説明

銅張積層板

【課題】樹脂の硬化性がよく、剛性の優れた銅張積層板を提供する。
【解決手段】熱硬化時に揮発する成分を含有しない液状熱硬化性樹脂組成物(A)によって形成される樹脂層の少なくとも一方の面に、前記(A)とは成分が異なる熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層と銅層とがこの順に積層されている銅張積層板である。熱硬化性樹脂組成物(B)は、その硬化物の曲げ弾性率が4.90〜29.42GPaであることが好ましい。液状熱硬化性樹脂組成物(A)は、1分子中に不飽和二重結合を1つ以上有するラジカル重合性化合物(C)と、前記ラジカル重合性化合物(C)の重合を開始させるラジカル重合開始剤(D)とを含有することが好ましい。銅張積層板は、樹脂の硬化性がよく、弾性率が高くて剛性が優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線板や多層板等の製造に用いられる銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂層の表面に銅箔が積層された銅張積層板が知られている。また、銅張積層板の樹脂層を液状熱硬化性樹脂によって形成することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−118542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液状熱硬化性樹脂は取り扱いに優れることから、各種基材などへの含浸や、印刷、塗布など、加工分野において幅広く用いられている。ところが、液状熱硬化性樹脂は硬化性や取扱性に優れる反面、硬くて脆いという欠点があった。
【0005】
そこで、液状熱硬化性樹脂とエポキシ樹脂を併用することで、液状熱硬化性樹脂の長所を活かしつつ、エポキシ樹脂により樹脂を強靭にして、上記の欠点を補う技術が開示されている(例えば特許文献1参照)。この熱硬化性樹脂では、硬化物の靭性や耐熱性が改良されている。
【0006】
しかしながら、近年の電子部品の高密度化や小型化に伴い、銅張積層板にはより高い剛性が求められるようになってきた。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、樹脂の硬化性がよく、剛性の優れた銅張積層板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の銅張積層板は、熱硬化時に揮発する成分を含有しない液状熱硬化性樹脂組成物(A)によって形成される樹脂層の少なくとも一方の面に、前記(A)とは成分が異なる熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層と銅層とがこの順に積層されているものである。
【0009】
前記熱硬化性樹脂組成物(B)は、その硬化物の曲げ弾性率が4.90〜29.42GPaであることが好ましい。
【0010】
前記液状熱硬化性樹脂組成物(A)は、1分子中に不飽和二重結合を1つ以上有するラジカル重合性化合物(C)と、前記ラジカル重合性化合物(C)の重合を開始させるラジカル重合開始剤(D)とを含有することが好ましい。
【0011】
前記熱硬化性樹脂組成物(B)は、無機充填剤を含有することが好ましい。
【0012】
前記熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層は、樹脂層全体に対する体積分率が10vol%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、樹脂の硬化性がよく、弾性率が高くて剛性の優れた銅張積層板を得ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明する。
【0015】
銅張積層板においては、絶縁層となる樹脂層が、液状熱硬化性樹脂組成物(A)の樹脂層(A層)と熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B層)とによって形成されている。液状熱硬化性樹脂組成物(A)及び熱硬化性樹脂組成物(B)は、熱硬化により樹脂絶縁層を形成する組成物である。熱硬化性樹脂組成物(B)は、液状熱硬化性樹脂組成物(A)とは異なる成分によって構成されている。熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B層)は、液状熱硬化性樹脂組成物(A)の樹脂層(A層)の少なくとも一方の面に積層されている。好ましくは、熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B層)は、液状熱硬化性樹脂組成物(A)の樹脂層(A層)の両面に積層されている。そして、熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B層)の外側の表面(積層板の片面又は表裏両面)には銅層が形成されている。熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B層)が液状熱硬化性樹脂組成物(A)の樹脂層(A層)の両面に積層されている場合、いずれか一方の面のみに銅層を設け、樹脂層(B層)の表面が露出するようにしてもよい。そして、好ましくは各樹脂層は熱硬化により硬化されており、それによって絶縁層が形成されている。また、好ましくは液状熱硬化性樹脂組成物(A)の樹脂層(A層)は、ガラスクロスなどの基材に液状熱硬化性樹脂組成物(A)が含浸されて形成されている。
