説明

銅微粒子分散液、及び銅微粒子焼結体の製造方法

【課題】本発明は、焼結の下限温度が65℃という極めて低い温度であっても、導電性と焼結膜の強度に優れる焼結体が得られる銅微粒子分散液を提供することを目的とする。
【解決手段】銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)と有機分散媒(S)とを含有する銅微粒子分散液であって、有機分散媒(S)中にはポリオール(S1)が含まれ、銅微粒子(P)、白金族金属触媒微粒子(C)の平均一次粒子径(R1)がそれぞれ1〜100nm、50nm〜100μmであり、銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)の合計量に対する白金族金属触媒微粒子(C)の割合が0.1〜20質量%で、ヒドロキシル基のモル数(MOH)と銅微粒子(P)のモル数(M)の比〔(MOH)/(M)〕が10以上、であることを特徴とする銅微粒子分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族金属触媒微粒子を含む銅微粒子分散液、及び銅微粒子焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金、銀等の金属微粒子は、導電性ペーストとして、プリント配線、半導体の内部配線、プリント配線板と電子部品との接続等の配線形成材料として利用されている。特に粒子径が100nm以下の金属微粒子は、通常のサブミクロンよりも焼結温度が極めて低くできるため、低温焼結ペースト等への応用が考えられている。
また、電子機器関連分野においては、例えば、スクリーン印刷法を利用して、微細配線形成や薄膜形成を達成する際、極めて微細なパターン描画、あるいは極薄い膜厚の薄膜塗布層形成に金および銀の微粒子分散液が一部商品化されている。
【0003】
金ナノ粒子(ナノ粒子とは粒子径が1μm未満の粒子をいう)あるいは銀ナノ粒子を含む分散液を利用して微細な回路パターンの描画を形成し、その後、金属ナノ粒子を焼結することにより、微細な回路パターンの形成が可能となっている。しかしながら、金ナノ粒子を用いる場合には、材料が高価であるために金属分散液の製造コストも高額となり、汎用品として普及するには経済上の障害となっている。一方、銀ナノ粒子を用いると、前記分散液の製造コストは相当に低減化できるが、不純物元素が配線中の銀の腐食を促進し、高集積化に伴い、絶縁部分にも金属元素が移動するマイグレーションに起因する断線が生じやすくなるという問題が発生する。
【0004】
このマイグレーションに起因する断線は銅系配線の利用により回避することが可能である。銅は、金や銀と同様に高い導電性を有し、延性、展性も良好であり、銀と比較するとエレクトロマイグレーションも格段に少ない。更に、銅は、金や銀と比較しても材料自体のコストも相当に低く、汎用性で微細な配線パターンの形成が必要なプリント配線基板においてその利用が期待されている。
貴な金属である金や銀は、元来、比較的酸化を受け難い特性を有しており、微粒子の表面に酸化皮膜を形成しない状態で維持することが容易である。一方、銅は、比較的に酸化を受け易い卑な金属であるため、微粒子分散液を調製した際、含有される微粒子は、短時間でその表面に形成された酸化皮膜を有した状態となる。特に、粒子径がより微細な銅ナノ粒子となると、相対的に表面積が増し、その表面に形成される酸化皮膜の厚さも増し、ナノサイズの粒子径の大半が酸化銅の表面酸化膜層へと変換されることも少なくない。
【0005】
特許文献1には、基板上に銅ナノ粒子の焼結体層からなる銅系配線パターンの形成方法において、銅または酸化銅ナノ粒子を含有する分散液に水素原子の供給源として沸点150℃以上のテトラデカン等の炭化水素と、平均粒子径が1〜100nmの接触水素化金属触媒微粒子を配合しておき、酸化銅の還元処理と焼結処理を、150〜300℃の加熱温度下で、水素ガス雰囲気下、あるいは水素分子を含有する混合気体の雰囲気下において行う銅系配線パターンの形成方法が開示されている。
また、特許文献2には、エチレングリコール等のポリオール溶液中で、銅の酸化物、水酸化物又は塩を加熱還元して銅微粒子を得る方法において、該溶液中に、ハロゲン元素含有量が100質量ppm以下であり、且つアルカリ金属元素及びアルカリ土類元素を構成成分元素として含まない、平均粒子径が20nm以下の貴金属化合物、又は貴金属コロイドを添加すると共に、分散剤として水溶性高分子を添加することを特徴とする銅微粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−146999号公報
【特許文献2】特開2009−062580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1において、銅または酸化銅ナノ粒子を焼結する際に、銅、粒子径が2〜20nmパラジウムナノ粒子、分散剤、水素原子の供給源としての機能を有する希釈溶剤(テトラデカン)等からなるペースト成分を基材表面に塗布後、水素ガス雰囲気下、あるいは水素分子を含有する混合気体の雰囲気下で300℃以下の温度、例えば150℃以上、通常200℃以上の加熱温度で10分間〜1時間焼結して、銅微粒子焼結体層を形成することが開示されている。しかし、実施例における焼結温度は200℃であり、実施例1で得られた焼結体層の体積固有低効率は689μΩ・cmである。従って、特許文献1では、200℃未満での焼結は確認されておらず、更に低い焼結温度条件で、より低い体積固有低効率を有する焼結体の製造が求められている。
前記特許文献2においては、エチレングリコール等のポリオール溶液中で、銅の酸化物、水酸化物又は塩に平均粒子径が20nm以下の、分散剤で覆われた貴金属化合物等を添加して、120〜200℃で還元して均一な銅微粒子を得ることが開示され、また、該銅微粒子は粒子径が微細かつ均一で、低温焼結が可能であると記載されている。しかし、実施例(実施例1)での銅微粒子分散液の焼結温度は300℃であり、300℃未満での焼結は確認されていない。
本発明は、焼結の下限温度が65℃という極めて低い温度であっても、導電性と焼結膜の強度に優れる焼結体が得られる銅微粒子分散液を提供することで、耐熱性の低い樹脂基板上における銅系微細配線部材の形成等、銅微粒子分散液を用いた導電部材形成技術の更なる技術汎用性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、検討を行った結果、酸化還元電位がプラスの値を示すポリオール溶液に、白金族金属微粒子を添加して昇温していくと、約60℃で酸化還元電位がゼロになり、更に高温になるに従い、酸化還元電位のマイナスの値が大きくなる傾向があることを見出した。このようなポリオール−白金族金属微粒子からなる系に、銅微粒子を添加すると上記酸化還元電子がマイナスを示す温度領域で、白金族金属微粒子がポリオールの存在する液中で該ポリオールの脱水素化反応促進する触媒作用を発揮して銅微粒子表面を還元し、体積固有低効率の低い焼結体が得られることを確認し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(15)に記載する発明を要旨とする。
(1)銅、表面の一部もしくは全部が酸化された銅、及び酸化銅の中から選択される1種又は2種以上からなる銅微粒子(P)と、白金族金属触媒微粒子(C)と、有機分散媒(S)とを含有する銅微粒子分散液であって、
(i)有機分散媒(S)中には分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール(S1)が含まれ、
(ii)銅微粒子(P)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R1)が1〜100nm、及び白金族金属触媒微粒子(C)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R2)が50nm〜100μmであり、
