説明

銀粒子分散液

【課題】 微細な配線形成用途に適し、かつ低温焼結性が良好な高分散性球状銀粒子の分散液を安価かつ大量に高い収率で得る。
【解決手段】 粒子表面が有機保護剤で覆われた平均粒径(DTEM)50nm以下の銀粒子粉末を、沸点が60〜300℃の非極性もしくは極性の小さい液状有機媒体に分散させた銀粒子の分散液であって、前記の有機保護剤が1分子中に少なくとも1個以上の不飽和結合を有するアミン化合物であることを特徴とする。アミン化合物としては分子量が100〜1000のものを使用する。分散液中の銀粒子は結晶粒子径(Dx)が50nm以下で、単結晶化度(DTEM/Dx)が2.0以下、分散液の銀濃度は5〜90wt%であり、その粘度は50mP・s以下、表面張力が80mN/m以下のニュートン流体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒径がナノメートルオーダーの銀粒子粉末を有機化合物の液状媒体(液状有機媒体という)に分散させた銀粒子分散液とその製造法に係り、詳しくは、微細な回路パターンを形成するための配線形成用材料例えばインクジェット法による配線形成用材料として好適な微粒子銀の分散液とその製造法に関する。本発明の銀粒子分散液はLSI基板の配線やFPD(フラットパネルディスプレイ)の形成用、さらには微細なトレンチ、ビアホール、コンタクトホールの埋め込等の配線形成用の材料としても好適であり、車の塗装等の色材としても適用できる。
【背景技術】
【0002】
固体物質の大きさがnmオーダー(ナノメートルオーダー)になると比表面積が非常に大きくなるために、固体でありながら気体や液体の界面が極端に大きくなる。このため、その表面の特性が固体物質の性質を大きく左右する。金属粒子粉末の場合は、融点がバルク状態のものに比べ劇的に低下することが知られており、そのためにμmオーダーの粒子に比べて微細な配線の描画が可能になり、しかも低温焼結できる等の利点を具備するようになる。金属粒子粉末の中でも銀粒子粉末は、低抵抗でかつ高い耐候性をもち、金属の価格も他の貴金属と比較して安価であることから、微細な配線幅をもつ次世代の配線材料として特に期待されている。
【0003】
nmオーダーの銀粒子粉末の製造法としては大別して気相法と液相法が知られている。気相法ではガス中での蒸発法が普通であり、特許文献1にはヘリウム等の不活性ガス雰囲気でかつ0.5Torr程度の低圧中で銀を蒸発させる方法が記載されている。液相法に関しては、特許文献2では、水相で銀イオンをアミンで還元し、得られた銀の微粒子を高分子量の分散剤を含有させた有機溶媒相に移動して銀のコロイドを得る方法を開示している。特許文献3には、溶媒中でハロゲン化銀を還元剤(アルカリ金属水素化ホウ酸塩またはアンモニウム水素化ホウ酸塩)を用いてチオール系の保護剤の存在下で還元する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2001−35255号公報
【特許文献2】特開平11−319538号公報
【特許文献3】特開2003−253311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の気相法で得られる銀粒子は、粒径が10nm以下であり分散液中での分散性が良好である。しかし、この製法には特別な装置が必要である。このため産業用の銀ナノ粒子を大量に合成するには難があることに加えて、銀粒子の収率が低く、この製法で得られる粒子粉末は高価である。
【0005】
これに対して液相法は基本的に大量合成に適した方法であるが、液中ではそのナノ粒子は極めて凝集性が高く、このため単一粒子に分散したナノ粒子分散液を得難いという問題がある。一般に、ナノ粒子の製造には分散媒としてクエン酸を用いる例が多く、液中の金属イオン濃度も10mmol/L(=0.01mol/L)以下と極めて低いのが通常である。このため、産業上の応用面でのネックとなっていた。
【0006】
特許文献2は、液相法により0.2〜0.6mol/Lの高い金属イオン濃度と、高い原料仕込み濃度で安定して分散した銀ナノ粒子を合成しているが、凝集を抑制するために数平均分子量が数万の高分子量の有機分散剤を用いている。高分子量の有機分散剤を用いたものでは、これを色材として用いる場合は問題ないが、回路形成用途に用いる場合には高分子量分散剤が燃焼し難いために焼成時に残存しやすいこと、さらには焼成後も配線にポアが発生しやすいこと等から抵抗が高くなったり断線が生じたりするので、低温焼成により微細な配線を形成するには問題がある。また、高分子量の分散剤を使用している関係上、微粒子銀の分散液の粘度が高くなることも問題となる。
