説明

鋼の精錬方法

【課題】 転炉への生石灰の吹き込みによる安定した溶融滓化を可能とし、安定した精錬が可能となるとともに、実質のスラグ発生量を低減し、さらにはスラグの有効利用を図る。
【解決手段】 酸素上吹き転炉において、酸化カルシウム含有粉体を精錬用酸素ガスとともに溶湯面上に吹付けるとともに、溶湯面下に設けたノズルからガスを吹込んで撹拌を行う方法において、酸化アルミニウムを含む取鍋スラグまたは酸化アルミニウムを含む組成物を炉内に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉における鋼の精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉における吹錬では、脱炭や脱燐等の反応を安定して進行させるため、生石灰等のフラックスを添加しスラグを生成する。生石灰は、融点が2000℃以上であるため、スラグ中酸化鉄や酸化シリコン等とともに低融点酸化物を形成させ、溶融滓化させることによりスラグを生成する。塊状の生石灰を添加する場合にはこの溶融滓化が遅れるため、従来から生石灰粉を上吹きランスより溶湯に吹き付ける発明が提案されている。
【0003】
特許文献1には、生石灰、石灰石、蛍石、ドロマイト、鉄鉱石の1種以上を混合した粉体を上吹き酸素気流に混入して炉内に添加し、同時に酸素上吹きによる吹錬操作の期間中もしくはそれに引き続き吹錬終了後の排出期間まで、不活性ガス、N、O、CO、COの1種以上を浴面下に吹き込む発明が開示されている。この発明によれば、効率よくスラグを滓化させ安定した精錬と歩留りの向上を図ることができる。
【0004】
特許文献2には、上底吹転炉内のSiトレース溶銑に粉体CaO源を酸素ジェットとともに搬送して溶銑に吹き付けて脱炭脱燐精錬する際に、CaO源の吹き付けを全酸素吹錬時間の50%以降に行う発明が開示されている。しかし、この発明では、スラグのリサイクルによるスラグの溶融滓化制御やスロッピング防止は全く考慮しておらず、条件によっては上述した粉体を使用してもなお溶融滓化が不十分な場合には、逆に酸化鉄の過剰生成により吹錬が不安定となってスロッピングが発生することがあり、これを回避するために、精錬効果が劣る塊状石灰を敢えて使用する必要があるという問題点がある。
【0005】
特許文献3には、脱珪処理後の低Si溶銑を用いる、高塩基度スラグによる溶鋼の吹酸精錬において、所定量の酸化アルミニウムを含む鋳造終了後の取鍋内残留スラグを精錬炉内に添加することにより、精錬時の形成スラグ塩基度の低下を防ぎ、造滓剤の滓化促進を著しく向上させる発明が開示されている。しかし、この発明では、石灰源として塊状の生石灰を使用するため、酸化アルミニウムを含む鋳造終了後の取鍋内残留スラグを用いてもなお生石灰の滓化が不十分であり、副原料使用量およびスラグ発生量を十分低減できないという問題点がある。
【0006】
特許文献4には、上下両吹き機能を有した2基の転炉形式の炉のうちの一方を脱燐炉、他方を脱炭炉として使用し、溶銑を脱燐炉で脱燐を行った後に脱炭炉で脱炭を行い、この脱炭により生成した脱炭炉スラグを脱燐炉に供給して溶銑の脱燐を行う製鋼方法であって、脱炭炉スラグの塩基度(CaO/SiO)が3〜7であり、脱炭炉スラグ中のAl濃度が4〜20%(以下、特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味する)であり、この脱炭炉スラグを使用して脱燐炉で脱燐を行った後の脱燐スラグの塩基度(CaO/SiO)が1.5以上であり、脱燐スラグ中のAl濃度が3〜10%である製鋼方法にかかる発明が開示されている。この発明は、溶銑の脱燐を対象とするとともに、Al源として脱炭炉スラグを用いるものであり、スラグ中にCaF含有物を添加しないで低燐鋼を溶製できる。
【0007】
