説明

鋳造品に付着された中子砂の除去方法

【課題】ワークに付着した中子砂を除去する方法であって、自動車エンジン等、細かく、複雑な中子形状の砂を容易に、かつ完全に除去する。
【解決手段】平均粒径(D50)が1mm以下の誘電材料を中子砂に対して20重量部以下、好ましくは5重量部〜10重量部添加し、中子砂の付着された鋳造品を電磁波の振動数範囲が2.45GHz〜300GHz、波長範囲が150mm〜1mm、照射エネルギーが500W〜50kWの電磁波で0.5〜60分間保持し、中子砂を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車部品等、鋳造によって成型された鋳造品(ワーク)から中子砂を除去する方法にかかり、特に自動車エンジン等、細かく、複雑な中子形状の砂を容易にかつ完全に除去する、鋳造品に付着された中子砂の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品等、各種機械部品(ワーク)の多くは鋳造により成型される。鋳造されたワークには、多量の砂が付着しており、このため、この砂を落とす作業が必要となる。例えば、自動車エンジンの鋳造部品は中子砂で空間を形成し、後処理の仕上げ時に中子砂を除去することにより成型される。
【0003】
近年、エンジン性能の向上に伴い、エンジンの内部構造は小さく、複雑な形状となっており、このため、中子形状も細かく、複雑な形状になっている。さらに、この細かく複雑な中子砂は強度を上げる必要から強く、かつ固くなっている。
【0004】
中子砂を除去する方法として、従来、ワークをエアハンマーで打撃し、この打撃力でワーク内部の中子砂を崩壊することにより除去していたが、この方法では打撃に大きな設備を必要とし、しかも高強度で硬い砂はワークから完全に除去することができず、ワーク内部に残留してしまう。さらに、ワークをハンマーで打撃する際、大きな騒音が生じるのみならず、除去された砂が飛散してしまう。
【特許文献1】特開2004−237306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は自動車部品等、鋳造によって成型された鋳造品(ワーク)特に、細かく、複雑な中子形状を有する自動車エンジンワークから強く、硬い中子砂を容易に、かつ完全に除去し、上述の公知技術に存する欠点を改良した、ワークに付着された中子砂を除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明の鋳造品に付着した中子砂の除去方法によれば、中子砂を用いて鋳造品を成型し、得られた鋳造品から鋳造品に付着している中子砂を除去するに際し、中子砂に誘電材料を添加して鋳造品を成型し、得られた中子砂の付着した鋳造品に電磁波を0.5〜60分間照射することにより中子砂を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上述の本発明方法は自動車部品等、鋳造によって成型されたワーク、特に、細かく、複雑な中子形状を有する自動車エンジンワークから、強くて硬い中子砂を容易に、かつ完全に除去し得るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を具体的に詳述する。
【0009】
本発明は中子砂を用いて鋳造品(ワーク)を成型し、得られた鋳造品から鋳造品に付着している中子砂を除去するに当って、中子砂に誘電材料を添加する。
【0010】
この誘電材料は電磁波を吸収し、吸収した電磁波を熱エネルギーに変換することができる。それは、誘電体材料にマイクロ波・ミリ波等の電磁波を照射したとき、正負の双極子の集合体である誘電材料の双極子が激しく振動回転する、すなわち、誘電体物質の内部に進入した電磁波の電場によって分子運動が生じ、その振動摩擦によって誘電材料が発熱するためである。この時の単位体積当りの発熱量Pは以下の式により表される。
【0011】
【数1】

【0012】
ここで、f:電磁波の周波数、ε:真空の誘電率、εγ:誘電材料の誘電率、tanδ:誘電材料の誘電正接(損失角)、E:電磁波電界の強さである。式中のεεγtanδは誘電材料の誘電損率であり、温度と周波数によって変化する。
【0013】
一般的にセラミックス材料では、周波数が高いほど誘電損失が高く、周波数が同じであれば温度が高いほど誘電損率が高くなる傾向がある。電子レンジの周波数である2450MHzでは石英ガラス、アルミナ、窒化珪素等の誘電損率の低い材料に電磁波を照射しても効果的な熱エネルギーへの変換は困難であるが、周波数を高くすれば、例えば、本請求項記載の振動数範囲が2.45GHz〜300GHz、波長範囲が150mm〜1mmに相当する電磁波を照射すれば、誘電材料の誘電損率が高くなるうえ、熱エネルギーへの変換効率は周波数に比例するため容易に加熱することができる。
【0014】
誘電材料として用いられる材料は特に限定されるものではなく、有機系材料、無機系材料、さらにはそれらの酸化物系材料などを用いることができる。例えば、有機系材料としてπ電子による電磁波吸収効率が高く誘電率の高い炭素材料や黒鉛系材料が挙げられ、さらにはポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリチオフェンなどが挙げられる。また、無機材料としては炭化珪素、窒化珪素、酸化珪素、炭化硼素などが挙げられ、さらにはチタン、亜鉛、鉄、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、アルミニウム、マグネシウムなどの遷移金属、およびこれら遷移金属の酸化物などが挙げられる。