【0007】
特許文献3は、液相法により、仕込み濃度も0.1mol/L以上の比較的高い濃度で反応させ、得られた10nm以下の銀粒子を有機分散媒に分散させているが、特許文献3では分散剤としてチオール系の分散剤が提案されている。チオール系の分散剤は分子量が200程度と低いことから、配線形成時に低温焼成で容易に除去させることができるが、硫黄(S)が含まれており、この硫黄分は、配線やその他電子部品を腐食させる原因となるために配線形成用途には好ましくはない。
【0008】
したがって本発明はこのような問題を解決し、微細な配線形成用途に適し、かつ低温焼結性が良好な高分散性球状銀粒子の分散液を安価かつ大量に高い収率で得ることを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決せんとしてなされた本発明によれば、粒子表面が有機保護剤で覆われた平均粒径(DTEM)50nm以下の銀粒子粉末を、沸点が60〜300℃の非極性もしくは極性の小さい液状有機媒体に分散させた銀粒子の分散液であって、前記の有機保護剤が1分子中に少なくとも1個以上の不飽和結合を有するアミン化合物であることを特徴とする銀粒子分散液を提供する。このアミン化合物は分子量が100〜1000のものを使用する。分散液中の銀粒子は結晶粒子径(Dx)が50nm以下で、単結晶化度(DTEM/Dx)が2.0以下であるのがよい。分散液の銀濃度は5〜90wt%であり、その粘度は50mP・s以下のニュートン流体であり、表面張力が80mN/m以下であることができ、pHが6.5以上である。この分散液は銀粒子粉末の平均粒径(DTEM)+20nmの孔径を有するメンブランフィルターを通過する。本発明に従う銀粒子分散液は、高分子量のバインダー等を含んでおらず、強熱減量(300℃熱処理時の減量−1000℃熱処理時の減量)が5%未満であり、また低温での焼結性か良く、したがってインクジェット法による配線形成や塗布による薄膜形成に適する。
【0010】
本発明に従う銀粒子分散液に用いる銀粒子粉末は、液状有機媒体で銀化合物を還元する液相法で製造することができる。そのさい、該液状有機媒体として、還元剤として機能する沸点が85℃以上のアルコールまたはポリオールの1種または2種以上を使用し、そして、その還元反応を有機保護剤(アミン化合物の1種または2種以上)の存在下で進行させるのがよく、得られた銀粒子粉末を沸点が60℃〜300℃の非極性または極性が小さい分散媒に分散させたあと、その分散液から粗粒子を分離することによって、本発明に従う銀粒子分散液を得ることができる。
すなわち、本発明によれば、還元剤として機能するアルコールまたはポリオールの1種または2種以上の液中で銀化合物を還元するさいに、1分子中に少なくとも1個以上の不飽和結合を有する分子量100〜1000のアミン化合物の共存下で前記の還元反応を進行させ、得られた銀粒子粉末を沸点が60〜300℃の非極性もしくは極性の小さい液状有機媒体に分散させることを特徴とする銀粒子分散液の製造法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者は液相法で銀の粒子粉末を製造する試験を重ねてきたが、沸点が85〜150℃のアルコール中で、硝酸銀を、85〜150℃の温度で(蒸発したアルコールを液相に還流させながら)、例えば分子量100〜400のアミン化合物からなる保護剤の共存下で還元処理すると、粒径の揃った球状の銀のナノ粒子粉末が得られることを知見し、特願2005−26805号明細書および図面に記載した。また、沸点が85℃以上のアルコールまたはポリオール中で、銀化合物(代表的には炭酸銀または酸化銀)を、85℃以上の温度で、例えば分子量100〜400の脂肪酸からなる保護剤の共存下で還元処理すると、腐食性化合物の少ない粒径の揃った球状の銀の粒子粉末が得ることを知見し、特願2005−26866号明細書および図面に記載した。いずれの場合にも、その銀粒子粉末を非極性もしくは極性の小さな液状有機媒体に分散させることによって銀粒子の分散液を得ることができ、この分散液から遠心分離等で粗粒子を除くと粒径のバラツキの少ない(CV値=標準偏差σ/個数平均粒子の百分率が40%未満の)銀粒子が単分散した分散液を得ることができる。
【0012】
しかし、これら方法では、反応温度を高くすると、液中の銀イオンが効率よく還元されるが、粒子の焼結が起こって粗粒子化し、目的とする50nm以下の銀粒子粉末が得られ難くなり、反面、反応温度を低くすれば焼結は抑制できるが、液中の銀イオンの還元効率が低下してしまって収率が下がる等のことから、効率よく目的とする50nm以下の銀粒子粉末の作製を行うにはさらなる改善を必要とした。