(iii)銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)の合計量に対する白金族金属触媒微粒子(C)の割合が0.1〜20質量%で、
(iv)ポリオール(S1)中のヒドロキシル基のモル数(MOH)と銅微粒子(P)のモル数(M)の比[(MOH)/(M))が10以上
であることを特徴とする銅微粒子分散液(以下、第1の態様ということがある)。
(2)前記白金族金属触媒微粒子(C)が白金(Pt)であることを特徴とする前記(1)に記載の銅微粒子分散液。
(3)前記銅微粒子分散液中における白金族金属触媒微粒子(C)の全表面積が10m/m以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の銅微粒子分散液。
(4)前記有機分散媒(S)の融点が20℃以下で、常圧における沸点が65〜300℃であることを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
(5)前記有機分散媒(S)中にポリオール(S1)が70質量%以上含有されていることを特徴とする前記(1)から(4)のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
(6)前記ポリオール(S1)がエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセロール、トレイトール、エリトリトール、ペンタエリスリトール、ペンチトール、キシリトール、リビトール、アラビトール、ヘキシトール、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、グリセルアルデヒド、ジオキシアセトン、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、アルトロース、ラクトース、イソマルトース、グルコヘプトース、ヘプトース、マルトトリオース、ラクツロース、及びトレハロースの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)から(5)のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
(7)前記銅微粒子(P)の平均一次粒子径(R1)が10〜50nmであり、
白金族金属触媒微粒子(C)の平均一次粒子径(R2)と銅微粒子(P)の平均一次粒子径(R1)の比(R2/R1)が10〜1000であることを特徴とする前記(1)から(6)のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
【0009】
(8)銅、表面の一部もしくは全部が酸化された銅、及び酸化銅の中から選択される1種又は2種以上からなる銅微粒子(P)と、白金族金属触媒微粒子(C)と、有機分散媒(S)とを含有する銅微粒子分散液を加熱焼結する銅微粒子焼結体の製造方法であって、
(i)有機分散媒(S)中には分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール(S1)が含まれており、
(ii)銅微粒子(P)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R1)が1〜100nm、及び白金族金属触媒微粒子(C)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R2)が50nm〜100μmであり、
(iii)銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)の合計量に対する白金族金属触媒微粒子(C)の割合が0.1〜20質量%であり、
(iv)ポリオール(S1)中のヒドロキシル基のモル数(MOH)と銅微粒子(P)のモル数(M)の比[(MOH)/(M)]が10以上
である銅微粒子分散液を基材(K)上に塗布又はパターニングした後、
65℃以上に加熱して、有機分散媒(S)中でポリオール(S1)液体と白金族金属触媒微粒子(C)の存在下に銅微粒子(P)表面の還元反応を進行させ、銅微粒子の焼結を進行させることを特徴とする銅微粒子焼結体の製造方法(以下、第2の態様ということがある)。
(9)前記白金族金属触媒微粒子(C)が白金(Pt)であることを特徴とする前記(8)に記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
(10)前記銅微粒子分散液中における白金族金属触媒微粒子(C)の全表面積が10m/m以上であることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
(11)前記有機分散媒(S)は融点が20℃以上で、常圧における沸点が65〜300℃であることを特徴とする前記(8)から(10)のいずれかに記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
(12)前記有機分散媒(S)中にポリオール(S1)が70質量%以上含有されていることを特徴とする前記(8)から(11)のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
(13)前記ポリオール(S1)がエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセロール、トレイトール、エリトリトール、ペンタエリスリトール、ペンチトール、キシリトール、リビトール、アラビトール、ヘキシトール、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、グリセルアルデヒド、ジオキシアセトン、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、アルトロース、ラクトース、イソマルトース、グルコヘプトース、ヘプトース、マルトトリオース、ラクツロース、及びトレハロースの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする前記(8)から(12)のいずれかに記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
(14)前記焼結温度が65〜200℃であることを特徴とする前記(8)から(13)のいずれかに記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
(15)前記ポリオール(S1)がエチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオ−ル、ペンタンジオ−ル、ヘキサンジオ−ル、オクタンジオ−ル、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、及び1,2,4−ブタントリオールの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする前記(8)から(14)のいずれかに記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の態様と第2の態様において、透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R1)が1〜100nmの銅微粒子(P)と、TEM観察に基づく平均一次粒子径(R2)が50nm〜100μmの白金族金属触媒微粒子(C)と、ポリオール(S1)を含有する有機分散媒(S)とを含む「銅微粒子分散液」を基材(K)等に塗布又はパターニング後に加熱、焼結して焼結体を形成する際に、焼結の下限温度が65℃という極めて低い温度であっても、銅微粒子分散液の液相中で白金族金属触媒微粒子(C)がポリオール(S1)を分解して還元性の水素ラジカル(水素原子)を発生する触媒作用を発揮して、銅微粒子(P)表面の還元反応を促進する結果、焼結も促進される。このような、65℃以上の焼結温度においても得られる焼結体は導電性と焼結膜の強度に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】参考例1〜3において測定した、50〜110℃における、(i)エチレングリコール溶液系、(ii)エチレングリコール−白金微粒子溶液系、及び(iii)エチレングリコール−表面が酸化された銅微粒子からなる溶液系の酸化還元電位を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳述する。