【0016】
液状熱硬化性樹脂組成物(A)は、熱硬化時に揮発する成分を含有しない成分によって構成された熱硬化性の組成物である。熱硬化時に揮発する成分とは、溶剤、希釈剤などが挙げられる。また、重合して硬化する際に揮発成分が産出されないものであることが好ましい。例えば、脱水縮合反応では重合の際に水が産出されるため好ましくない。ただし、産出される揮発成分が少ない場合は問題とならない。なお、液状とは使用する温度環境(例えば0〜40℃)において液状であることが好ましく、具体的には、室温(25℃)において液状であればよい。
【0017】
液状熱硬化性樹脂組成物(A)は、1分子中に不飽和二重結合を1つ以上有するラジカル重合性化合物(C)と、このラジカル重合性化合物(C)の重合を開始させるラジカル重合開始剤(D)とを含有することが好ましい。
【0018】
ラジカル重合性化合物(C)は、炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも1つ有する化合物や樹脂であり、それにより、炭素−炭素二重結合を利用した付加反応による重合を行うことができる。
【0019】
ラジカル重合性化合物(C)の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂とアクリル酸やメタクリル酸のような不飽和脂肪酸との反応物であるビニルエステル樹脂や、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、トリメチロールプロパンメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル系モノマーや、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物等や、スチレン系モノマーと無水マレイン酸やフマル酸等の多塩基不飽和酸との反応物である不飽和ポリエステルや、スチレンなどのスチレン系モノマー等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ラジカル重合開始剤(D)は、ラジカル重合性樹脂(C)をラジカル重合させるための開始剤である。そのような開始剤としては、炭素−炭素二重結合を利用した重合反応の開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤(D)としては、例えば、各種の過酸化物などが挙げられる。
【0021】
ラジカル重合開始剤(D)の具体例としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類、ベンゾイルパーオキシド、イソブチルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ブタン等のパーオキシケタール類、t−ブチルパーベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等のアルキルパーエステル類、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチルカーボネート等のパーカーボネート類等の有機過酸化物や、過酸化水素等の無機過酸化物が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
ラジカル重合開始剤(D)の配合量としては、特に限定されないが、重合を開始させるために、(C)成分100質量部に対して、0.2〜2質量部程度であることが好ましい。
【0023】
熱硬化性樹脂組成物(B)は、液状熱硬化性樹脂組成物(A)とは異なる成分によって構成されていれば、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂などの樹脂(E)を含有することが好ましい。また、これらの樹脂のうち液状のものを用いてもよい。
【0024】
液状硬化性樹脂組成物(A)及び熱硬化性樹脂組成物(B)には、一方の樹脂組成物に用いられる樹脂又は化合物と同種の重合反応性の樹脂又は化合物を、他方の樹脂組成物に含有させることもできる。例えば、熱硬化性樹脂組成物(B)にラジカル重合性化合物(C)とラジカル重合開始剤(D)を含有させたり、液状熱硬化性樹脂組成物(A)にエポキシ樹脂などの樹脂を含有させたりするものである。その場合、樹脂層間での重合を進行させることができ、液状硬化性樹脂組成物(A)の樹脂層(A層)と熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B層)との密着性を高めることができる。
【0025】
