説明

鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法

【課題】生産性を著しく向上せしめ得ると共に、複合材料中の不純物を有利に低減することが出来る、鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法を提供すること。
【解決手段】セラミックス粉末にマグネシウム粉末を混合せしめて均一な粉末混合物を形成し、それを密閉容器内に収容して、周囲雰囲気を減圧吸引により除去した後、窒素ガスを導入して、かかる粉末混合物の周りの雰囲気を窒素ガスにて置換し、その後、粉末混合物をかかる置換された窒素ガス雰囲気中において加熱することにより、マグネシウムと窒素とを反応させて、生成した窒化マグネシウムをセラミックス粉末の表面に被着せしめ、かかる窒化マグネシウムの被着されたセラミックス粉末に対して、予め不純物除去処理が施されてなるアルミニウム合金の溶湯を配合し、高温下において、均一に混合撹拌せしめることにより、均一な鋳造用の複合溶湯を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法に係り、特に、基材としてのアルミニウム合金に対して、セラミックス粉末を強化材として複合させてなる、鋳造用の金属−セラミックス複合材料を製造する方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属に対してセラミックスを強化材として複合させてなる金属−セラミックス複合材料は、軽量で、且つ高強度、高剛性、高耐磨耗性、高耐熱性、低熱膨張性等の特性を有しているところから、そのような特性を利用して、特に、自動車、航空機構造部品用の鋳造用材料として、広く用いられてきている。
【0003】
そして、かかる金属−セラミックス複合材料のうち、基材であるアルミニウム合金に、強化材であるセラミックス粉末を混合せしめて、鋳造用の金属−セラミックス複合材料を得る一つの方法として、例えば、特開平11−264035号公報(特許文献1)においては、セラミックス粉末のプリフォームにアルミニウム合金のインゴットを接触させて溶融せしめることによって含浸させる、所謂非加圧浸透法により、先ず、セラミックス粉末にアルミニウム合金を含浸させた中間素材を得、次いでその得られた中間素材を更に溶融した後、それを溶解アルミニウム合金にて鋳造可能な程度にまで希釈する方法が、明らかにされている。
【0004】
しかしながら、このような方法では、セラミックス粉末とアルミニウム合金とからなる中間素材を作製した後、更に、それをアルミニウム合金にて希釈する必要があるところから、アルミニウム合金の溶融、冷却等の手間及びコストのかかる工程を少なくとも二回以上行うことが必要となる他、アルミニウム合金(溶湯)による希釈操作も加わり、そのため、非常に生産性の低いものとなっているのである。
【0005】
また、そのような非加圧浸透法による中間素材の作製には、一般に、セラミックス粉末とマグネシウムを含むアルミニウム合金とを、非加圧状態の下、窒素気流中で加熱して、溶融したマグネシウムと周囲雰囲気中の窒素との反応によりセラミックス粉末表面に窒化マグネシウムを生成させ、そしてこの窒化マグネシウムの作用によって、溶融したアルミニウム合金を重力の作用によって自然にセラミックス粉末間に浸透せしめるようにした手法が採用されるのであるが、かかるアルミニウム合金の浸透には、長時間(先の特許文献1の実施例1〜3においては、12時間)を要するものであるところから、上記した理由に加えて、更に一層、生産性の低いものとなっていた。
【0006】
しかも、上記したような非加圧浸透法においては、中間素材の作製に際して用いられるアルミニウム合金の表面には、既に酸化皮膜が形成されているところから、そのようなアルミニウム合金表面の酸化物等の不純物が、かかる中間素材を更に溶融アルミニウム合金にて希釈することによって最終的に得られる複合材料に混入することは、避けられないものとなっていたのである。それは、セラミックス粉末が混合せしめられたアルミニウム合金に対しては、セラミックス粉末も同時に分離されることとなるところから、金属溶湯中の不純物除去に一般的に採用されている気泡による不純物除去処理技法を適用することが出来ず、得られた中間素材から不純物を除去することは、非常に困難であったからである。