鋳造装置及び鋳造方法
【課題】溶湯が冷却されるときに生じる収縮量を考慮して、成形する鋳物製品における鋳巣の発生を防止することができ、鋳物製品の形状に変化が生じることを防止することができる鋳造装置及び鋳造方法を提供すること。
【解決手段】鋳造装置1は、一対の鋳型部2A,2Bの間に、製品キャビティ21、補給キャビティ22及び冷却キャビティ23を形成してなる。一方の鋳型部2Aには、加圧ブロック3が配設してある。制御手段は、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ充填された溶湯50が、一対の鋳型部2A,2Bによって冷却されて収縮する量に応じて、加圧ブロック3を、製品キャビティ21と補給キャビティ22との境界部222を開口する位置から縮小又は閉口する位置へ移動させ、かつ、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ供給された溶湯50の収縮が収まる時点で、加圧ブロック3を閉位置へ到達させる。
【解決手段】鋳造装置1は、一対の鋳型部2A,2Bの間に、製品キャビティ21、補給キャビティ22及び冷却キャビティ23を形成してなる。一方の鋳型部2Aには、加圧ブロック3が配設してある。制御手段は、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ充填された溶湯50が、一対の鋳型部2A,2Bによって冷却されて収縮する量に応じて、加圧ブロック3を、製品キャビティ21と補給キャビティ22との境界部222を開口する位置から縮小又は閉口する位置へ移動させ、かつ、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ供給された溶湯50の収縮が収まる時点で、加圧ブロック3を閉位置へ到達させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯を充填して鋳物製品を成形するための鋳造装置及び鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造等の鋳造を行う際には、溶湯が凝固収縮するときに、鋳巣(成形品に生じる空洞、亀裂、縮小化等の変形)が生じることを防止するために、種々の工夫を行っている。例えば、製品設計において、製品の各部の肉厚の均一化、製品における厚肉部の除去等を図るといった工夫、鋳型内に冷却孔を設けて冷却する工夫等がなされている。
例えば、特許文献1の鋳造方法および鋳造装置においては、金型に溶湯を鋳込み、金型に接触する表面層が凝固した後、加熱・冷却手段によって一方側から他方側に向けて指向性凝固させることが開示されている。そして、複雑形状部品においては流れ凝固シミュレーション結果に基づいて、良好な指向性凝固を進行させることにより鋳造欠陥の発生を防止し、高品位の鋳物の製造を実現している。
【0003】
また、例えば、特許文献2の加圧鋳造装置においては、加圧鋳造装置が、キャビティと溶湯供給通路との連通路を開閉するゲート部材と、キャビティ内の溶湯を加圧する加圧部材とを備えることが開示されている。そして、キャビティ内に溶湯を流入させた後には、ゲート部材によって連通路を閉口してキャビティを密閉し、加圧部材によってキャビティ内の溶湯を加圧している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−346728号公報
【特許文献2】実開平3−31058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の鋳造方法および鋳造装置は、いずれの部位から先に凝固させるかといった、指向性凝固を目的としており、溶湯が冷却されるときに生ずる収縮量の変化を考慮したものではない。そのため、製品の形状によっては、製品を成形するキャビティ内の溶湯が収縮するときに、このキャビティ内へ十分に溶湯を補給することができないおそれがある。
【0006】
また、特許文献2においては、ゲート部材が、連通路を閉口して、キャビティと溶湯供給通路とを分断してしまった後に、加圧部材によってキャビティ内の溶湯を加圧している。そのため、キャビティ内の溶湯が収縮するときに、溶湯供給通路からキャビティ内へ溶湯を補給することができない。そして、加圧手段は、キャビティ内の溶湯を直接加圧するため、キャビティ内に成形する鋳物製品の形状が変化することになる。これにより、鋳物製品は、キャビティ内から取り出した後、適宜加工を行う必要が生じてしまう。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、溶湯が冷却されるときに生じる収縮量を考慮して、成形する鋳物製品における鋳巣(未充填の空洞、亀裂、縮小化等の変形)の発生を防止することができ、鋳物製品の形状に変化が生じることを防止することができる鋳造装置及び鋳造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、互いに合わさる一対の鋳型部の間に、溶湯を充填して鋳物製品を成形するための製品キャビティと、該製品キャビティの一方側に繋がり、鋳込み口から充填される溶湯を上記製品キャビティへ補給するための補給キャビティとを形成してなり、
一方の上記鋳型部には、上記製品キャビティと上記補給キャビティとの境界部を開口する開位置から、他方の上記鋳型部の内壁面に近接又は当接して上記境界部を縮小又は閉口する閉位置へ移動可能な加圧ブロックが配設してあり、
該加圧ブロックは、制御手段による加圧源の操作を受けて移動するよう構成してあり、
上記制御手段は、上記製品キャビティへ充填された溶湯が、上記一対の鋳型部によって冷却されて収縮する量に応じて、上記加圧ブロックを上記開位置から上記閉位置へ移動させるよう構成してあり、かつ、上記製品キャビティへ供給された溶湯の収縮が収まる時点で、上記加圧ブロックを上記閉位置へ到達させるよう構成してあることを特徴とする鋳造装置にある(請求項1)。
【0009】
第2の発明は、上記鋳造装置を用いて鋳造を行う方法であって、
上記鋳込み口から、上記補給キャビティ及び上記製品キャビティに溶湯を充填し、
上記制御手段によって上記開位置から上記閉位置へ上記加圧ブロックを移動させるときに、上記補給キャビティから上記製品キャビティへ溶湯を補給し、上記加圧ブロックを上記閉位置へ到達させたときに、上記製品キャビティに成形する鋳物製品から上記補給キャビティに成形する成形物を分断することを特徴とする鋳造方法にある(請求項7)。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明の鋳造装置は、製品キャビティに繋がる補給キャビティの流路を縮小又は閉口することができる加圧ブロックを有している。この加圧ブロックは、制御手段による加圧源の操作を受けて移動するよう構成してある。
制御手段は、製品キャビティへ充填された溶湯が、一対の鋳型部によって冷却されて収縮する量に応じて、加圧ブロックを開位置から閉位置へ移動させるよう構成してある。これにより、製品キャビティに充填された溶湯が収縮する際に、加圧ブロックの移動によって、製品キャビティ内の溶湯を、その収縮量に応じて加圧することができる。そして、加圧ブロックが移動する際に、製品キャビティ内の溶湯の収縮分を補給キャビティ内の溶湯によって補うことができる。そのため、製品キャビティに成形する鋳物製品に鋳巣が発生することを防止することができる。
【0011】
また、加圧ブロックによって溶湯を加圧することにより、補給キャビティから製品キャビティへ効果的に溶湯を補給することができる。これにより、加圧ブロックを用いない場合に比べて、補給キャビティの容積を小さくすることができ、溶湯の歩留りを向上させることができる。
また、制御手段は、製品キャビティへ供給された溶湯の収縮が収まる時点で、加圧ブロックを閉位置へ到達させるよう構成してある。これにより、一対の鋳型部において鋳造を行うと同時に、製品キャビティに成形した鋳物製品から、補給キャビティに成形した成形物を分断することができる。そのため、一対の鋳型部から鋳物製品を取り出した後に、この鋳物製品から不要な成形物を切除する加工を低減することができる。
また、加圧ブロックは、製品キャビティ内へ進入することがなく、製品キャビティ内の溶湯を間接的に加圧することができる。これにより、製品キャビティに成形した鋳物製品に形状の変化が生じることを防止することができる。そして、本発明の鋳造装置は、様々な製品形状に対応して鋳物製品の製造を行うことができる。
【0012】
それ故、第1の発明の鋳造装置によれば、溶湯が冷却されるときに生じる収縮量を考慮して、成形する鋳物製品における鋳巣(未充填の空洞、亀裂、縮小化等の変形)の発生を防止することができ、鋳物製品の形状に変化が生じることを防止することができる。
【0013】
また、第2の発明の鋳造方法によれば、上記鋳造装置を用いることによって、鋳巣の発生を防止した鋳造製品を生産効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例にかかる、鋳造装置を示す断面図。
【図2】実施例にかかる、一対の鋳型部において成形した鋳物を示す断面図。
【図3】実施例にかかる、各成形物を除去した鋳物製品を示す断面図。
【図4】実施例にかかる、一対の鋳型部における各キャビティの形成状態を模式的に示す平面図。
