説明

鋼材の表面温度測定装置及び表面温度測定方法並びに鋼材の製造方法

【課題】被測温鋼材から剥離したスケールが落下する環境においても、鋼材の表面温度を鋼材の下面から長期間安定して測定することが可能な鋼材の表面温度測定装置等を提供する。
【解決手段】表面温度測定装置100は、被測温鋼材Mの下面に対向配置され、上端開口部11から水Wを放出するノズル1と、光軸Oがノズルの中心軸Cと略平行となるようにノズル内に配置され、被測温鋼材の下面から放射された熱放射光を水を介して検出する放射温度計2と、ノズル内であって放射温度計の光軸が通る位置に配置され、放射温度計を水から隔離するための光学窓3とを備える。放射温度計の光軸を横切る光学窓の上端面31は、水平面に対して30°以上傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼片、鋼板、形鋼などの鋼材の表面温度を、鋼材の製造工程(熱間圧延工程など)において、鋼材の下面から長期間安定して測定することが可能な鋼材の表面温度測定装置及び表面温度測定方法並びに鋼材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延工程中の鋼材表面には、搬送ロールを冷却する冷却水が飛散してきたり、鋼材から剥離したスケールが存在している。この様な環境の中で鋼材の表面温度を精度良く測定するため、高温、水分及びスケールから表面温度測定装置を保護する方策が従来から講じられてきた。特に、鋼材下面の温度を測定する表面温度測定装置の場合には、鋼材下面に放射温度計の測定視野を設定する必要があり、冷却水の水滴、スケール、粉塵などが直接、放射温度計の集光レンズ等に付着し易いため、正確な温度の測定が妨げられることになる。
【0003】
特許文献1には、被測温鋼材下面から放射された熱放射光を、被測温鋼材下面に向けてノズルから噴射したパージ水を介して被測温鋼材の下方に対向配置した放射温度計で検出することにより、被測温鋼材の表面温度を測定する方法や装置が開示されている。
しかし、特許文献1に記載の技術で鋼材下面の温度を測定する際、被測温鋼材から剥離したスケールがノズル内に侵入して放射温度計の測定視野を遮り、測温値の精度が低下する場合がある。
【0004】
特許文献2には、温度計本体と、この温度計本体を収納し、かつその上方に開口部を有すると共に空気供給口を有する函体と、この函体の上部に設けられ、空気供給口と上部開口部に設けた上部シャッターとを有する筒体と、函体と筒体の間に設けられた下部シャッターとから構成された温度測定装置が開示されている(特許文献2の段落0014)。
そして、特許文献2には、「本発明の温度測定装置においては、温度計本体が、鋼板下面との間で、装置に設けられた上部と下部の二重のシャッターにより保護されていると共に、温度測定時には、供給空気の噴出によって、粉塵や水滴等の測定装置内への侵入を防止される。温度計本体の視線が良好に保持されるため、これを鋼板下面からより離れた位置においても測定が可能となり、長期にわたり精度の良い下面の温度測定が可能となる」と記載されている(特許文献2の段落0039)。
しかしながら、少なくとも温度測定時(上部と下部のシャッターを開いたとき)において大量の供給空気を噴出しなければ、粉塵や水滴の他、鋼板から剥離したスケールが温度計本体に付着し、放射温度計の測定視野を遮り、測温値の精度が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−17589号公報
【特許文献2】特開2003−302287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、被測温鋼材から剥離したスケールが落下する環境においても、鋼材の表面温度を鋼材の下面から長期間安定して測定することが可能な鋼材の表面温度測定装置及び表面温度測定方法並びに鋼材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
図2は、被測温鋼材の下面に対向配置され水を放出するノズルを備え、水を介して被測温鋼材の表面温度を測定する装置の一般的な構成を模式的に示す断面図である。図2に示すように、この種の表面温度測定装置100Aは、ノズル1Aと、放射温度計2Aと、光学窓3Aとを備えている。ノズル1Aは、外部から供給された水Wを上端開口部11Aから放出する。放射温度計2Aは、その光軸がノズル1Aの中心軸Cと略平行となるようにノズル1A内に配置され、被測温鋼材M(図2に示す例では鋼板)の下面から放射された熱放射光を水Wを介して検出する。光学窓3Aは、ノズル1A内であって放射温度計2Aの光軸が通る位置に配置され、放射温度計2Aを水Wから隔離する。