【0015】
本発明はこのような誘電材料を中子成型時に中子砂に添加し、その後電磁波照射を行うことにより、誘電材料における局所的な発熱を誘起し、中子砂の成型に用いられるシェルモールド用レジン(有機系バインダー材料)を効果的に熱劣化(破壊)させ、自動車エンジン等のワークの中子砂を容易にかつ完全に除去せしめる。
【0016】
すなわち、本発明は粒径1mm以下の誘電材料を中子砂に対して20重量部以下、好ましくは5重量部〜10重量部添加し、中子砂の付着された鋳造品を振動数範囲が2.45GHz〜300GHz、波長範囲が150mm〜1mm、照射エネルギーが500W〜50kWの電磁波で0.5〜60分間保持し、細かく、複雑な中子形状の砂を容易に、かつ完全に除去する。
【0017】
また、電磁波が進入できる空間径は波長の1/4程度という経験則に照らし合わせると、本発明で用いる電磁波の波長範囲が150mm〜1mmであることから、自動車エンジン等のワークに空けられた穿孔(平均直径約20mm)内に容易に電磁波が進入でき、進入した電磁波はワークによる遮蔽効果により乱反射を繰り返し、中子砂中に存在する誘電材料に効果的な電磁波吸収を生じせしめ、結果としてより効率的な熱エネルギー変換を可能する。
【0018】
照射する電磁波の周波数の増加、あるいは照射エネルギーの増加により誘電材料による発熱エネルギー量が高められると考えられるが、産業上の利用形態、処理に要するエネルギーコスト等を考慮すると照射する電磁波の周波数、エネルギー量ともに上記範囲内にあることが好ましい。また、誘電材料の平均粒径(D50)が1mmより大きい場合は、中子砂中での分散性が著しく不良となり、電磁波照射による誘電材料の発熱に伴う中子砂の成型に用いられるシェルモールド用レジン(有機系バインダー材料)の熱劣化(破壊)効果が有効的かつ再現性良く発現できなくなる。
【0019】
以下、本発明を実施例によって具体的に詳述する。
【実施例1】
【0020】
硅砂100重量部に誘電材料として平均粒径(D50)150μmの黒鉛材料を5重量部を混合し、155℃±5℃の炉内で均一に加熱後、攪拌しながら5重量部のフェノールレジンを添加する。さらに、攪拌しながら2重量部のヘキサ水を添加し、約60秒間攪拌を継続する。さらに、攪拌しながらステアリン酸カルシウムを0.2重量部添加し、約30秒間攪拌を継続する。その後、ステンレス製のボールに移し、攪拌しながら50℃以下まで冷却することにより、シェルモールド用中子砂を調製した。
【0021】
そして、シェルモールド用中子砂を温度300℃±5℃に保持した金型(長さ50mm、幅10mm、厚さ6mm)中に充填し120秒±3秒間保持後、常温のステンレス板上に移すことによりシェルモールド用テストピースを調製した。
【0022】
このテストピースを図1に示されるアルミ製試料ホルダーAの上蓋1に形成された溝4(長さ300mm、開口部高さ6mm、幅10mm)中にはめ込むことにより設置した。3はテストピース、5は開口部である。
【0023】
図2は図1の断面図であって、上蓋1の溝4にテストピース3をはめ込んだときの状態を表す。2は下蓋である。
【0024】
次いで、シェルモールド用テストピースに周波数28GHの電磁波を、照射エネルギー500Wで10分間照射の後、直ちに連続して1kWで10分間、1.5kWで10分間、2kWで10分間、2.5kWで20分間の電磁波照射処理を行った。
【0025】
照射実験後、図1に示すように開口部に一番近い端部に設置したテストピース(位置(1))を実験1とし、開口部から50mmの位置に設置したテストピース(位置(2))を実験2、開口部から100mmの位置(中心部)に設置したテストピース(位置(3))を実験3とした。
【実施例2】
【0026】
添加する誘電材料を炭化珪素(Sic:平均粒径50μm)とした以外は、実施例1と同様の条件によりシェルモールド用テストピースへの電磁波照射処理を行い、実施例1と同様に位置(1)のテストピースを実験4、位置(2)のテストピースを実験5、位置(3)のテストピースを実験6とした。
【0027】
比較例1
電磁波照射を行わなかった以外は、実施例1と同様の条件により誘電材料として黒鉛材料を添加することによりシェルモールド用テストピースを調製した。
【0028】
比較例2
電磁波照射を行わなかった以外は、実施例2と同様の条件により誘電材料として炭化珪素を添加することによりシェルモールド用テストピースを調製した。
【0029】
比較例3
硅砂100重量部に対する誘電材料の添加しなかった以外は、実施例1と同様の条件によりシェルモールド用テストピースを調製し、実施例1と同様の条件によりシェルモールド用テストピースへの電磁波照射処理を行った。
【0030】
実施例1と実施例2の条件で処理した実験1〜実験6の試料、および比較例1〜比較例3の条件で処理した試料をインストロン社製引っ張り試験機(Model8511)を用いて三点曲げ試験を行い、それぞれの処理試料の破断応力(中子試料が破断する時の応力)と破断歪み量を測定した。その結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
結果と考察
