説明

鋳造棒の超音波探傷検査方法および超音波探傷検査装置

【課題】断面円形の鋳造棒に対して、入射波として縦波を用いて高精度の検査できる超音波探傷検査方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つのフェイズドアレイ型プローブ1,2を水平連続鋳造の鋳型出口の近傍に配置し、連続的に鋳出される断面円形の連続鋳造棒Sに対し、水14を接触媒質として縦波斜角波および縦波垂直波による超音波探傷検査を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面円形の鋳造棒に対する超音波探傷検査方法、およびこの検査方法を実施するための超音波探傷検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、連続鋳造棒は溶湯から円柱状、角柱状あるいは中空柱状の長尺鋳塊を鋳造して製造する。鋳造方法にはフロート鋳造法、ダイレクトチル(DC鋳造)法、気体加圧ホットトップ連続鋳造法などがある。鋳造された連続鋳造棒に対しては、塑性加工時の割れの原因となる表面の不均一層を除去するとともに、外周部除去後の表面および内部欠陥の検査が行われる(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された連続鋳造棒の製造工程は、連続鋳造工程と外周除去工程との間に超音波探傷検査による内部の非破壊検査工程を設けている。超音波探傷検査は、割れ等の内部欠陥に対して検出能力が高く、また、検出した電気信号を処理することにより、画像処理が必要なX線と比較して、欠陥の自動判定が容易に可能となり、検査の精度が高く安定した検査ができるという特長がある。
【0004】
鋳造棒における表面近傍の欠陥を検査する場合、入射波として縦波垂直波を用いると底面反射波が疑似欠陥エコーとして検出されてしまうため、従来は入射波として斜角波が使われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−209516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の超音波探傷プローブで斜角波を得ようとすると横波になってしまい、縦波よりも音速の遅い横波で表面近傍の検査しようとすると、時間軸が長いので疑似欠陥エコーが検出されやすくなるという欠点がある。
【0007】
また、断面円形の鋳造棒に対し、従来のプローブで全領域を検査しようとすれば、プローブを連続鋳造棒の周方向に回転させたり、周方向に多数の超音波探傷検査用プローブを配置することが必要であった。また、多数のプローブを精度良く配置することは困難であり、精度良く配置できないことで検査精度にも難があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、断面円形の鋳造棒に対して、入射波として縦波を用いて高精度の検査をできる鋳造棒の超音波探傷検査方法、およびこの検査方法を実施するための超音波探傷検査装置の提供を目的とする。
【0009】
即ち、本発明は下記[1]〜[8]に記載の構成を有する。
【0010】
少なくとも1つのフェイズドアレイ型プローブを水平連続鋳造の鋳型出口の近傍に配置し、連続的に鋳出される断面円形の連続鋳造棒に対し、水を接触媒質として縦波斜角波および縦波垂直波による超音波探傷検査を行うことを特徴とする鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【0011】
前記鋳造棒を水槽中に水没させて超音波探傷検査を行う前項1に記載の鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【0012】
前記鋳型から鋳出方向に吐出される冷却水を接触媒質に用いて超音波探傷検査を行う前項1に記載の鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【0013】
前記鋳造棒の周方向に、複数のフェイズドアレイ型プローブを、任意の1つのフェイズドアレイ型プローブに対し、そのフェイズドアレイ型プローブの縦波斜角波および縦波垂直波による未検査領域を、他のフェイズドアレイ型プローブの縦波斜角波および縦波垂直波による検査領域が補完する角度で配置して超音波探傷検査を行う前項1〜3のいずれかに記載の鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【0014】
入射波が下方に向かうようにフェイズドアレイ型プローブを配置する前項1〜4のいずれかに記載の鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【0015】
