説明

銅製錬排ガスの冷却洗浄方法

【課題】 銅製錬排ガスを冷却洗浄するガス精製工程において、冷却洗浄液中に取り込まれる水銀を、ガス精製工程内で除去することが可能な銅製錬排ガスの冷却洗浄方法を提供する。
【解決手段】 SOを主成分とする銅製錬排ガスを増湿塔6で冷却洗浄するガス精製工程において、銅製錬工程における転炉煙灰の集塵機から回収した白煙灰をスラリーとし、銅製錬排ガスを冷却洗浄する冷却洗浄液7中に上記白煙灰スラリーを混合して、白煙灰濃度が0.05〜0.3g/lとなるように白煙灰を添加した冷却洗浄液7を用いて銅製錬排ガスを冷却洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬工場から排出される製錬排ガスをガス精製工程において冷却洗浄する方法、特に、冷却洗浄液中に取り込まれる水銀を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、銅製錬工場において発生する製錬排ガスは、硫酸工場に原料として送られ、ガス精製工程、乾燥工程、転化工程、吸収工程を経ることにより硫酸が製造されている。上記銅製錬排ガスの主成分はSOであるが、不純物としてSOと重金属や金属のヒュームを含有し、硫酸工場の最初の工程であるガス精製工程において冷却洗浄液により冷却洗浄される。
【0003】
例えば、硫酸工場の最初の工程であるガス精製工程において、銅製錬排ガスは増湿塔に導かれ、冷却洗浄液のシャワーを通過する間に冷却洗浄される。この冷却洗浄により、銅製錬排ガス中に含まれるSO及び重金属や金属のヒュームなどは冷却洗浄液中に取り込まれるため、銅製錬排ガスは不純物をほとんど含まないSOとなって次の乾燥工程に送られる。
【0004】
一方、増湿塔内部にシャワー状に放出された冷却洗浄液は、増湿塔カローコンに導かれ、オーバーフロー樋を経て増湿塔ポンプタンクに取り出された後、ポンプで再度増湿塔に循環させる方式により繰り返し使用される。繰り返し使用された冷却洗浄液にはSOが取り込まれて硫酸が生成するが、同時に重金属ヒュームや金属ヒュームなど不純物も取り込まれるため、水銀(Hg)などの不純物が多く含まれていて製品硫酸とはならない。
【0005】
上記ガス精製工程で水銀(Hg)などの重金属が取り込まれた冷却洗浄液は、所定使用期間の後に抜き出されるが、製品硫酸とはならず、廃酸と呼ばれて廃酸石膏の原料なる。廃酸から製造された廃酸石膏は、粒子内に重金属を含むか又は表面に重金属が付着した状態である。この重金属の中でも、特にHgが所定濃度より高濃度に混入した廃酸石膏は不良品となる。
【0006】
Hg濃度が高いため不良品となった廃酸石膏は、廃酸石膏中のHgを分離することが困難なため、Hg濃度の十分に低い廃酸石膏が製造された際に、廃酸石膏製造用の反応槽に再溶解させて、全体のHg濃度を所定濃度以下に低下させる必要であることから、再処理コストが発生して経済的に不利である。そのため、ガス精製工程終了後に、得られた廃酸中のHgを除去する方法が検討されているが、ガス精製工程中に冷却洗浄液中からHgを除去する方法は知られていない。
【0007】
例えば、特開2005−154196号公報(特許文献1)には、ガス精製工程から抜き出された廃酸中から重金属を硫化物として除去する方法が記載されている。しかし、この方法は、ガス精製工程から抜き出された廃酸を水で希釈した後、水硫化ソーダを添加して重金属類を硫化物とするため、作業工程の増加や薬品の使用により新たなコストが発生するなどの問題があった。
