説明

鋼材の接合方法

【課題】容易な方法でドリルねじを用いた鋼材の接合部の耐食性を、ねじ締結の施工性を損なうことなく局部的に高めることが可能な鋼材の接合方法を提供する。
【解決手段】亜鉛系めっき被覆ドリルねじによる亜鉛系めっき被覆鋼材の接合方法であって、ドリルねじと鋼材の間に亜鉛系めっきを被覆した座金を挟んで接合することを特徴とし、かつ、前記鋼材の亜鉛系めっきの標準電極電位をV(V)、前記ドリルねじの標準電極電位をV(V)、前記座金の亜鉛系めっきの標準電極電位をV(V)とした時、V≦V≦Vであることを特徴とする、鋼材の接合方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリリングタッピンねじ(以下ドリルねじ、あるいは単にねじと略記する)による亜鉛系めっき鋼材の接合方法に関するもので、接合部の耐食性を局部的に高めることが可能な鋼材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系のめっきが施された鋼材を接合する方法として、ドリルねじを用いた方法が採用されることがある。この方法は、溶接する方法に比較すると、鋼材の材質が熱の影響を受けることがない点や、ボルトナット・リベット等を用いる方法に比べて事前に鋼材に穴をあけておく必要がない点などの利点を有する。しかし、一方で欠点として、ドリルねじによる接合方法においては、接合部の耐食性の劣化が発生し、接合部での腐食が進行する恐れがある。その原因は以下の(1)〜(4)に説明するように考えられている。
(1)ボルトによる接合と同じく、ねじの頭部と鋼材の接触部には水がたまりやすく、環境によっては塩分等の腐食因子が凝縮される。まずこれが腐食を促進する。
(2)ドリルねじを用いた場合には、ねじが貫通している鋼材断面に表面処理がなされていない鉄が露出する。また、ドリルねじは、必ずしも垂直に鋼材に打ち込まれるとは限らないため、ドリルねじの座面と鋼材に隙間が生じやすく、この隙間部分から水分等の腐食因子が、本来は必ずしも腐食環境がきびしくはないはずの、ねじが貫通している内面に達し、腐食を促進させることもある。
(3)鋼材及びねじに厚めっきをして耐食性を向上させるのは容易であるが、ドリルねじに厚めっきすると電気めっきの場合にはコスト高となる、またねじの鋼材への食いつき性が悪くなるため施工性が低下する、という問題があった。この問題を解決する方法としては、ドリルねじを高耐食合金めっきにすることが考えられる。しかし、ねじのめっきが鋼材と異なる場合には、異種金属接触腐食をおこして、鋼材のめっきの消耗を促進してしまうため、接合部の耐食性が必ずしも向上することにはならない。
(4)ドリルねじによる接合作業時に、ねじとビットとの接触部等に疵が入ることは避けられず、この部分が長期的には腐食の起点となる。
【0003】
即ち、いったん鉄が露出すると、亜鉛めっきとの間でマクロ電池を形成し、接合部周囲の亜鉛めっきの消耗が促進され、亜鉛めっきが消失した時点で赤さびが発生することとなる。このようにドリルねじを用いた鋼材の接合は、一見ボルトナットを用いた接合に似ているが、接合部の局部的な耐食性の低下の度合いはボトルナットによる接合よりも大きい。そして、平面部よりも早く赤錆を生じるため、構造物の寿命は、この接合部で決定される。
【0004】
作業効率を低下させることなく耐食性が優れたドリルねじを製造する方法として、特許文献1には、ドリル部に切り屑排出用の細い溝を縦方向に設けたドリリングタッピンねじを成形した後、浸炭焼入れ、焼戻しを施し、これにさらに、380〜400℃のZn40%−Sn60%の合金浴に約1分間浸漬し、引き上げて直ちに遠心力分離機のバケットに入れ、回転遠心力によって当該ドリリングねじの表面の余分な溶融合金を振り切っためっき処理を施したものが開示されている。また、特許文献2にも、同様に溶融亜鉛または溶融亜鉛合金で溶融めっきした後、加熱しながら遠心処理する方法が開示されている。しかし、これらの方法では、めっき浴からドリリングタッピンねじを引き上げた後、当該めっき融液が凝固しないうちに回転遠心力を付加したり、高温加熱しながら遠心処理するといった煩雑な工程が必要である。