〔1〕銅微粒子分散液(第1の態様)について
本発明の第1の態様の「銅微粒子分散液」は、銅、表面の一部もしくは全部が酸化された銅、及び酸化銅の中から選択される1種又は2種以上からなる銅微粒子(P)と、白金族金属触媒微粒子(C)と、有機分散媒(S)とを含有する銅微粒子分散液であって、
(i)有機分散媒(S)中には分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール(S1)が含まれ、
(ii)銅微粒子(P)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R1)が1〜100nm、及び白金族金属触媒微粒子(C)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R2)が50nm〜100μmであり、
(iii)銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)の合計量に対する白金族金属触媒微粒子(C)の割合が0.1〜20質量%で、
(iv)ポリオール(S1)中のヒドロキシル基のモル数(MOH)と銅微粒子(P)のモル数(M)の比[(MOH)/(M))が10以上、
であることを特徴とする。
【0013】
(1)銅微粒子(P)
銅微粒子(P)は、銅、表面の一部もしくは全部が酸化された銅、及び酸化銅の中から選択される1種又は2種以上からなる銅微粒子である。銅は金属の中でも、金、銀等の貴な金属と比較して酸化され易い卑な金属であり、空気中では銅微粒子表面が容易に酸化されて酸化銅が形成される。
しかしながら銅は、銀等と比較してマイグレーションに起因する絶縁不良が格段に少なく、銅微粒子及びその銅微粒子を含む分散液は、低温焼結配線材料用として好適であり、最近のインクジェットプリンターを用いた微細な配線パターンの形成において、インクジェットプリンター用インクに分散させる金属微粒子として極めて有効である。また、銅は、金や銀と比較して、材料自体の単価も相当に安価で汎用性も高いので、微細な配線パターンを有するプリント配線基板におけるコスト抑制の観点からも有用である。
銅微粒子(P)は、その表面の少なくとも一部を高分子分散剤等の分散剤で覆うことにより分散性を向上することができるが、このような分散剤を過剰に使用することは、焼結膜の導電性や焼結強度を低下させる要因となり得ることから好ましくなく、後述する方法で過剰の分散剤を除去することが可能である。
銅微粒子(P)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R1)は1〜100nmである。該平均一次粒子径(R1)が1nm未満では凝集が生じ易くなり、パターニング性が低下するという問題があり、一方、微細な配線パターンの形成を考慮すると、粒子径(R1)は100nm以下が好ましい。かかる観点から銅微粒子(P)の平均一次粒子径(R1)は10〜50nmが好ましい。
尚、本発明において、一次粒子の平均粒子径とは、二次粒子を構成する個々の金属微粒子の一次粒子の直径の意味である。該一次粒子径は、前述の通り、透過型電子顕微鏡(TEM)に基づく測定値であり、また、平均粒子径とは、一次粒子の数平均粒子径を意味する。
【0014】
(2)白金族金属触媒微粒子(C)
白金族金属触媒微粒子(C)は、周期律表8〜10族に属する元素からなり、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及び白金(Pt)の6元素が含まれる。本発明の銅微粒子分散液中で、ポリオール(S1)を脱水素化する触媒作用を発揮するためには、原子価がゼロ価である白金族金属触媒微粒子(C)を使用する必要がある。これらの白金族金属触媒微粒子(C)の中でも、還元触媒として工業的に広く使用されている白金(Pt)が好ましい。
白金族金属触媒微粒子(C)のTEM観察に基づく平均一次粒子径(R2)は50nm〜100μmである。該粒子径が50nm未満の粒子は、一般にポリビニルピロリドン等の分散剤で該粒子を被覆させて形成する必要があり、この分散剤の被覆により触媒活性が低下するため好ましくない。一方、該平均一次粒子径(R2)が100μmを超えるとパターニング性が低下すると共に焼結膜の強膜度も低下するそれがある。
尚、白金族金属触媒微粒子(C)の分散性を向上するために、ポリビニルピロリドン等の分散剤で白金族金属触媒微粒子(C)表面を覆い、ポリオール中に分散させて65℃以上に昇温しても、酸化還元電位がマイナスの値を示さないことから触媒活性が著しく低下することが確認されている。したがって、白金族金属触媒微粒子(C)の分散性向上に分散剤を使用して、該微粒子(C)表面を覆うことは好ましくない。
銅微粒子分散液中で白金族金属触媒微粒子(C)が65℃以上の温度でポリオール(S1)を脱水素化して銅微粒子(P)の表面を還元する触媒作用を発揮させるためには、銅微粒子分散液中における白金族金属触媒微粒子(C)の全表面積が10m/m以上であることが好ましく、100m/m以上であることがより好ましい。
【0015】
(3)銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)の割合
銅微粒子分散液中において、焼結の際に白金族金属触媒微粒子(C)がポリオール(S1)を脱水素化する触媒作用を発揮して銅微粒子(P)を還元、焼結し、更に銅微粒子の焼結膜を形成するためには銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)の合計量に対する白金族金属触媒微粒子(C)の割合が0.1〜20質量%とする必要がある。
白金族金属触媒微粒子(C)が0.1質量%未満では白金族金属触媒微粒子(C)の触媒作用が不十分になるおそれがあり、一方、20質量%を超えると焼結により形成される焼結膜の強度が不十分になるおそれがある。
また、白金族金属触媒微粒子(C)の平均一次粒子径(R2)と銅微粒子(P)の平均一次粒子径(R1)の比(R2/R1)が10〜10000であることが好ましい。該粒子径比の範囲内であると、白金族金属触媒微粒子(C)間に銅微粒子(P)が焼結されて安定的に存在する。かかる観点から、白金族金属触媒微粒子(C)の平均一次粒子径(R2)と銅微粒子(P)の平均一次粒子径(R1)の比(R2/R1)は100〜1000であることがより好ましい。
【0016】
(4)有機分散媒(S)
有機分散媒(S)中には分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール(S1)が含まれ、ポリオール(S1)は、銅微粒子分散液中で該ポリオール(S1)のヒドロキシル基のモル数(MOH)と銅微粒子(P)のモル数(M)の比[(MOH)/(M))が10以上になるように配合されている必要がある。
銅微粒子分散液を基材(K)上に塗布又はパターニング後、65℃以上の温度で焼結する際の実用性を考慮すると、有機分散媒(S)は融点が20℃以下で、常圧における沸点が65〜300℃であることが好ましい。
