説明

銅系摺動材料

【課題】 連続焼結法にて作製されるCu合金層中のBi相の粗大化を抑制し、耐疲労性に優れた銅系摺動材料を提供する。
【解決手段】 Cu合金層には、Biを10〜30質量%及び無機化合物を0.5〜5質量%含有している。そして、無機化合物の平均粒径を1〜5μmで、Bi比重に対して70〜130%の比重とすることにより、Cu合金粉末表面のBi相に無機化合物が埋収し、液相となったBiに無機化合物が凝集することなく分散するため、Cu合金粉末同士が十分に焼結する温度まで、液相となったBiをCu合金粉末内に留めることが可能となる。その結果、Biの液相が拡がらなくなり、その後、圧延、焼結を繰返すことにより、Bi相を微細に分散させたCu合金層を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐疲労性に優れた銅系摺動材料に係り、内燃機関用のすべり軸受材料として良好な銅系摺動材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関用すべり軸受に使用される銅系摺動材料は、連続焼結法により製造されるのが一般的である。この連続焼結法とは、帯鋼上にCu合金粉末を連続的に散布し、焼結、圧延を連続的に施す製造方法である。また、すべり軸受用の銅系摺動材料には、近年の環境規制に対応するため、Pbフリー化が求められており、Pbの代替材料としてBiを含有した焼結Cu合金を使用するものが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3421724号公報
【特許文献2】特開2005−200703号公報
【特許文献3】特開平4−28836号公報
【特許文献4】特開平5−263166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、内燃機関のクランク軸は高回転化される傾向にあり、すべり軸受にはより良好な耐焼付性が求められている。すべり軸受用の銅系摺動材料として、上記したBiを含有した焼結Cu合金を使用する場合、良好な耐焼付性を得るためには、焼結Cu合金にBiを10質量%以上含有させることが望ましい。
【0005】
また、近年、内燃機関は軽量化される傾向にあり、それに伴いエンジンブロックやコンロッドが軽量化され、円筒状のすべり軸受を固定する軸受ハウジングが低剛性化している。このような軸受ハウジングを使用すると、内燃機関の運転時において軸受ハウジングに弾性変形が生じるようになり、軸受ハウジングに固定されたすべり軸受には、クランク軸からのすべり軸受の摺動面に対する垂直方向の動荷重負荷に加え、軸受円周方向にも繰返し引張、圧縮応力を受けるようになる。このため、すべり軸受は、軸受円周方向に対しても良好な強度を有する必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1,2では、連続焼結法にてBiを含有したCu合金の焼結を実施しているが、この焼結Cu合金が良好な強度を有するか否かは、Biの含有量に大きく影響される。具体的には、図7(a)及び図7(a’)に示すように、帯鋼上にCu合金粉末を散布した場合、Cu合金粉末層に多くの隙間が存在しており、その後、1次焼結工程にて昇温すると、図7(b)及び図7(b’)に示すように、Biが270℃程度で溶融して液相となり、Cu合金粉末中から粉末同士の隙間に流れ出る。このとき、Cu合金粉末同士の焼結はまだ不十分であり、Cu合金粉末同士が十分に接合していない。このため、図7(c)に示すように、隙間に流れ出たBiがCu合金粉末表面を伝いながら拡がってしまい、図6に示すように、Cu合金層中のBi相が粗大化してしまう。この現象は、Cu合金層中にBiが10質量%以上含有されている場合に、特に影響を受ける。Bi相はCu相に殆ど固溶しないため、Cu合金層中に単独で存在しており、また、Cu相に対してBi相の強度が著しく低い。動荷重を受ける軸受では、粗大化したBi相またはBi相とCu相との粒界を起点に割れが生じて、Cu合金層の疲労破壊が起きやすい。
【0007】