【図5】実施例にかかる、加圧ブロックが開位置にあるときの鋳型装置を示す断面図。
【図6】実施例にかかる、加圧ブロックが開位置にあるときの各キャビティの周辺を拡大して示す断面図。
【図7】実施例にかかる、加圧ブロックが開位置から閉位置へ移動しているときの各キャビティの周辺を拡大して示す断面図。
【図8】実施例にかかる、加圧ブロックが閉位置へ到達したときの鋳造装置を示す断面図。
【図9】実施例にかかる、加圧ブロックが閉位置へ到達したときの各キャビティの周辺を拡大して示す断面図。
【図10】実施例にかかる、加圧ブロックが閉位置へ到達したときの鋳造装置を示す断面図。
【図11】実施例にかかる、加圧ブロックが閉位置へ到達したときの各キャビティの周辺を拡大して示す断面図。
【図12】実施例にかかる、横軸に、溶湯の充填を完了した時点からの経過時間をとり、縦軸に、各キャビティに充填された溶湯の温度をとって、この溶湯の温度変化の推移の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述した第1、第2の発明の鋳造装置及び鋳造方法における好ましい実施の形態につき説明する。
第1の発明において、上記製品キャビティの内壁面には、温度センサが埋設してあり、上記制御手段は、上記温度センサによって測定した温度の低下量に基づいて、上記加圧ブロックの移動量を決定することができる(請求項2)。
この場合には、溶湯の収縮量は、溶湯又は鋳型部の温度の低下量に置き換えて検知(推測)することができる。そのため、制御手段による加圧ブロックの移動制御を容易に行うことができる。
【0016】
また、上記制御手段には、上記製品キャビティ及び上記補給キャビティへの溶湯の充填を完了した時点からの経過時間と、上記溶湯の温度の低下量又は上記溶湯の収縮量との関係が求めてあり、上記制御手段は、上記溶湯の充填を完了した時点からの経過時間に基づいて、上記加圧ブロックの移動量を決定することもできる(請求項3)。
この場合には、経過時間に対する、溶湯の温度低下量又は溶湯の収縮量の関係を、計算機によるシミュレーション、温度の測定等によって予め求めておき、制御手段に設定しておく。そして、溶湯の収縮量は、溶湯の充填を完了した時点からの経過時間に置き換えて検知(推測)することができる。そのため、この場合にも、制御手段による加圧ブロックの移動制御を容易に行うことができる。
【0017】
また、上記製品キャビティ及び上記補給キャビティは、円環形状に形成してあり、上記補給キャビティは、上記製品キャビティの一方側としての外周側において、該製品キャビティに対して円環状に連続して繋がっており、上記加圧ブロックは、上記製品キャビティと上記補給キャビティとの間に形成された円環形状の境界部を閉口可能な円環形状に形成してあることが好ましい(請求項4)。
この場合には、円環形状の製品キャビティに対して、補給キャビティを適切に形成することができ、円環形状の鋳物製品に鋳巣が発生することを効果的に防止することができる。
【0018】
また、上記補給キャビティは、その円環形状を横切る断面が略楕円形状又は略円形状を有しており、上記加圧ブロックの加圧先端部は、その円環形状を横切る断面が円弧状又は略半円状に凹んで、上記一方の鋳型部における上記補給キャビティの内壁面を形成しており、かつ、その内周側端部が上記境界部を縮小又は閉口するようになっていることが好ましい(請求項5)。
【0019】
この場合には、補給キャビティの形状により、補給キャビティ内に充填された溶湯が冷却され難くし、補給キャビティから製品キャビティへの溶湯の補給を安定して行うことができる。また、加圧ブロックにより補給キャビティの内壁面の一方側を形成し、補給キャビティの内壁面の一方側の全体を加圧ブロックとして移動させる。これにより、補給キャビティの全体における溶湯を加圧して、この溶湯を製品キャビティへ補給することができ、補給キャビティから製品キャビティへの溶湯の補給を一層安定して行うことができる。
さらに、加圧ブロックによる加圧中も補給キャビティの断面形状は、略楕円形状又は略円形状に維持することができる。これにより、加圧ブロックによる加圧中も補給キャビティ内に充填された溶湯が冷却され難くし、補給キャビティから製品キャビティへの溶湯の補給を安定して行うことができる。
【0020】
また、上記製品キャビティの他方側には、充填される溶湯が上記製品キャビティ及び上記補給キャビティよりも先に冷却される冷却キャビティが繋がっていることが好ましい(請求項6)。
この場合には、冷却キャビティに充填された溶湯から先に凝固させ、次いで、製品キャビティに充填された溶湯を凝固させ、最後に、補給キャビティに充填された溶湯を凝固させることができる。そのため、加圧ブロックを移動させるときに、補給キャビティから製品キャビティへの溶湯の補給をより一層安定して行うことができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の鋳造装置及び鋳造方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の鋳造装置1は、図1に示すごとく、互いに合わさる一対の鋳型部2A,2Bの間に、溶湯50を充填して鋳物製品51を成形するための製品キャビティ21と、製品キャビティ21の一方側に繋がり、鋳込み口221から充填される溶湯50を製品キャビティ21へ補給するための補給キャビティ22と、製品キャビティ21の他方側に繋がり、充填される溶湯50が製品キャビティ21及び補給キャビティ22よりも先に冷却される冷却キャビティ23とを形成してなる。一方の鋳型部2Aには、製品キャビティ21と補給キャビティ22との境界部222を開口する開位置301(図6参照)から、他方の鋳型部2Bの内壁面24に当接して境界部222を閉口する閉位置302(図9参照)へ移動可能な加圧ブロック3が配設してある。
【0022】
加圧ブロック3は、制御手段による加圧源の操作を受けて移動するよう構成してある。制御手段は、図6、図7に示すごとく、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ充填された溶湯50が、一対の鋳型部2A,2Bによって冷却されて収縮する量に応じて、加圧ブロック3を開位置301から閉位置302へ移動させるよう構成してある。また、制御手段は、図9に示すごとく、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ供給された溶湯50の収縮が収まる時点で、加圧ブロック3を閉位置302へ到達させるよう構成してある。
【0023】
以下に、本例の鋳造装置1及び鋳造方法につき、図1〜図12を参照して詳説する。
図1は、鋳造装置1を示す断面図である。
同図に示すごとく、本例の鋳造装置1は、アルミニウム材料を溶湯50として、製品キャビティ21に、鋳物5としてのアルミニウムダイカスト品を成形するものである。本例の一対の鋳型部2A,2Bは、一対の鋳型部2A,2Bを合わせた合わせ面の位置に、製品キャビティ21、補給キャビティ22及び冷却キャビティ23を形成してなるダイカスト用鋳型を構成する。
本例の一対の鋳型部2A,2Bにおいて成形する鋳物製品51は、円環形状を有するアルミニウム部品である。このアルミニウム部品を成形(鋳造)する際には、製品キャビティ21に鋳巣を生じることなく鋳物製品51を成形するために、一対の鋳型部2A,2Bに補給キャビティ22及び冷却キャビティ23を形成する。
【0024】
図2は、一対の鋳型部2A,2Bにおいて成形した鋳物5を示す断面図である。
同図に示すごとく、製品キャビティ21には、円環状の鋳物製品51が成形され、補給キャビティ22には、成形物52Aが成形され、冷却キャビティ23には、成形物52Bが成形され、鋳込み口221には、成形物52Cが成形される。そして、鋳造後の鋳物5から、各成形物52A,52B,52Cを切断、切削等により切除する。この際、本例の補給キャビティ22に形成される成形物52Aは、加圧ブロック3の移動によって、製品キャビティ21に形成される鋳物製品51から分断される。ただし、成形物52Aと鋳物製品51とは、加圧ブロック3の加圧先端部31が補給キャビティ22の内壁面24に当接したときに形成される微小な隙間に残った溶湯50によるバリ(薄い成形物)によって繋がっていることがある。
図3は、各成形物52A,52B,52Cを除去した鋳物製品51を示す断面図である。同図に示すごとく、鋳造装置1の一対の鋳型部2A,2Bから取り出した鋳物製品51から、冷却キャビティ23に成形される成形物52B等を除去して、製品とする。
【0025】
図4は、一対の鋳型部2A,2Bにおける各キャビティ21,22,23の形成状態を模式的に示す平面図である。
同図に示すごとく、本例の一対の鋳型部2A,2Bにおいては、製品キャビティ21、補給キャビティ22及び冷却キャビティ23は、円環形状に形成してある。一対の鋳型部2A,2Bにおいては、円環形状の製品キャビティ21に対する一方側としての外周側に、円環形状の補給キャビティ22を同心円状に形成し、円環形状の製品キャビティ21に対する他方側としての内周側に、円環形状の冷却キャビティ23を同心円状に形成している。
【0026】