【0008】
光学窓3Aとしては、通常、その上端面31Aと下端面32Aとが平行な板状のものが用いられ、上端面31A及び下端面32Aがノズル1Aの中心軸Cと直交するようにノズル1A内に配置されている。そして、ノズル1Aは、その中心軸Cが鉛直方向に向くように配置されている。従って、光学窓3Aの上端面31Aは、水平面となっている。
【0009】
上記のような構成を有する表面温度測定装置100Aにおいては、被測温鋼材Mから剥離したスケールSがノズル1Aの上端開口部11Aからノズル1Aの内部に侵入して光学窓3Aの上端面31Aに堆積するおそれがある。このため、長期間が経過すると、堆積したスケールSが放射温度計2Aの測定視野を遮り、測温値の精度が低下するおそれがある。
【0010】
上記の問題を解決するため、本発明者らは、光学窓3Aの上端面31AにスケールSが堆積し難い構成について、鋭意検討を行った。具体的には、図3に示すように、水を充満させた水槽の中に上端面及び下端面が平行な板状の光学窓(石英ガラス)を配置し、測定現場(鋼板の熱間圧延ライン)から採取したスケールを水面上から光学窓の上端面に向けて落下させる試験を行った。この際、光学窓の上端面の水平面に対する傾斜角度θを種々の値に変更し、各傾斜角度θにおけるスケール残量率(落下させたスケールの総量に対する光学窓の上端面に残存するスケールの量の割合)を評価した。
【0011】
なお、測定現場から採取したスケールには、下記の表1に示す3種類のスケールA〜Cが存在した。
【表1】


表1に示すスケールAは、通常のノズル1Aの上端開口部よりも寸法が大きいため、ノズル1Aの内部に侵入しないと考えて評価対象から除外した。また、表1に示すスケールCは、水面上に浮いたため、評価対象から除外した。従って、図3に示す評価結果は、表1に示すスケールBについての評価結果である。
【0012】
図3に示すように、光学窓の傾斜角度θが30°以上であれば、スケール残量率が100%未満(具体的には90%未満)となり、スケールが光学窓の上端面に堆積する速度が低下することが分かった。このため、堆積したスケールが放射温度計の測定視野を遮って測温値の精度が低下するに至るまでの期間を長くすることができ、鋼材の表面温度を長期間安定して測定できることが分かった。
【0013】
本発明は、上述した本発明者らの知見に基づき完成されたものである。すなわち、本発明は、請求項1に記載の如く、被測温鋼材の下面に対向配置され、上端開口部から水を放出するノズルと、光軸が前記ノズルの中心軸と略平行となるように前記ノズル内に配置され、被測温鋼材の下面から放射された熱放射光を前記水を介して検出する放射温度計と、前記ノズル内であって前記放射温度計の光軸が通る位置に配置され、前記放射温度計を前記水から隔離するための光学窓とを備え、前記放射温度計の光軸を横切る前記光学窓の上端面が、水平面に対して30°以上傾斜していることを特徴とする鋼材の表面温度測定装置を提供する。
【0014】
本発明によれば、光学窓の上端面が水平面に対して30°以上傾斜しているため、被測温鋼材から剥離したスケールが、ノズルの上端開口部を介してノズル内に侵入し、光学窓の上端面に落下したとしても、光学窓の上端面が水平である場合に比べて、スケールが光学窓の上端面に堆積する速度が遅くなる。このため、被測温鋼材の表面温度を長期間に亘り安定して測定することが可能である。
なお、図3に示すように、光学窓の上端面が水平面に対して65°以上傾斜していれば(光学窓の傾斜角度θが65°以上であれば)、スケール残量率が0%となり、スケールが光学窓の上端面に堆積しない。このため、光学窓の上端面が水平面に対して65°以上傾斜したものとすれば、被測温鋼材の表面温度をより一層長期間に亘り安定して測定することができる点で好ましい。
【0015】
上記のように、放射温度計の光軸を横切る光学窓の上端面が水平面に対して30°以上傾斜している構成の一例としては、請求項2に記載の如く、放射温度計の光軸を横切る光学窓の上端面が前記光軸に垂直な方向から傾斜した傾斜面に形成された構成を挙げることができる。例えば、従来と同様に放射温度計の光軸が鉛直方向となる(ノズルの中心軸が鉛直方向となる)ようにノズルを配置する場合には、前記傾斜面を光軸に垂直な方向(水平方向)から30°以上傾斜したものとすることにより、光学窓の上端面が水平面に対して30°以上傾斜した状態とすることが可能である。
なお、光学窓の上端面が放射温度計の光軸に垂直な方向から傾斜した傾斜面に形成されている場合、光軸に沿って入射した放射光が、光学窓の上端面において、水と光学窓との屈折率差に応じて屈折することになる。しかしながら、光学窓の材料として通常選択されるガラスと水との屈折率差は小さいため、測温値に対する上記屈折の影響は少ない。