液状熱硬化性樹脂組成物(A)及び熱硬化性樹脂組成物(B)には、エポキシ樹脂などの樹脂(E)が用いられる場合、好ましくは、硬化剤、硬化促進剤などの成分(F)が含有される。硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック系硬化剤などが挙げられる。また、硬化促進剤としては、例えば、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール(略称:2E4MZ−CN)などのイミダゾール系化合物などが挙げられる。
【0026】
イミダゾール系化合物の含有割合は、樹脂を充分に硬化させる割合である限り、特に限定されないが、エポキシ樹脂を含有する場合、樹脂(E)の合計100質量部に対し、0.1〜2質量部であることがワニスの保存安定性に優れている点から好ましい。
【0027】
液状熱硬化性樹脂組成物(A)及び熱硬化性樹脂組成物(B)においては、そのいずれか一方あるいは両方に、さらに無機充填剤、すなわち無機フィラー(G)を含有することが好ましい。無機フィラー(G)を配合することにより、得られる硬化物の弾性率を向上させ、寸法安定性を良好にし、難燃性を高めることができる。
【0028】
無機フィラー(G)の種類は、特に限定されないが、具体的には、例えば、シリカ、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、チタン、アルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、クロムからなる群から選ばれる少なくとも2種の金属元素を含む複合金属酸化物等が特に好ましく用いられる。これらの中では、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムが難燃性に特に優れている点から好ましく用いられる。
【0029】
無機フィラー(G)の添加量としては、無機フィラーを除く樹脂組成物の合計100質量部に対し、20〜800質量部であること好ましい。それにより、樹脂組成物の硬化物の寸法安定性や難燃性を十分に向上させることができ、また、硬化物の弾性率を十分に向上させることができる。
【0030】
液状熱硬化性樹脂組成物(A)及び熱硬化性樹脂組成物(B)においては、そのいずれか一方あるいは両方に、さらにエラストマー(H)を含有させてもよい。
【0031】
エラストマー(H)は、樹脂組成物中において、分子レベルで微分散する液状のエラストマーや、樹脂組成物中で相溶せずに、島状に分散する非相溶型のエラストマーが挙げられる。これらのエラストマーは得られる硬化物の靭性や耐衝撃性を向上させることができる成分である。従って、熱衝撃試験におけるようなヒートショックを受けた場合においても、クラックが発生しにくい硬化物が得られる。したがって、ラジカル重合性化合物(C)により形成された樹脂層の硬くて脆いという特性を改良して弾性をさらに良好にすることができる。
【0032】
液状エラストマーの具体例としては、例えば、カルボキシル基末端アクリロニトリルブタジエン(CTBN)やエポキシ化ポリブタジエンのような液状ポリブタジエンや、液状NBRなどの低揮発性の液状ゴム等が挙げられる。また、非相溶型のエラストマーとしては、各種ゴム粒子、具体的には、NBRゴム、SBRゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム等の架橋または非架橋性のゴム粒子等が挙げられる。また、これらのエラストマーは相溶型、非相溶型にかかわらず用いてもよく、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0033】
エラストマーの含有量としては、無機フィラー及びエラストマーを除く樹脂組成物の合計100質量部に対し、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部であることが、硬化物の靭性や耐衝撃性を充分に改良できる点から好ましい。非相溶型のエラストマー成分の含有量が多すぎる場合には、ワニスの粘度が上昇する傾向がある。また、相溶型又は非相溶型エラストマー成分の含有量が多すぎる場合には、硬化物の弾性率が低下することにより耐熱性が低下する傾向がある。
【0034】
液状熱硬化性樹脂組成物(A)及び熱硬化性樹脂組成物(B)には、そのいずれか一方あるいは両方に、本実施形態の目的を損なわない範囲で、さらに、難燃剤(I)、難燃助剤、流動改質剤、滑剤、シランカップリング剤、着色剤等の添加剤が配合されてもよい。
【0035】
難燃剤(I)としては、非相溶型の各種難燃剤を用いることができる。具体的には、例えば、縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩類、環状リン酸エステル等の有機リン系化合物や、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物が好ましく用いられる。なかでもホスファゼン化合物が好ましい。これらは、2種類以上組み合わせて用いた場合に難燃性がさらに向上する点において好ましいが、特定の組み合わせに限定されるものではない。
【0036】
非相溶型難燃剤の添加量としては、無機フィラー及び難燃剤を除く樹脂組成物の合計量100質量部に対し、10〜80質量部であることが、得られる硬化物に難燃性を十分に付与できる点から好ましい。
