説明

鋳型造型用硬化剤組成物及び鋳型の製造方法

【課題】ギ酸メチルを含有し、かつ、特殊引火物に該当しない鋳型造型用硬化剤組成物、及び該鋳型造型用硬化剤組成物を用いた鋳型の製造方法を提供すること。
【解決手段】ギ酸メチルと、ケトン類、アルコール類、及びギ酸メチル以外のエステル類から選択される少なくとも一種からなる成分(I)とを主成分とし、平衡還流沸点が40℃超であることを特徴とする鋳型造型用硬化剤組成物;耐火性粒状材料と水溶性アルカリフェノール樹脂とを含有する砂組成物に、前記鋳型造型用硬化剤組成物を接触させることによって、前記砂組成物を硬化させることを特徴とする鋳型の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型造型用硬化剤組成物及び鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から鋳型造型法としてガス硬化鋳型造型法がある。
このガス硬化鋳型造型法は、珪砂等の耐火性粒状材料に、水溶性アルカリフェノール樹脂を含有する粘結剤組成物を添加して混練することにより混練砂(砂組成物)を調製した後、該混練砂を型に充填し、ガス化させた硬化剤をその型内に通気することにより前記粘結剤組成物を硬化させて鋳型を得る方法である。ガス硬化鋳型造型法によれば、常温下で前記粘結剤組成物を硬化できるため、他の鋳型造型法の一つである熱硬化鋳型造型法に比べて、得られる鋳型の寸法精度が良好である。
これまでにガス硬化鋳型造型法としては、硬化剤としてアミンガスを使用した造型法(例えば特許文献1参照)、硬化剤として炭酸ガスを使用した造型法(例えば特許文献2,3参照)、硬化剤としてギ酸メチルガスを使用した造型法などが提案されている(例えば特許文献3〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−102842号公報
【特許文献2】特公平04−76947号公報
【特許文献3】特開平08−90149号公報
【特許文献4】特公昭61−37022号公報
【特許文献5】特開2002−3697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、硬化剤としてアミンガスを使用した造型法では、毒性の強いアミンガスにより作業環境が悪化する問題があった。
また、炭酸ガスを使用した造型法では、得られる鋳型の強度が低く、また、混練砂のリサイクル性に劣る問題があった。
【0005】
一方、ギ酸メチルガスを使用した造型法によれば、高い強度の鋳型を得やすく、混練砂のリサイクル性が良好である。その反面、ギ酸メチルは、引火点(−26℃)と沸点(31.8℃)がいずれも低く、消防法で定める第四類の危険物である特殊引火物に該当し、指定数量が50リットルと厳しく制限されている。また、ギ酸メチルは、沸点が低いために揮発しやすく、その蒸気の有害性が高いという欠点を有する。
こうした理由から、硬化剤としてギ酸メチルガスを使用したガス硬化鋳型造型法を実施する場合、鋳型の製造工場は、ギ酸メチルを指定数量以下で使用するか、又は、消防法の厳しい基準を満たして許可を得なければならない。
【0006】
以上より、日本においては、ギ酸メチルを使用したガス硬化鋳型造型法はほとんど普及していないのが実情である。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、ギ酸メチルを含有し、かつ、特殊引火物に該当しない鋳型造型用硬化剤組成物、及び該鋳型造型用硬化剤組成物を用いた鋳型の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、消防法で定める第四類の危険物の確認試験において、引火点が−20℃以下であっても、沸点が40℃を超え、かつ、発火点が100℃を超えていれば、特殊引火物に該当しないことに着眼し、鋭意検討したことにより本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の鋳型造型用硬化剤組成物は、ギ酸メチルと、ケトン類、アルコール類、及びギ酸メチル以外のエステル類から選択される少なくとも一種からなる成分(I)とを主成分とし、平衡還流沸点が40℃超であることを特徴とする。
前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物においては、前記成分(I)の沸点が40℃超、100℃以下であることが好ましい。
前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物においては、ギ酸メチルの含有量が15質量%以上であることが好ましい。
【0009】
前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物においては、前記成分(I)がアセトンであり、かつ、ギ酸メチルとアセトンとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/アセトン=30/70〜58/42であることが好ましい。
