鋳造鋳片の連続鋳造方法
【課題】 連続鋳造で得られた鋳造鋳片の品質の改善と同時に、連続鋳造機の軽圧下帯を構成するセグメントの使用寿命の延長を図ることができる連続鋳造方法を提案する。
【解決手段】連続鋳造用鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片に対し、2次冷却帯の下流に位置する軽圧下帯にて軽圧下を施す連続鋳造方法において、前記鋳造鋳片の鋳造速度に応じ、前記2次冷却帯における冷却水の比水量を変化させることにより、該鋳造鋳片の中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納める制御を行う。
【解決手段】連続鋳造用鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片に対し、2次冷却帯の下流に位置する軽圧下帯にて軽圧下を施す連続鋳造方法において、前記鋳造鋳片の鋳造速度に応じ、前記2次冷却帯における冷却水の比水量を変化させることにより、該鋳造鋳片の中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納める制御を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造鋳片の連続鋳造方法に関するものであり、とくに、2次冷却帯の下流に設けられた軽圧下帯にて、引き抜き移動中の鋳造鋳片に対して軽圧下を施す連続鋳造方法を提案する。
【背景技術】
【0002】
鋼の凝固過程では、炭素、燐、硫黄などの溶質元素は、凝固時の再分配により未凝固の液相側に濃化される。これがデンドライト樹間に形成されるいわゆるミクロ偏析といわれるものである。
【0003】
連続鋳造機により鋳造されつつある鋳造鋳片では、凝固収縮あるいは連続鋳造機のロール間で発生する凝固シェルのバルジングなどによって該鋳造鋳片の厚み中心部に空隙が形成されたり、負圧が生じやすい。
【0004】
そして、鋳片の凝固末期の未凝固層には、十分な量の溶鋼が存在しないことから、上記のミクロ偏析によって濃縮された溶鋼が、その中心部に集積して凝固することになる。
【0005】
かかる凝固によって形成された偏析スポットは、溶質元素の濃度が鋳造にかかわる溶鋼の初期濃度に比べて格段に高くなっている。これは、一般にマクロ偏析と称されるものであり、その存在部位から、中心偏析とも称されている。
【0006】
原油や天然ガスなどの輸送用ラインパイプに適用される鋼材は、上記中心偏析によって品質が悪化しやすい。それは、中心偏析部にMnSやNb炭化物が生成されると、腐食反応により鋼の内部に侵入した水素が鋼中のMnSやNb炭化物のまわりに拡散・集積して、その内圧により割れが発生するからである。
【0007】
前記中心偏析部は、硬度が高いため、割れが一旦発生するとその割れが伝播しやすく、これがいわゆる水素誘起割れ(以下、「HIC」と略記する)である。
【0008】
従って、連続鋳造によって鋳造された鋳造鋳片の中心偏析を低減することの重要性は非常に高いものとなっている。
【0009】
従来、これに対処するため、連続鋳造工程から圧延工程に至るまでの間で様々な中心偏析低減対策、無害化対策が採られており、また、多数の提案もなされている。
【0010】
その中でも、鋳造鋳片の中心偏析を効果的に低減する手段として、例えば、特許文献1、特許文献2には、連続鋳造機内において、未凝固層を有する凝固末期の鋳造鋳片に対し、鋳片支持ロールにより凝固収縮量と熱収縮量との和に相当する程度の圧下量で徐々に圧下を施す連続鋳造方法が開示されている。
【0011】
上記において、鋳造鋳片を凝固収縮量および熱収縮量の和に相当する程度の圧下量で徐々に圧下するというのは、一般に「軽圧下」あるいは「軽圧下法」といわれる技術である。
【0012】
軽圧下あるいは軽圧下法といわれる技術は、具体的には、鋳造方向(鋳造鋳片の引き抜き方向)に沿って並べた複数対のロールを用いて、凝固収縮量および熱収縮量の和に見合った圧下量で鋳造鋳片を徐々に圧下して未凝固層の体積を減少させ、鋳造鋳片の中心部における空隙あるいは負圧部の形成を防止すると同時に、デンドライト樹間に形成される濃化溶鋼の流動を防止し、これによって、鋳造鋳片の中心偏析を軽減するというものである。
【0013】
なお、近年の連続鋳造機では、複数本のロールを備えたセグメントを1セットとして、これを鋳造鋳片の引き抜き方向に沿って複数配列したセグメント方式の連続鋳造機が主流であり、軽圧下を実施する領域(軽圧下帯)で使用される圧下ロール群についても、セグメントにて構成されており、この場合、ロール対のロール開度は、セグメントの入側のロール開度が、出側のロール開度よりも大きくなるように調整されている。
【0014】
そして、上記連続鋳造機を適用して鋳造鋳片に軽圧下を施す場合、一般的に、鋳造鋳片の凝固完了位置(「クレーターエンド位置」ともいう)を、上記の軽圧下帯の範囲内に位置させる制御を行うのが普通である。
【0015】
ところで、従来の軽圧下技術においては、以下に述べるような問題があった。
【0016】
すなわち、クレーターエンド位置を軽圧下帯の範囲内に制御するに当たり、該クレーターエンド位置が軽圧下帯の、鋳造方向のどの位置にあるかで、実際に凝固末期の鋳造鋳片に施される圧下量が変化してしまう場合がある。
【0017】
つまり、クレーターエンド位置が軽圧下帯のセグメントの出側にある場合には、セグメント内における鋳造鋳片は、その厚さ方向において未凝固相が多くなるため、鋳造鋳片の変形抵抗が小さく、それほど大きな荷重を必要とせずに圧下を施すことができる。
【0018】
しかし、クレーターエンド位置が、軽圧下帯のセグメントの入側にある場合には、セグメント内の大部分の鋳造鋳片は、凝固が完了しているため、このような状態で軽圧下を行うと、過大な荷重がセグメントの支柱(4本)に印加される可能性がある。
【0019】
そして、セグメントの支柱に印加された荷重が、予め設定さている耐荷重を超えた場合、セグメントの保護のためにその支柱上部に設置されている皿ばねが撓むことになる。
【0020】
前記セグメントは、剛性体であり、該セグメントに荷重が印加されると、ロール開度は幾らか拡がることになるが、皿ばねが撓むまでの荷重に達すると、ロール開度が大きく拡がってしまうことになる。
【0021】
また、皿ばねが撓みはじめるとセグメントの剛性が低くなるので、ロール開度はより一層拡がることなる。
【0022】
従って、かかる状況においては、場合によっては、セグメントの出側のロール開度が入側のロール開度と同等になり、凝固末期の鋳造鋳片を全く圧下することができないことがある。
【0023】
実際の操業においては、2次冷却帯における水温や溶鋼温度、鋳造速度が変動するため、鋳造中における鋳造鋳片のクレーターエンド位置は常に変動している。
【0024】
従って、鋳造鋳片の軽圧下においては、鋳造鋳片の引き抜き方向の圧下量が、常に大きく変動している可能性がある。
【0025】
非特許文献1、非特許文献2によれば、圧下量には最適値があり、圧下不足であると濃化溶鋼の流動が生じ、V字偏析が見られる場合がある一方、圧下が過多であると濃化溶鋼の逆流が生じ、負偏析や逆V字偏析が生じる場合があり、何れにおいても、最適な圧下量を施した場合に比べ、中心偏析は悪化する、との報告がなされている。
【0026】
よって、鋳造鋳片の引き抜き方向において、中心偏析の度合いにばらつきが生じることとなり、鋳造鋳片の内部品質が著しく低下することが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開平8−132203号公報
【特許文献2】特開平8−192256号公報
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】鉄と鋼Vol.80(1994)No.1.p42
【非特許文献2】鉄と鋼Vol.87(2001)No.2.p72
【0029】
近年、鉄鋼製品に対する品質要求は、以前にも増して厳しくなり、軽圧下を必須とする製品が増えている。
【0030】
そして、それに伴って鋳造鋳片に軽圧下を施す機会が増加しており、軽圧下帯を構成するセグメントの寿命が短命化も避けられない状況にあり、鋳造鋳片の中心偏析の軽減に併せて軽圧下帯におけるセグメントの寿命の延長を図ることが要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
