説明

鋼の連続鋳造装置及び連続鋳造方法

【課題】鋼の連続鋳造において、鋳片の品質を向上させつつ、鋳片の歩留まりの低下を抑制する。
【解決手段】連続鋳造装置1は、一対の長辺壁10、11と一対の短辺壁12、12を備えた鋳型3と、鋳型3内に溶鋼4を吐出する浸漬ノズル5とを有している。長辺壁10、11には、当該長辺壁10、11の外側面に沿って配置され、鋳型3内の上部の溶鋼4を攪拌する電磁攪拌装置20、20がそれぞれ設けられている。長辺壁10には、少なくとも浸漬ノズル5に対向する位置に内側面10bから外側面10a側に窪んだ窪み部21と、当該窪み部21に適合する形状を有し、且つ鋳型3の厚み方向に移動自在の長辺壁可動部22とを備えている。一対の短辺壁12、12は、長辺壁可動部22が窪み部21に収容された際、鋳型3の幅方向に移動自在にそれぞれ構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型内に溶鋼を供給して鋳片を製造する鋼の連続鋳造装置及び当該連続鋳造装置を用いた鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳片の表面形状を改善するために、例えば鋳型の上部に設置された電磁攪拌装置を用いて、当該鋳型内の溶鋼を電磁攪拌することが行われている。
【0003】
この電磁攪拌では、例えば図11に示すように鋳型100の一対の長辺壁100a、100aに沿って電磁攪拌装置101、101がそれぞれ配置される。なお、図示の例では、通常の鋳型の形状に基づき、一対の長辺壁100a、100aの内側面は、平面視において平行して直線状に形成されている。そして、浸漬ノズル102から鋳型100内に溶鋼103が吐出されると、電磁攪拌装置101に電流を供給して、鋳型100内の上部の溶鋼103に推力が付与される。この推力によって溶鋼103が水平面内で攪拌されて、当該溶鋼103の旋回流104が形成される。そして、旋回流104によって、鋳型100の上部のメニスカス近傍の介在物等が鋳型100の側面に形成された凝固シェルに捕捉されるのを抑制している。
【0004】
しかしながら、浸漬ノズル102と長辺壁100aの内側面との間の領域105が狭いため、旋回流104の流路が狭くなり溶鋼103が流れ難い。そうすると、領域105では、溶鋼103中の介在物が長辺壁100aの凝固シェルに捕捉され易くなる。
【0005】
そこで、上述の電磁攪拌装置101を用いると共に、平行型の鋳型100に代えて、図12に示すようにいわゆる異型鋳型110を用いることが提案されている。異型鋳型110の長辺壁110aの内側面の中央部、すなわち浸漬ノズル102に対向する部分は、電磁攪拌装置101側に凸に湾曲し、湾曲部111を形成している。そして、長辺壁110aの内側面において、湾曲部111の両側には直線状の直線部112、112が形成されている。この異型鋳型110の湾曲部111によって、浸漬ノズル102と長辺壁100aの内側面との間の領域105を広くし、旋回流104の流路が狭くなるのを防止している(特許文献1)。
【0006】
また、上述の領域105における旋回流104の流路を確保するため、図13に示すように平行型の鋳型100の一対の長辺壁100a、100a間の距離Lを長くし、当該鋳型100の下流側に複数配置された一対の圧下ロール120、120の距離を下流側に向けて狭くして、所定の厚みLの鋳片を鋳造することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−183597号公報
【特許文献2】特許第3008821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の異型鋳型110を用いた場合、図12に示すように湾曲部111の長辺壁110aに沿った水平方向の幅Bは旋回流104の流路を確保するための最小幅に基づいて決まるため、この幅Bよりも小さい幅の鋳片を鋳造することができない。すなわち、異型鋳型110を用いた場合、鋳造できる鋳片の幅の自由度が小さくなる。