水平連続鋳造の鋳型出口の近傍に配置され、連続的に鋳出される断面円形の鋳造棒を水没させる水槽と、
前記水槽中の水を接触媒質として前記鋳造棒を縦波斜角波および縦波垂直波によって超音波探傷検査する少なくとも1つのフェイズドアレイ型プローブ
とを備えることを特徴とする鋳造棒の超音波探傷検査装置。
【0016】
前記鋳造棒の周方向に、複数のフェイズドアレイ型プローブが、任意の1つのフェイズドアレイ型プローブに対し、そのフェイズドアレイ型プローブの縦波斜角波および縦波垂直波による未検査領域を、他のフェイズドアレイ型プローブの縦波斜角波および縦波垂直波による検査領域が補完する角度で配置されている前項6に記載の鋳造棒の超音波探傷検査装置。
【0017】
水平連続鋳造の鋳型出口から連続的に鋳出される連続鋳造棒に対し、短尺切断、ピーリング、熱処理を任意の順序で行い、さらに続いて鍛造を行う鍛造品の一貫製造方法において、鋳出し直後に前項1〜5のいずれかに記載の超音波探傷検査を行うことを特徴とする鍛造品の一貫製造方法。
【発明の効果】
【0018】
上記[1]に記載の超音波探傷検査方法によれば、断面円形の鋳造棒に対し、フェイズドアレイ型プローブにより縦波斜角波および縦波垂直波を入射して、表面近傍を含む全領域を超音波探傷検査することができる。また、音速の速い縦波では疑似欠陥エコーが探傷画面に現れにくく、かつ一つのプローブで広範囲の探傷が可能であるため、高い検査精度が得られる。さらに、水平連続鋳造と超音波探傷検査とを連続して行うので検査効率が良く、検査結果を後の工程に反映させたり、鋳造条件にフィードバックさせることができる。しかも、検査対象部分に端面がないので端面における不感帯もなく、検査後に切断された短尺材は端面まで検査済みとなる。
【0019】
上記[2]に記載の超音波探傷検査方法によれば、上記の効果が得られる。
【0020】
上記[3]に記載の超音波探傷検査方法によれば、簡単な装置で水平連続鋳造に連続して超音波探傷検査を行うことができる。
【0021】
上記[4]に記載の超音波探傷検査方法によれば、複数のフェイズドアレイ型プローブが未検査領域を補完し合って表面近傍を含む全領域を超音波探傷検査することができる。
【0022】
上記[5]に記載の超音波探傷検査方法によれば、水中を伝播した超音波は水面に到達する以前に十分に減衰するため、疑似欠陥信号の発生が抑えられ、高精度の探傷が可能である。
【0023】
上記[6][7]に記載の超音波探傷装置によれば、上記超音波探傷検査を実施することができる。
【0024】
上記[8]に記載の鍛造品の一貫製造方法によれば、工程間で上記超音波探傷検査が行われるので、効率良く高品質の鍛造品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】断面円形の鋳造材の超音波探傷検査において、フェイズドアレイ型プローブの未検査領域を示す説明図である。
【図2】本発明の鋳造材の超音波探傷検査における超音波の伝播を示すとともに、2つのフェイズドアレイ型プローブの配置角度を説明する図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4A】本発明の超音波探傷検査装置の一実施形態を模式的に示す正面図である。
【図4B】図4Aの超音波探傷検査装置の側面図である。
【図5】本発明の超音波探傷検査装置の他の実施形態を模式的に示す一部断面を含む斜視図である。
【図6A】本発明の超音波探傷検査装置を用いる検査工程を組み入れた、鋳造から鍛造までの鍛造品の一貫製造方法における工程フロー図である。
【図6B】本発明の超音波探傷検査装置を用いる検査工程を組み入れた、鋳造から鍛造までの鍛造品の一貫製造方法における工程フロー図である。
【図6C】本発明の超音波探傷検査装置を用いる検査工程を組み入れた、鋳造から鍛造までの鍛造品の一貫製造方法における工程フロー図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明で用いるフェイズドアレイ型プローブは、複数の探触子が並列するもの(プローブブロック)であり、フォーカス点を電子的に制御するため、探傷中のマルチフォーカス(垂直探傷と斜角探傷の組合せ)が可能であり、広い領域の検査が可能である。また、横波よりも音速の速い縦波では疑似欠陥エコーが探傷画面に現れにくいので検査精度が高い。一つのプローブブロックで広範囲の探傷が可能であるため、従来のシングルプローブを周方向に多数個配置する場合に生じる位置精度の低下による検査精度の低下がないので、高い検査精度が得られる。
【0027】