さらに、特許文献5には、溶銑の脱燐に際し、転炉吹錬後に発生する酸化鉄とAlとを含有する転炉スラグおよび/または鋳造後に溶鋼鍋に残留して酸化鉄とAlとを含有する取鍋スラグと外部から添加する酸化鉄および/または酸素ガスからなる脱燐剤中の転炉スラグおよび/または取鍋スラグと外部から添加する酸化鉄および/または酸素ガスを、浸漬ランス、或いは底吹きノズル、或いは横吹きノズル、或いは上吹きランスより溶銑に対して同一場所に同一タイミングで添加することにより溶銑を脱燐する発明が開示されている。しかし、この発明は、溶銑の脱燐を対象とするとともに、酸化カルシウム源として転炉スラグを用いるため、転炉スラグの添加方法としては塊状添加または不活性ガスを用いて搬送して溶銑中に吹き込む方法しか採用できない。酸化カルシウム含有粉体を精錬用酸素ガスとともに溶湯面上に吹付ける場合は、転炉スラグのように鉄分が含有される可能性がある物の使用は安全面に特別な配慮が必要となる。
【特許文献1】特開昭56−9311号公報
【特許文献2】特開2001−164310号公報
【特許文献3】特開昭62−89807号公報
【特許文献4】特開2003−147426号公報
【特許文献5】特開2001−164308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特願2003−376919号により、酸化カルシウムを含む粉体を上吹き酸素気流に混入して添加するとともにガスを浴面下に吹き込んで溶鋼を撹拌することにより精錬を行う方法であって、粉体中の酸化カルシウム純分と粉体を搬送する酸素ガスとの重量比である固気比を調整することによって、溶融滓化の不良及びスロッピングの発生をいずれも防止する発明を提案した。この発明により、転炉で粉体を上吹きして効率的な精錬を行うことが可能となった。
【0009】
粉体を上吹きする精錬方法では、スラグ中全鉄濃度を適正な値とすることによって、その精錬効果が一層増加する場合があり、逆にスラグ中全鉄濃度が適正な値でないと、脱燐等の精錬反応が十分進行しなかったり、滓化が十分でなかったりする。このため、粉体を上吹きする精錬方法では、上述した固気比を調整することに加えて、スラグ中全鉄濃度を適正な値に制御するための上吹き条件、底吹き条件を適正化することにより一層精錬効果を高めることが可能である。
【0010】
そこで、本発明者らは特願2004−245385号により、酸化カルシウムを粉体を上吹き酸素気流に混入して添加するとともにガスを浴面下に吹き込んで溶鋼を撹拌することにより精錬を行う方法であって、スラグの酸化度を決定する指標として上吹き酸素ジェットによる湯面のへこみ深さLと溶湯深さL0との比(L/L0)、底吹きガスによる溶湯の撹拌動力εを適切に制御することにより、安定な脱炭および脱燐と安定な吹錬とを可能とする発明を提案した。この発明により、転炉で粉体を上吹きしてさらに効率的な精錬を行うことが可能となった。
【0011】
本発明者らは、これらの提案にかかる発明に満足することなく、さらに優れた精錬方法を得るべく検討した結果、粉体を上吹きする精錬方法において、上述した固気比の調整、およびスラグ中全鉄濃度を適正な値に制御するための上吹き条件、底吹き条件の適正化を図っても、使用する副原料の低減には限界があり、廃棄物処理の観点から発生するスラグ量も低減して環境負荷を下げることが重要であることを知見した。
【0012】
本発明は、条件によっては粉体を使用してもなお溶融滓化が不十分な場合があること、逆に過剰の溶融滓化によってスロッピングが発生する場合があること、さらにはスロッピングを回避するために精錬効果が劣る塊状石灰を敢えて使用する必要があることといった上述した課題に鑑みてなされたものであり、副原料の使用量およびスラグの発生量を低減し、安定な脱燐が困難である中高炭素鋼の脱炭脱燐精錬を効率的に行うことによって、コストを低減するとともに、発生スラグ量を減少して環境負荷を低減できる廃棄物処理技術を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本発明は、溶銑の脱炭および脱燐を同時に進行させ、生成するスラグを例えば道路用材料等に有効に再利用することができるプロセスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
