説明

鋼材表面欠陥の発生条件の判定方法

【課題】 連続鋳造から圧延工程の間で発生する鋼材の表面欠陥である表面疵の発生条件を知ることで、鋼材の表面疵の発生温度域を定量的に推定して特定する方法を提供する。
【解決手段】 鋼材表面の表面疵近傍に生成するサブスケール層を構成する粒状酸化物の粒子半径と組成から鋼材の表面欠陥である表面疵が発生した温度域を推定する方法であって、この場合、粒状酸化物が第1相酸化物および第2相酸化物の2種類の相からなり、第1相酸化物の析出によって酸化物粒子を生成し、この第1相酸化物の酸化物粒子を析出核として第2相酸化物を析出する粒状酸化物であり、その粒子半径と組成から鋼材表面欠陥である対象疵が発生した温度域を推定する鋼材表面疵の発生条件の特定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の表面に生成する欠陥である表面疵の発生条件の特定に関し、特に連続鋳造から圧延工程の間で鋼材表面に発生した表面欠陥部である表面疵を防止するために、表面疵の近傍に現出するサブスケール層を構成する粒状酸化物の粒子半径と組成との関係から鋼材の表面疵の発生条件を特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造から圧延工程の間で発生する鋼材の表面疵としては、連続鋳造工程におけるモールド内初期凝固や二次冷却帯における曲げ矯正などで発生する鋳片割れや、ブルームクーラーでの三次冷却に由来する鋼塊圧延時の割れなどの表面疵がある(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。これらの表面疵がモールド内での初期凝固に起因している場合には、例えば、モールドパウダーの改善を図ることで割れ疵の防止が図れる。一方、圧延時に割れが発生する場合には、例えば、ブルームクーラーでの三次冷却を適正化することで割れが防止できる。いずれにしても、表面疵を防止するためには、その表面疵が発生した工程を特定し、その工程において的確な改善策を実施する必要がある。この表面疵が発生した工程を特定する方法として、鋼材のサブスケール層の厚みで判定する方法がある(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。しかし、これらは圧延などを行った加工材では、サブスケール層の厚みが変化するため定量的評価による特定が難しい問題があった。
【0003】
一方、疵の近傍に生成するサブスケール層である酸化物の析出層に着目し、圧延工程を2回経由した鋼材や、Si含有量が1.5〜2.5%と多い鋼材を除き、疵の近傍にサブスケール層を伴っている場合は、圧延前の鋼塊で既に発生していた割れを起源とした疵であり、サブスケール層を伴っていない場合は、圧延時に新規に発生した疵である、との考え方を示している(例えば、非特許文献3参照。)。同様に、圧延後の鋼片疵近傍おけるサブスケール層の有無により、鋼塊起源の疵かあるいは圧延起源の疵であるかが特定できる、との考え方を示している(例えば、非特許文献4、非特許文献5参照。)。
【0004】
さらに、出願人は、鋼材の表面欠陥部に生成した粒状酸化物から、鋼材が経た加熱条件である加熱温度および加熱時間を正確に判定する方法を先願として提案している(例えば特許文献4参照。)。この先願の方法は、判定対象の鋼材の粒状酸化物の半径を実測して当該鋼材の粒状酸化物の平均粒子半径を求め、実測に基づき求められた粒状酸化物の平均粒子半径を粒状酸化物の平均粒子半径と鋼材に施された加熱温度および加熱時間との関係に照合して、対象鋼の鋼材に施された加熱温度および加熱時間を判定する方法である。しかし、この先願の方法では、鋼材の加熱温度の上昇および保持時間の増加とともに平均粒子半径は増加するため、ある平均粒子半径を持った疵がどの加熱温度およびどの加熱時間に当て嵌まるのかについての判断が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−181608号公報
【特許文献2】特開2004−330275号公報
【特許文献3】特開2005−40837号公報
【特許文献4】特開2002−357575号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「鉄と鋼」鉄鋼協会、81巻(1995)、52、草野外著
