説明

鋼床版補修用モルタル複合材料

【課題】 鋼床版舗装におけるコンクリートのひび割れを分散させ、コンクリート中に含まれる潜在水硬性によってひび割れ部に水硬性水和物を有効に充填することができ、鋼床版に腐食をもたらす水などの液体及び酸素・二酸化炭素などの気体の侵入を防ぐことができる、いわゆるひび割れ自己修復機能有する、鋼床版補修用コンクリート複合材を提供する。
【解決手段】 鋼床版補修用モルタル複合材料は、セメント、細骨材および補強繊維を必須成分とし、かつ、ブレーン比表面積が500〜2000cm/gのセメント粗粉及び/又はブレーン比表面積が500〜3000cm/gの高炉スラグ粗粉及び/又はJIS A 5011に規定される高炉スラグ細骨材であってJIS篩0.6mm全通に粒度調整されたものを含む、繊維補強高靭性セメント複合材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼床版補修用モルタル複合材料に関し、特に、鋼床版の疲労亀裂補強に用いられる自己修復機能を有する鋼床版補修用モルタル複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重交通下におけるグースアスファルト舗装を施された鋼床版では、グースアスファルトの剛性が小さいので鋼床版上面の部材変形により、Uリブなどの部材に面外変形や面内応力が発生し、この面外挙動が原因となって鋼床版下面とUリブなどの部材接合部において疲労亀裂が生じやすく、特にこの現象は、グースアスファルトが軟化し剛性が低下する夏期において顕著となる。
したがって、補強プレートの設置工事などの応急補修を頻繁に行わないと、グースアスファルト舗装を施された鋼床版は供用に支障を来たすことが明らかになってきた。
しかも、補強プレートの設置工事などの応急補修は、その工事の都度に夜間通行止めか片側車線規制などの交通規制を行う必要があり、幹線道路では交通渋滞を招くため、恒久対策工法の確立が必要となっている。
【0003】
恒久対策工法として、鋼床版上面厚さの増加、疲労設計を配慮した溶接仕上げの精度向上、及び繊維補強モルタル又は高靭性セメント複合材料による鋼床版との一体化などが挙げられる。
しかしながら、鋼床版上面厚さの増加、及び疲労設計を配慮した溶接仕上げの精度向上などの対策は、鋼床版上面の下にUリブ材が溶接されている鋼床版において、供用下にあっては採用が不可能である。
【0004】
一方、繊維補強コンクリートによる鋼床版との一体化は、グースアスファルトに替えて剛性が大きくまた変形抑制効果が大きいモルタルを、鋼床版上面に接着剤により一体化させるものであり、供用下にある鋼床版において適用できる効果的な補修工法といえる。
ここで、対象とする高靭性セメント複合材料は場所打ちではなく、製品工場で予め製造されたプレキャスト部材であり、供用下に鋼床下は交通渋滞を避けるために、補修工事に要する時間の制約を受けることになるので、硬化速度が速い樹脂系の接着剤と組み合わせて用いる必要がある。
【0005】
高靭性セメント複合材料による鋼床版の補強効果は、鋼床版とグースアスファルトに替えて打込まれる高靭性セメント複合材料が、接着剤によって一体化されることによって初めて補強効果が発揮される。
【0006】
また、接着剤による鋼床版と高靭性セメント複合材料との付着強度は、鋼床版の上面の状況、接着剤と高靭性セメント複合材料との材料特性の相互作用、あるいは温度や湿度などの環境条件の影響も極めて敏感に受けるため、事前に現場条件を再現した試験体等を使用して測定確認する必要がある。
そのため、本発明者らは「付着試験方法及びそれに用いる付着試験用用具」の特許出願を行った(特願2005−100705)。
更に、工事現場における接着剤の管理方法として「接着剤の可使時間決定方法」の特許出願を行った(特願2006−60097)。
【0007】
このように、近年、高靭性セメント複合材料による鋼床版疲労亀裂の補強工法が確立されてきている。
しかしながら、高靭性セメント複合材料は、舗装面として直接輪荷重を支持するので、その引張強度を上回る大きな応力が作用する。
また、高靭性セメント複合材料は、材料及び配合面からモルタルの体積変化を小さく抑えるような配慮がなされているが、実際は、その厚さが約50〜70mm程度と比較的薄く、接着剤及びジベルによって約12mm程度の鋼床版と一体化されているので、わずかな体積変化が生じても拘束の程度が大きいだけに、体積変化に起因するひび割れが発生しやすい。
【0008】
また、鋼床版の熱拡散係数が高靭性セメント複合材料の熱拡散係数よりも大きいので、外気温度・日射により温度変化が生じやすく、接着剤によって鋼床版に一体化された高靭性セメント複合材料では鋼床版との変形量の差によっても拘束を受けることとなり、ひび割れが発生しやすいといえる。