そして、そのような不純物は、複合材料の流動性に対して悪影響を与え、かかる複合材料を溶湯として用いて鋳造した場合には、湯回り不良による製品不良等の問題が惹起され、また、そのような不純物を含有した溶湯を用いて得られた鋳造製品にあっては、剛性が低下する等の、特性上の問題をも内在するものであったのである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−264035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、生産性を著しく向上せしめ得ると共に、複合材料中の不純物を有利に低減することが出来る、鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明にあっては、上記した課題又は明細書全体の記載から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、有利に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組合せにおいても採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びにそこに開示の発明思想に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0010】
(1) 基材としてのアルミニウム合金に対してセラミックス粉末を強化材として複合させてなる鋳造用の金属−セラミックス複合材料を製造する方法にして、(A)前記セラミックス粉末にマグネシウム粉末を混合せしめて、均一な粉末混合物を形成する工程と、(B)該粉末混合物を密閉容器内に収容して、かかる粉末混合物の周囲雰囲気を減圧吸引により除去した後、窒素ガスを導入して、該粉末混合物の周りの雰囲気を窒素ガスにて置換する工程と、(C)該粉末混合物を該置換された窒素ガス雰囲気中において加熱することにより、マグネシウムと窒素とを反応させて、窒化マグネシウムを生成せしめる一方、前記セラミックス粉末の表面に該生成した窒化マグネシウムを被着せしめる工程と、(D)かかる窒化マグネシウムの被着されたセラミックス粉末に対して、予め不純物除去処理が施されてなる前記アルミニウム合金の溶湯を配合し、高温下において、均一に混合撹拌せしめることにより、均一な鋳造用の複合溶湯を形成する工程とを、含むことを特徴とする鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【0011】
(2) 前記マグネシウム粉末が、前記粉末混合物中において5重量%以下の含有量となるように、混合せしめられていることを特徴とする上記態様(1)に記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【0012】
(3) 前記周囲雰囲気の減圧吸引除去と窒素ガスの導入操作とが、繰り返し、複数回実施されることを特徴とする上記態様(1)又は(2)に記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【0013】
(4) 前記窒化マグネシウムの生成のために、前記粉末混合物が、650℃以上の温度に加熱せしめられることを特徴とする上記態様(1)乃至(3)の何れか一つに記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【0014】
(5) 前記アルミニウム合金溶湯が、前記セラミックス粉末の含有割合が40容量%以下となる割合において、配合せしめられることを特徴とする上記態様(1)乃至(4)の何れか一つに記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【0015】
(6) 前記アルミニウム合金溶湯とセラミックス粉末との配合の後、昇温を行い、所定時間保持した後、撹拌して、均一な複合溶湯を得るようにしたことを特徴とする上記態様(1)乃至(5)の何れか一つに記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【0016】
(7) 前記アルミニウム合金が、合金成分としてSiを含有することを特徴とする上記態様(1)乃至(6)の何れか一つに記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【発明の効果】
【0017】
このような本発明に従う鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法にあっては、従来の如く、予め、アルミニウム合金のインゴットを溶融させてセラミックス粉末に含浸させてなる中間素材の作製を行う必要が全くないため、製造工程が著しく短縮されることとなるのであり、以て、鋳造用の金属−セラミックス複合材料の生産性を、有利に向上せしめることが出来るのである。
【0018】
しかも、本発明に従う製造法にあっては、窒化マグネシウムの生成とアルミニウム合金の溶融とが全く別の系にて行われるものであるところから、従来のように、最終的に得られる複合材料中に、中間素材の作製に際して用いられるアルミニウム合金表面の酸化物による不純物が混入せしめられるようなことは、全くないのである。そして、本発明では、セラミックス粉末の表面に、窒化マグネシウムを被着せしめた後、アルミニウム合金の溶湯を配合し、混合撹拌せしめるようにするものであるところから、かかるセラミックス粉末とアルミニウム合金との混合が、非常に有利に速やかに行われ得ることとなり、以て、アルミニウム合金の酸化を可及的に阻止しつつ、鋳造用の金属−セラミックス複合材料の生産性を、より一層有利に向上せしめる得ることとなるのである。