【0009】
また、異型鋳型110を用いた場合、旋回流104の流れが部分的に乱れ、一部介在物が凝固シェルに捕捉され易い領域が生ずるおそれがある。すなわち、湾曲部111に沿って流れる旋回流104aは当該湾曲部111の曲率と同一の曲率で流れるため、その下流側を流れる旋回流104bは直線部112から離れる方向に流れる。したがって、この直線部112の最下流側、すなわち異型鋳型110の角部付近の領域121では、溶鋼103が流れ難くなる。そうすると、領域121では、溶鋼103中の介在物が凝固シェルに捕捉され易くなる。
【0010】
一方、特許文献2の鋳型100及び圧下ロール120を用いた場合、先ず、ダミーバー(図示せず)が通過する際、最初の一対の圧下ロール120、120の対向距離は、鋳型100の一対の長辺壁100a、100a間の距離Lと同じ長さになっている。その後、ダミーバーが複数の圧下ロール120、120を通過すると、一対の圧下ロール120、120の対向距離を下流側に行くにつれて徐々に狭くして所定の厚みLの鋳片を鋳造する。かかる場合、ダミーバーが通過してから一対の圧下ロール120、120が所定の位置に移動するまで(定常操業状態になるまで)に鋳造される鋳片の厚みは、所定の厚みLより厚くなる。したがって、連続鋳造後、この所定の厚みLより厚い鋳片を除去する必要があり、鋳片の歩留まりの低下が生じることになる。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、鋼の連続鋳造において、鋳片の品質を向上させつつ、鋳片の歩留まりの低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明は、鋼の連続鋳造装置であって、一対の長辺壁と一対の短辺壁を備えた溶鋼鋳造用の鋳型と、前記鋳型内に溶鋼を吐出する浸漬ノズルと、前記一対の長辺壁の外側面に沿って配置され、前記鋳型内の上部の溶鋼を攪拌する電磁攪拌装置と、を有し、少なくとも片方の前記長辺壁は、少なくとも前記浸漬ノズルに対向する位置に内側面から外側面側に窪んだ窪み部と、前記窪み部に適合する形状を有し、且つ前記鋳型の厚み方向に移動自在の長辺壁可動部とを備え、前記一対の短辺壁は、前記長辺壁可動部が前記窪み部に収容された際、前記鋳型の幅方向に移動自在にそれぞれ構成されていることを特徴としている。なお、鋳型の厚み方向とは鋳型の短辺壁に沿った方向をいい、鋳型の幅方向とは鋳型の長辺壁に沿った方向をいう。
【0013】
本発明の連続鋳造装置によれば、鋳型内にダミーバーを挿入する際、長辺壁可動部を浸漬ノズル側に移動させて配置し、ダミーバーが鋳型を通過した後、当該ダミーバーに連続して鋳型内に溶鋼が供給された状態で、長辺壁可動部を電磁攪拌装置側に移動させて窪み部に収容できる。このように長辺壁可動部を窪み部に収容して、溶鋼の鋳造中に長辺壁の内側面と浸漬ノズルとの間の領域を広くできるので、この領域を流れる旋回流の流路を広く確保することができる。また、長辺壁の内側面と浸漬ノズルとの間の領域が広く、この領域を溶鋼が直線的に流れるため、従来の異型鋳型を用いた場合と異なり、旋回流の乱れも生じない。したがって、鋳型内の上部の介在物が鋳型の側面の凝固シェルに捕捉されるのを抑制でき、鋳片の品質を向上させることができる。また、ダミーバーの厚みは鋳片の鋳造後の所望の厚みであるので、鋳型の下流側に複数配置された一対の圧下ロールの距離を当該所望の厚みと同じ長さにできる。したがって、ダミーバーが鋳型を通過した後、当該ダミーバーに連続して鋳型内に溶鋼が供給された状態で、長辺壁可動部を窪み部に収容して鋳型内の溶鋼の厚みを所望の厚みより厚くしても、その後圧下ロールを通過する際に鋳片の厚みを所望の厚みにできる。このようにダミーバーに連続して供給されたすべての溶鋼を所望の厚みの鋳片に鋳造できるので、鋳片の歩留まりの低下を抑制することができる。さらに、本発明の連続鋳造装置によれば、長辺壁可動部が窪み部に収容された状態で、短辺壁が鋳型の幅方向に移動できるので、鋳造できる鋳片の幅の自由度を大きくすることができる。