一方、特許文献3によれば、Biを含有したCu合金粉末をメカニカルアロイング法で作製し、このCu合金粉末を用いて比較的低温(400〜800℃、より好ましくは400〜700℃)で焼結を行うと、微細なBi相を有する銅系摺動材料を得ることが可能な旨が記載されている。しかしながら、連続焼結法において800℃以下の温度で焼結を行うと、鋼裏金とCu合金層との接着が十分に得られないため、耐疲労性が低下してしまう。また、800℃を超える温度で焼結を行うと、鋼裏金との接着は良好であるが、特許文献4に記載されているように、Cu合金粉末の焼結が進み過ぎて、Cu合金層中のBi相が粗大化してしまう。
【0008】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、連続焼結法にて作製されるCu合金層中のBi相の粗大化を抑制し、耐疲労性に優れた銅系摺動材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、鋼裏金層及びCu合金層からなる銅系摺動材料であって、Cu合金層はBiを10〜30質量%及び無機化合物を0.5〜5質量%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅系摺動材料において、無機化合物は、平均粒径が1〜5μmで、Biの比重に対して70〜130%の比重であり、BiによってCu合金層中に形成されるBi相は、平均粒径が2〜15μmで、Cu合金層中に分散し、且つ等方性を有していることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明においては、請求項1記載の銅系摺動材料において、無機化合物は、Biの比重に対して90〜110%の比重であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明においては、請求項1又は請求項2記載の銅系摺動材料において、無機化合物は、金属の炭化物、窒化物、珪化物であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の銅系摺動材料において、Cu合金層は、さらにSnを0.5〜5質量%含有することを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明においては、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の銅系摺動材料において、Cu合金層は、さらにNi、Fe、P、Agからなる群の中から少なくとも1種以上を総量で0.1〜10質量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明においては、Cu合金層にBiを10〜30質量%含有させることで、銅系摺動材料が良好な摺動特性を有する。このとき、Biの含有量が10質量%未満で少な過ぎると、良好な耐焼付性が得られない。一方、Biの含有量が30質量%を超えて多過ぎると、Cu合金層の強度が低下する。
【0015】
Cu合金層に含有される無機化合物は、平均粒径を1〜5μmとすることで、Cu合金層中のBi相の粗大化を抑制する効果が得られた。これは、次のような理由によるものと考えられる。アトマイズ法にて作製したCu合金粉末の表面には、図2(a)の拡大図に示すように、本発明範囲の無機化合物の粒径よりも大きいBi相が存在している。粉末作製工程の一つであるCu合金粉末と無機化合物の混合工程において、1〜5μmと細かい無機化合物が軟質であるBi相に埋収される。また、上述の通り、帯鋼上にCu合金粉末を散布した場合、図2(a)及び図2(a’)に示すように、Cu合金粉末層に多くの隙間が存在している。Cu合金粉末表面のBi相に無機化合物が埋収されていない場合、1次焼結工程にて昇温すると、Biが270℃程度で溶融して液相となり、Cu合金粉末中から粉末同士の隙間に流れ出る。このとき、Cu合金粉末同士の焼結はまだ不十分であり、Cu合金粉末同士が十分に接合していない。このため、隙間に流れ出たBiが粉末表面を伝いながら拡がってしまい、Cu合金層中のBi相が粗大化してしまう。しかしながら、Cu合金粉末表面のBi相に無機化合物が埋収されていることで、図2(b)及び図2(b’)に示すように、Cu合金粉末同士が十分に焼結する温度まで、液相となったBiをCu合金粉末内に留めることが可能となる。その結果、図2(c)に示すように、Biの液相が拡がらなくなり、その後、圧延、焼結を繰返すことにより、図1に示すように、Bi相を微細に分散させたCu合金層を得ることができる。