上述した如く、現在、連続鋳造鋳片に対する品質要求レベルは高まり、以前にも増して中心偏析の少ない鋳造鋳片が求められ、そのため、中心偏析軽減対策として、軽圧下帯のセグメントで鋳造鋳片に対して最適値と考えられる圧下量に設定して軽圧下が施されているが、実際には、鋳造鋳片の引き抜き方向におけるクレーターエンド位置の変動により、凝固末期の鋳造鋳片に施されている軽圧下では、圧下量が最適値から大きく外れている場合が多々ある。
【0032】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、連続鋳造における鋳造鋳片の引き抜き過程で、鋳造鋳片のクレーターエンド位置が変動する要因となり得る操業条件が変動しても、常に、軽圧下帯の所定の位置にクレーターエンド位置が存在するように制御することで、最適な圧下量のもとで軽圧下を施し、鋳造された鋳造鋳片の全長にわたって中心偏析を軽減すると共に、軽圧下帯を構成するセグメントにかかる負荷を軽減してその寿命の延長を図ることができる鋳造鋳片の連続鋳造方法を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明は、連続鋳造用鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片に対し、2次冷却帯の下流に位置する軽圧下帯にて軽圧下を施す連続鋳造方法において、前記鋳造鋳片の鋳造速度に応じ、前記2次冷却帯における冷却水の比水量を変化させることにより、該鋳造鋳片の中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納める制御を行うことを特徴とする鋳造鋳片の連続鋳造方法である。
【0034】
上記の構成からなる鋳造鋳片の連続鋳造方法においては、
1)前記鋳造鋳片の固相率が流動限界固率となる位置を、前記鋳造鋳片の凝固完了位置のオンラインによる検知情報に基づいて求めると共に、該位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納めるべく、前記2次冷却帯における冷却水の温度を調整すること、
2)前記2次冷却帯における冷却水の温度の調整範囲を、15〜45℃とすること、
3)前記鋳造鋳片の固相率が流動限界固相率となる位置を、前記鋳造鋳片の幅方向において凝固完了位置が最も下流側に存在する幅位置におけるものとすること、
さらに、
4)前記鋳造鋳片の流動限界固相率を、0.6〜0.8とすること、
が、本発明の具体的な解決手段として望ましい。
【発明の効果】
【0035】
上記のような構成を有する本発明によれば、鋳造鋳片の鋳造速度に応じ、前記2次冷却帯における冷却水の比水量を変化させ、該鋳造鋳片の中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に収まるようにしたため、鋳造鋳片の全長にわたって一定の圧下量で軽圧下を施すことが可能となり、その結果、鋳造鋳片の品質の安定化が図られる。また、セグメントにおいては、過大な負荷がかかることがないため、その寿命を延長することが可能となる。
【0036】
また、本発明による鋳造鋳片の連続鋳造方法によれば、鋳造鋳片の固相率が流動限界固率となる位置を、鋳造鋳片の凝固完了位置のオンラインによる検知情報に基づいて求めると共に、該位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に収まるように2次冷却帯における冷却水の温度を調整するようにしたため、鋳造条件が大きく変動するような場合においても常に一定の圧下量で鋳造鋳片に対して軽圧下を施すことができる。
【0037】
なお、上記の構成からなる本発明によれば、2次冷却帯における冷却水の温度の調整範囲を15〜45℃としたため、比較的容易な温度管理のもとで、鋳造鋳片の固相率が流動限界固相率となる位置の正確な制御が可能となる。
【0038】
また、本発明による鋳造鋳片の連続鋳造方法によれば、鋳造鋳片の固相率が流動限界固相率となる位置を、鋳造鋳片の幅方向において凝固完了位置が最も下流側に存在する幅位置におけるものとしたため、安定した圧下量のもとで軽圧下を行うことが可能となり、鋳造鋳片の全長にわたって中心偏析を軽減することができる。
【0039】
さらに、本発明によれば、鋳造鋳片の流動限界固相率を、0.6〜0.8として軽圧下を施すようにしたため、中心偏析の確実な軽減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を実施するのに用いて好適な連続鋳造機を模式的に示した図である。
【図2】軽圧下帯を構成するセグメントを模式的に示した図である。
【図3】皿ばねの変位と、鋳造鋳片の厚さ中心部の流動限界固相率のメニスカスからの距離との関係を示したグラフである。
【図4】鋳造鋳片の厚さ中心部の流動限界固相率の位置と、中心偏析との関係を示したグラフである。
【図5】2次冷却水の比水量と、鋳造速度との関係を示したグラフである。
【図6】伝熱計算によるクレーターエンド位置と、鋳造速度との関係を示したグラフである。
【図7】2次冷却水の比水量と、鋳造速度との関係を示したグラフである。
【図8】本発明に従って連続鋳造した場合における流動限界固相率の位置と、経過時間の関係を示したグラフである。
【図9】比較例として連続鋳造した場合における流動限界固相率の位置と、経過時間の関係を示したグラフである。
【図10】皿ばねの変位量を調査した結果を示したグラフである。
【図11】中心偏析の度合い(Mn)を調査した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を図面を用いてより具体的に説明する。
図1は、本発明を実施するのに用いて好適な連続鋳造機を模式的に示した図である。
【0042】
連続鋳造機には、溶鋼を注入して凝固させ、鋳片の外殻形状を形成するための鋳型1が設置される。また、この鋳型1の上方所定位置には、取鍋から供給される溶鋼を鋳型1に中継供給するためのタンディッシュ2が設置されている。
【0043】
タンディッシュ2の底部には、溶鋼の流量を調整するためのスライディングノズル3が設置され、このスライディングノズル3の下面には、浸漬ノズル4が設置されている。
【0044】
一方、鋳型2の下方には、鋳造鋳片Sの引き抜き方向に沿ってサポートロール、ガイドロール、及びピンチロールからなる複数対の鋳片支持ロール5が配置されている。
【0045】
また、鋳型1の下方には、鋳片支持ロール5の間を通して冷却水あるいはエアーを吹きつける、水スプレーノズル、エアーミストノズルなどのスプレーノズルから構成された2次冷却帯6が配置されている。
【0046】
鋳型1から引き抜かれた鋳造鋳片Sは、その引き抜き移動中に、上記2次冷却帯6のスプレーノズルから噴霧される冷却水(これを、「2次冷却水」ともいう)あるいはエアーによって冷却される。
【0047】
2次冷却帯6は、通常、幾つかの冷却ゾーンに分かれている。冷却媒体として2次冷却水を適用するものにあっては、それを送り出すポンプは各冷却ゾーンで共通になっており、該ポンプの前後に温度を調整するためのヒーターやクーラーが設置することにより、2次冷却水の温度を調整して、鋳造鋳片Sを冷却することができるようになっている。
【0048】
また、鋳造方向最終の鋳片支痔ロール5の下流側には、鋳造鋳片Sを搬送するための複数の搬送ロール7が設置されており、この搬送ロール7の上方には、鋳造鋳片Sから所定の長さの鋳片を切り出すための鋳片切断機8が配置されている。
【0049】
鋳造鋳片Sの凝固完了予定位置付近と、その上流側(2次冷却帯6の下流)には、軽圧下帯9が配置されている。
【0050】
軽圧下帯9は、鋳造鋳片Sを厚さ方向に挟んで対向する鋳片支持ロール間の間隔(この間隔を「ロール開度」という)を、鋳造鋳片Sの引き抜き方向下流に向けて徐々に狭くなるように設定された複数のセグメント(セグメントのフレーム内には複数対の鋳片支持ロールが組み込まれている)から構成されている。
【0051】
ここに、鋳造鋳片Sの引き抜き方向下流に向かって徐々に狭くなるように設定されたロール開度の開度度合いを「圧下勾配」と称している。
【0052】
通常、圧下勾配は、鋳造方向1mあたりのロール開度の絞込み量、つまり「mm/m」で表示される。従って、軽圧下帯9における鋳造鋳片Sの圧下速度「mm/min」は、この圧下勾配を鋳造速度「m/min」で乗算することによって得られる。
【0053】
また、軽圧下帯9より下流側には、横波超音波または縦波超音波を鋳片に透過させ、これら超音波の伝播時間から鋳造鋳片Sの凝固完了位置を検知する凝固完了位置検知装置10が設置され、クレーターエンド位置をオンラインで測定することができるようになっている。
【0054】