【0016】
放射温度計の光軸を横切る光学窓の上端面が水平面に対して30°以上傾斜している構成の他の例としては、請求項3に記載の如く、ノズルの中心軸が鉛直方向から傾斜するようにノズルが配置された構成を挙げることができる。例えば、従来と同様に放射温度計の光軸を横切る光学窓の上端面が前記光軸に垂直である場合には、ノズルの中心軸が鉛直方向から30°以上傾斜したものとすることにより、光学窓の上端面が水平面に対して30°以上傾斜した状態とすることが可能である。
【0017】
放射温度計の光軸を横切る光学窓の上端面が水平面に対して30°以上傾斜している構成の更に他の例としては、放射温度計の光軸を横切る光学窓の上端面が前記光軸に垂直な方向から傾斜した(以下、この傾斜角度をθgという)傾斜面に形成されていると共に、ノズルの中心軸が鉛直方向から傾斜する(以下、この傾斜角度をθnという)ようにノズルが配置された構成を挙げることが可能である。斯かる構成の場合には、傾斜角度θgと傾斜角度θnとを同方向としてこれらの和を30°以上とすることにより、光学窓の上端面が水平面に対して30°以上傾斜した状態とすることが可能である。このように傾斜角度θnを設けることにより、光学窓の上端面が水平面に対して30°以上傾斜した状態とするための傾斜角度θgの値を小さくすることができるため、光学窓が破損するおそれを低減できるという利点を有する。
【0018】
ここで、被測温鋼材の表面温度を放射温度計で測定する際には、図4に示すように、測温値は、被測温鋼材下面の法線方向に対する放射温度計の光軸の傾斜角度(以下、この傾斜角度を測定角度θ1という)の影響を受けて変動する。図4に示すように、測温値の変動を一定の範囲内(5℃以内)に収めるには、測定角度θ1を60°以下に設定することが好ましい。
一方、図5に示すように、ノズル1の中心軸Cを鉛直方向から傾斜させた場合(放射温度計2の光軸Oを鉛直方向から傾斜させた場合)に、ノズル1から放出する水Wの水面(水によって形成される水柱の上端面)が常に水平面になるとすれば、被測温鋼材Mの下面から放射され放射温度計2で検出し得る熱放射光は、上記水Wの水面に対して斜めの方向(水面に垂直な方向からずれた方向)から該水面に入射することになる。このため、前記熱放射光は、上記水Wの水面において、ノズル1の中心軸Cの傾斜角度θnと、水と空気との屈折率差とに応じた屈折角で屈折することになる。従って、被測温鋼材M下面の法線方向が鉛直方向と一致する場合、放射温度計2の測定角度θ1は、ノズル1の中心軸Cの傾斜角度θnよりも大きな角度となる、具体的には、図5に示すように、ノズル1の中心軸の傾斜角度θnが40°を超える場合に、放射温度計2の測定角度θ1は60°を超えることになる。
【0019】
従って、前述のように、放射温度計の測定角度を60°以下に設定して測温値の変動を一定の範囲内に収めるには、請求項4に記載の如く、前記ノズルの中心軸が被測温鋼材下面の法線方向から40°以下で傾斜するように前記ノズルを配置することが好ましい。
【0020】
ここで、前述した表1に示すスケールAのようなスケール(ノズルの上端開口部よりも寸法が大きなスケール)が被測温鋼材から剥離した場合には、ノズルの上端開口部に剥離したスケールが載って、放射温度計の測定視野を遮り、測温値の精度が低下するおそれがある。そこで、本発明者らは、たとえスケールがノズルの上端開口部に載ったとしても、上端開口部から滑り落ちることによって放射温度計の測定視野を遮らない構成について、鋭意検討を行った。具体的には、図6に示すように、ノズル1の上端開口部を通る面(開口面)N1がノズル1の中心軸と直交し、なお且つ、ノズル1の中心軸を鉛直方向から傾斜角度θnだけ傾斜させることを考えた。
【0021】
図6に示すように、スケールSがノズル1の上端開口部に載ったときにスケールSがノズル1から滑り落ちる方向に働く力をFn、スケールSに働く垂直抗力をN、スケールSに働く摩擦力をFsとした場合、Fn、N及びFsは、それぞれ以下の式(1)〜(3)で表される。
Fn=m・g・sin(θn) ・・・(1)
N=m・g・cos(θn) ・・・(2)
Fs=μ・N ・・・(3)
ここで、mはスケールSの質量、gは重力加速度、μはノズル1とスケールSとの間に生じる動摩擦係数を意味する。
【0022】