前記フェイズドアレイ型プローブは、縦波斜角(垂直を含む)で広い領域を探傷することができるが、それでも不可避的に未検査領域が生じる。本発明においては、断面円形の鋳造棒に対し、周方向に所定角度をもって複数のフェイズドアレイ型プローブを配置し、互いの未検査領域を補完し合うことによって表面近傍を含む全領域をくまなく検査することができる。
【0028】
図1は、断面円形の鋳造棒(S)に対して、2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)を配置した例である。
【0029】
第1フェイズドアレイ型プローブ(1)に対し、(1A)(1A)は最大走査範囲から外れた走査外領域であり、(1B)は入射光が垂直方向に入射したときに現れる底面エコーが欠陥エコーと分類できないために発生する不感帯である。これらの領域(1A)(1A)(1B)は、第1フェイズドアレイ型プローブ(1)による探傷ができない未検査領域である。前記走査外領域(1A)(1A)は走査範囲を拡大することによって小さくなるが、検査対象が断面円形であるために完全に無くすことはできない。また、前記不感帯(1B)も不可避的に生じる領域である。同様に、第2フェイズドアレイ型プローブ(2)に対して、(2A)(2A)は最大走査範囲から外れた走査外領域であり、(2B)は疑似欠陥エコーによる不感帯であり、第2フェイズドアレイ型プローブ(2)による探傷ができない未検査領域である。
【0030】
図1より、第1フェイズドアレイ型プローブ(1)と第2フェイズドアレイ型プローブ(2)の未検査領域が重複しないように配置すれば全領域の検査が可能である。具体的には、第1フェイズドアレイ型プローブ(1)の走査外領域(1A)と第2フェイズドアレイ型プローブ(2)の走査外領域(2A)との間のマージン(C)、および第2フェイズドアレイ型プローブ(2)の走査外領域(2A)と第1フェイズドアレイ型プローブ(1)の不感帯(1B)との間のマージン(D)が確保されていれば全領域を検査できる。
【0031】
以下に、上述した考え方に沿って、マージン(C)=0とした時に、マージン(D)≧0となって2フェイズドアレイ型プローブ(2)の未検査領域が重ならない条件を求める方法について、図2の超音波伝播経路図を参照しつつ説明する。
【0032】
図2はマージン(C)=0の状態を示しており、第1フェイズドアレイ型プローブ(1)の走査外領域(1A)と第2フェイズドアレイ型プローブ(2)の走査外領域(2A)が重ならない状態で接している。また、2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)は同一の機能を有するものであり、共通の符号を用いて説明する。
【0033】
図2における符号は以下のとおりである。なお、図2において鋳造棒(S)の左半分の伝播経路のみを示し、右半分の伝播経路の図示は省略している。
【0034】
α:2つのフェイズドアレイ型プローブの配置角度
θ:フェイズドアレイ型プローブの最大走査角度
θ:フェイズドアレイ型プローブの有効斜角角度
θ:OPの中心角
θ:フェイズドアレイ型プローブの垂直入射波による不感帯の中心角の1/2
θ:マージン(D)の中心角
O:フェイズドアレイ型プローブの垂直入射波の入射点
P:フェイズドアレイ型プローブの走査角度最大時の斜角入射波の入射点
Q:鉛直線
r:鋳造棒の半径
図2より、マージン(C)=0のときの2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)の配置角度(α)は(i)式となり、かつ第1フェイズドアレイ型プローブ(1)の不感帯(1B)と第2フェイズドアレイ型プローブ(2)の走査外領域(1A)が重ならないための不感帯(1B)の中心角(θ)は(ii)式を満たす必要がある
α=2×(180°−2θ+θ) …(i)
180°−〔3θ+3(180°−2θ)〕≧θ …(ii)
上記(i)式は2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)の配置角度(α)の最小値(αmin)であるから、
αmin=2×(180°−2θ+θ) …(iii)
また、(ii)式より、マージン(D)の中心角(θ)は下記(iv)式となる。
【0035】
θ=180°−〔3θ+3(180°−2θ)〕−θ …(iv)
前記配置角度(α)はマージン(D)=0となるまで拡大することができるから、配置角度(α)の最大値(αmax)は下記(v)となる。
【0036】
αmax=αmin+θ
=2θ−θ−θ …(v)