【0009】
補強された高靭性セメント複合材料にひび割れが発生すると、水などの液体、酸素・二酸化炭素などの気体など鋼床版に腐食をもたらす因子の侵入を許すことになり、鋼床版の耐久性の低下を招く。
これを防ぐには、ひび割れ部を樹脂などで充填する必要があるが、供用下にある鋼床版において交通規制を行って前述のひび割れ充填などの補修を行う必要があるため、交通渋滞及びそれに伴う周辺環境の悪化などの市民生活への悪影響が避けがたい。
また、ひび割れ充填材の種類によってはそれ自体が収縮し、ひび割れ部を塞いでも、その近傍において新たなひび割れを誘発するおそれがある。
【0010】
ひび割れの自己修復機能材料として、特開平9−86983号公報には、骨材としてその少なくとも一部に未水和のセメントクリンカーを含むひび割れ自己修復性水和硬化物が、特開平11−217251号公報には、セメント、骨材、水及び各種混和材を混練したコンクリートであって、該骨材に替えて、当該骨材と粒度分布がほぼ類似したクリンカーが含まれているコンクリートが開示されている。
更には、特開2003−267765号公報には、水、セメント、骨材、膨張材を含むように配合され、打込み後に硬化した時点において、セメントを含む粉体の未反応部分が残存するように構成したコンクリートが、特開2003−26460号公報には、セメント等の隙間充填用材料を、各種樹脂や植物性または動物性細胞膜等の割裂性材料にて被包した粒状体よりなる水和硬化体用混和材料が提案されている。
【0011】
しかしながら、上記コンクリートは、鋼床版舗装のように直接輪荷重の繰り返しを受ける過酷な条件下においては、体積変化又は輪荷重の繰り返しによって発生するコンクリートのひび割れ幅を有効に制御することが困難であり、鋼床版舗装用のコンクリートとして用いても、ひび割れに対する自己修復機能を効果的に発揮することは困難である。
【特許文献1】特開平9−86983号公報
【特許文献2】特開平11−217251号公報
【特許文献3】特開2003−267765号公報
【特許文献4】特開2003−26460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述した問題を解決するためになされたものであり、特に、鋼床版舗装におけるモルタルのひび割れを分散させ、モルタル中に含まれる潜在水硬性によってひび割れ部に水硬性水和物を有効に充填することができ、鋼床版に腐食をもたらす水などの液体及び酸素・二酸化炭素などの気体の侵入を防ぐことができる、いわゆるひび割れ自己修復機能を有する、高靭性セメント複合材料からなる鋼床版補修用モルタル複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、ブレーン比表面積が500〜2000cm/gのセメント粗粉及び/又はブレーン比表面積が500〜3000cm/gの高炉スラグ粗粉及び/又はJIS A 5011に規定される高炉スラグ細骨材であってJIS篩0.6mm全通に粒度調整されたものを含む、繊維補強高靭性セメント複合材料からなることを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料である。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の鋼床版補修用モルタル複合材料において、前記セメント粗粉、高炉スラグ粗粉及び高炉スラグ細骨材を、繊維補強高靭性セメント複合材料に用いる汎用細骨材の一部と代替して用いることを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料である。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項2記載の鋼床版補修用モルタル複合材料において、モルタル1mあたり300〜600kg配合する汎用モルタル用細骨材の30〜60質量%を上記セメント粗粉または高炉スラグ粗粉に、及び/又は、該汎用モルタル用細骨材の30〜70質量%を上記高炉スラグ細骨材に代替することを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料である。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3いずれかの項に記載した鋼床版補修用モルタル複合材料において、前記補強繊維は、鋼繊維、ステンレス繊維、ガラス繊維、炭素繊維及び合成繊維の少なくとも1種類以上であることを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料である。