図6に示すFn>Fsとなれば、スケールSはノズル1の上端開口部から滑り落ちるので、放射温度計の測定視野を遮ることがない。図7は、種々の傾斜角度θnに対するFnとFsとの関係を示すグラフである。図7に示すように、ノズル1とスケールSとの間に生じる動摩擦係数μとして、金属間の一般的な値である0.2を用いて計算した結果、ノズル1の中心軸の傾斜角度θnを12°以上に設定すれば、Fn>Fsとなることがわかる。図7に示す結果は、ノズル1の上端開口面N1がノズル1の中心軸と直交し、なお且つ、ノズル1の中心軸を鉛直方向から傾斜角度θnだけ傾斜させた場合の計算結果である。しかしながら、ノズル1の中心軸を鉛直方向とし、なお且つ、ノズル1の上端開口面をノズル1の中心軸に垂直な方向から傾斜角度θnに相当する角度だけ傾斜した傾斜面に形成することによっても同様の結果が得られる。
すなわち、スケールがノズルの上端開口部に載ったとしても、上端開口部から滑り落ちることによって放射温度計の測定視野を遮らないようにするには、請求項5に記載の如く、前記ノズルの上端開口部が、水平面に対して12°以上傾斜していることが好ましい。
なお、実際には、ノズルから放出される水の水圧でスケールを上方に持ち上げる力が働くため、垂直抗力Nの値は、式(2)で計算される値よりも小さくなる。このため、ノズルの上端開口部が水平面に対して12°以上傾斜していなくても、スケールは滑り落ちると考えられるが、上記のように12°以上傾斜させれば確実に滑り落とすことができる点で好ましい。
【0023】
好ましくは、請求項6に記載の如く、前記放射温度計の光軸を横切る前記光学窓の上端面が、前記ノズル内の水が充満している領域の最下端部よりも上方に位置している。
【0024】
斯かる好ましい構成によれば、放射温度計の光軸を横切る光学窓の上端面から滑り落ちたスケールが、ノズル内の水が充満している領域の最下端部に堆積し得るため、光学窓の上端面の端にスケールが堆積するおそれが低減し、スケールが光学窓の上端面に堆積する速度をより一層遅くすることができる。このため、被測温鋼材の表面温度をより一層長期間に亘り安定して測定することが可能である。
【0025】
また、好ましくは、請求項7に記載の如く、前記ノズルは、前記ノズル内の水が充満している領域の最下端部の近傍に位置する側壁に、前記ノズルの外部と連通する貫通孔を備え、前記貫通孔は、前記上端開口部の寸法よりも小さく、且つ、前記ノズル内に侵入するスケールの想定される寸法よりも大きい寸法を有することが好ましい。
【0026】
斯かる好ましい構成によれば、ノズル内の水が充満している領域の最下端部の近傍に位置するノズルの側壁に貫通孔が設けられるが、その寸法が小さい(ノズルの上端開口部の寸法よりも小さい)ため、ノズル内の水が貫通孔から全て外部に流出して水柱が形成されなくなる事態が生じない。一方、貫通孔の寸法は、ノズル内に侵入するスケールの想定される寸法よりも大きいため、ノズル内に侵入したスケールが水と共に貫通孔を通じて外部に流出可能である。このため、ノズル内の水が充満している領域の最下端部にスケールが堆積し難くなり、スケールをノズル内から除去する頻度を低減可能である。また、貫通孔から水が流出しない場合、貫通孔にスケールが詰まっていると考えることができるため、ノズル内の点検要否の目安を得ることが可能である。従って、定期的にノズル内を点検するよりも取り扱いが容易になるという利点も有する。
前述のようにノズル内に侵入するスケールB(砂状スケール)の粒径は、せいぜい1mmなので、ノズル内に侵入するスケールの想定される寸法を1mmとすれば、貫通孔は、前記想定寸法よりも大きな寸法(例えば、孔径2〜3mm程度)にすればよい。
【0027】
また、好ましくは、請求項8に記載の如く、本発明に係る表面温度測定装置は、前記ノズル内に水を供給する水供給手段を備え、前記水供給手段は、該水供給手段から供給した水が、前記放射温度計の光軸を横切る前記光学窓の上端面に直接当たるように構成されている。
【0028】
斯かる好ましい構成によれば、水供給手段から供給した水が、光学窓の上端面に直接当たるため、該上端面に沿った水流が生じ、該上端面にスケールが堆積するおそれをより一層低減することが可能である。
また、前述のように、放射温度計の光軸を横切る光学窓の上端面がノズル内の水が充満している領域の最下端部よりも上方に位置している構成の場合には、水供給手段から供給した水が最下端部に堆積したスケールに直接当たることが無いため、当該最下端部に堆積したスケールが水流によって巻き上がり光学窓の上端面に堆積してしまうおそれが低減する。
【0029】
ここで、前述したように、ノズルの中心軸を鉛直方向から傾斜させた場合(放射温度計の光軸を鉛直方向から傾斜させた場合)に、ノズルから放出する水の水面(水によって形成される水柱の上端面)が常に水平面になる(常に一定方向である)とすれば、放射温度計の測定角度は、ノズルの中心軸の傾斜角度と、水と空気との屈折率差とに応じた一定の値となる(図5参照)。しかしながら、ノズル内に供給する水の水量を過度に大きくし過ぎると、ノズル内の水流が層流から乱流に遷移し、ノズルから放出する水の水面が一定方向で安定せずに変動するため、放射温度計の測定角度が変動することになる。前述のように、放射温度計の測定角度が変動すれば、測温値も変動する。