粉体を上吹きする精錬方法においては、スラグの生成がし易い反面、吹錬初期において全量の造滓剤を添加せずに吹錬中に連続して添加するために、吹錬初期における造滓剤の絶対量が少なく、塩基度を十分確保できないためスラグフォーミングが発生し易い。また、スラグの滓化を上述したスラグの酸化度制御のみに頼った方法では鉄の酸化ロス、スラグフォーミングの抑制が難しい場合も発生する。このような問題を解決するためには、吹錬初期におけるスラグフォーミングの抑制やスラグの酸化度制御のみに頼らないスラグの滓化促進条件を求める必要がある。
【0015】
溶銑の脱炭および脱燐を同時に進行させ、生成するスラグを道路用材料等に有効に再利用できるようにするためには、溶銑の脱燐に比較して、スラグの塩基度(CaO/SiO)を2.5以上まで高める必要があり、その条件においてもスラグ中に未溶解で残る、いわゆるフリーCaOを低減する必要がある。
【0016】
そこで、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、酸化カルシウム含有粉体を精錬用酸素ガスとともに溶湯面上に吹付けるとともに、溶湯面下に設けたノズルからガスを吹込んで撹拌を行う方法において、酸化アルミニウムを含む他工程または自工程で発生した取鍋スラグ、または酸化アルミニウムを含む組成物を炉内に添加することによって、高い塩基度のもとでスラグ中のフリーCaOを低減できることを知見して、本発明を完成した。
【0017】
本発明は、酸素上吹き転炉において、酸化カルシウム含有粉体を精錬用酸素ガスとともに溶湯面上に吹付けるとともに、溶湯面下に設けたノズルからガスを吹込んで撹拌を行う方法において、酸化アルミニウムを含む取鍋スラグまたは酸化アルミニウムを含む組成物を炉内に添加することを特徴とする鋼の精錬方法である。
【0018】
この本発明にかかる鋼の精錬方法では、処理終了時のスラグ中酸化アルミニウム濃度が1%以上7%以下であることが望ましい。
また、本発明は、酸素上吹き転炉において、酸化カルシウム含有粉体を精錬用酸素ガスとともに溶湯面上に吹付けるとともに、溶湯面下に設けたノズルからガスを吹込んで撹拌を行う方法において、溶銑を脱炭精錬して発生したスラグを炉内に添加することを特徴とする鋼の精錬方法である。
【0019】
また、本発明は、酸素上吹き転炉において、酸化カルシウム含有粉体を精錬用酸素ガスとともに溶湯面上に吹付けるとともに、溶湯面下に設けたノズルからガスを吹込んで撹拌を行う方法において、自工程で発生したスラグの一部を再度使用することを特徴とする鋼の精錬方法である。
【0020】
これらの本発明にかかる鋼の精錬方法では、スラグ中のCaF濃度を1%以下に保って精錬することが望ましい。
さらに、これらの本発明にかかる鋼の精錬方法では、酸化カルシウム含有粉体が、生石灰、石灰石または水酸化カルシウムの各粉体のうちの少なくとも1種であることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、転炉への生石灰の吹き込みによる安定した溶融滓化が可能となり、安定した精錬が可能となるとともに、実質のスラグ発生量を低減でき、さらにはスラグの有効利用を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明にかかる鋼の精錬方法を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
生石灰や石灰石等の酸化カルシウム源を含んだ粉体を上吹き酸素気流に混入して炉内に添加し、同時にガスを浴面下に吹き込んで撹拌する鋼の精錬方法において、精錬挙動と使用する副原料の添加方法との関係を説明する。
【0023】
転炉精錬において、副原料を供給する目的は、溶湯中の不純物の酸化除去、および適度のスラグ形成によるスピッチング、ヒュームロスの抑制にある。生石灰等の酸化カルシウム源を含んだ粉体を上吹き酸素気流に混入して炉内に添加すれば、副原料の滓化が促進され、適度のスラグ形成に有利に働く。しかし、吹錬初期では副原料の添加量が少ないため、スラグの塩基度が十分上昇せず、スラグフォーミングし易い組成のスラグが形成される。このため、所謂シリコンブローが終了し、脱炭が早くなるタイミングでスロッピングが発生し易い弱点がある。
【0024】
