説明

鋼の連続鋳造装置及び連続鋳造方法

【課題】電磁攪拌を伴う鋼の連続鋳造において、鋳型内の上部の溶鋼を所望の流速の範囲内で攪拌し、鋳片の品質を向上させる。
【解決手段】連続鋳造装置1は、一対の長辺壁2aと一対の短辺壁2bを備えた鋳型2と、鋳型2内に溶鋼8を吐出する浸漬ノズル6とを有している。長辺壁2aにおける銅板3aの内側面の上部中央には、ステンレス製ボックス4a側に湾曲した湾曲部5が、浸漬ノズル6に対向して形成されている。長辺壁2aの外側には、鋳型2内の上部の溶鋼8の旋回流を形成する電磁攪拌装置21〜26が長辺壁2aに沿って並べて配置されている。第2の電磁攪拌装置22、25と第3の電磁攪拌装置23、26は、第1の電磁攪拌装置21、24に隣り合い、かつ長辺壁2aにおいて旋回流の上流側と下流側にそれぞれ配置されている。電磁攪拌装置21〜26に供給される電流の電流値及び/又は周波数は、制御装置によって独立に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型内に溶鋼を供給して鋳片を製造する鋼の連続鋳造装置及び当該連続鋳造装置を用いた鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳片の表面形状を改善するために、例えば鋳型の上部に設置された電磁攪拌装置を用いて、当該鋳型内の溶鋼を電磁攪拌することが行われている。
【0003】
この電磁攪拌では、例えば図11に示すように鋳型100の一対の長辺壁100a、100aに沿って電磁攪拌装置101、101が配置される。なお、図示の例では、通常の鋳型の形状に基づき、一対の長辺壁100a、100aの内側面は平行して直線状に形成されている。そして、浸漬ノズル102から鋳型100内に溶鋼103が吐出されると、電磁攪拌装置101に電流を供給して、鋳型100内の上部の溶鋼103に推力が付与される。この推力によって溶鋼103が水平面内で攪拌されて、当該溶鋼103の旋回流104が形成される。そして、旋回流104によって、鋳型100の上部のメニスカス近傍の介在物、気泡等が鋳型100の側面に形成された凝固シェルに捕捉されるのを抑制している。
【0004】
しかしながら、鋳型100内の浸漬ノズル102の周囲には介在物等が付着して堆積し易い。このように堆積した付着物は、その厚みが数10mmに達する場合もある。このため、長辺壁100aと浸漬ノズル102との間の領域105が狭くなる。すなわち、旋回流104の流路が狭くなり、溶鋼103が流れ難くなる。
【0005】
そこで、上述の電磁攪拌装置101を用いると共に、平行型の鋳型100に代えて、図12に示すようにいわゆる異型鋳型110を用いることが提案されている。異型鋳型110の長辺壁110aの内側面の中央部、すなわち浸漬ノズル102に対向する部分は、電磁攪拌装置101側に湾曲し、湾曲部111を形成している。そして、長辺壁110aの内側面において、湾曲部111の両側には直線状の直線部112、112が形成されている。この異型鋳型110の湾曲部111によって領域105を広くし、旋回流104の流路が狭くなるのを防止している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−183597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、鋼製品の品質向上要求が厳しくなり、清浄度の優れた高品質の鋳片を製造する要求が高まっている。このため、従来は例えば10cm/秒〜20cm/秒の流速の旋回流104を形成して溶鋼103を攪拌していたが、介在物、気泡等をさらに効率的に除去するため、旋回流104の流速をより高速にすることが望まれている。
【0008】
しかしながら、異型鋳型110の長辺壁110aは例えば銅板等で構成されているため、電磁攪拌装置101に電流を供給すると、当該電磁攪拌装置101で発生する磁場の強度は長辺壁110aによって減衰する。このとき、電磁攪拌装置101と湾曲部111との間の距離は、電磁攪拌装置101と直線部112との間の距離よりも短いため、湾曲部111における磁場の強度の減衰は、直線部112における磁場の強度の減衰よりも小さくなる。このため、電磁攪拌装置101によって湾曲部111近傍の溶鋼103に付与される推力は、直線部112近傍の溶鋼103に付与される推力よりも大きくなる。したがって、湾曲部111に沿って流れる旋回流104aの流速は、直線部112に沿って流れる旋回流104bの流速よりも大きくなる。
【0009】
かかる場合、上述のように旋回流104を高速にする際に、例えば直線部112に沿って流れる旋回流104bの流速を、従来よりも大きな所望の流速にしようとすると、湾曲部111に沿って流れる旋回流104aの流速は、直線部112に沿って流れる旋回流104bの流速よりも大きくなる。ここで、湾曲部111に沿って流れる旋回流104aの流速が大き過ぎると、超高速の旋回流104aによって、メニスカス上の溶融酸化物を有する溶融パウダーが溶鋼103に巻き込まれる。その結果、この溶融パウダーが鋳片の表層及び内部に残存して欠陥となるため、鋳片の品質に改善の余地があった。
【0010】
また、このように湾曲部111に沿って流れる旋回流104aの流速が大き過ぎると、湾曲部111において鋳型110の側面の凝固シェルが直線部112の凝固シェルに比べて薄くなる。そうすると、鋳造される鋳片の湾曲部111に対応する部分の強度が低下し、いわゆる縦割れが発生し易くなる。この縦割れの程度が大きいと鋳片が鋳型110から出た後、鋳型110直下で縦割れが開口して溶鋼が流出する、ブレークアウトが発生することが懸念される。