【0030】
図8は、被測温鋼材を模擬した面光源(300×300mm)の下面温度を水を介して放射温度計で測定した結果の一例を示すグラフである。具体的には、面光源を水平に設置し、放射温度計を内蔵した上端開口部の口径が15mmのノズルを、面光源の下面から250mmだけ離間した位置に配置し、ノズルの中心軸を鉛直方向から40°傾斜させた。そして、ノズル内に供給する水の水量を種々の値に変更して、面光源の下面温度を測定した。ノズル内の水流状態は、レイノルズ数を用いて評価できる。流体のレイノルズ数Reは、一般的に、以下の式(4)で表される。
Re=ρ×v×d/μ ・・・(4)
ここで、ρは流体の密度、vは流体の流速、dは流体の代表長さ、μは流体の粘性係数を意味する。
図8の横軸は、上記の式(4)におけるρとして水の密度を、vとしてノズル内の水の平均流速を、dとしてノズルの上端開口部の口径を、μとして水の粘性係数を入力した場合のレイノルズ数Reをプロットしている。図8に示すように、ノズル内に供給する水の水量が増加し(これによりノズル内の水の平均流速が増加し)、レイノルズ数が大きくなると(具体的には、レイノルズ数が6000を超えると)、測温値が不安定になる。これは、レイノルズ数が6000を超えると、ノズル内の水流が層流から乱流に遷移し、ノズルから放出する水の水面が一定方向で安定せずに変動するため、放射温度計の測定角度が変動することが原因であると考えられる。より具体的に説明すれば、図8に示す例では、測定角度が変動して放射温度計の光軸が面光源から外れることが原因で、測温値が不安定になるのだと考えられる。
【0031】
上記のように、ノズル内の水流が乱流であることに起因した測温値の変動を抑制するには、請求項9に記載の如く、前記水供給手段は、前記ノズル内の水流が層流となるように、前記ノズル内に供給する水の水量を調整することが好ましい。具体的には、例えば、ノズル内の水のレイノルズ数が6000以下となるように、ノズル内に供給する水の水量を調整することが好ましい。
【0032】
斯かる好ましい構成によれば、ノズル内の水流が層流であるため、ノズルから放出する水の水面が一定方向で安定し、放射温度計の測定角度が安定する結果、測温値が安定することが期待できる。
【0033】
また、好ましくは、請求項10に記載の如く、本発明に係る表面温度測定装置は、被測温鋼材の下面と前記ノズルとの間にパージエアーを噴射するエアーノズルを備え、前記エアーノズルは、前記ノズルから放出する水と接触しないようにパージエアーを噴射する。
【0034】
斯かる好ましい構成によれば、エアーノズルが、被測温鋼材の下面とノズルとの間にパージエアーを噴射するため、被測温鋼材から剥離したスケールがパージエアーによって飛ばされることにより、スケールがノズルの上端開口部からノズルの内部に侵入したり、スケールがノズルの上端開口部に載るおそれを低減することが可能である。また、エアーノズルが、ノズルから放出する水と接触しないようにパージエアーを噴射するため、パージエアーによってノズルから放出する水の水面が乱されることが原因で放射温度計の測定角度を不安定にするおそれがない。
【0035】
また、前記課題を解決するため、本発明は、請求項11に記載の如く、請求項1から10の何れかに記載の表面温度測定装置を用いて鋼材の表面温度を測定することを特徴とする鋼材の表面温度測定方法としても提供される。
【0036】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、請求項12に記載の如く、請求項11に記載の方法によって表面温度を測定する工程を含むことを特徴とする鋼材の製造方法としても提供される。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、光学窓の上端面が水平面に対して30°以上傾斜しているため、被測温鋼材から剥離したスケールが、ノズルの上端開口部を介してノズル内に侵入し、光学窓の上端面に落下したとしても、光学窓の上端面が水平である場合に比べて、スケールが光学窓の上端面に堆積する速度が遅くなる。このため、被測温鋼材の表面温度を長期間に亘り安定して測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る表面温度測定装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は、被測温鋼材の下面に対向配置され水を放出するノズルを備え、水を介して被測温鋼材の表面温度を測定する装置の一般的な構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、光学窓の上端面の傾斜角度と該上端面でのスケール残量率との関係を調査した結果の一例を示す図である。