【非特許文献2】「鉄と鋼」鉄鋼協会、82巻(1996)、35、草野外著
【非特許文献3】C.L.Meyette、外:Trans.AIME、176(1948)、201
【非特許文献4】M.N.Kul’kova、外:Steel USSR、2(1972)、569
【非特許文献5】Y.N.Malinochka、外:Steel USSR、11(1981)、662
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、連続鋳造から圧延工程の間で発生する鋼材の表面欠陥である表面疵の発生条件を特定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋼材の表面疵近傍で、内部酸化が起こることにより、サブスケール層が生成する。発明者らは、このサブスケール層を構成する粒状酸化物について、一粒ずつの粒子半径と組成との関係について着目した。粒状酸化物が第1相酸化物および第2相酸化物の2種類の相からなり、第1相酸化物の析出によって酸化物粒子を生成し、この第1相酸化物の酸化物粒子を析出核として第2相酸化物を析出することで粗大化が進行する構造用鋼の表面疵近傍に生成する粒状酸化物である場合、第1相単独で構成される微細な粒状酸化物から、粒状酸化物が粗大化する過程で、ある粒子半径以上の粒状酸化物からは第2相の酸化物を含有するようになり、この第2相酸化物の含有を開始する粒状酸化物の粒子半径が加熱温度によって変化することから、粒状酸化物一粒ずつの粒子半径と組成との関係から、粒状酸化物が第2相酸化物を含有し始める粒子半径からその表面疵が曝された温度域が推定でき、この推定した温度域と鋼材の製造熱履歴とを比較することで疵の発生工程が特定できることを見出した。
【0009】
そこで、本願の発明が解決するための手段は、請求項1の発明では、鋼材として使用するに当たり、構造用鋼の有害な表面欠陥である表面疵について、表面疵近傍に生成するサブスケール層を構成する粒状酸化物の粒子半径と組成との関係から、鋼材の表面欠陥である表面疵が発生した温度域を推定することを特徴とする鋼材表面疵の発生条件の特定方法である。
【0010】
請求項2の発明では、表面疵近傍に生成するサブスケール層を構成する粒状酸化物は第1相酸化物および第2相酸化物の2種類の相からなり、第1相酸化物の析出によって酸化物粒子を生成し、この第1相酸化物の酸化物粒子を析出核として第2相酸化物を析出することで粗大化が進行する構造用鋼の表面疵近傍に生成する粒状酸化物であり、この粒状酸化物の粒子半径と組成との関係から、対象表面疵の発生した温度域を推定することを特徴とする請求項1の手段の鋼材表面疵の発生条件の特定方法である。
【0011】
請求項3の発明では、表面疵近傍に生成する粒状酸化物の粒子半径と組成との関係から行う対象表面疵の発生温度域の推定は、予め実験による加熱温度ごとの粒状酸化物の粒子半径と組成との関係から、第2相の酸化物を含有し始める粒子半径と加熱温度との関係を求めておき、この求めた関係に、発生温度域を判定したい対象疵の粒状酸化物の粒子半径と組成との関係を照合して行うことを特徴とする請求項2の手段の鋼材表面疵の評価方法である。
【0012】
請求項4の発明では、請求項1〜3の手段の方法によって発生温度域を推定し、その推定した温度域とその表面疵の発生した鋼材の現実の工程(以下「実工程」という。)における製造熱履歴とを比較することで、表面疵の発生した工程を特定することを特徴とする製造工程内での鋼材表面疵の発生工程の特定方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の手段とすることで、鋼材表面疵に対し、発生温度域を推定して特定することが可能となり、その推定が定量的に行え、さらに予め実験により求めた第2相の酸化物を含有し始める粒子半径と加熱温度との関係から第2相酸化物を含有し始める粒状酸化物の粒子半径の関係を求め、この関係に発生温度域を特定したい表面疵の近傍に生成するサブスケール層を構成する粒状酸化物の粒子半径と組成とを照合することで発生温度域を推定でき、さらにその推定した温度域とその表面疵の発生した鋼材の実工程における製造熱履歴とを比較することで、表面疵の発生した工程を特定できるようになったことで、表面疵の発生防止対策を的確に製造工程において実施でき、効果的に鋼材の表面疵が防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】鋼材の表面疵近傍のサブスケール層(JIS SCr420鋼)を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2】サブスケール層生成時における酸素濃度と溶質元素濃度分布の模式図である。