【特許文献1】特開2005−154196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の状況に鑑み、銅製錬排ガスを冷却洗浄するガス精製工程において、冷却洗浄液中に取り込まれる水銀を除去することが可能な銅製錬排ガスの冷却洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、発明者らは、ガス精製工程で冷却洗浄液中に取り込まれる水銀の除去について鋭意研究を行った結果、転炉煙灰の集塵機から回収した白煙灰をスラリー状にしてガス精製工程中の冷却洗浄液に添加することによって、低コストで簡単に水銀を除去することが可能であることを見出した。
【0010】
即ち、本発明が提供する銅製錬排ガスの冷却洗浄方法は、銅製錬工程から排出されたSOを主成分とする製錬排ガスのガス精製工程において、該製錬排ガスを冷却洗浄する冷却洗浄液中に、上記銅製錬工程における転炉煙灰の集塵機から回収した白煙灰を0.05〜0.3g/l添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銅製錬排ガスを冷却洗浄するガス精製工程内において、冷却洗浄液中に取り込まれる水銀を簡単に除去することができる。従って、ガス精製工程後の冷却洗浄液(廃酸)を、そのまま廃酸石膏の製造工程に供給して、水銀濃度の低い良品の廃酸石膏を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明においては、銅製錬排ガスを冷却洗浄するガス精製工程において、同じ銅製錬工程における転炉煙灰の集塵機から回収した白煙灰を0.05〜0.3g/l添加した冷却洗浄液を使用する。この白煙灰を0.05〜0.3g/l添加した冷却洗浄液を使用することにより、冷却洗浄液中に取り込まれる水銀(Hg)を、ガス精製工程内において除去することが初めて可能となった。
【0013】
具体的には、上記白煙灰を冷却洗浄液(一般に工業用水)と撹拌して100g/l程度のスラリー状とし、冷却洗浄液に白煙灰濃度が0.05〜0.3g/lとなるように添加する。冷却洗浄液中の白煙灰濃度が0.05g/l未満の場合又は0.3g/lを超える場合には、いずれも十分なHgの除去効果が得られなくなるため好ましくない。冷却洗浄液中の更に好ましい白煙灰濃度は、0.1〜0.2g/lの範囲である。
【0014】
尚、白煙灰の主な成分は、XRD定性分析によれば、Pb(SO)、PbO、PbBi、Zn(AsO)(OH)、Zn(OH)、CuOである。白煙灰の添加が冷却洗浄液からのHg除去に有効な理由は明らかではないが、白煙灰成分のイオン化によって、冷却洗浄液中に取り込まれたHgイオンが金属Hgとして析出する反応が促進され、その結果Hgが除去されるものと推定される。
【0015】
次に、本発明方法について、図面を参照して詳しく説明する。白煙灰はスラリーとして冷却洗浄液に添加することが望ましい。例えば、図1に示すように、混合槽1に白煙灰と冷却洗浄液(一般に工業用水)を供給し、撹拌機2及びエア吹き込み等により撹拌して、濃度100g/l程度の白煙灰スラリー3を調整する。尚、途中で濃度調整する場合には、必要に応じて、白煙灰と冷却洗浄液の両方又はいずれか片方を必要量添加すればよい。
【0016】
白煙灰スラリー3は、循環ポンプによって循環配管4を循環しながら、銅製錬排ガスを冷却洗浄する増湿塔(図2参照)に供給される。また、循環配管4から分岐した増湿塔への供給口の近傍には、白煙灰スラリー3の流量を測定するための流量測定器5を設け、増湿塔内の冷却洗浄液中の白煙灰濃度が所定範囲内となるように、白煙灰スラリー3の流量をコントロールする。
【0017】
銅製錬排ガスのガス精製工程では、図2に示すように、増湿塔6の内部に導入された銅製錬排ガスが、白煙灰を含む冷却洗浄液7のシャワーを通過する間に冷却洗浄され、不純物をほとんど含まないSOとなり、冷却洗浄済みの銅製錬排ガスとして次の乾燥工程に送られる。冷却洗浄液7は、増湿塔6の内部でシャワー状に放出され滞留した後、増湿塔カローコン8に導かれ、オーバーフロー樋9を経て増湿塔ポンプタンク10に取り出され、循環配管11を通って再び増湿塔6の内部に循環させる方式で繰り返し使用される。