有機分散媒(S)の融点が20℃以下であると銅微粒子分散液を基材(K)上に塗布又はパターニングする際に常温で行うことができ、操作性が向上する。また、銅微粒子分散液を65℃以上の温度で焼結する際に銅微粒子が銅微粒子分散液の液相中でその表面が還元され易いことを考慮すると、有機分散媒(S)の常圧における沸点は65℃以上であることが好ましい。
一方、有機分散媒(S)の常圧における沸点が300℃以下であると、銅微粒子分散液を基材(K)上で焼結する際に銅微粒子焼結体中に有機分散媒(S)が残存するのを防止することができる。
【0017】
(4−1)ポリオール(S1)
ポリオール(S1)は、分子内に2個以上の水酸基を有していて、銅微粒子分散液を長期間保存しても銅微粒子(P)が凝集するのを抑制して分散安定性を向上する作用を有し、かつ焼結の際に銅微粒子分散液中で65℃以上の温度で白金族金属触媒微粒子(C)の触媒作用により脱水素化を受けて水素ラジカルを発生し、銅微粒子(P)の表面および基材(K)表面で還元してこれらの表面を活性化する。更に、銅微粒子の加熱焼結を行うことにより導電性の高い銅微粒子焼結膜が形成される。
有機分散媒(S)中には、銅微粒子(P)の表面を還元するためには、分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール(S1)を使用し、かつ該銅微粒子分散液中において、有機分散媒(S)の70質量%以上をポリオール(S1)が含有されていることが望ましい。ポリオール(S1)が脱水素化を受けて水素ラジカルを発生するには、該ヒドロキシル基が結合している炭素基部分が(−CH(OH)−)構造を有するポリオールであることが好ましい。
また、銅微粒子分散液中で白金族金属触媒微粒子(C)の触媒作用を利用して、ポリオール(S1)を脱水素化して銅微粒子(P)の表面を還元するためには、ポリオール(S1)中のヒドロキシル基のモル数(MOH)と銅微粒子(P)のモル数(M)の比[(MOH)/(M)]を10以上とする必要がある。該モル数の比が10未満では銅微粒子(P)の還元が不十分となるおそれがある。かかる観点から、該比[(MOH)/(M)]は100以上が好ましい。
【0018】
ポリオール(S1)は後述する第2の態様の「銅微粒子焼結体の製造方法」において、銅微粒子分散液中で銅微粒子(P)を分散させ、かつ、銅微粒子(P)を焼結する際に白金族金属触媒微粒子(C)の触媒作用により脱水素化反応を受けて水素ラジカルを発生させる性質を有していれば特に制限されるものではない。
このようなポリオール(S1)としては、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオ−ル、ペンタンジオ−ル、ヘキサンジオ−ル、オクタンジオ−ル、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセロ−ル、トレイトール、エリトリト−ル、ペンタエリスリト−ル、ペンチト−ル、キシリトール、リビトール、アラビトール、ヘキシト−ル、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、グリセルアルデヒド、ジオキシアセトン、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコ−ス、フルクト−ス、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、アルトロース、ラクト−ス、キシロ−ス、アラビノ−ス、イソマルト−ス、グルコヘプト−ス、ヘプト−ス、マルトトリオース、ラクツロース、及びトレハロースから選択される1種又は2種以上が例示できる。
【0019】
また、銅微粒子分散液中に白金族金属触媒微粒子(C)を存在させることにより、該触媒の還元作用により、銅微粒子の表面の還元反応と焼結を促進することができるが、該銅微粒子の表面の還元反応はポリオール(S1)を液相で存在させる観点から、銅微粒子分散液の焼結温度は65〜300℃の範囲が好ましく、65〜250℃の範囲がより好まく、65〜200℃の範囲が更に好ましい。また、焼結の際に初期段階において、ポリオール(S1)を液相で存在させるために、昇温温度を制御するか、または、焼結温度を2段階以上の数段階に分けて行うこともできる。
尚、銅のバルクの融点は1083℃であり、白金族元素の中でも、バルクの融点は白金(Pt)が1774℃で最も低く、他の元素は更に高い融点を有している。該バルク状態の金属の融点はナノサイズの微粒子になるとその面の活性化エネルギーが増加して融点が著しく低下することが知られている。従って、銅微粒子分散液の焼結温度を高温にして、白金(Pt)等の微粒子が溶融すと白金族金属触媒微粒子(C)の触媒作用が著しく低下するおそれがある。
【0020】
前記例示のポリオール(S1)の中でも、銅微粒子分散液の焼結温度が65〜200℃である場合の好ましいポリオール(S1)としては、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオ−ル、ペンタンジオ−ル、ヘキサンジオ−ル、オクタンジオ−ル、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、及び1,2,4−ブタントリオールから選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
【0021】
(4−2)有機分散媒(S)中のその他の溶媒

有機分散媒(S)の成分としては、上記ポリオール(S1)以外に、以下に記載するアミド基を有する有機溶媒(S2)、エーテル系化合物(S3)、アルコール(S4)、ケトン系化合物(S5)、及びアミン系化合物(S6)等を配合することができる。
これらのアミド基を有する有機溶媒(S2)からアミン系化合物(S6)は、有機分散媒(S)中で併せて30体積%以下となるように配合されることが好ましい。
【0022】
前記アミド基を有する有機溶媒(S2)としては、N−メチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、N−メチルプロパンアミド、ホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、2−ピロリジノン、ε−カプロラクタム、及びアセトアミドの中から選択される1種又は2種以上が例示できる。
アミド基を有する有機溶媒(S2)は、銅微粒子(P)の表面、および金属基材における金属−アミンの過剰配位を抑制して、アミン系化合物(S6)の脱離を容易にする結果、比較的低温の焼結で銅微粒子(P)間の焼結、銅微粒子(P)と金属基材間の焼結が進行し易くなる。また、有機分散媒(S)中にアミド基を有する有機溶媒(S2)が含まれることで、焼結の際にポリオール(S1)が熱分解により生成したケトン、アルデヒドと共沸し易くなり、65〜200℃程度の比較的低温の焼結でも該ケトン、アルデヒドは容易に除去される。これにより、銅微粒子焼結体中の有機物残留量が少なくなり、銅微粒子(P)間の接合、銅微粒子(P)と金属基材間の接合が強固になると共に電気抵抗と接触抵抗を低くすることができる。
【0023】
有機分散媒(S)の他の成分としては、一般式R−O−R(R、Rは、それぞれ独立したアルキル基で、炭素原子数は1〜4である。)で表されるエーテル系化合物(S3)、一般式R−OH(Rは、アルキル基で、炭素原子数は1〜4である。)で表されるアルコール(S4)、R−C(=O)−R(R、Rは、それぞれ独立したアルキル基で、炭素原子数は1〜2である。)で表されるケトン系化合物(S5)、及び一般式R−(N−R)−R(R、R、Rは、それぞれ独立したアルキル基、又は水素で、炭素原子数は0〜2である。)で表されるアミン系化合物(S6)が例示できる。
【0024】