【0037】
液状熱硬化性樹脂組成物(A)及び熱硬化性樹脂組成物(B)においてそのいずれか一方あるいは両方は、例えば、上記各成分のうち液状成分を混合してワニスを調製した後、さらに、無機フィラーや難燃剤等の不溶成分を添加して、ボールミル等を用いて分散させることにより得られる。
【0038】
熱硬化性樹脂組成物(B)においては、溶剤(J)が添加されてもよい。溶剤(J)の添加により、粘度が低下し、分散性を向上することができる。また、不溶成分や室温で固体の成分を用いることも容易になる。溶剤(J)は、分散性、塗布性の観点から、例えば、熱硬化性樹脂組成物(B)に対して10〜100質量%程度配合することができる。溶剤(J)としては、例えば、メチルエチルケトンや、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールなどを用いることができる。
【0039】
熱硬化性樹脂組成物(A)においては、溶剤が配合されないことが好ましい。溶剤は熱硬化時に揮発する成分となり得るものであり、溶剤が配合されていると硬化時にフクレが発生するおそれがある。
【0040】
熱硬化性樹脂組成物(B)は、その硬化物(樹脂板)の曲げ弾性率が4.90〜29.42GPa、すなわち500〜3000kgf/mmであることが好ましい。それにより、銅張積層板にさらに良好な弾性を与えることができる。弾性率は、樹脂組成物から成型した樹脂板(厚み0.5〜2.0mm)のオートグラフによる荷重−たわみ曲線から測定することができる。
【0041】
なお、液状熱硬化性樹脂組成物(A)の硬化物の曲げ弾性率は、特に限定されるものではないが、例えば、同様の条件にて測定して、1.0〜4.90GPa程度であってもよい。
【0042】
銅張積層板の製造方法の実施形態の一例として、両面銅張積層板の製造方法の一例を説明する。
【0043】
まず、銅箔の表面に熱硬化性樹脂組成物(B)を塗布して、熱硬化性樹脂組成物(B)により未硬化の樹脂層(B層)が形成された樹脂付き銅箔(銅箔付き樹脂シート)を作製する。このとき、フクレを抑制するために加熱して樹脂組成物中の揮発成分を十分に揮発させて乾燥させることが好ましい。また、加熱温度は揮発成分が十分に揮発する温度であるとともに硬化温度よりも低いことが好ましい。
【0044】
銅箔としては、従来から銅張積層板の用途に用いられているものであれば特に限定なく用いることができ、具体的には、電解銅箔や圧延銅箔等を用いることができる。銅箔の厚みは、例えば、5〜40μm程度にすることができる。銅箔により銅層が形成される。
【0045】
そして、積層板の両面に銅層を設けるためには、上記のような樹脂付き銅箔を2つ準備する。なお、積層板の両方の面に同じ構成の樹脂付き銅箔を用いることが好ましいが、積層板の一方の面と他方の面とに、熱硬化性樹脂組成物(B)の組成や銅箔の厚みが異なるなど、異なる構成の樹脂付き銅箔を用いるようにしてもよい。
【0046】
一方、液状熱硬化性樹脂組成物(A)により未硬化の樹脂層(A層)を形成する。この樹脂層(A層)は、好ましくは液状熱硬化性樹脂組成物(A)をガラスクロスなどの基材に含浸させることにより形成できる。基材としては、ガラスクロスの他に、ガラス不織布、有機繊維基材、などを用いることができる。このように、繊維型の充填剤が入っている基材であれば限定なく用いることができる。基材の厚みは、例えば、0.020〜0.200mm程度にすることができる。樹脂組成物が含浸された基材は乾燥されてもよいし、乾燥されずにそのまま次工程に用いてもよい。
【0047】
そして、液状熱硬化性樹脂組成物(A)が含浸された基材の両面に、熱硬化性樹脂組成物(B)により樹脂層が形成された一対の樹脂付き銅箔を、樹脂層(B層)が基材側になるように重ねる。このとき、硬化前の樹脂層(A層)と樹脂層(B層)とは未硬化であることにより樹脂で接着される。その後、この積層物を硬化条件の温度で加熱することにより、重合により樹脂層(A層及びB層)が硬化して絶縁層となり、銅張積層板が形成される。加熱は、オーブンなどで行うことができる。また、硬化条件の加熱温度は、樹脂層が硬化する温度であればよく、樹脂層の組成に依存するために一義的に特定することはできないが、例えば、80〜200℃にすることができる。なお、硬化条件で加熱させる前に、硬化条件よりも低温で(例えば50〜120℃)、積層物を予備加熱してもよい。それにより、フクレなどの成型不良を抑制し、樹脂層の密着性を高めることができる。加熱時間は、例えば、10〜60分間程度にすることができる。
【0048】
液状熱硬化性樹脂組成物(A)の粘度は1〜10Pa・sであることが好ましい。液状熱硬化性樹脂組成物(A)がこのように粘度が低い場合には、成形に必要な加圧力を低くすることができる。また、加熱硬化中に樹脂成分を熱硬化性樹脂組成物(B)に容易に混ぜ合わせて互いの樹脂成分を混合させることができる。
【0049】
熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B層)は、樹脂層全体(A層とB層の合計)に対する体積分率が10vol%以上であることが好ましい。それにより、銅張積層板に良好な弾性を与えることができる。この樹脂層(B層)の体積分率は、積層板の硬化度の観点から、80vol%以下であることが好ましい。体積分率は、