【0005】
また、特許文献3では、ドリリングタッピンねじの表面全体にめっき等の防錆皮膜を付与した後にドリル部のみ防錆皮膜を除去する、あるいはドリル部にマスキング処理をしてめっき等の防錆皮膜を付与することにより、ドリル部の鋭利さを確保し、作業性を改善する方法が開示されている。特許文献4には、ドリリングタッピンねじのドリル部表面を樹脂でマスキング処理する方法について、樹脂の種類、厚さ等について、細かく規定している。しかしながら、膨大な数のドリリングタッピンねじのドリル部のみについて、酸洗処理あるいはマスキング処理を行うのは大変な手間を伴うことが容易に想像されるが、その具体的な方法については記述がなく、これらの方法を、現実に商業ベースで適用することは困難である。また、鉄がはじめから露出していたのでは、亜鉛めっきの消耗がはやくなり、耐食性に影響をする可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−312207号公報
【特許文献2】特開2000−266023号公報
【特許文献3】特開2000−170730号公報
【特許文献4】特開2002−323021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、上記特許文献1、2に記載の発明においては、めっき浴からドリリングタッピンねじを引き上げた後、当該めっき融液が凝固しないうちに回転遠心力を付加するために高温加熱しながら遠心処理するといった煩雑な工程が必要となるといった問題点があった。また、上記特許文献3、4に記載の発明においては、膨大な数のドリリングタッピンねじのドリル部のみについて、酸洗処理あるいはマスキング処理を行う必要があり、作業効率が悪いため、現実に商業ベースで適用することは困難である。また、ドリル部において鉄がはじめから露出しているため、亜鉛めっきの消耗がはやくなり、耐食性に悪影響が及ぶ可能性もあった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、容易な方法でドリルねじを用いた鋼材の接合部の耐食性を、ねじ締結の施工性を損なうことなく局部的に高めることが可能な鋼材の接合方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ドリルねじを用いた構造物について、また鋼材の接合部の腐食について様々な試験・調査を行った。その結果、ねじ(ボルト)という凸部が平面上に存在する限り、ここが腐食の起点となりやすいことは避けられないことがわかった。そして、腐食の生じやすい場所の接合部に局部的な防錆処理をすることが望ましいとの結論に達した。
【0010】
そこで、接合部の耐食性を容易に向上させる方法として、接合する鋼材とねじの座面との間に、通常はドリルねじを用いた接合では用いない座金を使うことにより、局所的に耐食性を高めることができることを見出した。座金のめっきの種類・使い方は、鋼材のめっき(標準電極電位:V)とねじのめっき(標準電極電位:V)の組み合わせによって異なる。基本的に、座金のめっき(標準電極電位:V)には、V≦V≦Vなる関係を有するめっきを用いる。ただし、両者のめっきの電位差が50mV以上である場合には、異種金属接触腐食が生じ耐食性が極端に低下するため、V−V≦0.05となる関係を有するめっきを用いる。即ち、本発明は、以下の(1)〜(4)に示す通りである。
(1)亜鉛系めっき被覆ドリルねじによる亜鉛系めっき被覆鋼材の接合方法であって、ドリルねじと鋼材の間に亜鉛系めっきを被覆した座金を挟んで接合することを特徴とし、かつ、前記鋼材の亜鉛系めっきの標準電極電位をV(V)、前記ドリルねじの標準電極電位をV(V)、前記座金の亜鉛系めっきの標準電極電位をV(V)とした時、V≦V≦Vであることを特徴とする、鋼材の接合方法。