前記エーテル系化合物(S3)の具体例として、ジエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、t−アミルメチルエーテル、ジビニルエーテル、エチルビニルエーテル、及びアリルエーテルの中から選択される1種又は2種以上が例示でき、前記アルコール(S4)の具体例として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、及び2−メチル2−プロパノールの中から選択される1種又は2種以上が例示でき、前記ケトン系化合物(S5)の具体例として、アセトン、メチルエチルケトン、及びジエチルケトンの中から選択される1種又は2種以上が例示できる。
エーテル系化合物(S3)、アルコール(S4)、及びケトン系化合物(S5)は主に有機分散媒(S)の融点と、常圧における沸点の調製、及び銅微粒子の分散性向上のために添加することができる。
また、前記アミン系化合物(S6)の具体例として、トリエチルアミン及び/又はジエチルアミンが例示できる。有機分散媒(S)中にアミン系化合物(S6)が存在することにより銅微粒子分散液中の、銅微粒子(P)表面は活性化されるが、さらに銅微粒子分散液を金属基材上に塗布(またはパターン化)することによってアミン系化合物(S6)が金属基材にも配位して、該金属基材表面の吸着層が除去されて、該金属基材表面が活性化される。尚、前述の通り、銅微粒子分散液中に含まれるポリオール(S1)が、加熱されることにより、銅微粒子(P)表面および金属基材表面で分解し、水素ラジカルを形成し、配位したアミン系化合物(S6)を脱離させる。
【0025】
(4−3)分散剤

上記銅微粒子分散液中の銅微粒子(P)の少なくとも表面の一部を分散剤で覆うことにより銅微粒子(P)の分散性を向上することができる。
分散剤は、有機分散媒(S)中で少なくとも銅微粒子(P)の表面の一部を覆って、二次凝集性が少ない状態で銅微粒子(P)を分散させる作用を発揮する。上記分散剤として好ましいのは、水溶性高分子化合物である。このような水溶性高分子化合物として、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン等のアミン系の高分子;ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のカルボン酸基を有する炭化水素系高分子;ポリアクリルアミド等のアクリルアミド;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、更にはデンプン、及びゼラチンの中から選択される1種又は2種以上を例示することができる。
【0026】
上記例示した水溶性高分子化合物の具体例として、ポリビニルピロリドン(分子量:1000〜500、000)、ポリエチレンイミン(分子量:100〜100,000)、カルボキシメチルセルロース(アルカリセルロースのヒドロキシル基Na塩のカルボキシメチル基への置換度:0.4以上、分子量:1000〜100,000)、ポリアクリルアミド(分子量:100〜6,000,000)、ポリビニルアルコール(分子量:1000〜100,000)、ポリエチレングリコール(分子量:100〜50,000)、ポリエチレンオキシド(分子量:50,000〜900,000)、ゼラチン(平均分子量:61,000〜67,000)、水溶性のデンプン等が挙げられる。
【0027】
上記かっこ内にそれぞれの高分子化合物の数平均分子量を示すが、このような分子量範囲にあるものは本発明の有機物保護被膜として好適に使用できる。尚、これらの2種以上を混合して使用することもできる。
また、分散剤を銅微粒子(P)分散溶液に添加する場合、銅微粒子(P)に対する質量比([分散剤/銅微粒子(P)]質量比)として0.0001〜0.1として、分散溶液を撹拌することにより、該溶液中で銅微粒子(P)表面の少なくとも一部を分散剤で覆うことができる。
銅微粒子(P)表面の少なくとも一部を覆い、過剰の分散剤は後述する方法で除去されることが好ましい。
【0028】
白金族金属触媒微粒子(C)の表面が分散剤で覆われると、白金族金属触媒微粒子(C)の触媒活性が低下するおそれがあるので、分散剤を銅微粒子(P)の分散溶液に添加する際に、該分散溶液中には白金族金属触媒微粒子(C)不存在下に行うことが望ましい。上記分散溶液に分散剤を添加して撹拌して銅微粒子(P)表面の少なくとも一部を分散剤で覆った後に、四塩化炭素、クロロホルム等の凝集促進剤を添加して、銅微粒子(P)の分散性を低下させて該粒子を回収し遠心分離機で回収した後に、炭素数1〜4のアルコールで洗浄して再度遠心分離機で該粒子(P)を回収する操作を2〜4度繰り返して、銅微粒子(P)を回収した後に分散液に再分散させることにより、銅微粒子(P)表面の過剰の分散剤を除去でき、その後該分散溶液に白金族金属触媒微粒子(C)を添加しても、該微粒子(C)が分散剤でその表面の一部が覆われて触媒活性を低下させることは認められていない。
このようにして得られた銅微粒子分散液は、銅微粒子(P)表面の少なくとも一部が分散剤に覆われた状態で有機分散媒(S)中に分散している。このような分散剤が銅微粒子(P)を分散させるメカニズムは完全に解明されてはいないが、高分子分散剤を使用する場合には、例えば高分子に存在する官能基の非共有電子対を有する原子部分が銅微粒子(P)の表面に吸着して、分子層を形成し、互いに銅微粒子(P)同士の接近をさせない、斥力が発生していることが予想される。
【0029】
(4−4)銅微粒子(P)の分散性向上
銅微粒子分散液中での銅微粒子(P)の分散性を更に向上させるために、撹拌手段を採用することが望ましい。分散溶液の撹拌方法としては、公知の撹拌方法を採用することができるが、超音波照射方法を採用するのが好ましい。
上記超音波照射時間は、特に制限はなく任意に選択することが可能である。例えば、超音波照射時間を5〜60分間の間で任意に設定すると照射時間が長い方が平均二次凝集サイズは小さくなる傾向にある。更に超音波照射時間を長くすると分散性は一層向上する。
【0030】
(5)ポリオール(S1)溶液系等の酸化還元電位の温度変化
図1に、参考例1で得られた(i)エチレングリコール溶液系、(ii)エチレングリコール−白金微粒子溶液系、及び(iii)エチレングリコール−表面が酸化された銅微粒子からなる溶液系、の酸化還元電位の温度変化を示す。尚、酸化還元電位(Oxidation-reduction Potential; ORP)とは、ある酸化還元反応系における電子のやり取りの際に発生する電位(電極電位)のことである。物質の電子の放出しやすさ、あるいは受け取りやすさを定量的に評価する尺度でもある。単位はボルト(mV)を用い、電極電位の基準には以下の半反応式で表される酸化還元反応を用いる。つまり水素ガス分圧が1気圧、水素イオンの活量が1のとき(これを標準水素電極という)の電極電位を0mVと定義する。下記(1)式に示す半反応を基準とし、任意の酸化還元反応の電極電位が決定される。プラスの値が大きいほど酸化力が大きく、マイナスの値が大きいほど還元力が強い系といえる。
なお、酸化銅から金属銅への還元反応(CuO→Cu)が生じる閾値となる還元電位の値はその溶液のpHによって変化するが、一般にpH7近傍の中性の溶液では、0mV(標準電極電位)程度であることが知られている。
2H + 2e ⇔ H (1)
【0031】
図1から、これらの溶液系について以下のことがいえる。
(i)エチレングリコール溶液系
温度50℃では酸化還元電位が約120mVであるが、昇温されるに従い酸化還元電位(酸化力)が減少していき、100℃で0mVとなった。その後高温になるに従ってマイナス値が除々に増加して還元力が発現しているが、110℃においても酸化還元電位は−20mV程度で還元力は低い状態であった。
(ii)エチレングリコール40ml+白金微粒子100mg溶液系