{(B層の体積)/((A層の体積)+(B層の体積))}×100
で表すことができる。ここで、樹脂層(B層)は樹脂層(A層)の両面に積層されるものであり、樹脂層(B層)を構成する二つの樹脂層(それぞれB’層、B’層とする)の合計が、上記の範囲になることが好ましいものである。そして、樹脂層(B層)のうちの一方又は両方の樹脂層(B’層)においては、樹脂層全体(A層とB層の合計)に対する体積分率が、5〜60vol%であることがさらに好ましい。その場合、積層板の両面に熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B’層)を十分に形成することができ、銅張積層板の弾性を良好にすることができる。
【0050】
また、熱硬化性樹脂組成物(B)によって形成し硬化された樹脂層(B層)と、液状熱硬化性樹脂組成物(A)によって形成し硬化された樹脂層(A層)との厚みの比[樹脂層(A層):樹脂層(B)]は、2:8〜9:1であることが好ましい。それにより、銅張積層板の弾性を良好にすることができる。なお、樹脂層(B層)の厚みは、両面に形成される各樹脂層(B’層)の合計の厚みである。
【0051】
以上のようにして、樹脂層(A層)の両面に樹脂層(B層)と銅層とがこの順で積層された銅張積層板を製造することができるものであるが、銅張積層板の製造方法は上記に限定されるものではない。例えば、液状熱硬化性樹脂組成物(A)の樹脂層(A層)の両面に、熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B層)を重ね、さらにその両面に、銅箔を張るようにし、この積層物を硬化させてもよい。
【0052】
さらに、本実施形態の銅張積層板は、連続生産に適用し得るものであり、連続生産により生産性を向上させることが可能となる。
【0053】
連続生産方法としては、例えば、次のような方法を挙げることができる。
【0054】
ロール状に巻かれた長尺の基材を連続的に送り出し、送出の途中で液状熱硬化性樹脂組成物(A)のワニスに浸漬させて樹脂を基材に含浸させる。一方、銅箔を連続的に送り出し、この銅箔の表面に熱硬化性樹脂組成物(B)を塗布し加熱乾燥させて樹脂付き銅箔を連続的に作製する。あるいは、あらかじめ樹脂付き銅箔を作製し、この樹脂付き銅箔を送り出してもよい。
【0055】
そして、液状熱硬化性樹脂組成物(A)が含浸された基材を送りながら、その両面に熱硬化性樹脂組成物(B)により樹脂層(B層)が形成された樹脂付き銅箔を、樹脂層(B層)を基材側にして重ね合わせる。そして、重ねられて形成された積層物をそのまま送り出して、乾燥し、加熱して樹脂を硬化させる。これにより、銅張積層板が連続的に作製される。作製された銅張積層板はカッターなどの切断手段により適宜の大きさに切断される。
【0056】
このとき、樹脂層を硬化させるための加熱条件は、その組成に依存するために一義的に特定することはできないが、連続生産性を考慮すると、80〜200℃程度の温度で10〜60分間程度加熱することが好ましい。
【0057】
このように、銅張積層板を連続的に生産すると、積層板の生産効率が向上するものである。そして、本実施形態の銅張積層板に用いる液状熱硬化性樹脂組成物(A)及び熱硬化性樹脂組成物(B)は連続生産性に好適な樹脂組成物であり、生産性の優れた銅張積層板を得ることができるものである。
【0058】
また、片面銅張積層板については、上記の両面銅張積層板の製造方法と同様にして製造することができる。
【0059】
例えば、液状熱硬化性樹脂組成物(A)が含浸された基材の片方の面に、熱硬化性樹脂組成物(B)により樹脂層が形成された樹脂付き銅箔を、樹脂層(B層)が基材側になるように重ねればよい。この場合、熱硬化性樹脂組成物(A)の樹脂層(A層)の表面を露出表面として形成することができる。また、例えば、液状熱硬化性樹脂組成物(A)が含浸された基材の一方の面に、熱硬化性樹脂組成物(B)により樹脂層が形成された樹脂付き銅箔を重ねるとともに、前記基材の他方の面に熱硬化性樹脂組成物(B)により樹脂層が形成された樹脂付きフィルムを重ねるようにすることもできる。この場合、熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層(B層)の表面を露出表面として形成することができる。なお、フィルムは離型できるものなどを使用できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に何ら限定されない。また、特に断りのない限り、部及び%は質量基準(質量部、質量%)を示す。
【0061】
はじめに、樹脂組成物に使用した原材料を示す。
【0062】
〔ラジカル重合性化合物(C)〕
・ビニルエステル(DIC製)
・トリメチロールプロパンメタクリレート(新中村化学製)
・スチレン(新日鐵化学製)
〔ラジカル重合開始剤(D)〕
・クメンハイドロパーオキサイド(CHP)
〔熱硬化性樹脂成分(E)(F)〕
・エポキシ樹脂「EPPN−502H」(日本化薬製)