上述した特許文献2に記載された、上底吹転炉内のSiトレース溶銑に粉体CaO源を酸素ジェットとともに搬送して溶銑に吹き付けて脱炭脱燐精錬する方法において、そのCaO源の吹き付けを全酸素吹錬時間の50%以降に行うこととしているのも、スロッピングを抑制することが目的の一つである。しかし、精錬効果が劣る塊状生石灰を敢えて使用する必要があるという課題がある。
【0025】
本発明者らは、この点を改善するために、精錬効果の上昇と、副原料の使用量およびスラグの発生量の低減とを同時に実現することができる方法を種々検討した。副原料の添加量が少ない吹錬初期でスラグの塩基度を十分上昇させ、スラグフォーミングし難い組成のスラグを形成するためには、吹錬初期に石灰源を添加すればよい。しかし、石灰源として塊状生石灰を使用すると滓化速度が遅れて十分な精錬効果を得られないとともに、スラグの発生量を低減することができない。
【0026】
本発明者らは、吹錬初期に添加する石灰源として、他工程で発生するスラグに着目した。酸化カルシウム濃度として30%以上含有しているスラグを適当量添加すれば、吹錬初期にスラグの塩基度を十分上昇でき、スラグフォーミングし難い組成のスラグを形成できる。他工程で発生するスラグは、種々の種類が考えられるが、例えば脱燐処理等を行っていない溶銑を用いた転炉吹錬で発生するスラグは、酸化カルシウムとともに酸化鉄や酸化燐等を含有する。したがって、ほぼ酸化カルシウムのみによって構成される塊生石灰に比較すると滓化し易い形態になっており、精錬上好都合である。
【0027】
一方、酸化燐をも含んでいるので、転炉内の脱燐の観点からは若干の悪影響は考えられるが、酸化カルシウムと酸化鉄の有効利用によるメリットを総合的に考えると、経済的利用価値は十分にある。脱燐処理等を行われていない溶銑を用いた転炉吹錬により発生するスラグは、他工程で発生したもののみならず、自工程の他バッチで発生したものにも同様の効果があることはもちろんである。
【0028】
さらに、脱燐処理等を行った溶銑を用いた転炉吹錬で発生するスラグを利用する場合は、酸化カルシウムとともに酸化鉄を含み、酸化燐の含有量は非常に少なくなるので酸化カルシウムと酸化鉄との有効利用によるメリットのみを享受でき、さらに経済的利用価値が増加する。
【0029】
また、取鍋スラグは、転炉で精錬された溶鋼を取鍋に出鋼し、脱酸および溶鋼処理を行って鋳造機で溶鋼を鋳造した後の取鍋内、または、取鍋から出湯された溶鋼が一旦貯蔵される容器内に残留するスラグであり、酸化カルシウムとともに、溶鋼をアルミニウムにより脱酸して生成した酸化アルミニウムを含有し、酸化鉄や酸化燐は殆ど含有しない。したがって、取鍋スラグを用いる場合には、酸化カルシウムの有効利用によるメリットに加え、酸化アルミニウムによるスラグの滓化促進効果を享受できる。
【0030】
取鍋スラグを用いず、脱燐処理等を行われていない溶銑を用いた転炉吹錬で発生するスラグや、脱燐処理等を行われた溶銑を用いた転炉吹錬で発生するスラグを利用する場合においては、例えばボーキサイトやカルシウムアルミネート等の酸化アルミニウム源を用いても、酸化アルミニウムによるスラグの滓化促進効果を享受できる。
【0031】
さらに、生石灰、石灰石等の酸化カルシウム源を含んだ粉体を上吹き酸素気流に混入して炉内に添加し、同時にガスを浴面下に吹き込んで撹拌する処理において、取鍋スラグまたはボーキサイト、カルシウムアルミネート等の酸化アルミニウム源を用いても、酸化アルミニウムによるスラグの滓化促進効果を享受できる。
【0032】
この滓化促進効果により、生成したスラグ中に未溶解で残るフリーCaO(遊離酸化カルシウム)を低減でき、スラグの用途によっては問題となる水浸膨張を抑制できる。
他工程で発生するスラグは、廃棄処分または費用をかけて処理業者に譲渡する場合が大半であるので、精錬に使用することによりスラグ処理費用の面でも大きな利点を生じる。吹錬初期に他工程で発生したスラグの再利用を行えば、吹錬初期におけるスラグの塩基度の上昇を促進し、スロッピング発生を抑制できるとともに、スラグの実質の発生量を低減できる。さらに、取鍋スラグまたは酸化アルミニウム源を用いた場合の滓化促進効果により、生成したスラグ中のフリーCaOを低減でき、スラグの用途によっては問題となる水浸膨張を抑制できる。