【0018】
上記冷却洗浄液7には、図1の循環配管4から白煙灰スラリー3が供給添加されることによって、常に所定濃度の白煙灰が含まれている。例えば図2に示す増湿塔6では、増湿塔カローコン8のオーバーフロー樋9に白煙灰スラリー3が供給され、常に冷却洗浄液7中の白煙灰濃度が0.05〜0.3g/lとなるようにコントロールされる。
【0019】
繰り返し使用された冷却洗浄液は、SOが取り込まれて硫酸が生成し、所定使用期間の後に廃酸として抜き出され、廃酸石膏の製造工程に送られる。尚、冷却洗浄液(廃酸)中の硫酸濃度は、通常140〜210g/l程度である。このようにして得られた冷却洗浄液(廃酸)は、不純物の量が少なく、特に水銀(Hg)の含有量を従来に比べて大幅に低減させることができる。従って、従来の廃酸のように水銀の除去処理を行う必要がなく、そのまま廃酸石膏製造工程に供給して、水銀濃度が低い良品の廃酸石膏を製造することができる。
【実施例】
【0020】
図1に示す白煙灰スラリー調整装置を用い、白煙灰と工業用水を混合することにより、白煙灰スラリー3を調整した。この白煙灰スラリー3を、循環配管4に循環させながら、図2に示す増湿塔6のオーバーフロー樋9に供給して、冷却洗浄液7に白煙灰を添加した。その際、白煙灰スラリー3の流量をコントロールして、冷却洗浄液7中における白煙灰濃度を、それぞれ0.05g/l、0.15g/l、及び0.3g/lとなるように調整した。
【0021】
上記3種の白煙灰濃度の冷却洗浄液7を用い、それぞれ増湿塔6にて銅製錬排ガスを冷却洗浄した。一定時間の冷却洗浄を実施した後、各冷却洗浄液7中のHg濃度を測定し、それぞれ水銀除去率を求めた。得られた水銀除去率を、各冷却洗浄液中の硫酸濃度と共に、各冷却洗浄液の白煙灰濃度ごとに図3に示す。
【0022】
図3のグラフから分るように、白煙灰濃度0.05g/lの冷却洗浄液での水銀除去率は約7〜20%程度であり、白煙灰濃度0.15g/lでの水銀除去率は約30〜50%程度と増大し、白煙灰濃度0.3g/lでの水銀除去率は約30〜40%と若干減少した。また、この間の冷却洗浄液中の硫酸濃度は140〜210g/lの範囲であるが、いずれの白煙灰濃度でも、200g/l程度の硫酸濃度の場合に高い水銀除去効率が得られることが分る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】白煙灰スラリー調整装置の具体例を示す概略図である。
【図2】増湿塔での銅製錬排ガスのガス精製工程を示す概略図である。
【図3】水銀除去率と冷却洗浄液の硫酸濃度の関係を冷却洗浄液中の白煙灰濃度ごとに示したグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1 混合槽
2 撹拌機
3 白煙灰スラリー
4 循環配管
5 流量測定器
6 増湿塔
7 冷却洗浄液
8 増湿塔カローコン
9 オーバーフロー樋
10 増湿塔ポンプタンク
11 循環配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬工程から排出されたSOを主成分とする製錬排ガスのガス精製工程において、該製錬排ガスを冷却洗浄する冷却洗浄液中に、上記銅製錬工程における転炉煙灰の集塵機から回収した白煙灰を0.05〜0.3g/l添加することを特徴とする銅製錬排ガスの冷却洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−173542(P2008−173542A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7560(P2007−7560)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】