従って、鋳造棒(S)の全領域を検査するための配置角度(α)の取り得る範囲は、上記(ii)式を満たし、上記(iii)式で表される最小値(αmin)から(v)式で表される最大値(αmax)までの範囲となる。即ち、下記の2つの式を満足すように2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)を配置すれば、断面円形の鋳造棒(S)の全領域を検査することができる。
【0037】
180°−〔3θ+3(180°−2θ)〕≧θ
2×(180°−2θ+θ)≦α≦2θ−θ−θ
次に、上記各式における記号に代入すべき数値について説明する。
【0038】
最大走査角度(θ)はフェイズドアレイ型プローブの仕様によって決定される角度である。
【0039】
有効斜角角度(θ)は屈折角度と前記最大走査角度(θ)で決定される角度であり、好ましくは超音波の減衰の程度と検出したい欠陥サイズとを考慮する。
【0040】
OPの中心角(θ)は、図3に参照されるように、OP間の距離(x)および鋳造棒(S)の半径(r)から下記(vi)式で表すことができる
θ=Sin−1(x/r) …(vi)
但し、OP間の距離(x)の実測が困難である場合は、(x)がフェイズドアレイ型プローブの大きさ(x)とx≒xの関係にあることから、実測した(x)により下記(vi’)により(θ)を求めることができる。
【0041】
θ=Sin−1(x/r) …(vi’)
前記不感帯(1B)の大きさを表すOPの中心角の1/2(θ)は、不感帯の大きさを表すものであり、実測によって求めることができる。
【0042】
よって、実測値、(iii)式、(iv)式、(vi’)式より、全領域を検査できる2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)の配置角度(α)を決定することができる。
【0043】
なお、上述した配置角度(α)を算出する計算式は同一仕様の2つのフェイズドアレイ型プローブに基づいたものであるが、異なる仕様のフェイズドアレイ型プローブを用いる場合は、各プローブの入射位置や諸角度に基づいて配置角度を求めることができる。さらに3個以上のフェイズドアレイ型プローブを用いる場合は、隣接するプローブのスキャン外領域が重ならず、かつ一つのプローブの不感帯が他のプローブのスキャン外領域に重ならないように配置すれば良い。
〔2つのフェイズドアレイ型プローブの配置角度の例〕
半径(r)が215mmの鋳造棒(S)の超音波探傷検査において、フェイズドアレイ型プローブ(1)(2)の有効斜角角度(θ)=70°、フェイズドアレイ型プローブ(1)(2)の大きさ(x)が28.7mm、不感帯の大きさ(θ)が17.5°のとき、(vi’)式より(θ)=7.6°が算出される。
【0044】
そして、(iii)式、(v)式により、αmin=95.2°、αmax=114.9°となる。従って、2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)を配置角度(α):95.2〜114.9°の範囲内に設置すれば全領域を検査することができる。但し、検査中の鋳造棒(S)の走行ゆれを考慮し、(αmin)および(αmax)を避けて上記範囲の中間点または中間点の近傍に配置することが好ましい。
【0045】
また、複数のフェイズドアレイ型プローブは、互いの未検査領域を補完し合う角度に配置すれば良いので、フェイズドアレイ型プローブが鋳造棒の周方向のどこに在っても良い。しかし、後述の超音波探傷検査装置(10)(40)のように、鋳造棒(S)の斜め上方にフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)を配置し、上方から下方に向かって超音波を入射する方が好ましい。下方から上方に向かって超音波を照射すると、鋳造棒(S)に入射されなかった超音波が水面に反射し、そのエコーが疑似欠陥信号として検出されることがあるが、上方から下方に入射すれば水面を伝播する超音波は水面に到達する以前に十分に減衰するため、エコーが疑似欠陥信号として検出されることがないので高精度の探傷が可能となるためである。また、鋳造棒(S)が位置ずれしてもフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)との位置関係が保持されるように倣い機構を付ける場合に、プローブを鋳造棒(S)の上方に配置する方が配置上の制約が少ないので、この点でも上方配置が好ましい。
【0046】
また、鋳造棒(S)とフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)との間の距離(WD)は、表面波の繰り返しエコーが疑似欠陥エコーにならないように十分な距離とすることが好ましい。
【0047】