【0016】
このとき、無機化合物の平均粒径が5μmを超えて大き過ぎると、Cu合金粉末の表面のBi相に埋収させることが難しくなり、Bi相を微細化させることが出来ない。また、無機化合物の平均粒径は、細かいほうがBi相の微細化の観点からは好ましいが、1μmより細かい無機化合物は高価であるため、銅系摺動材料が高価となってしまう。
【0017】
また、Cu合金層に含有される無機化合物は、Bi比重に対して70〜130%の比重とすることで、Cu合金層中のBi相を微細に分散する効果が得られた。これは、次の理由が考えられる。焼結工程において、Cu合金粉末中のBiは溶解し液相となる。上述の通り、液相となったBiは無機化合物と共に存在しており、このときBiと比重が近い無機化合物を選定することにより、Biの液相に無機化合物が凝集することなく分散するため、Biの液相をCu合金粉末内に留めることが可能となる。上述のメカニズムによってCu合金層中のBiを微細化し、良好な耐疲労性を得ることができる。
【0018】
また、この無機化合物としては、炭化物、窒化物、珪化物、ホウ化物があり、炭化物としてNbC、Mo2C、WC−TiC、WC−TiC−TaCが、窒化物としてZrN、Mo2N、NbNが、珪化物としてTaSi2、WSi2が、ホウ化物としてMoB、TaB2などが使用できる。
【0019】
このとき、無機化合物の比重がBi比重に対して70%未満で小さ過ぎると、図3に示すように、無機化合物がBiの液相上部に凝集してしまう。また、無機化合物の比重がBi比重に対して130%を超えて大き過ぎると、図4に示すように、無機化合物がBiの液相から抜け落ちてCu合金層の下部に凝集してしまうため、Cu合金層中のBi相の粗大化を抑制する効果が少なく、耐疲労性が低下してしまう。
【0020】
また、Cu合金層は、無機化合物を0.5〜5質量%含有させることで、Cu合金層中のBi相の量と無機化合物の量のバランスが良くなるため、Cu合金層中のBi相の粗大化を抑制する効果が得られた。更に好ましくは、Biの含有量/無機化合物の含有量を4〜10にすることで、Bi相の粗大化をより抑制することができる。
【0021】
このとき、無機化合物の含有量が0.5質量%未満で少な過ぎると、Bi相の粗大化を抑制する効果が少なく、良好な耐疲労性を得ることができない。一方、無機化合物の含有量が5質量%を超えて多過ぎると、Cu合金層中に局部的に無機化合物が凝集し、耐疲労性が低下してしまう。
【0022】
上述の方法により、Cu合金層中にBiを10質量%以上含有させながらも、Bi相の平均粒径を2〜15μmと細かく分散させることで、良好な耐疲労性を達成している。
【0023】
このとき、Bi相の平均粒径は、より小さい方が好ましいと予想される。本発明に係る実験では、Bi相の平均粒径が2μmまでは良好な耐疲労性が得られることを確認できた。また、Bi相の平均粒径が15μm以上であると、耐疲労性が低下してしまう。
【0024】
Cu合金層中のBi相は、等方性を有することで、耐疲労性を向上させている。図5に示すように、本発明では、軸受合金(Cu合金層)の厚さ方向をY軸、それに対して垂直方向をX軸とし、各Bi相のX軸方向の平均長さをx、Y軸方向の平均長さをyとし、このx/yの平均が1〜2となることを等方性と定義する。
【0025】
上述の通り、焼結工程においてBiは液相となる。Biの液相は、Cu合金粉末同士が十分に焼結する前に、Cu合金粉末の表面を伝い流れ出る。このとき、Biの液相は重力によりCu合金粉末の隙間を伝って、Cu合金層下部に向かって流れる。その後、Biの液相同士が繋がるため、Cu合金層中のBi相はY軸方向に長い形状となり易い。しかしながら、無機化合物がCu合金粉末表面のBi相に埋収されていることで、上述のメカニズムにより、Biの液相をCu合金粉末同士が十分に焼結するまでCu合金粉末中に留めることができる。このため、Biの液相はCu合金層下部に流れず、Cu合金層中のBi相が等方性を有する。Bi相に等方性を持たせることで、Bi相を起点としたクラックの発生を抑制し、耐疲労性を向上させる。また、等方性の範囲を1〜2とすることで、Bi相の長軸の方向が軸受の円周方向に発生する引張、圧縮の繰返し荷重と同方向になり、軸受円周方向に対して良好な耐疲労性を有する。