【図3】サブスケール層における酸素濃度と溶質元素濃度分布の実測値である。
【図4】(a)は加熱温度1100℃、(b)は加熱温度1200℃における粒状酸化物の粒子半径と組成との関係をJIS SCr420鋼について示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、以下に図面を参照して説明する。連続鋳造から分塊圧延で鋼片を製造する工程の間に、鋼材の表面疵の近傍で、内部酸化が起こることにより、サブスケール層が生成する。そこで、この分塊圧延後の鋼片について、鋼片の磁気探傷試験(以下「磁探」という。)で検出された表面疵部をサンプリングし、この表面疵部を切断してその表面疵部を含んだ試験片を樹脂に埋め込んで鏡面研磨することにより試料を調整した。例えば、この鋼材がJISに規定するSCr420からなる場合、前記のように試料調整した鋼材の表面疵近傍に生成したサブスケール層の一例をSEM(走査電子顕微鏡)で観察した状態を図1に示す。図1において、内部酸化フロントとは、サブスケール層の厚み方向先端部において、SEMで観察可能な半径0.05μm以上の大きさの粒状酸化物が析出を開始した位置とした。
【0016】
さらに、サブスケール層の生成時における、酸素濃度および溶質元素濃度の分布と構造用鋼とスケールの界面からの距離の関係をグラフで模式的に図2で示す。図2における析出する酸化物相について、第1相を構成する溶質元素をA、第1相の酸化物をAnOとする。さらに第2相を構成する溶質元素をB、第2相の酸化物をBnOとする。ここで、NO(S)は溶解酸素濃度、NOは酸素濃度、NA(O)およびNB(O)は溶質Aおよび溶質Bの初期濃度(バルク濃度)、NAおよびNBは溶質Aおよび溶質Bの濃度、ξはサブスケール層の厚み、ξBは酸化物BnOの析出開始位置である。ξは内部酸化フロントの位置でもあり、酸化物AnOの析出開始位置である。すなわち、図2において、ξの右側は非酸化層であり、左側は内部酸化層であるサブスケール層である。第1相の酸化物AnOは、ξで析出し、ξBで酸化物BnOが析出を開始するまで酸化物AnO組成のまま粗大化する。加熱温度の上昇により、ξとξBとの距離が大きくなり、酸化物AnO相の単独組成からなる粒状酸化物が大きくなる。
【0017】
上記について、例えば構造用鋼をJIS SCr420鋼により説明すると、第1相がMnO−SiO2系酸化物であり、第2相がMnO−Cr23系酸化物である。この場合、JIS SCr420鋼におけるサブスケール層近傍の溶質元素の濃度分布の電子プローブ微量分析であるEPMAによる実測値を図3に示す。第1相および第2相ともに、MnOが40〜60mol%含まれることから、図中、矢印で示している位置がξおよびξBに相当する。酸素については、鋼中への溶解酸素濃度(N0(S))は、1200℃で10ppm程度である。したがって、図3に示したEPMAによる酸素濃度の測定値は、大部分が析出した酸化物中の酸素に相当している。なお、EPMAの測定条件は、島津製のEPMA1600で、加速電圧15kV、電流値100nAである。
【0018】
図4にJIS SCr420鋼における粒状酸化物の粒子半径と組成との関係を、図4の(a)の加熱温度1100℃と図4の(b)の加熱温度1200℃で示す。前述したように、JIS SCr420鋼では、第1相がMnO−SiO2系酸化物、第2相がMnO−Cr23系酸化物であり、第1相および第2相ともにMnOが40〜60mol%含まれることから、図4の(a)および(b)には、酸化物組成の変化を示すため、SiO2とCr23の含有割合を示している。これらの図より粒子半径が小さい酸化物はSiO2の割合が高いが、粒子半径が大きくなるに伴ってCr23の割合が高くなり、SiO2の割合が押し下げられている。また、図4の(b)の加熱温度が1200℃に比較して、図4の(a)の加熱温度が1100℃ではより小さい粒子半径でCr23の割合が増加している。