【0014】
前記窪み部と前記長辺壁可動部が前記片方の長辺壁にのみ設けられている場合において、前記浸漬ノズルは前記鋳型の厚み方向に移動自在に構成されていてもよい。また、前記窪み部と前記長辺壁可動部が前記片方の長辺壁にのみ設けられている場合において、前記浸漬ノズルはタンディッシュに接続され、前記タンディッシュは前記浸漬ノズルと共に前記鋳型の厚み方向に移動自在に構成されていてもよい。
【0015】
別な観点による本発明は、前記鋼の連続鋳造装置を用いた連続鋳造方法であって、鋳型内にダミーバーを挿入する際、前記長辺壁可動部を前記浸漬ノズル側に移動させて配置し、前記ダミーバーが鋳型を通過した後、当該ダミーバーに連続して鋳型内に溶鋼が供給された状態で、前記長辺壁可動部を前記電磁攪拌装置側に移動させて前記窪み部に収容し、その後、前記短辺壁を所定の位置まで移動させることを特徴としている。なお、所定の位置とは、一対の短辺壁間の距離が鋳片の鋳造後の所望の幅となる位置である。
【0016】
また別な観点による本発明は、前記浸漬ノズルが前記鋳型の厚み方向に移動自在に構成されている、鋼の連続鋳造装置を用いた連続鋳造方法であって、鋳型内にダミーバーを挿入する際、前記長辺壁可動部を前記浸漬ノズル側に移動させて配置すると共に、前記浸漬ノズルを平面視において前記鋳型の厚み方向の中央に配置し、前記ダミーバーが鋳型を通過した後、当該ダミーバーに連続して鋳型内に溶鋼が供給された状態で、前記長辺壁可動部を前記電磁攪拌装置側に移動させて前記窪み部に収容すると共に、前記浸漬ノズルを前記長辺壁可動部側に移動させて平面視において前記鋳型の厚み方向の中央に配置し、その後、前記短辺壁を所定の位置まで移動させることを特徴としている。
【0017】
さらに別な観点による本発明は、前記浸漬ノズルがタンディッシュに接続され、前記タンディッシュが前記浸漬ノズルと共に前記鋳型の厚み方向に移動自在に構成されている、鋼の連続鋳造装置を用いた連続鋳造方法であって、鋳型内にダミーバーを挿入する際、前記長辺壁可動部を前記浸漬ノズル側に移動させて配置すると共に、前記浸漬ノズルを平面視において前記鋳型の厚み方向の中央に配置し、前記ダミーバーが鋳型を通過した後、当該ダミーバーに連続して鋳型内に溶鋼が供給された状態で、前記長辺壁可動部を前記電磁攪拌装置側に移動させて前記窪み部に収容すると共に、前記タンディッシュを前記長辺壁可動部側に移動させて、
前記浸漬ノズルを平面視において前記鋳型の厚み方向の中央に配置し、その後、前記短辺壁を所定の位置まで移動させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋼の連続鋳造において、鋳片の品質を向上させつつ、鋳片の歩留まりの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施の形態にかかる連続鋳造装置の構成の概略を示す説明図である。
【図2】鋳型と浸漬ノズルの構成の概略を示す横断面の説明図である。
【図3】鋳型、浸漬ノズル及びタンディッシュの構成の概略を示す縦断面の説明図である。
【図4】鋳型、浸漬ノズル及びタンディッシュの構成の概略を示す縦断面の説明図である。
【図5】浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート、流量調整用スライディングプレート、及び固定プレートの構成の概略を示す説明図である。
【図6】長辺壁可動部を浸漬ノズル側に移動させた様子を示す説明図である。
