる。
【0033】
好ましくは、発泡材料は使用時に着用者の皮膚から離れて存在する発泡材料の面上が液体不浸透性材料層で覆われる。
【0034】
抗菌性発泡体を含み、着用者の皮膚に向かうことが意図される側にシリコーンゲルコーティングを有するドレッシングは、皮膚付着力F1が0.1〜2.0N、適切には0.2〜1.3N、及び好ましくは0.2〜0.7Nである。
【0035】
第1の実施形態において、シリコーンゲル層は厚み0.05〜1.0mmである。
【0036】
第2の実施形態において、開口部のパターンは発泡材料をゲル形成シリコーン成分の混合物層の上に配置する前に発泡材料内に生成される。
【0037】
本発明は添付する図面を参照してより詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】一つの実施形態による、本発明のドレッシングの一片の斜視概略図である。
【図1A】図1の説明図の一つの特徴の拡大図である。
【図2】本発明によるシリコーンゲルコーティングを得るための、一つ以上のゲル形成シリコーン成分を発泡体に塗布するための装置を概略的に説明する。
【図3】銀含有構造体からの銀放出が如何に測定されるかを概略的に説明する。
【図4A】図4はここに示される材料(サンプルA)と商業的に入手可能な二つの銀発泡体(WO2002/062403号に記載される(サンプルB)、及び米国特許第5,681,575号明細書及び米国特許第5,837,275号明細書に記載される(サンプルC))とを比較した銀放出の略図を示す。図4Aは特定の時点における放出された銀の量を示す。
【図4B】図4Bは累積された銀放出を示す。
【図5A】図5はここに示される発明(サンプルA)と商業的に入手可能な二つの他の銀発泡製品(WO2002/062403号に記載される(サンプルB)、及び米国特許第5,681,575号明細書及び米国特許第5,837,275号明細書に記載される(サンプルC))とを比較した持続される抗微生物性効果の略図を示す。図5AはStaphylococcus aureusに対する効果を示す。本発明によって得られる抗菌性発泡体は参照サンプルと比較して高い抗微生物性、すなわち抗菌性効果を示す。
【図5B】Pseudomonas aeruginosaに対する効果を示す。本発明によって得られる抗菌性発泡体は参照サンプルと比較して高い抗微生物性、すなわち抗菌性効果を示す。
【図6】本発明による構造体を含むドレッシングの製造を説明する。示されているのは、銀発泡体の製造である。水相は水、硫酸銀等の銀塩、及び界面活性剤を含む。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図6は製造プロセスを記述する。ポリウレタンプレポリマーは、界面活性剤と、調製混合装置内で分散され及び溶解された銀塩とを含む水相と混合される。反応混合物はその後工程紙で裏打ちされた型又は連続ウェブに移送される。重合反応が終了した後、工程紙は成形物から取り除かれ、得られた発泡体は水分含量が最大10重量%、好ましくは最大8重量%、最も好ましくは最大5重量%になるまで乾燥される。その後発泡体は層間に紙を配してプラスチック芯に巻き取られ包装される。
【0040】
図1は本発明の一つの実施形態によるドレッシングの一片を説明する。ドレッシングはドレッシング使用時に着用者の傷又は皮膚に近接して存在する側がゲル層3で被覆された吸収性発泡材料2からなる。図1Aに概略的に説明されるように、ゲル層3は発泡材料のゲル被覆側に開口する発泡材料の開気孔又は微細孔4の壁の一部がゲルで被覆されるように配置される。ゲル層3は、傷に対向する発泡材料の微細孔の端部の壁の一部を、塞ぐことなく、覆うのみなので、過剰な傷からの液体は発泡材料2内部に取り込まれ、それによって吸収され得る。ゲル層は発泡材料が着用者の傷又は皮膚に直接接触することを防ぐ間隔保持層も形成する。全ゲル層の厚み(すなわち、発泡材料の微細孔内部への貫通の深さを含む)は0.1〜2.0mmである。傷に向かって対向する発泡材料内の微細孔の一部はゲル層によって塞がれる。
【0041】
外側表面が乾燥しているドレッシングを提供することを意図して、ドレッシングにはゲル層3の反対側に液体不浸透性層5が付与される。この液体不浸透性層5は、薄く、液体不浸透性であるが気体透過性であるプラスチック膜、例えばポリウレタン膜、を含むのが都合がよい。
【0042】