【0011】
なお、鋳片の品質を向上させるため、電磁攪拌装置101と湾曲部111との間の距離が電磁攪拌装置101と直線部112との間の距離と等しくなるように、電磁攪拌装置101を湾曲部111に沿って湾曲させることも考えられる。しかしながら、このように電磁攪拌装置101を湾曲させるのは、製作上の手間やコスト的な観点から、現実的ではない。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、電磁攪拌を伴う鋼の連続鋳造において、鋳型内の上部の溶鋼を、従来よりも高速かつ適切な流速の範囲内で攪拌し、鋳片の品質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するため、本発明は、鋼の連続鋳造装置であって、一対の長辺壁と一対の短辺壁を備えた溶鋼鋳造用の鋳型と、前記鋳型内に溶鋼を吐出する浸漬ノズルと、前記鋳型の各長辺壁の外側面に沿って並べて配置され、前記鋳型内の上部の溶鋼を攪拌して当該鋳型の水平面内で溶鋼の旋回流を形成する複数の電磁攪拌装置と、前記複数の電磁攪拌装置に供給される電流を制御する制御装置と、を有し、前記各長辺壁の内側面には、少なくとも前記浸漬ノズルに対向する位置に、前記電磁攪拌装置側に湾曲した湾曲部が形成され、前記複数の電磁攪拌装置は、前記湾曲部に対向する位置に配置された第1の電磁攪拌装置と、前記第1の電磁攪拌装置に隣り合い、かつ前記長辺壁において前記旋回流の上流側に配置される第2の電磁攪拌装置と、前記第1の電磁攪拌装置に隣り合い、かつ前記長辺壁において前記旋回流の下流側に配置される第3の電磁攪拌装置とを備えたことを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、鋳型の長辺壁の内側面には、少なくとも浸漬ノズルに対向する位置に湾曲部が形成されているので、湾曲部と浸漬ノズル間に湾曲領域を形成することができる。この湾曲領域は、直線状の長辺壁で形成される領域よりも湾曲しているため、浸漬ノズルが配置されていても、湾曲領域を流れる旋回流の流路を確保することができる。しかも、本発明によれば、鋳型の長辺壁の外側面に沿って複数の電磁攪拌装置が並べて配置され、制御装置によってこれら複数の電磁攪拌装置に供給される電流を制御できるので、例えば第1の電磁攪拌装置で発生する磁場の強度を、第2の電磁攪拌装置及び第3の電磁攪拌装置で発生する磁場の強度に比べて小さくできる。すなわち、第1の電磁攪拌装置と湾曲部との間の磁場の強度の減衰が、第2の電磁攪拌装置及び第3の電磁攪拌装置と直線部(鋳型の長辺壁の内側面における湾曲部以外の部分)との間の磁場の強度の減衰より小さいため、湾曲部近傍の溶鋼に作用する推力と直線部近傍の溶鋼に作用する推力を独立して制御することができる。したがって、湾曲部に沿って流れる旋回流と直線部を流れる旋回流の流速を共に所望の流速の範囲内にすることができる。
ここで、所望の流速の範囲内とは、従来の流速よりも大きい値であるほど望ましく、この値が大きくなるにつれて、鋳型内の上部の介在物、気泡が鋳型の側面の凝固シェルに捕捉されるのをより抑制することができる。但し、その上限値は、メニスカス上の溶融パウダーが溶鋼に巻き込まれないことや、シェル厚さが薄くなることに起因する鋳片の縦割れが起こらない範囲内で設定することが重要である。所望の流速の範囲については、下限値は特に限定されるものではなく、要求される鋳片の品質に応じて設定すれば良い。一方、上限値は、使用する鋳型形状、パウダーの粘性等に応じて、事前に実験等により確認することにより設定することができる。
このように鋳型内の上部の溶鋼を所望の流速の範囲内で攪拌できるので、鋳型内の上部の介在物、気泡が鋳型の側面の凝固シェルに捕捉されるのを抑制し、かつメニスカス上の溶融パウダーが溶鋼に巻き込まれるのを抑制できる。また、このように湾曲部に沿って流れる旋回流の速度を所望の流速の範囲内にできるので、当該湾曲部のシェル厚さが直線部に比べて薄くなることに起因する鋳片の縦割れを抑制することができる。したがって、鋳片の品質を従来よりもさらに向上させて、清浄度の優れた高品質の鋳片を製造することができる。
また、鋳型の長辺に湾曲部を設けることで、浸漬ノズルの厚みをより大きくすることができ、これにより、浸漬ノズルの耐久性を向上させることもできる。
【0015】
前記第1の電磁攪拌装置は、複数に分割されていてもよい。
【0016】
前記制御装置は、前記複数の電磁攪拌装置に供給される電流の電流値及び/又は周波数を制御してもよい。
【0017】
前記制御装置は、前記各長辺壁の外側に配置された一対の前記第1の電磁攪拌装置に供給される電流と、前記各長辺壁の外側に配置された一対の前記第2の電磁攪拌装置及び一対の前記第3の電磁攪拌装置に供給される電流とをそれぞれ独立に制御してもよい。
【0018】
また、前記制御装置は、前記一対の第1の電磁攪拌装置に供給される電流と、前記一対の第2の電磁攪拌装置に供給される電流と、前記一対の第3の電磁攪拌装置に供給される電流とをそれぞれ独立に制御してもよい。
【0019】
さらに、前記制御装置は、前記各第1の電磁攪拌装置、前記各第2の電磁攪拌装置、前記各第3の電磁攪拌装置に供給される電流を、すべて独立に制御してもよい。なお、この場合の「すべて独立に制御」とは、第1の電磁攪拌装置、第2の電磁攪拌装置、第3の電磁攪拌装置の個々の電磁攪拌装置に供給される電流をすべて独立に制御することをいう。