・フェノールノボラック系硬化剤「TD−2090」(DIC製)
・イミダゾール系化合物;1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール「2E4MZ−CN」(四国化成製)
〔無機フィラー(G)〕
・水酸化アルミニウム「CL303」(住友化学製)
・球状シリカ(SiO)「SO25R」(アドマテックス製)
〔エラストマー(H)〕
・液状エラストマー;カルボキシル基末端アクリロニトリルブタジエン(CTBN)、「HycarCTBN 1300×13」(宇部興産製)
〔難燃剤(I)〕
・環状ホスファゼン化合物「SPB100」(大塚化学製)
〔溶剤(J)〕
・メチルエチルケトン。
【0063】
表1に示す配合割合により、(a1)〜(a4)、(b1)〜(b3)の熱硬化性樹脂組成物を調製して得た。なお、表1の配合量の単位は質量部である。
【0064】
各樹脂組成物を注型で加熱加圧して樹脂板を作成した。樹脂板の厚みは、2mmとした。この樹脂板について、オートグラフ(イマダ製)にて荷重−たわみ曲線より弾性率を測定した。なお、測定には樹脂板から作製した樹脂板サンプル(幅20mm、長さ70mm)を用いた。弾性率の結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

次に、表2に示すように熱硬化性樹脂組成物(B)として上記の樹脂組成物を用い、この樹脂組成物を銅箔(JTC、日鉱金属製、厚み12μm)に塗布し、160℃のオーブンで10分間乾燥させ、揮発成分(溶剤)を十分に揮発させて、樹脂付き銅箔(樹脂厚み20μm)を得た。なお、この段階では樹脂は完全には硬化していない。
【0066】
また、表2に示すように液状熱硬化性樹脂組成物(A)として上記の樹脂組成物を用い、この樹脂組成物をガラスクロス(1500タイプ、平織り、厚み150μm)に含浸させた。
【0067】
そして、樹脂組成物を含浸させたガラスクロスの両面に、樹脂付き銅箔をこの樹脂層がガラスクロス側に配置するように重ねた。この積層物をオーブンに投入して105℃で15分間加熱した後、200℃で15分間加熱する条件(硬化条件)で硬化させることにより、銅張積層板を成型した。なお、比較例1については、樹脂組成物を含浸させたガラスクロスの両面に、銅箔を重ねて同様の硬化条件で硬化させた。
【0068】
加熱硬化後の銅張り積層板の銅層(銅箔)をエッチング液で除去した後、幅20mm×長さ70mmのサイズにカットし、このサンプルについて曲げ弾性率を測定した。曲げ弾性率の測定はオートグラフ(島津製作所製AG−IS)を用いて行い、得られた荷重−たわみ曲線から曲げ弾性率を求めた。
【0069】
【表2】

表2に示すように、各比較例の銅張積層板よりも各実施例の銅張積層板は、成型結果及び曲げ弾性率が優れていた。熱硬化性樹脂組成物として1種類のものしか用いていない比較例1では、曲げ弾性率が低かった。また、(A)成分に揮発成分を含む比較例2、3では、揮発によるフクレが発生し、良好な成型ができなかった。
【0070】
なお、上記では、両面銅張積層板についての実施例を示したが、体積分率や厚みなど、樹脂組成物の構成が同一であるか又は近似していれば、片面銅張積層板であっても同様の数値データになることは予想されるところである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化時に揮発する成分を含有しない液状熱硬化性樹脂組成物(A)によって形成される樹脂層の少なくとも一方の面に、前記(A)とは成分が異なる熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層と銅層とがこの順に積層されている、銅張積層板。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂組成物(B)は、その硬化物の曲げ弾性率が4.90〜29.42GPaである、請求項1に記載の銅張積層板。
【請求項3】
前記液状熱硬化性樹脂組成物(A)は、1分子中に不飽和二重結合を1つ以上有するラジカル重合性化合物(C)と、前記ラジカル重合性化合物(C)の重合を開始させるラジカル重合開始剤(D)とを含有する、請求項1又は2に記載の銅張積層板。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂組成物(B)は、無機充填剤を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅張積層板。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂組成物(B)の樹脂層は、樹脂層全体に対する体積分率が10vol%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅張積層板。

【公開番号】特開2012−126104(P2012−126104A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282096(P2010−282096)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】