温度50℃では酸化還元電位が100mVとプラスの値を示したが、昇温されるに従って酸化還元電位(酸化力)は減少していき、60℃で0mVとなった。60℃から75℃にかけて更に酸化還元電位のマイナスの値が大きくなっているので還元力が増加していることが確認される。75〜85℃間では酸化還元電位のマイナス値の増加割合がやや少なくなっているが、85℃から更に昇温されるに従い、マイナスの値が更に大きくなっているので還元力が増加していることが観察される。この系の酸化還元電位から、エチレングリコールに白金微粒子が存在すると、比較的低温の60℃以上で酸化還元電位が0mVとなり、60℃を超える温度で酸化還元電位がマイナス値を示して還元性雰囲気が形成されることが確認される。
【0032】
(iii)エチレングリコール40ml+表面酸化銅微粒子100mg溶液系
温度50℃では酸化還元電位がプラス100mVの値を示し、50〜100℃の温度範囲で酸化還元電位はプラス50〜100mVであり、100℃〜110℃の温度範囲で酸化還元電位のプラス値が多少減少したがマイナス値は示していない。このことから、表面酸化銅微粒子はエチレングリコール溶液中で酸化性雰囲気を形成しているので、還元されづらいことが確認される。
(4)まとめ
上記からポリオール(S1)であるエチレングリコールに白金族金属触媒微粒子(C)である白金微粒子が存在すると、60℃以上の温度で酸化還元電位がマイナスの値を示すことから還元性雰囲気が形成されるので、65℃以上でこのような系に表面が酸化された銅微粒子が添加されると還元反応を受けて、酸化銅が銅に還元されることが理解される。
【0033】
〔2〕銅微粒子焼結体の製造方法(第2の態様)について
本発明の第2の態様である「銅微粒子焼結体の製造方法」は、銅、表面の一部もしくは全部が酸化された銅、及び酸化銅の中から選択される1種又は2種以上からなる銅微粒子(P)と、白金族金属触媒微粒子(C)と、有機分散媒(S)とを含有する銅微粒子分散液を加熱焼結する銅微粒子焼結体の製造方法であって、
(i)有機分散媒(S)中には分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール(S1)が含まれており、
(ii)銅微粒子(P)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R1)が1〜100nm、及び白金族金属触媒微粒子(C)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R2)が50nm〜100μmであり、
(iii)銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)の合計量に対する白金族金属触媒微粒子(C)の割合が0.1〜20質量%であり、
(iv)ポリオール(S1)中のヒドロキシル基のモル数(MOH)と銅微粒子(P)のモル数(M)の比[(MOH)/(M)]が10以上
である銅微粒子分散液を基材(K)上に塗布又はパターニングした後、
65℃以上に加熱して、有機分散媒(S)中でポリオール(S1)液体と白金族金属触媒微粒子(C)の存在下に銅微粒子(P)表面の還元反応を進行させ、銅微粒子(P)の焼結を進行させることを特徴とする。
【0034】
(1)銅微粒子分散液
本発明の銅微粒子焼結体の製造方法で使用する銅微粒子分散液は、銅、表面の一部もしくは全部が酸化された銅、及び酸化銅の中から選択される1種又は2種以上からなる銅微粒子(P)と、白金族金属触媒微粒子(C)と、有機分散媒(S)とを含有する。
前記銅微粒子(P)、白金族金属触媒微粒子(C)、ポリオール(S1)、及び銅微粒子分散液についての特徴は、第1の態様に記載した通りである。
【0035】
(2)銅微粒子分散液の基材(K)上への塗布又はパターニング

本発明で使用する基材(K)は、特に限定されるものではなくガラス基材等の無機材料基材、樹脂基材等を広く使用することができる。樹脂基材としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂などの耐熱性を有する樹脂の他、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアセタール樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ガラスエポキシ樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂から、焼結温度が比較的低いので耐熱性を有する樹脂を使用する必要がないのが特徴である。
尚、ガラス基材を使用する場合には予め、酸洗浄、水洗、及び乾燥処理をこの順に施しておくことが望ましい。樹脂基板を用いる場合には予めその表面をコロナ処理、電子線照射、プラズマ処理、及びエッチング処理から選択された1種又は2種以上の操作により表面処理することが好ましい。銅微粒子分散液の基材(K)上への塗布又はパターニングとしては、スピンコート法、インクジェット法、微少液滴塗布法、スプレー塗布法、スポイト滴下、及びピペット滴下から選択された1種又は2種以上が例示できる。
【0036】
(3)銅微粒子分散液の加熱、焼結
基材(K)上に塗布又はパターニングされた銅微粒子分散液は、65℃以上に加熱して、有機分散媒(S)中でポリオール(S1)液体と白金族金属触媒微粒子(C)の存在下に銅微粒子(P)表面の還元反応を進行させ、銅微粒子表面同士の焼結を進行させる。
(i)基材(K)上に塗布又はパターニングされた銅微粒子分散液は、不活性ガスで置換された雰囲気にある焼成炉に配置して焼結することが望ましい。不活性ガスとしては、上記不活性ガスとしては窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、還元性ガスである水素ガス等を添加することもできる。
(ii)次に、焼成炉内の温度を昇温していき、65℃以上の温度で焼結を行う。基材(K)上に塗布又はパターニングされた銅微粒子分散液中の銅微粒子はその表面が白金族金属触媒微粒子(C)の触媒作用でポリオール(S1)が分解されて発生する水素ラジカルにより還元される。該還元反応はポリオール(S1)が存在する液相で促進されるので、本発明の銅微粒子分散液の焼結の初期段階の1〜5分間程度は、ポリオール(S1)が含まれる有機分散媒(S)が液相を維持できる温度条件を選択することが望ましい。
(iii)焼結が更に進行すると、有機分散媒(S)が除々に蒸発していき、蒸発したポリオール(S1)は還元性ガス雰囲気を形成するが、前記焼結の初期段階においては、ポリオール(S1)が含まれる有機分散媒(S)が液相を維持するためにはポリオール(S1)の選択と、焼結温度を考慮する必要がある。かかる観点から、焼結温度は65〜250℃が好ましい。
【0037】
(4)銅微粒子焼結体の製造方法により製造された焼結体
本発明の銅微粒子焼結体の製造方法により製造された銅微粒子焼結体は、65℃以上という比較的低温で焼結されて得られた焼結体に係らず、導電性と膜強度に優れている。
【実施例】
【0038】
本発明を、参考例、実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。参考例1〜3において、50〜110℃における、(i)エチレングリコール溶液系、(ii)エチレングリコール−白金微粒子溶液系、及び(iii)エチレングリコール−表面が酸化された銅微粒子からなる溶液系の酸化還元電位を測定した。
また、参考例4において、エチレングリコール−ポリビニルピロリドンで表面が覆われた白金微粒子溶液系の酸化還元電位の測定を行った。
【0039】
[参考例1〜3]
白金族金属触媒微粒子の添加によるポリオールの比較的低温での還元力の向上効果について検証することを目的に下記の3種類の溶液(又は微粒子分散溶液)において50℃から110℃まで昇温させた際の酸化還元電位変化の測定を行った。
(1)測定した溶液系(又は微粒子分散溶液系)
(i)参考例1
エチレングリコール溶液系
(ii)参考例2
エチレングリコール40mlに白金微粒子(平均粒子径:100nm)100mgを添加した粒子分散溶液系
(iii)参考例3
エチレングリコール40mlに表面が酸化された銅微粒子(平均粒子径:60nm)100mg添加した粒子分散溶液系