【0013】
この課題に対し、有機保護剤として分子量500以上のものを使用すると、反応温度を高くしても、焼結を抑制でき、その結果、高い還元率で50nm以下の銀粒子粉末を高効率で得ることができることがわかった。しかし、分子量の大きい有機保護剤を用いると、その銀粒子分散液を配線形成用材料とした場合に、300℃以下の低温での焼結性が著しく低下するという別の問題が現れることがわかった。基板に有機フィルム等を用いた回路等では、300℃以上の温度で焼成することは実質的にできないので、該分散液の用途に制限を受けることになるし、その他の材料を用いる回路基板でも低温で焼結性がよいことは当該銀粒子分散液の価値を高めることになる。このため、高分子量の有機保護剤を用いたのでは、50nm以下の銀粒子粉末を高収率で得ることと、その銀粒子分散液の低温焼結性とを両立させることはできない。
【0014】
そこで、さらに研究を重ねた結果、1分子中に2重結合等の不飽和結合を1個以上持つアミン化合物を有機保護剤として用いると、前記の両立ができることを見い出した。さらに、当該還元処理において、反応温度を段階的にあげて、多段反応温度で還元する処方を採用したり、得られた粒子懸濁液の洗浄および粗粒子除去の操作を高度に組み立てることによって、一層有利に前記の両立ができ、銀ナノ粒子が高度に分散した低温焼結性のよい銀粒子分散液を高収率で製造できることがわかった。
【0015】
以下に本発明で特定する事項を説明する。
〔平均粒径DTEM
本発明の銀粒子粉末は、TEM(透過電子顕微鏡)観察により測定される平均粒径(DTEMと記す)が200nm以下、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下、場合によっては20nm以下である。このため、本発明の銀粒子粉末分散液は微細な配線を形成するのに適する。TEM観察では60万倍に拡大した画像から重なっていない独立した粒子300個の径を測定して平均値を求める。
【0016】
〔X線結晶粒径Dx〕
本発明の銀粒子粉末は、結晶粒子径(Dxと記す)が50nm以下である。銀粒子粉末のX線結晶粒径はX線回折結果から Scherrer の式を用いて求めることができる。その求め方は、次のとおりである。
Scherrer の式は、次の一般式で表現される。
Dx=K・λ/β COSθ
式中、K:Scherrer定数、Dx:結晶粒子径、λ:測定X線波長、β:X線回折で得られたピークの半価幅、θ:回折線のブラッグ角をそれぞれ表す。Kは0.94の値を採用し、X線の管球はCuを用いると、前式は下式のように書き換えられる。
Dx=0.94×1.5405/β COSθ
【0017】
〔単結晶化度〕
本発明の銀粒子粉末は単結晶化度(DTEM/Dx)が2.0以下である。このため、緻密な配線を形成でき、耐マイグレーション性も優れている。単結晶化度が2.0より大きくなると、多結晶化度が高くなって多結晶粒子間に不純物を含み易くなり、焼成時にポアが生じ易くなり、緻密な配線を形成できなくなるので、好ましくない。また、多結晶粒子間の不純物のために耐マイグレーション性も低下する
【0018】
〔有機保護剤〕
本発明においては、表面が有機保護剤で覆われた銀粒子を液状有機媒体に分散させることによって銀粒子分散液とするが、その有機保護剤としては、1分子中に少なくとも1個以上の不飽和結合を有し、分子量100〜1000、好ましくは100〜400のアミン化合物を使用する。このような不飽和結合をもつアミン化合物を有機保護剤として使用することによって、還元反応において銀核を一斉に発生させると共に析出した銀核の成長を全体的に均斉に抑制する現象が起きるのではないかと推測されるが、前記のように50nm以下の銀粒子粉末を高収率で得ることができ、しかもこのアミン化合物は比較的低温で分解するのでその銀粒子分散液の低温焼結性を確保することができる。本発明で使用できる代表的なアミン化合物として、例えばトリアリルアミン、オレイルアミン、ジオレイルアミン、オレイルプロピレンジアミンを例示できる。
【0019】
〔液状有機媒体〕