表1に示されるように、誘電材料の添加された本発明にかかるテストピースでは、誘電材料未添加テストピースと比べて、破断応力および破断歪み量が著しく低下し、中子をより容易に除去することができる。また、誘電材料を添加した中子テストピースは、電磁波照射前には誘電材料未添加テストピースとほぼ同等の力学強度を有するが、電磁波照射後は著しく力学強度が低減する。これは、電磁波を吸収し効率的に熱エネルギーに変換できるπ電子や双極子を有する誘電材料が電磁波照射により局所的に発熱し、その周囲に存在する中子砂用シェルモールドレジン(有機系バインダー材料)を効果的に熱劣化(破壊)した結果であると考えられる。
【0033】
さらに、実施例2の実験4で用いたテストピースの三点曲げ試験後の破断面と比較例3で用いたテストピースの三点曲げ試験後の破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果、誘電材料を添加していないテストピース(比較例3)では図3の電子顕微鏡写真に示されるように、硅砂表面からシェルモールド用バインダーが剥ぎ取られるように破断しているのに対し、誘電材料を添加したテストピース(実施例2の実験4)では図4の電子顕微鏡写真に示されるように、当該バインダーから完全に崩壊し、電磁波照射前に存在したと思われるバインダー部が確認できない状態にまで変化している。この結果からも、電磁波照射によるバインダー部の熱劣化(破壊)が添加した誘電材料に誘起され、その結果バインダーの結着力が著しく低下していることを示唆するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
自動車エンジンワークの中子砂に誘電材料を添加し、電磁波照射処理することにより自動車エンジンワークの中子砂の除去が容易に行うことができる。また、本発明は短時間で中子砂の除去ができることから、自動車エンジン製造ラインのランニングに要する電気や熱エネルギーの低減に資する。したがって、本発明は鋳造業界において利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】上蓋中にテストピースを設置したときの平面図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】実験4で用いたテストピースの三点曲げ試験後の破断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例3で用いたテストピースの三点曲げ試験後の破断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0036】
A 試料ホルダー
1 上蓋
2 下蓋
3 テストピース
4 溝
5 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中子砂を用いて鋳造品を成型し、得られた鋳造品から鋳造品に付着している中子砂を除去するに際し、中子砂に誘電材料を添加して鋳造品を成型し、得られた中子砂の付着した鋳造品に電磁波を0.5〜60分間照射することにより中子砂を除去することを特徴とする鋳造品に付着された中子砂の除去方法。
【請求項2】
請求項1において、誘電材料が振動数範囲2.45GHz〜300GHz、波長範囲が150mm〜1mmの電磁波を吸収し、熱エネルギーに変換できる材料であることを特徴とする請求項1に記載の中子砂の除去方法。
【請求項3】
請求項1において、誘電材料が平均粒径(D50)1mm以下である請求項1に記載の中子砂の除去方法。
【請求項4】
請求項1において、誘電材料が有機系材料、無機系材料、またはこれらの酸化物系材料である請求項1に記載の中子砂の除去方法。
【請求項5】
請求項4において、有機系材料がπ電子による電磁波吸収効率が高く、かつ、誘電率の高い炭素材料または黒鉛系材料である請求項4に記載の中子砂の除去方法。
【請求項6】
請求項4において、有機系材料がポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレンおよびポリチオフエンの群から選択される一種または複数種である請求項4に記載の中子砂の除去方法。
【請求項7】
請求項4において、無機系材料が炭化珪素、窒化珪素、酸化珪素および炭化硼素の群から選択される一種または複数種である請求項4に記載の中子砂の除去方法。
【請求項8】
請求項3において、無機系材料がチタン、亜鉛、鉄、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、アルミニウムおよびマグネシウムの群から選択される遷移金属、またはこれらの酸化物である請求項4に記載の中子砂の除去方法。
【請求項9】
請求項1において、電磁波が振動数範囲2.45GHz〜300GHz、波長範囲150mm〜1mmおよび照射エネルギー500W〜50kWである請求項1に記載の中子砂の除去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−160351(P2007−160351A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359759(P2005−359759)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000145149)株式会社滋賀山下 (25)
【Fターム(参考)】