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の鋼床版補修用モルタル複合材料において、有機補強繊維は、補強繊維のモノフィラメントをサイジング処理した繊維束であることを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料である。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項3又は4記載の鋼床版補修用モルタル複合材料において、更に、上記汎用モルタル細骨材の4〜8質量%を人工軽量骨材及び/又は吸水性ポリマーに代替することを特徴とする、鋼床版補修用コンクリート複合材料である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の鋼床版補修用モルタル複合材料は、高靭性セメント複合材料が有するひび割れ分散効果、及び粗粉のセメントの長期にわたる水硬性または粗粉の高炉スラグの長期にわたる潜在水硬性、若しくは高炉スラグ細骨材などの潜在水硬性によって、舗装面として直接輪荷重を支持するため荷重による応力に起因するひび割れや、日射や乾燥収縮に影響を直接受けて体積変化に起因するひび割れ発生した場合でも、ひび割れ幅を極力小さく抑制して分散することができるため、ひび割れ部に水和物が充填され、鋼床版に腐食をもたらす水などの液体、及び酸素・二酸化炭素などの気体の侵入を防ぎ、いわゆるひび割れ自己修復機能を十分に発揮させることが可能となる。
【0020】
また、請求項5記載の鋼床版補修用モルタル複合材料は、上記効果に加えて、ひび割れ幅を微細な幅となるように有効に制御することが可能となる。
特に、請求項6記載の鋼床版補修用モルタル複合材料は、上記効果に加えて、補修後に水の供給がない場合であっても、ひび割れ自己修復機能を発現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を以下の好適例を挙げて説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の鋼床版補修用モルタル複合材料は、セメント、細骨材および補強繊維を必須成分とし、かつ、ブレーン比表面積が500〜2000cm/gのセメント粗粉及び/又はブレーン比表面積が500〜3000cm/gの高炉スラグ粗粉及び/又はJIS A 5011に規定される高炉スラグ細骨材であってJIS篩0.6mm全通に粒度調整したものを含む、繊維補強高靭性セメント複合材料からなるものである。
【0022】
このように、ブレーン比表面積が500〜2000cm/gのセメント粗粉及び/又はブレーン比表面積が500〜3000cm/gの高炉スラグ粗粉及び/又はJIS A 5011に規定される高炉スラグ細骨材であって上記粒度調整されたものを含む構成とすることにより、これらの潜在水硬性によって、ひび割れ部に水和物が充填され、鋼床版に腐食をもたらす水などの液体、及び酸素・二酸化炭素などの気体の侵入を防ぎ、いわゆるひび割れ自己修復機能を十分に発揮させることができる。
また、このような高靭性セメント複合材料を用いることで、ひび割れ幅を微細とし、ひび割れ分散効果を呈することができる。
【0023】
本発明の高靭性セメント複合材料に使用されるセメントとしては、セメントの種類は特に限定されず、例えばJIS R 5201に規定される普通、早強、中庸熱、低熱及び超早強等の各種ポルトランドセメント、これらの各種ポルトランドセメントに、フライアッシュを混合したフライアッシュセメント(JIS R 5213)や、高炉スラグ等を混合した高炉セメント(JIS R 5211)等の各種混合セメント、超早硬セメントなどを、単独または2種以上で用いることができ、これらのセメントのブレーン比表面積は3250〜7000cm/gである。
【0024】
特に、現場打ちに用いる場合、工期の短縮を図るためには、超速硬セメントを用いることが好適である。
本発明に用いられる超速硬セメントは、エトリンガイトの急速な生成を利用したもので、「1クリンカータイプ」と「2クリンカータイプ」に分類される。
「1クリンカータイプ」の超速硬セメントは、超速硬成分であるカルシウムアルミネートを11CaO・7Al・CaFとして、クリンカー中でエーライトと共存させ、これにII型無水石こうと少量の添加物を混合して製造される。
これに対して、「2クリンカータイプ」の超速硬セメントは、超速硬成分であるカルシウムアルミネートを単独で製造し、これにJIS R 5210規定されるポルトランドセメントと石こう・その他を適量混合したものである。
【0025】