前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物においては、前記成分(I)がエタノールであり、かつ、ギ酸メチルとエタノールとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/エタノール=30/70〜55/45であることが好ましい。
前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物においては、前記成分(I)がメタノールであり、かつ、ギ酸メチルとメタノールとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/メタノール=30/70〜50/50であることが好ましい。
前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物においては、前記成分(I)がメチルエチルケトンであり、かつ、ギ酸メチルとメチルエチルケトンとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/メチルエチルケトン=20/80〜65/35であることが好ましい。
前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物においては、前記成分(I)がイソプロピルアルコールであり、かつ、ギ酸メチルとイソプロピルアルコールとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/イソプロピルアルコール=30/70〜55/45であることが好ましい。
前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物においては、前記成分(I)がギ酸エチルであり、かつ、ギ酸メチルとギ酸エチルとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/ギ酸エチル=15/85〜45/55であることが好ましい。
【0010】
また本発明の鋳型の製造方法は、耐火性粒状材料と水溶性アルカリフェノール樹脂とを含有する砂組成物に、前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物を接触させることによって、前記砂組成物を硬化させることを特徴とする。
本発明の鋳型の製造方法においては、ガス化又は霧化させた前記鋳型造型用硬化剤組成物を前記砂組成物に接触させることが好ましい。
【0011】
本発明において、「平衡還流沸点」とは、JIS K 2233(2006)8.1に準じて測定される混合溶液の沸点を意味する。
ギ酸メチル及び成分(I)の沸点は、各成分の飽和蒸気圧と外圧(1気圧)とが等しくなる温度を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ギ酸メチルを含有し、かつ、特殊引火物に該当しない鋳型造型用硬化剤組成物、及び該鋳型造型用硬化剤組成物を用いた鋳型の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】平衡還流温度の測定時における温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<鋳型造型用硬化剤組成物>
本発明の鋳型造型用硬化剤組成物(以下単に「硬化剤組成物」ともいう。)は、ギ酸メチルと、ケトン類、アルコール類、及びギ酸メチル以外のエステル類から選択される少なくとも一種からなる成分(I)とを主成分とし、平衡還流沸点が40℃超である。
【0015】
[ギ酸メチル]
硬化剤組成物中のギ酸メチルの含有量は、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30〜65質量%であることがさらに好ましい。
ギ酸メチルの含有量が好ましい下限値以上であれば、鋳型の製造において硬化が充分に行われ、鋳型の圧縮強度が高まる(好ましくは、硬化の後、型から取り出した直後の圧縮強度が1N/mm以上の鋳型を調製できる)。一方、ギ酸メチルの含有量が好ましい上限値以下であれば、硬化剤組成物の平衡還流沸点を40℃超に制御しやすい。
【0016】
[ケトン類、アルコール類、及びギ酸メチル以外のエステル類から選択される少なくとも一種からなる成分(I)]
(ケトン類)
本発明において「ケトン類」とは、2個の炭化水素基と結合しているカルボニル基を有するカルボニル化合物をいう。
2個の炭化水素基は、相互に同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立に、その炭素数が1又は2であるものが好ましく、その炭素数が1であるものが特に好ましい。