【図4】図4は、放射温度計の測定角度と測温値との関係を調査した結果の一例を示すグラフである。
【図5】図5は、ノズルの中心軸の傾斜角度と放射温度計の測定角度との関係を示す図である。
【図6】図6は、スケールがノズルの上端開口部に載ったときに作用する力を説明する説明図である。
【図7】図7は、種々の傾斜角度θnに対するFnとFsとの関係を示すグラフである。
【図8】図8は、被測温鋼材を模擬した面光源の下面温度を水を介して放射温度計で測定した結果の一例を示すグラフである。
【図9】図9は、図1に示す表面温度測定装置を構成するノズルの変形例の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について、熱延鋼板の仕上圧延前の搬送ロール間の下部に適用する場合を例に挙げて説明する。
【0040】
図1は、本発明の一実施形態に係る表面温度測定装置の概略構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る表面温度測定装置100は、ノズル1と、放射温度計2と、光学窓3とを備えている。また、本実施形態に係る表面温度測定装置100は、好ましい構成として、水供給手段4と、エアーノズル5とを備えている。
【0041】
ノズル1は、水平方向に搬送される鋼板Mの下面に対向配置されている。ノズル1の上端開口部11と鋼板Mの下面との距離は、鋼板Mが変形したとしてもノズル1に衝突しないことを考慮し、例えば100mmとされる。ノズル1の内部は、光学窓(例えば、石英ガラス)3で上下2室に区切られている。ノズル1の上側の室には、水供給手段4から水Wが供給され、充満した水Wが上端開口部11から放出される。上端開口部11の口径は、放射温度計2の測定視野を遮らない寸法の2倍程度の寸法に設定することが好ましく、例えば15mmとされる。
【0042】
放射温度計2は、その光軸Oがノズル1の中心軸Cと略平行となる(本実施形態では一致する)ようにノズル1内(ノズル1の下側の室内)に配置されている。放射温度計2は、鋼板Mの下面から放射された熱放射光を水W(及び光学窓3)を介して検出する。放射温度計2の検出波長は0.65〜0.85μmに設定することが好ましい。この波長帯域では、水の透過率が高いため、水Wや、鋼板Mとノズル1との間に浮遊する水滴による、熱放射光の減衰の影響を低減可能で、測温値を安定化できるからである。
【0043】
光学窓3は、ノズル1内であって放射温度計2の光軸Oが通る位置に配置され、前述のように、ノズル1の内部を上下2室に区切る役割を果たしている。光学窓3の下端部の周囲は、Oリング6でシールされている。これら光学窓3及びOリングにより、ノズル1の下側の室に配置された放射温度計1は、ノズル1の上側の室に充満した水Wから隔離されている。
【0044】
本実施形態の光学窓3は、放射温度計2の光軸Oを横切る上端面31が、水平面に対して30°以上傾斜していることを一つの特徴としている。特に本実施形態では、好ましい構成として、光学窓3の上端面31が、水平面に対して65°傾斜している。具体的には、本実施形態では、光学窓3の上端面31が光軸Oに垂直な方向から30°傾斜(図1に示す傾斜角度θg=30°)した傾斜面に形成されていると共に、ノズル1の中心軸Cが鉛直方向から35°傾斜(図1に示す傾斜角度θn=35°)するようにノズル1が配置されている。傾斜角度θgと傾斜角度θnとは同方向(図1に示す例では反時計回りの方向)であり、これらの和が65°となるため、光学窓3の上端面31は水平面に対して65°傾斜している。光学窓3の上端面31が水平面に対して65°傾斜しているため、図3を参照して前述したように、ノズル1の上端開口部11を介してノズル1内に侵入したスケール(砂状スケール)は、光学窓3の上端面31に堆積しない。
そして、本実施形態の光学窓3は、好ましい構成として、上端面31が、ノズル1内の水が充満している領域(すなわち、ノズル1の上側の室)の最下端部12よりも上方に位置している(例えば、図1に示すH=30mmとされる)。このように、光学窓3の上端面31を最下端部12よりも上方に位置させるために、光学窓3の側面とノズル1内面との間には隙間(例えば、10mmの隙間)が設けられている。従って、光学窓3の上端面31に堆積せずに滑り落ちたスケールは、最下端部12に落下し前記の隙間を埋めるように堆積していくことになる。この隙間に堆積したスケールを定期的に除去しさえすれば、鋼板Mの表面温度を長期間に亘り安定して測定することができる。