また、検査用水槽の壁面の反射エコーが疑似欠陥信号になることがあるため、疑似欠陥信号を回避するために水槽は十分に大きいことが好ましい。鋳造棒(S)の周面から水槽の壁面までは、水中を伝播する超音波が十分に減衰するだけの距離があることが好ましい。また、水槽壁面に吸音材を配し、疑似欠陥エコーの原因となる音波をなくすことでも対応できる。
【0048】
なお、図1〜3においては、説明の都合上、第1フェイズドアレイ型プローブ(1)を真上に配置したものあり、鋳造棒(S)のフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)最適位置を示すものではない。後述の超音波探傷装置(10)(40)においては、図2および図3の(Q)が鉛直線となるようにフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)が配置されている。
〔超音波探傷検査装置〕
(第1実施形態)
図4Aおよび図4Bに示す超音波探傷検査装置(10)は、水槽(11)と2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)とを備え、鋳造棒(S)を移動させながら検査を行うものである。
【0049】
水槽(11)において、鋳造棒(S)の進行方向の壁には鋳造棒(S)を通過させるための貫通孔(12)(13)が設けられ、これらの貫通孔(12)(13)よりも十分に高い水位まで接触媒質である水(14)が貯留されている。2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)は、支持装置の垂直アーム(15)の先端に取り付けた水平アーム(16)の両端にブラケット(17)を介して角度調節自在に取り付けられ、下方を移動する鋳造棒(S)に対して斜め上方から超音波を照射するものとなされている。前記水平アーム(15)の左右方向の中間部には鋳造棒(S)に接触する倣いローラ(18)が取付けられ、鋳造棒(S)の位置ずれに対応してアーム(15)(16)の動きを制御することにより、鋳造棒(S)とフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)とが常に一定の位置関係となるようになされている。
【0050】
前記超音波探傷装置(10)は、移動中の鋳造棒(S)に対し、鋳造棒(S)の長短に関係なく検査することができる。例えば、水平連続鋳造装置の鋳型から鋳造されてくる連続鋳造棒(S)に対して、鋳造速度で連続的に検査を行うことができる。また、切断した鋳造棒に対しても、移動装置によって鋳造棒(S)を所定速度で移動させることによって検査することができる。このように水槽中(11)で鋳造棒(S)を移動させることによって、検査対象の長さに関係なく検査することができる。勿論、検査対象が水槽よりも小さい場合は、検査対象を固定してフェイズドアレイ型プローブを移動させることもできる。
【0051】
前記フェイズドアレイ型プローブ(1)(2)は、図外の制御装置により制御され、鋳造棒(S)の探傷を行い、フェイズドアレイ型プローブ(1)(2)から発せられた信号は信号処理部(20)に出力され、所定の処理を行った後に超音波検査判定装置(21)に出力される。超音波検査判定装置(21)においては、入力した信号に基づいて欠陥や傷の有無を判定し、鋳造棒(S)の良否を判断する。また、水平連続鋳造装置の鋳型から鋳造されてくる連続鋳造棒(S)の連続検査であれば、効率良く検査を行える上に、判定結果を鋳造条件にフィードバックさせたり、欠陥部分をスプレー等でマーキングしておき、後段に設置した切断装置(図示省略)において定尺に切断した後に欠陥部分を除去することもできる。また、検出した欠陥位置を記憶しておき、切断装置において欠陥部分のみを切断除去しつつ、定尺に切断することもできる。
【0052】
また、前記超音波探傷装置(10)において、連続鋳造棒(S)は移動しながら超音波探傷検査受けることができるので、検査対象部分に端面がないので端面における不感帯もなく、検査後に切断された短尺材は端面まで検査済みとなる。
【0053】
(第2実施形態)
第1実施形態の超音波探傷検査装置(10)は水槽を用いるものであって、鋳造棒の水没が容易で十分な量の接触媒質を確保できる点が有利である。
【0054】
しかし、本発明の超音波探傷検査方法は、水槽を用いることなく、水平連続鋳造装置の鋳型から鋳造棒に供給される冷却水を利用して検査を行うこともできる。冷却水を利用することによって簡単な構造の検査装置となる。
【0055】
図5は水平連続鋳造装置(30)と、鋳型の直後に配置された超音波探傷検査装置(40)を示している。
【0056】