補給キャビティ22は、製品キャビティ21の外周側において、製品キャビティ21に対して円環状に連続して繋がっている。冷却キャビティ23は、製品キャビティ21に繋がる中心キャビティ部231の両側に枝分かれ状に複数のフィン状キャビティ部232を形成してなる(図6参照)。また、冷却キャビティ23は、製品キャビティ21の内周側において、製品キャビティ21に対して円環状に連続して繋がっている。本例の鋳物製品51を成形する製品キャビティ21は、その代表断面形状を円環形状の周方向に連続して形成してなる。
【0027】
図6は、加圧ブロック3が開位置301にあるときの各キャビティ21,22,23の周辺を拡大して示す断面図である。
同図に示すごとく、本例の加圧ブロック3は、製品キャビティ21と補給キャビティ22との間に形成された円環形状の境界部222を閉口可能な円環形状に形成してある。補給キャビティ22は、その円環形状を横切る断面が、溶湯50の流れる方向(一対の鋳型部2A,2Bが合わさる方向に直交する方向)に長径部を位置させた略楕円形状を有している。
加圧ブロック3の加圧先端部31は、その円環形状を横切る断面が円弧状に凹んで、一方の鋳型部2Aにおける補給キャビティ22の内壁面24を形成している。一方の鋳型部2Aに配置した加圧ブロック3の加圧先端部31は、その内周側端部311が、他方の鋳型部2Bの補給キャビティ22の一部を形成する境界部222を閉口するようになっている。
【0028】
加圧ブロック3は、その内周側端部311とその外周側端部312とが最も突出しており、鋳込み口221の近傍を除く内周側端部311と外周側端部312の全周が、補給キャビティ22の境界部222を形成する内壁面24に当接する。加圧ブロック3を、内周側端部311と外周側端部312との間に断面円弧状の凹部313を形成した形状にすることにより、補給キャビティ22内に充填された溶湯50が冷却され難くすることができる。また、加圧ブロック3の少ない移動量によって、補給キャビティ22から製品キャビティ21へ供給する溶湯50に適切な加圧力を付与することができる。
さらに、上記加圧ブロック3の形状により、その加圧中も補給キャビティ22の断面形状は、略楕円形状に維持することができる。これにより、加圧ブロック3による加圧中も補給キャビティ22内に充填された溶湯50が冷却され難くし、補給キャビティ22から製品キャビティ21への溶湯50の補給を安定して行うことができる。
【0029】
本例においては、鋳物5に鋳巣ができることを防止するため、鋳込み口221から一対の鋳型部2A,2B内へ鋳込む溶湯50は、冷却キャビティ23に充填された溶湯50から先に凝固させ、次いで、製品キャビティ21に充填された溶湯50を凝固させ、最後に、補給キャビティ22に充填された溶湯50を凝固させるようにしている。
これを実現するために、製品キャビティ21、補給キャビティ22及び冷却キャビティ23について、冷却表面積Sに対する体積Vの比であるモジュラスM(=V/S)が適切になるように形状を設計している。具体的には、製品キャビティ21のモジュラスをMp、補給キャビティ22のモジュラスをMs、冷却キャビティ23のモジュラスをMcとしたとき、Ms>Mp>Mcの関係になるよう設計している。
本例においては、補給キャビティ22の一方側の内壁面24を加圧ブロック3によって構成していることにより、加圧ブロック3を利用しない場合に比べて、補給キャビティ22の体積を大幅に縮小することができる。
【0030】
図1に示すごとく、本例の鋳造装置1は、一方の鋳型部2Aを、駆動源による駆動力を受けて可動する可動型部とし、他方の鋳型部2Bを、固定型部としている。一方の鋳型部2Aは、可動型ベース(図示略)に配設してあり、可動型ベースが、加圧源による加圧力を受けて移動するよう構成してある。他方の鋳型部2Bは、固定型ベース(図示略)に配設してある。他方の鋳型部2Bには、鋳込み口221を形成するスリーブ部45が配設してある。
本例の加圧ブロック3は、押出プレート42に対して、各キャビティ21,22,23の周方向に配置した複数の連結シャフト421を介して配設してある。押出プレート42は、駆動源とは異なる別の加圧源によって移動する押出ユニット41に対面して配置してある。本例の加圧源は、加圧ブロック3の微小な移動制御を行うために、電力を受けて動作するサーボモータによって構成してある。
【0031】
また、図10に示すごとく、一方の鋳型部2Aには、成形後の鋳物5を押して各キャビティ21,22,23から取り出すためのエジェクタピン431が、製品キャビティ21の複数箇所に配置してある。また、エジェクタピン431は、円環形状の各キャビティ21,22,23の中心部にも配置してある。各エジェクタピン431は、押出プレート42と一方の鋳型部2Aとの間に配置した一方側エジェクタプレート43に配設してある。一方側エジェクタプレート43は、一方の鋳型部2Aの外面に設けたガイドピン432によってガイドされて移動可能である。
【0032】
図1、図5に示すごとく、鋳物5を成形するために一対の鋳型部2A,2Bの合わせ面を閉じるときには、加圧ブロック3及び各エジェクタピン431は、一方の鋳型部2Aにおける各キャビティ21,22,23を形成する内壁面24と略同一面を形成する位置にある。この状態においては、一方の鋳型部2Aの外面と一方側エジェクタプレート43との間、及び一方側エジェクタプレート43と押出プレート42との間には、それぞれ隙間Dが形成されている。これらの隙間Dは、押出ユニット41を前進させたときに、図8に示すごとく、始めに押出プレート42を介して加圧ブロック3の加圧先端部31を前進させ、次いで、図10に示すごとく、一方側エジェクタプレート43を介して各エジェクタピン431を前進させるためのものである。
【0033】
また、図10に示すごとく、他方の鋳型部2Bにも、成形後の鋳物5を押して各キャビティ21,22,23から取り出すためのエジェクタピン441が、補給キャビティ22の複数箇所、円環形状の各キャビティ21,22,23の中心部、冷却キャビティ23の内周側の複数箇所に配置してある。各エジェクタピン441は、固定型ベースと他方の鋳型部2Bとの間に配置した他方側エジェクタプレート44に配設してある。
【0034】
他方側エジェクタプレート44は、固定型ベースとの間に配置したバネ(図示略)によって、各キャビティ21,22,23内へ向う前進方向に付勢されている。鋳物5を成形するために一対の鋳型部2A,2Bの合わせ面を閉じるときには、各エジェクタピン441は、他方の鋳型部2Bにおける各キャビティ21,22,23を形成する内壁面24と略同一面を形成する位置にある(図5参照)。その後、成形した鋳物5を取り出す際に一方の鋳型部2Aを後退させたときには、バネによる反発力を受けて他方の鋳型部2Bに対して他方側エジェクタプレート44が前進し、各エジェクタピン441が前進する。
また、各キャビティ21,22,23内へ鋳込み口221から溶湯50を充填する際には、一対の鋳型部2A,2Bに配置した各エジェクタピン431,441を配置した部分の隙間から各キャビティ21,22,23内のガス抜きを行うことができる。
【0035】
鋳造装置1の制御手段(制御コンピュータ、制御シーケンサ等)は、一方の鋳型部2Aを移動させる駆動源の動作、及び加圧ブロック3を移動させる加圧源の動作を制御するよう構成してある。制御手段には、冷却キャビティ23、製品キャビティ21及び補給キャビティ22への溶湯50の充填を完了した時点からの経過時間と、溶湯50の温度低下量との関係が求めてある。そして、制御手段は、溶湯50の充填を完了した時点からの経過時間に基づいて、加圧ブロック3の移動量を決定するよう構成してある。
【0036】
図12は、横軸に、溶湯50の充填を完了した時点からの経過時間をとり、縦軸に、各キャビティ21,22,23に充填された溶湯50の温度をとって、この溶湯50の温度変化の推移の一例を示すグラフである。同図においては、溶湯50の充填が完了した時点を、経過時間0(秒)とする。
同図に示すごとく、溶湯50の充填が完了してから僅かの間は、液体の状態Aにある。次いで、溶湯50の充填が完了してから約2(秒)が経過するまでは、溶湯50は半凝固(準液相)の状態Bにある。この半凝固の状態Bにあるとき、溶湯50は、610(℃)付近で温度変化が一旦停滞した後、610(℃)付近から575(℃)付近まで急降下する。そして、溶湯50に生じる収縮は、主に溶湯50が半凝固の状態Bにおいて凝固する際に生じる収縮である。溶湯50の収縮量は、溶湯50の温度低下量にほぼ比例するとして捉えることができる。また、溶湯50は、半凝固の状態Bを形成した後には、固体(共晶)の状態Cとなって、約6(秒)を経過した以降にさらに温度が低下する。
【0037】
本例の一対の鋳型部2A,2Bにおいては、溶湯50が半凝固の状態Bから固体の状態Cになるまで、この溶湯50を各キャビティ21,22,23内に維持し、固体の状態Cになったときには、直ちに一対の鋳型部2A,2Bの型開きを行って成形した鋳物5を取り出す。そして、制御手段においては、溶湯50が半凝固の状態Bにあるときに、加圧ブロック3を補給キャビティ22内へ前進させる。