【図7】長辺壁可動部を電磁攪拌装置側に移動させて窪み部に収容すると共に、浸漬ノズルを長辺壁可動部側に移動させて鋳型内の中央に配置した様子を示す説明図である。
【図8】一対の短辺壁を浸漬ノズル側に移動させてそれぞれ所定の位置に配置した様子を示す説明図である。
【図9】他の実施の形態にかかる鋳型、浸漬ノズル及びタンディッシュの構成の概略を示す縦断面の説明図である。
【図10】他の実施の形態にかかる鋳型と浸漬ノズルの構成の概略を示す横断面の説明図である。
【図11】従来の鋳型と浸漬ノズルの構成の概略を示す横断面の説明図である。
【図12】従来の鋳型と浸漬ノズルの構成の概略を示す横断面の説明図である。
【図13】従来の連続鋳造装置の構成の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる鋼の連続鋳造装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0021】
連続鋳造設備1は、図1に示すように、溶鋼を貯留するタンディッシュ2、タンディッシュ2の底部から鋳型3に溶鋼4を注入する浸漬ノズル5、鋳型3から引き出される鋳片6を通過させる一対のロール群7、7を備えている。ロール群7には、鋳片6を案内する複数の圧下ロール8が、鋳片6の鋳造方向に並べて配置されている。各圧下ロール8はそれぞれ回転可能に設けられ、鋳片6を挟んで対向する一対の圧下ロール8、8間の距離は、当該鋳片6の所望の厚みと同じに設定されている。そして、これらの圧下ロール8によって鋳片6を挟んだ状態で支持しながら、鋳片6を所定の鋳造方向に引き出して搬送する構成となっている。なお、図示の例においては、ダミーバー9に連続して鋳片6が鋳造されている。
【0022】
鋳型3は、図2に示すように例えば一対の長辺壁10、11と一対の短辺壁12、12を備え、略長方形の水平断面形状を有している。長辺壁10、11と短辺壁12は、それぞれ内側に設けられた銅板と外側に設けられたステンレス鋼製水冷ボックスから構成されている。なお、本実施の形態において、鋳型3で鋳造される鋳片6の厚みは例えば50mm〜300mm程度である。詳細には、要求される鋳片厚みとして、薄厚の鋳片であれば50mm〜80mm程度であり、中厚の鋳片であれば80mm〜150mm程度であり、通常厚の鋳片であれば150mm〜300mm程度である。
【0023】
一対の長辺壁10、11内には、例えば電磁攪拌コイルなどの電磁攪拌装置20、20がそれぞれ設けられている。電磁攪拌装置20、20は、それぞれ長辺壁10、11の外側面10a、11aに沿って配置されている。
【0024】
片方の長辺壁10には、少なくとも浸漬ノズル5に対向する位置に、内側面10bから外側面10a側に窪んだ窪み部21が形成されている。窪み部21は、長辺壁10の鉛直方向に貫通した直方体形状を有している。また、長辺壁10は、鋳型3の厚み方向(図2中のY方向)に移動自在の長辺壁可動部22を備えている。長辺壁可動部22には例えばシリンダ等の移動機構23が設けられ、この移動機構23によって長辺壁可動部22は移動自在になっている。移動機構23は、図3に示すように、鉛直方向に例えば2基設けられている。また、長辺壁可動部22は、図2に示すように窪み部21の形状と適合する直方体形状を有している。そして、長辺壁可動部22は、窪み部21が形成されていない長辺壁10の内側面10bと段差なく窪み部21に収容される。なお、長辺壁可動部22の側面には例えばフッ素系樹脂層(例えばテフロン(デュポン社の登録商標))が設けられ、長辺壁可動部22は短辺壁12や窪み部21における長辺壁10に接しながら円滑に移動可能になっている。
【0025】