なお、上記凝固完了位置検知装置10は、鋳造鋳片Sの幅方向に沿う測定も可能であり、クレーターエンドの形状も測定できる。
【0055】
以下、上記の連続鋳造機を使用して鋳造鋳片Sを鋳造しつつ、該鋳造鋳片Sに軽圧下を施す場合について説明する。
【0056】
鋳造速度や2次冷却水の水温等の変動により、クレーターエンド位置は、鋳造鋳片Sの引き抜き方向(鋳造方向)に変動する。
【0057】
軽圧下帯9では凝固末期における鋳造鋳片Sも含めて軽圧下を施している。
【0058】
前述したように、クレーターエンド位置の変動により、凝固末期の鋳造鋳片Sに施される圧下量が変動する場合がある。
【0059】
本発明においては、まず幅2100mm、厚み250mmの低炭素鋼材を、上記の構成からなる連続鋳造機にて鋳造し、その際に、クレーターエンドが位置する軽圧下帯9のセグメントにおいて、クレーターエンド位置とセグメントの皿ばねの変位状況について調査した。
【0060】
ただし、軽圧下により、濃化溶鋼の流動を防止することを考えると、実際は、クレーターエンド位置よりも、鋳造鋳片Sの厚み中心部(軸心)の液相の流動限界までを軽圧下することが重要である。
【0061】
従って、クレーターエンド位置よりも、鋳造鋳片Sの厚み中心部の固相率が流動限界固相率となる位置が重要となる。このため、鋳造鋳片Sの厚み中心部の固相率が流動限界固相率となる位置と、その位置にある軽圧下帯9のセグメントの皿ばねの変位状況について測定した。
【0062】
なお、上記の皿ばねとは、軽圧下帯9を構成するセグメントの1つにつき、その正面を図2に示した如く、該セグメントを構成する支柱11の上部に配置される、符号12で示されるもの(複数枚重ね合わせて使用される)であって、この皿ばね12は、鋳造鋳片Sの圧下に際して過大な荷重が圧下ロール13を通してセグメントに付加された場合に、それ自体が変位してセグメントにかかる荷重の負荷を軽減するものである。
【0063】
鋳造鋳片Sの厚み中心部における流動限界固相率の位置は、前述の凝固完了位置検知装置10で測定できる凝固完了位置を、固相率1.0として、伝熱計算により中心部の固相率が流動限界の固相率から1.0になる距離を鋳造条件別に算出し、凝固完了位置検知装置10で測定した凝固完了位置からその距離を差し引くことで算出した。
【0064】
また、皿ばね12の変位は、セグメントの4本の支柱11に設置されている皿ばね12に渦電流式の距離計をそれぞれ設置し、4本分の値を平均して算出した。
【0065】
図3は、流動限界固相率の位置が変動し、該流動限界固相率が位置するセグメントの皿ばね12の変位を示した図である。
【0066】
なお、図3における流動限界固相率の位置は、幅方向において最も下流側にクレーターエンドがある幅位置で測定した結果である。
【0067】
図3より、鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置が、鋳造鋳片Sの引き抜き方向に沿って変動することにより、皿ばね12の変位が大きく変動しているのが明らかである。
【0068】
つまり、これは、鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置が変動することで、流動限界付近の鋳造鋳片Sに付与される圧下量が大きく変動していることを示すものであり、前述したように、鋳造鋳片Sの引き抜き方向において、中心偏析の度合いにばらつきが生じることを示しており、鋳造鋳片Sの内部品質を著しく低下させることにもなる。
【0069】
上記の結果から、鋳造鋳片Sの内部品質の低下を防止するには、鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置を常に一定に、かつ、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御することがとくに有効となる。
【0070】
それは、図4に示すように、鋳造鋳片Sの厚さ方向の中心部における流動限界固相率の位置を、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mに納めることで、軽圧下の効果を最も有効に発揮させることができる(中心偏析度1.03以下)からである。なお、図4において鋳造鋳片Sの中心偏析度は、Mn偏析度で表示しているが、Mn偏析度が1.03以下で十分な品質が確保される。
【0071】
上記流動限界固相率の位置が変動する要因となりうる操業条件が変動しても、流動限界固相率の位置を常に一定位置に制御するために、まず、鋳造鋳片Sの厚さ方向の中心部の流動限界固相率の位置に影響を及ぼす鋳造条件の1つである鋳造速度の影響についての調査を行った。
【0072】
その結果、実際には、鋳造初期の鋳造速度が増速する過渡期や鋳造終了時の減速時を除き、鋳造において設定される可能性がある鋳造速度の範囲において2次冷却水の比水量を調整することで、鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置を、所定の位置に制御できることが判明した。
【0073】
図5は、鋳造速度が1.4m/min、鍋待ち等の理由により、鋳造速度が1.2m/minまで低減する可能性がある場合の条件を想定し、連続鋳造機において幅2100mm、厚み250mmの低炭素鋼を鋳造するにあたって、鋳造速度1.2〜1.4m/minの範囲で流動限界固相率の位置を一定に制御する場合の2次冷却水の比水量を示したものである。
【0074】
上掲図5は、鋳造速度1.2〜1.4m/minの範囲を想定したものであるが、当然、他の鋼種や連続鋳造機では、工程の鋳造速度や鋳造する可能性がある鋳造速度が変わるため、その範囲を考慮して2次冷却水量を決定する必要がある。
【0075】
図5に示した比水量のもとで連続鋳造した場合の流動限界固相率の位置を、伝熱計算によって算出した結果を図6に示す。
【0076】
なお、連続鋳造機の軽圧下帯9は、鋳型内1の湯面から21.1〜27.6mの位置にあり、軽圧下帯9の最終セグメントの出側が27.6mの位置にある場合を前提としている。
【0077】
図6に示したように、伝熱計算上は、鋳造速度が変動しても流動限界固相率の位置を軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御されている。
【0078】
しかしながら、上記伝熱計算は2次冷却水の水温を30℃、タンディッシュでの溶鋼過熱度(溶鋼の温度と固相線温度の差)を30℃として計算した場合であり、2次冷却水の温度は制御可能であるが、タンディッシュでの溶鋼過熱度を制御することは困難である。
【0079】
また、伝熱計算上は考慮していない大気の温度やロールによる抜熱の影響を考えると、伝熱計算上は流動限界固相率の位置は一定であっても、実際は鋳造鋳片Sの引き抜き方向(鋳造方向)に変動することが予想される。
【0080】
そこで、本発明では、上記の流動限界固相率の位置の変動を抑制するため、2次冷却水の温度で流動限界固相率の位置をさらに制御する。
【0081】
具体的には、上紀伝熱計算によって決定された比水量したがって鋳造された鋳造鋳片Sの流動限界固相率の位置を、凝固完了位置を検知する凝固完了位置検知装置10を使用してオンラインで測定し、伝熱計算上の流動限界固相率の位置と、オンラインで測定した流動限界固相率の位置の差を、2次冷却水の温度によって調整し、凝固完了位置検知装置10による流動限界固相率の位置を、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御する。
【0082】
凝固完了位置検知装置10を使用して、鋳造鋳片Sの厚み中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、オンラインで算出するには、凝固完了位置検知装置10で測定できる凝固完了位置を固相率1.0として、伝熱計算により鋳造鋳片Sの厚さ方向の中心部における固相率が流動限界固相率から固相率1.0になるまでの距離を鋳造条件別に算出しておき、オンラインで測定した凝固完了位置から差し引くことで、実際の流動限界位置を算出することができる。
【0083】
2次冷却水の温度の変化による流動限界固相率の位置の変動量は、予め、凝固完了位置検知装置10によって測定しておくか、伝熱計算で予測しておくことが望ましい。
【0084】
また、流動限界固相率の位置は幅方向において、一定でない場合があり、流動限界固相率の位置が幅方向において最も下流側になる幅位置において、流動限界位置を最終セグメントの出側よりも上流側の位置に制御することで、幅方向の全ての流動限界位置を軽圧下帯の中に入れることができ、軽圧下を施すことが可能になる。