前記連続鋳造装置(30)において、溶湯(M)はタンディッシュ(31)から注湯用ノズル(32)を経て筒状の鋳型(33)に流入する。前記鋳型(33)の出口には連続鋳造棒(S)の周囲へ冷却水(35)を供給する冷却水供給路(34)が設けられ、その吐出口(34a)は、連続鋳造棒(S)を囲む環状に形成され、かつ連続鋳造棒(S)の鋳出方向に向けて設けられている。そして、吐出口(34)から噴出した冷却水(35)は、連続鋳造棒(S)の周方向全体に供給され、連続的に鋳出される連続鋳造棒(S)の表面上を鋳出方向に流れて、連続鋳造棒(S)を冷却する。
【0057】
前記超音波探傷検査装置(40)は、連続鋳造棒(S)が遊挿される貫通孔(41)を有する環状の堰状体(42)と2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)とを備えている。前記堰状体(40)は連続鋳造棒(S)の高さに支持脚(43)によって台上に固定され、貫通孔(41)の内径は連続鋳造棒(S)の外径よりも大きく形成されている。従って、連続的に鋳出される連続鋳造棒(S)は貫通孔(41)に接触することなく孔(41)内を進んで行き、連続鋳造棒(S)の外周面と貫通孔(41)の周面の間の隙間には冷却水(35)が流れる。
【0058】
前記内部検査装置(40)において、前記吐出口(34a)から吐出し連続鋳造棒(S)の表面上を鋳出方向に流れる冷却水(35)は、前記堰状体(40)に当たって流れを妨げられてその一部は堰状体(42)の上流側に貯留され、残りは貫通孔(41)内に流れていく。
【0059】
2つのフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)は支持部材(図示省略)に支持されて、先端部が前記堰状体(42)の上流側に貯留されて水深が深くなった部分に所定の配置角度(α)で挿入されている。検査結果は、信号処理部(20)に出力され、さらに超音波検査判定装置(21)に出力される。超音波検査判定装置(21)においては、入力した信号に基づいて欠陥や傷の有無を判定し、連続鋳造棒(S)の良否を判断するとともに、判定結果を鋳造条件にフィードバックされる。
【0060】
前記超音波探傷検査装置(40)は、鋳型(33)の冷却水を接触媒質として利用するものであり、検査装置への搬送設備も不要であるから、検査のための周辺装置を簡略化できる。
【0061】
また、前記堰状体(40)の貫通孔(41)の周面にフェイズドアレイ型プローブ(1)(2)を取り付けて超音波探傷検査を行うこともできる。
〔一貫連続運転における超音波探傷検査〕
本発明の超音波探傷検査方法は、鋳造直後の連続鋳造棒の検査のみならず、連続鋳造棒の切断、熱処理、ピーリング等の種々の工程を経て出荷形態となるまでの一貫連続運転における任意の工程間において実施できる。さらには、鋳造後に鍛造を実施し、連続鋳造から鍛造品の製造までを一貫して行う際に、鋳造直後、または任意の工程間においても超音波探傷検査を行うことができる。
【0062】
図6A〜図6Cは、鋳造から鍛造品までの一貫製造の工程フローを示している。
(図6A)
水平連続鋳造した長尺の連続鋳造棒を複数の短尺材に切断し、短尺材に熱処理を施して均質化した後に、ピーリングを行って表層部の黒皮を除去する。黒皮を除去した短尺材は、要すれば外観検査を行った後、出荷する。あるいは、外観検査後の短尺材に対して、鍛造工程を実施する。前記鍛造工程には、切断(予備成形品の製作)、予備加熱、鍛造成形が含まれている。
【0063】
上記一貫連続運転において、どの工程の間でも超音波探傷検査を行うことができ、1箇所でも複数箇所でも検査することができる。(K)は、水平連続鋳造装置の鋳型から鋳出されてくる移動中の連続鋳造棒に検査を行う工程を示し、水槽を備えた超音波探傷検査装置(10)および鋳型の冷却水を利用する超音波検査装置(40)のどちらによっても検査することができる。また、(L)は長尺の連続鋳造棒を短尺材に切断して黒皮の付いた状態で検査する工程を示している。(M)はピーリング後の黒皮を除去した短尺材に対して検査を行う工程を示している。(L)および(M)の工程では、水槽を備えた超音波探傷検査装置(10)を用いることができる。
(図6B)
水平連続鋳造した長尺の連続鋳造棒を複数の短尺材に切断し、ピーリングを行って表層部の黒皮を除去する。黒皮を除去した短尺材に均質化のための熱処理を行い、さらに予熱して鍛造工程を実施する。
【0064】
上記一貫連続運転において、工程間の1箇所または複数箇所で超音波探傷検査を行うことができる。図6B中の(K)(L)(M)は図6A中の(K)(L)(M)の検査工程と同じである。
(図6C)
水平連続鋳造した長尺の連続鋳造棒を複数の短尺材に切断し、均質化のための熱処理を行った後に、ピーリングを行って表層部の黒皮を除去する。黒皮を除去した短尺材に対して鍛造工程を実施する。