図1に説明されるドレッシングは、少量から通常量の範囲の量で体液を滲出する創傷に使われることが意図される。発泡層の厚みは1〜10mm、好ましくは2〜6mmである。前述のように、発泡材料は吸収剤として、及びゲルキャリアとして機能し、したがって全体としてのドレッシングは非常に柔軟でしなやかである。ゲルが傷を囲む皮膚に付着するので、ドレッシングが所定の位置に保持される一方で、ゲルが密閉機能を提供し、及び浸軟を防ぐ(すなわち、傷からの体液が健康な皮膚の上を移動し上皮を柔らかくして最終的には損傷を与える)。ゲル層及び発泡材料の開口構造も皮膚が呼吸することを可能にする。本発明において使用される付着性ゲルの性質は、ドレッシングを固定するのに典型的に使用される接着剤、例えばアクリレート接着剤又は最近この目的で使用される熱溶融接着剤、の性質とは全く異なる。これらの接着剤と本発明により使用されるゲルとの間の大きな相違は、前記ゲルがより柔軟であり、かつ前記接着剤と比較して良好な「濡れ性」を有することである。これによってゲルに低い固有接着性(すなわち、ゲルによって提供されるのと同様の有効な全接着を達成するためにより固い接着剤に付与されるはずである固有接着性と比較して、単位接触表面積あたりの接着性が低い)を与えることが可能になる。
【0043】
図2は本発明による構造体への一つ以上のゲル形成シリコーン成分層の形成に使用するための装置の非常に概略的な図である。説明される装置はその上をプラスチックフィルム8が図2の左から右に輸送されるコンベヤー(図示されない)を含む。未硬化ゲル混合物9の層がフィルム8上に配置される。ゲル混合物とは硬化後にゲルを形成する成分の混合物を意味し、互いに反応して架橋構造を形成することができるポリマーを含む。吸収性発泡材料の層10はローラー11を用いて未硬化ゲル混合物の層9に塗布され、層9、10はオーブン12内部に移動される。オーブン12を通過中にゲル混合物は硬化され、発泡材料の下側にゲル層を形成する。
【0044】
一つ以上のゲル形成成分及び混合物及びそれらの比率、圧力F、ゲル混合物の量、発泡材料を塗布してから層を加熱するまでの時間、硬化温度等を適切に選択することで発泡材料上に不連続なゲルコーティングが形成されることが見出されている。これはゲル混合物がキャピラリー作用によって発泡材料のゲル混合物に隣接して存在する側に開く発泡材料中の微細孔又は開口部内部に引き込まれるためである。ゲル形成コーティングを微細孔以外の開口が不足している発泡材料に塗布するとき、ゲル混合物は発泡材料の下部に開く過剰に多数の微細孔がゲルコーティングによって詰まったり又は塞がれたりすることがないことを確実にするためにそのような薄さの層に塗布されなくてはならない。ゲル混合物の粘度及び発泡材料中の微細孔サイズも、微細孔内部に浸透する混合物の傾向に影響する。ゲル混合物層は0.05〜1.00mmの厚みで塗布されることが好ましいことが見出された。ゲル混合物層のかなりの部分は発泡体に吸い込まれ、全ゲル層は、空気及び発泡体を含んで、厚み0.10〜2.00mmを有する。
【0045】
抗菌性ポリウレタン発泡体シートの下部をシリコーンゲルでコーティングするための上述の方法の第1の応用において、開気孔の、密度80から150kg/m及び厚み5mmである柔軟な親水性ポリウレタン発泡体シートが使用された。
【0046】
シリコーン混合物はWackerから入手されたSilGel612から調製され、A成分とB成分との混合比が1.0:0.9であった。未硬化の混合物は約1000mPaの粘度であった。
【0047】
ポリウレタンシートはローラー11から圧力Fを与えることなく厚み0.2mmのシリコーン混合物上に配置される、言い換えればシリコーン混合物は単に発泡体シートの重量を付与される。発泡材料10及び下部に位置するシリコーン混合物9をローラー11からオーブン12に移動するのにかかる時間は1分間、硬化温度は130℃であった。シリコーンはオーブン滞留時間数分で硬化された。気体透過性が高く厚み0.025mmのポリウレタンフィルムはその後ゲルコーティングとは反対の面で発泡体に固く接着された。この混合比において、シリコーンゲルの針入度は16mmであり、ドレッシングの皮膚付着力は0.42Nであると測定された。この条件下で、ゲル混合物層の厚みが、発泡材料上に適切な不連続ゲルコーティングを得るように、好ましくは少なくとも0.1mmであることが見出された。
【0048】
ゲル混合物層の厚みが0.4mmよりも大きいとき、発泡材料の非常に大きな割合の微細孔が塞がれるようになり、ゲルコーティングの浸透性が不十分となる。
【0049】
図2に関して記述された方法が実行されるとき、最終製品の品質が多くの因子に依存するのは前述の内容から明らかである。したがって、これらの因子に一般的な制限値を設けることはできず、そのような制限値は使用されるゲル混合物及び発泡材料に関連して経験的に定められなくてはならない。
【0050】
このように、記載された方法は、図1に関して記述されたタイプのドレッシングが非常に容易に製造されることを可能にする。また、この方法は非常に適応性があり、原則として同じ方法によって、及び同じ装置を用いて、相互に異なる吸収性を有するドレッシングが製造されることを可能にする。
【0051】
記載されたドレッシングは、もちろん、例えばエチレンオキシド殺菌又は蒸気殺菌等によって殺菌されてよく、殺菌済み包装及び非殺菌包装の両方に関して、様々なサイズでの配送及び様々な種類の傷が意図される。それらが柔軟であるため、圧縮包帯と組み合わせての使用に適し、水脹れ、下腿潰瘍、及び同様の創傷に有益に使用され得る。柔軟性が非常に高いことによって、それらは関節の痛み、例えば膝の痛み及び肘の痛み、に対する使用にも、たとえ痛みが回復するプロセスの後期であっても、適切なものとなる。ドレッシングは問題となる痛み又は傷のサイズに対して適切なサイズに切り取られてもよい。