【0085】
鋳造鋳片Sの幅方向において、流動限界固相率の位置が最も下流側になる幅位置は、前述の凝固完了位置検知装置10で測定するか、鋳造鋳片Sの表面温度を幅方向に測定することで知ることができる。
【0086】
本発明では、2次冷却帯における冷却水の温度の調整範囲を、15〜45℃としたが、この範囲内で冷却水の温度管理を行うことで、鋳造鋳片Sの流動限界固相率の位置を、確実に所定の位置に制御することができる。
【0087】
以上、説明したように、本発明によれば、まず鋳造速度の変動による鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置の変動を、2次冷却帯6における冷却水の比水量で抑制し、さらには、その他の要因による前記流動限界固相率の位置の変動を、2次冷却水の温度で制御することで、鋳造条件の変動によらず、鋳造鋳片Sの厚さ方向の中心部の固相率が流動限界固相率となる位置を、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御することができる。
【0088】
従って、本発明によれば、鋳造条件の変動によらず常に同一の圧下量を凝固末期の鋳造鋳片に施すことが可能となり、鋳造鋳片Sの引き抜き方向における中心偏折のばらつきが軽減され、常に中心偏析の度合いが低い鋳造鋳片を鋳造することができることとなり、しかも、軽圧下帯を構成するセグメントには、過大な荷重が負荷されることがないため、該セグメントの寿命が延長される。
【0089】
本発明において、鋳造鋳片の厚み中心部の流動限界固相率を、0.6〜0.8に設定するのが好ましいとしたが、その理由は、この範囲で軽圧下を終えることにより中心偏析の改善効果を高めることができるからである。
【実施例】
【0090】
上掲図1に示した連続鋳造機を用い、本発明に従って、C:0.039mass%、Mn:1.10mass%、Si:0.18mass%、S:0.0012mass%、P:0.012mass%、solAl:0.020mass%からなる低炭素鋼の連続鋳造を行い、得られた鋳造鋳片の品質改善状況および軽圧下帯の圧下にかかる荷重の負荷状況についての調査を行った。
【0091】
なお、2次冷却帯6では、図5に示した比水量で鋳造鋳片Sの冷却を行い、鋳造途中で鋳造速度を1.25〜1.4m/minで変動させた。
【0092】
凝固完了位置検知装置10を用いて凝固完了位置情報を取得したところ、この実施例では、幅中央から800mmである幅位置の流動限界固相率の位置が、幅方向において最も下流側になっていた。
【0093】
このため、連続鋳造中は、幅中央から800mmである幅位置の流動限界固相率の位置が、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mに入るように、凝固完了位置検知装置10により取得した凝固完了位置情報に基づいて、2次冷却水の温度を調整して冷却を行った。
【0094】
なお、この実施例における鋳造条件では、伝熱計算によると、2次冷却水の水温が1℃変化することで流動限界固相率の位置は0.1m変化するので、流動限界固相率の位置が所定の範囲よりも上流側に位置したときは、2次冷却水の水温を上げる一方、流動限界固相率の位置が所定の範囲よりも下流側に位置したときは、2次冷却水の水温を下げる調整を行った。
【0095】
なお、比較のため、C:0.042mass%、Mn:0.99mass%、Si:0.11mass%、S:0.0015mass%、P:0.015mass%、solAl:0.033mass%からなる低炭素鋼の連続鋳造を、図7に示す条件で実施した場合(流動限界固相率の位置の調整は行わず)についても合わせて調査した(比較例)。
【0096】
すべての試験において、鋳型サイズは厚み250mm、幅2100mmであり、軽圧下帯9におけるセグメントでの圧下勾配は、0.90mm/mとした。
【0097】
図8は、本発明に従って連続鋳造した場合(適合例)の流動限界固相率の位置の推移と、鋳造速度の推移を示したグラフである。2次冷却水の温度調整の値も図8に併せて示す。
【0098】
一方、図9は、比較のために行った連続鋳造(比較例)における流動限界固相率の位置の推移と、鋳造速度の推移を示したグラフである。
【0099】
図8から明らかなように、本発明に従う連続鋳造においては、鋳造中は常に、幅方向において最も凝固完了位置が下流側になる幅位置において、鋳造鋳片の厚さ方向の中心部の固相率が流動限界固相率となる位置が、軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御されていることが確認された。
【0100】
しかし、比較例では、図9に示す如く、流動限界固相率の位置が鋳造速度の変動によっても推移し、さらに鋳造速度が一定の範囲においても変動していた。
【0101】
図10は、本発明に従って連続鋳造した場合の軽圧下帯の最終セグメントにおける皿ばねの変位と、比較例での、軽圧下帯の最終セグメントにおける皿ばねの変位を比較して示した図である。
【0102】
本発明においては、皿ばねの変位が低位であり、比較例の場合と異なり、ばらつきも小さく、凝固末期の鋳造鋳片に対して一定の圧下量で軽圧下することができると共に、軽圧下帯を構成するセグメントに加えられる負荷が軽減されていることが明らかとなった。
【0103】
図11は、本発明に従う連続鋳造で得られた鋳片の中心偏析の度合いと、比較例で得られた鋳片の中心偏析の度合いを比較して示した図である。
【0104】
なお、上記の中心偏析の度合いは、鋳片の断面の中心部をEPMA(電子線マイクロアナライザー)で分析し、Mn濃度を算出し、鋳造前の素鋼成分のMn濃度で乗算することで、算出した。また、鋳片のサンプルは、鋳造方向に沿いランダムに10本採取(全幅サンプル)したものを用いた。
【0105】
その結果、本発明に従って連続鋳造された鋳片においては、中心偏析の度合いが低位で安定していたのに対して、比較サンプルは、中心偏析の度合いが大きくばらついていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、鋳造鋳片の中心偏析が軽減されると共に、その長手方向において一定しており、品質の安定化を図ることが可能となった。
【0107】
また、本発明によれば、連続鋳造鋳片に対する適切な軽圧下が行えるため、軽圧下帯のセグメントにおける荷重負荷(圧下による荷重)が軽減され、該セグメントの寿命を延長することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 連続鋳造用鋳型
2 タンディッユ
3 スライディングノズル
4 浸漬ノズル
5 支持ロール
6 2次冷却帯
7 搬送ロール
8 切断装置
9 軽圧下帯
10 検知装置
11 支柱
12 皿ばね
S 鋳造鋳片
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造鋳片の連続鋳造方法に関するものであり、とくに、2次冷却帯の下流に設けられた軽圧下帯にて、引き抜き移動中の鋳造鋳片に対して軽圧下を施す連続鋳造方法を提案する。
【背景技術】
【0002】
鋼の凝固過程では、炭素、燐、硫黄などの溶質元素は、凝固時の再分配により未凝固の液相側に濃化される。これがデンドライト樹間に形成されるいわゆるミクロ偏析といわれるものである。
【0003】
連続鋳造機により鋳造されつつある鋳造鋳片では、凝固収縮あるいは連続鋳造機のロール間で発生する凝固シェルのバルジングなどによって該鋳造鋳片の厚み中心部に空隙が形成されたり、負圧が生じやすい。
【0004】
そして、鋳片の凝固末期の未凝固層には、十分な量の溶鋼が存在しないことから、上記のミクロ偏析によって濃縮された溶鋼が、その中心部に集積して凝固することになる。
【0005】
かかる凝固によって形成された偏析スポットは、溶質元素の濃度が鋳造にかかわる溶鋼の初期濃度に比べて格段に高くなっている。これは、一般にマクロ偏析と称されるものであり、その存在部位から、中心偏析とも称されている。
【0006】
原油や天然ガスなどの輸送用ラインパイプに適用される鋼材は、上記中心偏析によって品質が悪化しやすい。それは、中心偏析部にMnSやNb炭化物が生成されると、腐食反応により鋼の内部に侵入した水素が鋼中のMnSやNb炭化物のまわりに拡散・集積して、その内圧により割れが発生するからである。
【0007】
前記中心偏析部は、硬度が高いため、割れが一旦発生するとその割れが伝播しやすく、これがいわゆる水素誘起割れ(以下、「HIC」と略記する)である。