一対の短辺壁12、12は、長辺壁可動部22が窪み部21に収容された際、鋳型3の幅方向(図2中のX方向)に移動自在に構成されている。一対の短辺壁12、12には例えばシリンダ等の移動機構24、24がそれぞれ設けられ、この移動機構24によって短辺壁12は移動自在になっている。移動機構24は、図4に示すように鉛直方向に例えば2つ設けられている。なお、短辺壁12の側面には例えばフッ素系樹脂層(例えばテフロン(デュポン社の登録商標))が設けられ、短辺壁12は長辺壁10、11や長辺壁可動部22に接しながら円滑に移動可能になっている。
【0026】
鋳型3内の上部には、図3及び図4に示すようにタンディッシュ2の底部に連通する浸漬ノズル5が設けられている。浸漬ノズル5の上部には、浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート30と流量調整用スライディングプレート31と固定プレート32とが浸漬ノズル5側からこの順で設けられている。浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート30と流量調整用スライディングプレート31は固定プレート32に対して水平方向に移動可能に構成され、この浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート30によって浸漬ノズル5は鋳型3の厚み方向(図3中のY方向)に移動自在になっている。図5に示すように、浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート30と流量調整用スライディングプレート31と固定プレート32には、それぞれ厚み方向に貫通する貫通孔30a、31a、32aが形成されている。具体的には、固定プレート32には浸漬ノズル5の移動範囲に対応した長さ(図5のY方向)の長孔形状の貫通孔32aが形成されている。また、浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート30と流量調整用スライディングプレート31には、貫通孔32aよりも短い長さ(図5のY方向)の貫通孔30a、31aがそれぞれ形成されている。そして、先ず、浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート30を移動させて所望の位置に配置し、その後、流量調整用スライディングプレート31を移動させることで、タンディッシュ2と浸漬ノズル5との間の開口面積を調整することができる。これにより、浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート30と流量調整用スライディングプレート31と固定プレート32内において、溶鋼4の流量を調整しながら当該溶鋼4が流通できるようになっている。
【0027】
浸漬ノズル5の下部は、図3及び図4に示すように鋳型3内の溶鋼4に浸漬している。浸漬ノズル5の側面の下端近傍には、鋳型3内へ斜め下向きに溶鋼4を吐出する吐出孔40が2箇所形成されている。吐出孔40、40は、鋳型3の短辺壁12側に形成されている。吐出孔40から吐出される吐出流41は、例えば後述する鋳型3の短辺壁12に形成された凝固シェル42に衝突し、上昇流43と下降流に分岐する。吐出流41には、アルミナやスラグ系等の介在物44などが含まれている。介在物44は、例えば上昇流43等によってメニスカス45近傍まで浮上する。なお、メニスカス45上には、溶融酸化物を有する溶融パウダー46が供給されている。
【0028】
鋳型3の内側面には、図3及び図4に示すように溶鋼4が冷却されて凝固した凝固シェル42が形成されている。
【0029】
本実施の形態にかかる連続鋳造装置1は以上のように構成されている。次にこの連続鋳造装置1を用いた溶鋼4の連続鋳造方法について説明する。
【0030】
先ず、図6に示すように長辺壁可動部22を浸漬ノズル5側に移動させて配置すると共に、浸漬ノズル5を平面視において鋳型3の厚み方向の中央に配置する。このとき、長辺壁可動部22と長辺壁11との間の距離Dは、ダミーバー9の厚みと同じ長さに設定されている。そして、鋳型3内にダミーバー9を挿入する。