【0019】
また、セラミックス粉末表面への窒化マグネシウムの被着に際しても、周囲雰囲気を減圧吸引により除去した後、窒素ガスを導入するようにするものであるところから、セラミックス粉末表面に付着し或いは存在する酸素をも可及的に低減せしめ得、以て周囲雰囲気中の窒素純度をより一層有利に向上せしめ得ることとなるのであり、このため、窒素気流中、窒化マグネシウムを生成せしめる従来の方法に比べて、セラミックス粉末表面への窒化マグネシウムの被着を、より確実に行うことが出来ることとなって、窒化マグネシウムの被着されたセラミックス粉末のアルミニウム合金との混合を、より一層速やかに行うことが出来るのである。しかも、セラミックス粉末の周囲雰囲気中の酸素が、そのような減圧吸引により有利に系外へ排出されるため、前述したアルミニウム合金の酸化防止に加えて、セラミックス粉末の酸化をも有利に防止し得、以て、最終的に得られる複合材料への不純物の混入を有利に回避することが出来るために、それを鋳造して得られる鋳造製品にあっては、特性低下、製品不良を惹起することのない良質のものが、有利に得られることとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ところで、本発明に従う鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法においては、アルミニウム合金とセラミックスとの濡れ性を、セラミックス粉末の表面に窒化マグネシウムを被着せしめることによって、改善するものであるが、そこで、かかる窒化マグネシウムは、マグネシウム粉末を、窒素雰囲気中で加熱せしめることによって、容易に形成されるものである。即ち、本発明においては、下記反応式(I)で表される反応に従って、溶融したマグネシウムと周囲雰囲気中の窒素とから、窒化マグネシウムが、生成せしめられることとなるのである。
【0021】
【化1】

【0022】
このように、本発明に従う鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法にあっては、上記した反応を利用して、窒化マグネシウムが形成され、そしてそのような窒化マグネシウムが表面に被着せしめられたセラミックス粉末を得るのであるが、本発明では、先ず、かかる複合材料における強化材としてのセラミックス粉末に、マグネシウム粉末を混合せしめて、均一な粉末混合物が形成される。このように、セラミックス粉末とマグネシウム粉末とを均一な粉末混合物とすることによって、後述する窒化マグネシウムの生成に際して、溶融したマグネシウムと窒素との反応が全体的に均一に行われることとなり、従って、かかる反応により生成する窒化マグネシウムが、セラミックス粉末表面に沈積/付着して、粉末表面が、アルミニウム合金との濡れ性が向上された表面に、確実に変換せしめられるようになるのである。
【0023】
ここにおいて、上記で用いられるセラミックス粉末としては、従来から公知の各種のものが、何れも採用可能であり、例えば、SiC粉末、Al23 粉末等を、例示することが出来る。また、そのようなセラミックス粉末の平均粒径は、目的に応じて適宜に決定し得るものであるが、好ましくは、2〜80μm程度のものが用いられる。前記セラミックス粉末の平均粒径を、このような範囲のものとすることによって、基材としてのアルミニウム合金中におけるセラミックス粉末の強化材としての機能が、有利に発揮せしめられることとなる。
【0024】
また、マグネシウム粉末としても、従来から公知のものが、適宜に用いられ得るものであるが、好ましくは、100メッシュアンダー程度の粒径を有するものが、用いられる。このような粒径を有するマグネシウム粉末を使用することによって、後述するマグネシウムの溶融が、非常に速やかに行われることとなり、以て、有利に製造工程の短縮を図り、生産性を向上させることが出来ることとなる。
【0025】
なお、かかるマグネシウム粉末は、有利には、前記粉末混合物中において5重量%以下の含有量となるように、混合せしめられることとなる。ここで、上記した範囲よりも多くなると、最終的に得られる複合材料中に残存する未反応のマグネシウムの量が増加し、自崩壊性のAl43 の生成を促進させるところから、これを防ぐために、複合材料中に多くのSiを配合せしめる必要が生じるようになるが、かかるSiは、複合材料の鋳造性を悪化させるため、その含有量を増大させることは、好ましくないのである。
【0026】