前記の有機保護剤で覆われた銀粒子粉末を分散させる液状有機媒体としては、沸点が60〜300℃の非極性もしくは極性の小さい液状有機媒体を用いる。ここで、「非極性もしくは極性の小さい」というのは25℃での比誘電率が15以下であることを指し、より好ましく5以下である。比誘電率が15を超える場合、銀粒子の分散性が悪化し沈降することがあり、好ましくない。分散液の用途に応じて各種の液状有機媒体が使用できるが、炭化水素系が好適に使用でき、とくに、イソオクタン、n−デカン、イソドデカン、イソヘキサン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、トリデカン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、テトラリン等の芳香族炭化水素等が使用できる。これらの液状有機媒体は1種類または2種類以上を使用することができ、ケロシンのような混合物であっても良い。更に、極性を調整するために、混合後の液状有機媒体の25℃での比誘電率が15以下となる範囲でアルコール系、ケトン系、エーテル系、エステル系等の極性有機媒体を添加しても良い。
【0020】
〔アルコールまたはポリオール〕
本発明では還元剤として機能するアルコールまたはポリオールの1種または2種以上の液中で銀化合物を還元するが、このようなアルコールとしては、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、シクロペンタノール等が使用できる。またポリオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が使用できる。
【0021】
〔粘度〕
本発明に従う銀粒子粉末を液状有機媒体に分散させた分散液はニュートン流体であり、温度25℃における粘度が50mPa・s以下である。このため、本発明の銀粒子分散液はインクジェット法による配線形成用材料として好適である。インクジェット法で配線形成を行う場合には、配線の平坦性を維持するために基板上に着弾する液滴の量的な均一性が求められるが、本発明の銀粒子分散液はニュートン流体で且つ粘度が50mPa・s以下であるために、ノズル詰まりなく円滑な液滴の吐出ができるので、この要求を満たすことができる。粘度測定は、東機産業(株)製のR550形粘度計RE550Lにコーンロータ0.8°のものを取り付け、25℃の恒温にて行うことができる。
【0022】
〔表面張力〕
本発明の銀粒子分散液は25℃での表面張力が80mN/m以下である。このためインクジェット法による配線形成用材料として好適である。表面張力の大きい分散液ではノズル先端でのメニスカスの形状が安定しないので吐出量や吐出タイミングの制御が困難になり、基板上に着弾した液滴の濡れが悪く、配線の平坦性が劣る結果となるが、本発明の銀粒子分散液は表面張力が80mN/m以下であるから、このようなことがなく、品質のよい配線ができる。表面張力の測定は、協和界面科学株式会社製のCBVP-Zを使用し、25℃の恒温にて測定できる。
【0023】
〔メンブランフィルターの通過径〕
本発明の銀粒子の分散液は銀粒子粉末の平均粒径(DTEM)+20nmの孔径を有するメンブランフィルターを通過する。銀粒子の平均粒径DTEMより20nmだけ大きい孔径を通過するのであるから、その分散液中の銀粒子は凝集することなく、個々の粒子ごとに液中に流動できる状態にあること、すなわちほぼ完全に単分散していることを意味する。このことも、本発明の銀粒子の分散液はインクジェット法による配線形成用材料として極めて好適である。粒子が凝集した部分があると、ノズル詰まりが起きやすいばかりでなく、形成される配線の充填性が悪くなって焼成時にポアが発生して高抵抗化や断線の原因となるが、このようなことが本発明の分散液では回避できる。メンブランフィルター通過試験において、最も孔径が小さいフィルターとして、Whatman社製アノトッププラス25シリンジフィルタ(孔径20nm)を使用できる。
【0024】
〔pH〕
本発明の銀粒子分散液はpH(水素イオン濃度)が6.5以上である。このため、配線形成用材料としたときに回路基板上の銅箔を腐食させることがなく、また配線間でのマイグレーションが起こり難いという特徴がある。当該分散液のpHの測定は、HORIBA株式会社製pHメーターD−55Tと、低導電性水・非水溶媒用pH電極6377−10Dを用いて行うことができる。この方法で測定した分散液のpHが6.5未満の場合には、酸成分による回路基板上の銅箔腐食を起こし、また配線間でのマイグレーションが起こり易くなり、回路の信頼性が低下する。
【0025】
〔強熱減量〕
銀粒子分散液の強熱減量(%)は次の式で示される値をいう。
強熱減量(%)=100×〔(W50−W300)/W50−(W50−W1000)/W50
ここで、W50、W300およびW1000は、温度が50℃、300℃および1000℃における分散液の重量を表す。