【0031】
その後、ダミーバー9が鋳型3を通過した後、ダミーバー9に連続して鋳型3内に溶鋼4が供給された状態で、図7に示すように長辺壁可動部22を電磁攪拌装置20側に移動させて窪み部21に収容すると共に、浸漬ノズル5を長辺壁可動部22側に移動させて平面視において鋳型3の厚み方向の中央に配置する。そして、長辺壁可動部22と長辺壁11との間の距離Dを上記距離Dよりも長くする。続いて、図8に示すように一対の短辺壁12、12を例えば浸漬ノズル5側に移動させて、それぞれ所定の位置に配置する。そして、一対の短辺壁12、12間の距離Wは、溶鋼4の所望の幅、すなわち鋳造される鋳片6の所望の幅となる。
【0032】
このとき、図4に示したように浸漬ノズル5の吐出口40から鋳型3内に吐出される溶鋼4は、斜め下方に吐出され、吐出孔40から鋳型3の短辺壁12に向かって吐出流41が形成される。吐出流41には介在物44が含まれており、介在物44は例えば上述した上昇流43等によってメニスカス45近傍まで浮上する。
【0033】
また、浸漬ノズル5から溶鋼4を吐出すると同時に、電磁攪拌装置20、20を作動させる。これら電磁攪拌装置20、20を作動させることによって、図8に示すように鋳型3内のメニスカス45近傍の溶鋼4が水平面内で攪拌され、一方向の旋回流50が形成される。このとき、長辺壁可動部22を窪み部21に収容して、長辺壁可動部22及び長辺壁11と浸漬ノズル5との間の領域51を広くできるので、この領域51を流れる旋回流50の流路を十分に確保することができる。したがって、領域51において、旋回流50の流れが停滞しない。また、領域51が広く当該領域51を溶鋼4が直線的に流れるため、従来の異型鋳型を用いた場合と異なり、旋回流50の乱れも生じない。そして、メニスカス45近傍まで浮上した介在物44は、旋回流50によって鋳型3内を水平面内で旋回し、鋳型3の凝固シェル42に捕捉されることなく、例えばメニスカス45上の溶融パウダー46に取り込まれて除去される。
【0034】
その後、介在物44が除去された溶鋼4は、固化して鋳型3から引き出され鋳片6に鋳造される。鋳型3から引き出された鋳片6は、一対のロール群7、7を通過して所望の厚みとなる。したがって、ダミーバー9に連続する鋳片6はすべて所望の厚みで鋳造される。
【0035】
以上の実施の形態によれば、鋳型3内にダミーバー9を挿入する際、長辺壁可動部22を浸漬ノズル5側に移動させて配置し、ダミーバー9が鋳型3を通過した後、当該ダミーバー9に連続して鋳型3内に溶鋼4が供給された状態で、長辺壁可動部22を電磁攪拌装置20側に移動させて窪み部21に収容できる。このように長辺壁可動部22を窪み部21に収容して、溶鋼4の鋳造中に長辺壁可動部22又は長辺壁11と浸漬ノズル5との間の領域51を広くできるので、この領域51を流れる旋回流50の流路を確保することができる。したがって、鋳型3内の上部の介在物44が鋳型3の側面の凝固シェル42に捕捉されるのを抑制でき、鋳造される鋳片6の品質を向上させることができる。
【0036】
また、長辺壁可動部22の移動に伴い、浸漬ノズル5は鋳型3の厚み方向に移動自在に構成されているので、浸漬ノズル5も鋳型3内の中央に配置することができる。これによって、長辺壁可動部22と浸漬ノズル5との間の領域51と、長辺壁11と浸漬ノズル5との間の領域51を均等に広くすることができる。したがって、これら領域51を流れる旋回流50の流路を十分に確保することができる。
【0037】
また、ダミーバー9の厚みは鋳片6の鋳造後の所望の厚みであるので、鋳型3の下流側に複数配置された一対の圧下ロール8、8の距離を当該所望の厚みと同じ長さにできる。したがって、ダミーバー9が鋳型3を通過した後、当該ダミーバー9に連続して鋳型3内に溶鋼4が供給された状態で、長辺壁可動部22を窪み部21に収容して鋳型3内の溶鋼4の厚みを所望の厚みより厚くしても、その後圧下ロール8、8を通過する際に鋳片6の厚みを所望の厚みにできる。このようにダミーバー9に連続して供給されたすべての溶鋼4を所望の厚みの鋳片6に鋳造できるので、鋳片6の歩留まりの低下を抑制することができる。