【0052】
上述の例示される実施形態が、特に記述される材料及び適用されるプロセスパラメータに関して、本発明の範囲内で変更されてよいことは理解される。
【0053】
本発明は以下の例においてさらに記述される。
【0054】
例1:発泡体の調製
発泡体製造プロセスのための水相は、非イオン性界面活性剤Pluronic F87、硫酸銀、及び活性炭素を溶解/分散することによって調製された。水相内のこれらの構成成分の最終的な濃度は、Pluronic F87が0.5重量%、及び硫酸銀が2.2重量%であった。溶解された硫酸銀の濃度は0.8重量%であり、残りの硫酸銀は水相に分散された。
【0055】
同時に、工程紙で裏打ちされた型が準備された。型は、厚さ5mmのシート形状発泡体コーティングが製造できるように十分な深さを有した。
【0056】
プレポリマーHypol 2001(イソシアネート末端ポリエーテル)が、室温において、40重量%の量で、調製混合装置内の水相に添加された。得られる混合物は、キャスティング型に直ちに移動された。発泡は30秒に達し、その後発泡物は10分間硬化された。硬化の後工程紙は取り除かれ、発泡体は水分含量が最大10重量%になるまで120℃の温度で乾燥された(図1及び2参照)。
【0057】
例2:発泡材料の吸収
例1において製造された発泡体製品のサンプル、サンプルA、及び二つの商業的に入手可能な製品、国際公開2002/062403号に記載されるもの(サンプルB)、及び米国特許第5,681,575号明細書及び米国特許第5,837,275号明細書に記載されるもの(サンプルC)、は6×6cmの試験片に切断され、重量が測定された。その後、試験片は過剰量の水道水に浸漬された。3時間後試験片は再度重量が測定された。得られた結果は表1に示される。
【0058】
【表1】

【0059】
この結果は、例1の製品(サンプルA)が商業的に入手可能な製品と比較して好ましい、又は若干良い吸収性を有することを示す。
【0060】
例3:銀の放出
直径20mmの円形サンプルは、例1により製造されたサンプルAで示される材料、及び二つの商業的に入手可能な製品、国際公開2002/062403号に記載されるもの(サンプルB)、及び米国特許第5,681,575号明細書及び米国特許第5,837,275号明細書に記載されるもの(サンプルC)、から打ち抜かれた。図3は銀の放出を測定する装置、すなわちどちらもBecton Dickinson Labwareの、FalconTM6ウェルMultiwellユニット(2)及び対応する細胞培養インサート(4)、を開示する。細胞培養インサート(4)の底部の拡散膜は取り除かれ、防水ポリアミドフィルムで置き換えられた。直径12mmの開口(6)は底部フィルムから打ち抜かれた。乾燥サンプル(10)は開口(6)上の細胞培養インサート(4)内に配置された。前記サンプルを圧縮し、かつ底部フィルムに固定するために、ステンレス鋼でできた重り(12)、重さ15g及び直径20mm、がサンプル(10)上に準備された。
【0061】
所定の量のNaNO 0.15M水溶液(これ以降試験溶液(8)と呼ばれる)が以下のスキーム(表2)に従ってMultiwellTMユニット(2)に加えられた。
【0062】
【表2】

【0063】
細胞培養インサート(4)はMultiwellTMユニット(2)内に配置され、それによって試験溶液(8)とサンプル(10)との間の接触を可能にする。二区画モデルの蓋が使用された。各サンプリング時間において、サンプル(10)によって吸収されなかった試験溶液が集められた。各サンプリング時間の後、新たな試験溶液が清浄なMultiwellTMユニットに添加され、細胞培養インサート(4)が同じ試験片(10)をさらに保持して配置された。全ての六つのサンプルは、全試験の間3回試験された。各サンプリング時間において、銀の放出量が銀イオン電極で評価された。
【0064】
【表3】

【0065】
得られた結果は図4A及び4Bに示される。例1の製品は一週間の試験期間の間その銀含有量の約70%を放出する。放出速度が最も大きかったのは約48時間後である。
【0066】
例4:抗菌活性
抗菌活性はASTM E 2149基準法に基づく方法を用いて測定された。例1において得られた銀発泡体のサンプル(直径20mm)及び参照材料(国際公開2002/062403号に記載されるもの(サンプルB)、米国特許第5,681,575号明細書及び米国特許第5,837,275号明細書に記載されるもの(サンプルC)、及びコントロールサンプル;例1に記載されるような発泡体であるが銀を全く含有しない)は、バクテリア(Staphylococcus aureus、又はPseudomonas aeruginosa)、模擬創傷液体(simulated wound fluid:SWF)、すなわち(ウシ胎仔血清とペプトン水(0.9%NaClと0.5%ペプトン)との1:1溶液)、10mlと共にフラスコ中に配置された。フラスコは約10秒間振とうされ、その後フラスコは35±2℃で培養された。製品の抗菌効果を測定するため、サンプルは最大8日間24時間毎に取り出された。サンプル中の生存細胞の数は標準的な平板法算定を用いて決定された。