【0033】
以上のように、生石灰や石灰石等の酸化カルシウム源を含んだ粉体を上吹き酸素気流に混入して炉内に添加し、同時にガスを浴面下に吹き込んで撹拌する鋼の精錬方法において、他工程で発生したスラグの再利用を行うことは、単にスラグの有効利用や発生量低減を図れるというだけではなく、吹錬初期のスロッピングを抑制する効果や滓化を促進する効果によりスラグの水浸膨張抑制を期待できることから、精錬特性の向上とともに、生成スラグの用途拡大、廃棄時の環境負荷の低減さらには溶鋼の品質向上等を同時に実現することができる。
【0034】
処理終了時のスラグ中酸化アルミニウム濃度は、1%以上7%以下であることが望ましい。1%未満であると、スラグ中の遊離酸化カルシウムの濃度が上昇し、スラグの水浸膨張が発生してスラグの再利用に障害となるからであり、一方7%を超えると、スラグの滓化促進効果が過度となりスラグのフォーミングが発生して、吹錬が不安定になるとともに、スラグの発生量が増加するためである。
【0035】
また、スラグ中のCaF濃度は1%以下であることが望ましい。スラグ中のCaF濃度を1%超であると、スラグからのフッ素溶出が多くなる。
酸化カルシウム含有粉体の粒度は特に限定しないが、粒度が大きくなると滓化が遅れるため、3mm以下、好ましくは0.15mm以下に粉砕して使用するのが好ましい。
【0036】
本発明において、酸化アルミニウムを含む取鍋スラグまたは酸化アルミニウムを含む組成物、溶銑を脱炭精錬して発生したスラグ、自工程で発生したスラグを炉内に添加する方法は特に限定しないが、例えば塊状の取鍋スラグまたは酸化アルミニウムを含む組成物、溶銑を脱炭精錬して発生したスラグ、自工程で発生したスラグを炉の上方から投入する方法が考えられる。取鍋スラグには金属鉄が含まれる可能性があるので、粉砕した取鍋スラグを酸素と共に炉内に吹き付けまたは吹き込むことは安全上避けなければならない。溶銑を脱炭精錬して発生したスラグおよび自工程で発生したスラグにも金属鉄が含まれる可能性があるので、これらを炉内に添加する場合も同様である。
【0037】
本実施の形態により、副原料の使用量およびスラグの発生量を低減し、安定な脱燐が困難である中高炭素鋼の脱炭脱燐精錬を効率的に行うことによって、コストを低減するとともに、発生スラグ量を減少して環境負荷を低減することができる。
【実施例1】
【0038】
2トン試験転炉に炭素含有量4.4%、シリコン含有量0.32%、マンガン含有量0.37%、燐含有量0.074%、硫黄含有量0.021%の溶銑2000kg、およびスクラップ160kgを装入し、吹錬開始前に、CaO=46%、SiO=15%、T.Fe=15%、P=2.2%、Al=0.8%の組成を有する転炉スラグを25kg投入した。
【0039】
その後、上吹きランスより、1分間当たり5.2Nmの酸素を、1分間当たり2.3kgの生石灰粉とともに溶銑に吹き付けて精錬を行った。試験転炉の底部には底吹きノズルを装着し、1分間当たり0.2Nmのアルゴンガスを吹き込んで、溶銑を撹拌した。
【0040】
約22分経過後に炉内に生成した溶鋼の炭素含有量は0.24%、マンガン含有量は0.020%、燐含有量は0.016%、硫黄含有量は0.017%、温度は1675℃、スラグ中のCaF濃度、Al濃度はともに0.5%以下であった。
【0041】
この時のスラグを採取し、平成3年8月環境庁告示第46号に準拠してフッ素の溶出量を測定した結果、その値は0.2mg/Lであった。吹錬中のスロッピングは全く観察されなかった。
【実施例2】
【0042】
2トン試験転炉に炭素含有量4.4%、シリコン含有量0.33%、マンガン含有量0.37%、燐含有量0.075%、硫黄含有量0.021%の溶銑2000kg、およびスクラップ160kgを装入し、吹錬開始前に、CaO=47%、SiO=14%、T.Fe=17%、P=0.3%、Al=0.7%の組成を有する転炉スラグを25kg投入した。
【0043】
その後、上吹きランスより、1分間当たり5.2Nmの酸素を、1分間当たり2.3kgの生石灰粉とともに溶銑に吹き付けて精錬を行った。試験転炉の底部には底吹きノズルを装着し、1分間当たり0.2Nmのアルゴンガスを吹き込んで、溶銑を撹拌した。