【0045】
なお、図9に示すように、ノズル1内の水が充満している領域(すなわち、ノズル1の上側の室)の最下端部12の近傍に位置するノズル1の側壁に、ノズル1の外部と連通する貫通孔13を設けても良い。貫通孔13は、上端開口部11の寸法よりも小さく、且つ、ノズル1内に侵入するスケールの想定される寸法よりも大きい寸法(例えば、孔径2〜3mm程度)を有する。斯かる構成によれば、ノズル1内に侵入したスケールが水Wと共に貫通孔13を通じて外部に流出可能である。このため、ノズル1内の水Wが充満している領域の最下端部12にスケールが堆積し難くなり、スケールをノズル1内から除去する頻度を低減可能である。また、貫通孔13から水Wが流出しない場合、貫通孔13にスケールが詰まっていると考えることができるため、ノズル1内の点検要否の目安を得ることが可能である。従って、定期的にノズル1内を点検するよりも取り扱いが容易になるという利点も有する。
【0046】
本実施形態では、鋼板M下面の法線方向が鉛直方向に一致しているため、前述のようにノズル1の中心軸Cが鉛直方向から35°傾斜(傾斜角度θn=35°)していれば、ノズル1の中心軸Cが鋼板M下面の法線方向から35°傾斜していることになる。図5を参照して前述したように、ノズル1の中心軸Cが鋼板Mの法線方向から40°以下で傾斜していれば、放射温度計の測定角度θ1が60°以下となるため、本実施形態では、測温値の変動を一定の範囲内に収めることが可能である。
【0047】
また、本実施形態では、ノズル1の上端開口面N1がノズル1の中心軸Cと直交し、なお且つ、ノズル1の中心軸Cが鉛直方向から35°傾斜している。従って、ノズルの上端開口部11が、水平面に対して35°傾斜していることになる。図6及び図7を参照して前述したように、ノズル1の上端開口部11が、水平面に対して12°以上傾斜していれば、スケール(板状スケール)がノズル1の上端開口部11に載ったとしても、上端開口部11から滑り落ちることによって放射温度計2の測定視野を遮らないようにすることが可能である。
【0048】
本実施形態の水供給手段4は、水量調整部41と、水供給管42とを具備する。水供給管42は、ノズル1の外側面に接続され、ノズル1内(ノズル1の上側の室内)に連通している。水源(図示せず)から水量調整部41に導入された水Wは、水量調整部41によって水量を調整された後、水供給管41を通じてノズル1内に供給される。
【0049】
水供給手段4は、該水供給手段4から供給した水Wが、光学窓3の上端面31に直接当たるように構成されている。具体的には、ノズル1の中心軸Cに沿った方向について、水供給管42が光学窓3の上端面31と略同等の位置に接続されている。水供給手段4から供給した水Wが光学窓3の上端面31に直接当たるため、上端面31に沿った水流が生じ、上端面31にスケールが堆積するおそれをより一層低減することが可能である。また、水供給手段4から供給した水Wが前述した隙間に堆積したスケールに直接当たることが無いため、隙間に堆積したスケールが水流によって巻き上がり光学窓3の上端面31に堆積してしまうおそれが低減する。
【0050】
また、水供給手段4(水量調整部41)は、ノズル1内の水流が層流となるように、ノズル1内に供給する水Wの水量を調整する。具体的には、ノズル内に供給する水Wの水量は、例えば2リットル/分に調整される(このときのレイノルズ数は3200となる)。図8を参照して前述したように、ノズル1内の水Wのレイノルズ数が6000以下となれば、ノズル1内の水流は層流となり、ノズル1から放出する水Wの水面が一定方向で安定し、放射温度計2の測定角度が安定する結果、測温値が安定する。
【0051】
本実施形態のエアーノズル5は、鋼板Mの下面とノズル1との間に、なお且つ、ノズル1から放出する水Wと接触しないように、パージエアーAを噴射する。例えば、エアーノズル5は、その先端がノズル1の上端開口部11から水平方向に40mm離間する位置に配置され、パージエアーAの流速がノズル1の上端開口部11上で20m/secとなるように調整される。エアーノズル5は、鋼板Mの下面とノズル1との間にパージエアーAを噴射するため、鋼板Mから剥離したスケールがパージエアーAによって飛ばされることにより、スケールがノズル1の上端開口部11からノズル1の内部に侵入したり、スケールがノズル1の上端開口部11に載るおそれを低減することが可能である。また、エアーノズル5は、ノズル1から放出する水Wと接触しないようにパージエアーAを噴射するため、パージエアーAによってノズル1から放出する水Wの水面が乱されることが原因で放射温度計2の測定角度を不安定にするおそれがない。