(2)前記鋼材の亜鉛系めっきの標準電極電位Vと前記ドリルねじの標準電極電位Vの差(V−V)が0.05V(50mV)以上である時、前記鋼材の亜鉛系めっきの標準電極電位Vと前記座金の亜鉛系めっきの標準電極電位をVの差(V−V)が0.05V以下であることを特徴とする、(1)に記載の鋼材の接合方法。
(3)前記座金の亜鉛系めっきの厚みが、前記亜鉛系めっき被覆ドリルねじ及び前記亜鉛系めっき被覆鋼材のいずれのめっき厚みよりも厚いことを特徴とする、(1)または(2)に記載の鋼材の接合方法。
(4)前記座金の直径は、前記亜鉛系めっき被覆ドリルねじの頭部の直径よりも12mm以上大きいことを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼材の接合方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ドリルねじを用いた鋼材の接合部の耐食性をねじの穿孔性、締結時の作業性を損なうことなく容易に高めることができるため、このドリルねじを用いて構成される鋼構造物の寿命の延長が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、本発明で用いる座金は、材質としては通常の低炭素鋼であり、特に条件はない。めっきの種類としては、鉄鋼材料の防食が目的であるため、亜鉛系のめっきであり、純亜鉛めっき、または、Zn−Niめっき、Zn−Alめっきなどの亜鉛合金めっきとする。めっきの方法は、電気めっきであればバレルめっき、溶融めっきであればどぶ漬けめっきとする。めっきの種類、必要なめっき厚については、要求される耐食性によって異なる。
【0013】
ここで、鋼材とドリルねじ(以下、単にねじとも呼称する)のそれぞれに被覆されるめっきの電位差が50mV未満である場合と、50mV以上である場合について、めっきされる金属を例示し、それぞれの場合の耐食性について以下に説明する。
【0014】
(鋼材とドリルねじ、両者のめっきの電位差が50mV未満である場合)
純亜鉛めっき、ガルバリウム鋼板に代表されるZn−Al合金溶融めっき、 亜鉛の含有量が99%を超えるような亜鉛合金めっき等の組み合わせがこれにあたる。この場合は、ねじと鋼板のめっきの間で、異種金属接触腐食の恐れは事実上ない。このため、接合部の腐食の原因は、ねじと鋼材の耐食性のバランスが悪い(めっき厚が異なる等)場合と、前述した接合部の特殊要因(背景技術の項に記述した腐食要因(1)、(2)、(4))である。このため、単純にねじ周囲の防錆力を強化すればよく、V≦V≦Vとなるめっきを用いる。現実には、鋼板またはドリルねじと同種のめっき、または純亜鉛めっきを用いればよい。めっきの厚さの目安としては、単独での耐食性が、ドリルねじまたは鋼板のいずれよりもすぐれたものとする。
【0015】
ねじ周囲の水たまり形成による亜鉛めっきの腐食を調査した結果、屋外暴露試験によれば、ドリルねじ頭部と鋼材のめっき種とめっき厚(耐食性)が同等の場合、非接合部に比べて、明らかに数十%短い期間で赤錆が発生し、接合部が局部的に厳しい腐食条件にあることを示している。このため、接合部の防食には、めっき鋼材よりも腐食条件が厳しい分、耐食性に優れた座金を用いることが必要である。鋼材・座金のめっきがいずれも純亜鉛めっきであれば、座金の亜鉛めっきの厚さは鋼材のめっき厚より、厚くしなければならない。また、鋼材が純亜鉛めっきの約4倍の耐食性を有すると一般に言われるようなZn−10%Al合金溶融めっきのような高耐食めっきの場合に、純亜鉛めっきの座金を使用する場合には、座金のめっき厚は鋼材のめっき厚の4倍以上にする必要がある。この方法は、構造物の部位によって接合部の腐食度合いが異なることが予想される場合、例えば地面近くの、高湿度が予想されるような位置の接合部のみを、局部的に耐食性を高める方法としても有効である。