また、好ましくは、かかるマグネシウム粉末は、前記粉末混合物中において1重量%以上の含有量となるように、混合せしめられることとなる。ここで、上記した範囲よりも少なくなると、セラミックス粉末の窒化マグネシウムによる被着が充分ではなくなる恐れがあり、従って、後述するアルミニウム合金溶湯とセラミックス粉末との混合に際して、混合せしめ得るセラミックス粉末の配合量が減少したり、混合せしめたセラミックス粉末の分散状態が不均一になる等の問題が惹起される恐れがある。
【0027】
さらに、上記したようなセラミックス粉末及びマグネシウム粉末を均一に混合せしめるに際しては、従来から公知の手法・装置が何れも採用可能であり、それらの混合方法は、特に限定されるものではなく、従来から、粉末の混合の際に一般的に用いられている混合装置によって、それらの混合を行うことが出来る。
【0028】
次いで、本発明に従う鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法にあっては、上記したようなセラミックス粉末とマグネシウム粉末との粉末混合物を用いて、それを耐圧性の密閉容器内に収容し、そしてその周囲雰囲気を、減圧吸引により除去した後、窒素ガスを導入して、かかる粉末混合物の周りの雰囲気を窒素ガスにて置換せしめる作業が、実施される。このように、セラミックス粉末とマグネシウム粉末との粉末混合物が収容された密閉容器内の雰囲気を、減圧吸引によって除去することにより、かかる粉末混合物の周囲雰囲気中の酸素やセラミックス粉末表面に付着し或いは存在する酸素が速やかに且つ確実に系外へ排出され得ることとなるのであり、従って、その後に、窒素ガスを導入することにより、周囲雰囲気を、酸素濃度が可及的に低減された高純度の窒素ガスとすることが出来、そしてその状態において、窒化マグネシウムの生成が有利に行なわれ得るのである。
【0029】
なお、かかる減圧吸引に際して、その到達真空度が高くなれば高くなる程、本発明の目的がより良く達成され得るところから、一般に、100Torr以下、好ましくは50Torr以下、更に好ましくは10Torr以下の真空度となるように減圧吸引されることとなる。また、その際に用いられる装置としては、従来から公知のものが何れも採用可能であり、例えば、真空ポンプにて容器の内部雰囲気が除去され得るようにした耐圧容器を使用して、減圧吸引を行うことが出来る。
【0030】
また、かかる減圧吸引による雰囲気除去と窒素ガスの導入操作は、減圧吸引によって高真空度が実現される場合にあっては、一度で済ますことも可能であるが、セラミックス粉末表面に付着乃至は吸着されている酸素をより有利に除去せしめる上においても、有利には、繰り返し、複数回実施されることとなる。このように、窒素ガスによる置換を複数回(例えば、2〜5回)行うことによって、周囲雰囲気が、より高純度の窒素ガスにて置換され得ることとなる。
【0031】
そして、かかる減圧吸引による雰囲気除去と窒素ガスの導入操作とによって、密閉容器内の周囲雰囲気中のO2 濃度は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下とされることとなる。密閉容器内の周囲雰囲気を、このようなO2 濃度とすることによって、本発明の効果が、より一層有利に発揮され得ることとなるのである。即ち、周囲雰囲気の酸素濃度を可及的に低減させることによって、マグネシウム粒子表面における酸化マグネシウム(MgO)の生成を有利に阻止し、以て、効率的に窒化マグネシウムを形成し得ることとなるのである。そして、このような窒化マグネシウムの効率的な生成によって、複合材料中のマグネシウム量を有利に低減せしめることが出来、前述したような、複合材料中の過剰のマグネシウムにより惹起される問題を、有利に回避し得ることとなるのである。
【0032】
その後、本発明に従う鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法においては、かかる高純度の窒素にて置換された雰囲気中において、前記セラミックス粉末とマグネシウム粉末との粉末混合物を加熱することにより、マグネシウムと窒素とを反応させて、窒化マグネシウムを生成せしめる一方、前記セラミックス粉末の表面に、かかる生成した窒化マグネシウムが被着せしめられる。
【0033】
すなわち、上述の如くして得られた周囲雰囲気の置換された粉末混合物が、更に、窒素雰囲気中において、マグネシウムの溶融が惹起される温度まで加熱され、そして必要に応じて当該温度にて所定時間保持されることによって、窒化マグネシウムが生成せしめられることとなるが、その際の加熱温度としては、一般に、650℃以上の温度に、加熱せしめられるのである。このような温度に加熱することによって、マグネシウムの溶融が有利に促進され、更にその溶融したマグネシウムと雰囲気中の窒素との反応も有利に促進されることから、セラミックス粉末表面が窒化マグネシウムにて充分に被覆されるに要する時間を有利に短縮させられ得ることとなり、以て、生産性を更に一層有利に向上させることが出来るのである。なお、この加熱温度が、900℃を越えるようになると、窒化マグネシウムが分解されるようになるところから、余りにも高い加熱温度は避けることが好ましい。