このとき、加圧ブロック3は、溶湯50が一対の鋳型部2A,2Bによって冷却されて収縮する量に応じて、境界部222を開口する開位置301から境界部222を閉口する閉位置302へ移動させるために、溶湯50の温度低下の速さに応じて、移動量が決定される。そして、制御手段は、図6、図7に示すごとく、溶湯50の温度が下がり始めた時点(溶湯50の収縮が始まる時点)から加圧ブロック3の前進を開始し、図9に示すごとく、半凝固状態の終盤として溶湯50の温度の低下が一旦収まる時点(溶湯50の収縮が収まる時点)で、加圧ブロック3が閉位置302に到達するように操作する。
【0038】
経過時間に対する、溶湯50の温度低下量(溶湯50の収縮量)の関係は、計算機によるシミュレーション、温度の測定等によって予め求めておき、制御手段に設定しておく。そして、溶湯50の収縮量は、溶湯50の充填を完了した時点からの経過時間に置き換えて検知(推測)する。これにより、制御手段による加圧ブロック3の移動操作を容易に行うことができる。
【0039】
また、図示は省略するが、製品キャビティ21の内壁面24には、温度センサを埋設することができる。この温度センサは、製品キャビティ21の内壁面24における周方向の複数箇所に埋設することができ、一方の鋳型部2A及び他方の鋳型部2Bのいずれに埋設することもできる。この場合には、制御手段は、温度センサによって測定した温度の低下量に基づいて、加圧ブロック3の移動量を決定することができる。この場合には、溶湯50の収縮量は、溶湯50又は一対の鋳型部2A,2Bの温度の低下量に置き換えて検知(推測)することができる。
【0040】
次に、鋳造装置1を用いて鋳造を行う方法について説明する。
図5は、加圧ブロック3が開位置301にあるときの鋳造装置1を示す断面図である。
鋳物5を鍛造するに当たっては、同図に示すごとく、鋳込み口221から、補給キャビティ22、製品キャビティ21及び冷却キャビティ23へ溶湯50を充填する。このとき、鋳込み口221から一対の鋳型部2A,2B内に注入された溶湯50は、鋳込み口221から補給キャビティ22、製品キャビティ21及び冷却キャビティ23の周方向の両側へ流れ込む。また、溶湯50は、補給キャビティ22、製品キャビティ21及び冷却キャビティ23の順に充填される。また、本例においては、ダイカスト鋳造を行うため、瞬間的に各キャビティ21,22,23へ溶湯50が充填される。
そして、冷却キャビティ23に充填された溶湯50から先に凝固させ、次いで、製品キャビティ21に充填された溶湯50を凝固させ、最後に、補給キャビティ22に充填された溶湯50を凝固させる。
【0041】
図7は、加圧ブロック3が開位置301から閉位置302へ移動しているときの各キャビティ21,22,23の周辺を拡大して示す断面図である。
本例においては、同図に示すごとく、製品キャビティ21へ充填した溶湯50が凝固する際には、制御手段によって、製品キャビティ21へ充填された溶湯50が、一対の鋳型部2A,2Bによって冷却されて収縮する量(温度低下する量)に応じて、加圧ブロック3を開位置301から閉位置302へ移動させる。このとき、補給キャビティ22の一方側の内壁面24を形成する加圧ブロック3によって溶湯50が加圧され、この溶湯50を補給キャビティ22から製品キャビティ21へ補給する。
【0042】
これにより、製品キャビティ21に充填された溶湯50が収縮する際に、加圧ブロック3の移動によって、製品キャビティ21内の溶湯50を、その収縮量に応じて加圧することができる。そして、加圧ブロック3が移動する際に、製品キャビティ21内の溶湯50の収縮分を補給キャビティ22内の溶湯50によって補うことができる。そのため、製品キャビティ21に成形する鋳物製品51に鋳巣が発生することを防止することができる。
また、加圧ブロック3によって溶湯50を加圧することにより、補給キャビティ22から製品キャビティ21へ効果的に溶湯50を補給することができる。これにより、加圧ブロック3を用いない場合に比べて、補給キャビティ22の容積を小さくすることができ、溶湯50の歩留りを向上させることができる。
【0043】
図8は、加圧ブロック3が閉位置302へ到達したときの鋳造装置1を示す断面図であり、図9は、そのときの各キャビティ21,22,23の周辺を拡大して示す断面図である。
本例においては、各図に示すごとく、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ供給された溶湯50の収縮が収まる時点で、制御手段によって加圧ブロック3を閉位置302へ到達させる。このとき、加圧ブロック3の加圧先端部31における内周側端部311が他方の鋳型部2Bの内壁面24に当接する。これにより、一対の鋳型部2A,2Bにおいて鋳造を行うと同時に、製品キャビティ21に成形した鋳物製品51から、補給キャビティ22に成形した成形物52Aを分断することができる。そのため、一対の鋳型部2A,2Bから鋳物製品51を取り出した後に、この鋳物製品51から不要な成形物52Aを切除する加工を低減することができる。
【0044】
また、加圧ブロック3は、製品キャビティ21内へ進入することがなく、製品キャビティ21内の溶湯50を間接的に加圧することができる。これにより、製品キャビティ21に成形した鋳物製品51に形状の変化が生じることを防止することができる。そして、本例の鋳造装置1は、様々な製品形状に対応して鋳物製品51の製造を行うことができる。
【0045】
図10は、加圧ブロック3が閉位置302へ到達したときの鋳造装置1を示す断面図であり、図11は、そのときの各キャビティ21,22,23の周辺を拡大して示す断面図である。
同図に示すごとく、鋳物5を成形した後には、一対の鋳型部2A,2Bの型開きを行い、各キャビティ21,22,23内に成形された鋳物5を取り出す。
【0046】
それ故、本例の鋳造装置1及び鋳造方法によれば、溶湯50が冷却されるときに生じる収縮量を考慮して、成形する鋳物製品51における鋳巣(未充填の空洞、亀裂、縮小化等の変形)の発生を防止することができ、鋳物製品の形状に変化が生じることを防止することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 鋳造装置
2A 一方の鋳型部
2B 他方の鋳型部
21 製品キャビティ
22 補給キャビティ
221 鋳込み口
222 境界部
23 冷却キャビティ
3 加圧ブロック
301 開位置
302 閉位置
31 加圧先端部
5 鋳物
50 溶湯
51 鋳物製品
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯を充填して鋳物製品を成形するための鋳造装置及び鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造等の鋳造を行う際には、溶湯が凝固収縮するときに、鋳巣(成形品に生じる空洞、亀裂、縮小化等の変形)が生じることを防止するために、種々の工夫を行っている。例えば、製品設計において、製品の各部の肉厚の均一化、製品における厚肉部の除去等を図るといった工夫、鋳型内に冷却孔を設けて冷却する工夫等がなされている。
例えば、特許文献1の鋳造方法および鋳造装置においては、金型に溶湯を鋳込み、金型に接触する表面層が凝固した後、加熱・冷却手段によって一方側から他方側に向けて指向性凝固させることが開示されている。そして、複雑形状部品においては流れ凝固シミュレーション結果に基づいて、良好な指向性凝固を進行させることにより鋳造欠陥の発生を防止し、高品位の鋳物の製造を実現している。
【0003】
また、例えば、特許文献2の加圧鋳造装置においては、加圧鋳造装置が、キャビティと溶湯供給通路との連通路を開閉するゲート部材と、キャビティ内の溶湯を加圧する加圧部材とを備えることが開示されている。そして、キャビティ内に溶湯を流入させた後には、ゲート部材によって連通路を閉口してキャビティを密閉し、加圧部材によってキャビティ内の溶湯を加圧している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−346728号公報
【特許文献2】実開平3−31058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の鋳造方法および鋳造装置は、いずれの部位から先に凝固させるかといった、指向性凝固を目的としており、溶湯が冷却されるときに生ずる収縮量の変化を考慮したものではない。そのため、製品の形状によっては、製品を成形するキャビティ内の溶湯が収縮するときに、このキャビティ内へ十分に溶湯を補給することができないおそれがある。
【0006】
また、特許文献2においては、ゲート部材が、連通路を閉口して、キャビティと溶湯供給通路とを分断してしまった後に、加圧部材によってキャビティ内の溶湯を加圧している。そのため、キャビティ内の溶湯が収縮するときに、溶湯供給通路からキャビティ内へ溶湯を補給することができない。そして、加圧手段は、キャビティ内の溶湯を直接加圧するため、キャビティ内に成形する鋳物製品の形状が変化することになる。これにより、鋳物製品は、キャビティ内から取り出した後、適宜加工を行う必要が生じてしまう。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、溶湯が冷却されるときに生じる収縮量を考慮して、成形する鋳物製品における鋳巣(未充填の空洞、亀裂、縮小化等の変形)の発生を防止することができ、鋳物製品の形状に変化が生じることを防止することができる鋳造装置及び鋳造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、互いに合わさる一対の鋳型部の間に、溶湯を充填して鋳物製品を成形するための製品キャビティと、該製品キャビティの一方側に繋がり、鋳込み口から充填される溶湯を上記製品キャビティへ補給するための補給キャビティとを形成してなり、