【実施例1】
【0019】
ここで、第1の実施例では、JIS SCr420鋼について具体的に説明する。JIS SCr420鋼について、鋼材の表面疵を模擬するために、予めき裂を付与した人工疵試験片を用いて高温酸化実験を行い、加熱温度ごとに疵近傍に生成した粒状酸化物の粒子半径と組成との関係を調査した。この高温酸化実験は、縦型電気抵抗炉を用いた。表面疵を模擬した人工疵は、三点曲げ疲労試験によって本鋼材に7〜100μmの狭い間隙のき裂を発生させる方法で付与した。試験片は、表面に深さ8mmの人工疵を残すように10mm×10mm×15mmの大きさに調整した。
【0020】
高温酸化実験には、縦型電気抵抗炉を用いた。試験片は、人工疵を付与した面が炉下部からのガス流に曝されるように白金バスケット内に設置して炉の均熱帯中央部に吊るし、2NL/minのArガス流中で5K/minの昇温速度で1100℃、1200℃、1300℃の各所定の酸化温度まで昇温した後、2NL/minの大気ガス流に切り替えて0.3ks〜10.8ksの所定の時間で酸化させた後、Arガス流中で炉外へ取り出して空冷した。酸化実験後の試験片を人工疵と垂直に疵中央部で切断し、樹脂埋込みおよび鏡面研磨した後、SEMにて疵深さ約1mmの領域近傍に存在するサブスケール層のミクロ観察を行って上記の各昇温温度における粒状酸化物の大きさを測定し、さらに粒状酸化物の組成について、エネルギー分散性X線であるEDXを用いて分析を行った。なお、EDXの測定条件は、OXFORD製のEnergy250(商標名)で、加速電圧15kV、電流値0.5nAである。
【0021】
上記の模擬実験に続き、以下のようにして、実際の製造工程における鋼材に発生する表面疵の発生した工程を特定した。JIS SCr420鋼の連続鋳造した鋳片を加熱炉にて鋳片の表面温度を1200℃以上に加熱し、この鋳片を加熱炉から抽出して、分塊圧延中の鋳片の表面温度を1100℃程度で分塊圧延した後、この鋼材から磁探で検出された鋼材の表面疵部をサンプリングし、表面疵Aと表面疵Bの2つの試料を採取した。
【0022】
次いで、これらの表面疵Aと表面疵Bを有する表面疵部を切断し、その表面疵部を含んだ試験片を樹脂に埋め込んで鏡面研磨することにより試料を調整した。そして発生温度域を特定したい鋼材の表面疵に対し、この表面疵の粒状酸化物を、上記の段落0020と同様の方法で、SEMにて疵近傍に存在するサブスケール層のミクロ観察を行って粒状酸化物の大きさを測定し、さらに粒状酸化物の組成について、エネルギー分散性X線であるEDXを用いて分析を行った。この際、組成が切り替わると推定される粒子半径を中心に粒状酸化物の30粒程度を対象に測定を行った。この測定結果から、第2相酸化物であるMnO・Cr23を含有し始めていた粒状酸化物の半径(以下「含有開始半径」という。)を求め、上記段落0019の模擬実験の各昇温温度から求めた粒状酸化物の大きさと対比した。
【0023】
ここで、模擬実験の結果、JIS SCr420鋼の場合、1100℃で処理した試料では、粒状酸化物の粒子半径が0.20μm程度に成長するとMnO・Cr23を含有し始めており、また、1200℃で処理した試料では、粒状酸化物の粒子半径が0.50μm程度からMnO・Cr23を含有し始めていた。このことから、もし鋼材の表面疵部で観察された含有開始半径が模擬実験の1100℃程度と同様の0.20μm程度であれば、鋼材の表面疵は1100℃の温度域で発生したと考えられ、一方、この結果が1200℃以上のものと同様の0.50μm程度であれば、鋼材の表面疵は1200℃の温度域で発生したと考えられる。これらの知見を基に上記の2つの表面疵部を有する試料について調べたところ、表面疵Aでは、粒状酸化物の粒子半径は約0.52μmからMnO・Cr23の含有を開始していたので、この表面疵は加熱炉での加熱工程で発生したものと特定でき、一方、表面疵Bでは、同半径は約0.19μmからMnO・Cr23の含有を開始していたので、この表面疵は分塊圧延工程で発生したものと特定できた。このようにして鋼材の表面疵の発生温度域を特定し、その表面疵が発生した工程も特定した。