本発明の銀粒子分散液の強熱減量は5%未満である。強熱減量が5%未満であるから、配線を焼成する際に有機保護剤が短時間で燃焼して、焼結を抑制することがなく、良好な導電性を有する配線が得られる。強熱減量が5%以上であると、焼成時に有機保護剤が焼結抑制剤として働き、配線の抵抗が高くなってしまい、場合によっては導電性を阻害するので好ましくない。
【0026】
強熱減量はマックサイエンス/ブルカーエイエックス社製TG−DTA2000型測定器により、以下の測定条件で測定できる。
試料重量20±1mg、
昇温速度10℃/min、
雰囲気:大気(通気なし)、
標準試料:アルミナ20.0mg、
測定皿:株式会社理学製アルミナ測定皿、
温度範囲:50℃〜1000℃。
【0027】
次に本発明の銀粒子粉末の製造法を説明する。
本発明の銀粒子粉末は、アルコールまたはポリオール中で、銀化合物(各種の銀塩や銀酸化物等)を、有機保護剤の共存下で、85℃〜150℃の温度で還元処理することによって製造することができる。有機保護剤としては前記のとおり1分子中に1個以上の不飽和結合を有する分子量100〜1000のアミン化合物を使用する。
【0028】
アルコールまたはポリオールは、銀化合物の還元剤として、また反応系の液状有機媒体として機能するものである。アルコールとしてはイソブタノール、n−ブタノール等が好ましい。還元反応は加熱下でこの液状有機媒体兼還元剤の蒸発と凝縮を繰り返す還流条件下で行なわせるのがよい。還元に供する銀化合物としては、塩化銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀等があるが、工業的観点から硝酸銀が好ましいが、硝酸銀に限定されるものではない。本発明法では反応時の液中のAgイオン濃度は50mmol/L以上で行うことができる。還元処理にあたっては、反応温度を段階的にあげて、多段反応温度で還元処理する方法も有利である。
【0029】
反応後の銀ナノ粒子の懸濁液(反応直後のスラリー)は、洗浄・分散・分級等の工程を経て、本発明に従う銀粒子の分散液とすることができるが、それら工程の代表例(後記の実施例で用いた例)を挙げると次のとおりである。
【0030】
〔洗浄工程〕
(1) 反応後のスラリー40mLを遠心分離器(日立工機株式会社製のCF7D2)を用いて3000rpmで30分固液分離を実施し、上澄みを廃棄する。
(2) 沈殿物にメタノール40mLを加えて超音波分散機で分散させる。
(3) 前記の(1) →(2) を3回繰り返す。
(4) 前記の(1) を実施して上澄み廃棄し沈殿物を得る。
【0031】
〔分散工程〕
(1) 前記の洗浄工程を得た沈殿物にケロシン(沸点180〜270℃)を40mL添加する。
(2) 次いで超音波分散機にかける。
【0032】
〔分級工程〕
(1) 分散工程を経た銀粒子とケロシンの混濁液40mLを前記と同様の遠心分離器を用いて3000rpmで30分間固液分離を実施する。
(2) 上澄み液を回収する。この上澄み液が銀粒子分散液となる。
【0033】
〔銀粒子分散液の濃度〕
銀粒子分散液中の銀濃度の算出は次のようにして行うことができる。
(1) 前記の分級工程で得られた銀粒子分散液を、重量既知の容器に移す。
(2) 真空乾燥機に該容器をセットして突沸しないように十分注意しながら真空度と温度を上げて濃縮・乾燥を行い、液体が観察されなくなってから、真空状態240℃で12時間乾燥を行う。
(3) 室温まで冷却した後に真空乾燥機より容器を取り出して重量を測定する。
(4) 前記(3) の重量から容器重量を減じて銀粒子分散液中の銀粒子の重量を求める。
(5) 前記(4) の重量と銀粒子分散液の重量から分散液中の銀粒子濃度を算出する。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕
液状有機媒体兼還元剤としてイソブタノール(和光純薬株式会社製の特級)140mLに、有機保護剤として不飽和結合を分子中に1個有するオレイルアミン(和光純薬株式会社製Mw=267)185.83mLと、銀化合物として硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)19.212gとを添加し、マグネットスターラーにて攪拌して硝酸銀を溶解させる。
【0035】
この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹込みながら、該溶液をマグネットスターラーにより100rpmの回転速度で撹拌しつつ加熱し、100℃の温度で2時間30分の還流を行った。その後、108℃まで温度を上げ、2時間30分の還流を行い、反応を終了した。そのさい100℃および108℃に至るまでの昇温速度はいずれも2℃/minとした。