一方の上記鋳型部には、上記製品キャビティと上記補給キャビティとの境界部を開口する開位置から、他方の上記鋳型部の内壁面に近接又は当接して上記境界部を縮小又は閉口する閉位置へ移動可能な加圧ブロックが配設してあり、
該加圧ブロックは、制御手段による加圧源の操作を受けて移動するよう構成してあり、
上記制御手段は、上記製品キャビティへ充填された溶湯が、上記一対の鋳型部によって冷却されて収縮する量に応じて、上記加圧ブロックを上記開位置から上記閉位置へ移動させるよう構成してあり、かつ、上記製品キャビティへ供給された溶湯の収縮が収まる時点で、上記加圧ブロックを上記閉位置へ到達させるよう構成してあることを特徴とする鋳造装置にある(請求項1)。
【0009】
第2の発明は、上記鋳造装置を用いて鋳造を行う方法であって、
上記鋳込み口から、上記補給キャビティ及び上記製品キャビティに溶湯を充填し、
上記制御手段によって上記開位置から上記閉位置へ上記加圧ブロックを移動させるときに、上記補給キャビティから上記製品キャビティへ溶湯を補給し、上記加圧ブロックを上記閉位置へ到達させたときに、上記製品キャビティに成形する鋳物製品から上記補給キャビティに成形する成形物を分断することを特徴とする鋳造方法にある(請求項7)。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明の鋳造装置は、製品キャビティに繋がる補給キャビティの流路を縮小又は閉口することができる加圧ブロックを有している。この加圧ブロックは、制御手段による加圧源の操作を受けて移動するよう構成してある。
制御手段は、製品キャビティへ充填された溶湯が、一対の鋳型部によって冷却されて収縮する量に応じて、加圧ブロックを開位置から閉位置へ移動させるよう構成してある。これにより、製品キャビティに充填された溶湯が収縮する際に、加圧ブロックの移動によって、製品キャビティ内の溶湯を、その収縮量に応じて加圧することができる。そして、加圧ブロックが移動する際に、製品キャビティ内の溶湯の収縮分を補給キャビティ内の溶湯によって補うことができる。そのため、製品キャビティに成形する鋳物製品に鋳巣が発生することを防止することができる。
【0011】
また、加圧ブロックによって溶湯を加圧することにより、補給キャビティから製品キャビティへ効果的に溶湯を補給することができる。これにより、加圧ブロックを用いない場合に比べて、補給キャビティの容積を小さくすることができ、溶湯の歩留りを向上させることができる。
また、制御手段は、製品キャビティへ供給された溶湯の収縮が収まる時点で、加圧ブロックを閉位置へ到達させるよう構成してある。これにより、一対の鋳型部において鋳造を行うと同時に、製品キャビティに成形した鋳物製品から、補給キャビティに成形した成形物を分断することができる。そのため、一対の鋳型部から鋳物製品を取り出した後に、この鋳物製品から不要な成形物を切除する加工を低減することができる。
また、加圧ブロックは、製品キャビティ内へ進入することがなく、製品キャビティ内の溶湯を間接的に加圧することができる。これにより、製品キャビティに成形した鋳物製品に形状の変化が生じることを防止することができる。そして、本発明の鋳造装置は、様々な製品形状に対応して鋳物製品の製造を行うことができる。
【0012】
それ故、第1の発明の鋳造装置によれば、溶湯が冷却されるときに生じる収縮量を考慮して、成形する鋳物製品における鋳巣(未充填の空洞、亀裂、縮小化等の変形)の発生を防止することができ、鋳物製品の形状に変化が生じることを防止することができる。
【0013】
また、第2の発明の鋳造方法によれば、上記鋳造装置を用いることによって、鋳巣の発生を防止した鋳造製品を生産効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例にかかる、鋳造装置を示す断面図。
【図2】実施例にかかる、一対の鋳型部において成形した鋳物を示す断面図。
【図3】実施例にかかる、各成形物を除去した鋳物製品を示す断面図。
【図4】実施例にかかる、一対の鋳型部における各キャビティの形成状態を模式的に示す平面図。
【図5】実施例にかかる、加圧ブロックが開位置にあるときの鋳型装置を示す断面図。
【図6】実施例にかかる、加圧ブロックが開位置にあるときの各キャビティの周辺を拡大して示す断面図。
【図7】実施例にかかる、加圧ブロックが開位置から閉位置へ移動しているときの各キャビティの周辺を拡大して示す断面図。
【図8】実施例にかかる、加圧ブロックが閉位置へ到達したときの鋳造装置を示す断面図。
【図9】実施例にかかる、加圧ブロックが閉位置へ到達したときの各キャビティの周辺を拡大して示す断面図。
【図10】実施例にかかる、加圧ブロックが閉位置へ到達したときの鋳造装置を示す断面図。
【図11】実施例にかかる、加圧ブロックが閉位置へ到達したときの各キャビティの周辺を拡大して示す断面図。
【図12】実施例にかかる、横軸に、溶湯の充填を完了した時点からの経過時間をとり、縦軸に、各キャビティに充填された溶湯の温度をとって、この溶湯の温度変化の推移の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述した第1、第2の発明の鋳造装置及び鋳造方法における好ましい実施の形態につき説明する。
第1の発明において、上記製品キャビティの内壁面には、温度センサが埋設してあり、上記制御手段は、上記温度センサによって測定した温度の低下量に基づいて、上記加圧ブロックの移動量を決定することができる(請求項2)。
この場合には、溶湯の収縮量は、溶湯又は鋳型部の温度の低下量に置き換えて検知(推測)することができる。そのため、制御手段による加圧ブロックの移動制御を容易に行うことができる。
【0016】
また、上記制御手段には、上記製品キャビティ及び上記補給キャビティへの溶湯の充填を完了した時点からの経過時間と、上記溶湯の温度の低下量又は上記溶湯の収縮量との関係が求めてあり、上記制御手段は、上記溶湯の充填を完了した時点からの経過時間に基づいて、上記加圧ブロックの移動量を決定することもできる(請求項3)。
この場合には、経過時間に対する、溶湯の温度低下量又は溶湯の収縮量の関係を、計算機によるシミュレーション、温度の測定等によって予め求めておき、制御手段に設定しておく。そして、溶湯の収縮量は、溶湯の充填を完了した時点からの経過時間に置き換えて検知(推測)することができる。そのため、この場合にも、制御手段による加圧ブロックの移動制御を容易に行うことができる。
【0017】
また、上記製品キャビティ及び上記補給キャビティは、円環形状に形成してあり、上記補給キャビティは、上記製品キャビティの一方側としての外周側において、該製品キャビティに対して円環状に連続して繋がっており、上記加圧ブロックは、上記製品キャビティと上記補給キャビティとの間に形成された円環形状の境界部を閉口可能な円環形状に形成してあることが好ましい(請求項4)。
この場合には、円環形状の製品キャビティに対して、補給キャビティを適切に形成することができ、円環形状の鋳物製品に鋳巣が発生することを効果的に防止することができる。
【0018】
また、上記補給キャビティは、その円環形状を横切る断面が略楕円形状又は略円形状を有しており、上記加圧ブロックの加圧先端部は、その円環形状を横切る断面が円弧状又は略半円状に凹んで、上記一方の鋳型部における上記補給キャビティの内壁面を形成しており、かつ、その内周側端部が上記境界部を縮小又は閉口するようになっていることが好ましい(請求項5)。
【0019】
この場合には、補給キャビティの形状により、補給キャビティ内に充填された溶湯が冷却され難くし、補給キャビティから製品キャビティへの溶湯の補給を安定して行うことができる。また、加圧ブロックにより補給キャビティの内壁面の一方側を形成し、補給キャビティの内壁面の一方側の全体を加圧ブロックとして移動させる。これにより、補給キャビティの全体における溶湯を加圧して、この溶湯を製品キャビティへ補給することができ、補給キャビティから製品キャビティへの溶湯の補給を一層安定して行うことができる。
さらに、加圧ブロックによる加圧中も補給キャビティの断面形状は、略楕円形状又は略円形状に維持することができる。これにより、加圧ブロックによる加圧中も補給キャビティ内に充填された溶湯が冷却され難くし、補給キャビティから製品キャビティへの溶湯の補給を安定して行うことができる。
【0020】
また、上記製品キャビティの他方側には、充填される溶湯が上記製品キャビティ及び上記補給キャビティよりも先に冷却される冷却キャビティが繋がっていることが好ましい(請求項6)。