ケトン類のなかで好適なものとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。
化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)分類における、健康に対する有害性の急性毒性(吸入:蒸気)では、アセトンが区分外、メチルエチルケトンが区分5にそれぞれ該当し、ギ酸メチル(区分3)よりも有害性が低い。他のケトン類についても、一般的にギ酸メチルよりも有害性が低い。従って、ケトン類のなかでも、アセトン、メチルエチルケトンが好ましく、アセトンが特に好ましい。
【0017】
(アルコール類)
本発明において「アルコール類」とは、鎖式又は脂環式の炭化水素の水素原子をヒドロキシ基(OH)で置換したヒドロキシ化合物をいう。
なかでも、アルコール類としては、沸点が低目でガス化率が良いことから、鎖式の炭化水素の水素原子をヒドロキシ基(OH)で置換したヒドロキシ化合物が好ましく、そのなかでも1価のアルコールがより好ましい。前記鎖式の炭化水素の炭素数は1〜3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
アルコール類のなかで好適なものとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等が挙げられる。
GHS分類における、健康に対する有害性の急性毒性(吸入:蒸気)では、メタノール、エタノール及びイソプロピルアルコールはすべて区分外に該当し、ギ酸メチル(区分3)よりも有害性が低い。他のアルコール類についても、一般的にギ酸メチルよりも有害性が低い。従って、アルコール類のなかでも、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましく、有機溶剤中毒予防規則に該当せず、毒性がより低いことから、エタノールが特に好ましい。
エタノールについては、一般的な化石原料由来のエタノールの他に、バイオマスエタノールを用いてもよい。
【0018】
(エステル類)
本発明において「エステル類」とは、酸とアルコールとから水を分離して縮合生成する化合物、及び、理論上これに相当する構造をもつ化合物をいい、鎖状化合物であっても環状化合物であってもよい。
ギ酸メチル以外のエステル類のなかで好適なものとしては、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。
そのなかでも、鋳型の製造において硬化剤としても作用し、24時間後における鋳型の圧縮強度が高いことから、ギ酸エチルが特に好ましい。
【0019】
成分(I)のなかでも、硬化剤組成物をガス化させた際、ギ酸メチルに由来する臭気強度がより低いことから、ケトン類、アルコール類が好ましく、そのなかでも鋳型の乾きが速く、より実用的であることから、ケトン類がより好ましい。
また、成分(I)は、その沸点が40℃超、100℃以下であることが好ましく、50〜80℃であることがより好ましい。成分(I)の沸点が好ましい下限値超であれば、平衡還流沸点40℃超の硬化剤組成物を容易に調製できる。一方、成分(I)の沸点が好ましい上限値以下であれば、ガス化率の低下を防ぐことができる。
【0020】
[組成]
硬化剤組成物中の成分(I)の総含有量は、85質量%以下であることが好ましく、35〜80質量%であることがより好ましい。
成分(I)の含有量が好ましい下限値以上であれば、硬化剤組成物の平衡還流沸点を40℃超に制御しやすい。一方、成分(I)の含有量が好ましい上限値以下であれば、鋳型の製造において硬化が充分に行われ、鋳型の圧縮強度が高まる。
【0021】
硬化剤組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、上述した以外のその他成分を含有してもよい。その他成分としては、たとえばギ酸、酢酸、水等が挙げられる。
【0022】
本発明の硬化剤組成物は、ギ酸メチルと成分(I)とを主成分とする。
本発明の硬化剤組成物中に占めるギ酸メチルと成分(I)との合計量は、95質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上が特に好ましい。
【0023】
ギ酸メチルと成分(I)との混合割合は、圧縮強度の高い鋳型が得られやすいことから、硬化剤組成物の平衡還流沸点が40℃を超える範囲で、ギ酸メチルの割合が高いほど好ましい。具体的なギ酸メチルと成分(I)との混合割合を以下に示す。
【0024】
成分(I)がアセトンである場合、ギ酸メチルとアセトンとの混合割合は、質量比で、ギ酸メチル/アセトン=30/70〜58/42であることが好ましい。
成分(I)がメチルエチルケトンである場合、ギ酸メチルとメチルエチルケトンとの混合割合は、質量比で、ギ酸メチル/メチルエチルケトン=20/80〜65/35であることが好ましい。