【0020】
別な観点による本発明は、前記鋼の連続鋳造装置を用いた連続鋳造方法であって、前記複数の電磁攪拌装置に供給される電流を制御して、前記鋳型内の上部の溶鋼を所望の流速の範囲内で攪拌させることを特徴としている。なお、所望の流速の範囲とは、上述の通りであり、特に限定されないが、35cm/秒以上かつ60cm/秒未満が例示できる。下限値は大きいほど、鋳型内の上部の介在物、気泡が鋳型の側面の凝固シェルに捕捉されるのをより抑制することができることから、例えば、40cm/秒以上が好ましく、45cm/秒以上がより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電磁攪拌を伴う鋼の連続鋳造において、鋳型内の上部の溶鋼を所望の流速の範囲内で攪拌し、鋳片の品質をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施の形態にかかる連続鋳造装置の鋳型近傍の構成の概略を示す横断面の説明図である。
【図2】本実施の形態にかかる連続鋳造装置の鋳型近傍の構成の概略を示す縦断面の説明図である。
【図3】本実施の形態にかかる連続鋳造装置の鋳型近傍の構成の概略を示す縦断面の説明図である。
【図4】電磁攪拌装置と制御装置の構成の概略を示す説明図である。
【図5】電磁攪拌装置を作動させた場合の鋳型上部(メニスカス近傍)の溶鋼に作用する推力を示す説明図である。
【図6】電磁攪拌装置を作動させた場合の鋳型上部(メニスカス近傍)の溶鋼の流れを示す説明図である。
【図7】他の実施の形態にかかる電磁攪拌装置と制御装置の構成の概略を示す説明図である。
【図8】他の実施の形態にかかる電磁攪拌装置と制御装置の構成の概略を示す説明図である。
【図9】他の実施の形態にかかる電磁攪拌装置と制御装置の構成の概略を示す説明図である。
【図10】他の実施の形態にかかる連続鋳造装置の鋳型近傍の構成の概略を示す縦断面の説明図である。
【図11】従来の連続鋳造装置の鋳型近傍の構成の概略を示す横断面の説明図である。
【図12】従来の連続鋳造装置の鋳型近傍の構成の概略を示す横断面の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる鋼の連続鋳造装置1の鋳型近傍の構成を示す横断面図であり、図2及び図3は、連続鋳造装置1の鋳型近傍の構成を示す縦断面図である。
【0024】
連続鋳造装置1は、図1に示すように例えば水平断面が略長方形の鋳型2を有している。鋳型2は、一対の長辺壁2aと一対の短辺壁2bを有している。長辺壁2aは、内側に設けられた銅板3aと外側に設けられたステンレス製水冷ボックス4aから構成されている。また、短辺壁2bは、内側に設けられた銅板3bと外側に設けられたステンレス製水冷ボックス4bから構成されている。なお、本実施の形態において、短辺壁2bの長さ(鋳造厚み)は例えば50mm〜300mm程度である。詳細には、要求される鋳片厚みとして、薄厚の鋳片であれば50mm〜80mm程度であり、中厚の鋳片であれば80mm〜150mm程度であり、通常厚の鋳片であれば150mm〜300mm程度である。
【0025】
長辺壁2aの銅板3aの内側面の中央部には、ステンレス製ボックス4a側に湾曲した湾曲部5が形成されている。湾曲部5は、後述する鋳型2内に設けられた浸漬ノズル6に対向して形成されている。また、湾曲部5は、図2及び図3に示すように銅板3aの上端から浸漬ノズル6に対向して形成される。湾曲部5の下端は浸漬ノズル6の下端と同じ高さでもよく、また浸漬ノズル6の下端より下方になるように形成されていてもよい。なお、湾曲部5は、例えば銅板3aの内側面を削ることにより形成される。そして、この湾曲部5と浸漬ノズル6の間に、図1に示すように湾曲領域7が形成される。
【0026】
なお、湾曲部5の湾曲頂部(最も窪んだ箇所)と浸漬ノズル6間の最短水平距離Lは、湾曲部5が下端に行くにつれて次第に窪んだ部分が消失していくテーパ形状であるため、高さ方向によってその長さが異なっているが、本実施の形態では、後述する電磁攪拌装置21〜26の下端部から、電磁攪拌装置21〜26の上端部よりも50mm高い位置までの範囲において、30mm〜80mmとなることが推奨される。すなわち、最短水平距離Lは、湾曲領域7における溶鋼8の流路を確保するという観点から、30mm以上であることが推奨され、また、湾曲領域7における溶鋼8の均一な流れを確保するという観点から、80mm以下であることが推奨される。また、湾曲部5の湾曲距離L(上記の最短水平距離Lが規定される高さと同じ高さにおける湾曲部5の湾曲頂部と端部間の最短水平距離であって、湾曲部5を形成する際の削り込み距離)は、上記の最短水平距離Lが所定の距離を確保できていれば特に規定されるものではなく、また、浸漬ノズル6の径や鋳型2の厚みに応じて、適宜、決定されるものである。但し、湾曲部5の湾曲距離Lは、鋳片の引抜きに際して歪みを受け難くするという観点から、極力小さいほど好ましい。なお、本実施の形態においては、上記の最短水平距離Lと湾曲距離Lの差(L−L)は、所定の距離未満、例えば20mm以上40mm以下が例示できる。
【0027】
長辺壁2aの銅板3aの内側面において、湾曲部5の両側には、直線部9、9が形成されている。また、長辺壁2aの銅板3aの外側面とステンレス製ボックス4aの両側面は、平坦に形成されている。
【0028】