【0065】
上記一貫連続運転において、工程間の1箇所または複数箇所で超音波探傷検査を行うことができる。図CB中の(K)(L)(M)は図6A中の(K)(L)(M)の検査工程と同じである。
【0066】
以上のように、連続鋳造から鍛造までの一貫製造において超音波探傷検査を行うことにより、効率良く高品質の鍛造品を製造することができる。
【0067】
本発明の連続鋳造棒の検査方法は、全ての金属の鋳造に適用できる。例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金の連続鋳造に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の鋳造棒の超音波探傷検査方法は、入射光として縦波斜角波および縦波垂直波を用い、複数のフェイズドアレイ型プローブで互いの未検査領域を補完し合うものであるから、断面円形の鋳造棒の全領域を検査することができる。この検査方法を利用することにより健全な鋳造棒を効率良く製造することができる。
【符号の説明】
【0069】
1,2…フェイズドアレイ型プローブ
1A、2A…走査外領域(未検査領域)
1B、2B…不感帯(未検査領域)
10,40…超音波探傷検査装置
33…鋳型
35…冷却水
41…貫通孔
42…堰状体
S…鋳造棒(連続鋳造棒)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのフェイズドアレイ型プローブを水平連続鋳造の鋳型出口の近傍に配置し、連続的に鋳出される断面円形の連続鋳造棒に対し、水を接触媒質として縦波斜角波および縦波垂直波による超音波探傷検査を行うことを特徴とする鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【請求項2】
前記鋳造棒を水槽中に水没させて超音波探傷検査を行う請求項1に記載の鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【請求項3】
前記鋳型から鋳出方向に吐出される冷却水を接触媒質に用いて超音波探傷検査を行う請求項1に記載の鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【請求項4】
前記鋳造棒の周方向に、複数のフェイズドアレイ型プローブを、任意の1つのフェイズドアレイ型プローブに対し、そのフェイズドアレイ型プローブの縦波斜角波および縦波垂直波による未検査領域を、他のフェイズドアレイ型プローブの縦波斜角波および縦波垂直波による検査領域が補完する角度で配置して超音波探傷検査を行う請求項1〜3のいずれかに記載の鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【請求項5】
入射波が下方に向かうようにフェイズドアレイ型プローブを配置する請求項1〜4のいずれかに記載の鋳造棒の超音波探傷検査方法。
【請求項6】
水平連続鋳造の鋳型出口の近傍に配置され、連続的に鋳出される断面円形の鋳造棒を水没させる水槽と、
前記水槽中の水を接触媒質として前記鋳造棒を縦波斜角波および縦波垂直波によって超音波探傷検査する少なくとも1つのフェイズドアレイ型プローブ
とを備えることを特徴とする鋳造棒の超音波探傷検査装置。
【請求項7】
前記鋳造棒の周方向に、複数のフェイズドアレイ型プローブが、任意の1つのフェイズドアレイ型プローブに対し、そのフェイズドアレイ型プローブの縦波斜角波および縦波垂直波による未検査領域を、他のフェイズドアレイ型プローブの縦波斜角波および縦波垂直波による検査領域が補完する角度で配置されている請求項6に記載の鋳造棒の超音波探傷検査装置。
【請求項8】
水平連続鋳造の鋳型出口から連続的に鋳出される連続鋳造棒に対し、短尺切断、ピーリング、熱処理を任意の順序で行い、さらに続いて鍛造を行う鍛造品の一貫製造方法において、鋳出し直後に請求項1〜5のいずれかに記載の超音波探傷検査を行うことを特徴とする鍛造品の一貫製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公開番号】特開2013−11630(P2013−11630A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−228818(P2012−228818)
【出願日】平成24年10月16日(2012.10.16)
【分割の表示】特願2007−336453(P2007−336453)の分割
【原出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】