成分(I)がエタノールである場合、ギ酸メチルとエタノールとの混合割合は、質量比で、ギ酸メチル/エタノール=30/70〜55/45であることが好ましい。
成分(I)がメタノールである場合、ギ酸メチルとメタノールとの混合割合は、質量比で、ギ酸メチル/メタノール=30/70〜50/50であることが好ましい。
成分(I)がイソプロピルアルコールである場合、ギ酸メチルとイソプロピルアルコールとの混合割合は、質量比で、ギ酸メチル/イソプロピルアルコール=30/70〜55/45であることが好ましい。
成分(I)がギ酸エチルである場合、ギ酸メチルとギ酸エチルとの混合割合は、質量比で、ギ酸メチル/ギ酸エチル=15/85〜45/55であることが好ましい。
上記のギ酸メチルと成分(I)とのいずれの混合割合においても、ギ酸メチルの割合が好ましい上限値以下であれば、硬化剤組成物の平衡還流沸点を40℃超に制御しやすい。一方、ギ酸メチルの割合が好ましい下限値以上であれば、鋳型の製造において硬化が充分に行われ、鋳型の圧縮強度がより高まる。
【0025】
[特性]
硬化剤組成物の平衡還流沸点は40℃超である。
硬化剤組成物の平衡還流沸点の上限値は、ガス化率の低下を防ぐ点から、55℃以下であることが好ましい。
【0026】
硬化剤組成物の発火点は、表1に示すように、ギ酸メチル及び成分(I)として例示したいずれの成分も100℃を大きく超えていることから、100℃を超えていることは明らかである。従って、本発明の硬化剤組成物は特殊引火物に該当しない。
尚、表1に示す発火点は、
1)独立行政法人 製品評価技術基盤機構ホームページ GHS分類対象物質一覧、
2)独立行政法人 製品評価技術基盤機構ホームページ 化学物質総合情報提供システム(CHRIP)、
3)化学品安全管理データブックCD−ROM 化学工業日報社(2000)、
4)15710の化学商品,487頁,化学工業日報社(2010.01.26発行)にそれぞれ基づくものである。
【0027】
【表1】

【0028】
以上説明した本発明の硬化剤組成物は、ギ酸メチルを含有していても、特殊引火物に該当しないものである。そのため、該硬化剤組成物は、指定数量が50リットルよりも増える等、特殊引火物扱いの場合に比べて消防法による規制が緩和されて取り扱いが容易であり、また安全性のより高いものであり、ガス硬化鋳型造型法における硬化剤ガスとして好適である。
【0029】
<鋳型の製造方法>
本発明の鋳型の製造方法は、耐火性粒状材料と水溶性アルカリフェノール樹脂とを含有する砂組成物に、前記本発明の鋳型造型用硬化剤組成物を接触させることによって、前記砂組成物を硬化させる方法である。
【0030】
耐火性粒状材料は、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性材料を回収したもの等も使用できる。
【0031】
水溶性アルカリフェノール樹脂は、フェノール類と、該フェノール類と等モル量又はそれ以上となる量のアルデヒド類とを、アルカリ金属水酸化物の存在下で反応させて得られるものである。
フェノール類は、芳香族炭化水素核の水素原子をヒドロキシ基で置換した芳香族ヒドロキシ化合物であり、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノール、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールZ等が挙げられる。
アルデヒド類は、カルボニル基に水素原子を少なくとも1個もつカルボニル化合物であり、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール等が挙げられる。
アルカリ金属水酸化物は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。
【0032】
また、砂組成物は、フェノール類とアルデヒド類とを反応させた後、水、フェノキシエタノール、シランカップリング剤(たとえばγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等)などをさらに配合して、水溶性アルカリフェノール樹脂を含有する溶液(粘結剤組成物)を調製し、該粘結剤組成物と前記耐火性粒状材料とを混練することにより得られるものでもよい。これにより得られる砂組成物は、本発明の硬化剤組成物中のギ酸メチルの水溶性アルカリフェノール樹脂への溶解性が高いことから好ましい。
該粘結剤組成物中、水溶性アルカリフェノール樹脂の含有量は、好ましくは35〜65質量%である。
【0033】
砂組成物中、耐火性粒状材料と水溶性アルカリフェノール樹脂との混合割合は、耐火性粒状材料100質量部に対して、水溶性アルカリフェノール樹脂が0.3〜2.0質量部であることが好ましく、0.5〜1.7質量部であることがより好ましい。
【0034】