【0036】
反応終了後のスラリーについて本文に記載した洗浄、分散および分級の工程を実施し、本文に記載した方法で諸特性の評価を行なった。その結果、得られた銀粒子は、平均粒径DTEM=12.3nm、結晶粒子径Dx=15.0nm、単結晶化度(DTEM/Dx)=0.82であり、その銀粒子分散液については、銀粒子濃度=5wt%、粘度=1.1mPa・ s、表面張力=25.4mN/m、pH=8.86、強熱減量=3.1%であり、Whatman社製アノトッププラス25シリンジフィルタ(孔径20nm)を問題なく通過し、分散性が良好で凝集はなかった。
【0037】
〔比較例1〕
液状有機媒体兼還元剤としてエチレングリコール(和光純薬株式会社製の特級)200mLに、有機保護剤としてポリビニルピロリドン(和光純薬株式会社MW≒40000)13.32gと、銀化合物として硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)2.745gとを添加し、マグネットスターラーにて攪拌して硝酸銀を溶解させる。
【0038】
この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹込みながら、該溶液をマグネットスターラーにより200rpmの回転速度で撹拌しつつ加熱し、120℃の温度で1時間の還流を行い、反応を終了した。そのさい120℃に至るまでの昇温速度は1℃/min とした。
【0039】
反応終了後のスラリーについて本文に記載した洗浄、分散および分級を実施し、本文に記載した方法で諸特性の評価を行なった。その結果、得られた銀粒子は、平均粒径DTEM=43.5nm、結晶粒子径Dx=16nm、単結晶化度(DTEM/Dx)=2.72であり、その銀粒子分散液については、銀粒子濃度=3wt%、粘度=6.3mPa・ s、表面張力=30.6mN/m、pH=8.15、強熱減量=6.9%であり、アドバンテック製メンブランフィルター(孔径100nm)を通過できず、分散性は不良で凝集していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子表面が有機保護剤で覆われた平均粒径(DTEM)50nm以下の銀粒子粉末を、沸点が60〜300℃の非極性もしくは極性の小さい液状有機媒体に分散させた銀粒子の分散液であって、前記の有機保護剤が1分子中に少なくとも1個以上の不飽和結合を有するアミン化合物であることを特徴とする銀粒子分散液。
【請求項2】
銀粒子の結晶粒子径(Dx)が50nm以下で、単結晶化度(DTEM/Dx)が2.0以下である請求項1に記載の銀粒子分散液。
【請求項3】
有機保護剤は分子量が100〜1000のアミン化合物である請求項1または2に記載の銀粒子分散液。
【請求項4】
分散液の銀濃度が5〜90wt%である請求項1、2または3に記載の銀粒子分散液。
【請求項5】
粘度が50mP・s以下のニュートン流体である請求項1ないし4のいずれかに記載の銀粒子分散液。
【請求項6】
表面張力が80mN/m以下である請求項1ないし5のいずれかに記載の銀粒子分散液。
【請求項7】
銀粒子粉末の平均粒径(DTEM)+20nmの孔径を有するメンブランフィルターを通過する請求項1ないし6のいずれかに記載の銀粒子分散液。
【請求項8】
pHが6.5以上である請求項1ないし7のいずれかに記載の銀粒子分散液。
【請求項9】
強熱減量が5%未満である請求項1ないし8のいずれかに記載の銀粒子分散液。
【請求項10】
還元剤として機能するアルコールまたはポリオールの1種または2種以上の液中で銀化合物を還元するさいに、1分子中に少なくとも1個以上の不飽和結合を有する分子量100〜1000のアミン化合物の共存下で前記の還元反応を進行させることを特徴とする請求項1に記載の銀粒子分散液の製造法。
【請求項11】
還元剤として機能するアルコールまたはポリオールの1種または2種以上の液中で銀化合物を還元するさいに、1分子中に少なくとも1個以上の不飽和結合を有する分子量100〜1000のアミン化合物の共存下で前記の還元反応を進行させ、得られた銀粒子粉末を沸点が60〜300℃の非極性もしくは極性の小さい液状有機媒体に分散させることを特徴とする請求項1に記載の銀粒子分散液の製造法。

【公開番号】特開2007−19055(P2007−19055A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195669(P2005−195669)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】