【0026】
このとき、Bi相のx/yの平均が1未満の場合、Bi相の長軸の方向が軸受円周方向の引張、圧縮の繰返し荷重方向に対して垂直な方向となるため、軸受円周方向に対して耐疲労性が低下してしまう。また、Bi相のx/yの平均が2より大きいと、垂直荷重に対して、Bi相を起点としたクラックが発生し易いため、耐疲労性が低下してしまう。
【0027】
また、請求項2に係る発明のように、請求項1記載の銅系摺動材料から更に、Cu合金層に含有される無機化合物をBi比重に対して90〜110%の比重に限定することで、Cu合金層中のBi相を微細に分散する効果がより顕著になった。これは、無機化合物がBiの液相中により均一に分散するようになるため、Biの液相をCu合金粉末に留める効果が更に高まるからであると推測される。
【0028】
また、請求項3に係る発明のように、無機化合物としては、炭化物、窒化物、珪化物があり、炭化物としてMo2C、WC−TiC−TaCが、窒化物としてMo2Nが、珪化物としてTaSi2、WSi2などが使用できる。
【0029】
また、請求項4に係る発明のように、Cu合金層を強化するため、Snを0.5〜5質量%含有させてもよい。このとき、Cu合金層にSnを0.5質量%未満含有させても、Cu合金層の強化が不十分である。また、Cu合金層に5質量%を超えたSnを含有させると、Cu合金層中のBi相が粗大化してしまう。これは、Snを含有させたCu合金粉末は、焼結過程でCu合金粉末表面の一部にCu−Snの液相が発生するが、5質量%を超えたSnを含有させると、Cu−Snの液相量が多くなり過ぎて、Cu合金粉末表面で流動する。従って、予めCu合金粉末表面のBi相に埋収させた無機化合物が、Cu−Sn液相により流されてしまうため、Cu合金層中のBi相の粗大化を抑制する効果が低下してしまう。
【0030】
また、請求項5に係る発明のように、Cu合金層を強化するため、Ni、Fe、P、Agからなる群の中から少なくとも1種以上を総量で0.1〜10質量%含有させてもよい。これらの含有量が総量で0.1質量%未満であると、Cu合金層の強化が不十分となる。また、これらの含有量が総量で10質量%を超えると、Cu合金層が脆くなり、耐疲労性が低下してしまう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】無機化合物を含有したCu合金層の組織を示す模式図である。
【図2】無機化合物を含有したCu合金層の作製工程におけるBi相の粗大化を説明するための図である。
【図3】Cu合金粉末の表面における比重の軽い無機化合物の状態を示す断面図である。
【図4】Cu合金粉末の表面における比重の重い無機化合物の状態を示す断面図である。
【図5】Bi相の等方性(x/y)を説明するためのCu合金層の断面図である。
【図6】無機化合物を含有しないCu合金層の組織を示す模式図である。
【図7】無機化合物を含有しないCu合金層の作製工程におけるBi相の粗大化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本実施形態に係るBiを含有したCu合金を用いた実施例1〜18と比較例1〜10について、Bi相の平均粒径を測定するとともに、軸受疲労試験を行った。実施例1〜18及び比較例1〜10の組成を表1に示す。実施例1〜18では、アトマイズ法にて作製したCu合金粉末と、無機化合物を一般的な混合機を用いて混合し、Cu合金粉末表面のBi相に無機化合物を、表1の成分比率となるように予め埋収させた。そして、混合した粉末を帯鋼上に散布し、焼結、圧延を繰り返して摺動材料を作製した。なお、焼結は850℃の温度で行った。この摺動材料を半円筒状に加工し、すべり軸受を作製した。
【0033】
【表1】

【0034】
比較例1,2では、Cu合金粉末をメカニカルアロイング法にて、表1の成分比率となるように作製した。そして、作製した粉末を帯鋼上に散布し、焼結、圧延を繰返して摺動材料を作製する。なお、焼結工程において、比較例1は700℃、比較例2は850℃の温度条件で焼結を実施した。この摺動材料を半円筒状に加工し、すべり軸受を作製した。
【0035】