【0038】
また、長辺壁可動部22を窪み部21に収容した状態で、短辺壁12、12が所定の位置まで移動できるので、鋳造できる鋳片6の幅の自由度を大きくすることができる。
【0039】
以上の実施の形態では、浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート30と流量調整用スライディングプレート31と固定プレート32によって浸漬ノズル5自体が鋳型3の厚み方向に移動自在になっていたが、図9に示すように浸漬ノズル5をタンディッシュ2に固定し、タンディッシュ2を浸漬ノズル5と共に移動させてもよい。かかる場合、タンディッシュ2には、当該タンディッシュ2を鋳型3の厚み方向に移動させるための移動機構60が設けられる。この移動機構60には、例えばアクチュエータが用いられる。そして、鋳型3内にダミーバーを挿入する際、長辺壁可動部22を浸漬ノズル5側に移動させて配置すると共に、浸漬ノズル5を平面視において鋳型3の厚み方向の中央に配置する。その後、ダミーバーが鋳型3を通過した後、当該ダミーバーに連続して鋳型3内に溶鋼4が供給された状態で、長辺壁可動部22を電磁攪拌装置20側に移動させて窪み部21に収容すると共に、タンディッシュ2を長辺壁可動部22側に移動させて、浸漬ノズル5を平面視において鋳型3の厚み方向の中央に配置する。その後、一対の短辺壁12、12所定の位置まで移動させる。本実施の形態においても、長辺壁可動部22の移動に伴い、浸漬ノズル5が鋳型3の厚み方向に移動できるので、浸漬ノズル5も鋳型3内の中央に配置することができる。これによって、長辺壁可動部22と浸漬ノズル5との間の領域51と、長辺壁11と浸漬ノズル5との間の領域51を均等に広くすることができ、これら領域51を流れる旋回流50の流路を十分に確保することができる。
【0040】
以上の実施の形態では、窪み部21、長辺壁可動部22及び移動機構23は、片方の長辺壁10にのみ設けられていたが、図10に示すように一対の長辺壁10、11にそれぞれ設けられていてもよい。なお、長辺壁11に設けられる窪み部21、長辺壁可動部22及び移動機構23の構成は、上述した長辺壁10の窪み部21、長辺壁可動部22及び移動機構23の構成と同様であるので説明を省略する。かかる場合、長辺壁可動部22、22間の距離の自由度がさらに大きくなるので、長辺壁可動部22と浸漬ノズル5との間の領域51をより確実に広くすることができる。したがって、鋳型3内の上部の介在物44が鋳型3の側面の凝固シェル42に捕捉されるのを確実に抑制でき、鋳造される鋳片6の品質をさらに向上させることができる。
【0041】
なお、以上の実施の形態の電磁攪拌装置20、20は、長辺壁10、11内にそれぞれ設けられていたが、長辺壁10、11の外側にそれぞれ設けてもよい。また、長辺壁可動部22と同期して移動できる様に、例えば、長辺壁可動部22と電磁攪拌装置20が一体となった構造としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、鋳型内に溶鋼を供給して鋳片を製造する際に有用である。
【符号の説明】
【0043】
1 連続鋳造装置
2 タンディッシュ
3 鋳型
4 溶鋼
5 浸漬ノズル
6 鋳片
7 ロール群
8 圧下ロール
9 ダミーバー
10、11 長辺壁
10a、11a 外側面
10b 内側面
12 短辺壁
20 電磁攪拌装置
21 窪み部
22 長辺壁可動部
23 移動機構
24 移動機構
30 浸漬ノズル位置調整用スライディングプレート
30a 貫通孔
31 流量調整用スライディングプレート
31a 貫通孔
32 固定プレート