【0067】
この実験の結果はStaphylococcus aureusに関する生存細胞数が、試験された他の製品と比較して、ここで示された銀発泡体によって大きく減少することを示す(図5Aを参照されたい)。Mepilex AgによるPseudomonas aeruginosaの生存細胞数の減少も、他の製品と比較して大きい(図5Bを参照されたい)。結果は表4A及び4Bにも示される。
【0068】
【表4】

【符号の説明】
【0069】
2 吸収性発泡材料
3 ゲル層
5 液体不浸透性層
【図1−1A】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)界面活性剤を含む水相を提供する段階;
(b)二つ以上の官能基を有するイソシアネート末端ポリエーテルを提供する段階;
(c)前記水相と前記イソシアネート末端ポリエーテルとを混合し、得られる混合物を発泡体が得られる型に直ちに移動する段階;
(d)水分含有量が最大10重量%になるまで、好ましくは最大8重量%になるまで、さらに好ましくは最大5重量%になるまで、前記発泡体を乾燥する段階;を含み、
前記段階(a)における水相が硫酸銀、クエン酸銀、酢酸銀、炭酸銀、乳酸銀、及びリン酸銀、又はこれらの塩の混合物からなる群から選択される銀塩を含み、前記銀塩の一部は前記水相に分散されることを特徴とする、抗菌性かつ親水性のポリウレタン発泡体の製造方法。
【請求項2】
段階(c)において混合物が加えられる前に前記型が工程紙で裏打ちされ、前記工程紙は乾燥段階(d)の前に取り除かれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一つ以上のゲル形成シリコーン成分が触媒の存在下で段階(d)の後得られる発泡体の一つの表面に加えられ、その後前記ゲル形成成分が硬化によって架橋シリコーンゲルを形成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒が白金錯体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
30から1000μmの間の微細孔サイズを有し、少なくとも一つの銀塩を含み、発泡体が請求項1から4の何れか一項に記載の方法によって製造される、抗菌性かつ親水性ポリウレタン発泡体。
【請求項6】
48時間後の発泡体の1cmあたりの累積された銀放出量は少なくとも0.2mg/cmであり、好ましくは少なくとも0.25mg/cmであり、最も好ましくは少なくとも0.30mg/cmである、請求項5に記載の発泡体。
【請求項7】
72時間後の発泡体の1cmあたりの累積された銀放出量は少なくとも0.3mg/cmであり、好ましくは少なくとも0.35mg/cmであり、最も好ましくは少なくとも0.40mg/cmである、請求項6に記載の発泡体。
【請求項8】
48時間後、好ましくは96時間後、最も好ましくは120時間後の累積された銀放出量は最大0.80mg/cmである、請求項6又は7に記載の発泡体。
【請求項9】
直径20mm及び厚さ5mmの前記発泡体の円形サンプルが、ASTM E 2149基準法に従って35℃±2℃の温度において、10mlのバクテリア含有模擬創傷液体(ウシ胎仔血清とペプトン水(0.9重量%NaClと0.5重量%ペプトンとを含む水溶液)との1:1溶液)に曝されたとき、Pseudomonas aeruginosaの生存細胞数を72時間で10から10未満に低減することができ、及びStaphylococcus aureusの生存細胞数を120時間で10から10未満に低減することができる、請求項5に記載の発泡体。
【請求項10】
請求項5から9の何れか一項に記載の発泡体を含む創傷ドレッシング。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図6】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2010−520313(P2010−520313A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551113(P2009−551113)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001098
【国際公開番号】WO2008/104276
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(507226709)メンリッケ・ヘルス・ケア・アーベー (30)
【Fターム(参考)】