この場合には、冷却キャビティに充填された溶湯から先に凝固させ、次いで、製品キャビティに充填された溶湯を凝固させ、最後に、補給キャビティに充填された溶湯を凝固させることができる。そのため、加圧ブロックを移動させるときに、補給キャビティから製品キャビティへの溶湯の補給をより一層安定して行うことができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の鋳造装置及び鋳造方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例の鋳造装置1は、図1に示すごとく、互いに合わさる一対の鋳型部2A,2Bの間に、溶湯50を充填して鋳物製品51を成形するための製品キャビティ21と、製品キャビティ21の一方側に繋がり、鋳込み口221から充填される溶湯50を製品キャビティ21へ補給するための補給キャビティ22と、製品キャビティ21の他方側に繋がり、充填される溶湯50が製品キャビティ21及び補給キャビティ22よりも先に冷却される冷却キャビティ23とを形成してなる。一方の鋳型部2Aには、製品キャビティ21と補給キャビティ22との境界部222を開口する開位置301(図6参照)から、他方の鋳型部2Bの内壁面24に当接して境界部222を閉口する閉位置302(図9参照)へ移動可能な加圧ブロック3が配設してある。
【0022】
加圧ブロック3は、制御手段による加圧源の操作を受けて移動するよう構成してある。制御手段は、図6、図7に示すごとく、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ充填された溶湯50が、一対の鋳型部2A,2Bによって冷却されて収縮する量に応じて、加圧ブロック3を開位置301から閉位置302へ移動させるよう構成してある。また、制御手段は、図9に示すごとく、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ供給された溶湯50の収縮が収まる時点で、加圧ブロック3を閉位置302へ到達させるよう構成してある。
【0023】
以下に、本例の鋳造装置1及び鋳造方法につき、図1〜図12を参照して詳説する。
図1は、鋳造装置1を示す断面図である。
同図に示すごとく、本例の鋳造装置1は、アルミニウム材料を溶湯50として、製品キャビティ21に、鋳物5としてのアルミニウムダイカスト品を成形するものである。本例の一対の鋳型部2A,2Bは、一対の鋳型部2A,2Bを合わせた合わせ面の位置に、製品キャビティ21、補給キャビティ22及び冷却キャビティ23を形成してなるダイカスト用鋳型を構成する。
本例の一対の鋳型部2A,2Bにおいて成形する鋳物製品51は、円環形状を有するアルミニウム部品である。このアルミニウム部品を成形(鋳造)する際には、製品キャビティ21に鋳巣を生じることなく鋳物製品51を成形するために、一対の鋳型部2A,2Bに補給キャビティ22及び冷却キャビティ23を形成する。
【0024】
図2は、一対の鋳型部2A,2Bにおいて成形した鋳物5を示す断面図である。
同図に示すごとく、製品キャビティ21には、円環状の鋳物製品51が成形され、補給キャビティ22には、成形物52Aが成形され、冷却キャビティ23には、成形物52Bが成形され、鋳込み口221には、成形物52Cが成形される。そして、鋳造後の鋳物5から、各成形物52A,52B,52Cを切断、切削等により切除する。この際、本例の補給キャビティ22に形成される成形物52Aは、加圧ブロック3の移動によって、製品キャビティ21に形成される鋳物製品51から分断される。ただし、成形物52Aと鋳物製品51とは、加圧ブロック3の加圧先端部31が補給キャビティ22の内壁面24に当接したときに形成される微小な隙間に残った溶湯50によるバリ(薄い成形物)によって繋がっていることがある。
図3は、各成形物52A,52B,52Cを除去した鋳物製品51を示す断面図である。同図に示すごとく、鋳造装置1の一対の鋳型部2A,2Bから取り出した鋳物製品51から、冷却キャビティ23に成形される成形物52B等を除去して、製品とする。
【0025】
図4は、一対の鋳型部2A,2Bにおける各キャビティ21,22,23の形成状態を模式的に示す平面図である。
同図に示すごとく、本例の一対の鋳型部2A,2Bにおいては、製品キャビティ21、補給キャビティ22及び冷却キャビティ23は、円環形状に形成してある。一対の鋳型部2A,2Bにおいては、円環形状の製品キャビティ21に対する一方側としての外周側に、円環形状の補給キャビティ22を同心円状に形成し、円環形状の製品キャビティ21に対する他方側としての内周側に、円環形状の冷却キャビティ23を同心円状に形成している。
【0026】
補給キャビティ22は、製品キャビティ21の外周側において、製品キャビティ21に対して円環状に連続して繋がっている。冷却キャビティ23は、製品キャビティ21に繋がる中心キャビティ部231の両側に枝分かれ状に複数のフィン状キャビティ部232を形成してなる(図6参照)。また、冷却キャビティ23は、製品キャビティ21の内周側において、製品キャビティ21に対して円環状に連続して繋がっている。本例の鋳物製品51を成形する製品キャビティ21は、その代表断面形状を円環形状の周方向に連続して形成してなる。
【0027】
図6は、加圧ブロック3が開位置301にあるときの各キャビティ21,22,23の周辺を拡大して示す断面図である。
同図に示すごとく、本例の加圧ブロック3は、製品キャビティ21と補給キャビティ22との間に形成された円環形状の境界部222を閉口可能な円環形状に形成してある。補給キャビティ22は、その円環形状を横切る断面が、溶湯50の流れる方向(一対の鋳型部2A,2Bが合わさる方向に直交する方向)に長径部を位置させた略楕円形状を有している。
加圧ブロック3の加圧先端部31は、その円環形状を横切る断面が円弧状に凹んで、一方の鋳型部2Aにおける補給キャビティ22の内壁面24を形成している。一方の鋳型部2Aに配置した加圧ブロック3の加圧先端部31は、その内周側端部311が、他方の鋳型部2Bの補給キャビティ22の一部を形成する境界部222を閉口するようになっている。
【0028】
加圧ブロック3は、その内周側端部311とその外周側端部312とが最も突出しており、鋳込み口221の近傍を除く内周側端部311と外周側端部312の全周が、補給キャビティ22の境界部222を形成する内壁面24に当接する。加圧ブロック3を、内周側端部311と外周側端部312との間に断面円弧状の凹部313を形成した形状にすることにより、補給キャビティ22内に充填された溶湯50が冷却され難くすることができる。また、加圧ブロック3の少ない移動量によって、補給キャビティ22から製品キャビティ21へ供給する溶湯50に適切な加圧力を付与することができる。
さらに、上記加圧ブロック3の形状により、その加圧中も補給キャビティ22の断面形状は、略楕円形状に維持することができる。これにより、加圧ブロック3による加圧中も補給キャビティ22内に充填された溶湯50が冷却され難くし、補給キャビティ22から製品キャビティ21への溶湯50の補給を安定して行うことができる。
【0029】
本例においては、鋳物5に鋳巣ができることを防止するため、鋳込み口221から一対の鋳型部2A,2B内へ鋳込む溶湯50は、冷却キャビティ23に充填された溶湯50から先に凝固させ、次いで、製品キャビティ21に充填された溶湯50を凝固させ、最後に、補給キャビティ22に充填された溶湯50を凝固させるようにしている。
これを実現するために、製品キャビティ21、補給キャビティ22及び冷却キャビティ23について、冷却表面積Sに対する体積Vの比であるモジュラスM(=V/S)が適切になるように形状を設計している。具体的には、製品キャビティ21のモジュラスをMp、補給キャビティ22のモジュラスをMs、冷却キャビティ23のモジュラスをMcとしたとき、Ms>Mp>Mcの関係になるよう設計している。
本例においては、補給キャビティ22の一方側の内壁面24を加圧ブロック3によって構成していることにより、加圧ブロック3を利用しない場合に比べて、補給キャビティ22の体積を大幅に縮小することができる。
【0030】
図1に示すごとく、本例の鋳造装置1は、一方の鋳型部2Aを、駆動源による駆動力を受けて可動する可動型部とし、他方の鋳型部2Bを、固定型部としている。一方の鋳型部2Aは、可動型ベース(図示略)に配設してあり、可動型ベースが、加圧源による加圧力を受けて移動するよう構成してある。他方の鋳型部2Bは、固定型ベース(図示略)に配設してある。他方の鋳型部2Bには、鋳込み口221を形成するスリーブ部45が配設してある。
本例の加圧ブロック3は、押出プレート42に対して、各キャビティ21,22,23の周方向に配置した複数の連結シャフト421を介して配設してある。押出プレート42は、駆動源とは異なる別の加圧源によって移動する押出ユニット41に対面して配置してある。本例の加圧源は、加圧ブロック3の微小な移動制御を行うために、電力を受けて動作するサーボモータによって構成してある。
【0031】
また、図10に示すごとく、一方の鋳型部2Aには、成形後の鋳物5を押して各キャビティ21,22,23から取り出すためのエジェクタピン431が、製品キャビティ21の複数箇所に配置してある。また、エジェクタピン431は、円環形状の各キャビティ21,22,23の中心部にも配置してある。各エジェクタピン431は、押出プレート42と一方の鋳型部2Aとの間に配置した一方側エジェクタプレート43に配設してある。一方側エジェクタプレート43は、一方の鋳型部2Aの外面に設けたガイドピン432によってガイドされて移動可能である。
【0032】