砂組成物に、前記本発明の硬化剤組成物を接触させることによって、前記砂組成物を硬化させる方法は、たとえば以下のようにして行うことができる。
まず、砂組成物を、鋳型造型用の所定の型に充填する。
次いで、前記本発明の硬化剤組成物を、砂組成物が充填された前記型内へ通気して硬化を行う。その際、該硬化剤組成物をガス化又は霧化させたものを、前記型内へ通気し、前記砂組成物に接触させることが好ましい。このようなガス硬化鋳型造型法によれば、常温下であっても硬化が充分に進行するため、寸法精度の良好な鋳型が得られやすい。
ガス化又は霧化させた硬化剤組成物の使用量は、水溶性アルカリフェノール樹脂100質量部に対して、ギ酸メチル濃度で25〜310質量部が好ましく、140〜160質量部がより好ましい。ギ酸メチル濃度が好ましい下限値以上であれば、鋳型の圧縮強度が充分に得られる。一方、ギ酸メチル濃度が好ましい上限値以下であれば、大幅なコスト上昇を抑えることができる。
ガス化又は霧化させた硬化剤組成物を型内へ通気する際、硬化剤組成物と砂組成物とが充分に接触するようになって硬化が良好に進行することから、ガス圧を0.1〜0.25MPaに制御することが好ましく、該硬化剤組成物を型内へ通気する時間を6〜30秒間とすることが好ましい。また、硬化を行う際の温度条件を5〜35℃に制御することが好ましく、相対湿度を10〜60%に制御することが好ましい。
【0035】
硬化剤としてギ酸メチルを単独で用いる従来のガス硬化鋳型造型法の場合、硬化の際、水溶性アルカリフェノール樹脂100質量部に対してギ酸メチル100質量部が通常必要とされている。しかしながら、ギ酸メチル100質量部の内の約80質量部はキャリアーガスとして使用されて大気中に放出され、硬化剤として作用しているのは約20質量部である。
本発明の硬化剤組成物を用いる場合、たとえばギ酸メチルと成分(I)との質量比が50:50の混合溶液を、水溶性アルカリフェノール樹脂100質量部に対して100質量部用いれば、硬化剤組成物中には、ギ酸メチル50質量部が含有されている。該硬化剤組成物においては、ギ酸メチルがケトン類、アルコール類又はエステル類と共存することにより、ギ酸メチルの水溶性アルカリフェノール樹脂への溶解性が高まる。エステル類を用いた場合には、エステル類自体が硬化剤として作用して水溶性アルカリフェノール樹脂を硬化させる。これにより、ギ酸メチルの含有量が該硬化剤組成物中に50質量部と従来よりも少なくなっていても、硬化剤として充分に作用する。また、該硬化剤組成物を型内へ供給する際、ガス化等させた硬化剤組成物は全体として充分なガス圧を有すればよい。そのため、該硬化剤組成物の使用量は、従来の硬化剤(ギ酸メチル単独)の使用量に比べて多くする必要がない。
【0036】
以上説明した本発明の鋳型の製造方法によれば、ギ酸メチルを含有し、かつ、特殊引火物に該当しない鋳型造型用硬化剤組成物を用いて、鋳型を製造することができる。従って、本発明の鋳型の製造方法は、硬化剤としてギ酸メチルを単独で用いる従来の方法に比べて、消防法による規制が緩和され、ガス硬化鋳型造型法として利用しやすい。
また、本発明の鋳型の製造方法によれば、硬化剤中のギ酸メチルの含有量が少なく、従来の方法よりも有害性の高いガスの発生量が低減され、作業環境が大きく改善される。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<評価方法>
硬化剤組成物の平衡還流沸点の測定と、ギ酸メチルに由来する臭気強度の評価と、鋳型(テストピース)の各物性(圧縮強度、嵩密度)の測定は、それぞれ以下の方法で行った。
【0038】
[硬化剤組成物の平衡還流沸点の測定]
各実施例及び比較例で用いた硬化剤組成物の平衡還流沸点は、JIS K 2233に準じて測定した。
図1は、後述の硬化剤組成物の平衡還流温度の測定時における温度の経時変化を示すグラフである。図1において、経時で平衡に達した温度(平衡還流沸点)は52℃付近を示している(破線矢印で図示)。
【0039】
[ギ酸メチルに由来する臭気強度の評価]
各実施例及び比較例における硬化工程で、ガス化させた硬化剤組成物を木型内へ通気した後、テストピース抜型前の該木型から5cm上部のガスを、1分間に1リットルの吸引力で10分間吸引してテドラーバッグに捕集した。
その後、テドラーバッグに捕集したガスについて、パネラー5名にて臭気官能試験を実施し、ギ酸メチルに由来する臭気強度を下記評価基準に基づいて評価した。
臭気強度の評価基準:
◎:刺激臭が非常に少なく、ほとんど感じられなかった。
○:刺激臭を少し感じた。
×:刺激臭を強く感じた。
【0040】
[テストピースの圧縮強度の測定]
各実施例及び比較例で得られたテストピースの圧縮強度(鋳型強度)は、JIS Z2601の鋳物砂の試験方法に準じて、卓上抗圧力試験機(高千穂機械(株)製)を用いることにより測定した。
【0041】
[テストピースの嵩密度の測定]
各実施例及び比較例で得られたテストピースの嵩密度は、下記一般式(I)により求めた。