【0024】
この特定方法を利用すれば、以後製造するSCr420鋼について、その鋼材の表面疵を同様にサンプリングして測定及び分析を行うことで、その表面疵が発生した実工程が推定できる。例えば、粒状酸化物の粒子半径が0.50μm程度からMnO・Cr23の含有を開始していれば、このサンプルの表面疵は表面が1200℃以上の温度域に曝された実工程において発生したと推定される。一方、粒状酸化物の粒子半径が0.20μm程度からMnO・Cr23の含有を開始していれば、このサンプルの表面疵は表面が1100℃程度の温度域に曝された実工程において発生したと推定される。そして実工程における製造熱履歴を調査し、この推定された温度とほぼ同一の温度となる実工程を探すことにより、表面疵の発生した工程を例えば分塊圧延工程で発生したものと特定できる。さらには、鋼材に生じた複数の表面疵を調べて分塊圧延時の発生疵の占有率が大きい場合には、分塊圧延時に発生する疵を防止する対策を取るべきものと判断される。その対策としては、例えば三次冷却であるブルームクーラーの適正化を図って圧延時に発生する疵を防止する方法が考えられる。また、圧延前の加熱炉内で既に発生していた鋳片疵を起源とした表面疵と考えられた場合には、例えばモールドパウダーの適正化を図って鋳片割れの対策をとる方法が考えられる。
【実施例2】
【0025】
次いで、第2の実施例では、JIS S50C鋼について具体的に説明する。JIS S50C鋼について、鋼材の表面疵を模擬するために、上記の実施例と同様に、予めき裂を付与した人工疵試験片を用いて高温酸化実験を行い、加熱温度ごとに疵近傍に生成した粒状酸化物の粒子半径と組成との関係を調査した。この高温酸化実験は、同じく縦型電気抵抗炉を用いた。表面疵を模擬した人工疵は、三点曲げ疲労試験によって本鋼材に7〜100μmの狭い間隙のき裂を発生させる方法で付与した。試験片は、表面に深さ8mmの人工疵を残すように10mm×10mm×15mmの大きさに調整した。
【0026】
高温酸化実験には、縦型電気抵抗炉を用いた。試験片は、上記の実験と同様に、人工疵を付与した面が炉下部からのガス流に曝されるように白金バスケット内に設置して炉の均熱帯中央部に吊るし、2NL/minのArガス流中で5K/minの昇温速度で1100℃、1200℃、1300℃の各所定の酸化温度まで昇温した後、2NL/minの大気ガス流に切り替えて0.3ks〜10.8ksの所定の時間で酸化させた後、Arガス流中で炉外へ取り出して空冷した。酸化実験後の試験片を人工疵と垂直に疵中央部で切断し、樹脂埋込みおよび鏡面研磨した後、SEMにて疵深さ約1mmの領域近傍に存在するサブスケール層のミクロ観察を行って上記の各昇温温度における粒状酸化物の大きさを測定し、さらに粒状酸化物の組成について、エネルギー分散性X線であるEDXを用いて分析を行った。なお、EDXの測定条件は、OXFORD製のEnergy250(商標名)で、加速電圧15kV、電流値0.5nAである。
【0027】
上記の模擬実験に続き、以下のようにして、実際の製造工程における鋼材に発生する表面疵の発生した工程を特定した。JIS S50C鋼の連続鋳造した鋳片を加熱炉にて鋳片の表面温度を1200℃以上に加熱し、この鋳片を加熱炉から抽出して、分塊圧延中の鋳片の表面温度を1100℃程度で分塊圧延した後、この鋼材において、から磁探で検出された鋼材の表面疵部をサンプリングして、表面疵Aと表面疵Bの2つの試料を採取した。
【0028】
次いで、これらの表面疵Aと表面疵Bを有する表面疵部を切断し、その表面疵部を含んだ試験片を樹脂に埋め込んで鏡面研磨することにより試料を調整した。そして発生温度域を特定したい鋼材の表面疵に対し、この表面疵の粒状酸化物を、上記の段落0026と同様の方法で、SEMにて疵近傍に存在するサブスケール層のミクロ観察を行って粒状酸化物の大きさを測定し、さらに粒状酸化物の組成について、エネルギー分散性X線であるEDXを用いて分析を行った。この際、組成が切り替わると推定される粒子半径を中心に粒状酸化物の30粒程度を対象に測定を行った。この測定結果から、第2相酸化物であるMnO・Cr23を含有し始めていた粒状酸化物の半径(以下「含有開始半径」という。)を求め、上記段落0025の模擬実験の各昇温温度から求めた粒状酸化物の大きさと対比した。