【0008】
従って、連続鋳造によって鋳造された鋳造鋳片の中心偏析を低減することの重要性は非常に高いものとなっている。
【0009】
従来、これに対処するため、連続鋳造工程から圧延工程に至るまでの間で様々な中心偏析低減対策、無害化対策が採られており、また、多数の提案もなされている。
【0010】
その中でも、鋳造鋳片の中心偏析を効果的に低減する手段として、例えば、特許文献1、特許文献2には、連続鋳造機内において、未凝固層を有する凝固末期の鋳造鋳片に対し、鋳片支持ロールにより凝固収縮量と熱収縮量との和に相当する程度の圧下量で徐々に圧下を施す連続鋳造方法が開示されている。
【0011】
上記において、鋳造鋳片を凝固収縮量および熱収縮量の和に相当する程度の圧下量で徐々に圧下するというのは、一般に「軽圧下」あるいは「軽圧下法」といわれる技術である。
【0012】
軽圧下あるいは軽圧下法といわれる技術は、具体的には、鋳造方向(鋳造鋳片の引き抜き方向)に沿って並べた複数対のロールを用いて、凝固収縮量および熱収縮量の和に見合った圧下量で鋳造鋳片を徐々に圧下して未凝固層の体積を減少させ、鋳造鋳片の中心部における空隙あるいは負圧部の形成を防止すると同時に、デンドライト樹間に形成される濃化溶鋼の流動を防止し、これによって、鋳造鋳片の中心偏析を軽減するというものである。
【0013】
なお、近年の連続鋳造機では、複数本のロールを備えたセグメントを1セットとして、これを鋳造鋳片の引き抜き方向に沿って複数配列したセグメント方式の連続鋳造機が主流であり、軽圧下を実施する領域(軽圧下帯)で使用される圧下ロール群についても、セグメントにて構成されており、この場合、ロール対のロール開度は、セグメントの入側のロール開度が、出側のロール開度よりも大きくなるように調整されている。
【0014】
そして、上記連続鋳造機を適用して鋳造鋳片に軽圧下を施す場合、一般的に、鋳造鋳片の凝固完了位置(「クレーターエンド位置」ともいう)を、上記の軽圧下帯の範囲内に位置させる制御を行うのが普通である。
【0015】
ところで、従来の軽圧下技術においては、以下に述べるような問題があった。
【0016】
すなわち、クレーターエンド位置を軽圧下帯の範囲内に制御するに当たり、該クレーターエンド位置が軽圧下帯の、鋳造方向のどの位置にあるかで、実際に凝固末期の鋳造鋳片に施される圧下量が変化してしまう場合がある。
【0017】
つまり、クレーターエンド位置が軽圧下帯のセグメントの出側にある場合には、セグメント内における鋳造鋳片は、その厚さ方向において未凝固相が多くなるため、鋳造鋳片の変形抵抗が小さく、それほど大きな荷重を必要とせずに圧下を施すことができる。
【0018】
しかし、クレーターエンド位置が、軽圧下帯のセグメントの入側にある場合には、セグメント内の大部分の鋳造鋳片は、凝固が完了しているため、このような状態で軽圧下を行うと、過大な荷重がセグメントの支柱(4本)に印加される可能性がある。
【0019】
そして、セグメントの支柱に印加された荷重が、予め設定さている耐荷重を超えた場合、セグメントの保護のためにその支柱上部に設置されている皿ばねが撓むことになる。
【0020】
前記セグメントは、剛性体であり、該セグメントに荷重が印加されると、ロール開度は幾らか拡がることになるが、皿ばねが撓むまでの荷重に達すると、ロール開度が大きく拡がってしまうことになる。
【0021】
また、皿ばねが撓みはじめるとセグメントの剛性が低くなるので、ロール開度はより一層拡がることなる。
【0022】
従って、かかる状況においては、場合によっては、セグメントの出側のロール開度が入側のロール開度と同等になり、凝固末期の鋳造鋳片を全く圧下することができないことがある。
【0023】
実際の操業においては、2次冷却帯における水温や溶鋼温度、鋳造速度が変動するため、鋳造中における鋳造鋳片のクレーターエンド位置は常に変動している。
【0024】
従って、鋳造鋳片の軽圧下においては、鋳造鋳片の引き抜き方向の圧下量が、常に大きく変動している可能性がある。
【0025】
非特許文献1、非特許文献2によれば、圧下量には最適値があり、圧下不足であると濃化溶鋼の流動が生じ、V字偏析が見られる場合がある一方、圧下が過多であると濃化溶鋼の逆流が生じ、負偏析や逆V字偏析が生じる場合があり、何れにおいても、最適な圧下量を施した場合に比べ、中心偏析は悪化する、との報告がなされている。
【0026】
よって、鋳造鋳片の引き抜き方向において、中心偏析の度合いにばらつきが生じることとなり、鋳造鋳片の内部品質が著しく低下することが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開平8−132203号公報
【特許文献2】特開平8−192256号公報
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】鉄と鋼Vol.80(1994)No.1.p42
【非特許文献2】鉄と鋼Vol.87(2001)No.2.p72
【0029】
近年、鉄鋼製品に対する品質要求は、以前にも増して厳しくなり、軽圧下を必須とする製品が増えている。
【0030】
そして、それに伴って鋳造鋳片に軽圧下を施す機会が増加しており、軽圧下帯を構成するセグメントの寿命が短命化も避けられない状況にあり、鋳造鋳片の中心偏析の軽減に併せて軽圧下帯におけるセグメントの寿命の延長を図ることが要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
上述した如く、現在、連続鋳造鋳片に対する品質要求レベルは高まり、以前にも増して中心偏析の少ない鋳造鋳片が求められ、そのため、中心偏析軽減対策として、軽圧下帯のセグメントで鋳造鋳片に対して最適値と考えられる圧下量に設定して軽圧下が施されているが、実際には、鋳造鋳片の引き抜き方向におけるクレーターエンド位置の変動により、凝固末期の鋳造鋳片に施されている軽圧下では、圧下量が最適値から大きく外れている場合が多々ある。
【0032】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、連続鋳造における鋳造鋳片の引き抜き過程で、鋳造鋳片のクレーターエンド位置が変動する要因となり得る操業条件が変動しても、常に、軽圧下帯の所定の位置にクレーターエンド位置が存在するように制御することで、最適な圧下量のもとで軽圧下を施し、鋳造された鋳造鋳片の全長にわたって中心偏析を軽減すると共に、軽圧下帯を構成するセグメントにかかる負荷を軽減してその寿命の延長を図ることができる鋳造鋳片の連続鋳造方法を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明は、連続鋳造用鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片に対し、2次冷却帯の下流に位置する軽圧下帯にて軽圧下を施す連続鋳造方法において、前記鋳造鋳片の鋳造速度に応じ、前記2次冷却帯における冷却水の比水量を変化させることにより、該鋳造鋳片の中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納める制御を行うことを特徴とする鋳造鋳片の連続鋳造方法である。
【0034】
上記の構成からなる鋳造鋳片の連続鋳造方法においては、
1)前記鋳造鋳片の固相率が流動限界固率となる位置を、前記鋳造鋳片の凝固完了位置のオンラインによる検知情報に基づいて求めると共に、該位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納めるべく、前記2次冷却帯における冷却水の温度を調整すること、
2)前記2次冷却帯における冷却水の温度の調整範囲を、15〜45℃とすること、
3)前記鋳造鋳片の固相率が流動限界固相率となる位置を、前記鋳造鋳片の幅方向において凝固完了位置が最も下流側に存在する幅位置におけるものとすること、
さらに、
4)前記鋳造鋳片の流動限界固相率を、0.6〜0.8とすること、
が、本発明の具体的な解決手段として望ましい。
【発明の効果】
【0035】
上記のような構成を有する本発明によれば、鋳造鋳片の鋳造速度に応じ、前記2次冷却帯における冷却水の比水量を変化させ、該鋳造鋳片の中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に収まるようにしたため、鋳造鋳片の全長にわたって一定の圧下量で軽圧下を施すことが可能となり、その結果、鋳造鋳片の品質の安定化が図られる。また、セグメントにおいては、過大な負荷がかかることがないため、その寿命を延長することが可能となる。