32a 貫通孔
40 吐出孔
41 吐出流
42 凝固シェル
43 上昇流
44 介在物
45 メニスカス
46 溶融パウダー
50 旋回流
51 領域
60 移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造装置であって、
一対の長辺壁と一対の短辺壁を備えた溶鋼鋳造用の鋳型と、
前記鋳型内に溶鋼を吐出する浸漬ノズルと、
前記一対の長辺壁の外側面に沿って配置され、前記鋳型内の上部の溶鋼を攪拌する電磁攪拌装置と、を有し、
少なくとも片方の前記長辺壁は、少なくとも前記浸漬ノズルに対向する位置に内側面から外側面側に窪んだ窪み部と、前記窪み部に適合する形状を有し、且つ前記鋳型の厚み方向に移動自在の長辺壁可動部とを備え、
前記一対の短辺壁は、前記長辺壁可動部が前記窪み部に収容された際、前記鋳型の幅方向に移動自在にそれぞれ構成されていることを特徴とする、鋼の連続鋳造装置。
【請求項2】
前記窪み部と前記長辺壁可動部は、前記片方の長辺壁にのみ設けられ、
前記浸漬ノズルは前記鋳型の厚み方向に移動自在に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造装置。
【請求項3】
前記窪み部と前記長辺壁可動部は、前記片方の長辺壁にのみ設けられ、
前記浸漬ノズルはタンディッシュに接続され、
前記タンディッシュは前記浸漬ノズルと共に前記鋳型の厚み方向に移動自在に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造装置。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかに記載の鋼の連続鋳造装置を用いた連続鋳造方法であって、
鋳型内にダミーバーを挿入する際、前記長辺壁可動部を前記浸漬ノズル側に移動させて配置し、
前記ダミーバーが鋳型を通過した後、当該ダミーバーに連続して鋳型内に溶鋼が供給された状態で、前記長辺壁可動部を前記電磁攪拌装置側に移動させて前記窪み部に収容し、その後、前記短辺壁を所定の位置まで移動させることを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
【請求項5】
前記請求項2に記載の鋼の連続鋳造装置を用いた連続鋳造方法であって、
鋳型内にダミーバーを挿入する際、前記長辺壁可動部を前記浸漬ノズル側に移動させて配置すると共に、前記浸漬ノズルを平面視において前記鋳型の厚み方向の中央に配置し、
前記ダミーバーが鋳型を通過した後、当該ダミーバーに連続して鋳型内に溶鋼が供給された状態で、前記長辺壁可動部を前記電磁攪拌装置側に移動させて前記窪み部に収容すると共に、前記浸漬ノズルを前記長辺壁可動部側に移動させて平面視において前記鋳型の厚み方向の中央に配置し、その後、前記短辺壁を所定の位置まで移動させることを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
【請求項6】
前記請求項3に記載の鋼の連続鋳造装置を用いた連続鋳造方法であって、
鋳型内にダミーバーを挿入する際、前記長辺壁可動部を前記浸漬ノズル側に移動させて配置すると共に、前記浸漬ノズルを平面視において前記鋳型の厚み方向の中央に配置し、
前記ダミーバーが鋳型を通過した後、当該ダミーバーに連続して鋳型内に溶鋼が供給された状態で、前記長辺壁可動部を前記電磁攪拌装置側に移動させて前記窪み部に収容すると共に、前記タンディッシュを前記長辺壁可動部側に移動させて、
前記浸漬ノズルを平面視において前記鋳型の厚み方向の中央に配置し、その後、前記短辺壁を所定の位置まで移動させることを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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