テストピースの嵩密度(g/cm)=テストピースの質量(g)/テストピースの体積(cm) ・・・(I)
質量測定に用いた電子天秤は、METTLER PM 4000(日本シイベルヘグナー(株)製)を用いた。
なお、嵩密度は、木型に略同質量の混練砂が充填されたことを確認するために測定している。
【0042】
<テストピースの製造例>。
(実施例1)
[砂組成物調製工程]
フェノール310.3質量部と、48質量%水酸化カリウム水溶液115.5質量部とを、温度計、冷却器及び撹拌機を備えた4つ口フラスコ中に入れて、内温80℃まで昇温した。次に、内温を80℃に保ちながら1時間かけて、50質量%ホルムアルデヒド356.7質量部を滴下し、滴下終了後、内温80℃にて1.5時間反応させた。その後、内温を70℃まで下げ、内温を70℃に保ちながら1.5時間反応させた。
反応終了後、内温を50℃まで下げ、水酸化ナトリウム64.0質量部と、水192.5質量部と、フェノキシエタノール32.4質量部と、シランカップリング剤(γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン)6.1質量部とを添加し、フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物(水溶性アルカリフェノール樹脂)及び水等を含有する粘結剤組成物1100質量部を得た。
次に、珪砂(三菱商事建材(株)製、フリーマントル新砂)100質量部に対して、上記粘結剤組成物2.0質量部を添加し、品川式万能撹拌機(MIXER、(株)品川工業所製)を用いて混練することにより混練砂(砂組成物)を得た。
【0043】
[硬化工程]
得られた砂組成物を、直ちに温度15℃、相対湿度35%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填し、該木型を密閉容器内に配置した。
その後、ギ酸メチルとアセトンとの質量比58/42の硬化剤組成物(平衡還流沸点40.2℃)2.0質量部をガス化させて前記密閉容器内へ供給し(ガス圧0.2MPa;密閉容器内の温度15℃、密閉容器内の相対湿度35%)、そのガス化した硬化剤組成物を前記木型内へ30秒間通気した。
該硬化剤組成物を前記木型内へ通気した後、直ちに前記木型からテストピースを取り出し、硬化開始から取り出し直後、1時間後、3時間後及び24時間後のテストピースの圧縮強度と嵩密度をそれぞれ測定した。また、前記木型からテストピースを取り出す前に、上記のギ酸メチルに由来する臭気強度の評価を合わせて行った。これらの結果を表2に示す。
【0044】
(実施例2〜4)
ギ酸メチルとアセトンとの混合割合(質量比)を表2に示すように変更した硬化剤組成物(各々の平衡還流沸点を表2に示す)を用いた以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの圧縮強度及び嵩密度の測定と、ギ酸メチルに由来する臭気強度の評価をそれぞれ行った。これらの結果を表2に示す。
【0045】
(実施例5〜8)
硬化剤組成物を、表3に示す混合割合(質量比)の硬化剤組成物(各々の平衡還流沸点を表3に示す)に変更した以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの圧縮強度及び嵩密度の測定と、ギ酸メチルに由来する臭気強度の評価をそれぞれ行った。これらの結果を表3に示す。
【0046】
(実施例9〜12)
硬化剤組成物を、表4に示す混合割合(質量比)の硬化剤組成物(各々の平衡還流沸点を表4に示す)に変更した以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの圧縮強度及び嵩密度の測定と、ギ酸メチルに由来する臭気強度の評価をそれぞれ行った。これらの結果を表4に示す。
【0047】
(実施例13〜16)
硬化剤組成物を、表5に示す混合割合(質量比)の硬化剤組成物(各々の平衡還流沸点を表5に示す)に変更した以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの圧縮強度及び嵩密度の測定と、ギ酸メチルに由来する臭気強度の評価をそれぞれ行った。これらの結果を表5に示す。
【0048】
(実施例17〜20)
硬化剤組成物を、表6に示す混合割合(質量比)の硬化剤組成物(各々の平衡還流沸点を表6に示す)に変更した以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの圧縮強度及び嵩密度の測定と、ギ酸メチルに由来する臭気強度の評価をそれぞれ行った。これらの結果を表6に示す。
【0049】
(実施例21〜25)
硬化剤組成物を、表7に示す混合割合(質量比)の硬化剤組成物(各々の平衡還流沸点を表7に示す)に変更した以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの圧縮強度及び嵩密度の測定と、ギ酸メチルに由来する臭気強度の評価をそれぞれ行った。これらの結果を表7に示す。