比較例3〜6,8〜10では、上述した実施例の作製方法と同手法にて、表1の成分比率となるようにすべり軸受を作製した。また、比較例7では、Cu合金粉末をアトマイズ法にて、表1の成分比率となるように作製した。そして、上述した実施例の作製方法と同手法にて、すべり軸受を作製した。
【0036】
次に、作製されたすべり軸受について、電子顕微鏡を用いて軸受円周方向断面の組成像を200倍で撮影し、Bi相の平均粒径を測定した。具体的には、Bi相の平均粒径は、得られた組成像を一般的な画像解析手法(解析ソフト:Image−Pro Plus(Version4.5);(株)プラネトロン製)を用いて、各Bi相の面積を測定し、それを円と想定した場合の平均直径に換算して求めた。また、Bi相の等方性指数は、得られた組成像を同解析ソフトを用いて、軸受円周方向断面における厚さ方向の長さをY軸とし、それに対して垂直方向の長さをX軸とした場合の各Bi相のY軸の長さ(y)とX軸の長さ(x)を測定し、それら各長さの平均値の比(x/y)を算出して求めた。
【0037】
軸受疲労試験の試験条件を表2に示す。実施例1〜18及び比較例1〜10は、軸受試験機にて軸受の摺動面に対し垂直方向の動荷重と、軸受の円周方向に引張応力と圧縮応力を繰り返し負荷する条件にて疲労試験を実施した。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例1〜18は、比較例1〜10に対し、何れも良好な耐疲労性を有している。比較例7と比較し、無機化合物を含有させることで、上述の通り、焼結工程において液相となったBiがCu合金粉末同士の焼結が十分に進むまで、Cu合金粉末中に留まるため、Biが重力によりCu合金粉末表面を伝い、Cu合金層下部に流れるのを防ぐ。その結果、Cu合金層中のBi相の平均粒径が細かくなり、等方性を有している。
【0040】
実施例12〜14は、Cu合金の成分及び無機化合物の含有量が同じである実施例1,10,11と比較し、無機化合物の比重を更にBiの比重に近づけることで、Cu合金層中のBi相の平均粒径が更に細かくなり、耐疲労性が向上している。
【0041】
実施例15〜17は、実施例1と比較し、Cu合金層にSnを含有させることで、Cu合金層が強化され、実施例1と同程度のBi相の平均粒径及び等方性指数でありながらも、耐疲労性が更に向上している。また、実施例17からは、Cu合金層にSnを5質量%添加すると、上述のメカニズムにより、Bi相の平均粒径が大きく、等方性指数も低下することが確認される。この結果より、Snの含有量は5質量%が最大であると推察される。
【0042】
実施例18は、実施例1と比較し、Cu合金層にNi、Fe、Ag、Pを含有させることで、Cu合金層が強化され、実施例1と同等程度のBi相の平均粒径及び等方性指数でありながらも、耐疲労性が更に向上している。
【0043】
比較例1は、実施例1と比較し、Bi相の平均粒径は細かいが、耐疲労性が劣った結果となっている。これは、焼結温度が700℃と低く、Cu合金層と帯鋼との接着が十分でなかったことと、比較例1のBiは片状であり、等方性を有さず、片状のBi相の長軸が摺動面に対して平行に配されたため、垂直荷重に対して十分な強度を得られなかったことによる。また、比較例2は、実施例1と比較し、Bi相の平均粒径が19.67μmと大きくなっている。これは、焼結温度が850℃と高いため、Cu合金粉末同士の焼結が進み過ぎ、メカニカルアロイング粉末を使用したときのBi相を微細化する効果が失われてしまったためである。
【0044】
比較例3は、平均粒径の大きい無機化合物を含有させているため、粉末混合工程においてCu合金粉末表面のBi相に無機化合物が埋収され難く、その後の焼結工程においてCu合金粉末同士の焼結が十分に進むまで、液相となったBiをCu合金粉末表面に留める効果が十分でない。このとき、Biの液相が重力によりCu合金粉末の隙間を伝い、Cu合金層下部に流れる。その後、Bi同士が繋がるため、Cu合金層中のBi相が粗大化し、その形状はY軸方向に長く、等方性を有していない。その結果、耐疲労性が低下している。
【0045】
比較例4は、Biを多量に含有しているため、Bi相の平均粒径が大きく、等方性を有していない。その結果、耐疲労性が低下している。
【0046】