また、上記セメントには、JIS A 6201に規定されたフライアッシュ、JIS A 6207に規定されたシリカヒューム、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、無水石膏などの公知の混和材を添加することができる。
【0026】
本発明のモルタルに配合される汎用モルタル用細骨材としては、JIS A 5005に規定された砕砂(石灰石起源を含む)、JIS A 5308 附属書1に規定された川砂、海砂、山砂、3〜8号珪砂等の汎用細骨材を使用することができるが、特に珪砂7号が好適に使用できる。
その配合割合は、通常、モルタル1mあたり300〜600kg、好ましくは、400〜500kgとすることが望ましい。
【0027】
本発明においては、ブレーン比表面積が500〜2000cm/gのセメント粗粉及び/又はブレーン比表面積が500〜3000cm/gの高炉スラグ粗粉及び/又はJIS A 5011に規定される高炉スラグ細骨材であってJIS篩0.6mm全通に粒度調整したものを、望ましくは、上記汎用モルタル用細骨材の30〜60質量%、好ましくは40〜50質量%を上記セメント粗粉または高炉スラグ粗粉に、及び/又は、該汎用細骨材の30〜70質量%、望ましくは35〜60質量%を上記高炉スラグ細骨材に置換して用いる。
【0028】
また、ここで、ブレーン比表面積が500〜2000cm/gのセメント粗粉は平均粒径が50μm程度であり、また、ブレーン比表面積が500〜3000cm/gの高炉スラグ粗粉は平均粒径が25μm程度であることが、本発明の効果を奏する上で更に望ましい。
本発明において平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、0.9、1.4、1.9、2.8、3.9、5.5、7.8、11.0、16.0、22.0、31.0、44.0、62.0、88.0、125.0、176.0、250.0、350.0、500.0、700.0μmの各粒径における頻度を測定し、累計加積曲線を描き、累積頻度50%の粒径として求めたものである。
また、ブレーン比表面積は、JIS R 5201の7.に規定されているブレーン空気透過装置を用いて測定した値である。
また、該セメント粗粉の密度は好ましくは3.10〜3.25g/cmの範囲であり、より好ましくは3.13〜3.28g/cmである。
本件発明における密度とは真密度を意味し、その測定方法はJIS R 5201の1.に規定されているルシャテリエフラスコを用いた密度試験である。
【0029】
このように、ブレーン比表面積が500〜2000cm/gのセメント粗粉及び/又はブレーン比表面積が500〜3000cm/gの高炉スラグ粗粉及び/又はJIS A 5011に規定される高炉スラグ細骨材であってJIS篩0.6mm全通に粒度調整したものを配合することにより、高靭性セメント複合材料において荷重による応力、またはモルタルの体積変化に起因するひび割れが発生しても、高靭性セメント複合材料中に含まれる粗粉のセメントの長期にわたる水硬性または粗粉の高炉スラグの長期にわたる潜在水硬性、若しくは高炉スラグ細骨材などの微弱な潜在水硬性によってひび割れ部に水和物が充填され、鋼床版に腐食をもたらす水などの液体及び酸素・二酸化炭素などの気体の侵入を防ぐ、いわゆるひび割れ自己修復機能を有する鋼床版補修用モルタル複合材を提供することができる。
【0030】
更に、本発明においては、いわゆるひび割れの自己修復機能を有する材料に外部よりの水の供給がない場合、高靭性セメント複合材料に予め含まれて水を供給する機能を有するように、上記汎用モルタル用細骨材の2〜10質量%、好ましくは4〜8質量%を、人工軽量骨材及び吸水性ポリマーに置換して配合する。
【0031】
かかる人工軽量材としては、JIS A 5002に規定される構造用軽量コンクリート骨材の種類のうち人工軽量骨材等が例示でき、また吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体塩からなるポリマー、ポリビニルアルコール+ポリアクリル酸塩、イソブチレン+マレイン酸塩、デンプン+ポリアクリル酸塩、架橋カルボキシメチルセルロース等を例示することができる。
【0032】
例えば、雨水等、外部よりの水の供給がほとんど期待できないダブルデッキ構造の橋梁形式の下段床版において、Self‐Curing作用が期待できる人工軽量骨材及び吸水性ポリマーを、汎用モルタル用細骨材の4〜8質量%を置換して使用するのがよい。
上記のSelf‐Curing作用を期待する材料は、コンクリートの練り混ぜ時に水又は収縮低減剤を含む水溶液で飽和させるものとする。