【0034】
また、かかるセラミックス粉末表面への窒化マグネシウムの被着は、好ましくは、前記粉末混合物を撹拌しながら行われることとなる。このように、粉末混合物を撹拌せしめることによって、溶融したマグネシウムと窒素との接触がより広い範囲で且つ均一に行われることとなり、以て、窒化マグネシウムのセラミックス粉末表面への被着工程が、より短時間で完了され得ることとなるのである。
【0035】
従って、このような手法にあっては、周囲雰囲気中の酸素及びセラミックス粉末表面に存在する酸素を可及的に除去し、周囲雰囲気を窒素ガスにて置換した後、前記粉末混合物を加熱するようにするものであるところから、単に、窒素気流中において、かかる粉末混合物を加熱するようにした場合と比較して、より迅速且つ確実に、セラミックス粉末表面に窒化マグネシウムからなる薄膜が形成せしめられるのである。
【0036】
また、上述した手法にあっては、置換された雰囲気中の酸素濃度が可及的に低減せしめられているところから、窒化マグネシウムの薄膜を形成せしめる際のセラミックスの酸化を、有利に防止することが出来るのである。そして、そのような酸化が有利に抑えられたセラミックス粉末を強化材として使用することによって、それを鋳造して得られる鋳造製品にあっては、特性低下、製品不良等の問題を何等惹起することのない、良質のものが、有利に得られることとなる。
【0037】
さらに、そこでは、窒化マグネシウムのセラミックス粉末表面への被着が、アルミニウム合金の溶融操作とは異なる系において行われるものであることから、溶融したアルミニウム合金が、セラミックス粉末表面への窒化マグネシウムの沈積・被着を阻害することがなく、セラミックス粉末表面における窒化マグネシウムの被着が、より一層、迅速且つ確実に行われることとなるのである。従って、そのような、窒化マグネシウムの被着にて表面が有利に覆われたセラミックス粉末を、後述するアルミニウム合金溶湯と混合する際には、その混合が、非常に速やかに行われることとなり、以て、複合材料の生産性をより一層有利に向上せしめ得るのである。
【0038】
加えて、上述せる如き手法にあっては、窒化マグネシウムのセラミックス粉末表面への被着に際して、そのような系に、酸化皮膜の形成されたアルミニウム合金が存在することがないところから、かかる工程において、そのようなアルミニウム合金表面の酸化物が、最終的に得られる複合材料に不純物として混入せしめられる恐れが、全くないのである。
【0039】
なお、この窒化マグネシウムを生成させるための加熱操作は、次工程へ移行するための予熱工程を兼ねることも、可能である。即ち、次工程においては、かかる窒化マグネシウムの被着されたセラミックス粉末が、溶融した高温のアルミニウム合金溶湯と混合されることとなるが、そこにおいて、窒化マグネシウムの被着されたセラミックス粉末と、アルミニウム合金溶湯との間の温度差が余りにも大きいと、ヒートショック等の問題が惹起されるため、セラミックス粉末もある程度加熱した状態で混合せしめるようにすることが、好ましいのである。従って、そのような予熱工程を、窒化マグネシウムの被着工程における加熱操作と兼ねるようにすることにより、複合材料の作製時間を有利に短縮することが出来、またコストの削減も有利に達成されることとなるのである。
【0040】
ところで、本発明においては、上述のようにして得られる、窒化マグネシウムの被着されたセラミックス粉末に対して、予め不純物除去処理が施されてなるアルミニウム合金の溶湯が配合され、高温下において、均一に混合撹拌せしめることにより、目的とする鋳造用の金属−セラミックス複合材料を得ることとなる。
【0041】
ここで、かかる混合撹拌に際して用いられる装置としては、手動撹拌のものや機械撹拌のもの等、従来から公知のものが何れも採用可能であり、例えば、インペラー付きの撹拌装置等を使用して、アルミニウム合金溶湯中にセラミックス粉末を均一に分散せしめることが出来る。
【0042】
また、かかるアルミニウム合金溶湯の不純物除去処理方法としては、気泡処理やフラックス処理を用いた、従来から公知の手法が何れも採用可能であり、例えば、溶湯中の不純物除去処理法として一般的に採用されている、不活性ガスの微細気泡をアルミニウム合金溶湯中に吹き込んで、かかる気泡により、不純物を除去する方法等が、採用され得るのである。
【0043】