【0016】
(鋼材とドリルねじ、両者のめっきの電位差が50mV以上である場合)
構造物に高い耐久性が求められる場合、構造材の耐久性だけでなく、接合材であるねじにも同等の高い耐久性が求められるが、ドリルねじに厚いめっきをすると、ねじ先端の鋭利さが失われて接合時の作業性が低下するため、薄目付で高耐食のねじが要求される。ねじに高耐食亜鉛合金めっきをすることで、薄目付でねじ単独の高耐久化は可能である。
【0017】
しかし、高耐食亜鉛合金めっきは、鋼材の防食に通常用いられる亜鉛系合金めっきよりも電位が50mV以上も大きくなることがある。例えば、銀/塩化銀電極を基準とした電位は、純亜鉛めっき、Zn−Al合金溶融めっき、Zn−2%Ni合金めっきは、いずれも、−1.03〜−1.00V
であるが、高耐食合金めっきとして知られるZn−12%Ni合金めっきの電位は、−0.800V程度である。このため、亜鉛めっき鋼材をZn−12%Niめっきしたドリルねじで接合した場合、前述した要因(背景技術の項に記述した腐食要因(3))の、「異種金属接触腐食」を生じ、接合部の耐食性はむしろ低下してしまう。この場合にも、本発明にかかる接合方法は有効である。
【0018】
例として、鋼材に片面20μm厚の溶融Znめっきをした鋼板を、ねじに8μm厚の高耐食合金めっきであるZn−9%Niめっきしたドリルねじ用いて接合した場合、このねじは合金めっきが鋼材の純亜鉛めっきによって犠牲防食されるため、錆びることがない。
【0019】
しかし、上記例の場合、鋼材のねじに接触した部位の純亜鉛めっきの消耗が速くなり、20μmの純亜鉛めっきのねじを用いた場合よりも接合部の赤錆発生時間は短く、片面20μm厚の溶融Znめっき鋼板の1/2程度の時間で赤錆が発生した。しかし、ねじに20μm厚のZnめっきをすることはコスト高であり、またねじ先端の鋭利さを失わせるために作業性が低下する。この場合にも、座金に、鋼材のめっきと同じ純亜鉛めっきを、鋼材よりも十分に厚目付にすることにより、異種金属接触腐食の影響を小さくして接合部の耐久性を高めることができる。さらに、接合部の耐食性を、純亜鉛めっき20μmの平板部と、同等することも可能である。
【0020】
次に座金の大きさについて述べる。通常の座金の直径は鍋頭ねじの頭部最大直径(カッコ内)と比較して、M5ねじの場合には、10〜12mm(9mm)、M8ねじの場合には15〜18mm(14mm)であり、座金が1〜4mm大きいにすぎない。本発明にかかる接合方法で用いる座金の径は、当然ながら、大きいほど耐食性の点で有利である。しかし、極端に大きいものを用いても耐食性を向上させる効果は小さく、またコスト高になるため望ましくない。
【0021】
本発明者らの研究によれば、雨水等による腐食では、犠牲防食作用、あるいは異種金属接触腐食は、2〜3mm程度の距離しか機能しない。このため、座金がねじと構造材の両者を犠牲防食することを考慮すると、特に、鋼材のめっきとドリルねじのめっきで電位差がある場合の座金の直径は、ねじ頭部の直径よりも、3mm×2×2=12mm以上大きいことが望ましい。
【0022】
また、座金の厚さについては、座金と構造材の段差を小さくして水たまりが生じにくくするという観点から、接合時に変形しない最小限の厚さであることが望ましい。ねじ頭周囲の耐食性のバランスの点から、座金の偏りを最小限とするために、座金の穴の径は、ねじが通る最小限の直径とする。この座金は、亜鉛系めっきをした鉄鋼材料の常として、めっき後の化成処理が施されるものとする。
【0023】