鋳型2内の上部には、図2及び図3に示すように浸漬ノズル6が設けられ、浸漬ノズル6はその下部が鋳型2内の溶鋼8に浸漬している。浸漬ノズル6の側面の下端近傍には、鋳型2内へ斜め下向きに溶鋼8を吐出する吐出孔10が2箇所形成されている。吐出孔10、10は、鋳型2の短辺壁2b側に形成されている。吐出孔10から吐出される吐出流11は、例えば後述する鋳型2の短辺壁2bに形成された凝固シェル12に衝突し、上昇流13と下降流に分岐する。また、吐出流11には、アルミナやスラグ系等の介在物14などが含まれている。介在物14は、例えば上昇流13等によってメニスカス15近傍まで浮上する。なお、メニスカス15上には、溶融酸化物を有する溶融パウダー16が供給されている。
【0029】
鋳型2の内側面には、図2及び図3に示すように溶鋼8が冷却されて凝固した凝固シェル12が形成されている。
【0030】
鋳型2の一の長辺壁2aの外側には、当該長辺壁2aの外側面に沿って、図1〜図3に示すように例えば電磁攪拌コイルなどの複数の電磁攪拌装置21〜23が並べて設けられている。電磁攪拌装置21〜23は、鋳型2内のメニスカス15近傍に配置されている。また、鋳型2の他の長辺壁2aの外側にも、同様に当該長辺壁2aの外側面に沿って複数の電磁攪拌装置24〜26が並べて設けられている。
【0031】
第1の電磁攪拌装置21、24は、長辺壁2aの湾曲部5に対向する位置にそれぞれ配置されている。すなわち、一対の第1の電磁攪拌装置21、24は、対向して配置されている。第2の電磁攪拌装置22、25は、第1の電磁攪拌装置21、24に隣り合い、かつ長辺壁2aにおいて後述する旋回流41の上流側にそれぞれ配置されている。すなわち、一対の第2の電磁攪拌装置22、25は、浸漬ノズル6に対して点対象の位置に配置されている。第3の電磁攪拌装置23、26は、第1の電磁攪拌装置21、24に隣り合い、かつ長辺壁2aにおいて後述する旋回流41の下流側にそれぞれ配置されている。すなわち、一対の第3の電磁攪拌装置23、26も、浸漬ノズル6に対して点対象の位置に配置されている。ちなみに、各電磁攪拌装置21〜26は同じ高さ(鉛直方向の位置)に設けられている。また、各電磁攪拌装置21〜26には、その厚み(鉛直方向の距離)が例えば150mm〜300mmのものが、通常、用いられている。
【0032】
複数の電磁攪拌装置21〜26は、図4に示すように制御装置30に接続されている。制御装置30は、電源(図示せず)を有し、複数の電磁攪拌装置21〜26に電流を供給する。また、制御装置30は、電磁攪拌装置21〜26に供給される電流の電流値を制御することもできる。本実施の形態においては、制御装置30は、一対の第1の電磁攪拌装置21、24、一対の第2の電磁攪拌装置22、25、一対の第3の電磁攪拌装置23、26毎に供給される電流をそれぞれ独立に制御する。すなわち、一対の第1の電磁攪拌装置21、24は一の配線31に接続され、制御装置30から一対の第1の電磁攪拌装置21、24に同一の電流値の電流が供給される。また、一対の第2の電磁攪拌装置22、25も一の配線32に接続され、制御装置30から一対の第2の電磁攪拌装置22、25に同一の電流値の電流が供給される。さらに、一対の一対の第3の電磁攪拌装置23、26も一の配線33に接続され、制御装置30から一対の第3の電磁攪拌装置24、26に同一の電流値の電流が供給される。
【0033】
本実施の形態にかかる連続鋳造装置1は以上のように構成されており、次にこの連続鋳造装置1を用いた溶鋼8の連続鋳造方法について説明する。
【0034】
先ず、浸漬ノズル6の吐出孔10から鋳型2内に溶鋼8を吐出する。溶鋼8は鋳型2内に吐出され、吐出孔10から鋳型2の短辺壁2bに向かって吐出流11が形成される。吐出流11には介在物14が含まれており、介在物14は例えば上述した上昇流13等によってメニスカス15近傍まで浮上する。
【0035】
浸漬ノズル6から溶鋼8を吐出すると同時に、電磁攪拌装置21〜26を作動させる。これら電磁攪拌装置21〜26を作動させることによって、図5に示すように鋳型2内のメニスカス15近傍の溶鋼8に、図中の矢印の方向に推力40が作用する。この推力40によって、図6に示すようにメニスカス15近傍の溶鋼8が水平面内で攪拌され、一方向の旋回流41が形成される。そして、メニスカス15近傍まで浮上した気泡もしくは介在物14は、旋回流41によって鋳型2内を水平面内で旋回し、鋳型2の凝固シェル12に捕捉されることなく、例えばメニスカス15上の溶融パウダー16に取り込まれて除去される。
【0036】
このとき、一対の第1の電磁攪拌装置21、24、一対の第2の電磁攪拌装置22、25、一対の第3の電磁攪拌装置23、26に供給される電流の電流値は、制御装置30によって独立に制御される。
【0037】
ここで、電磁攪拌装置21〜26の下端部から、電磁攪拌装置21〜26の上端部よりも50mm高い位置までの範囲において、第1の電磁攪拌装置21と湾曲部5の湾曲頂部との間の距離Dは、第2の電磁攪拌装置22及び第3の電磁攪拌装置23と直線部9との間の距離Dよりも短い。このため、第1の電磁攪拌装置21と湾曲部5との間の磁場の強度の減衰は、第2の電磁攪拌装置22及び第3の電磁攪拌装置23と直線部9との間の磁場の強度の減衰よりも小さい。なお、第1の電磁攪拌装置24、第2の電磁攪拌装置25、第3の電磁攪拌装置26についても、上記と同様である。
【0038】