比較例5は、無機化合物の含有量が十分でないため、Cu合金層中のBi相の粗大化を抑制する効果が十分でなく、Bi相が粗大化している。その結果、耐疲労性が低下している。
【0047】
比較例6は、無機化合物の含有量が多く、Cu合金層中に無機化合物が局部的に凝集してしまう。その結果、Cu合金層中のBi相の粒径は細かく、またBi相が等方性を有しているが、耐疲労性が低下している。
【0048】
比較例7は、無機化合物が含有されていないため、焼結工程において液相となったBiをCu合金粉末中に留めることが出来ない。その結果、Cu合金粉末同士の焼結が十分に進む前に、Biの液相がCu合金粉末表面から流れ出る。このとき、Biの液相が重力によりCu合金粉末の隙間を伝い、Cu合金層下部に流れる。その後、Bi同士が繋がるため、Cu合金層中のBi相が粗大化し、その形状はY軸方向に長く、等方性を有していない。その結果、耐疲労性が低下している。
【0049】
比較例8は、Biに対して比重の小さい無機化合物が含有され、比較例9は、Biに対して比重の大きい無機化合物が含有されているため、Cu合金層中のBi相の粗大化を抑制する効果が十分でなく、Bi相が粗大化している。その結果、耐疲労性が低下している。
【0050】
比較例10は、平均粒径が本発明範囲より若干大きい無機化合物を使用し、更にCu相を強化する目的でSnを含有している。そのため、混合工程においてCu合金粉末表面のBi相に無機化合物が埋収し難く、その後の焼結工程において液相となったBiをCu合金粉末中に留める効果が十分でない。また、Snを含有させているため、Cu−Snの液相量が多く、Cu合金粉末が流動し易い。その結果、Cu合金粉末同士が十分に焼結する前に、Biの液相がCu合金粉末表面から流れ出る。このとき、Biの液相が重力によりCu合金粉末の隙間を伝い、Cu合金層下部に向かって流れる。その後、Bi同士が繋がるため、Cu合金層中のBi相が粗大化し、その形状はY軸方向に長く、等方性を有していない。その結果、耐疲労性が低下している。
【0051】
本実施形態に係る銅系摺動材料は、内燃機関のすべり軸受材料に限定されず、各種産業機械のすべり軸受材料に適用できる。また、本実施形態に係る銅系摺動材料は、Cu合金層上にオーバレイ層を形成させた多層軸受としても使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼裏金層及びCu合金層からなる銅系摺動材料であって、前記Cu合金層はBiを10〜30質量%及び無機化合物を0.5〜5質量%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる銅系摺動材料において、
前記無機化合物は、平均粒径が1〜5μmで、前記Biの比重に対して70〜130%の比重であり、
前記Biによって前記Cu合金層中に形成されるBi相は、平均粒径が2〜15μmで、前記Cu合金層中に分散し、且つ等方性を有していることを特徴とする銅系摺動材料。
【請求項2】
前記無機化合物は、前記Biの比重に対して90〜110%の比重であることを特徴とする請求項1記載の銅系摺動材料。
【請求項3】
前記無機化合物は、金属の炭化物、窒化物、珪化物であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の銅系摺動材料。
【請求項4】
前記Cu合金層は、さらにSnを0.5〜5質量%含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の銅系摺動材料。
【請求項5】
前記Cu合金層は、さらにNi、Fe、P、Agからなる群の中から少なくとも1種以上を総量で0.1〜10質量%含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の銅系摺動材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−174118(P2011−174118A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37854(P2010−37854)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】