ここで、収縮低減剤を含む水溶液によりSelf‐Curing作用を期待する材料を飽和させると、ひび割れ発生時の負圧により水溶液が水と同様にひび割れ面に供給され、自己修復機能を有する材料の水和を促進するだけでなく、収縮低減剤の有する収縮低減作用(毛細管力の低減)がひび割れ面に作用し、乾燥収縮によるひび割れ幅の増大を抑制する。
【0033】
このように、人工軽量材や吸水性ポリマーを配合することで、ひび割れ発生後において、いわゆるひび割れの自己修復機能を有する材料に外部よりの水の供給がない場合であっても、高靭性セメント複合材料に予め含まれて水を供給する人工軽量骨材及び吸水性ポリマーからの水を活用して自己修復機能を有効に実現させることができる。
【0034】
更に、本発明に用いる高靭性セメント複合材料には、補強繊維が含まれる。
該補強繊維のうち、特に有機補強繊維は、補強繊維のモノフィラメントをサイジング処理した繊維束であることが好ましい。
このような補強繊維を含み、当該補強繊維の繊維の種類、量、アスペクト比を変化させて適性に組み合わせることによって、得られるモルタル複合材のひび割れ幅を微細とし、ひび割れ分散効果を呈することが、より効果的に達成できる。
【0035】
このような繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、ガラス繊維、耐アルカリガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維等の合成繊維が例示でき、少なくとも1種以上を用いることができる。
かかる補強繊維を含むことにより、更にひび割れ抵抗性が向上する材料になる。
【0036】
また、複数微細ひび割れ挙動と引張ひずみ硬化挙動を示す高靭性セメント複合材料は、2%程度以下の容積繊維混入量を有することが望ましく、鋼繊維では直径0.1〜0.25mm程度、長さ10mm程度、有機系繊維では直径0.01〜0.04mm程度、アスペクト比が100以上のものが好適に使用される。
【0037】
なお、引張ひずみ硬化挙動を得るためには、マトリックスの引張強度が繊維の架橋応力の最大値を上回らず、かつマトリックスのひび割れの進展に必要なエネルギー(Jtip)が、架橋応力−ひび割れ開口変位曲線(数1)から求められるコンプリメンタリーエネルギー(J’)を上回らないことが一般的な条件となり、このことは下記式1及び式2(数2)を満足させることである。
【0038】
【数1】

【0039】
【数2】

【0040】
また本発明に用いる繊維補強高靭性セメント複合材料には、JIS A 6202に規定された膨張材、乾燥収縮低減剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、増粘剤、JIS A 6205に規定された防錆剤、防凍剤、着色剤等の各種の添加剤を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することができる。
【0041】
本発明のモルタル複合材料は、上記材料を適量な水とを添加して混練するが、水は、セメント等の硬化に悪影響を及ぼす成分を含有していなければ、水道水や地下水、河川水等の水を用いることができ、例えば、「JIS A 5308 付属書9 レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水」に適合するものが好ましいが、混和剤に含まれる水を用いることも可能である。
当該水の量は、水/セメント質量比が、0.3〜0.5、好ましくは0.35〜0.45となるように添加調整することが、上記効果をより有効に発現させるために好ましい。
【0042】
本発明のモルタル複合材料は、それぞれの材料を施工時に混合しても、予め一部を混合してもかまわないが、予め粉末成分を混合した材料と水とを混合することが、施工現場での計量手間や計量ミスをなくす点で好ましい。
水以外の粉末成分等を予め混合する装置としては、均一に混合できるものであれば特に限定されず、既存の任意の装置を使用でき、例えば、ヘンシェルミキサー、オムニミキサー、V型ミキサーやナウターミキサー等が挙げられる。
【0043】
このようにして、ひび割れ幅が0.1mm以下と微細になるように制御可能なモルタル複合材料を、鋼床版と接着剤の付着力により一体化し、鋼床版とUリブ付け根から発生する疲労亀裂の進展を阻止し補強する鋼床版の補修用に適用することができる。
補修方法毎の適用形態としては、現場打ち用の材料とする場合、補修個所を適切な寸法に分割してプレキャスト化して施工する際のプレキャスト部材用の材料とする場合いずれも可能である。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の繊維補強高靭性セメント複合材料からなる鋼床版補修用モルタル複合材料について、比較をしながら説明する。