そこで、例えば制御装置30は、第1の電磁攪拌装置21、24に供給される電流の電流値が、第2の電磁攪拌装置22、25及び第3の電磁攪拌装置23、26に供給される電流の電流値より小さくなるように制御する。そうすると、第1の電磁攪拌装置21、24で発生する磁場の強度を、第2の電磁攪拌装置22、25及び第3の電磁攪拌装置23、26で発生する磁場の強度に比べて小さくできる。これによって、第1の電磁攪拌装置21、24と湾曲部5との間の磁場の強度の減衰が、第2の電磁攪拌装置22、25及び第3の電磁攪拌装置23、26と直線部9との間の磁場の強度の減衰より小さいにも関わらず、第1の電磁攪拌装置21、24によって湾曲部5近傍の溶鋼8に作用する推力40と、第2の電磁攪拌装置22、25及び第3の電磁攪拌装置23、26によって直線部9近傍に作用する推力40を、近づけることができる。このため、湾曲部5に沿って流れる旋回流41aの流速と、直線部9に沿って流れる旋回流41bの流速を、共に所望の流速の範囲内にすることができる。したがって、旋回流41はどの場所でも高速で旋回させることができるため、メニスカス15近傍の気泡もしくは介在物14が鋳型2の側面の凝固シェル12に捕捉されるのを抑制できる。また、旋回流41の流速を過度に大き過ぎない様に制御できるため、メニスカス15上の溶融パウダー16が溶鋼8に巻き込まれるのを抑制できる。さらに、湾曲部5において凝固シェル12を直線部9と同程度に厚く形成できるため、湾曲部5で鋳造される鋳片の縦割れも抑制できる。なお、溶融パウダー16の巻き込みの有無は、例えばメニスカス15表面の振動を監視することによって行われる。
【0039】
また、湾曲領域7は、直線状の壁体で形成される領域よりも湾曲しているため、湾曲していない場合と比較すると、浸漬ノズル6と長辺壁2aの内側との間に、溶鋼8の流路が広く形成されているため、長辺壁2aと浸漬ノズル6間の流れが停滞することなく、旋回流41は、長辺壁2a及び短辺壁2bに沿って浸漬ノズル6回りを旋回する。
【0040】
以上のように旋回流41によって気泡もしくは介在物14が除去された溶鋼8は、その後、鋳造されて、鋳片となる。
【0041】
以上の実施の形態によれば、鋳型2の長辺壁2aの上部中央に湾曲部5が形成され、湾曲部5と浸漬ノズル6間に湾曲領域7を形成している。この湾曲領域により、上述した最短水平距離Lが確保されるため、湾曲領域7を流れる旋回流41の流路を確保することができる。
【0042】
また、制御装置30によって、一対の第1の電磁攪拌装置21、24、一対の第2の電磁攪拌装置22、25、一対の第3の電磁攪拌装置23、26毎に供給される電流が独立に制御されるので、例えば第1の電磁攪拌装置21、24で発生する磁場の強度を、第2の電磁攪拌装置22、25及び第3の電磁攪拌装置23、26で発生する磁場の強度に比べて小さくできる。これによって、第1の電磁攪拌装置21、24と湾曲部5との間の磁場の強度の減衰が、第2の電磁攪拌装置22、25及び第3の電磁攪拌装置23、26と直線部9との間の磁場の強度の減衰より小さいにも関わらず、湾曲部5近傍の溶鋼8に作用する推力40と直線部9近傍の溶鋼8に作用する推力40を近づけることができる。したがって、湾曲部5に沿って流れる旋回流41aと直線部9を流れる旋回流41bの流速を共に所望の流速の範囲内にすることができる。すなわち、旋回流41の流速を、従来よりも高速とすることができるため、メニスカス15近傍の気泡もしくは介在物14が鋳型2の側面の凝固シェル12に捕捉されるのをより抑制できる。また、旋回流41の流速を、過度に大き過ぎない様に制御できるため、メニスカス5上の溶融パウダー16が溶鋼8に巻き込まれるのを抑制できる。さらに、湾曲部5で鋳造される鋳片の縦割れも抑制できる。したがって、鋳片の品質を向上させて、清浄度の優れた高品質の鋳片を製造することができる。
【0043】
また、一対の第1の電磁攪拌装置21、24は一の配線31に接続され、制御装置30から一対の第1の電磁攪拌装置21、24に同一の電流値の電流が供給される。同様に一対の第2の一対の第2の電磁攪拌装置22、25、一対の第3の電磁攪拌装置23、26もそれぞれ一の配線32、33に接続され、同一の電流値の電流が供給される。このように制御装置30は、一対の第1の電磁攪拌装置21、24、一対の第2の電磁攪拌装置22、25、一対の第3の電磁攪拌装置23、26毎に供給される電流の電流値を独立に制御するので、その制御が容易になる。また、制御装置30に設けられる電源の数も3個と少なくて良い。
【0044】
以上の実施の形態では、制御装置30は、一対の第1の電磁攪拌装置21、24、一対の第2の電磁攪拌装置22、25、一対の第3の電磁攪拌装置23、26毎に供給される電流の電流値を独立に制御していたが、制御装置30が制御する電磁攪拌装置21〜26の組合せを変更してもよい。
【0045】
例えば図7に示すように制御装置30は、各長辺壁2aの外側に配置された一対の第1の電磁攪拌装置21、24に供給される電流の電流値と、各長辺壁2aの外側に配置された一対の第2の電磁攪拌装置22、25及び一対の第3の電磁攪拌装置23、26に供給される電流の電流値とを、独立に制御してもよい。かかる場合、一対の第1の電磁攪拌装置21、24は一の配線50に接続され、制御装置30から一対の第1の電磁攪拌装置21、24に同一の電流値の電流が供給される。一対の第2の電磁攪拌装置22、25及び一対の第3の電磁攪拌装置23、26は一の配線51に接続され、制御装置30から一対の第2の電磁攪拌装置22、25及び一対の第3の電磁攪拌装置23、26に同一の電流値の電流が供給される。本実施の形態でも、第1の電磁攪拌装置21、24で発生する磁場の強度を、第2の電磁攪拌装置22、25及び第3の電磁攪拌装置23、26で発生する磁場の強度に比べて小さくできる。したがって、湾曲部5に沿って流れる旋回流41aの流速と、直線部9に沿って流れる旋回流41bの流速を、共に所望の流速の範囲内にすることができる。