【符号の説明】
【0052】
1・・・ノズル
2・・・放射温度計
3・・・光学窓
4・・・水供給手段
5・・・エアーノズル
11・・・上端開口部
31・・・上端面
100・・・表面温度測定装置
A・・・パージエアー
C・・・ノズルの中心軸
O・・・放射温度計の光軸
M・・・被測温鋼材(鋼板)
W・・・水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測温鋼材の下面に対向配置され、上端開口部から水を放出するノズルと、
光軸が前記ノズルの中心軸と略平行となるように前記ノズル内に配置され、被測温鋼材の下面から放射された熱放射光を前記水を介して検出する放射温度計と、
前記ノズル内であって前記放射温度計の光軸が通る位置に配置され、前記放射温度計を前記水から隔離するための光学窓とを備え、
前記放射温度計の光軸を横切る前記光学窓の上端面が、水平面に対して30°以上傾斜していることを特徴とする鋼材の表面温度測定装置。
【請求項2】
前記放射温度計の光軸を横切る前記光学窓の上端面が、前記光軸に垂直な方向から傾斜した傾斜面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の表面温度測定装置。
【請求項3】
前記ノズルは、該ノズルの中心軸が鉛直方向から傾斜するように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材の表面温度測定装置。
【請求項4】
前記ノズルは、該ノズルの中心軸が被測温鋼材下面の法線方向から40°以下で傾斜するように配置されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の鋼材の表面温度測定装置。
【請求項5】
前記ノズルの上端開口部が、水平面に対して12°以上傾斜していることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の鋼材の表面温度測定装置。
【請求項6】
前記放射温度計の光軸を横切る前記光学窓の上端面が、前記ノズル内の水が充満している領域の最下端部よりも上方に位置していることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の鋼材の表面温度測定装置。
【請求項7】
前記ノズルは、前記ノズル内の水が充満している領域の最下端部の近傍に位置する側壁に、前記ノズルの外部と連通する貫通孔を備え、
前記貫通孔は、前記上端開口部の寸法よりも小さく、且つ、前記ノズル内に侵入するスケールの想定される寸法よりも大きい寸法を有することを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の鋼材の表面温度測定装置。
【請求項8】
前記ノズル内に水を供給する水供給手段を備え、
前記水供給手段は、該水供給手段から供給した水が、前記放射温度計の光軸を横切る前記光学窓の上端面に直接当たるように構成されていることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の鋼材の表面温度測定装置。
【請求項9】
前記水供給手段は、前記ノズル内の水流が層流となるように、前記ノズル内に供給する水の水量を調整することを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の鋼材の表面温度測定装置。
【請求項10】
被測温鋼材の下面と前記ノズルとの間にパージエアーを噴射するエアーノズルを備え、
前記エアーノズルは、前記ノズルから放出する水と接触しないようにパージエアーを噴射することを特徴とする請求項1から9の何れかに記載の鋼材の表面温度測定装置。
【請求項11】
請求項1から10の何れかに記載の表面温度測定装置を用いて鋼材の表面温度を測定することを特徴とする鋼材の表面温度測定方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法によって表面温度を測定する工程を含むことを特徴とする鋼材の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−21827(P2012−21827A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158509(P2010−158509)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】