(2)酸化還元電位変化の測定法
上記3つの溶液系(又は粒子分散溶液系)をそれぞれ、50℃から110℃まで昇温させた際の還元電位変化の測定を行った。
還元電位の計測には、Metrohm社製744型pHメータと、その付属ORP測定電極(型式:SB−9160−451100)を用い、それぞれの溶液を容量100mlのガラスビーカーに入れた後、マグネチックスターラーを用いて溶液を攪拌しつつ、ホットプレート上で溶液を昇温することで、各温度における酸化還元電位の測定を行った。
測定結果を図1に示す。
【0040】
[参考例4]
エチレングリコール−分散剤で表面が覆われた白金微粒子溶液系の酸化還元電位の変化を調べるため、市販のポリビニルピロリドンで被覆された白金ナノ粒子コロイド(田中貴金属工業(株)製、平均粒子径2nm)をエチレングリコールへ添加した粒子分散溶液系について、参考例1〜3に記載したのと同様に酸化還元電位の測定を行った。
その結果は下記の通りであった。
(i)測定温度60℃の酸化還元電位:335mV
(ii)測定温度80℃の酸化還元電位:318mV
(iii)測定温度110℃の酸化還元電位:305mV
【0041】
[実施例1〜5]
本発明の銅微粒子分散液の調製後、本発明の銅微粒子焼結体の製造方法に基づいて銅微粒子焼結膜を作製して、得られた焼結膜の導電性と膜強度の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
実施例1〜5において、銅微粒子(表面が一部酸化された銅微粒子を含む)を次の手順で作成した。
まず銅微粒子の原料として酢酸銅(CHCOO)Cu・1HOを0.2g、高分子分散剤としてポリビニルピロリドン(以下、PVPと記載することがある)(平均分子量3500)0.5gを蒸留水100ミリリットル(mL)に添加して攪拌溶解させた。さらに窒素ガス雰囲気中で、前記水溶液に、金属イオン還元剤として12質量%水素化ホウ素ナトリウムの14M水酸化ナトリウム水溶液を6mL滴下した。この混合液を窒素雰囲気中60分間よく攪拌しながら反応させた結果、平均一次粒子径が10nmの銅微粒子が分散した水溶液が得られた。次に、該銅微粒子が分散した水溶液100mLに、凝集促進剤としてクロロホルムを5mL添加して、3分間攪拌して、銅微粒子が凝集した水溶液を得た。該水溶液を遠心分離機に入れ、銅微粒子成分を沈殿回収した。その後、大気下で試験管に、銅微粒子と50mLの蒸留水とを入れ、超音波ホモジナイザーを用いてよく攪拌した後、遠心分離機で銅微粒子成分を回収する水洗いを3回行った。以上の工程により銅微粒子(表面が一部酸化された銅微粒子を含む)を得た。
【0042】
(2)銅微粒子分散液の調製
実施例1〜5において、それぞれ前記工程で得られた平均一次粒子径(表1〜4中、粒子径と記載する)が10nmの銅微粒子と、平均一次粒子径100nmの白金触媒微粒子(表1〜4中、Pt微粒子と記載する)の合計に対する白金触媒微粒子が表1に示す、0.1、1.0、5.0、10.0、20.0質量%であり、かつ実施例1〜5において分散液中の銅微粒子と白金触媒微粒子の合計が10質量%となるように、有機分散媒であるエチレングリコール(沸点:197℃、融点:−12.6℃)に添加し、超音波ホモジナイザーを用いて30分間よく攪拌することで、銅微粒子と、白金触媒微粒子がエチレングリコールに分散した銅微粒子分散液を調製した。
【0043】
(3)銅微粒子焼結膜の作製と評価
(i)焼結膜の導電性
前記工程で得られた銅微粒子分散液を加熱、焼結して、得られた焼結膜の導電性及び膜強度の評価を行った。
まず、上記銅微粒子分散液をガラス基板(サイズ:2cm×2cm)上に、焼結後の平均膜厚が200μmとなるように塗布した後、窒素雰囲気下にある加熱炉に挿入し、表1に示す各所定の温度で1時間熱処理することにより焼結膜を得た。
実施例1〜5で得られた焼結膜に対し、直流四端子法(使用測定機:Keithley社製、デジタルマルチメータDMM2000型(四端子電気抵抗測定モード))によりその電気抵抗を測定した。
評価基準は下記の通りとした。
○:電気抵抗が1.0×10−4Ωcm以下(高導電性)
×:電気抵抗が1.0×10−4Ωcm超(低導電性)
【0044】
(ii)焼結膜の膜強度
前記工程で得られた銅微粒子分散液をガラス基板(サイズ:2cm×2cm)上に、焼結後の平均膜厚が200μmとなるように塗布した後、その上から別途ガラス基板(サイズ:1cm×1cm)を上乗せし、次に得られた基板を窒素雰囲気下にある加熱炉に挿入して、表1に示す各所定の温度で1時間熱処理することにより、2枚のガラス基板が銅微粒子で接合された焼結サンプルを調製した。
焼結膜の膜強度の測定は、得られた焼結サンプルについて、ダイシェア強度の測定により実施した。ここでダイシェア強度の測定は、レスカ社製ダイボンディングテスタ(Model:PTR−1101)を用い、0.05mm/sのシェア速度で実施した。
焼結膜の膜強度の評価基準は下記の通りとした。
○:接合強度が25 N/mm以上
×:接合強度が25 N/mm未満
上記評価結果をまとめて表1に示す。
【0045】
[比較例1〜3]
比較例1〜3において、平均一次粒子径が5〜10nmの銅微粒子と、平均一次粒子径100nmの白金触媒微粒子の合計に対する白金触媒微粒子がそれぞれ0、0.01、30.0質量%であり、かつ比較例1〜3において分散液中の銅微粒子と白金触媒微粒子の合計が10質量%となるように、有機分散媒のエチレングリコールに添加した以外は実施例1に記載したと同様の方法により、銅微粒子分散液を調製した。
得られた銅微粒子分散液を使用して、実施例1に記載したと同様の方法で焼結膜の導電性及び膜強度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
[実施例6〜10]
実施例6〜10において、平均一次粒子径100nmの白金触媒微粒子の代わりに、平均一次粒子径50μmの白金触媒微粒子を使用した以外は、実施例1〜5とそれぞれ同様にして焼結膜を作製し、実施例1〜5に記載したと同様の焼結膜の導電性と膜強度の評価を行った。
上記評価結果をまとめて表2に示す。
【0048】
[比較例4〜6]
比較例4〜6において、平均一次粒子径100nmの白金触媒微粒子の代わりに、平均一次粒子径50μmの白金触媒微粒子を使用した以外は、比較例1〜3とそれぞれ同様にして焼結膜を作製し、実施例1〜5に記載したと同様の焼結膜の導電性と膜強度の評価を行った。
上記評価結果をまとめて表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
[実施例11〜15]
実施例11〜15において、平均一次粒子径100nmの白金触媒微粒子の代わりに、平均一次粒子径1μmの白金触媒微粒子を使用した以外は、実施例1〜5とそれぞれ同様にして焼結膜を作製し、実施例1〜5に記載したと同様の焼結膜の導電性と膜強度の評価を行った。
上記評価結果をまとめて表3に示す。
【0051】
[比較例7〜9]
比較例7〜9において、平均一次粒子径100nmの白金触媒微粒子の代わりに、平均一次粒子径1μmの白金触媒微粒子を使用した以外は、比較例1〜3とそれぞれ同様にして焼結膜を作製し、実施例1〜5に記載したと同様の焼結膜の導電性と膜強度の評価を行った。
上記評価結果をまとめて表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
[比較例10〜12]
比較例10〜12において、平均一次粒子径100nmの白金触媒微粒子の代わりに、平均一次粒子径2nmのPVPで被覆された白金コロイド(田中貴金属工業(株)製)(表4中に、PVP被覆Ptコロイドと記載する)を使用した以外は、比較例1〜3とそれぞれ同様にして焼結膜を作製し、実施例1〜5に記載したと同様の焼結膜の導電性と膜強度の評価を行った。
上記評価結果をまとめて表4に示す。