なお、ねじのめっきと鋼材のめっきの電位差が、上述したように100mV以下の場合には、その中間電位のめっきを施した大径座金を用いることで、異種金属接触腐食の影響を抑えることが可能である。この応用として、ねじのめっきと鋼材のめっきの電位差が100mV以上の場合には、直接接触する鋼材と座金、座金と座金、座金とねじの鍍金電位差が各々100mV以下となるような複数の座金を重ねて用いることで、異種金属接触腐食の影響を抑えることが可能となる。
【0024】
例えば、溶融亜鉛めっき鋼板(約−1.00V)の接合に、Zn−7%Ni合金めっき(約−0.860V)したねじを用いる必要がある場合には、鋼材側より、−0.95V, −0.900Vの電位を有する座金を順に重ねて用いればよい。座金はねじ頭部の直径よりも、24mm、12mm以上大きいことが望ましいため、特殊な寸法の座金を用いる必要があるが、これにより、異種金属接触腐食の発生を抑制することができる。
【0025】
また、座金の使い方は特別なものではなく、ねじの座面と鋼材の間に使用するものであり、またドリルねじでない、通常のボルトナット接合でも、適用は可能である。
【0026】
さらに、本発明は、接合部における鋼材側の耐食性を改善するものであり、めっき鋼材とドリルねじの耐食性のバランスがとれていることが前提である。とくに、鋼材に対してドリルねじの耐食性が極端に劣る場合には、耐食性の改善効果は小さい。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。
【0028】
(実施例1)
0.8mm厚の電気亜鉛めっき鋼板(めっき付着量は片面20g/m)に、4.8×35mmの六角頭ドリルねじ(Znめっき、めっき付着量:ねじ頭部で5μm)を接合した。座金としては、M5ねじ用の座金(直径:12、22mm、 純亜鉛めっき、めっき厚:5、10μm)を使用した(めっき厚5μmの座金は比較例にのみ使用)。試験片は、鋼板の端面をシール後、裏面に雨水が直接かからない状態で屋外暴露試験を行い、月一回ねじ接合部の赤錆発生を観察した。なお、発生した赤錆が次の一カ月で大きくなっていることを確認して、赤錆発生時間とした。なお、ドリルねじ、めっき鋼板、座金は、いずれも同じ純亜鉛めっきであり、その電位は−1.01V(VS.Ag/AgCl電極)である。以下の表1には、上記条件で作製した試験片の観察結果を記載した。なお、表1には参考例として、鋼板のみの場合と、Znめっきねじのみの観察結果についても記載している。

【表1】

表1に示されるように、耐食性に優れた座金を使用することにより、接合部の耐食性が向上し、接合部の赤錆発生期間はめっき鋼板の平板部より長くなった。
【0029】
(実施例2)
1.0mm厚のZn−5%Al合金溶融めっき鋼板(めっき付着量は片面30g/m)に、4.8×35mmの六角頭ドリルねじ(Zn−9%Niめっき、めっき付着量:ねじ頭部で5μm)を接合した。座金としては、M5ねじ用の座金(直径:12、22mm、
純亜鉛めっき、めっき厚:20、30μm)を使用した。ねじ、座金、めっき鋼板のいずれも、めっき後に3価Crを用いた化成処理をした材料を用いた。試験片は、鋼板の端面をシール後、裏面に雨水が直接かからない状態で屋外暴露試験を行い、月一回ねじ接合部の赤錆発生を観察した。赤錆発生の判定は、実施例1と同じ条件とした。以下の表2には、上記条件で作製した試験片の観察結果を記載した。なお、表2には、比較例として座金を使用せずに構成した試験片の観察結果を記載し、また、参考例として、めっき鋼板のみの場合と、Zn−9%めっきねじのみの観察結果についても記載している。また、試験期間を短縮するため、試験片の全面に、週一回、0.5%NaCl溶液を散布した。なお、Zn−5%Al合金溶融めっき、純亜鉛めっき、Zn−9%Niめっきの電位は、各々、−1.005V, −1.01V, −0.760V(VS.Ag/AgCl電極)である。また、Zn−5%Al合金めっきは、純亜鉛めっきの約3倍の耐食性を有することが確認されている。

【表2】