【0045】
(1)使用材料
以下の実施例及び比較例に用いた高靭性セメント複合材料を構成する各材料を表1及び表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
(2)補修用モルタル複合材料の調製
各補修用モルタル複合材料の調製は、以下のとおりである。
・比較例1(補修用モルタル複合材料1の調製)
上記表1の有機系繊維を1.0容積%、超速硬セメント1020kg/m、珪砂7号(細骨材)430kg/m、減水剤20.4kg/m、凝結遅延剤5.1kg/m(外割)を均一に撹拌混合して、高靭性セメント複合材料1を調製し、該高靭性セメント複合材料1に水を459kg/m配合して均一に撹拌混合し、補修用モルタル複合材料1を得た。
当該補修用モルタル複合材料1は、ひび割れの自己修復機能を有さない比較対象例に相当する。
【0049】
・実施例1〜6(補修用モルタル複合材料2〜7の調製)
前記高靭性セメント複合材料1中の珪砂7号(細骨材)の40質量%をそれぞれセメント粗粉又は高炉スラグ粗粉に置換配合した高靭性セメント複合材料2〜3、前記高靭性セメント複合材料1中の珪砂7号(細骨材)の10質量%をセメント粗粉にかつ当該珪砂7号(細骨材)の50質量%を高炉スラグ細骨材に置換配合した高靭性セメント複合材料4をそれぞれ調製し、該高靭性セメント複合材料2〜4に水を459kg/m配合して均一に撹拌混合し、補修用モルタル複合材料2〜4を得た。
【0050】
また、前記高靭性セメント複合材料1中の珪砂7号(細骨材)の40質量%をそれぞれセメント粗粉又は高炉スラグ粗粉に置換配合し、更に珪砂7号(細骨材)の5質量%を、表1に示す収縮低減剤を50質量%濃度に調整した水溶液で飽和させた平均粒径が0.6mm以下の人口細骨材に置換配合した高靭性セメント複合材料5〜6、前記高靭性セメント複合材料1中の珪砂7号(細骨材)の10質量%をセメント粗粉にかつ当該珪砂7号(細骨材)の50質量%を高炉スラグ細骨材に置換配合し、更に珪砂7号(細骨材)の5質量%を、表1に示す収縮低減剤を50質量%濃度に調整した水溶液で飽和させた平均粒径が0.6mm以下の人口細骨材に置換配合した、高靭性セメント複合材料7をそれぞれ調製し、該高靭性セメント複合材料5〜7に水を459kg/m配合して均一に撹拌混合し、補修用モルタル複合材料5〜7を得た。
これらの補修用モルタル2〜7は、セメント粗粉、高炉スラグ粗粉及び高炉スラグ細骨材等を含み、モルタルに自己修復作用を付与するものである。
【0051】
(3)試験体版の調製
図1に示すような鋼床版付き試験体を準備した。
模擬鋼板床版として、幅200mm×長さ1500mm×厚さ9mmの実際の現場で使用される鋼板床板と同じものを準備し、ショットブラスト機(SB−1000、株式会社フタミ製)で、鋼板表面にショットブラスト処理(鋼球:スチールショット(異形)、投射密度250kg/m)を行った。
【0052】
また、模擬鋼床版と同一の素材で、鋼板床版の側面に沿って4枚の側板を設置し、ねじ込み式皿ボルトで、模擬鋼板床版と側板を固定した。
該鋼板の上面に表1に示す接着剤を1リットル/mの量で塗布し、その上に50mm厚みで各補修用モルタル複合材料1〜7を打ち込み、次いで表面仕上げを行い、28日間20℃の水中で水中養生を行い、その後立脱型して、各試験体版1〜7を作成・準備した。
【0053】
(4)自己修復機能試験
次いで、上記試験体版1〜7を用いて、自己修復機能試験を実施した。
図2に示す鋼床版のリブ溶接部の負曲げ試験を模擬するため、図3に示すように、鋼床版を圧縮側に、モルタルを引張り側になるように試験体をセットした。
載荷は、モルタルの打込み後28日経過した各試験体を用いて、等曲げモーメント区間を有する静的2点曲げとし、大たわみが発生しないように、かつせん断破壊が先行しないようにスパンを定めた。
【0054】
各試験体両サイドの荷重点に4箇所及び支持部に4箇所、合計8箇所に変位計(東京衡機製造所製の容量300kNの万能試験機)を取り付け、それぞれの平均値の差を算出し、荷重点の曲げモーメントによる変位(たわみ)とした。
載荷は前記変位が10mmになるまで行った。
図4に前記変位が10mmとなった際の、各試験体のひび割れ状況の模式図を示す。これにより、ひび割れ発生個所が分散していることがわかる。
【0055】
次に、各試験体から前記載荷の負荷を取り除いた除荷後の各試験体のひび割れが0.1mm程度となるように、各試験体の側面及び底面を2箇所ずつ金属箔のスペーサーによって保持した。