【0044】
約22分経過後に炉内に生成した溶鋼の炭素含有量は0.23%、マンガン含有量は0.019%、燐含有量は0.013%、硫黄含有量は0.015%、温度は1668℃、スラグ中のCaF濃度、Al濃度はともに0.5%以下であった。
【0045】
この時のスラグを採取し、平成3年8月環境庁告示第46号に準拠してフッ素の溶出量を測定した結果、その値は0.2mg/Lであった。吹錬中のスロッピングは全く観察されなかった。
【実施例3】
【0046】
2トン試験転炉に炭素含有量4.3%、シリコン含有量0.31%、マンガン含有量0.35%、燐含有量0.078%、硫黄含有量0.018%の溶銑2000kg、およびスクラップ160kgを装入し、吹錬開始前に、CaO=43%、SiO=9%、T.Fe=7%、P=1.2%、Al=19.5%の組成を有する取鍋スラグを15kg投入した。
【0047】
その後、上吹きランスより、1分間当たり5.2Nmの酸素を、1分間当たり2.4kgの生石灰粉とともに溶銑に吹き付けて精錬を行った。試験転炉の底部には底吹きノズルを装着し、1分間当たり0.2Nmのアルゴンガスを吹き込んで、溶銑を撹拌した。
【0048】
約22分経過後に炉内に生成した溶鋼の炭素含有量は0.25%、マンガン含有量は0.018%、燐含有量は0.014%、硫黄含有量は0.014%、温度は1671℃、スラグ中のCaF濃度は0.5%以下、Al濃度は4.3%であった。
【0049】
この時のスラグを採取し、平成3年8月環境庁告示第46号に準拠してフッ素の溶出量を測定した結果、その値は0.1mg/Lであった。吹錬中のスロッピングは全く観察されなかった。
【実施例4】
【0050】
2トン試験転炉に炭素含有量4.3%、シリコン含有量0.32%、マンガン含有量0.33%、燐含有量0.079%、硫黄含有量0.019%の溶銑2000kg、およびスクラップ160kgを装入し、吹錬開始前に、CaO=34%、SiO=3.5%、T.Fe=1.8%、P=0.8%、Al=51%の組成を有するカルシウムアルミネートを5kg投入した。
【0051】
その後、上吹きランスより、1分間当たり5.2Nmの酸素を、1分間当たり2.5kgの生石灰粉とともに溶銑に吹き付けて精錬を行った。試験転炉の底部には底吹きノズルを装着し、1分間当たり0.2Nmのアルゴンガスを吹き込んで、溶銑を撹拌した。
【0052】
約22分経過後に炉内に生成した溶鋼の炭素含有量は0.21%、マンガン含有量は0.018%、燐含有量は0.016%、硫黄含有量は0.017%、温度は1674℃、スラグ中のCaF濃度は0.5%以下、Al濃度は2.5%であった。
【0053】
この時のスラグを採取し、平成3年8月環境庁告示第46号に準拠してフッ素の溶出量を測定した結果、その値は0.1mg/Lであった。吹錬中のスロッピングは全く観察されなかった。
【0054】
[比較例1]
2トン試験転炉に炭素含有量4.3%、シリコン含有量0.33%、マンガン含有量0.38%、燐含有量0.078%、硫黄含有量0.019%の溶銑2000kg、およびスクラップ160kgを装入した。
【0055】
その後、上吹きランスより1分当たり5.2Nmの酸素を、1分あたり2.8kgの生石灰粉とともに溶銑に吹き付けて精錬を行った。試験転炉の底部には底吹きノズルを装着し、1分当たり0.2Nmのアルゴンガスを吹き込んで、溶銑を撹拌した。
【0056】
約22分経過後に炉内に生成した溶鋼の炭素含有量は0.26%、マンガン含有量は0.020%、燐含有量は0.017%、硫黄含有量は0.0167%、温度は1674℃、スラグ中のCaF濃度、Al濃度はともに0.5%以下であった。
【0057】
この時のスラグを採取し、平成3年8月環境庁告示第46号に準拠してフッ素の溶出量を測定した結果、その値は0.2mg/Lであった。吹錬開始後6分経過時点でスロッピングが発生した。
【0058】
[比較例2]