Zn−5%Al合金溶融めっき鋼板の耐食性は、純亜鉛では約13μmに相当する。このため、鋼板以上の耐食性を有する、20μmのめっきをした座金を用いることで、表2に示されるように、耐食性に優れた座金を使用することにより、接合部の耐食性が向上している。30μmのめっきがなされた座金では、接合部の方が鋼板の非接合部よりも赤錆発生までの期間が長くなった。
【0030】
(実施例3)
1.0mm厚の溶融亜鉛めっき鋼板(めっき付着量は片面60g/m)に、5×35mmの六角頭小ねじ(Zn−7%Niめっき、およびZn−5%Niめっき、めっき付着量:ねじ頭部で5μm)を取り付けた。座金としては、M5ねじ用の座金((直径:35mm、 Zn−2%Ni合金めっき、めっき厚:15μm)あるいは(直径:22mm、
Zn−2%Ni合金めっき、めっき厚:30μm))を以下の表3に示す条件で使用した。即ち、表3に示すように本実施例では、座金を複数(ねじ側、鋼材側)用いて試験片を構成している場合もある。各種合金めっきの電位、耐食性試験条件・評価方法は、実施例1と同じとし、試験期間を短縮するため、実施例2と同様に試験片の全面に、週一回、0.5%NaCl溶液を散布した。以下の表3には、上記条件で作製した試験片の観察結果を記載した。なお、表3には、比較例として座金を使用せずに構成した試験片の観察結果を記載し、また、参考例として、鋼板のみの場合と、Znめっきねじのみの観察結果についても記載している。
【0031】
なお、用いた合金めっきの電位は、以下の通りである。
溶融亜鉛めっき −1.005V
Zn−2%Ni合金めっき −0.96V
Zn−5%Ni合金めっき −0.92V
Zn−7%Ni合金めっき −0.86V

【表3】

表3に示されるように、鋼材とねじ中間電位にあたるめっきをした座金を用いることで、異種金属接触腐食を防ぎ、接合部の耐食性を非接合部と同等以上にすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、ドリリングタッピンねじによる亜鉛系めっき鋼材の接合方法に関するもので、接合部の耐食性を局部的に高めることが可能な鋼材の接合方法に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき被覆ドリルねじによる亜鉛系めっき被覆鋼材の接合方法であって、
ドリルねじと鋼材の間に亜鉛系めっきを被覆した座金を挟んで接合することを特徴とし、
かつ、前記鋼材の亜鉛系めっきの標準電極電位をV(V)、前記ドリルねじの標準電極電位をV(V)、前記座金の亜鉛系めっきの標準電極電位をV(V)とした時、V≦V≦Vであることを特徴とする、鋼材の接合方法。
【請求項2】
前記鋼材の亜鉛系めっきの標準電極電位Vと前記ドリルねじの標準電極電位Vの差(V−V)が0.05V(50mV)以上である時、前記鋼材の亜鉛系めっきの標準電極電位Vと前記座金の亜鉛系めっきの標準電極電位をVの差(V−V)が0.05V以下であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼材の接合方法。
【請求項3】
前記座金の亜鉛系めっきの厚みが、前記亜鉛系めっき被覆ドリルねじ及び前記亜鉛系めっき被覆鋼材のいずれのめっき厚みよりも厚いことを特徴とする、請求項1または2に記載の鋼材の接合方法。
【請求項4】
前記座金の直径は、前記亜鉛系めっき被覆ドリルねじの頭部の直径よりも12mm以上大きいことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の鋼材の接合方法。

【公開番号】特開2012−107711(P2012−107711A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257558(P2010−257558)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】