【0054】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、表面の一部もしくは全部が酸化された銅、及び酸化銅の中から選択される1種又は2種以上からなる銅微粒子(P)と、白金族金属触媒微粒子(C)と、有機分散媒(S)とを含有する銅微粒子分散液であって、
(i)有機分散媒(S)中には分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール(S1)が含まれ、
(ii)銅微粒子(P)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R1)が1〜100nm、及び白金族金属触媒微粒子(C)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R2)が50nm〜100μmであり、
(iii)銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)の合計量に対する白金族金属触媒微粒子(C)の割合が0.1〜20質量%で、
(iv)ポリオール(S1)中のヒドロキシル基のモル数(MOH)と銅微粒子(P)のモル数(M)の比〔(MOH)/(M)〕が10以上、
であることを特徴とする銅微粒子分散液。
【請求項2】
前記白金族金属触媒微粒子(C)が白金(Pt)であることを特徴とする請求項1に記載の銅微粒子分散液。
【請求項3】
前記銅微粒子分散液中における白金族金属触媒微粒子(C)の全表面積が10m/m以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅微粒子分散液。
【請求項4】
前記有機分散媒(S)の融点が20℃以下で、常圧における沸点が65〜300℃であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
【請求項5】
前記有機分散媒(S)中にポリオール(S1)が70質量%以上含有されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
【請求項6】
前記ポリオール(S1)がエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセロール、トレイトール、エリトリトール、ペンタエリスリトール、ペンチトール、キシリトール、リビトール、アラビトール、ヘキシトール、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、グリセルアルデヒド、ジオキシアセトン、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、アルトロース、ラクトース、イソマルトース、グルコヘプトース、ヘプトース、マルトトリオース、ラクツロース、及びトレハロースの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
【請求項7】
前記銅微粒子(P)の平均一次粒子径(R1)が10〜50nmであり、
白金族金属触媒微粒子(C)の平均一次粒子径(R2)と銅微粒子(P)の平均一次粒子径(R1)の比(R2/R1)が10〜1000であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
【請求項8】
銅、表面の一部もしくは全部が酸化された銅、及び酸化銅の中から選択される1種又は2種以上からなる銅微粒子(P)と、白金族金属触媒微粒子(C)と、有機分散媒(S)とを含有する銅微粒子分散液を加熱焼結する銅微粒子焼結体の製造方法であって、
(i)有機分散媒(S)中には分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール(S1)が含まれており、
(ii)銅微粒子(P)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R1)が1〜100nm、及び白金族金属触媒微粒子(C)の透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づく平均一次粒子径(R2)が50nm〜100μmであり、
(iii)銅微粒子(P)と白金族金属触媒微粒子(C)の合計量に対する白金族金属触媒微粒子(C)の割合が0.1〜20質量%であり、
(iv)ポリオール(S1)中のヒドロキシル基のモル数(MOH)と銅微粒子(P)のモル数(M)の比[(MOH)/(M)]が10以上
である銅微粒子分散液を基材(K)上に塗布又はパターニングした後、
65℃以上に加熱して、有機分散媒(S)中でポリオール(S1)液体と白金族金属触媒微粒子(C)の存在下に銅微粒子(P)表面の還元反応を進行させ、銅微粒子の焼結を進行させることを特徴とする銅微粒子焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記白金族金属触媒微粒子(C)が白金(Pt)であることを特徴とする請求項8に記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記銅微粒子分散液中における白金族金属触媒微粒子(C)の全表面積が10m/m以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記有機分散媒(S)は融点が20℃以上で、常圧における沸点が65〜300℃であることを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記有機分散媒(S)中にポリオール(S1)が70質量%以上含有されていることを特徴とする請求項8から11のいずれかに記載の銅微粒子分散液。
【請求項13】
前記ポリオール(S1)がエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセロール、トレイトール、エリトリトール、ペンタエリスリトール、ペンチトール、キシリトール、リビトール、アラビトール、ヘキシトール、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、グリセルアルデヒド、ジオキシアセトン、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、アルトロース、ラクトース、イソマルトース、グルコヘプトース、ヘプトース、マルトトリオース、ラクツロース、及びトレハロースの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項8から12のいずれかに記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記焼結温度が65〜200℃であることを特徴とする請求項8から13のいずれかに記載の銅微粒子焼結体の製造方法。
【請求項15】
前記ポリオール(S1)がエチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオ−ル、ペンタンジオ−ル、ヘキサンジオ−ル、オクタンジオ−ル、グリセロール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、及び1,2,4−ブタントリオールの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項8から14のいずれかに記載の銅微粒子焼結体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−207250(P2012−207250A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72131(P2011−72131)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】