【0046】
例えば図8に示すように制御装置30は、対向する一対の第1の電磁攪拌装置21、24、対向する第2の電磁攪拌装置22及び第3の電磁攪拌装置26、対向する第3の電磁攪拌装置23及び第2の電磁攪拌装置25毎に供給される電流の電流値を独立に制御してもよい。かかる場合、一対の第1の電磁攪拌装置21、24は一の配線52に接続され、制御装置30から一対の第1の電磁攪拌装置21、24に同一の電流値の電流が供給される。第2の電磁攪拌装置22及び第3の電磁攪拌装置26は一の配線53に接続され、制御装置30から第2の電磁攪拌装置22及び第3の電磁攪拌装置26に同一の電流値の電流が供給される。第3の電磁攪拌装置23及び第2の電磁攪拌装置25は一の配線54に接続され、制御装置30から第3の電磁攪拌装置23及び第2の電磁攪拌装置25に同一の電流値が供給される。本実施の形態でも、第1の電磁攪拌装置21、24で発生する磁場の強度を、第2の電磁攪拌装置22、25及び第3の電磁攪拌装置23、26で発生する磁場の強度に比べて小さくできる。したがって、湾曲部5に沿って流れる旋回流41aの流速と、直線部9に沿って流れる旋回流41bの流速を、共に所望の流速の範囲内にすることができる。
【0047】
また、例えば、図9に示すように制御装置30は、各電磁攪拌装置21〜26に供給される電流の電流値をそれぞれ独立に制御してもよい。かかる場合、電磁攪拌装置21〜26はそれぞれ別の配線60〜65に接続される。本実施の形態によれば、各電磁攪拌装置21〜26に供給される電流の電流値をすべて独立に制御するので、旋回流41の流速をより確実に所望の流速の範囲内にすることができる。
【0048】
以上の実施の形態の第1の電磁攪拌装置21、24は、図10に示すように複数、例えば3つの第1の電磁攪拌装置21a〜21c、24a〜24cにそれぞれ分割されていてもよい。かかる場合、第1の電磁攪拌装置21a〜21c、24a〜24c毎に供給される電流の電流値を独立に制御できるので、湾曲部5に沿って流れる旋回流41aの流速をより確実に所望の流速の範囲内にすることができる。なお、本実施の形態では、第1の電磁攪拌装置21、24は3つに分割されていたが、分割される数はこれに限定されない。例えば第1の電磁攪拌装置21、24は、2つ又は4つ以上に分割されてもよい。
【0049】
以上の実施の形態の制御装置30は、電磁攪拌装置21〜26に供給される電流の電流値を独立に制御していたが、その電流の周波数を制御してもよい。かかる場合、例えば電流の電流値が一定の場合でも、各電磁攪拌装置21〜26に供給される電流の周波数を制御することによって、湾曲部5に沿って流れる旋回流41aの流速と、直線部9に沿って流れる旋回流41bの流速を、共に所望の流速の範囲内にすることができる。ちなみに、電流値と周波数の両方を変更させて、流速を制御しても問題はない。
【0050】
なお、以上の実施の形態の電磁攪拌装置21〜26は、長辺壁2aの外側に設けられていたが、長辺壁2aのステンレス製水冷ボックス4a内に設けてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の鋼の連続鋳造装置を用いた場合に、鋳片の表面欠陥を抑制する効果と鋳片の縦割れを抑制する効果について説明する。本発明例の鋼の連続鋳造装置としては、先に図1〜図4に示した連続鋳造装置1を用いた。また、比較例の鋼の連続鋳造装置としては、先に図12に示した連続鋳造装置を用いた。
連続鋳造装置としては、鋳型の長辺外側の長さが1400mm、鋳型の短辺の長さが250mmのものを用いた。また、浸漬ノズルの直径は175mmの円形のものを用いた。さらに、電磁攪拌装置の上端部における湾曲部の湾曲距離(湾曲部の湾曲頂部と端部間の最短水平距離であって、湾曲部を形成する際の削り込み距離)は、20mmのものを用いた。したがって、電磁攪拌装置の上端部における湾曲部の湾曲頂部と浸漬ノズル間の水平距離は、47.5mmであった。
ちなみに、長辺側の銅板の直線部(湾曲部以外の部分)の厚みが35mm、ステンレス製水冷ボックスの厚みが50mmのものを用いた。
また、電磁攪拌装置は、厚み(鉛直方向の距離)が300mmのものを用いた。
【0052】
本実施例で用いた鋼の鋼種、炭素濃度、鋳片の鋳造量、鋳造幅、鋳造速度、溶融パウダーの粘度は、表1に示す通りである。ちなみに、パウダーについては、FおよびNaを含有するものを使用した。かかる場合において、電磁攪拌装置に供給する電流の電流値と周波数を変化させた。具体的には、表2に示すように電流値は500A、315A、520Aに変化させ、周波数は3.5Hz、1.1Hzに変化させた。
また、電磁攪拌装置の上端部の高さ位置がメニスカス位置となるように、連続鋳造を行った。
ちなみに、上記の連続鋳造装置およびパウダーを用いて、表1に示す製造条件において、要求される品質を考慮して、事前に実験を行ったところ、鋳型内の上部の溶鋼の所望の流速は、60cm/秒未満の範囲であることを確認している。
【0053】
以上の条件で溶鋼の連続鋳造を行った結果を表2に示す。
【0054】