さらに、ここで用いられるアルミニウム合金の溶湯としては、鋳造用のアルミニウム合金として従来から用いられているものであれば、何れも採用可能であるが、有利には、合金成分として、Siを含有するものが、用いられる。なお、このSi含有量としては、一般に8重量%以上であり、上限としては15重量%程度とされることとなる。そして、このように、アルミニウム合金として、Siを含有するアルミニウム合金を使用することによって、前述したように、アルミニウム合金溶湯中に、未反応のマグネシウムが残存した場合であっても、自崩壊性のAl43 の生成を有利に抑制することが出来、以て、そのような複合材料を鋳造した鋳造製品にあっては、不良品の発生等が、有利に抑えられることとなる。
【0044】
更にまた、前記アルミニウム合金溶湯は、一般に、前記セラミックス粉末の含有割合が40容量%以下となる割合において、有利には、10〜35容量%程度の割合において、配合せしめられることとなる。そのような割合においてセラミックス粉末を配合することによって、最終的に得られる複合材料の流動性を、鋳造に適したものとすることが出来、更にそのような複合材料は、それを鋳造して得られる鋳造製品において、混合されたセラミックス粉末が、強化材としての機能を有利に発揮し得るものとなる。
【0045】
このように、基材としてのアルミニウム合金として、予め不純物処理が施されてなるアルミニウム合金溶湯を使用することにより、最終的に得られる複合材料を不純物が可及的に除去せしめられた高純度のものとすることが出来、以て、そのような複合材料を鋳造したときに、特性低下、製品不良等の問題を惹起することのない良質の複合材料が、有利に得られることとなるのである。
【0046】
なお、本発明に従う鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法にあっては、有利には、前記アルミニウム合金溶湯とセラミックス粉末とを配合した後、昇温を行い、所定時間の間、一般に2時間程度以下の間、保持した後、撹拌して、均一な複合溶湯が形成されることとなる。そして、そのようにして得られた複合溶湯は、鋳造用の金属−セラミックス複合材料として、そのまま鋳造に用いられる他、冷却・固化し、固形物として、鋳造に際しては再溶解される複合材料として用いられるのである。
【0047】
このようにすることにより、かかるアルミニウム合金溶湯とセラミックス粉末との混合を速やかに且つ均一に行うことが出来、以て、複合材料の作製に要する時間を有利に短縮して、生産性を向上し、また複合材料の酸化も有利に抑制することが出来るのである。更に、そのようにして得られた複合材料にあっては、均一なものが得られるところから、そのような溶湯は、それを用いて鋳造した鋳造製品において、特性低下、製品不良等の問題を起こすことのない、良質なものを与えることとなるのである。
【0048】
また、先述せる如く、かかるアルミニウム合金溶湯に配合せしめられるセラミックス粉末として、前述したようにして作製された窒化マグネシウムが有利に被着されたセラミックス粉末が用いられることから、アルミニウム合金とセラミックス粉末との混合が、非常に有利に速やかに行われることとなり、以て、鋳造用の金属−セラミックス複合材料の生産性が、より一層有利に向上せしめられるのである。
【0049】
以上のように、本発明に従うところの鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法にあっては、中間素材の作製を行う必要が全くなく、手間及びコストのかかるアルミニウム合金の溶融、冷却等の工程が一度で済むため、製造工程が著しく短縮されることとなるのであり、以て、鋳造用の金属−セラミックス複合材料の生産性をより一層有利に向上せしめることが出来るのである。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0051】
−実施例1−
セラミックス粉末として、平均粒径:17μmのSiC粉末を用い、その97重量部に対して、100メッシュアンダーの粒径を有するマグネシウム粉末の3重量部を、配合して、均一に混合せしめることにより、均一な粉末混合物を得た。次いで、かかる粉末混合物を、カーボン坩堝内に収容して、密閉可能な電気式溶解炉内に載置した後、密閉して、約50Torrの真空度となるような減圧吸引と窒素ガスの導入操作を、2回繰り返すことにより、かかる溶解炉内の雰囲気を、酸素濃度が可及的に低減せしめられた(約0.09%の酸素濃度)高純度の窒素ガスにて、置換した。その後、溶解炉の温度を750℃に昇温して、2時間保持することによって、溶融したマグネシウムと周囲雰囲気中の窒素との反応により生じた窒化マグネシウムを、SiC粉末表面に被着せしめた。
【0052】
一方、Siを合金成分として10重量%含むアルミニウム合金溶湯を、アルミニウム溶解炉において溶製し、更にフラックス処理と酸化物等の不純物の不活性ガス気泡による除去処理を施すことによって、純度の高いアルミニウム合金溶湯を準備した。
【0053】