【0029】
上記の模擬実験の結果、JIS S50C鋼の場合、1100℃で処理した試料では、粒状酸化物の粒子半径が0.10μm程度に成長すると、MnO・Cr23を含有し始めており、また、1200℃で処理した試料では、粒状酸化物の粒子半径が0.40μm程度からMnO・Cr23を含有し始めていた。これらのことから、もし鋼材の表面疵部で観察された含有開始半径が模擬実験の1100℃程度と同様の0.10μm程度であれば、鋼材の表面疵は1100℃の温度域で発生したと考えられ、一方、この結果が1200℃以上のものと同様の0.40μm程度であれば、鋼材の表面疵は1200℃の温度域で発生したと考えられる。これらの知見を基に上記の2つの表面疵部を有する試料について調べたところ、表面疵Aでは、粒状酸化物の粒子半径は約0.40μmからMnO・Cr23の含有を開始していたので、この表面疵Aは加熱炉での加熱工程で発生したものと特定でき、一方、表面疵Bでは、同半径は約0.10μmからMnO・Cr23の含有を開始していたので、この表面疵Bは分塊圧延工程で発生したものと特定できた。このようにして鋼材の表面疵の発生温度域を特定し、その表面疵が発生した工程も特定した。
【0030】
この特定方法を利用すれば、分塊圧延時の発生疵と考えられた場合には、実施例1と同様に、例えば、三次冷却であるブルームクーラーの適正化を図って圧延時に発生する疵を防止する方法が考えられる。また、圧延前の加熱炉内で既に発生していた鋳片疵を起源とした疵と考えられた場合には、例えば、モールドパウダーの適正化を図って鋳片割れの対策をとる方法が考えられる。
【実施例3】
【0031】
さらに、第3の実施例では、JIS SCM435鋼について具体的に説明する。JIS SCM435鋼について、鋼材の表面疵を模擬するために、上記の実施例と同様に、予めき裂を付与した人工疵試験片を用いて高温酸化実験を行い、加熱温度ごとに疵近傍に生成した粒状酸化物の粒子半径と組成との関係を調査した。この高温酸化実験は、縦型電気抵抗炉を用いた。表面疵を模擬した人工疵は、三点曲げ疲労試験によって本鋼材に7〜100μmの狭い間隙のき裂を発生させる方法で付与した。試験片は、表面に深さ8mmの人工疵を残すように10mm×10mm×15mmの大きさに調整した。
【0032】
高温酸化実験には、縦型電気抵抗炉を用いた。試験片は、上記の実験と同様に、人工疵を付与した面が炉下部からのガス流に曝されるように白金バスケット内に設置して炉の均熱帯中央部に吊るし、2NL/minのArガス流中で5K/minの昇温速度で1100℃、1200℃、1300℃の各所定の酸化温度まで昇温した後、2NL/minの大気ガス流に切り替えて0.3ks〜10.8ksの所定の時間で酸化させた後、Arガス流中で炉外へ取り出して空冷した。酸化実験後の試験片を人工疵と垂直に疵中央部で切断し、樹脂埋込みおよび鏡面研磨した後、SEMにて疵深さ約1mmの領域近傍に存在するサブスケール層のミクロ観察を行って上記の各昇温温度における粒状酸化物の大きさを測定し、さらに粒状酸化物の組成について、エネルギー分散性X線であるEDXを用いて分析を行った。なお、EDXの測定条件は、OXFORD製のEnergy250(商標名)で、加速電圧15kV、電流値0.5nAである。
【0033】
上記の模擬実験に続き、以下のようにして、実際の製造工程における鋼材に発生する表面疵の発生した工程を特定した。JIS SCM435鋼の連続鋳造した鋳片を加熱炉にて鋳片の表面温度を1200℃以上に加熱し、この鋳片を加熱炉から抽出して、分塊圧延中の鋳片の表面温度を1100℃程度で分塊圧延した後、この鋼材から磁探で検出された鋼材の表面疵部をサンプリングし、表面疵Aと表面疵Bの2つの試料を採取した。
【0034】
次いで、これらの表面疵Aと表面疵Bを有する表面疵部を切断し、その表面疵部を含んだ試験片を樹脂に埋め込んで鏡面研磨することにより試料を調整した。そして発生温度域を特定したい鋼材の表面疵に対し、この表面疵の粒状酸化物を、上記の段落0032と同様の方法で、SEMにて疵近傍に存在するサブスケール層のミクロ観察を行って粒状酸化物の大きさを測定し、さらに粒状酸化物の組成について、エネルギー分散性X線であるEDXを用いて分析を行った。この際、組成が切り替わると推定される粒子半径を中心に粒状酸化物の30粒程度を対象に測定を行った。この測定結果から、第2相酸化物であるMnO・Cr2O3を含有し始めていた粒状酸化物の半径(以下「含有開始半径」という。)を求め、上記段落0025の模擬実験の各昇温温度から求めた粒状酸化物の大きさと対比した。