なお、表2中、本発明例における湾曲部の電流値、周波数、平均流速とは、図1〜図4に示した第1の電磁攪拌装置21、24に供給される電流の電流値、周波数、湾曲部5に沿って流れる旋回流41aの平均流速をいう。直線部(上流側)の電流値、周波数、平均流速とは、第2の電磁攪拌装置22、25に供給する電流の電流値、周波数、第2の電磁攪拌装置22、25に対向した直線部9に沿って流れる旋回流41bの平均流速をいう。直線部(下流側)の電流値、周波数、平均流速とは、第3の電磁攪拌装置23、26に供給する電流の電流値、周波数、第3の電磁攪拌装置23、26に対向した直線部9に沿って流れる旋回流41bの平均流速をいう。
なお、平均流速としているのは、各電磁攪拌装置21〜26に沿った流速に分布があるため、各電磁攪拌装置21〜26毎に、一定間隔で測定した流量を平均した値を用いているためである。
【0055】
また、表2中の平均流速は、デンドライト傾角の測定を行い、下記式(1)を用いて算出した各測定点の流速を平均して求めた(なお、下記式(1)は「新日鉄技法第376号、58頁、平成14年3月発行」に開示されている。)。デンドライト傾角の測定は、鋳造された鋳片の鋳造方向直角断面より試片を切り出し、酸により腐食した後、倍率5倍で凝固組織を撮像し測定した。具体的には、湾曲部及び直線部の鋳片表層から5mmの位置のデンドライト傾角を30mm間隔で測定した。
V=(θ+9.73×Inf+33.7)/(1.45×Inf+12.5)・・・・(1)
但し、V:溶鋼流速(cm/秒)、θ:デンドライト傾角(度)、凝固速度(cm/秒)
【0056】
また、表2中、鋳片の表面欠陥としてのパウダー性欠陥指数や介在物系欠陥指数は、鋳造された鋳片を圧延して鋼板にした後、製品としての鋼板の単位長さ当たりの欠陥の発生比率を示している。具体的には、極低炭素鋼の欠陥指数は、本発明の連続鋳造方法で溶鋼を鋳造した後、熱延工程にて4mm厚の熱延鋼板に圧延した後に、さらに板厚1mmまで圧延し、溶融亜鉛メッキ処理をした後に疵検査を実施した。具体的には、疵1個を便宜上1mとカウントして、製品の長さで割った値に100を乗じて%表示したものとして定義した。
また、中炭素鋼の欠陥指数は、中炭素鋼を3.5mm厚の熱延鋼板にして酸洗後に疵検査を実施した。そして、極低炭素鋼の欠陥指数と同様に、疵1個を便宜上1mとカウントして、製品の長さで割った値に100を乗じて%表示したものとして定義した。
ちなみに、パウダー性欠陥指数と介在物系欠陥指数の相違点については、パウダーにFおよびNaを含有するものを使用したので、疵中にF、Naを含有する場合に、パウダー性欠陥と定義し、一方、FおよびNaを含有しないAl等の介在物を含有するものを介在物系欠陥と定義した。
【0057】
また、表2中、鋳片縦割れ指数は、製造した製品の枚数に対して、縦割れが発生した製品の枚数のパーセンテージを示している。なお、本実施例において、鋳片縦割れ指数として中炭素鋼のみ評価している。極低炭素鋼は縦割れが発生しにくいので評価の対象にならないためである。
【0058】
以下、表2の結果を参照して本発明の効果について検討する。
【0059】
比較例1、2のように、湾曲部と直線部の電流値及び周波数が一定の値である場合、直線部の平均流速は38cm/秒〜42cm/秒であったが、湾曲部の平均流速は60cm/秒以上であった。すなわち、湾曲部の平均流速は、本発明の所望の流速の範囲である60cm/秒未満の範囲外であった。かかる場合、パウダー性欠陥指数は、比較例1で0.81、比較例2で0.50と大きく、欠陥が多いことが分かった。また、比較例2において、鋳片縦割れ指数が4と大きく、縦割れが多く発生することが分かった。
【0060】
これに対して、本発明例1、2のように、湾曲部と直線部の周波数を一定にして、湾曲部の電流値を直線部の電流値に比して小さくした場合、湾曲部と直線部の平均流速は35cm/秒〜43cm/秒であった。すなわち、湾曲部と直線部の平均流速は共に本発明の所望の流速の範囲である60cm/秒未満の範囲内であった。また、従来の旋回流速である10cm/秒〜20cm/秒程度よりも大きくすることができた。かかる場合、パウダー性欠陥指数は、本発明例1〜2で0.00であって、比較例1、2に比して小さく、パウダー性の欠陥を抑制できることが分かった。また、介在物系欠陥指数も、本発明例1〜2で0.000〜0.021であって、極めて小さく抑制できることが分かった。さらに、本発明例2において、鋳片縦割れ指数が0.01であって比較例2に比して小さく、縦割れも抑制できることが分かった。すなわち、本発明例1、2では、パウダー性欠陥指数、介在物系欠陥指数、鋳片縦割れ指数のいずれも、良好に抑制できることが確認できた。
【0061】
また、本発明例3、4のように、湾曲部と直線部の電流値を一定にして、湾曲部の周波数を直線部の周波数に比して小さくした場合、湾曲部と直線部の平均流速は36cm/秒〜42cm/秒であった。すなわち、湾曲部と直線部の平均流速は共に本発明の所望の流速の範囲である60cm/秒未満の範囲内であった。かかる場合、パウダー性欠陥指数は、本発明例3〜4で0.00であって比較例1、2に比して小さく、パウダー性の欠陥を抑制できることが分かった。また、介在物系欠陥指数も、本発明例3〜4で0.000〜0.010であって、極めて小さく抑制できることが分かった。さらに、本発明例4において、鋳片縦割れ指数が0.02であって比較例2に比して小さく、縦割れも抑制できることが分かった。すなわち、本発明例3、4でも、パウダー性欠陥指数、介在物系欠陥指数、鋳片縦割れ指数のいずれも、良好に抑制できることが確認できた。
【0062】