そして、上記のようにしてSiC粉末表面に窒化マグネシウムが被着せしめられた後、溶解炉内の雰囲気を窒素ガス雰囲気に維持しつつ、カーボン坩堝内に、上記準備されたアルミニウム合金溶湯を投入した。このアルミニウム合金溶湯は、SiC粉末が全体として30容量%の割合で含有されることとなるような割合において、用いられた。
【0054】
その後、カーボン坩堝内に収容せしめられたセラミックス粉末と、アルミニウム合金溶湯とを、約1時間を要して約800℃に昇温して、更に1時間保持した後、撹拌機を用いて、SiC粒子がバラバラになるまで、約2時間の間、撹拌、混合して、均一な複合溶湯を得た。SiC粉末を坩堝内にセットした後、複合溶湯が得られるまでの所要時間は、約7時間であった。その後、かかる複合溶湯を鋳型に注湯して、鋳造製品を得た。かくして得られた鋳造製品は、不純物欠陥の認められない、物性の良好なものであることが認められた。
【0055】
−実施例2−
セラミックス粉末としてAl23 を用いた以外は、実施例1と同様にして、均一な複合溶湯を、約7時間を要して調製した。その後、かかる複合溶湯を鋳型に注湯して、鋳造製品を得た。かくして得られた鋳造製品は、不純物の含有量が少なく、物性も優れたものであった。
【0056】
−比較例−
比較例として、非加圧浸透法により得られた中間素材をアルミニウム合金により希釈する従来の鋳造用金属−セラミックス複合材料の製造法に従って、鋳造製品を製造したところ、鋳造用の複合溶湯を得るまでに、約30時間を要した。これは、非加圧浸透法により中間素材を得るための工程が大変時間のかかるものであるためであり、またそのような方法で得られた中間素材を、更にアルミニウム合金溶湯にて希釈する必要があるためであった。また、得られた鋳造製品の組織中に不純物が混入しており、剛性等の特性が低下していることを認めた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としてのアルミニウム合金に対してセラミックス粉末を強化材として複合させてなる鋳造用の金属−セラミックス複合材料を製造する方法にして、
前記セラミックス粉末にマグネシウム粉末を混合せしめて、均一な粉末混合物を形成する工程と、
該粉末混合物を密閉容器内に収容して、かかる粉末混合物の周囲雰囲気を減圧吸引により除去した後、窒素ガスを導入して、該粉末混合物の周りの雰囲気を窒素ガスにて置換する工程と、
該粉末混合物を該置換された窒素ガス雰囲気中において加熱することにより、マグネシウムと窒素とを反応させて、窒化マグネシウムを生成せしめる一方、前記セラミックス粉末の表面に該生成した窒化マグネシウムを被着せしめる工程と、
かかる窒化マグネシウムの被着されたセラミックス粉末に対して、予め不純物除去処理が施されてなる前記アルミニウム合金の溶湯を配合し、高温下において、均一に混合撹拌せしめることにより、均一な鋳造用の複合溶湯を形成する工程とを、
含むことを特徴とする鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【請求項2】
前記マグネシウム粉末が、前記粉末混合物中において5重量%以下の含有量となるように、混合せしめられていることを特徴とする請求項1に記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【請求項3】
前記周囲雰囲気の減圧吸引除去と窒素ガスの導入操作とが、繰り返し、複数回実施されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【請求項4】
前記窒化マグネシウムの生成のために、前記粉末混合物が、650℃以上の温度に加熱せしめられることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金溶湯が、前記セラミックス粉末の含有割合が40容量%以下となる割合において、配合せしめられることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【請求項6】
前記アルミニウム合金溶湯とセラミックス粉末との配合の後、昇温を行い、所定時間保持した後、撹拌して、均一な複合溶湯を得るようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。
【請求項7】
前記アルミニウム合金が、合金成分としてSiを含有することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載の鋳造用の金属−セラミックス複合材料の製造法。


【公開番号】特開2007−297689(P2007−297689A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128654(P2006−128654)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(506152896)
【Fターム(参考)】