次いで、該金属箔のスペーサーによってひび割れ幅を0.1mmとなるように保持した上記比較例1及び実施例1〜3の各試験体版1〜4を、20℃で1ヶ月間水中浸漬に供し、ひび割れ部の閉塞状態を観測し、その結果を表3に示す。
【0056】
また、該金属箔のスペーサーによってひび割れ幅を0.1mmとなるように保持した上記実施例4〜6の各試験体版5〜7を、温度20℃、湿度70%の恒温恒湿室に1ヶ月間静置して、ひび割れ部の閉塞状態を観測し、その結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
7種類の試験体におけるひび割れ部の閉塞状況は、表3に示すとおり、上記比較例1の試験体版を除いて、ひび割れ部は水和物によって充填されていた。
すなわち、セメント粗粉、高炉スラグ粗粉及び高炉スラグ細骨材材料を配合した場合には、ひび割れの自己修復機能が有効に発現されたことが確認できるとともに、外部よりの水の供給がない場合であっても、高靭性セメント複合材料に予め含まれて水を供給する人工軽量骨材を使用することで、ひび割れの自己修復機能が有効に発現できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のモルタル複合材料は、ひび割れの発生を分散することができ、更には、自己修復機能により、水和物が該ひび割れに充填されるため、重交通下におけるグースアスファルト舗装を施された鋼床版の補修に、特に夏季に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る鋼床版付き補修用モルタル複合材料の形状・寸法を模式的に表した図である。
【図2】重交通下における載荷状況を模式的に表した図である。
【図3】図2の載荷状況におけるリブ溶接部の負曲げを模擬するための試験体版セッティング図である。
【図4】試験体版のひび割れ状況の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーン比表面積が500〜2000cm/gのセメント粗粉及び/又はブレーン比表面積が500〜3000cm/gの高炉スラグ粗粉及び/又はJIS A 5011に規定される高炉スラグ細骨材であってJIS篩0.6mm全通に粒度調整されたものを含む、繊維補強高靭性セメント複合材料からなることを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料。
【請求項2】
請求項1記載の鋼床版補修用モルタル複合材料において、前記セメント粗粉、高炉スラグ粗粉及び高炉スラグ細骨材を、繊維補強高靭性セメント複合材料に用いる汎用細骨材の一部と代替して用いることを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料。
【請求項3】
請求項2記載の鋼床版補修用モルタル複合材料において、モルタル1mあたり300〜600kg配合する汎用モルタル用細骨材の30〜60質量%を上記セメント粗粉または高炉スラグ粗粉に、及び/又は、該汎用モルタル用細骨材の30〜70質量%を上記高炉スラグ細骨材に代替することを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項に記載した鋼床版補修用モルタル複合材料において、前記補強繊維は、鋼繊維、ステンレス繊維、ガラス繊維、炭素繊維及び合成繊維の少なくとも1種類以上であることを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料。
【請求項5】
請求項4記載の鋼床版補修用モルタル複合材料において、有機補強繊維は、補強繊維のモノフィラメントをサイジング処理した繊維束であることを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料。
【請求項6】
請求項3又は4記載の鋼床版補修用モルタル複合材料において、更に、上記汎用モルタル用細骨材の4〜8質量%を人工軽量骨材及び/又は吸水性ポリマーに代替することを特徴とする、鋼床版補修用モルタル複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−247620(P2008−247620A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87226(P2007−87226)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000181354)鹿島道路株式会社 (46)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】