さらに、本発明例5、6のように、湾曲部と直線部の平均流速は41cm/秒〜45cm/秒であった場合、すなわち、湾曲部と直線部の平均流速は共に60cm/秒未満の範囲内であり、かつ、本発明例1〜4の平均流速よりも大きな値として、湾曲部と直線部の平均流速をすべて40cm/秒以上とした場合、パウダー性欠陥指数は、本発明例5〜6で0.00であり、また、介在物系欠陥指数も、本発明例5〜6ともに、本発明例1〜4よりもさらに小さく抑制できることが分かった。
【0063】
ちなみに、参考例1、2として、本発明例1〜4の平均流速よりもやや小さくした場合について、確認を行った。具体的には、直線部の平均流速は24cm/秒〜28cm/秒、湾曲部の平均流速は30〜31cm/秒とした。
その結果、参考例1では、パウダー性欠陥指数は0.00であったものの、介在物系欠陥指数が0.043となり、本発明例1よりも、やや大きくなった。また、参考例2では、パウダー粘度が低かったため、パウダー性欠陥指数を0.00、介在物系欠陥指数を0.005と小さくすることはできたものの、鋳片縦割れ指数が0.1となり、本発明例2、本発明例4、本発明例6と比較すると、やや大きくなることが分かった。
これにより、湾曲部と直線部の平均流速が60cm/秒未満の範囲内であれば、湾曲部と直線部の平均流速が大きくなるほど、パウダー性欠陥指数、介在物系欠陥指数、鋳片縦割れ指数のいずれも、より良好に抑制できることが確認できた。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、鋳型内に溶鋼を供給して鋳片を製造する際に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 連続鋳造装置
2 鋳型
2a 長辺壁
2b 短辺壁
3a、3b 銅板
4a、4b ステンレス製水冷ボックス
5 湾曲部
6 浸漬ノズル
7 湾曲領域
8 溶鋼
9 直線部
10 吐出孔
11 吐出流
12 凝固シェル
13 上昇流
14 介在物
15 メニスカス
16 溶融パウダー
21、24 第1の電磁攪拌装置
21a〜21c、24a〜24c (分割された)第1の電磁攪拌装置
22、25 第2の電磁攪拌装置
23、26 第3の電磁攪拌装置
30 制御装置
31〜33 配線
40 推力
41 旋回流
41a (湾曲部5に沿って流れる)旋回流
41b (直線部9に沿って流れる)旋回流
50〜54 配線
60〜65 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造装置であって、
一対の長辺壁と一対の短辺壁を備えた溶鋼鋳造用の鋳型と、
前記鋳型内に溶鋼を吐出する浸漬ノズルと、
前記鋳型の各長辺壁の外側面に沿って並べて配置され、前記鋳型内の上部の溶鋼を攪拌して当該鋳型の水平面内で溶鋼の旋回流を形成する複数の電磁攪拌装置と、
前記複数の電磁攪拌装置に供給される電流を制御する制御装置と、を有し、
前記各長辺壁の内側面には、少なくとも前記浸漬ノズルに対向する位置に、前記電磁攪拌装置側に湾曲した湾曲部が形成され、
前記複数の電磁攪拌装置は、前記湾曲部に対向する位置に配置された第1の電磁攪拌装置と、前記第1の電磁攪拌装置に隣り合い、かつ前記長辺壁において前記旋回流の上流側に配置される第2の電磁攪拌装置と、前記第1の電磁攪拌装置に隣り合い、かつ前記長辺壁において前記旋回流の下流側に配置される第3の電磁攪拌装置とを備えたことを特徴とする、鋼の連続鋳造装置。
【請求項2】
前記第1の電磁攪拌装置は、複数に分割されていることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記複数の電磁攪拌装置に供給される電流の電流値及び/又は周波数を制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼の連続鋳造装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記各長辺壁の外側に配置された一対の前記第1の電磁攪拌装置に供給される電流と、前記各長辺壁の外側に配置された一対の前記第2の電磁攪拌装置及び一対の前記第3の電磁攪拌装置に供給される電流とをそれぞれ独立に制御することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の鋼の連続鋳造装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記一対の第1の電磁攪拌装置に供給される電流と、前記一対の第2の電磁攪拌装置に供給される電流と、前記一対の第3の電磁攪拌装置に供給される電流とをそれぞれ独立に制御することを特徴とする、請求項4に記載の鋼の連続鋳造装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記各第1の電磁攪拌装置、前記各第2の電磁攪拌装置、前記各第3の電磁攪拌装置に供給される電流を、すべて独立に制御することを特徴とする、請求項5に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかに記載の鋼の連続鋳造装置を用いた連続鋳造方法であって、
前記複数の電磁攪拌装置に供給される電流を制御して、
前記鋳型内の上部の溶鋼を所望の流速の範囲内で攪拌させることを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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