【0035】
上記の模擬実験の結果、JIS SCM435鋼の場合、1100℃で処理した試料では、粒状酸化物の粒子半径が0.15μm程度に成長すると、化学成分のMnおよび不純物として含有のCrから、MnO・Cr23を含有し始めており、また、1200℃で処理した試料では、粒状酸化物の粒子半径が0.50μm程度からMnO・Cr23を含有し始めていた。これらのことから、もし鋼材の表面疵部で観察された含有開始半径が模擬実験の1100℃程度と同様の0.15μm程度であれば、鋼材の表面疵は1100℃の温度域で発生したと考えられ、一方、この結果が1200℃以上のものと同様の0.50μm程度であれば、鋼材の表面疵は1200℃の温度域で発生したと考えられる。これらの知見を基に上記の2つの表面疵部を有する試料について調べたところ、表面疵Aでは、粒状酸化物の粒子半径は約0.50μmからMnO・Cr23の含有を開始していたので、この表面疵Aは加熱炉での加熱工程で発生したものと特定でき、一方、表面疵Bでは、同半径は約0.15μmからMnO・Cr23の含有を開始していたので、この表面疵Bは分塊圧延工程で発生したものと特定できた。このようにして鋼材の表面疵の発生温度域を特定し、その表面疵が発生した工程も特定した。
【0036】
これらの特定方法を利用すれば、分塊圧延時の発生疵と考えられた場合には、実施例1と同様に、例えば、三次冷却であるブルームクーラーの適正化を図って圧延時に発生する疵を防止する方法が考えられる。また、圧延前の加熱炉内で既に発生していた鋳片疵を起源とした疵と考えられた場合には、例えば、モールドパウダーの適正化を図って鋳片割れの対策をとる方法が考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材として使用するに当たり構造用鋼の有害な表面欠陥である表面疵について、表面疵近傍に生成するサブスケール層を構成する粒状酸化物の粒子半径と組成から鋼材の表面欠陥である表面疵が発生した温度域を推定することを特徴とする鋼材表面疵の発生条件の特定方法。
【請求項2】
表面疵近傍に生成するサブスケール層を構成する粒状酸化物は第1相酸化物および第2相酸化物の2種類の相からなり、第1相酸化物の析出によって酸化物粒子を生成し、この第1相酸化物の酸化物粒子を析出核として第2相酸化物を析出することで粗大化が進行する構造用鋼の表面疵近傍に生成する粒状酸化物であり、この粒状酸化物の粒子半径と組成との関係から、対象表面疵の発生した温度域を推定することを特徴とする請求項1に記載の鋼材表面疵の発生条件の特定方法。
【請求項3】
表面疵近傍に生成する粒状酸化物の粒子半径と組成との関係から行う対象表面疵の発生温度域の推定は、予め実験による加熱温度ごとの粒状酸化物の粒子半径と組成との関係から、第2相の酸化物を含有し始める粒子半径と加熱温度との関係を求めておき、この求めた関係に、発生温度域を判定したい対象疵の粒状酸化物の粒子半径と組成との関係を照合して行うことを特徴とする請求項2に記載の鋼材表面疵の発生条件の特定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの鋼材表面疵の発生条件の特定方法により発生温度域を推定した表面疵について、その推定した温度域とその表面疵の発生していた鋼材の実工程における製造熱履歴とを比較することにより、表面疵の発生した工程を特定することを特徴とする製造工程内での鋼材表面疵の発生工程の特定方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−286263(P2010−286263A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138208(P2009−138208)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】