図1、図5に示すごとく、鋳物5を成形するために一対の鋳型部2A,2Bの合わせ面を閉じるときには、加圧ブロック3及び各エジェクタピン431は、一方の鋳型部2Aにおける各キャビティ21,22,23を形成する内壁面24と略同一面を形成する位置にある。この状態においては、一方の鋳型部2Aの外面と一方側エジェクタプレート43との間、及び一方側エジェクタプレート43と押出プレート42との間には、それぞれ隙間Dが形成されている。これらの隙間Dは、押出ユニット41を前進させたときに、図8に示すごとく、始めに押出プレート42を介して加圧ブロック3の加圧先端部31を前進させ、次いで、図10に示すごとく、一方側エジェクタプレート43を介して各エジェクタピン431を前進させるためのものである。
【0033】
また、図10に示すごとく、他方の鋳型部2Bにも、成形後の鋳物5を押して各キャビティ21,22,23から取り出すためのエジェクタピン441が、補給キャビティ22の複数箇所、円環形状の各キャビティ21,22,23の中心部、冷却キャビティ23の内周側の複数箇所に配置してある。各エジェクタピン441は、固定型ベースと他方の鋳型部2Bとの間に配置した他方側エジェクタプレート44に配設してある。
【0034】
他方側エジェクタプレート44は、固定型ベースとの間に配置したバネ(図示略)によって、各キャビティ21,22,23内へ向う前進方向に付勢されている。鋳物5を成形するために一対の鋳型部2A,2Bの合わせ面を閉じるときには、各エジェクタピン441は、他方の鋳型部2Bにおける各キャビティ21,22,23を形成する内壁面24と略同一面を形成する位置にある(図5参照)。その後、成形した鋳物5を取り出す際に一方の鋳型部2Aを後退させたときには、バネによる反発力を受けて他方の鋳型部2Bに対して他方側エジェクタプレート44が前進し、各エジェクタピン441が前進する。
また、各キャビティ21,22,23内へ鋳込み口221から溶湯50を充填する際には、一対の鋳型部2A,2Bに配置した各エジェクタピン431,441を配置した部分の隙間から各キャビティ21,22,23内のガス抜きを行うことができる。
【0035】
鋳造装置1の制御手段(制御コンピュータ、制御シーケンサ等)は、一方の鋳型部2Aを移動させる駆動源の動作、及び加圧ブロック3を移動させる加圧源の動作を制御するよう構成してある。制御手段には、冷却キャビティ23、製品キャビティ21及び補給キャビティ22への溶湯50の充填を完了した時点からの経過時間と、溶湯50の温度低下量との関係が求めてある。そして、制御手段は、溶湯50の充填を完了した時点からの経過時間に基づいて、加圧ブロック3の移動量を決定するよう構成してある。
【0036】
図12は、横軸に、溶湯50の充填を完了した時点からの経過時間をとり、縦軸に、各キャビティ21,22,23に充填された溶湯50の温度をとって、この溶湯50の温度変化の推移の一例を示すグラフである。同図においては、溶湯50の充填が完了した時点を、経過時間0(秒)とする。
同図に示すごとく、溶湯50の充填が完了してから僅かの間は、液体の状態Aにある。次いで、溶湯50の充填が完了してから約2(秒)が経過するまでは、溶湯50は半凝固(準液相)の状態Bにある。この半凝固の状態Bにあるとき、溶湯50は、610(℃)付近で温度変化が一旦停滞した後、610(℃)付近から575(℃)付近まで急降下する。そして、溶湯50に生じる収縮は、主に溶湯50が半凝固の状態Bにおいて凝固する際に生じる収縮である。溶湯50の収縮量は、溶湯50の温度低下量にほぼ比例するとして捉えることができる。また、溶湯50は、半凝固の状態Bを形成した後には、固体(共晶)の状態Cとなって、約6(秒)を経過した以降にさらに温度が低下する。
【0037】
本例の一対の鋳型部2A,2Bにおいては、溶湯50が半凝固の状態Bから固体の状態Cになるまで、この溶湯50を各キャビティ21,22,23内に維持し、固体の状態Cになったときには、直ちに一対の鋳型部2A,2Bの型開きを行って成形した鋳物5を取り出す。そして、制御手段においては、溶湯50が半凝固の状態Bにあるときに、加圧ブロック3を補給キャビティ22内へ前進させる。
このとき、加圧ブロック3は、溶湯50が一対の鋳型部2A,2Bによって冷却されて収縮する量に応じて、境界部222を開口する開位置301から境界部222を閉口する閉位置302へ移動させるために、溶湯50の温度低下の速さに応じて、移動量が決定される。そして、制御手段は、図6、図7に示すごとく、溶湯50の温度が下がり始めた時点(溶湯50の収縮が始まる時点)から加圧ブロック3の前進を開始し、図9に示すごとく、半凝固状態の終盤として溶湯50の温度の低下が一旦収まる時点(溶湯50の収縮が収まる時点)で、加圧ブロック3が閉位置302に到達するように操作する。
【0038】
経過時間に対する、溶湯50の温度低下量(溶湯50の収縮量)の関係は、計算機によるシミュレーション、温度の測定等によって予め求めておき、制御手段に設定しておく。そして、溶湯50の収縮量は、溶湯50の充填を完了した時点からの経過時間に置き換えて検知(推測)する。これにより、制御手段による加圧ブロック3の移動操作を容易に行うことができる。
【0039】
また、図示は省略するが、製品キャビティ21の内壁面24には、温度センサを埋設することができる。この温度センサは、製品キャビティ21の内壁面24における周方向の複数箇所に埋設することができ、一方の鋳型部2A及び他方の鋳型部2Bのいずれに埋設することもできる。この場合には、制御手段は、温度センサによって測定した温度の低下量に基づいて、加圧ブロック3の移動量を決定することができる。この場合には、溶湯50の収縮量は、溶湯50又は一対の鋳型部2A,2Bの温度の低下量に置き換えて検知(推測)することができる。
【0040】
次に、鋳造装置1を用いて鋳造を行う方法について説明する。
図5は、加圧ブロック3が開位置301にあるときの鋳造装置1を示す断面図である。
鋳物5を鍛造するに当たっては、同図に示すごとく、鋳込み口221から、補給キャビティ22、製品キャビティ21及び冷却キャビティ23へ溶湯50を充填する。このとき、鋳込み口221から一対の鋳型部2A,2B内に注入された溶湯50は、鋳込み口221から補給キャビティ22、製品キャビティ21及び冷却キャビティ23の周方向の両側へ流れ込む。また、溶湯50は、補給キャビティ22、製品キャビティ21及び冷却キャビティ23の順に充填される。また、本例においては、ダイカスト鋳造を行うため、瞬間的に各キャビティ21,22,23へ溶湯50が充填される。
そして、冷却キャビティ23に充填された溶湯50から先に凝固させ、次いで、製品キャビティ21に充填された溶湯50を凝固させ、最後に、補給キャビティ22に充填された溶湯50を凝固させる。
【0041】
図7は、加圧ブロック3が開位置301から閉位置302へ移動しているときの各キャビティ21,22,23の周辺を拡大して示す断面図である。
本例においては、同図に示すごとく、製品キャビティ21へ充填した溶湯50が凝固する際には、制御手段によって、製品キャビティ21へ充填された溶湯50が、一対の鋳型部2A,2Bによって冷却されて収縮する量(温度低下する量)に応じて、加圧ブロック3を開位置301から閉位置302へ移動させる。このとき、補給キャビティ22の一方側の内壁面24を形成する加圧ブロック3によって溶湯50が加圧され、この溶湯50を補給キャビティ22から製品キャビティ21へ補給する。
【0042】
これにより、製品キャビティ21に充填された溶湯50が収縮する際に、加圧ブロック3の移動によって、製品キャビティ21内の溶湯50を、その収縮量に応じて加圧することができる。そして、加圧ブロック3が移動する際に、製品キャビティ21内の溶湯50の収縮分を補給キャビティ22内の溶湯50によって補うことができる。そのため、製品キャビティ21に成形する鋳物製品51に鋳巣が発生することを防止することができる。
また、加圧ブロック3によって溶湯50を加圧することにより、補給キャビティ22から製品キャビティ21へ効果的に溶湯50を補給することができる。これにより、加圧ブロック3を用いない場合に比べて、補給キャビティ22の容積を小さくすることができ、溶湯50の歩留りを向上させることができる。
【0043】
図8は、加圧ブロック3が閉位置302へ到達したときの鋳造装置1を示す断面図であり、図9は、そのときの各キャビティ21,22,23の周辺を拡大して示す断面図である。
本例においては、各図に示すごとく、製品キャビティ21及び補給キャビティ22へ供給された溶湯50の収縮が収まる時点で、制御手段によって加圧ブロック3を閉位置302へ到達させる。このとき、加圧ブロック3の加圧先端部31における内周側端部311が他方の鋳型部2Bの内壁面24に当接する。これにより、一対の鋳型部2A,2Bにおいて鋳造を行うと同時に、製品キャビティ21に成形した鋳物製品51から、補給キャビティ22に成形した成形物52Aを分断することができる。そのため、一対の鋳型部2A,2Bから鋳物製品51を取り出した後に、この鋳物製品51から不要な成形物52Aを切除する加工を低減することができる。
【0044】
また、加圧ブロック3は、製品キャビティ21内へ進入することがなく、製品キャビティ21内の溶湯50を間接的に加圧することができる。これにより、製品キャビティ21に成形した鋳物製品51に形状の変化が生じることを防止することができる。そして、本例の鋳造装置1は、様々な製品形状に対応して鋳物製品51の製造を行うことができる。