【0036】
また、本発明による鋳造鋳片の連続鋳造方法によれば、鋳造鋳片の固相率が流動限界固率となる位置を、鋳造鋳片の凝固完了位置のオンラインによる検知情報に基づいて求めると共に、該位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に収まるように2次冷却帯における冷却水の温度を調整するようにしたため、鋳造条件が大きく変動するような場合においても常に一定の圧下量で鋳造鋳片に対して軽圧下を施すことができる。
【0037】
なお、上記の構成からなる本発明によれば、2次冷却帯における冷却水の温度の調整範囲を15〜45℃としたため、比較的容易な温度管理のもとで、鋳造鋳片の固相率が流動限界固相率となる位置の正確な制御が可能となる。
【0038】
また、本発明による鋳造鋳片の連続鋳造方法によれば、鋳造鋳片の固相率が流動限界固相率となる位置を、鋳造鋳片の幅方向において凝固完了位置が最も下流側に存在する幅位置におけるものとしたため、安定した圧下量のもとで軽圧下を行うことが可能となり、鋳造鋳片の全長にわたって中心偏析を軽減することができる。
【0039】
さらに、本発明によれば、鋳造鋳片の流動限界固相率を、0.6〜0.8として軽圧下を施すようにしたため、中心偏析の確実な軽減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を実施するのに用いて好適な連続鋳造機を模式的に示した図である。
【図2】軽圧下帯を構成するセグメントを模式的に示した図である。
【図3】皿ばねの変位と、鋳造鋳片の厚さ中心部の流動限界固相率のメニスカスからの距離との関係を示したグラフである。
【図4】鋳造鋳片の厚さ中心部の流動限界固相率の位置と、中心偏析との関係を示したグラフである。
【図5】2次冷却水の比水量と、鋳造速度との関係を示したグラフである。
【図6】伝熱計算によるクレーターエンド位置と、鋳造速度との関係を示したグラフである。
【図7】2次冷却水の比水量と、鋳造速度との関係を示したグラフである。
【図8】本発明に従って連続鋳造した場合における流動限界固相率の位置と、経過時間の関係を示したグラフである。
【図9】比較例として連続鋳造した場合における流動限界固相率の位置と、経過時間の関係を示したグラフである。
【図10】皿ばねの変位量を調査した結果を示したグラフである。
【図11】中心偏析の度合い(Mn)を調査した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を図面を用いてより具体的に説明する。
図1は、本発明を実施するのに用いて好適な連続鋳造機を模式的に示した図である。
【0042】
連続鋳造機には、溶鋼を注入して凝固させ、鋳片の外殻形状を形成するための鋳型1が設置される。また、この鋳型1の上方所定位置には、取鍋から供給される溶鋼を鋳型1に中継供給するためのタンディッシュ2が設置されている。
【0043】
タンディッシュ2の底部には、溶鋼の流量を調整するためのスライディングノズル3が設置され、このスライディングノズル3の下面には、浸漬ノズル4が設置されている。
【0044】
一方、鋳型2の下方には、鋳造鋳片Sの引き抜き方向に沿ってサポートロール、ガイドロール、及びピンチロールからなる複数対の鋳片支持ロール5が配置されている。
【0045】
また、鋳型1の下方には、鋳片支持ロール5の間を通して冷却水あるいはエアーを吹きつける、水スプレーノズル、エアーミストノズルなどのスプレーノズルから構成された2次冷却帯6が配置されている。
【0046】
鋳型1から引き抜かれた鋳造鋳片Sは、その引き抜き移動中に、上記2次冷却帯6のスプレーノズルから噴霧される冷却水(これを、「2次冷却水」ともいう)あるいはエアーによって冷却される。
【0047】
2次冷却帯6は、通常、幾つかの冷却ゾーンに分かれている。冷却媒体として2次冷却水を適用するものにあっては、それを送り出すポンプは各冷却ゾーンで共通になっており、該ポンプの前後に温度を調整するためのヒーターやクーラーが設置することにより、2次冷却水の温度を調整して、鋳造鋳片Sを冷却することができるようになっている。
【0048】
また、鋳造方向最終の鋳片支痔ロール5の下流側には、鋳造鋳片Sを搬送するための複数の搬送ロール7が設置されており、この搬送ロール7の上方には、鋳造鋳片Sから所定の長さの鋳片を切り出すための鋳片切断機8が配置されている。
【0049】
鋳造鋳片Sの凝固完了予定位置付近と、その上流側(2次冷却帯6の下流)には、軽圧下帯9が配置されている。
【0050】
軽圧下帯9は、鋳造鋳片Sを厚さ方向に挟んで対向する鋳片支持ロール間の間隔(この間隔を「ロール開度」という)を、鋳造鋳片Sの引き抜き方向下流に向けて徐々に狭くなるように設定された複数のセグメント(セグメントのフレーム内には複数対の鋳片支持ロールが組み込まれている)から構成されている。
【0051】
ここに、鋳造鋳片Sの引き抜き方向下流に向かって徐々に狭くなるように設定されたロール開度の開度度合いを「圧下勾配」と称している。
【0052】
通常、圧下勾配は、鋳造方向1mあたりのロール開度の絞込み量、つまり「mm/m」で表示される。従って、軽圧下帯9における鋳造鋳片Sの圧下速度「mm/min」は、この圧下勾配を鋳造速度「m/min」で乗算することによって得られる。
【0053】
また、軽圧下帯9より下流側には、横波超音波または縦波超音波を鋳片に透過させ、これら超音波の伝播時間から鋳造鋳片Sの凝固完了位置を検知する凝固完了位置検知装置10が設置され、クレーターエンド位置をオンラインで測定することができるようになっている。
【0054】
なお、上記凝固完了位置検知装置10は、鋳造鋳片Sの幅方向に沿う測定も可能であり、クレーターエンドの形状も測定できる。
【0055】
以下、上記の連続鋳造機を使用して鋳造鋳片Sを鋳造しつつ、該鋳造鋳片Sに軽圧下を施す場合について説明する。
【0056】
鋳造速度や2次冷却水の水温等の変動により、クレーターエンド位置は、鋳造鋳片Sの引き抜き方向(鋳造方向)に変動する。
【0057】
軽圧下帯9では凝固末期における鋳造鋳片Sも含めて軽圧下を施している。
【0058】
前述したように、クレーターエンド位置の変動により、凝固末期の鋳造鋳片Sに施される圧下量が変動する場合がある。
【0059】
本発明においては、まず幅2100mm、厚み250mmの低炭素鋼材を、上記の構成からなる連続鋳造機にて鋳造し、その際に、クレーターエンドが位置する軽圧下帯9のセグメントにおいて、クレーターエンド位置とセグメントの皿ばねの変位状況について調査した。
【0060】
ただし、軽圧下により、濃化溶鋼の流動を防止することを考えると、実際は、クレーターエンド位置よりも、鋳造鋳片Sの厚み中心部(軸心)の液相の流動限界までを軽圧下することが重要である。
【0061】
従って、クレーターエンド位置よりも、鋳造鋳片Sの厚み中心部の固相率が流動限界固相率となる位置が重要となる。このため、鋳造鋳片Sの厚み中心部の固相率が流動限界固相率となる位置と、その位置にある軽圧下帯9のセグメントの皿ばねの変位状況について測定した。
【0062】
なお、上記の皿ばねとは、軽圧下帯9を構成するセグメントの1つにつき、その正面を図2に示した如く、該セグメントを構成する支柱11の上部に配置される、符号12で示されるもの(複数枚重ね合わせて使用される)であって、この皿ばね12は、鋳造鋳片Sの圧下に際して過大な荷重が圧下ロール13を通してセグメントに付加された場合に、それ自体が変位してセグメントにかかる荷重の負荷を軽減するものである。
【0063】
鋳造鋳片Sの厚み中心部における流動限界固相率の位置は、前述の凝固完了位置検知装置10で測定できる凝固完了位置を、固相率1.0として、伝熱計算により中心部の固相率が流動限界の固相率から1.0になる距離を鋳造条件別に算出し、凝固完了位置検知装置10で測定した凝固完了位置からその距離を差し引くことで算出した。
【0064】
また、皿ばね12の変位は、セグメントの4本の支柱11に設置されている皿ばね12に渦電流式の距離計をそれぞれ設置し、4本分の値を平均して算出した。
【0065】
図3は、流動限界固相率の位置が変動し、該流動限界固相率が位置するセグメントの皿ばね12の変位を示した図である。
【0066】
なお、図3における流動限界固相率の位置は、幅方向において最も下流側にクレーターエンドがある幅位置で測定した結果である。
【0067】