2トン試験転炉に炭素含有量4.3%、シリコン含有量0.33%、マンガン含有量0.32%、燐含有量0.079%、硫黄含有量0.021%の溶銑2000kg、およびスクラップ160kgを装入し、吹錬開始前に、CaO=34%、SiO=3.5%、T.Fe=1.8%、P=0.8%、Al=51%の組成を有するカルシウムアルミネートを15kg投入した。
【0059】
その後、上吹きランスより、1分当たり5.2Nmの酸素を、1分当たり2.3kgの生石灰粉とともに溶銑に吹き付けて精錬を行った。試験転炉の底部には底吹きノズルを装着し、1分当たり0.2Nmのアルゴンガスを吹き込んで、溶銑を撹拌した。
【0060】
約22分経過後に炉内に生成した溶鋼の炭素含有量は0.21%、マンガン含有量は0.18%、燐含有量は0.012%、硫黄含有量は0.017%、温度は1677℃、スラグ中のCaF濃度は0.5%以下、Al濃度は7.8%であった。
【0061】
この時のスラグを採取し、平成3年8月環境庁告示第46号に準拠してフッ素の溶出量を測定した結果、その値は0.1mg/Lであった。吹錬開始後6.5分経過時点でスロッピングが観察された。
【0062】
[比較例3]
2トン試験転炉に炭素含有量4.30%、シリコン含有量0.33%、マンガン含有量0.42%、燐含有量0.076%、硫黄含有量0.020%の溶銑2000kg、およびスクラップ160kgを装入し、吹錬開始前にCaO=47%、SiO=14%、T.Fe=17%、P=0.3%、Al=0.7%の組成を有する転炉スラグ25kg、および塊状の蛍石を5kg投入した。
【0063】
その後、上吹きランスより、1分当たり5.2Nmの酸素を、1分当たり2.3kgの生石灰粉とともに溶銑に吹き付けて精錬を行った。試験転炉の底部には底吹きノズルを装着し、1分当たり0.5Nmのアルゴンガスを吹き込んで、溶銑を撹拌した。
【0064】
約22分経過後に炉内に生成した溶鋼の炭素含有量は0.22%、マンガン含有量は0.22%、燐含有量は0.011%、硫黄含有量は0.015%、温度は1798℃、スラグ中のCaF濃度は3.2%、Al濃度は0.5%以下であった。
【0065】
この時のスラグを採取し、平成3年8月環境庁告示第46号に準拠してフッ素の溶出量を測定した結果、その値は1.4mg/Lであった。吹錬中のスロッピングは全く観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素上吹き転炉において、酸化カルシウム含有粉体を精錬用酸素ガスとともに溶湯面上に吹付けるとともに、溶湯面下に設けたノズルからガスを吹込んで撹拌を行う方法において、酸化アルミニウムを含む取鍋スラグまたは酸化アルミニウムを含む組成物を炉内に添加することを特徴とする鋼の精錬方法。
【請求項2】
処理終了時のスラグ中酸化アルミニウム濃度が1質量%以上7質量%以下である請求項1に記載された鋼の精錬方法。
【請求項3】
酸素上吹き転炉において、酸化カルシウム含有粉体を精錬用酸素ガスとともに溶湯面上に吹付けるとともに、溶湯面下に設けたノズルからガスを吹込んで撹拌を行う方法において、溶銑を脱炭精錬して発生したスラグを炉内に添加することを特徴とする鋼の精錬方法。
【請求項4】
酸素上吹き転炉において、酸化カルシウム含有粉体を精錬用酸素ガスとともに溶湯面上に吹付けるとともに、溶湯面下に設けたノズルからガスを吹込んで撹拌を行う方法において、自工程で発生したスラグの一部を再度使用することを特徴とする鋼の精錬方法。
【請求項5】
スラグ中のCaF濃度を1質量%以下に保って精錬することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された鋼の精錬方法。
【請求項6】
前記酸化カルシウム含有粉体が、生石灰、石灰石または水酸化カルシウムの各粉体のうちの少なくとも1種である請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された鋼の精錬方法。

【公開番号】特開2006−274349(P2006−274349A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94998(P2005−94998)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】