【0050】
(比較例1)
硬化剤組成物を、ギ酸メチル単独(沸点31.8℃)に変更した以外は、実施例1と同様にしてテストピースを作製し、テストピースの圧縮強度及び嵩密度の測定と、ギ酸メチルに由来する臭気強度の評価をそれぞれ行った。これらの結果を表2〜7に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
表2〜7の結果から、実施例1〜25で用いた硬化剤組成物は、いずれも平衡還流沸点が40℃を超えていた。また、ギ酸メチルと併用されている成分の発火点がいずれも100℃を大きく超えていることから、硬化剤組成物の発火点が100℃を超えていることは明らかである。従って、これらの硬化剤組成物は、いずれも特殊引火物に該当しないものである。
【0058】
また、実施例1〜25で製造されたテストピースは、比較例1で製造されたテストピースに比べて、ギ酸メチルに由来する臭気強度が大幅に低減していることが分かる。このことから、本発明の鋳型の製造方法によれば、有害性の高いガスの発生量が大幅に低減され、作業環境が大きく改善されると云える。
【0059】
さらに、実施例と比較例1との対比から、本発明の硬化剤組成物を用いて、実用上問題のない圧縮強度を有する鋳型が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸メチルと、
ケトン類、アルコール類、及びギ酸メチル以外のエステル類から選択される少なくとも一種からなる成分(I)とを主成分とし、
平衡還流沸点が40℃超であることを特徴とする鋳型造型用硬化剤組成物。
【請求項2】
前記成分(I)の沸点が40℃超、100℃以下である請求項1に記載の鋳型造型用硬化剤組成物。
【請求項3】
ギ酸メチルの含有量が15質量%以上である請求項1又は請求項2に記載の鋳型造型用硬化剤組成物。
【請求項4】
前記成分(I)がアセトンであり、かつ、
ギ酸メチルとアセトンとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/アセトン=30/70〜58/42である請求項2又は請求項3に記載の鋳型造型用硬化剤組成物。
【請求項5】
前記成分(I)がエタノールであり、かつ、
ギ酸メチルとエタノールとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/エタノール=30/70〜55/45である請求項2又は請求項3に記載の鋳型造型用硬化剤組成物。
【請求項6】
前記成分(I)がメタノールであり、かつ、
ギ酸メチルとメタノールとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/メタノール=30/70〜50/50である請求項2又は請求項3に記載の鋳型造型用硬化剤組成物。
【請求項7】
前記成分(I)がメチルエチルケトンであり、かつ、
ギ酸メチルとメチルエチルケトンとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/メチルエチルケトン=20/80〜65/35である請求項2又は請求項3に記載の鋳型造型用硬化剤組成物。
【請求項8】
前記成分(I)がイソプロピルアルコールであり、かつ、
ギ酸メチルとイソプロピルアルコールとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/イソプロピルアルコール=30/70〜55/45である請求項2又は請求項3に記載の鋳型造型用硬化剤組成物。
【請求項9】
前記成分(I)がギ酸エチルであり、かつ、
ギ酸メチルとギ酸エチルとの混合割合が、質量比で、ギ酸メチル/ギ酸エチル=15/85〜45/55である請求項2又は請求項3に記載の鋳型造型用硬化剤組成物。
【請求項10】
耐火性粒状材料と水溶性アルカリフェノール樹脂とを含有する砂組成物に、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の鋳型造型用硬化剤組成物を接触させることによって、前記砂組成物を硬化させることを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項11】
ガス化又は霧化させた前記鋳型造型用硬化剤組成物を前記砂組成物に接触させる請求項10に記載の鋳型の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−255384(P2011−255384A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129189(P2010−129189)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】