図3より、鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置が、鋳造鋳片Sの引き抜き方向に沿って変動することにより、皿ばね12の変位が大きく変動しているのが明らかである。
【0068】
つまり、これは、鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置が変動することで、流動限界付近の鋳造鋳片Sに付与される圧下量が大きく変動していることを示すものであり、前述したように、鋳造鋳片Sの引き抜き方向において、中心偏析の度合いにばらつきが生じることを示しており、鋳造鋳片Sの内部品質を著しく低下させることにもなる。
【0069】
上記の結果から、鋳造鋳片Sの内部品質の低下を防止するには、鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置を常に一定に、かつ、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御することがとくに有効となる。
【0070】
それは、図4に示すように、鋳造鋳片Sの厚さ方向の中心部における流動限界固相率の位置を、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mに納めることで、軽圧下の効果を最も有効に発揮させることができる(中心偏析度1.03以下)からである。なお、図4において鋳造鋳片Sの中心偏析度は、Mn偏析度で表示しているが、Mn偏析度が1.03以下で十分な品質が確保される。
【0071】
上記流動限界固相率の位置が変動する要因となりうる操業条件が変動しても、流動限界固相率の位置を常に一定位置に制御するために、まず、鋳造鋳片Sの厚さ方向の中心部の流動限界固相率の位置に影響を及ぼす鋳造条件の1つである鋳造速度の影響についての調査を行った。
【0072】
その結果、実際には、鋳造初期の鋳造速度が増速する過渡期や鋳造終了時の減速時を除き、鋳造において設定される可能性がある鋳造速度の範囲において2次冷却水の比水量を調整することで、鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置を、所定の位置に制御できることが判明した。
【0073】
図5は、鋳造速度が1.4m/min、鍋待ち等の理由により、鋳造速度が1.2m/minまで低減する可能性がある場合の条件を想定し、連続鋳造機において幅2100mm、厚み250mmの低炭素鋼を鋳造するにあたって、鋳造速度1.2〜1.4m/minの範囲で流動限界固相率の位置を一定に制御する場合の2次冷却水の比水量を示したものである。
【0074】
上掲図5は、鋳造速度1.2〜1.4m/minの範囲を想定したものであるが、当然、他の鋼種や連続鋳造機では、工程の鋳造速度や鋳造する可能性がある鋳造速度が変わるため、その範囲を考慮して2次冷却水量を決定する必要がある。
【0075】
図5に示した比水量のもとで連続鋳造した場合の流動限界固相率の位置を、伝熱計算によって算出した結果を図6に示す。
【0076】
なお、連続鋳造機の軽圧下帯9は、鋳型内1の湯面から21.1〜27.6mの位置にあり、軽圧下帯9の最終セグメントの出側が27.6mの位置にある場合を前提としている。
【0077】
図6に示したように、伝熱計算上は、鋳造速度が変動しても流動限界固相率の位置を軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御されている。
【0078】
しかしながら、上記伝熱計算は2次冷却水の水温を30℃、タンディッシュでの溶鋼過熱度(溶鋼の温度と固相線温度の差)を30℃として計算した場合であり、2次冷却水の温度は制御可能であるが、タンディッシュでの溶鋼過熱度を制御することは困難である。
【0079】
また、伝熱計算上は考慮していない大気の温度やロールによる抜熱の影響を考えると、伝熱計算上は流動限界固相率の位置は一定であっても、実際は鋳造鋳片Sの引き抜き方向(鋳造方向)に変動することが予想される。
【0080】
そこで、本発明では、上記の流動限界固相率の位置の変動を抑制するため、2次冷却水の温度で流動限界固相率の位置をさらに制御する。
【0081】
具体的には、上紀伝熱計算によって決定された比水量したがって鋳造された鋳造鋳片Sの流動限界固相率の位置を、凝固完了位置を検知する凝固完了位置検知装置10を使用してオンラインで測定し、伝熱計算上の流動限界固相率の位置と、オンラインで測定した流動限界固相率の位置の差を、2次冷却水の温度によって調整し、凝固完了位置検知装置10による流動限界固相率の位置を、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御する。
【0082】
凝固完了位置検知装置10を使用して、鋳造鋳片Sの厚み中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、オンラインで算出するには、凝固完了位置検知装置10で測定できる凝固完了位置を固相率1.0として、伝熱計算により鋳造鋳片Sの厚さ方向の中心部における固相率が流動限界固相率から固相率1.0になるまでの距離を鋳造条件別に算出しておき、オンラインで測定した凝固完了位置から差し引くことで、実際の流動限界位置を算出することができる。
【0083】
2次冷却水の温度の変化による流動限界固相率の位置の変動量は、予め、凝固完了位置検知装置10によって測定しておくか、伝熱計算で予測しておくことが望ましい。
【0084】
また、流動限界固相率の位置は幅方向において、一定でない場合があり、流動限界固相率の位置が幅方向において最も下流側になる幅位置において、流動限界位置を最終セグメントの出側よりも上流側の位置に制御することで、幅方向の全ての流動限界位置を軽圧下帯の中に入れることができ、軽圧下を施すことが可能になる。
【0085】
鋳造鋳片Sの幅方向において、流動限界固相率の位置が最も下流側になる幅位置は、前述の凝固完了位置検知装置10で測定するか、鋳造鋳片Sの表面温度を幅方向に測定することで知ることができる。
【0086】
本発明では、2次冷却帯における冷却水の温度の調整範囲を、15〜45℃としたが、この範囲内で冷却水の温度管理を行うことで、鋳造鋳片Sの流動限界固相率の位置を、確実に所定の位置に制御することができる。
【0087】
以上、説明したように、本発明によれば、まず鋳造速度の変動による鋳造鋳片Sの厚み中心部の流動限界固相率の位置の変動を、2次冷却帯6における冷却水の比水量で抑制し、さらには、その他の要因による前記流動限界固相率の位置の変動を、2次冷却水の温度で制御することで、鋳造条件の変動によらず、鋳造鋳片Sの厚さ方向の中心部の固相率が流動限界固相率となる位置を、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御することができる。
【0088】
従って、本発明によれば、鋳造条件の変動によらず常に同一の圧下量を凝固末期の鋳造鋳片に施すことが可能となり、鋳造鋳片Sの引き抜き方向における中心偏折のばらつきが軽減され、常に中心偏析の度合いが低い鋳造鋳片を鋳造することができることとなり、しかも、軽圧下帯を構成するセグメントには、過大な荷重が負荷されることがないため、該セグメントの寿命が延長される。
【0089】
本発明において、鋳造鋳片の厚み中心部の流動限界固相率を、0.6〜0.8に設定するのが好ましいとしたが、その理由は、この範囲で軽圧下を終えることにより中心偏析の改善効果を高めることができるからである。
【実施例】
【0090】
上掲図1に示した連続鋳造機を用い、本発明に従って、C:0.039mass%、Mn:1.10mass%、Si:0.18mass%、S:0.0012mass%、P:0.012mass%、solAl:0.020mass%からなる低炭素鋼の連続鋳造を行い、得られた鋳造鋳片の品質改善状況および軽圧下帯の圧下にかかる荷重の負荷状況についての調査を行った。
【0091】
なお、2次冷却帯6では、図5に示した比水量で鋳造鋳片Sの冷却を行い、鋳造途中で鋳造速度を1.25〜1.4m/minで変動させた。
【0092】
凝固完了位置検知装置10を用いて凝固完了位置情報を取得したところ、この実施例では、幅中央から800mmである幅位置の流動限界固相率の位置が、幅方向において最も下流側になっていた。
【0093】
このため、連続鋳造中は、幅中央から800mmである幅位置の流動限界固相率の位置が、軽圧下帯9の最終セグメントの出側から上流側0.5mに入るように、凝固完了位置検知装置10により取得した凝固完了位置情報に基づいて、2次冷却水の温度を調整して冷却を行った。