【0045】
図10は、加圧ブロック3が閉位置302へ到達したときの鋳造装置1を示す断面図であり、図11は、そのときの各キャビティ21,22,23の周辺を拡大して示す断面図である。
同図に示すごとく、鋳物5を成形した後には、一対の鋳型部2A,2Bの型開きを行い、各キャビティ21,22,23内に成形された鋳物5を取り出す。
【0046】
それ故、本例の鋳造装置1及び鋳造方法によれば、溶湯50が冷却されるときに生じる収縮量を考慮して、成形する鋳物製品51における鋳巣(未充填の空洞、亀裂、縮小化等の変形)の発生を防止することができ、鋳物製品の形状に変化が生じることを防止することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 鋳造装置
2A 一方の鋳型部
2B 他方の鋳型部
21 製品キャビティ
22 補給キャビティ
221 鋳込み口
222 境界部
23 冷却キャビティ
3 加圧ブロック
301 開位置
302 閉位置
31 加圧先端部
5 鋳物
50 溶湯
51 鋳物製品
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに合わさる一対の鋳型部の間に、溶湯を充填して鋳物製品を成形するための製品キャビティと、該製品キャビティの一方側に繋がり、鋳込み口から充填される溶湯を上記製品キャビティへ補給するための補給キャビティとを形成してなり、
一方の上記鋳型部には、上記製品キャビティと上記補給キャビティとの境界部を開口する開位置から、他方の上記鋳型部の内壁面に近接又は当接して上記境界部を縮小又は閉口する閉位置へ移動可能な加圧ブロックが配設してあり、
該加圧ブロックは、制御手段による加圧源の操作を受けて移動するよう構成してあり、
上記制御手段は、上記製品キャビティへ充填された溶湯が、上記一対の鋳型部によって冷却されて収縮する量に応じて、上記加圧ブロックを上記開位置から上記閉位置へ移動させるよう構成してあり、かつ、上記製品キャビティへ供給された溶湯の収縮が収まる時点で、上記加圧ブロックを上記閉位置へ到達させるよう構成してあることを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造装置において、上記製品キャビティの内壁面には、温度センサが埋設してあり、
上記制御手段は、上記温度センサによって測定した温度の低下量に基づいて、上記加圧ブロックの移動量を決定することを特徴とする鋳造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の鋳造装置において、上記制御手段には、上記製品キャビティへの溶湯の充填を完了した時点からの経過時間と、上記溶湯の温度の低下量又は上記溶湯の収縮量との関係が求めてあり、
上記制御手段は、上記溶湯の充填を完了した時点からの経過時間に基づいて、上記加圧ブロックの移動量を決定することを特徴とする鋳造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳造装置において、上記製品キャビティ及び上記補給キャビティは、円環形状に形成してあり、
上記補給キャビティは、上記製品キャビティの一方側としての外周側において、該製品キャビティに対して円環状に連続して繋がっており、
上記加圧ブロックは、上記製品キャビティと上記補給キャビティとの間に形成された円環形状の境界部を閉口可能な円環形状に形成してあることを特徴とする鋳造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の鋳造装置において、上記補給キャビティは、その円環形状を横切る断面が略楕円形状又は略円形状を有しており、
上記加圧ブロックの加圧先端部は、その円環形状を横切る断面が円弧状又は略半円状に凹んで、上記一方の鋳型部における上記補給キャビティの内壁面を形成しており、かつ、その内周側端部が上記境界部を縮小又は閉口するようになっていることを特徴とする鋳造装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の鋳造装置において、上記製品キャビティの他方側には、充填される溶湯が上記製品キャビティ及び上記補給キャビティよりも先に冷却される冷却キャビティが繋がっていることを特徴とする鋳造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の鋳造装置を用いて鋳造を行う方法であって、
上記鋳込み口から、上記補給キャビティ及び上記製品キャビティに溶湯を充填し、
上記制御手段によって上記開位置から上記閉位置へ上記加圧ブロックを移動させるときに、上記補給キャビティから上記製品キャビティへ溶湯を補給し、上記加圧ブロックを上記閉位置へ到達させたときに、上記製品キャビティに成形する鋳物製品から上記補給キャビティに成形する成形物を分断することを特徴とする鋳造方法。
【請求項1】
互いに合わさる一対の鋳型部の間に、溶湯を充填して鋳物製品を成形するための製品キャビティと、該製品キャビティの一方側に繋がり、鋳込み口から充填される溶湯を上記製品キャビティへ補給するための補給キャビティとを形成してなり、
一方の上記鋳型部には、上記製品キャビティと上記補給キャビティとの境界部を開口する開位置から、他方の上記鋳型部の内壁面に近接又は当接して上記境界部を縮小又は閉口する閉位置へ移動可能な加圧ブロックが配設してあり、
該加圧ブロックは、制御手段による加圧源の操作を受けて移動するよう構成してあり、
上記制御手段は、上記製品キャビティへ充填された溶湯が、上記一対の鋳型部によって冷却されて収縮する量に応じて、上記加圧ブロックを上記開位置から上記閉位置へ移動させるよう構成してあり、かつ、上記製品キャビティへ供給された溶湯の収縮が収まる時点で、上記加圧ブロックを上記閉位置へ到達させるよう構成してあることを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造装置において、上記製品キャビティの内壁面には、温度センサが埋設してあり、
上記制御手段は、上記温度センサによって測定した温度の低下量に基づいて、上記加圧ブロックの移動量を決定することを特徴とする鋳造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の鋳造装置において、上記制御手段には、上記製品キャビティへの溶湯の充填を完了した時点からの経過時間と、上記溶湯の温度の低下量又は上記溶湯の収縮量との関係が求めてあり、
上記制御手段は、上記溶湯の充填を完了した時点からの経過時間に基づいて、上記加圧ブロックの移動量を決定することを特徴とする鋳造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳造装置において、上記製品キャビティ及び上記補給キャビティは、円環形状に形成してあり、
上記補給キャビティは、上記製品キャビティの一方側としての外周側において、該製品キャビティに対して円環状に連続して繋がっており、
上記加圧ブロックは、上記製品キャビティと上記補給キャビティとの間に形成された円環形状の境界部を閉口可能な円環形状に形成してあることを特徴とする鋳造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の鋳造装置において、上記補給キャビティは、その円環形状を横切る断面が略楕円形状又は略円形状を有しており、
上記加圧ブロックの加圧先端部は、その円環形状を横切る断面が円弧状又は略半円状に凹んで、上記一方の鋳型部における上記補給キャビティの内壁面を形成しており、かつ、その内周側端部が上記境界部を縮小又は閉口するようになっていることを特徴とする鋳造装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の鋳造装置において、上記製品キャビティの他方側には、充填される溶湯が上記製品キャビティ及び上記補給キャビティよりも先に冷却される冷却キャビティが繋がっていることを特徴とする鋳造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の鋳造装置を用いて鋳造を行う方法であって、
上記鋳込み口から、上記補給キャビティ及び上記製品キャビティに溶湯を充填し、
上記制御手段によって上記開位置から上記閉位置へ上記加圧ブロックを移動させるときに、上記補給キャビティから上記製品キャビティへ溶湯を補給し、上記加圧ブロックを上記閉位置へ到達させたときに、上記製品キャビティに成形する鋳物製品から上記補給キャビティに成形する成形物を分断することを特徴とする鋳造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−206129(P2012−206129A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71762(P2011−71762)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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