【0094】
なお、この実施例における鋳造条件では、伝熱計算によると、2次冷却水の水温が1℃変化することで流動限界固相率の位置は0.1m変化するので、流動限界固相率の位置が所定の範囲よりも上流側に位置したときは、2次冷却水の水温を上げる一方、流動限界固相率の位置が所定の範囲よりも下流側に位置したときは、2次冷却水の水温を下げる調整を行った。
【0095】
なお、比較のため、C:0.042mass%、Mn:0.99mass%、Si:0.11mass%、S:0.0015mass%、P:0.015mass%、solAl:0.033mass%からなる低炭素鋼の連続鋳造を、図7に示す条件で実施した場合(流動限界固相率の位置の調整は行わず)についても合わせて調査した(比較例)。
【0096】
すべての試験において、鋳型サイズは厚み250mm、幅2100mmであり、軽圧下帯9におけるセグメントでの圧下勾配は、0.90mm/mとした。
【0097】
図8は、本発明に従って連続鋳造した場合(適合例)の流動限界固相率の位置の推移と、鋳造速度の推移を示したグラフである。2次冷却水の温度調整の値も図8に併せて示す。
【0098】
一方、図9は、比較のために行った連続鋳造(比較例)における流動限界固相率の位置の推移と、鋳造速度の推移を示したグラフである。
【0099】
図8から明らかなように、本発明に従う連続鋳造においては、鋳造中は常に、幅方向において最も凝固完了位置が下流側になる幅位置において、鋳造鋳片の厚さ方向の中心部の固相率が流動限界固相率となる位置が、軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでに制御されていることが確認された。
【0100】
しかし、比較例では、図9に示す如く、流動限界固相率の位置が鋳造速度の変動によっても推移し、さらに鋳造速度が一定の範囲においても変動していた。
【0101】
図10は、本発明に従って連続鋳造した場合の軽圧下帯の最終セグメントにおける皿ばねの変位と、比較例での、軽圧下帯の最終セグメントにおける皿ばねの変位を比較して示した図である。
【0102】
本発明においては、皿ばねの変位が低位であり、比較例の場合と異なり、ばらつきも小さく、凝固末期の鋳造鋳片に対して一定の圧下量で軽圧下することができると共に、軽圧下帯を構成するセグメントに加えられる負荷が軽減されていることが明らかとなった。
【0103】
図11は、本発明に従う連続鋳造で得られた鋳片の中心偏析の度合いと、比較例で得られた鋳片の中心偏析の度合いを比較して示した図である。
【0104】
なお、上記の中心偏析の度合いは、鋳片の断面の中心部をEPMA(電子線マイクロアナライザー)で分析し、Mn濃度を算出し、鋳造前の素鋼成分のMn濃度で乗算することで、算出した。また、鋳片のサンプルは、鋳造方向に沿いランダムに10本採取(全幅サンプル)したものを用いた。
【0105】
その結果、本発明に従って連続鋳造された鋳片においては、中心偏析の度合いが低位で安定していたのに対して、比較サンプルは、中心偏析の度合いが大きくばらついていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、鋳造鋳片の中心偏析が軽減されると共に、その長手方向において一定しており、品質の安定化を図ることが可能となった。
【0107】
また、本発明によれば、連続鋳造鋳片に対する適切な軽圧下が行えるため、軽圧下帯のセグメントにおける荷重負荷(圧下による荷重)が軽減され、該セグメントの寿命を延長することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 連続鋳造用鋳型
2 タンディッユ
3 スライディングノズル
4 浸漬ノズル
5 支持ロール
6 2次冷却帯
7 搬送ロール
8 切断装置
9 軽圧下帯
10 検知装置
11 支柱
12 皿ばね
S 鋳造鋳片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片に対し、2次冷却帯の下流に位置する軽圧下帯にて軽圧下を施す連続鋳造方法において
前記鋳造鋳片の鋳造速度に応じ、前記2次冷却帯における冷却水の比水量を変化させることにより、該鋳造鋳片の中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納める制御を行うことを特徴とする鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記鋳造鋳片の固相率が流動限界固率となる位置を、前記鋳造鋳片の凝固完了位置のオンラインによる検知情報に基づいて求めると共に、該位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納めるべく、前記2次冷却帯における冷却水の温度を調整することを特徴とする請求項1に記載した鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記2次冷却帯における冷却水の温度の調整範囲が、15〜45℃であることを特徴とする請求項2に記載した鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【請求項4】
前記鋳造鋳片の固相率が流動限界固相率となる位置は、前記鋳造鋳片の幅方向において凝固完了位置が最も下流側に存在する幅位置におけるものである、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載した鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【請求項5】
前記鋳造鋳片の流動限界固相率が、0.6〜0.8であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載した鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【請求項1】
連続鋳造用鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片に対し、2次冷却帯の下流に位置する軽圧下帯にて軽圧下を施す連続鋳造方法において
前記鋳造鋳片の鋳造速度に応じ、前記2次冷却帯における冷却水の比水量を変化させることにより、該鋳造鋳片の中心部における固相率が流動限界固相率となる位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納める制御を行うことを特徴とする鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記鋳造鋳片の固相率が流動限界固率となる位置を、前記鋳造鋳片の凝固完了位置のオンラインによる検知情報に基づいて求めると共に、該位置を、前記軽圧下帯の最終セグメントの出側から上流側0.5mまでの範囲に納めるべく、前記2次冷却帯における冷却水の温度を調整することを特徴とする請求項1に記載した鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記2次冷却帯における冷却水の温度の調整範囲が、15〜45℃であることを特徴とする請求項2に記載した鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【請求項4】
前記鋳造鋳片の固相率が流動限界固相率となる位置は、前記鋳造鋳片の幅方向において凝固完了位置が最も下流側に存在する幅位置におけるものである、ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載した鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【請求項5】
前記鋳造鋳片の流動限界固相率が、0.6〜0.8であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載した鋳造鋳片の連続鋳造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−52416(P2013−52416A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192412(P2011−192412)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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